HOME> ゲーム> 良質な舞台を観終わったあとの余韻を漂わせる良質な娯楽作『ゴースト トリック』インプレッション
●クリアー後のこの気持ちは……?
すでにこの世には存在せず、誰にも見えない“ゴースト”のシセルを主人公に、“死者のチカラ”を駆使して事件の真相に迫るミステリー。ミステリー好きライターの戸塚伎一に本作の魅力の“謎”を解き明かしてもらおう。
ゲームのエンディングが終わって画面がフェードアウトし、タイトル画面に戻った時。
文句なしにおもしろかったら「楽しかったぁ!」という幸せな余韻に満たされ、おもしろかったけどまだ終わった気がしなかったら、スタートボタンor
Aボタンを押して、新モードとかが追加されていやしないかをチェック。いろいろと微妙だったら……エンディングまでたどり着いていないかも。
『ゴースト
トリック』はどうだったか。
お話はきれいに終わった。遊んでよかった、と素直に思えた。
なのに、モヤモヤが収まらない。プレイヤーである自分とは関係なしに物語世界の時間がまだ流れ続けている気がして、しかもそれに参加できないことを重々わかっているから、やるせない。私はあくまでも、夢のようなひとときを過ごさせてもらった“観客”なのだから。
●死者の魂が生者の世界を変える痛快さ
本作の内容を思いきり要約するならば、「生前の記憶を失った死者の魂が、モノにとりつくチカラを駆使して、自分の正体を探るお話」となります。ゆえにゲームは、その、記憶喪失の魂の思惑や行動に沿って、進行します。
モノにとりつくといっても、できることは、そのモノ特有の動き──傘だったら開いたり閉じたり、ボールだったら転がるといった単純なアクション程度で、しかも、自分の魂の位置から離れた場所にあるモノには、一足飛びで移動できない。人間にとりついて直接あやつれるかといえば、生き物関係は不可。ただし、命を失って間もない死体だったら、とりついた時に、その死体の“死の4分前”にさかのぼれる……とまぁ要するに、いかにもゲーム用にでっち上げられた設定で、しかも規定がかなり細かい。魂は肉体から離れることで真の自由を得るのではなく、ただ新たなルールに組み込まれるのみ、という風刺にも思えてきます。
そうした大前提へのツッコミを飲み込み、物語に誘導されるがままに進めていくと、「“死の4分前”でとりつくチカラを駆使し、その人物(人間以外の場合もあり)がその場面で死なずに済む運命を作りだすこと」が、ストーリーの重要ポイントだと、わかってきます。バタフライ効果だとかタイムパラドックスだとかいった野暮な理屈(笑)は置いといて、死者の世界側からのささやかな働きかけの積み重ねによって、生者の世界のありかたを劇的に変えてしまおう、というわけです。
ここで興味深いのは、死体にとりついた時、その死者の魂と会話できること。どんな酷い死にかたをしたにもかかわらず、穏やかな雰囲気で現われる彼らは、一時的にしろ、現世のあらゆるしがらみから解放された安堵と軽やかさに満ちています。すっかり“常連”となった女性刑事などは「いやーまた来たよ」みたいな調子で、現世の息抜きのため、わざと死んでいるんじゃないのか? とさえ思えてくるほどです。
“死生命有り”に真っ向から対抗するかのような、本作のこうした死生観は、ある面では、自身を不変の存在=データリソースそのものと錯覚し、“リアルな死”からひたすら乖離していく現代日本の風潮の象徴……と言えなくもありません。しかし、プレイしていてもっとも印象に残るのは、本来そこで手詰まりになるはずだった物語が息を吹き返した時の“痛快さ”です。
本作が描く死者の世界は、状況の一切が変化しません。なぜならそこには、時間の概念がないから。モノへのとりつきは、“とりついた”という状態が、ただあるだけで、死者どうしの会話は、概念上の自我どうしの情報共有がなされたに過ぎない。それらが、生者の世界を司る“時間の流れ”に放流され、止まった物語を再開するエンジンとして躍動するさまを見守る最中にこそ、『ゴースト
トリック』の醍醐味がある気がします。
●まるで舞台を観たかのような“満足感”
ゲーム画面を見守る……ということに関して言えば、本作はプレイヤーの視点の位置に対してつねに意識的で、かつ、サービス精神旺盛です。
レトロな2Dアクションゲームよろしく完全なサイド・ビューで描かれるメイン画面は、プレイヤーに、舞台の客席──登場人物全員の位置関係や動きを把握しやすい視点を提供します。
実際、登場人物たちの滑らかな動きのドットアニメーションは見応え十分。クセのある仕草や決めポーズが全身で表現され、各登場人物の個性が一目瞭然なだけでなく、“死者の世界の無時間性”に対する“生者の世界の躍動感”が、ごく自然に強調されています。こういった静と動のメリハリのきき具合は、能──それも死者側に重きを置いた夢幻能に通じるものを感じました。
本作の物語世界が、明らかにプレイヤーを舞台観客として意識して作られていると確信したのは、モノにとりついて運命を更新するパートでの、一風変わった“トリック“の存在。
残念ながら、その内容をここで詳しくは説明できないのですが、この解法に気がついたとき、本作が重要視しているのは、重箱の隅をつつくユーザーを唸らせる整合性ではなく(視点の位置関係的に)、舞台の客席側にいる人々を、どんな手段を使ってでもいいから喜ばせたい、あっと驚かせたいという気骨なんだなぁと思いました。
テレビゲームで得られる満足感の形はいろいろありますが、見晴らしのよい特等席で、ハラハラドキドキする舞台の一部始終を見守るような気分を味わえるとすれば、それもまた贅沢な満足。それを全編にわたって体験できた『ゴースト
トリック』は良質な娯楽作であり、舞台の幕が閉まってもしばらく席を立ちたくない余韻さえ漂わせる、粋な作品でした。
筆者紹介・戸塚伎一(クイックス) |
ファミ通Xbox 360誌でクロスレビューを担当するフリーライター&漫画かき。『ゴースト トリック』でのお気に入りキャラは、何か興が乗ると手持ちのグラスで“エア乾杯”するマダム。あんな飄々とした物書きに、私もなりたいもんです。 |
『ゴースト トリック』 |
■機種:ニンテンドーDS |
[戸塚伎一の過去のレビュー記事]
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