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『メトロイド』や『トモダチコレクション』を手がける任天堂の坂本賀勇氏が語る、人の心を動かすには?
【GDC 2010リポート】

2010/3/12

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●大切なのは“ムード、間、コントラスト、伏線”

 2010年3月9日〜13日(現地時間)の5日間、アメリカ・サンフランシスコのモスコーニセンターにて、ゲームクリエーターによる国際会議、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2010が開催。世界中のクリエーターによる講演が多数予定されている。ファミ通.comではその模様を総力リポートする。

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 昨年が15組だったのに対し、今年は7組と半分以上に減ってしまった日本人クリエーターの登壇者。そのなかにあって大きな存在感を見せたのが、開催3日に行われた任天堂、企画開発本部 企画開発部の坂本賀勇氏による講演“From METROID to TOMODACHI COLLECTION to WARIOWARE:Different Approaches for Different Audiences”だ。この講演は、シリアスタッチの『メトロイド』シリーズからコミカルタッチの『トモダチコレクション』や『メイド イン ワリオ』シリーズまで、幅広い作品を手がける坂本氏の作風に疑問を抱いた任天堂の岩田聡社長が、「ゲーム開発に対してどのようなアプローチをしているのか、そのダイナミックレンジの広さを紐解くことで見えてくるものをGDCで講演したらおもしろいのでは?」との提案により実現したもの。任天堂の関係者による講演は、毎回密度の濃い内容が多いが、坂本氏によるこの講演も非常に刺激的な内容による名講演となった。

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▲ファミコン版『メトロイド』シリーズ(左)や『メイド イン ワリオ』シリーズ(左から2番目)を手がける坂本氏。開発2作目には『バルーンファイト』を制作しており(左から3番目)、岩田社長がプログラムを担当していたという。右端の写真は、当時の坂本氏と岩田氏の頭の中の構造を再現したもの。


 『メトロイド』から『トモダチコレクション』まで――なぜ坂本氏の作風は幅広いのか? その疑問に答えるにあたって、まず坂本氏は自身の創作の原点であるイタリアの映画監督、ダリオ・アルジェント氏との出会いを紹介した。「彼が監督した『サスペリア』や『Deep red(サスペリアPART2)』などのホラー映画は、現在の自分のもの作りに決定的な影響を与えています。当時、恐怖映画に興味はあったのですが、ほかの作品に“何かが違う”というフラストレーションを抱えていた私は、ダリオ・アルジェント監督に出会い、斬新な手法にド肝を抜かれたのです。自分が求めていたスタイルがそこにありました」(坂本)。

 そのころから漠然と、ダリオ・アルジェント監督のような作品を作りたいと思うようになった坂本氏は、アルジェント監督の手法をこう分析したという。「作り手は、ムード、間、コントラスト、伏線を活かして観衆を恐怖させるものである」と。たとえばアルジェント監督は、BGMにプログレッシブロックを使い、「それまでの恐怖映画よりも何十倍も恐怖を煽った」り、「ストーリーにダイナミックなコントラストをつけ、緊張感を高めたり」していたのだという。このインスピレーションを受けて坂本氏が制作したのが、ファミコン用ソフト『ファミコン探偵倶楽部』だ。「アルジェント監督に対するオマージュ」(坂本)というこの作品で、“ムード、間、コントラスト、伏線”のコントロールに自信をつけた坂本氏は、以降この手法を使い続けるようになる。この“ムード、間、コントラスト、伏線”が、じつはそんなに特別なことではなくて、ふつうの手法であることに坂本氏は早い段階から気づいていたという。「恐怖表現の手法を追い求めて、私はこの手法を導いたということを前提として知ってほしかったんです」と坂本氏は話を続けた。

 以降、坂本氏はムードなどを学ぶために、たくさんの映画を観るようになったという。とくにリュック・ベッソンやジョン・ウー、ブライアン・デ・パルマといった監督がお好きだったらしい。とはいえ、「映画から多くの刺激を受けたが、驚くほどの本数の映画を観ているわけでもないし、自分は映画マニアではない」断言した坂本氏は、続けて以下のように語る。「自分は映画には憧れを抱いているが、そこにコンプレックスを感じているわけでもなく、最終的に映画監督になりたいわけでもありません。あくまでも映画で受けた刺激をゲームに持ち込んで、そこで引き出しを豊かにしているイメージです」(坂本)

 一方で、坂本氏が幼いころから興味を持っているのが“笑い”。「何かおもしろいものがないか?」ということで、1日のうちのけっこうな時間を、笑いの研究に割いているという。坂本氏は、日常生活のほどよいスパイスとして、まわりの人が喜んでくれるのがうれしいというのだ。そのために、自分自身をおもしろがってもらえるためのネタをつねに求めていて、ふだんから感度を研ぎ澄まし、秘密の引き出しにしまっておくように心がけているらしい。あらゆるシチュエーションや相手に対応できるように、引き出しの中の品揃えは豊富にしておくのだとか。さらに、思いついたネタを発する場を頭の中でくり返しシミュレートし、ベストパターンを考える、といったことまでしているらしいから用意周到だ。なぜそこまでするのかというと、「笑いをコントロールしたいから。そこで私は、自分が使っているのは、恐怖のときと同じ“ムード、間、コントラスト、伏線”だと気づいたんです」(坂本)。

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 人が“おもしろい”とか“怖い”とか思うのは人の心が動くからであって、そこに至るまでの心のメカニズムは心の動きの種類に関わらず同様に起こる。つまり、人をおもしろがらせるのも怖がらせるのも、“ムード、間、コントラスト、伏線”を作り手がコントロールすることにあると坂本氏は言うのだ。そして、「作り手は受け手の心の動きをイメージしながら作品を作ります。それを効果的に行うためには、みずからが受けた経験を肌感覚で受け止める必要があります。それはふだんの姿勢、引き出しを豊かにする過程で生み出されるものなのです」(坂本)とクリエーターの心構えを語った坂本氏は以下のとおりに結論づける。

 「岩田社長の疑問に対する解答は、自分はシリアスとコミカルなもの両方に貪欲だったためにチャンスに恵まれたという言葉で説明がつきます。つまり“答えはとくに違いがありませんでした”ということになります。でもそれは手段の話で、本当はいろいろなものに共鳴できる感性と、それを貪欲に掘り下げる心があれば、共通の手法によって人の心をさまざまな方向に動かすことが可能なんです」(坂本)

 ここで講演の結論は出たわけだが、引き続き坂本氏は、その結論の“おさらい”として、自身が手がける最新作ニンテンドーDS用ソフト『トモダチコレクション』と、Wii用ソフト『METROID:Other M(仮題)』について教えてくれた。以下に、興味深いその概要をかいつまんで紹介しよう。

『トモダチコレクション』

もともと『トモダチコレクション』は2000年に日本でのみリリースした、小さな女の子向けゲームがもとになっているのだという。「占いをテーマにしたもとの作品に、毒を入れて『大人の女の占い手帳』というあやしいゲームになるハズでした。それがある発明によってプロジェクトは大きく変換することになったのです」(坂本)という。このプロジェクトで生み出された似顔絵の技術を自慢すべく坂本氏が岩田社長に見せにいったところ、岩田社長は大いに喜び、即座にWiiに採用されることになったのだ。そのため、似顔絵のスタッフも宮本茂氏のチームに貸し出されることになったらしいが……。それがのちのWiiの“似顔絵チャンネル”となった。いまやWiiの象徴とも言えるMiiは、じつは『トモダチコレクション』プロジェクトから生み出されたものだったのである(ちなみに宮本チームに貸し出されたスタッフは、1年後たくましくなって帰ってきたそうです)。『トモダチコレクション』の開発はちょうど『METROID:Other M(仮題)』と重なり、坂本氏は出張続き。ホテルでディレクターとメールのやりとりをしていたと当時の苦労話を回想した坂本氏は、「よかったと思うのは、ディレクターと描いていた『トモダチコレクション』のイメージを守りぬいたことです。こだわりの選択をしたこと。そういった意味では、自分の引きだしの中にいろいろなネタを幅広く溜め込んでいてよかったと思います」と続けた。そのうえで坂本氏は、「作り手のコントロールする“ムード、間、コントラスト、伏線”がどこにあるかというと、この作品ではソフトの仕組みの中に小さな姿を見出せますが、基本はプレイヤーに委ねられています。そこに“コミュニケーションソフト”という秘密が秘められているんですね。自分自身が楽しむ遊びであると同時に、誰かに楽しんでもらうためのもの。それは、つね日ごろより笑いに大きなエネルギーを注ぐ、自分の腕の見せどころでした」と説明した。

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『METROID:Other M(仮題)』
 「ノウハウを結集してのシリアスタッチの集大成とでもいうべき作品」と坂本氏が位置づける『METROID:Other M(仮題)』。同作でプロデュースを担当する坂本氏は、シナリオなども担当。「シナリオの段階で“ムード、間、コントラスト、伏線”を入れることは可能です。ゲームシナリオのライティングの経験を活かして、サムスを美しく描こうと思いました」という坂本氏は、開発を手がけるテクモTeam NINJAとのコラボに大いに刺激を受けたという。「早矢仕洋介さん率いるTeam NINJAとは波長が合いました。会社の垣根を超えて本音をぶつけることができる。日々刺激を受けあい切磋琢磨することが、新しい『メトロイド』を未知の領域に誘いました。『METROID:Other M(仮題)』をシリーズ最高の作品にするということで、我々は限りなく対等でした」(坂本)。
 Team NINJAのすばらしさを語るうえで、操作方法に関する決定的なエピソードがあると坂本氏は言う。『METROID:Other M(仮題)』の開発にあたっては、坂本氏のなかで絶対に曲げることのできない決定事項があった。それは「Wiiリモコンだけでサムスを操作すること」(坂本)。やはり『メトロイド』シリーズは、十字キーとジャンプ、攻撃の3種類のボタンしかあり得ないと坂本氏は思ったのだ。十字キーだと当然3D空間を自由に移動することはできないが、「縦横のパスだけで進めようとしていました。カメラアングルを操作すれば迫力のある映像も実現できるだろうと思っていたんです」(坂本)というのだ。そのため、「ヌンチャクコントローラーを採用してはどうか?」というTeam NINJAの提案も断固として突っぱねたという。ところがその後、Team NINJAはフル3Dの空間を十字キーで移動するという提案をしてきたのだという。「そんなことが実現できたら歓迎したいが、それができるならなぜほかでやっていないのか?」と半ば半信半疑でゴーサインを出した坂本氏は、操作方法を試す機会になって、その動きの完璧さに驚いたという。「横持ちで2Dライクな動きプラスポインティングビューという理想の操作感覚が実現しました。早矢仕さんはこのスタイルを“最新技術を使ったファミコンゲーム”と名づけました」(坂本)なのだという。
 そのほか『METROID:Other M(仮題)』では、映像を手がけるD-Rocketsの北裏龍次監督や、音楽を担当する配島邦明氏など豪華スタッフが集結。坂本氏たちはこのチームを“プロジェクトM”と名づけているという。「会社の枠を乗り越えてハーモニーを奏でていくのはバンドのようですね。我々が紡ぎ出す“音”を皆さんにお届けできるのを楽しみにしております」(坂本)。

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▲刺激的だというTeam NINJAとのコラボレーション(左)。北裏監督のあげてくる絵コンテは自分の想像を遥かに上回ったとか(中央)。会社の垣根を超えての豪華クリエーターが集結した“プロジェクトM”。


 最後に坂本氏は、講演のまとめとしてこう切り出した。「ゲーム開発はイメージを形にすることです。映画や音楽であったり、人やモノであったり、自分はいろいろなものに出会ってきました。美しいものやすばらしいものに触れたとき、楽しさや喜びを感じたとき、恐ろしさや悲しさを感じたとき、いろんな出会いによって自分は心を動かされてきました。そうした心の動きが個々のイメージを形作るのだと思います。ゲームを開発する立場の者は、自分が感じたり、心を動かされたことをわかりやすいものに置き換える、つまり自分のイメージを他人に伝えるのが、その使命なのだと私は思っています」(坂本)。

 当時ファミコンもなかった時代に任天堂に入社した坂本氏は、成り行きでゲームを作ることになり、性に合っていたのか、熱心にゲームを作ったという。「子どもが新しいおもちゃを与えられて夢中になるような感覚」(坂本)で。ところが、坂本氏は数年後にある女性ファンから、「『ファミコン探偵倶楽部』がよかったのでチョコを送りました」とメッセージを添えられたバレンタインチョコをもらって、「感激よりも衝撃が走りました」(坂本)という。「自分たちの作っているものは、人の心を動かしているんだということに恥ずかしながら初めて気づいたんです。坂本が責任感とプロ意識に目覚めた瞬間です」(坂本)。これを機に坂本氏は、遊ぶ人の顔をイメージしてからゲームを作るようになったという。そして最後に坂本氏は、聴講者であるゲーム開発者に向かってこう語りかけた。

 「自分のゲームを遊んでくれる人のいちばんよい顔のために、私はこれからも努力していきます。ぜひ、皆様の心に蓄積された美しいものや楽しいものを、ゲームを愛する方々に伝え続けてください。そうすればゲームは永遠に続いていくと私は信じておりますので」(坂本)

 講演が終わって坂本氏が壇上から降りても、しばらく拍手が鳴り止まなかった。それだけ聴講者にとっては示唆に富む有意義な講演だったようだ。あるいはそれは、坂本氏が講演においても、“ムード、間、コントラスト、伏線”を駆使した成果だったのかもしれない……。

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