プロフィール
中村彰憲

立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。

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TGSの基調講演で実感した!『PlayStation Vitaの全貌』

TGSの基調講演で実感した!『PlayStation Vitaの全貌』こそが、

ソニーからアップルへの挑戦状

 

 相変わらずの盛り上がりを見せた東京ゲームショウ2011。その中でも筆者に強烈なインパクトを与えた発表がソニーコンピュータエンターテインメント(以下、SCE)による基調講演です。E3 2011 の時はあくまでもゲーム機というスタンスを崩さす、その姿勢をメディアも好意的に受けとめました。ですがその内容はあくまでもゲームメディアが世界から一同に会すということを前提とした内容だったのです。当日はウェブで世界同時配信していたことから世界中のゲーマーが固唾を飲んで見守っていたことも意識していたことでしょう。


 ところが、今回の講演は前回とは打って変わって「新しいエンターテインメント」を前面に押し出した展開。ここでは、『Resistance: Burning Skies』(以下、『RESISTANCE BS』)の実機デモで披露したコミュニティ機能から矢継ぎ早に提案されたPlayStation Vita(以下、PS Vita)のあるライフスタイルについて言及していきたいと思います。まずは、『RESISTANCE BS』で見せたコミュニティ機能。ゲーム起動によって画面に表示されるのは「ライブエリア」。ここでSCEワールドワイドプレジデントの吉田修平氏は「ユーザーがそのゲームについて欲すると思われるであろう情報を集めることが出来る」と説明。『RESISTANCE BS』デモでは、ユーザプロフィールや、トーナメントへの直接リンクが確認出来ましたが、本質は「ライブエリア」というネーミングが示すように、作品ごとの「場」がゲーム起動と同時に生まれるということ。ネットワーク機能が使えるということはそこに自動的に趣味趣向の近い人が集まれるようなしくみがアーキテクチャ上に構成されるということになります。

 

 

AR技術は、PS Vitaをアウトドアグッズとしての必須アイテムにする!


 また、カメラの使用を前提としたAR技術ですが、広範囲で且つ複数のマーカーを同時に読み取ることが可能な「Wide Area」マーカー、更に「Markerless AR」についての紹介がありました。これらの機能には、部屋に閉じこもりがちのゲーム機を家の外で使うというコンセプトが見え隠れします。昨今、ゲーム業界だけでなく広告業界でも話題となっているAlternative Reality Game(「現実代替ゲーム」)や、脱出ゲームなどのために活用するのにピッタリな技術です。携帯ゲーム機とはいいながらも電車内などで使用するのが精いっぱいだったインドア派のゲーム機を、みんなでワイワイと楽しみながらアウトドアで使うことを可能にしそうです。驚いたのはテーブルを手術台に見立ててエイリアンの解剖をおこなっていたシーン。この画面をHDMIで大型液晶に転送しながらプレイすればまさに自分が異世界にいるような気分になるのではないでしょうか?

 

 この他に、プレイステーション3(以下、PS3)との連携についても説明がなされましたが、PS3とPS VitaとでのクロスプラットフォームプレイやPS3用『Little Big Planet』を用いたPS3へのPS Vitaの連動プレイなども披露。ここでは、PS3用コントローラとしてPS Vitaを機能させるだけでなく、PS Vitaの画面と、大画面テレビのゲーム画面がそれぞれ違った場所を表示できるといった機能が確認できました。更にtorne(トルネ)のコントロールもスムーズである上に、torneに録画した映像を気軽に持ち運びできるといったことも明らかに。ゲーム、映画、高度なAR技術とソニーグループがこれまで培ってきた映像関連技術のこの一台に凝縮されたという感じです。搭載液晶モニターが960X544という高精細な有機ELディスプレイであるため、PS3上に存在する映像、画像、音声データもクオリティを損なう事無くPS Vitaで楽しむ事が出来る事でしょう。

 


PS Vitaが狙うのは、iPod発売以降、

長きに渡ってアップルにより堅持された「Coolなハード」という代名詞

 


 また、当たり前のように語られているプレイステーションネットワークへの対応も見逃してはいけません。考えて見れば、ネットワークウォークマンがiPodに後塵を拝してしまったのは、発売タイミングでも機能そのものでもなく、ソニーがデジタル音楽データのコピープロテクションや、現物流通への配慮などからネットにおける音楽流通アーキテクチャとハードとの統合に立ち遅れてしまったという点。このたった一つのミスが、「Walkman」という言葉が、文法上間違っているのにも関わらず、「Cool」の代名詞として、世界を席巻せしめた原動力を失墜させてしまいました。その後10年に渡ってiPodからiPhone、そしてiPadと次々と展開された商品群の広がりを前に、Coolの代名詞というポジションをアップルから奪還出来ませんでした。

 

 ですが、今回のPS Vitaは違います。家庭用ゲーム機という安定した土壌で培われてきた(時にはハッカーに悩まされながらも)ネットワークアーキテクチャを手のひらに乗せる準備は整っています。また、ハリウッドやテレビ局、音楽レーベルをすべてグループ傘下におさめているソニーは独占コンテンツの配信といった差別化要因で頭を悩ませる事も無いでしょう。更に重要なのは、PS Vitaが、Android端末向けに展開が進む「PlayStation Suite」に対応することで、専門性と汎用性を兼ね揃えたデバイスとして提案されていることです。ソニーはこれまでExperiaシリーズや、Sony Tabletといった汎用機を通して対iOS戦線のためにSamsung、LG、HTCなどと1年に渡り「アンドロイド連合によるアップル包囲網」を構築してきました。これに、iPadと正面から戦える機能と価格、そして、新たなライフスタイルの提案を兼ね備えたPS Vitaが加わりアップルの牙城を更に崩すことが出来れば、、アジアだけでなく、欧米からもiOSのシェアを大胆に奪い取ることが出来るかもしれません。ラストマイルの戦いからラストインチ(リビングルーム)の戦いと常に主戦場を移してきたネットワークエンターテインメント戦争がついに手のひらをかけた勝負へと移ってきました。ここで覇権を握れるか否かにSCEのそしてソニーグループの将来がかかってきます。

2011年9月20日 12:12