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Text:永田泰大(週刊ファミ通編集委員)





 長いあいだ個人的なことを書き連ねてきたけれど、最後の最後にもっとも個人的なことを書いてしまうように思う。過去の日記は個人的なことを書きつつも、誰かがどこかで共感してくれるだろうと思って書いていた。「それって僕だけなのかな」と書くときは、「僕だけじゃないでしょ?」というつもりで書いていた。そしてやはりときどき「共感しました」という反響があって、僕はその声に支えられるように個人的なことを書き連ねてきた。

 でも、今日はかなり乱暴なことを書く。共感したくとも共感しようがないような、本当に個人的にすぎることを書く。最後の最後で後味が悪くなってしまったらごめんなさい。毎度話が進まないね、最後まで。

 もちろん『ドラゴンクエストVII』についての話だ。

 ゲームを終えてから数日。人からよく「『ドラクエVII』はどうだった?」と聞かれる。それで僕は少し困ってしまう。その質問に対して僕が僕の気持ちを正確に答えるとすると、その質問の前提を少し変えなければならないだろうと思うからだ。しかし、質問する人はたぶんそんなややこしい答えを聞きたいわけではない。それで僕は好きなイベントを挙げてみたり、苦労した場所を告げてみたりする。それは絶対にウソではないけれど、やはり便宜上の域を出ないように思う。

 だからややこしいほうの答えを書いてみようと思う。『ドラクエVII』について制限なく書く最後の機会かもしれないし、いまさら僕のややこしい話に怒り出す人も(おそらく)いないだろうから、乱暴で個人的なことだけれど、順序立てて書いてみようと思う。

 白状すると、僕は『ドラゴンクエストVII』を単独でとらえることができない(そもそも単独でとらえるということ自体が不確かなものだと思うのだけれど)。ええと、ややこしい前置きが続くから、核心を突いておこう。

 僕にとって『ドラゴンクエストVII』とは、この日記とセットなのである。
 (ほら、こんな答えかたをしたら、質問した人は困ってしまうでしょう?)

 そんな話があるかって怒られそうだけれど、いま僕が『ドラクエVII』を顧みるとき、それは僕がゲームに費やした118時間だけではどうしても成立しないのだ。

 多くの場合、僕は『ドラクエVII』を数時間プレイし、それを忘れないように引き出しに入れておいて、その翌日に、強く思ったことや、あんまり深く考えてないことなんかを、とっかえひっかえしながら書き連ねる。それが、ここにアップされる。それを誰かが読む。誰かがどこかで読む。ときどき反響がくる。それを僕が読む。僕はそれを82日間続けてきた。いま『ドラゴンクエストVII』について考えるとき、僕はそれら一連のことをうまく切り離すことができない。僕にとって、それらはひっくるめてひとつのサイクルとして、まとめて『ドラクエVII』であるのだ。少なくとも僕はそのようにして『ドラクエVII』を82日間楽しんできた。

 ゲームと日記がセットだなんて、突拍子もないことのように感じるかもしれない。しかし、この楽しみかたは極端ではあるけれども特殊ではないと僕は思う。しばしばゲームは、そのようにまわりのさまざまな状況をひっくるめて楽しまれることがある。ことに強い力を持つゲームは、ゲームそのものの力と、さまざまな状況を巻き込む力によって自乗する。それははっきりと、ゲームの楽しみかたのひとつであるのだと思う。

 たとえば『バーチャファイター』について考えるとき、僕は夜通し対戦をくり返した友人たちとの駆け引きや、週末のゲームセンターの異様な熱気をそこから切り離すことができない。『マリオカート』をプレイすることは、対戦相手を呼び集めることから始めるのがふつうだった。おそろしくバランスの悪い不出来なゲームを、バイト先の後輩といっしょに無理矢理クリアーしたら、むちゃくちゃ楽しかった。そこに誰かがいるかどうかだけが原因ではない。大好きなゲームの続編が発売されるとき、ぼくはそこにすでに楽しみ始めている自分を発見する。大作ソフトを発売日に買って家で電源を入れるとき、全国で何万人もの人がこうして電源を入れているのだということに根拠のないパワーや焦りを感じることはないだろうか。人と違うアイテムを見つけたくなるのはなぜだろう。ものすごいハイスコアを目にして落胆してしまうのはなぜだろう。名前も知らないようなゲームを偶然プレイしてみたらおもしろかったとき、なんであんなにうれしいんだろう。

 『パワプロ』も『シレン』も『ドラクエモンスターズ』も『ポケモン』も『ゼルダ』も、僕はそのようにまわりの状況をひっくるめながら楽しんできた。その自乗は本当に楽しいものだから、僕は積極的にまわりを巻き込むように厚かましく振る舞った。

 僕の『ドラクエVII』の楽しみかたは、そういったことと地続きであるように思う。

 もちろんゲームが単体として楽しい瞬間は存在する。あるいは、自分にとって単体であるがゆえに楽しいというゲームだってたくさんある。『ドラクエVII』の単体としての長所をいくつも並べることができる(ていうか、実際これまでくどいほどそういったことについて書き連ねてきた)。しかし、いま僕が『ドラゴンクエストVII』の楽しみについて広く俯瞰するとき、やっぱりそれは共有されるサイクルを含んでしまう。

 無理に冷静な立場をとるならば、それは公平ではないのかもしれない。楽しみにしていたテレビ番組が観られなくなるから野球を嫌いになってしまうような、不公平な好き嫌いであるのかもしれない。しかし、どちらが正しいのかについてはその問いかけ自体に意味がないように思う。煙に巻くつもりはない。僕は、僕の楽しみかたについて述べている。最初に書いたように、とても個人的な話だ。

 僕らはゲームを勝手に楽しむことができる。好きなやりかたで、好きなように楽しむことができる。早解きを極めてもいいし、200時間かけて解いてもいい。しりとりのルールが仲間内で勝手に進化していくように、公園の広さによって缶蹴りのゾーンが狭められるように、それはプレイヤーにゆだねられる。不幸な環境では楽しみが半減するかもしれないし、誰かのひらめきで喜びが倍増するかもしれない。いつだって僕らはそれを能動的にカスタマイズすることができる。日本一の最速タイムを出した人の興奮と、1年かけてようやく完走した人の喜びが比べられないように、そもそも何かが基準になるような話ではないのだ。

 そういうわけで、僕にとって『ドラゴンクエストVII』はこの日記を通じて僕の経験がどこかで共有されたり共有されなかったりするサイクルを含んでしまっている。思い出しながら書き連ねるときの集中力とか、自分の凡ミスを全国的に晒してしまったときの恥ずかしさとか、そういった諸々を含んでしまっている。もっと言うと、たとえばそれは日々届くメールを含むのだろうし、さらに微分すれば、閲覧するひとりひとりのクリックやスクロールにまで及ぶのだと思う。それらがみんな、僕にとっての『ドラゴンクエストVII』なのである。このへんでやめておけばいいのはわかっているけれど、乱暴ついでにあえて書いてしまおう。僕の『ドラゴンクエストVII』は、要するに、読んでいるあなたを含んでしまっている。

 正直言って、こんなことになるとは思ってもみなかった。連載開始当初、絶対に毎日書き続けてやろうとは思っていたけれど、それが僕の『ドラゴンクエストVII』に含まれてしまうだなんて本当に思いもかけなかった。何より僕がいちばん驚いている。それで、けっきょくどうだったのだろうか、僕の『ドラゴンクエストVII』は?

 はい。とても楽しかった。

 『ドラゴンクエストVII』は、本当に楽しかった。たくさんの人が見に来るホームページに自分から自分のプレイ日記を書き連ねておいて、勝手にそれを含ませて「とても楽しかった」だなんて、本当に自分勝手で贅沢な言いぶんだと思う。なんだか勝手にフォアボールを連発して満塁にしてからそのピンチを抑えてガッツポーズしているリリーフピッチャーみたいだ。またしてもたとえが野球でこれまた申しわけない。でも、そのようにして僕が『ドラゴンクエストVII』を82日間楽しんだことを、僕は揺るがすことができない。

 それが『ドラゴンクエストVII』でよかったと思う。ゲームに限らずさまざまな娯楽がその共有のサイクルでもって楽しみを拡大していくのだとすると、その中心にあるものが強力であればあるほど共有のサイクルは大きくなる。いわば『ドラゴンクエストVII』は僕らのサイクルを回し続けた強力なエンジンである。それが『ドラゴンクエストVII』という、タフで、強力で、高性能なエンジンで本当によかったと思う。そうでなければ82日間も走り続けることはできなかったかもしれない。そうでなければこんなに多くの人がここを訪れたりしなかったかもしれない。そうでなければ今日あなたはここをクリックしなかったかもしれない。  

 ずいぶん長い話だったけれど、ようやく僕は今日ここで本当に書きたかったことを書くことができる。要するに、僕が最後の最後に言いたいのはこういうことだ。

 僕は、あなたに「ありがとう」と言う権利がある。

 そういうことだ。つけ加えておくと、いま僕はここが終わってしまうことが少し寂しい。それは、好きなRPGが終わる直前のあの気持ちによく似ている。いつか、ここのことを意味もなく思い出してくれたらとってもうれしい。

 どうもありがとう。僕があなたにそう言うのは、まったくもって正当なことであるように思う。

(2000年11月15日 永田泰大)

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