HOME> ゲーム> 日米のギャップは乗り越えられる、『ロスト プラネット 2』に見る遠距離間開発の画期的な制作手法とは?
●海外との開発の壁は乗り越えられる
2010年3月9日〜13日(現地時間)の5日間、アメリカ・サンフランシスコのモスコーニセンターにて、ゲームクリエーターによる国際会議、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2010が開催。世界中のクリエーターによる講演が多数予定されている。ファミ通.comではその模様を総力リポートする。
ここ数年のゲーム開発の現場において、異国どうしのコラボはけっして珍しいことではない。日米の会社が共同でタイトルを開発……というのも耳にするようになってきた。とはいえ、遠距離であることや言葉の壁など、乗り越えなければならない課題も多い。そんな問題に対してひとつのモデルケースを提示してくれたのがGDC
2010開催3日目の2010年3月11日に行われた“LOST PLANET 2:Bridging the Gap Between
Developer and Contractor“だ。“『ロストプラネット2』:開発者と外注先のあいだの溝を埋める橋”とでも直訳すべきこの講演は、カプコンのプレイステーション3、Xbox
360用ソフト『ロスト プラネット 2』のサウンド開発(BGMやSEなど)を事例に、日米に横たわる“ギャップ”をいかに埋めていったかを紹介するもの。登壇者は日米の当事者ふたり、カプコンのクリエイティブ制作部
サウンド制作室 サウンドディレクター岸智也氏と、『ロスト プラネット 2』で音響制作を担当したハリウッドのプロ集団、Soundelux
DMGのピーター・ジンダー氏だ。
『ロスト プラネット』シリーズのサウンドディレクターを務める岸氏。1作目である『ロスト
プラネット エクストリーム コンディション』でもSoundelux DMGとコラボをしていたが、そのときは「デベロッパーが発注をして、サウンドコンストラクターがそのフィードバックを修正する」(ジンダー)という従来型の方法論を取っていたという。それに対し岸氏は3つの問題点があったと指摘する。(1)単体で聴いた音とゲームに組み込んだときの音との差がある、メモリーの容量によって、使わないサウンドもあった、(2)納品される際の組み込みに時間がかかる、(3)発注の準備に時間がかかる、だ。
Soundelux
DMGのオフィスはロサンゼルスにあるのだが、自分たちが制作している音がどの部分に組み込まれているか、理解していないケースも多い。音楽がしっくりこなかった場合は修正依頼のメールをだしてやりとりをするのだが、それもやりとりが煩雑になる。あまりに効率的でなかったのだ。そこで『ロスト
プラネット 2』の開発をスタートするにあたって岸氏は、「従来の制作手法をがらりと変えよう」と決意したという。具体的に何をしたかというと、『ロスト
プラネット 2』に使用されている開発環境であるMTフレームワーク2.0をSoundelux DMGにも提供して、彼らの手で実際にゲームに組み込んでもらうことにしたのである。そのあとで、カプコンでは仮音をゲームに組み込んだ“プリマスター”を制作。発注リストを作って、ゲームごとSoundelux
DMGに提供した。それに対してSoundelux DMGでは、順次微調整をしながらゲームサウンドを制作していったという。たとえば銃の音などは、ゲーム中ではどんな雰囲気になるか、実際にすぐさまゲームに組み込んで“試射”し、確認することができた。遠くにいる敵と近くにいる敵の銃の音もしっかりと調整可能になったという。「映画のような映像を実現できた」と、ジンダー氏は言う。
ちなみに、仮音を組み込んだプリマスターを作ることは、必要なメモリー容量を正確に決められたり、必要とされる音の方向性をイメージしてもらいやすいといったメリットがあったそうだ。実際のところ、仮音はカプコンのスタッフが作って、それに対してSoundelux
DMGが本番のサウンドを組み込んでくるわけだが、「ハリウッドの一流どころが、自分たちの作った仮音をどういうふうに変えてくるか興味津々でした」というのは、クリエーターならではの楽しみと言えるだろう。さらに、サウンドデータはフレームワークで動作する形で納品されてくるので、そこでオーケーだったら即マスターアップというおまけつきた。
この新しい制作手法により、発注にかかる時間も短くなった。以前の発注方法では、たとえばキャラクターにサウンドをつける場合、その詳細を“仕様書”として送らなければならなかったが、『ロストプラネット2』では、実際にフレームワーク上で確認すれば事足りる1作目では1ヵ月かかっていた発注準備が、『2』では1週間で済んだという。
さらに岸氏は渡航費の削減にも取り組んだ。渡航するかわりにテレビ会議システムを導入する方法を思いついて、効果的に活用したのである。これによりローカライズの問題も解消されたという。「Soundelux
DMGと交渉するときにいちばん難しいのは、音を言葉で表現すること。日本語のニュアンスを英語のニュアンスに再現するのは難しくて、なかなか伝わりにくい。それがテレビ会議システムでは擬音で伝えられるので、やりとりがとても速かったです。それでも(ニュアンスを伝えるために)いろいろな英単語を覚えましたけどね(笑)」(岸)。テレビ会議は昨年世界規模で巻き起こったインフルエンザの渡航制限にも有効だったという。さらに“通信”では、日米をXbox
LIVEでつないで、『ロスト プラネット 2』のオンライン対戦を実施、オンライン時のサウンドを確認したといったこぼれ話も披露してくれた。ちなみに、カプコンではサウンドの再生環境の構築にも本格的に取り組んでいて、カプコンとSoundelux
DMGとで共通のサウンド再生環境を再現。ゲームプレイ時やムービー時などの音の数値もしっかりとはじき出しているのだという。こうした、きめ細かいこだわりが、良質のサウンドを生み出すのだ。そして最後にふたりはそれぞれこう締めくくった。
「従来型のアウトソーシングは、デベロッパーとコントラクター(外注先)のあいだに壁があったのですが、この手法ではそれが取り除かれました。デベロッパーにとっては、プロスタジオの技術に触れることができ、逆にプロスタジオはゲームに組み込むことができるので、そういうことが重なっていくと、ゲーム自体のクオリティーがあがる。結果として、ユーザーの方によい体験をしていただけるというのがあると思います。この手法が広がっていけば、ゲームのサウンドも向上していくし、それが私の望むところでもあります」(岸)
「業界が変わってきていて、10年まえといまとでは明らかに違う。経験も要求されるものも変わってきている。大きなサイクルまで急激に変えるのは難しいが、“長距離”に対する壁がなくなってきているのは確か。それだけクリエイティブに割けるようになってきているのだと思う」(ジンダー)
「“ギャップ(距離、技術、カルチャー)”は超えられる」と最後に結んだ岸氏。カプコンは海外とのコラボに積極的な国内メーカーとして知られるが、こういった地道な取り組みが、世界基準のカプコン作品として実を結んでいるのだということを実感させられた講演だった。
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