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3D『マリオ』の歴史がここに! 小泉歓晃氏基調講演(その2)
モントリオールインターナショナルゲームサミット2007

2007/11/29

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●誇りを持って進もう!

 

 2003年に東京制作部に配属となった小泉氏は、ゲームキューブ用ソフト『ドンキーコング ジャングルビート』の制作に着手する。このソフトは2003年に発売されたゲームキューブ用リズムアクションゲーム『ドンキーコンガ』に使われていた”タルコンガ”というコントローラーを、アクションゲーム用のコントローラーとして使用したエポックメイキングな作品だった。『ジャングルビート』をプレイするうえで使うボタンはたったの3つ。十字キーすら使用しない。アクションゲームをプレイするにはあまりにも少ないボタンの数だが、これをどう処理したのか?

 

 ここで考案されたのが”バインド処理”という、敵に近づくと画面がズームアップし、移動に使っていたボタンを攻撃用に変える手法だ。これにより、じつにシンプルで体感的な操作が実現。しかし、と小泉は述懐する。

 

 「これまでのアクションゲームになかった操作方法のため、戸惑ってしまう人もでてきてしまうでしょう。なので考えました。”思わず叩きたくなるものを作ろう”と。ここで僕は思い出したんです。『スーパーマリオ64』を作っていたころから心にあった、”サプライズとイージープレイ”という言葉を。作り手の心配りしだいで、ユーザーが触ってくれるかどうかが決まる。僕らに”近道”というものはないんです!」

 

 『ジャングルビート』はけっきょく、遊んでいる姿が本当に楽しそうなゲームに仕上がった。そばで見ている家族や友人が、思わず笑みを浮かべてしまうほどに。「でも笑みをとおりこして爆笑するくらいになって、さらには熱中するあまり”叩く音がうるさい!”なんて言われることも(苦笑)」と小泉氏はテレ笑いを浮かべるが、この『ジャングルビート』の”そばにいる人に嫌われないゲーム”という在り方は、のちに「Wiiのハードコンセプトにつながった」と宮本茂氏に言わしめるほどの存在感を放った。

 

 そして2005年。小泉氏は封印していた3D版の『マリオ』の企画に挑む。対応ハードはWiiで、企画名は”スーパーマリオレボリューション(仮)”といった。コンセプトは”球状の地形で遊ぶ『マリオ』”。これは宮本氏から見ても、5年間あたためていた企画だったという。そう、のちの『スーパーマリオギャラクシー』だ。
 

▲『スーパーマリオギャラクシー』の貴重な企画書。球状の地形で遊ばせたい、という思いが、その表紙のイラストからも伝わってくる。


 ではなぜ、球状の地形で遊ばせようと思ったのか。小泉氏は球状地形の利点を「3Dの箱庭だと、まっすぐ進んでいけばいつか必ず、物理的に壁にぶつかる。ところが地形が球になっていればどこまで行っても壁はない」と説明。世界の果てがなくなることによって、道に迷うことがなくなり、さらにカメラ操作も排除して”プレイの複雑化”から脱却できるかもしれない……。小泉氏は腹をくくった。カメラを意識しないで遊べるように心配りをすることに専念しよう、と。「長かったが、ひとつの方向性を得ることができました」。

 

 そして考案されたのが”プラネットカメラ”という技法だ。球状地形にいるプレイヤーキャラクターを俯瞰して見る視点のカメラで、これにより3D酔いや道に迷うという3Dゲームならではの弊害を取り除くことに成功。ゲーム制作は一気に加速する。まずアクションの部分で、マリオに”スピンアクション”をさせることを考案。Wiiリモコンを振ることでマリオが回転し、敵を攻撃したり、物を飛ばしたりすることができるものだが、これを導入したことにより、3Dだとどうしても踏みにくかったクリボー(に代表される敵キャラ)にも、戸惑うことなく攻撃することができるようになった。もうひとつ入れた新要素、”スターポインター”は、ステージに出てくる青い星をポイントすると、一瞬の無重力感覚を与えるというもの。このシンプルで体感的な操作は、「『ジャングルビート』の経験から生まれたものです」と小泉氏は胸を張る。
 

▲プレイヤーに過度なカメラ操作をさせたくない、という思いから誕生した”プラネットカメラ”という技法。


 さらに小泉氏は”家族といっしょにゲームを遊ばせたい”という、『ジャングルビート』のときに得た手ごたえを『スーパーマリオギャラクシー』にも入れ込みたいと思い、”アシストプレイ”というプレイ方法を導入した。Wiiリモコンがもうひとつあればふたり協力プレイができるというものだが、ここで小泉氏は任天堂の女性社員をステージに招き、「アシストプレイは本当に楽しいので、ぜひ、ご家族だけではなく恋人とも遊んでほしいんです。かっこいいところ、見せられますよ」とニヤリと笑い、実際にふたりで『スーパーマリオギャラクシー』のアシストプレイを実演してみせた。コミカルなマリオの動きと、懸命に女性をアシストする小泉氏の姿に、会場からは爆笑や喝采が沸き起こる。そして1度は失敗したものの再チャレンジで見事、ボス敵を攻略して、来場者から割れんばかりの拍手が贈られた。
 

▲一度は失敗したものの、二度目のチャレンジで見事、ボスを倒したおふたり。安堵の表情が印象的。


 「奥行き、迷い、3D酔い、操作の複雑化という問題を真正面から捉え、家族と楽しめるものをという思い突き詰めたのが、この『スーパーマリオギャラクシー』です。ご家族や恋人とぜひいっしょに楽しんでください」(小泉)

 

 そして、講演はいよいよフィナーレへ。ここから、会場を埋め尽くしたゲーム制作者へ向けた小泉氏のメッセージがあまりにも印象的だったので、言葉をそのまま掲載したいと思う。

 

 「『スーパーマリオギャラクシー』はひとつのグッドアイデアから生まれたのではなくて、13年に及ぶチャレンジから生み出た多くのアイデアから成り立っていると言えます。冒頭、ロードムービーと言いましたけど、私にとってこのゲームは、長い旅の中で苦楽をともにした、宮本をはじめとするたくさんの頼もしいスタッフたちとのエピソードを綴った1本の映画のようなものです。では、”旅は終わりなのか”と聞かれると、目的地はまだまだ先だと思っています。『ギャラクシー』には、まだ可能性で止まっているもの、新たに発見できたアイデアもたくさんあります。これをもとに、つぎの目的地を定めて旅は続くわけです。東京に戻ったらスタッフと、つぎの旅の目標をどこにしようかと、考えたいと思います。さあ、ギャラクシーのつぎは、どこなんでしょうかね……?
  最後に、ここにいらっしゃる皆さんも、私と同じ、ゲーム開発という長い長い旅に魅せられた人たちだと思います。長い旅ですから、もちろんいいことばかりじゃないでしょう。アイデアに頭を悩ませたり、人間関係に悩むこともあるはずです。

 立ち止まったとき、皆さんはそこで何をしますか?

 私は選択肢をできるだけ増やす努力をしています。ひとりでできなかったら、誰かの手を借りても、ひとつでも増やす努力をします。

 そして選んだ道は、楽しみながら進むことにしています。ひょっとしたら坂道かもしれないし、回り道かもしれない。それでも誇りを持って、楽しみながら進むんです。

 現在、旅の途中の方、これから旅に出られる方もいるかと思います。ぜひ、旅を楽しんでください。楽しんで作られたゲームは必ず楽しいものとなって、お客さんに届くと信じています。

 それでは皆さん、よい旅を!」

 

 小泉氏の熱い熱いメッセージに、来場者は感動のスタンディングオベーションで応えた。会場の拍手は、いつまでも鳴り止むことはなかった。

 

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