プロフィール
中村彰憲

立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。

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実写映画版『るろうに剣心』ヒットの秘密を徹底解剖! akinakiのJust Watched !

実写映画版『るろうに剣心 RUROUNI KENSHIN』

ヒットの秘密を徹底解剖! akinakiのJust Watched ! 

 

 先日、『るろうに剣心 RUROUNI KENSHIN』(以下、『るろうに剣心』)を鑑賞してきた。今更感はあるかもしれないが、同作は、94年から『週刊少年ジャンプ』で連載された和月伸宏氏によるマンガを皮切りに、メディアミックスが行われてきた作品。最近では、実写映画版上映直前の8月22日にアニメ版の『るろうに剣心-明治剣客浪曼譚 新京都編 後編』がDVD/ブルーレイでリリースされたばかりである。ゲームも新京都編が追加された『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚- 完醒』が8月30日にリリースされた。ただ、実写映画化は今回が初めてである。

 

 また、大河ドラマ『龍馬伝』の監督を務めた大友啓史氏が、NHK独立後、最初の作品としてメガホンをとったことでも話題となった。更に主演で緋村剣心役を務める佐藤健、高荷恵役の蒼井優、相楽左之助役の青木崇高、敵役で、その特異な演技で異彩を放っていた武田観柳役を演じる香川照之など、劇中の主要キャストの多くが『龍馬伝』に出演していたことや、音楽が『龍馬伝』と同様の佐藤直紀氏であることから、『龍馬伝』の大友組が、そっくり移動してきたのではと感じた大河ドラマファンも多いのではないだろうか? 正直筆者もそのひとりである。

 

 

ハリウッド作品にも通じる王道の作りながら日本的ヒーロー像を描き出す

 『るろうに剣心』とは、幕末時代最強の「人斬り抜刀斎」として倒幕側で暗躍してきた緋村剣心が、明治維新後その名を捨て、「不殺(ころさず)」を誓った。そして、人を斬ることができない「逆刃刀」を携え、流浪人・緋村剣心として贖罪の答えと生き方を探す旅をしながら、「弱きを助け、強きを挫く」という作品である。

 本作の展開は、この網要に首尾一貫した姿勢をとりながら、「善悪の対立軸」「コミックリリーフ」「ヒロインを守る英雄譚」など古典的要素をふんだんに取り入れている。

 

 「善悪の対立軸」については、物語冒頭「鳥羽伏見の戦い」で勝敗が決したところで、抜刀斎の佐藤健が、自分の刀を捨てることで、善に心を向けようと試みる緋村剣心を描いている。また、無数の骸から立ち上がり、抜刀斎の捨て去った剣を、その手にするというシーンによって「邪」に呑み込まれてしまった存在としての鵜堂刃衛を示す事で、劇中において相反する2人の存在を明確に描き分けた。

 また、白いスーツを身にまとい、扇子を仰ぐ2人をとりまきとし、軽薄な高笑いとともに悪巧みを画策する武田観柳は、その物語内における振る舞いや役割においても、日本アニメの様々な作品で登場する、コミックリリーフを兼ねる三悪に近い。緋村剣心の戦いへの動機が、「ヒロイン、神谷薫や高荷恵を悪から守るため」というのはお約束中のお約束だろう。

 また、本作単体で楽しむことが出来る展開でありながら、三部作構成に耐えうる作品になっているのもハリウッド大作(特にヒーローモノ)のお約束に近い。本作自体は勧善懲悪劇として成立しているが、この作品自体が各主要キャラクターの導入、世界観提示という意味合いも成しており、三幕構成におけるアクトワン(セッティング)としての役割も兼ねる事ができる展開になっている。つまり、本作を下地に更なる物語の展開を実現しうる伏線も打たれているというわけである。

 ただ、大友監督が試写会などのインタビューで、本作で「日本のヒーロー像を生み出そうと」目指したと語っていることもあり、日本的ヒーロー像に不可欠である「葛藤」も物語中盤に存分に描かれている。最近はハリウッドのヒーロー像にも「葛藤」が描かれるようになっており、もはや一般的なヒーロー像の、お約束とも言えるようになったが、緋村剣心が背負った過去は、「政治という大きなシステムの刷新という大義のために、無実な人たちの命を奪う」と言ったものであり、その葛藤は計り知れない。その心情の変化は佐藤健の繊細な演技により見事に描き出されていた。つまり、物語構成全体においてはハリウッド大作にも通じる王道的な展開を維持しつつ、重く暗い過去という自己との戦いを常に強いられる日本的ヒーロー的心象をしっかりと描き出した作品となったのだ。



『るろうに剣心』を爽快なエンターテインメントたらしめる上で不可欠だった「明治初期」のリアリティー

 大友監督が言われる様に、物語本編や、描かれるキャラクター群は、エンターテインメントを意識して描かれており、見方によっては「荒唐無稽」とすることもできる。しかし、描かれるモノの全てが虚構であれば、一般層が共感出来ない作品となってしまう。だが、本筋として存在する虚構を強力に支えているのが、物語の周辺に添えられるように描かれた明治維新当初を彷彿とさせる社会文脈的描写の数々だ。劇中の前半で出てきた祭りのシーンにおける神輿かつぎの躍動感や、民衆のはつらつとした姿、汚れまみれの服に身を包みながらも満面の笑を浮かべる子供たちの姿は、政権としての荒削りさを残しながらも、封建社会から開放された明るい前途を示唆する明治維新直後の世界を示していた。

 また、中盤の牛鍋をつつく姿は文明開化を示唆し、道場へ入場する前の主要キャラクターによる神前への一礼は、民衆の神仏に対する敬虔さを、厨房や食卓での会話シーンの多さは、往年の日本社会を支えた食卓を囲むコミュニケーションを表している。

 更に、明治維新後も使われていた瓦版や、ガトリング銃輸入用の輸送箱など、細かい所まで当時を彷彿とさせるセットや大道具、小道具は、虚構を中心とした本作に、「リアル」を観客が感じ、共感を覚えるうえでの重要な要素として組み込まれているのだ。


 もちろん、かつてないスケールとテンションで描かれる剣戟アクションの圧倒的な没入感が本作のもうひとつの主役であるということも忘れてはならない。冷静に見れば現実からかけ離れているこれらのアクションシーンも、作品中の髄所に織り交ぜられている、明治維新当時の社会文脈的描写の圧倒的なリアリティーが支えているのだ。
 

今後の実写映画を中心としたクロスメディア展開に期待

 

 確かに、本作にも弱点はある。限られた上映時間内に原作的な要素を可能な限り盛り込もうとするあまり、原作未経験者にとって物語の展開がわかりにくい時があるのだ。またゲーム産業の研究者である筆者として残念だったのは、実写版をベースとしたゲーム作品が上映にシンクロする形でリリースされなかった事。これはもはやハリウッド大作では当たり前であり、映画関係者とゲーム関係者の間で企画段階からコラボレーションが進められ、それぞれが大ヒットするというビジネスモデルが確立されている。


 だが、そのような弱みを補って余りある力が本作にはある。特に中盤以降からの怒涛のクライマックスから得られる「カタルシス」は、劇場の大画面と大音響でのみで得ることが出来る、他媒体や手法では恐らく(少なくとも同じような興奮度では)得られる事ができにくい「特権」とも言える。


 もちろん、佐藤健ファンや、武井咲ファンにとっては、両氏の多彩な表情をじっくりと楽しめる絶好のチャンスであること、大河ドラマ『龍馬伝』ファンにとっては、『龍馬伝』世界のパラレルワールドとしても楽しめるということも合わせて記しておきたい。

2012年9月5日 11:14