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押井ワールドの新開地! 『アヴァロン』
2001年1月17日
"『アヴァロン』は押井印のゲーム映画である"
押井監督interview

 日本はおろか、世界中のクリエイターを魅了する押井守監督。そんな押井ワールドの虜となった人物のひとり映画ライターの渡辺麻紀が、押井監督にインタビューを敢行。押井好きだからこそ聞けた、『アヴァロン』にまつわる制作秘話の数々をとくと読まれよ!
※色の違うワードはクリックすると注釈に飛べます。

押井守
 ニッポンといえばいまやアニメとハイテクといわれる時代。ならばニッポン映画はいまや押井守の時代。おそらく、そう言っても過言ではないはずだ。あのジェームズ・キャメロン(※1)が熱烈ファン宣言をし、『マトリックス』のウォシャウスキー兄弟(※2)が多大な影響を受ける。ハリウッドの一線で活躍する監督たちが、押井の動向に熱い視線を注いでいるのだ。そんな監督、過去にだって滅多にいなかったではないか。

 その押井守が『攻殻機動隊』(※3)から5年の沈黙を破って発表したのが『アヴァロン』。何とライブアクション(実写)である。しかもポーランド語で字幕スーパーがつき、ヒロインは『攻殻』の素子(※4)に似たポーランド美人、そして映像は全編にデジタル加工を施した、いままでにないビジュアルなのだ。

「(ロケ地として)ポーランドを選べたのはとてもラッキーだった。企画を生かすも殺すも、どこで撮るか、背景をどうするかで決まると思っているから」

押井守
 キャメロンにも、『ブレードランナー』(※5)のコンセプチュアル・デザイナー、シド・ミード(※6)にもポーランドを選んだことを絶賛されたと語るのは押井守その人。ポーランドを熱望したのではなく、プロデューサーから出されたアイデアに「いける!」と直感し、飛び付いたという。「字幕にしたのは洋画の雰囲気が生まれるというのもあった。それともうひとつ、この『アヴァロン』は<世界>を見せたい映画だということ。なるべく目から入る情報を使い、それならばセリフも目からというふうに考えたんだよね」

 その目に入ってくるのは実写のようでアニメな、アニメのようで実写な世界。押井の言葉を借りるなら「ポストプロダクション(※7)で、すべての場面にデジタル加工した」ビジュアル。微妙にトーンを使い分け、作品を自分の望むかたちに作り替えるという、実写フィルムにアニメ的なアプローチを施しているのだ。

「(ビジュアル的には)頓挫した企画『G.R.M.』(※8)で実験したことや、そのときやろうと思ったことを今回、一部試したことになる。特にトーンの扱い。カラーリングをデジタルで制御するということをやってみた」

 通常のフルカラーとはまったくちがったニブい色が生まれたのもそのため。素子に似たヒロイン、アッシュが年齢不詳に見えるのも、顔からテカリを取り除き、小じわを消したせい。彼女が銃を撃つときのまばたきだってデジタルで消去しているのだ。

アヴァロン画像
「一番手を加えたのはアッシュの顔だと思う。女優さんに黒髪のカツラを被ってもらったのも、のちにデジタル加工しやすいようにだし。カツラがおかっぱなのは彼女、エラがはっていたので、それを隠すためだったんだけど、出来上がったら素子(笑)。ああ、僕はこのタイプが好きなんだってそのときわかった(笑)。僕はそもそも、寡黙で強い女性が好き。それも男性を頼らない人がいい。ハリウッド映画には確かに強い女性がたくさん登場するけど、その側にはいつも男性がいる。それがイヤなんだ」

 だから今回のアッシュには、パートナーが登場しない。常にひとりで動き、ひとりで決断を下す。彼女がその頬を弛めるのは人間のまえなどでなく、愛犬のまえだけなのだ。

「つまり、この、仮想と現実の境界線があやふやな世界で唯一彼女が心を許せるのが愛犬であり、彼のみが彼女にとって唯一の現実だということ。男は必要ないけど、犬は必要なんだよね(笑)」

アヴァロン画像
 そのアッシュの<彼>を演じているのは、ベシャメルという名のバセット・ハウンド。ポーランド中を探しまくってようやく出演して貰うことになったという。なぜならこのバセット犬、押井監督の<娘>、ガブリエルことガブ(※9)と同じ品種。監督は娘への愛から、どうしてもアッシュのパートナーはバセットであることにこだわったのだ。

「アッシュが<彼>に作ってあげるご飯は、僕がいつもうちの子にやっているものと同じ。肉はホルモンが恐いので和牛だし、映画と同じく、野菜もたっぷり使っている。アクだって丁寧にとってあげる。ただ、イモはガブの場合は繊維質の多いサツマイモなんだけど、ポーランドにはそれがなくてジャガイモになった。うちの子の食べ物はリッチなんだ(笑)」

 こと犬の話になるとヒロイン同様、頬が弛んでしまう押井監督は自他ともに認める「犬主義者」。ペットに洋服を着せるような愛犬家とは異なり、「犬は神さまみたいなもの。犬に愛されたいと思っている」のだ。バセット犬は『パトレイバー2』(※10)にも『攻殻』にも登場し、犬は彼の作品には欠かせない印だといえる。そして、現実とゲームの生む仮想世界の曖昧さを描くところも、古くは『ビューティフル・ドリーマー』(※11)からの押井印なのだ。

押井守
「『アヴァロン』はドラクエ(IやII)に夢中だった15年前に考え付いたアイデア。そこで、現実世界とゲーム世界の差別化をどうしようと考えて結局、その差別化はしないということになった。仮想現実の恐さは、現実とそっくりだから恐いわけじゃなく、信じている現実が仮想じゃないという保障がないから恐いわけで、これこそが本質的な恐さだと思う。ならば、現実こそが仮想現実なんだということ以外、描くテーマはない。まあ、だからこそゲーム映画を作ろうと思ったんだけど」

 『アヴァロン』の現実世界が、非現実的なのもそのため。トーンを調整したのも非現実的な世界観を作り出すためにほかならない。われわれはそんな世界で、ヒロインと同じように出口のないゲームの迷宮に迷い込む。その幻惑を覚える一瞬、押井ワールドを観るのではなく、体験していることを実感するのだ。

(取材・文 渡辺麻紀)

押井守
●押井守監督プロフィール
1951年8月8日生まれ。東京都出身。竜の子プロダクション、スタジオぴえろを経てフリーへ。主な作品は、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(84年)、『機動警察パトレイバー劇場版』(89年)、『機動警察パトレイバー2 the movie』(93年)、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95年)。アニメ製作の一方で、実写映画、小説、漫画原作、ゲーム製作と幅広く活動。近年は、『人狼 JIN-ROH』(00年)で原作・脚本を担当、『BLOOD THE LAST VAMPIRE』(00年)では、企画協力に当たるなど、若手育成にも力を注いでいる。前世は犬(本人談)。

・押井守公式サイト〜ガブリエルの憂鬱〜
http://www.oshiimamoru.com/


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