HOME> ゲーム> さまざまなチャレンジに満ちた意欲作 『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル クリスタルベアラー』
●これまでの『FF』とも『FFCC』とも違う、新たな『FF』
『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』シリーズの最新作としてWiiでリリースされた『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル クリスタルベアラー』。シリーズおなじみの壮大な物語の中に、システム面、演出面において、さまざまなチャレンジを施し、新たな『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』を形作った作品である。そんな同作を、『ファイナルファンタジー』シリーズ大好きライター、世界三大三代川がプレイ。新たな様相を見せる『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』シリーズ最新作について、その印象を語ってもらった。
●『FFCC』のお約束を踏襲しない『FFCC』
“河津さんらしい作品”。ゲームをプレイしている最中にそう思った。だが、そう書くとなんだか誤解を招きそうな気もする。“河津さん”とは、『魔界塔士サ・ガ』や『ロマンシング
サ・ガ』などの『サガ』シリーズを生み出した河津秋敏氏のこと。河津さんと言えば、非常に歯応えのあるゲームを作ることで有名で、何度も辛酸を舐めさせられたプレイヤーが、途中でゲームを投げ出してしまうこともしばしば。だが、その容赦なくプレイヤーを追い詰めるバランスこそ、やりがいのあるゲームだと信じる人々にとっては、“河津神”というあだ名がつくほど、人気の高いクリエイターである。だが、今回の“河津さんらしさ”とはその難度ではない。むしろ、本作で難しいと感じる場面は少なく、その点においては河津さんらしくない(失礼)ゲームである。
では、何が河津さんらしいのか。それは、このゲームが、いままでの『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)とはまったく異なる、独特のゆるさを持つ点である。 『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル
クリスタルベアラー』は、2003年にゲームキューブで発売された、新たな『FF』シリーズ『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』(以下、『FFCC』)シリーズの最新作。『FFCC』シリーズとは、クラヴァット、リルティ、セルキー、ユークの4つの種族が住む世界を描いた作品で、非常にかわいらしいグラフィック(ストーリーは意外とシリアスだが)と、複数人で遊べるマルチプレイが特徴のシリーズである。だが、『FFCC
クリスタルベアラー』はそのどれにも該当しない。プレイ人数はひとり(ふたり目のプレイヤーがゲームに関与することはできる)で、世界設定はユーク族が消滅した時代、しかもかわいらしさよりもカッコよさを感じる、ハリウッド映画のような物語である。
主人公は、金髪青年のレイル。彼はつねに前向きで、クヨクヨと悩んだりせず、困難にみずから立ち向かっていくアクション映画の主人公のような性格。物語の目的は、レイルがひょんなことから巻き込まれた事件をきっかけに、滅んだはずのユーク族を追っていくというものだが、これがテンポよく物語が進むため、ついついさきの展開が気になってしまう。そんなレイルは、人と異なる特別な力を持つ。それは引力を自在に操る力。そして、そういった特別な力を持つ者を、この世界では“クリスタルベアラー”と呼ぶ。
●アドベンチャーらしい新バトル
クリスタルベアラーのレイルは、敵と戦う方法も非常に特徴的。引力で敵を引っ張って床に転ばせたり、敵を持ち上げて別の敵にぶつけたり。引力を操る力で敵にダメージを与えていく。Wiiリモコンで敵をポインティングして捕まえ、Wiiリモコンを振ったほうに敵が吹っ飛んだり、持ち上げられたりするのだが、これがまた気持ちいい。意味なくモンスターを持ち上げたくなるほどだ。だが、それはあくまで基本中の基本。本作では、モンスターがAIで制御されており、レイルの取った行動に応じてさまざまな反応を見せるのだ。
たとえば、1体のモンスターを強引に持ち上げると、そのモンスターを助けようとワラワラ寄ってくる者もいれば、逆に一斉に逃げだすようなモンスターもいる。もっと詳しい行動を一例で出すと、スケルトンを転ばせると、頭蓋骨が飛んで行き、周囲にいる犬型のモンスターがその頭蓋骨を追いかけ回す。そしてスケルトンがそれを追うという、まるで4コママンガのような光景が描かれるのだ。だからこそ、本作のバトルはただ敵を引っ張り、持ち上げ、敵を倒すことを目的にするよりは、「この行動を取ったらどうなるだろう?」という反応を楽しみ、その敵と敵とのあいだに起こるストーリーを自分の中で補足するような、アドベンチャーゲームらしいものに感じられる。事実、敵を攻撃したり、街に入ったりすると、それぞれの解説が画面下部に流れ出すのだが、それはただプレイしているだけではわからない裏設定が書かれた内容になっている。それを読んだうえでモンスターと対峙すれば、「こいつもいろいろあるんだなあ」と感慨深くならずにはいられないのである。
なお、この引力を扱う能力はバトルだけで使うものではない。街中で住人に使ったり、あたりに置いてある物体を投げたりということもできるのだ。それによっていいことをすれば住人から好かれるが、悪いことをすれば衛兵からボコボコに蹴っ飛ばされるような嫌われ者にもなる。これらの反応には勲章が設定されているものが多く、それを観ることで勲章が獲得できるので、コレクション要素が好きな人には非常に長く楽しめる要素になっている。個人的には、住人を吹っ飛ばしてお金を落とさせるというセコいお金稼ぎに使うことがメインになっていたが。
●河津氏が魅せる新たな『FF』のカタチ
そして、本作のもうひとつの大きな特徴が、イベント中に突如挿入される、プレイヤーが関与するシーン。RPGのイベントシーンと言えば、ストーリーを楽しむために“観る”シーンが多いが、本作では突然、Wiiリモコンを使った操作が要求される。非常に使い古された言葉だが、わかりやすく言えば“触れる映画”である。これを“プレイアブルイベント”と呼ぶのだが、この手のイベントに介入できるゲームでは、操作を失敗した場合、もう一度イベントをやり直しになることが多い。しかし、本作ではいくらミスをしてもやり直しになることはほとんどなく、そのままゲームが進んでいく。これまでの河津さんへのインタビューによれば、これは誰でもクリアーできるようにしたかったという意思の現れなのだが、これが、いい意味でとてもゆるいゲームになっている。そしてこのゆるさこそ、冒頭に感じた河津さんらしい部分につながっているのだ。
これまで、『FF』シリーズは当然のこと、『FFCC』シリーズにも、バトルは敵との戦いを楽しむもので、敵の反応を見るのが楽しいというものではない(『小さな王様と約束の国
FFCC』と、『光と闇の姫君と世界征服の塔 FFCC』のバトルは意味合いが異なるので割愛)。ましてや、重要なイベントシーンに挿入される、プレイヤーが操作する場面でミスしてもいいなんていうことは、そうそうなかったはずだ。この、これまでの流れを断ち切るような革新を感じたとき、「ああ、『サガ』と同じだなあ」ということを感じたのだ。
ご存知のとおり『サガ』は『FF』以上に作品ごとにシステムを変える作品。あまりの尖った変化にユーザーが戸惑いを覚えることすらあるほどだ。そんな作品を生み出してきた河津さんは、みずから関わった『FF』を『FFCC』に変え、『FFCC』すら新たなものにしようとしているのだろう。みんなで楽しむマルチプレイだった『FFCC』から、みんなで反応を見て楽しむ作品になった『FFCC
クリスタルベアラー』。アクション映画の主人公のようなレイル、つぎつぎとさきの展開が気になるように作られたストーリー、そしてプレイヤーが介入できるイベント。そこに、モンスターや住人の反応を見るようなシステムが組み合わさったとき、まったく新しい『FF』が見えてくる。この新たな『FF』が、このさきどうなっていくのかはわからない。だが、本作をプレイすれば、きっと河津さんのチャレンジ精神が味わえるとともに、もし同じタイプの続編を作ることがあっても、河津さんがまた大きく変えるんだろうなあという、脈々と受け継がれる変革の心を感じるはずだ。
追伸。ちなみに、本作の音楽はハードロックあり、カントリーあり、サーフロックありと、非常に『FF』らしくないどころか、ゲームミュージックらしくないものに仕上がっている(もちろん『FF』らしい壮大な曲もある)。どれもメロディー、テンポともにいいため、敵の反応を探りながら堪能するのに、非常によかったことをつけ加えておく。サントラ欲しいな。なーんて思っていたら、2009年12月9日にサントラが発売されるそうで。音楽が好きな方は、一度チェックしてみるといいかと。
text by 世界三大三代川
著者紹介 |
週刊ファミ通編集部出身のフリーライター。『FFCC』シリーズはすべてプレイしており、キャラクターメイキングがある場合は、必ずユーク族を選択。それだけにユーク族が滅んだ設定を知ったときには、大層なショックを受けた。 |
ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル クリスタルベアラー
機種:Wii
メーカー:スクウェア・エニックス
発売日:発売中(2009年11月12日)
価格:7340円[税込]
テイスト/ジャンル:ファンタジー/アクション、アドベンチャー
備考:プロデューサー/シナリオ:河津秋敏、ディレクター/キャラクターデザイン:板鼻利幸、ミュージック/アレンジメント:岩崎英則
※『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル
クリスタルベアラー』公式サイトはこちら
【プレイ・インプレッション】の関連記事
- 爽快感やゲーム性など、あらゆる面でレベルの高いアクション『NINETY-NINE NIGHTS II(ナインティナイン ナイツII)』インプレッション - 更新日時:2010年7月30日
- 萌え要素とミステリーの融合による独特の世界を創り上げた『メモリーズオフ ゆびきりの記憶』インプレッション - 更新日時:2010年7月29日
- 新たなジャンルのアドベンチャーゲーム『TRICK×LOGIC(トリックロジック)』 - 更新日時:2010年7月22日
- 良質な舞台を観終わったあとの余韻を漂わせる良質な娯楽作『ゴースト トリック』インプレッション - 更新日時:2010年7月7日
- 自由度の高い幅広い遊びかたがうれしい『ライオットアクト 2』インプレッション - 更新日時:2010年7月6日
- 他作品とは一線を画するオリジナリティーが魅力『ジャストコーズ2』インプレッション - 更新日時:2010年6月12日
- クラブ作りだけでは終わらない『サカつくDS 2010』の魅力 - 更新日時:2010年6月9日
- Xbox 360版『MHF』クローズドベータテストプレイ・インプレッション! - 更新日時:2010年6月1日
- 光源を巧みに活かした独特の演出が秀逸、『アラン ウェイク』インプレッション - 更新日時:2010年5月31日
- 日本発、アクション・シューティングの金字塔『ロスト プラネット 2』インプレッション - 更新日時:2010年5月25日
この記事の個別URL
ソーシャルブックマーク |
評価の高いゲームソフト(みんなのクロスレビュー) |
※ ブログ・レビューの投稿はこちら!(ブログの使い方) |
その他のニュース

『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』PC版が海外で発表。ハイエンドPCからポータブルゲーミングPCまで幅広く対応予定
アクションアドベンチャーゲーム『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』のPC版が海外で発表された。

『ロードス島戦記 灰色の魔女』(X68000版)が“プロジェクトEGG”にて配信開始。キャラクターを6人作ってパーティを編成するRPG
D4エンタープライズは、レトロゲーム配信サービス『プロジェクトEGG』にて、『ロードス島戦記 灰色の魔女』(X68000版)を2023年5月30日より配信した。

映画『ハリー・ポッターと賢者の石』全国の4D劇場、ドルビーシネマにて7/7より上映。ユナイテッド・シネマとしまえんではシリーズ8作品を期間ごとに上映
ワーナー ブラザース ジャパンは、ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 ‐ メイキング・オブ・ハリー・ポッターのオープンを記念して、2023年7月7日(金)より全国の4D劇場、ドルビーシネマ(一部劇場を除く)にて『ハリー・ポッターと賢者の石』を記念上映する。『ホグワーツ・レガシー』にハマった人も、劇場に足を運んでみてはいかが?

『スペースインベーダー』45周年を記念したプルーフ金貨が49万4780円[税込]で発売。最高品位.9999の純金を使用、限定100点
インペリアル・エンタープライズは、『スペースインベーダー』の誕生45周年を記念して、“スペースインベーダー45周年 公式記念プルーフ金貨”をPREMICOオンラインショップで販売する。

PS5/Xbox Series X|S『Company of Heroes 3』本日(5/30)発売。CS向けに調整されたUIや新システムを語る開発者インタビュー映像公開
セガは、プレイステーション5版『Company of Heroes 3』を2023年5月30日(火)に発売した。

『サイレントヒル Ascension』不気味なクリーチャー多数登場の新トレーラー公開。ともにトラウマに立ち向かい、恐怖を克服せよ
Genvid Entertainmentとコナミデジタルエンタテインメントは、『SILENT HILL: Ascension』の新トレーラーを公開した。

【アニポケ】第1話『ポケモン!きみにきめた!』公式YouTubeチャンネルで本日(5/30)公開。今後もサトシとピカチュウの厳選されたエピソードを順次配信
アニメ『ポケットモンスター』第1話『ポケモン!きみにきめた!』が公式YouTubeチャンネルで本日2023年5月30日より公開された。

『MGS3』リメイク&『MGS』1〜3作がセットになった移植作品が発売決定! 収録作を振り返りつつ中身を紹介【先出し週刊ファミ通】
週刊ファミ通2023年6月15日号(No.1800/2023年6月1日発売)では『メタルギア ソリッド デルタ: スネークイーター』と『メタルギア ソリッド: マスターコレクション Vol.1 』の情報を掲載!

アニメ『ブリーチ 千年血戦篇』×ユニクロのTシャツが8月上旬に発売。一護をはじめ、零番隊、護廷十三隊などがデザインされた全5種【UT】
アニメ『ブリーチ 千年血戦篇』とユニクロコラボTシャツが8月上旬に発売予定。主人公、一護をはじめ、零番隊、護廷十三隊などがクールにデザインされている。

カプコンはまもなく(6月11日)創業40周年。記念に40年の軌跡を全18ページで総力特集【先出し週刊ファミ通】
週刊ファミ通2023年6月15日号(No.1800/2023年6月1日発売)ではカプコン40周年を記念した特集“CAPCOM40年の歩み”を全18ページで掲載。40年のあいだにカプコンからリリースされた作品を年表とともに振り返り、今後発売される期待のカプコン作品をピックアップして紹介する。