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岩井氏、岩田氏、宮本氏が『エレクトロプランクトン』を語る!
●「"手触りの気持ちよさ"のみを追求」
既報のとおり、任天堂のニンテンドーDS用ソフト『エレクトロプランクトン』の発売を記念して、4月8日に"岩井俊夫 エレクトロプランクトン展"がスタートした(→詳細はこちら)。開催初日のこの日、マスコミ関係者を対象にイベントを実施。この中で、ゲームデザインを手がけた岩井俊雄氏による作品の実演のほか、トークセッションには任天堂代表取締役社長の岩田聡氏、同ソフトのプロデューサーも務める情報開発本部長の宮本茂氏も登場。『エレクトロプランクトン』に深く関わった3人が作品について大いに語ったのだ。ここでは、3氏の発言から気になる部分をピックアップしよう。
●岩井俊夫氏ならではの作品に
岩井 今回は僕のわがままをいっぱい聞いていただきました。ただ、『エレクトロプランクトン』をおふたりがどう見ているのか? じつはすごく心配しているんです。
岩田 ニンテンドウーDSの構想がまとまったのは、一昨年の後半くらいなんですね。そのときに2画面とかタッチパネルとか主要な要素が決まってきて。私と宮本のほうで話をしていくなかで、岩井さんの名前が何度も挙がったんです。以前から、岩井さんがいろんなことをされてるのは見ていたんですが、なかなか岩井さんとの接点がなかった。かつて、『サウンドファンタジー』(スーパーファミコン用ソフトとして開発。`94年に完成。任天堂から発売予定だった)を岩井さんと作って発売できなかったという経緯もありましたし、ニンテンドーDSでようやく岩井作品を発売できるチャンスだ、と思ってるんです。それに、どんなものができるのか、すごく興味もありましたしね。
岩井 一種の道楽ですよね(笑)。
岩田 そんなことはないですよ(笑)。岩井さんだから表現できることが、ニンテンドーDSには可能性としてある。ふだんゲームを作りなれている人からは出てこないような発想が。
宮本 僕にとってはジェラシーなんですよ。岩井さんの作品を見ると非常に共感を覚えますから。育ちが似ているのかな? って。岩井さんは、"触るもの"をちゃんと作ってる。白熱球の温度もちゃんと意識したりとかね。僕はどちらかというとデジタルの方向に進んでしまって、表現方法の差と1個1個手作りされていることが、すごく羨ましかったんです。以前、『サウンドファンタジー』をやられているときに、任天堂もこういうもんを作るんやったら俺にも未来はあるなあ、とすごく期待してたんです。それがだんだんビジネスのほうで考えるようになって、「もっとゲームじゃなければ売れないだろう」と。それでゲームに歩み寄るうちに、"触ってるだけでうれしい"という岩井作品らしさがだんだん弱っていくような感じがしてました。……なんとか、それを自分が享受すべくリベンジしたいなと。それで、毎回新しいハードが出るたびに「これはちょっと岩井さんに向いてるかも」とか思うんですね。でも、「やりましょう!」とはなかなか言えなかったんです。
岩井 随分まえからお付き合いはあるんですが、「仕事をいっしょにやりましょう」ということにはならなかったですね。ニンテンドウ64の開発機材も送られてきたこともありましたが、まったく手に負えなかったですし。
宮本 これまでは、岩井さんのところへハードの説明に行っても、なんか無理があるな、と。ところがニンテンドーDSは、このハードなら行けるんじゃないかと思えるものになったんですね。岩井さんのために作ったハードと言ってもいいくらい(笑)。音もすごく豪華にしましたし、今回は「やりましょう!」と言おうと決心しました。
岩井 宮本さんが僕の個展にいらっしゃったとき、「うちのものが行くからよろしくね」と突然言われたんですよ。そのあと、本当に10人くらい開発の方がやってきて……(笑)。驚きましたね。
岩田 すごく刺激的なんですね、岩井さんの作品は。ゲーム開発者は触ったら何か音や光で返すというものを作っているにも関わらず、僕らがができないことを岩井さんはされてますから。
岩井 僕の作品の場合、コストの問題など商品化の全部をすっとばして表現することはできるんですね。任天堂さんが作った商品だと、光線銃やラブテスターには子供ながらに憧れましたし、そして大人になってからはファミコンが出てきて『スーパーマリオブラザーズ』に衝撃を受けました。任天堂作品に影響されて、自分の作品の方角を育ててきたという部分があるんですよ。僕はおふたりの作品からすごく影響を受けていて、それで今度は僕が表現したものをおふたりがおもしろがってくれる。そう考えるとおもしろいですよね。商品化するのはすごくたいへんなこと。今回もそれはすごく感じました。それだけに、影響力も大きいですよ。ハードもカートリッジも世の中にたくさんあるわけですからね。『エレクトロプランクトン』を触った方すべてに受け入れられなくても、ほんのひと握りの人でもいいかからこの世界を好きになってもらえるとうれしいです。
●"触って気持ちいい"について
岩井 僕が『スーパーマリオ』でいちば感動したのは、Aボタンを押す長さでジャンプの高さが変わること。スイッチって、オンかオフしかないんですけど、押してる時間に着目するとアナログ的なこともできてしまう。それがものすごくゲームの中にうまくとりこまれていて、そのインタラクティブ感は僕の作品にも大きく影響しています。宮本さんの"触ったときの気持ち良さ"は、どこから出てくるのか、一度聞いてみたかったんです。
宮本 僕が岩井さんとの共通点を感じたのはそこだと思うんです。同じ音を鳴らすのでも、ピッと出るのか、ポロンと鳴るのか。
岩井 音が出るタイミングがどこにあるのか、溜めがあって鳴ったりとかですね。
宮本 そうですそうです。これを考えてやってる作品とやってない作品では、すごく違いがわかるんです。そういう意識をもって作られた作品には、「来てるっ!」と僕も感じる。"ずっと触っていたいかどうか"というのがいちばん大事だと思うんです。
岩井 インタラクティブなものって、文字化できない映像化できないもの。実際に触ったときに「なるほど」と思わせることが、おもしろさであり、つらいところでもある。そのへんをよくわかってるということで、宮本さんの作品にはものすごく共感を覚えます。
宮本 岩井さんは仕組みをよく理解されて作っているでしょ。ゲームデザインも仕組みを理解せずに作る場合もありますからね。やっぱり、手触りをよくするとなると、仕組みを理解するのはすごく大事なことなんですね。
岩井 宮本さんは、ゲームのルールよりもさきに、触り心地から作ってるんじゃないかな、と思っているんですが?
宮本 僕はディレクターをやるときは、手を入れますよ。逆にプロデューサーのときはまったく触らないようにしています。これはディレクターの仕事ですからね、あんまり言わないように……、でも、ついつい手を出してしまいますよね(笑)。
岩田 我慢できないんだと思うんですね。手触りの部分がしっくりこないと、気持ち悪くて仕方がない。たぶんおふたりは、そこが同じでしょうね。
岩井 たぶんそうだと思います。僕は『エレクトロプランクトン』ではそこ(触り心地のよさ)だけを追求したいと思ったんですね。
宮本 けっこう悩まれてましたやね。「もう少しゲームっぽくしないとダメでしょうか?」って。でも、僕としては、確信はないけれど、その部分は捨ててもいいと思ってるんです。やれるところまでやりましょう! ってね。でも10月ごろに岩井さんが「これだけで十分に売れる自信が沸いてきた」って(笑)。
岩井 そうでしたね(笑)。いちばん生理的なことだと思うんですね。食べ物で言うと、美味しいか不味いか、みたいな感じかな。
岩田 ゲームでは何かをすると、音と光で反応が返ってくる。自分がした苦労よりも大きなものが返ってきたら人はやめないんですね。ご褒美の返しかたはいろいろあるんですが、例えば泣かせるストーリーであったり、CGムービーの豪華な映像であったり。岩井さんの場合は、音と光りを返すタイミングとセンスだけで勝負してる。それで満足してくれるお客さんがいるはずだ、というところに到達できたからだと思うんです。
岩井 でも、デバッガーチームからのインプレッションを見たときはへこみましたね。このままじゃ商品にならないんじゃないかと、かなり悩みました。
岩田 『エレクトロプランクトン』は、触る人の好奇心の大きさによってすごくおもしろいものになったり、逆につまらないものになったりする作品だと思います。ゲームの多くが、世界のほとんどを作りこんだものになっていて、好奇心を発揮できる部分が少ない。ところがこれは、目的地を示していないし、何をしていいかわからない。でもいろいろ仕込んであって、触っていくと新しい発見がつぎつぎとある。自分の好奇心が満たされていくから、やり続けてしまうんです。実際にたくさんの人が触るのを見ましたが、3分と触ってられない人から2時間たっても止める気配のない人までいろいろですよ。本当にこれは、"好奇心測定装置"だなと思いました。
岩井 今回はニンテンドーDSの中に作品が入ってしまっている。だから展覧会ではまず、DSそのものを見てもらいたいんです。その上でこの作品を作った人間がどういうものに好奇心を持ってるのかを考えてもらって、例えば、このオープンリールが『エレクトロプランクトン』の"ボルボイス"(録音した音声を逆回転で再生して遊ぶゲーム)に繋がってるとかね。
岩田 そういうことをおもしろいと感じられる人は、『エレクトロプランクトン』も楽しいと思うはずですよ。
岩井 なるほど。でも、そんなにたくさんいますかね?(笑)。
岩田 それは、おもしろいと感じた人が周りに広げていくものなんです。発売して2週間しか売れない、最近はそういうゲームばかりですが、これはそもそもおかしなこと。すぐに古くする必要はないんです。好奇心があれば無限に遊べるはず。そういうものであるべきなんです。ゲームってこういうものと定義が決まっているような感じですが、岩井さんとやったら可能性がちょっと広がるんじゃないかと考えているんです。結果、ゲームは自分には関係ないなと思ってた人が興味を持って、触ってもらって、おもしろいと感じてもらえるなら、その意味では目的を果たすものができたと思っています。
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