プロフィール
中村彰憲

立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。

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『Tengami』 - 雅的ビジュアルと、「飛び出す絵本」の世界観が見事に融合

『Tengami』 - 雅的ビジュアルと、「飛び出す絵本」の世界観が

見事に融合し和洋統合のゲームプレイを実現

  

  

 ここ数年の間、世界の様々なインディゲーム関連イベントで話題となっていた、和紙をモチーフとしたパズルアドベンチャーゲーム『Tengami』が満を持してリリースされた。今回は、そのプレイ・インプレッションをお届けしよう。

 

 『Tengami』は、深い森の奥に眠る神社、穏やかな山裾の滝といった古き良き日本の情景をバックに、散りゆく桜の隠された秘密と謎を解いていくという古代日本神話の世界を舞台とした3Dアドベンチャーゲーム。『スーパードンキーコング』シリーズなどで知られる英国の老舗ゲームスタジオ、レア社から独立した、東江亮氏と東江理子さんを含む数名の日英独の開発者が独立して設立したスタジオ、 Nyamyamにより開発された。

 

プレイを通して感じられる雅な雰囲気の「心地よさ」

   

 

 プレイを通じてまず筆者が感じたのは、ゲーム世界の「心地良さ」だ。これは、プレイ中に奏でられる雅なBGMと関係しているのかもしれない。作曲したのは、『スーパードンキーコング』シリーズのBGMなど数多くのゲーム音楽を作り上げてきた、デービッド・ワイズ氏。英国ゲームスタジオの中でも老舗のレア社に長年在籍していた同氏だけに、おそらく氏にとってはチャレンジングだろうと思われる和をモチーフした楽曲にもよどみが無い。このようなBGMは、『Tengami』を『風ノ旅ビト』のように情緒豊かな作品になるのを助長している。

 

 これだけではない。ゲーム世界全体をとりまく雅な雰囲気も「心地よさ」を感じる要因になっているのだろう。筆者が日本人だからだろうか。中華圏の人たちが、武林といわれる武侠の世界に安心感を感じるようなものを、この和に感じているような気がする。ビジュアルやサウンド・エフェクトは相対的に「風流」といった言葉がピッタリだ。ビジュアルは、クローバースタジオの古典的アクションRPG『大神』の、妖怪を倒した後の息吹を吹き返した世界の情景に近い。また、キャラクターはむしろ『源平大戦絵巻』のように、絵巻物そのものの世界が広がっているモチーフだが、『Tengami』においては和紙の質感が、テクスチャーとして全面的に取り入れられており、世界全体がそのトーンで統一されている。キャラクターも左から右へと平面世界を移動する限りでは人らしい動きをするのだが、前後で移動すると、薄っぺらな身体が示されることで、和紙で構築された世界のリアリティを高めている。

 

ビジュアルとは一転して、

欧米の遊びにインスピレーションを得ているゲームプレイ

 

 このような世界観を最大限に活かしているのがゲームプレイだ。ビジュアルイメージとはうらはらに、プレイ感覚はむしろアドベンチャーゲームの古典である『アウターワールド』や『ICO』に近い。ヒントなどは皆無で、画面上には一般的なアクションゲームなどで見られるパラメータなどが表示されることなく、プレイヤーは『Tengami』の世界に文字通り「放り投げられる」事となる。ただ、決して難易度が高すぎて攻略本無しには進めないというわけではない。同じ情景を何回も巡り、ヒントを探しつつじっくり考えれば攻略が出来るような絶妙なバランスなのだ。鍵はシーン転換だ。建築物の出入りから、場所の移動、さらには季節の移り変わりですら、「飛び出す絵本」のような仕組みが使われる。従ってパズルを解決する際も、この「飛び出す絵本」の法則を意識しながら世界を探訪することでその秘密を紐解いていくことになるのだ。

 

 「飛び出す絵本」は日本の絵巻物というよりは、欧米を起源としているために本作は、和のビジュアルイメージと、欧米の騙し絵的な「遊びココロ」が融合した無国籍的でグローバルなプレイ・インプレッションをプレイヤーは感じることとなる。同作リリース直後、台湾、リトアニア、フランス、ポルトガルなど、地域を問わずトップ1にランキングしていったことも納得だろう。

 

和の美と洋の実による完全なる融合は、

国際開発チームのゲーム表現への飽くなき情熱の結晶

 

 ここにきて、『Tengami』の本質が明らかになる。本作におけるゲームデザインの要は見た目の「和」や「雅」ではなく、むしろこの「手触り感覚」なのだ。だが、「手触り感覚」を頼りに手探りで和の世界の広がりを実感していくこととが和洋融合の印象をプレイヤーに与えている。

 

 新たな情景、建築物、季節のめぐりは、日本人にとっては凡庸でも、海外のプレイヤーにとっては驚きの連続になるだろう。これを欧米に古くから伝わる「飛び出す絵本」の感覚でその世界を広げていくことで、エキゾチックな世界観を身近な世界へとつなぐ役割を果たしているのだろう。では、この筆者が感じる「心地よさ」は他の国々の人たちも感じているのだろうか。おそらく、そうだろう。現代文明と違った、より人の営みの原点的な部分を改めて体感できるとこからくる、安心感なのかもしれない。

 

 人が長きに渡って紡ぎ上げてきた「何か」を本作はプレイヤーに感じさせる力を持っている。多国籍チームが「誰もが見たことがない境地を体感させたい」という思いで心を一つにしている様が、本作からにじみ出てきているとも言えるだろう。

 

 このように、ゲームに対しこれまで考えた事も無かったような視点を与えるのが本作をはじめとしたインディーゲームの特徴だ。そういった、インディーゲームに特化したイベント、BitSummitが京都市のみやこめっせにて来る3月8日、9日に開催される。当日は、なんと80もの日本人チームと米国、フィリピン、中国その他日本在住の35もの外国人チームが最新作を披露する予定だ。これらの作品から『Tengami』の次を狙う作品の登場に期待がかかる。

 

参考URL
『Tengami』@App Store

https://itunes.apple.com/jp/app/tengami/id794960248?mt=8&ign-mpt=uo%3D2

 

BitSummit公式ホームページ
http://bitsummit.org/index-jp.html

2014年2月26日 03:07