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セガ名越氏が語る『龍が如く』とゲーム倫理の問題

2009/10/13

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●トークイベント“劇的3時間SHOW”に名越稔洋氏が出演

 2009年10月12日に都内で、JAPAN国際コンテンツフェスティバル2009のオリジナルイベント“劇的3時間SHOW-10人のコンテンツプロフェッショナルが語る-”の1コマとしてセガの名越稔洋氏がトークイベントを行った。劇的3時間SHOWは、1日1名ずつクリエーターが登場し、自身の成功体験やコンテンツ観などを3時間に渡って語り尽くすというもの。名越氏は、ゲームクリエーターになった経緯や、代表作『龍が如く』の制作背景、そして現在のゲーム業界について思うことを熱く語った。

 

 「まず最初に、日々思っていることから話します」と前置きしてトークを始めた名越氏。始めに語られたのは、ゲームの歴史についてだ。ゲームが産業として広く認知されたのはファミコンブームからだと考えると、ゲーム産業の歴史は約20年。いまでは映画と肩を並べる産業となったが、かたや映画が1世紀以上の歴史を持っているのに対し、ゲームの歴史は四半世紀に満たない。その点から、「ゲームはまだ過渡期というよりも創成期」だと名越氏は言う。かつて、映画産業にもさまざまな問題が提起され、議論があったはず。「でも、ゲームは技術の進歩が速く、変化が猛スピードで起きてしまった。産業ばかりが成長してしまって、議論がされてきていないんじゃないかと思うんです。言ってみれば、頭でっかちの逆で“体でっかち”になってしまっているんじゃないか、と」(名越)。この名越氏の危惧が、今回のトークイベントのメインテーマ。さまざまな話題を出しながら、名越氏は議論すべき問題を提起していった。 
 

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 前振りに続けて、名越氏がゲームクリエーターになった経緯が語られた。幼少時代は家が相当な貧乏だったという名越氏。『ホームレス中学生』を読んで「こんなの余裕だと思った」ほど、たいへんな生活だったようだ。当然、高校には行かせられないと言われ、働きながら高校に通った。そして高校卒業後は、映画を学ぶために上京し、美大へと通い始める。

 

 「当時は、映画の3本立て上映なんていうのがやっていたんですよ。しかも、いまのように完全入れ替え制ではないから、1日中映画館にこもって何度もくり返し映画を観ることができたんです。海外なんて行ったこともなかったけれど、僕は洋画を観て知らない土地のことを知り、そこで癒されていたんですね。だから、自分でも映画を作りたいと思いました。そのためにどうすればいいのかを調べたところ、映画の作り手には美大の出身が多いらしい。そこで山口の田舎から東京に出て、働きながら受験の準備をして美大へと進んだんです」(名越)

 

 大学で念願だった映画を勉強し、やがて就職活動をする時期に。当時はバブル真っ盛りだったが、映画と言えばハリウッドの時代。映画産業には就職先がなく、あるのはテレビ番組のアシスタントディレクターか、アダルトビデオの監督ばかりだった。名越氏が将来について思い悩んでいると、「何人かいる人生の恩人のひとり、当時つき合っていた彼女に「好きなことをやればいいんじゃない」と言われたんです」(名越)。その彼女は、名越氏にファミコンと『スーパーマリオブラザーズ』のソフトを買ってくれた人でもある。お金がなくてほかのソフトを遊ぶことはできなかったが、『スーパーマリオブラザーズ』だけは何万回とプレイし、しまいには目をつぶっていてもクリアーできるほどになっていたという。名越氏は、目標だった映画には手が届かないが、目標に近いけれど好きじゃないことをするくらいなら、純粋に好きなことをしよう、と決意。ゲーム業界に職を求めたのだそうだ。

 

 とは言っても、当時はゲーム業界について何の情報も出回っていない。名越氏が知っているのは『スーパーマリオブラザーズ』だけ。仕方なく、ソフトのパッケージを見て任天堂に電話をかけた。市外局番が都内を表す“03”でないことに違和感があったが、京都にあるのはただの工場だろうと思って……。じつは名越氏、ゲーム業界で働きたいのと同時に東京で働きたいという気持ちが強かったのだそうだ。電話で面接について聞いているうち、勤務地が京都であることが判明。任天堂は面接を受けるまでもなく、みずから断念してしまったという。つぎに電話をかけたのが、セガ。家庭用ゲームのメーカーは任天堂以外知らなかったが、ゲームセンターでセガのゲームを遊んだことがあったからだ。そこで即採用され、晴れてゲーム業界入り。しかし、PCに触ったことすらなかったため、当初はただただ戸惑うばかりだったという。

 

 「でも、最初に決めたことがあったんです。それは、“わからないなら、疑問をすべて受け入れよう”ということ。どんなに疑問を持っても、YESマンです。とりあえず、やれと言われたことをやってみる。だから、当時は会社にいちばん始めに来て電気をつけて、最後に電気を消して帰っていました。1日16時間くらい働いていましたね。そのがんばりが認められて、少しずつ仕事を任されるようになって……。半年後に、自分が作ったキャラクターがモニターに出たときは涙が出ました。それが、この仕事っていいかも、って思えた瞬間。その後、デザインのリーダーになって、新たに人とのコミュニケーションを学んだりして、入社から7、8年経つまでずーっと新鮮な気持ちでやっていました。まったく飽きることはなかったですね」(名越)

 

 飽きがこなかった理由のひとつは、「つねに技術が書き換えられていったから」(名越)。トークはここから、技術の進歩とゲーム業界が抱える問題へと広がっていった。ゲーム産業はこれまで、現行ハードでできる最上級のソフトを作ったと思えば、すぐにつぎのハードが出るというくり返しだった。どんどん技術が進歩していき、挑戦できる範囲は広がる一方。技術の進歩とは、“数が上がること”だと名越氏は言う。出せる色が増えたり、スピードが上がったり、技術の進歩によって何らかの数値が上がる。「でも、その増えたものがゲームのおもしろさにつながらないと意味がないんです。増加分をどこに使うのか、それが僕たちゲームクリエーターが考えるべきことだと思っています」(名越)。たとえば、ドライブゲーム。技術が上がることで道路に表示される白線が増えると、よりスピード感が出せるようになる。ただ映像がきれいになったのではなく、ゲーム性も上がっているわけだ。しかし、「最近のゲームでは技術が進歩したことでゲーム性が上がっていないことも多い」と指摘。実写と見間違うようなきれいな映像を売りにするドライブゲームがあるが、実写に近いからおもしろいわけではないとみずからの考えを述べた。

 

 けれど、技術の進歩をどこに使うべきか、明確な答えがあるわけではない。「わからないなら、行き着くところまで行き着けばいい」というのが名越氏の考えだ。

 

 「人殺しでも何でもできてしまう『グランド・セフト・オート』というゲームがありますが、これもひとつの行き着いた先。このゲームは、誰かがいつか作らないといけないものだったと思っています。僕自身は、ゲームが人に与える影響というものをきちんと考えたいので、こういうゲームを作りたいとはけっして思わない。でも、このゲームにあるような倫理の問題については、きちんと議論をしていかなければいけないと思っています。ゲームはみずから入力をして反応が返ってくる、いちばん刺激的なメディアだと思います。では、いちばん危険なメディアなのかと問われると……作りようによってはそうかもしれません。だけど、危険だから表現のハードルを下げるべきかと言われると、ちょっと納得できないんです」(名越)

 

 名越氏自身、『龍が如く』シリーズを作る際には、現代劇だからNGとされた表現があったという。しかし、過去や未来を舞台にしていれば同じ表現がOKに。あるいは、キャラクターものでもOKなのだそうだ。「たとえば、ピカチュウが血をダラダラ流してもOKになるんですよ。けど、それっておかしいですよね? 子供は絶対に泣きますよね?」と、熱く客席に問いかけた名越氏。「僕はゲームはインタラクティブだからこその感動があると思っていますし、倫理の問題についてはきちんと議論をしたい。機会があれば業界内でそういう発言をしていきたいと思いますので、皆さんも何か思うことがあればぜひ投書でも何でも声を出していただければと思います」と呼びかけた。

 

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 上記の倫理の問題と名越氏が深く関わることになった背景には、『龍が如く』シリーズを制作したことがあるだろう。名越氏は、この作品が生まれたきっかけを「売れ筋の作品をなぞってマスを取ろうとするばかりの業界の風潮にイライラしていたから」と説明。ゲームの多様性がどんどんなくなっている状況の中で、「だったら、ワールドワイドはいらない。女はわからなくていい。子供は触るな。とにかくニッチだけど、濃いものを作ろう」と思ったのだという。もちろん、国内にターゲットを絞ってはいるが、海外にまったく目を向けていないわけではない。「ただ、海外の真似をしても仕方がない。日本人には日本人の感性があるんだから、メイドインジャパンは削らずに世界に出ていきたいと僕は思っています」(名越)。そうして名越氏は『龍が如く』を作ろうと腹を括って“攻め”に出たが、当初は社内でも否定の声ばかりだった。いまでこそ大ヒットシリーズとなったが、『龍が如く』は最初のプレゼンで落とされていたのだそう。「でも、大ヒットになった作品って最初は否定されるものなんですよね。あの『甲虫王者ムシキング』だって3回もプレゼンに落ちて、最後はプロデューサーが号泣して通ったくらい(笑)」(名越)。

 

 『龍が如く』が否定された理由は、やはり裏社会を描くという倫理の問題が大きかったそうだ。しかし、名越氏はそれに納得せず、「その問題はやっていく中で解決していくこと」と思っていた。それでも、経営陣だけでなくスタッフにも否定されたことはやはり辛かったという。なかには「子供ができたので、こういう作品は作れない」と言われたこともあったとか。けれど名越氏は、「やるなら正々堂々と、ド真ん中でやろう」と考えた。そのために当時のナンバーワンプラットフォームだったプレイステーション2で出し、宣伝費もきちんとかけ、王道を目指したのだという。

 

 また、『龍が如く』の特徴のひとつであるタレントのタイアップについても、名越氏なりの明確な考えが明かされた。『龍が如く』以前は、タレントを起用することはあっても「ゲームにタレントという引きは必要ないとされていた」という。しかし、ゲームが産業として成熟するにつれてメジャーな方向へ向かうのは必然だと名越氏は考えた。「映画でもドラマでも、誰が出演しているか、タレントで選ぶでしょう。ゲームだってそうなるべきだと思ったんです」ときっぱり。シリーズは最新作『龍が如く4 伝説を継ぐもの』(プレイステーション3向けに2010年春発売予定)で5作品目となるが、タレント側から「出てみたかった」と言われることも増えてきたそう。「1作目から5年かけて、やっとここまできました」と名越氏は感慨深そうに語った。

 

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 トークイベントは休憩を挟んで3時間に及び、名越氏は仕事観やゲーム観について時に脱線しながら熱く熱く語った。ここではとてもすべてを書ききることはできないが、ひとつ気になる発言を紹介しよう。来場者の質問に答えるコーナーで、「勧善懲悪をどう思いますか?」という質問に返答。「僕は勧善懲悪が好きなんですが、ゲームの表現においては別のものがあってもいいと思います。エンディングで考えさせるような、ね。まだ何とは言えないですが、いま個人的にそういう作品にトライしていますよ。いつか、「これのことを言っていたのか」と思ってもらえると思います」と、次回作について言及したのだ。

 

 名越氏は最後にもう一度、倫理の問題に触れて以下のようにトークを締めくくった。

 

 「先日、『フジテレビ開局50周年記念 記録よりも記憶に残るフジテレビの笑う50年』という番組がやっていたんですね。その中で昔のお笑い番組のリプレイがたくさん流れたんですが、それを観たナインティナインの岡村さんがこんなことを話していたんです。かつてのお笑いは、危険なこともエロいことも含めてめちゃくちゃやっていた。でもいまは、イジメのきっかけになると言われるから同じことはできないんだ、と。芸人が芸人をいじる芸や罰ゲームが、イジメの手段として使われる、イジメを助長している、と言われてしまうんだそうです。そこで岡村さんは、僕には涙ぐんでいるように見えたんですが、そういうつもりでお笑いを作っているわけではない、と言ったんです。むしろいじめられている子が土曜の夜にお笑いを見て、芸人がいじられている様子を笑い飛ばしてストレス発散してくれればと思って作っている、と。その言葉に僕はものすごく感動したんですね。ゲームも同じように悪く言われがちです。何か事件が起こると、その容疑者がプレイしていたゲームが報道され、ゲームの影響だと言われる。でもそう言われてしまうのは、僕たち業界人が責任を果たしていないからだと思うんですよね。いつまでゲームを作り続けているかはわかりませんが、僕だけでも業界内で果たせる役目があるんじゃないか、それを考えていきたいと思います」(名越)


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※第35回:命がけの『龍が如く3』Tシャツ撮影……


 

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