HOME> ゲーム> 天才クリエーター、ウィル・ライト氏がゲームデザインの“いま”を語る
●「いまゲーム業界はもっとも健康な状態にある」
著名クリエーターによるセッションが魅力のGDCだが、GDC
2010では、欧米で“三大クリエーター”と呼ばれる、ウィル・ライト氏、シド・マイヤー氏、ピーター・モリニュー氏が揃って参加し話題を呼んだ。GDC
2010の最終日(5日目)にあたる2010年3月13日に、まさに“真打ち登場”とばかりに組まれたセッションが、ウィル・ライト氏による“Metaphysics
of Game Design”だ。“ゲームデザインの抽象論”とでも直訳すべきこの講義は、当初プログラムガイドには“Phaedrus(パイドロス)”という名前で組まれていた、いわばシークレットセッション。「いったいどんな講義が?」ということでセッションに参加した聴講者は、壇上に上がったのがウィル・ライト氏でびっくりする、という趣向だ。実際のところ記者も、あまりにこのセッションを入場待ちする列が長いので、つい野次馬根性を発揮して、当初参加するハズだったセッションから切り替えたところ、登壇したのがウィル・ライト氏だったのでびっくりしたというクチだ。ただし、事前にPhaedrus=ウィル・ライト氏という情報はそこはかとなく漏れていたようで、セッションは立錐の余地がないほどの大人気ぶり。登壇したライト氏が「僕はパイドロスではありません。スピーチを用意する時間があるかも、何を話すかも決まっていなかったので……」と口火を切るや、会場からは大きな歓声が上がった(ちなみにパイドロスというのは、1世紀のローマの寓話作家のようです)。
「長年ゲームデザイナーをやってきましたが、昨年エレクトロニック・アーツを辞めました。母親に話したら、“失業中ってことね”と言われました」と話し会場を笑わせたウィル・ライト氏は、まずは自身のゲーム歴を語るところからスタート。1984年に『バンゲリングベイ』を手がけたあとは、1987年にマクシスを共同設立し、『シムシティ』や『シムアント』、『シムタウン』などをリリース。その間マクシスは株式公開したが、株価は急激に上がり下がりし、1997年にエレクトロニック・アーツに買収されたとのこと。そこで、『シムピープル』や『Spore』などを手がけたライト氏は、2009年にエレクトロニック・アーツを退社。その後Stupid
Fun Clubを設立し、「いまいろいろと考えているところでまだコメントはできないが、近いうちに話せると思う」ところなのだという。『バンゲリングベイ』を開発していたブローダーバンド社の時代は何もかも自分でやっていたが、マクシスは会社組織で何となく疎外感があった、と率直に語ったライト氏は、「ふたたびインディーになったので、思考が保守的なものから実験的になってきているのでうれしい」とコメントした。そして講義は本題であるゲームデザイン論へ。ここでは、ライト氏によるゲームデザイン論の中から気になる発言をトピックごとに紹介していくことにしよう。
〈観点〉
ライト氏が取り上げたのが、ロバート・M・バーシグ著『禅とオートバイ修理技術』。15歳のときにこの本を読んだというライト氏は、「真実はけっしてひとつではなく、理解のしかたやモノを見る角度によってさまざまに異なる。何を見るにもさまざまな見かたができるほうがいい」と思ったという。さらに、10年ほどまえにデジタルカメラに凝ったことがあるが、カメラのバインダー越しに覗くと風景や世界が通常とは違って見え、その後はカメラなしでも通常とは違ったモノの見かたができるようになったと説明。「エンターテインメントはストーリーやゲームプレイ、ビジュアルなど、いろいろな観点からの見かたをさせてくれる。ことにゲームは、実際の世界を違う観点で見るにはいいヒントになるのでは?」とした。
〈プラットフォーム〉
「エンターテインメントのプラットフォームは多様化している」とライト氏。たとえば、映画だけをとってみても、当初は映画館のみで観ていたものがテレビの登場に続き、ビデオ、パソコンと増えている。一方で、近年ゲームのプラットフォームも多様化してきているが、その多様化をもたらしたきっかけのひとつがWiiだとライト氏は指摘する。「Wiiはそれまでのパワーを追求したゲームマシンではなく、フォーカスの異なるプラットフォームです。誰にでもアプローチしやすく、“年齢”の限界を超えました。生物史にも同じような爆発的な進化がありました」というのだ。それまでは、家庭用ゲーム機とPCに占められていたゲームプラットフォームは、インターフェースの充実にともない“楽しみかた”が広がってきているとライト氏は言う。例を挙げるだけでも、iPhoneやFaceBook、Wiiバランスボード、ギターコントローラー、Project
Natalなど枚挙に暇がない。
〈将来のビジョン〉
まずライト氏は、最近流行りのソーシャルゲームに関して、「自分を中心とした世界がほかの世界と繋がるのがソーシャルゲームだが、瞬間々々に多くのデータを交換していると考えるとちょっと気味が悪いですね」と心情を吐露。とはいえ、コンピューターがどんどん賢くなり、世界を大きく変化させてきたことは事実で、電子メールや携帯メール、Twitterなどコミュニケーション手段はより進化して、多くの人が高速に繋がってきているのは事実。「雑誌の数を見れば人々の嗜好が細分化されているのがわかりますが、小さな社会でコミュニケーションが行われ、より多くの人々を集めようとする動きは人の営みとして変わらない」とした。
そして、ゲーム業界の今後についてライト氏は「プラットフォームの数がどんどん増え、機会も増えていますが、逆にリスクも大きくなっています」と語る。そのリスクを大きくしている要因のひとつが、将来を予測することの難しさ。年々将来を予測するのが困難になっていますとライト氏は語る。「1700年に100年後のファッションやテクノロジーを予測するのは容易だったかもしれませんが、1900年に100年後を予測するのは非常に難しかった。さらに、いま2100年を予測するのは不可能です!」。時代は急速な変化を遂げているのだ。たとえば家庭用ゲーム機のコントローラーにしても、それまでは直線的な進化を遂げていたものが、Wiiリモコンの登場以降いろいろな方向に弾けつつあるという。
とはいえライト氏は、ゲーム業界の多様化に大きな可能性を見出しているようだ。「ゲーム業界全体を見れば、たくさんのプラットフォームがあり多くの機会や方向性を提供している。いまゲーム業界はもっとも健康な状態にあると思います」とライト氏は語る。予測はしづらいが多様性のある業界。ライト氏にとっては、いまのゲーム業界はとても魅力的なものなのかもしれない。
※Stupid
Fun Clubの公式サイトはこちら(英文)
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