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光源を巧みに活かした独特の演出が秀逸、『アラン ウェイク』インプレッション
【プレイ・インプレッション】

2010/5/31

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●深い山中にある小さな町、ブライトフォールズを舞台に、奇妙で危険な事件がアランウェイクに襲い掛かる

 『アラン ウェイク』は、ベストセラー作家であるアラン・ウェイクが闇に潜むものたちと戦いながら、失われた記憶と妻の安否を探っていくサイコスリラーである。美しいグラフィック、先が気になるストーリー展開と、恐怖を覚えさせつつストレスを感じさせない優れたゲーム性。これらすべてを兼ね備えた本作を、ファミ通Xbox 360を中心にレビューや攻略記事を担当してきた古株ライター、石井ぜんじがインプレッションする。

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▲作家のアランウェイクは、スランプから脱出するために訪れた山村で妻の失踪に見舞われる。彼女を救出するため、みずから闇の中に足を踏み入れていく。


●日常と非日常を溶け合わせながら描き出す『アランウェイク』の世界

 本作をプレイしたほとんどの人たちが感じるだろうすぐれた部分は、美しいグラフィックと巧みな演出であろう。ゲームの舞台となるワシントン州ブライトフォールズは、深い森と湖の中にたたずむ閑静な山村である。本作はその町並みと大自然を、陰影のあるグラフィックで美しく描き出している。

 主人公は広大な森林を、深夜に果てしなくさまよい歩くことになる。基本的には一本道なのだが、そのフィールドは非常に広い。生半可なオープンワールドの作品よりも、大きなスケールで物語は展開されていく。漆黒の闇に包まれた森林と、その合間に明るく色づくドライブインの街灯や発電機のライト。光と闇の、陰影を巧みに使った演出は、次世代機ならではの出来栄えとなっており、とても美しい。

 また特筆すべきなのは、ストーリーを盛り上げる演出の数々だ。エピソードの最後には、あらすじが“ここまでのアラン・ウェイク”と題して海外ドラマ風にダイジェストで紹介される。またステージの途中にはテレビやラジオが設置されており、その場所ではテレビ番組や、ラジオのナレーションを聞くことができる。とくに“ナイトスプリングス”と呼ばれるテレビ番組では、ひとつずつ完結した奇妙なショートストーリーが展開され、単体でも十分に楽しめる。この番組の完成度だけとっても、本作が並々ならぬこだわりを持って作られていることがわかるだろう。


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▲暗い森を抜け、明かりを見つけたときの安堵感は本作ならでは。“ここまでのアラン・ウェイク”の海外ドラマ風の表現は、ゲームではありそうでなかった演出だ。


●ホラーゲームにあるまじき、快適な操作感が魅力


 ここからは、本作のゲーム性について考察してみよう。本作のゲームシステムは、広義のTPS(サードパーソンシューティング)と言える。だが通常のTPSと異なるのは、敵に光を当てて闇のバリアをはがさないと、ダメージを与えられないというところだ。単に撃つだけではダメで、ライトで光を当ててから撃つというところにポイントがある。

 ゲーム的なルールはシンプルなのだが、この2段構えの操作のおかげで奥の深さが生まれている。ひとりの敵にライトを当てているあいだに、もうひとりの敵が近づいてくる。さきにひとりを撃って倒すのか、それとも近づいてきた敵に光を当てるのか。ちょっとしたことだが、つねにこのような判断が求められることになる。

 このように書くと面倒くさそうに思われるかもしれないが、本作のアクションは非常に快適だ。思い通りに動かすことができ、操作面でのストレスはたまらない。しかし快適なアクションという美点は、ホラーゲームに限ってはもろ刃の剣となる。スムーズに走り回り、弾薬を気にせずに撃ちまくって敵を倒せばプレイヤーは爽快だ。しかしそれでは、恐怖やよい意味でのストレスを、プレイヤーは感じることができない。これではアクションとしてはすぐれていても、ホラーゲームとしては失格である。

 このあたりのバランス感覚が、本作は非常にすぐれている。快適に銃を撃ち、動かすことのできるその操作感は抜群だ。しかしライトを駆使して戦わなければいけないため、敵が複数登場すると押され気味になる。ゴリ押しは難しく、適度な不安感とストレスがプレイヤーにのしかかってくる。この組み合わせが絶妙なのだ。結果的に多くの人が、適度な緊張感と納得感を持って楽しめるように調整されている。

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▲ノーマルの難度なら、それほどアクションがうまくない人でも楽しめる親切設計。腕に自信があれば、ハードで始めるのもいいだろう。


●要素は少ないが、バリエーション豊かなアクションシーン

 本作における、アクションシーンでの決まりごとは少ない。闇のバリアを光ではがしてから敵を倒す、強い光の下に入れば体力が回復する、といったルールがおもなところだ。表面上は独創性のないアイデアのように見えるが、実際に遊んでみるとその熱中度は高い。この熱中度の高さは、決められたルールを最大限に活かし、要素の組み合わせが熟考されているからであろう。

 設置されているサーチライトを点灯し、その光を利用しつつ敵と戦うというシチュエーションはその際たるものだ。同様の場面でも、ライトの明かりが短時間しか持たず、一定時間でスイッチを押して再点灯しなければいけない場合もある。ちょっとした状況の違い、出現する敵の位置関係などが、ベストの戦いかたを左右する。そのおかげで、飽きないアクションが続けられるのである。


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▲登場する敵は人型をした闇の怪物と、体当たりしてくるポルターガイストくらいのもの。しかしほとんど同じような状況は存在しない。


●ホラーにおいて、謎は解かれるべきなのか?


 それでは最後に、本作におけるホラー要素について考察してみよう。本作はサイコサスペンスと銘打たれているが、筆者の感覚では広義のホラーと呼んでも差し支えないように思える。ゲーム中にも引用されるように、米国の人気作家スチーブン・キングの小説を思わせる雰囲気が濃厚だ。しかし本作にはホラーにはつきものの、おぞましさ、グロさといったところは目立たない。ゲテモノ趣味や驚かせる演出に頼らないところが、上質なエンターテイメント作品といえる。

 ホラーの難しいところは、その合理性と非合理性のバランスである。合理的に全部解明されてしまうと、受け手はあまり怖くなくなってしまう。人間は理解不能なもの、理不尽なものに対して恐怖を覚えるものなのだ。だからといって、あまりつじつまが合わないと納得がいかない。何が起こっているのが理解できないのでは、ストーリーに興味を失うことにもなりかねない。

 本作の主人公は一週間分の記憶を喪失しており、現実なのか夢の中なのかわからないような状況に追い込まれていく。超自然的な闇を題材にしているため、科学的にすべて割り切れるはずもない。それは当然のことである。だが超自然だから“なんでもあり”になってしまうと、チープな世界観になってしまう危険性がある。

 そんな危うい設定を支えるのが、主人公を始めとする人間描写の丁寧さである。主人公は悪夢に悩まされるが、比較的まっとうな思考をするために感情移入がしやすい。主人公の周りの人たちに超人はいないが、平凡な中にもみな個性がある。美しい森林、ありがちな人間関係、闇との死闘のインパクト。物語の存在感を際立たせるのは、それらの総合的なリアリティーである。世界をしっかり作りこんでいることが、『アラン ウェイク』なりの理由と原因を生みだし、受け手に謎解きの納得感を与えているのだ。

 納得感が高まれば、現実ではあり得ない論理の積み重ねでも構わない。あとはその物語なりの、論理と回答を示すだけである。それで受け手は、謎を解きほぐしながら進んでいく快感を得ることができる。本作におけるストーリー進行は、まさにこの手順を踏んでいるといえる。

 しかしそうは言っても、謎のすべてがわかりやすく明示されるわけではない。アランの書いた原稿を読むことで理解の助けにはなるが、それだけでは不十分だ。筆者は真相について、いくつか解釈の余地があるのではないかと考えている。この謎に満ちた物語が、どのような結末を迎えるのか。その結末を、プレイヤーは納得して迎えられるのか。人それぞれ、受け取りかたが違うだろう。あなたがどちら側で判断するのか、ぜひ直接プレイして確かめてみてほしい。


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▲アランの原稿をすべて集めるには、最高難度のナイトメアでのプレイが必須。これはゲームならではの仕掛けだ。

 

筆者紹介 石井ぜんじ

ファミ通Xbox 360誌でクロスレビュー、攻略を担当する古株ライター。ゲームの文章を書き始めてから20数年、飽きずに続けております。過去に『NINJA GAIDEN(ニンジャ ガイデン)』シリーズ攻略本、『シュタインズ・ゲート公式資料集』に参加。最近ではアーケードゲーム『ボーダーブレイク』の攻略本などにも関わりました。これからも好きなゲームを応援したいですね。


『アラン ウェイク』
■機種: Xbox 360
■発売元:マイクロソフト
■発売日:2010年5月27日発売
■価格:7140円[税込]
■テイスト:ファンタジー・サスペンス
■ジャンル:アドベンチャー
■プレイ人数:1人
■通信機能:Xbox LIVE対応(ダウンロードコンテンツ)
■CERO:12歳以上対象
■備考:『リミテッド エディション』(限定版)も同時発売(8190円[税込])

※『アラン ウェイク』の詳細はこちら
※『アラン ウェイク』ファミ通.comの特設サイトはこちら
 
[石井ぜんじの過去のレビュー記事]
※これまでにない斬新な戦闘システムが爽快さへと誘う『エンド オブ エタニティ』
※ゲーム性のクオリティーアップが世界への没入感をより高める『アサシン クリードII』インプレッション
※時間という禁断のテーマに挑んだ本格派ノベルゲーム『シュタインズ・ゲート』インプレッション
※じっくりと余韻を楽しみたい大人のギャルゲー『ドリームクラブ』インプレッション
※プレイヤーの腕がしっかり反映される『バイオニック コマンドー』インプレッション
※戦略性がほどよくアクションに融け込んだ絶妙のバランス『真・三國無双5 Empires』インプレッション
 

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