ポスト「コンプガチャ」のソーシャルゲーム業界はどこにいく? 2
ポスト「コンプガチャ」のソーシャルゲーム業界はどこにいく? 2
先週、消費者庁が正式に「コンプガチャ」やそれに類する手法を用いた仮想空間における商法が、景品表示法における「絵合わせ」禁止の項目に抵触する旨を通告しました。業界側は、消費者庁の決定を遵守することで、「とにかく前に進む」という判断をしたようです。これだけ社会的な問題となればその責任を果たすべきというのが各社の結論であることが前提ではありますが、その他の理由として考えられるのは、ソーシャルゲーム開発メーカーは、
「コンプガチャ」はソーシャルゲームにおけるマネタイズモデルの通過点に過ぎない
と考えている可能性が高いからです。
もしこのシステムを廃止することが事業そのものに壊滅的な打撃を与えるのだとしたら、たとえ社会的責任を果たすというのが前提だとしても複数企業がここまで迅速な決断をすることは無いでしょう。ということで、今回は、「コンプガチャ」の是非に焦点をあてるのではなく、なぜ生まれるに至ったのかについて考えながらこれからのソーシャルゲームシーンについて考えていきましょう。
先日、立命館大学映像学部でDeNA取締役小林賢治氏にご登壇いただいたのですが、小林氏は講演の中で、「ソーシャルゲーム」を「社会的関係を生み出す“場”において、ユーザーが介入でき、かつ、そこから高速なフィードバックを得ることができるもの」であると定義していました。“場”そのものであれば、Twitterや、Facebook、2ちゃんねるなど様々なソーシャルサービスもそれに近い体験を提供できますが、そこに、ゲームの特徴であるユーザー介入や高速なフィードバックが加わる事、またこれらの高速なフィードバックを前述の“場”において、同期、疑似同期、または非同期といった方法で他者と共有できる事で従来のゲームやソーシャルサービスでは感じさせる事があまりなかった体験を提供できるのです。
更に言えば、「ゲーム」というコンテキストにおいて“場”を生み出すには更なる工夫が必要になってきます。これをするうえで密接に関わるのが、小林氏が講演で言及した「気持ち良い体験」です。講演の中で言及された「俺、結構やるな感の刺激」や、「自分がこだわるものに向けて着実にステップを踏んでいることを実感する感覚」、「普通の人が持っていないものを所有している(流通量が少ない事がわかっている)達成感」などは、現実世界の“場”の中でも経験可能なのですが、仮想空間でも十分達成できるという基本的理念に基づいて発展していったのがソーシャルゲームと言えるでしょう。
▲都内にしかないスペシャルなフルーツパーラーで
期間限定のパフェとか食べられると満足度も高まりますよね。
話のネタにもなったりもします。
ただ、ここまでは、MMORPGのような大型オンラインゲームも同じですが、ソーシャルゲームはこれら「気持ち良い体験」を隙間時間で実現できるようにゲームデザインが設計されている点において、従来のネットワークゲームと意を異にしています。つまり、ユーザーは、テレビ、映画、飲み会、カラオケといったがっつり可処分時間を消費する娯楽を犠牲にすることなく、前述のような「気持ち良い体験」ができるようになっているのです。ただし、中にはそのような隙間時間をより「効率的」に活用してそのような体験を得たいという人もいます。ソーシャルゲームにおける一連の課金システムは、「対価」を支払う事で、そのような「効率性」をその手にできるシステムであるとも言えます。
▲中国浙江省杭州市のスターバックスコーヒー。
ここまでレアな雰囲気を持っていれば同じスターバックスでも
思わず写真をとってみんなに伝えたくなりますよね。
ただし、ビジネスとして、「対価」を払う人にはより便宜を図って「気持ち良さ」を提供しなければなりません。それがレアやスーパーレアアイテムの利用権を得て、普段は極めて倒すのが難しい敵を倒す達成感を得られる「ゲームデザイン」として反映されている訳です。つまり、レアカードのインフレは、多くのユーザーが参加すればする程、加速化するのはある意味必然だったとも言えるでしょう。非課金ユーザーが入手しにくい事を課金することで実現す、更に非課金ユーザーに対しその達成感を目で見える形で示す(まあ、つまり自慢ですね)ことが更なる満足度につながる……。 すなわち、ソーシャルゲームの付加価値は、
ゲーム体験そのものから得られるバリューに加え、コミュニティ内においてユーザー自身のバリューを高める(と実感できる)ことにある
ということが言えます。
「ガチャ」自体もコミュニティという“場”が存在することで初めてお金を投じて入手することの意味が生まれてきます。様々な課金方法を生み出す中で、この手法が効果的だったからこそ、ソーシャルゲームシーンに急速に且つ比較的広範囲に渡って定着したのでしょう。
「射幸性」ばかりが話題となってしまいましたが、作り手はゲームをデザインするにあたり、換金を前提として開発したわけではないはずです。経営トップがルール違反としている仕組みを時間と労力をかけて考える程、非効率的なことは無いからです。むしろ、なかなか出ない超レアアイテムを他者に先んじて得ることを、課金と隙間時間を使って実現する事のバリューを如何にわかりやすくデザインとして示すかが、最重要課題であったと考えるのが妥当でしょう。「コンプガチャ」はその取り組みにおける一種の到達点であったとも言えるのです。
その行き着く先に、未成年ユーザーがゲームのために高額を投じてしまったり、一部のユーザーが仕組みを理解せずに後で多額の課金に驚くといった結果が生じていた事実を、作り手側は真摯に受け止める必要がありますが……。
前述のとおり、このシステムはあくまでも「一時的」な到達点です。更に言えば、このシステムは数年ほど前に確立されたものですから、その当時のユーザー層を強く意識して開発されたものだとも想像できます。ですが、現在、ソーシャルゲームシーンは確実に激変しました。したがって、「コミュニティ内においてユーザー自身のバリューを高める」サービスについても全面的な見直しが必要となってくるでしょう。
全年齢層が安心して楽しみ、かつそこから収益を見込めるサービスを提供できた企業のみが、若年層から中高年層の男女を、かつてないスケールで巻き込みながらコンテンツを展開できるようになります。そして、日本製ソーシャルゲームサービスが、家庭用ゲーム、アニメ、マンガに続く新たな「Cool Japan」の柱になるのか、もうひとつのガラパゴス的システムの誕生を意味するのかを決定づけることになるでしょう。
※DeNA小林氏の講演の全容はこちらから→
2012年5月25日 11:41