小林ゆう『ゆうのお部屋』
【音響監督、亀山俊樹さん・その1】小林ゆうさんは、いまの声優では突出した存在
声優の小林ゆうさんが、会いたい人に会いに行く、おなじみの“ゆうのお部屋”も第5回。今回のゲストは、アニメの音響監督を務めるオムニバスプロモーションの制作部
ディレクター 亀山俊樹氏です。小林さんとは数多くのアニメ作品でいっしょに仕事をしている亀山氏は、小林さんにとってはなくてはならない存在。ふたりが手がけた最新作『まりあ†ほりっく』の話題などを中心に、“声優”というお仕事に対する内実に鋭く迫ります。ほかでは聞けないレアな話題もいっぱい!
亀山俊樹氏。オムニバスプロモーションの制作部 ディレクター。数多くのアニメの音響監督を担当する。小林ゆうさんが出演する数多くの作品を担当している。 |
●小林ゆうさんの魅力は、役柄に対する真摯さ
ゆう 本日の“ゆうのお部屋”には、音響監督の亀山俊樹さんをお招きしました。亀山さん、“ゆうのお部屋”にお越しいただきまして、どうもありがとうございます!
亀山 いえいえ、どういたしまして(笑)。
――まずは、ご存じでない方のために、音響監督の役割からお教えいただけますか?
亀山 はい。音響監督というのは、アニメ独自の存在で、音回りで監督を補佐する係ですね。アニメにおける音回りの素材というと、“セリフを撮ること”、“SE(効果音)を揃えること”、そして“BGMをはじめとする音楽を揃えること”、この3つです。洋画の吹き替えにも音響監督は存在するのですが、セリフだけをこちらで用意して、SEと音楽はオリジナルをミックスする。その点、アニメは何もないところから素材を揃えないといけないわけです。たとえば、“音楽を揃えること”では、必要になりそうな音楽に関して、「こういう曲が欲しいですね」という感じでレコード会社の方に提案をするんです。どういうアーティストさんを使って、どんな内容になって……となると僕の手を離れるわけですが、上がって来たものを「いいですね〜」とか判断して、アニメの中で使わせていただくわけです。
――声優さんのキャスティングなども担当する?
亀山 キャスティングに関しては、監督さんも意見があるでしょうし、プロデューサーさんにもこだわりがある。オーディションなども含め、そのへんを取り仕切るのが音響監督の役割になります。むしろ、役者さんのチョイスということに関しては、音響監督はいろんな選択肢を持っていないといけないです。たとえば、僕が「この人で行きましょう!」と提案しても、監督から「ほかに誰かいないの?」と言われたりするケースもある。そういうときに、違う役者さんを提案するというオプションを持っていないといけないわけです。
――幅広い選択肢を持っていないといけないわけですね。ちなみに、今回ごいっしょに仕事をされた『まりあ†ほりっく』の祇堂鞠也役はどうだったのですか?
亀山 鞠也は、最初から「小林さんで行こう!」ということであっさり決まりました。プロデューサーさんによっては、「この役者さんを軸にして行きたい」というのがあるのですが、小林さんはまさにその軸になる人だったみたいですね。僕にしても、小林さんとはここのところずっとレギュラーをごいっしょさせていただいていたので、「きたっ!」っていう感じでした(笑)。
ゆう うれしいです。そのことは初めて伺いました。
――ずばり、小林ゆうさんの魅力って何ですか?
ゆう い、いきなりですか? 緊張します〜。
亀山 何よりも役に対する真摯さです。とにかく役のことをすごくよく考えていますね。かつて、宇宙人と交信する女の子の役を担当してもらったこことがあるのですが、本当に交信し過ぎてしまって、マイクからぜんぜん離れなくなってしまったなんてことがありました(笑)。アフレコ中は、マイクの前でずっとシャウトし続けていましたね。
(一同爆笑)
亀山 これは皮肉でも何でもなくて、小林さんはそれくらい役に没入しているんです。これはすごいです。ベテランの役者さんが、「この人大丈夫かしら?」って心配するくらい(笑)。
ゆう いつもご迷惑をおかけしてしまって……。
亀山 しかも、忙しいのにもかかわらず、とにかくしっかりと台本を読み込んでくる。どれくらいこのアフレコの下準備のために時間を割いたのか、わからないくらい。アフレコのまえには、役者さんにリハーサルビデオとかをお配りするのですが、それをしっかりと見て勉強してくださるんです。そして、「このキャラクターが、ここでこんな表情をするけどいいのかしら?」という疑問を持ったときは、ちゃんと質問してきてくれる。そんなときは、リハーサルビデオが間違っていることが多いんです。
ゆう ありがとうございます。
亀山 僕が小林さんで感服しているところは、他人の仕事を尊重しているところ。目の前にある作品が、シナリオや絵コンテ、作画といった作業が積み重なって、いまここにある、ということをわかっているわけです。だから、できあがった台本が「誤植じゃないかな……」って思っても、ほかの人の仕事に対するリスペクトがあるので、そこから判断しようとするんです。そのスタンスが見事だと思うんです。若いのに見上げたところです。
――しっかりしているなあ。
亀山 もちろんまだまだ若手だし、実力どうこうの話になったら、まだまだこれからの部分も多いのですが、とにかく爆発的なものを持っている。着々と石を積み重ねていくわけではなくて、爆発的なことをしてくださるので、すばらしいですね。
――ほかの声優さんにはないものがある?
亀山 突出力があるので、輝くものがありますね。これは芝居というものが持つ性格もあると思うのですが、アニメはある意味数十年の歴史によって培われた“伝統芸能”といった側面もある。日本のアニメーションの文化として、「こういうときはこういうリアクションをする」、「アドリブはこういうふうに入れる」という、ある種伝統芸能的な“約束事”が視聴者や作り手の中に積み上がっているんです。役者はそれに則って演技をするわけですが、その約束事をうち破るかのように、ときどきポコポコって突出した役者が出てくる。小林ゆうというのはそういう存在のひとりですね。
――それはすごい!
亀山 うまい下手のレベルではなくて、煌めいているという話です。
――とは言え、小林ゆうさんは意識して突出しようと思っているわけではないような気も……。
亀山 もちろん、違うと思いますよ。だから、他人が小林さんと同じことをしようと思って真似をしても、ぜんぜん違うことになってしまうでしょう。やりたいことが内側から出てきてしまうのが役者なんですね。制作サイドにしても、「この絵にはこういうアドリブが欲しいよね」と期待しているわけではなくて、それを上回る“何か”が、欲しくてキャスティングしているわけじゃないですか。ずっと練り続けてきたオリジナルキャラを、どこかと同じ演技ではやって欲しくないと思っているハズです。オリジナルのものを作ってきたので、オリジナルの演技をして欲しいと期待している。小林さんはそれに見事に応えているのではないかと思いますね。
――最大限の褒め言葉ですねえ。
亀山 一方で、小林さんは相当な努力家なのかな……といまは思う部分もあるんですけどね。
ゆう はい。私は人と同じことが同じ時間でできないタイプなんです。だから、人よりたくさんやらないと同じにならないんですよ。
――役作りもけっこう気合いが入っていますものね。
ゆう 担当させていただくことになったキャラが、スポーツに取り組んでいると、そのスポーツを始めたりしますね。あと、少年の役を演じるときは、小さいお子さんといっしょに遊んでもらったりしています。『まりあ†ほりっく』では、男性が女性になっていらっしゃる方を研究させていただいたりもしました。とにかく考えられることは全部取り組んで臨もうと思っています。
亀山 ロバート・デ=ニーロみたいな取り組みかただね! これは、役者どうしの相性もあるので一概には言えないのですが、ほかの誰かが鞠也を担当しても、あるいはソツなくこなしたかもしれません。でもいま言えるのは、「やっぱり小林さんでよかったね」ということだけ。
ゆう ありがとうございます! 感激です。
いわば、“恩師”とでも言うべき存在の亀山氏の最大限の褒め言葉に、小林ゆうさんも感激の様子。次回は、ふたりが関わったアニメ『まりあ†ほりっく』を話題に語り合います。
【DVD&CD情報】 |
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【小林ゆうさん出演作情報】 |
銀魂 猿飛あやめ役 |
小林ゆう
2月5日生まれ。東京都出身。以前はモデルを務めていたほどの抜群のスタイルとルックスで人気を集める声優。代表作はアニメ『DAN DOH!!』の青葉弾道役、『魔法先生ネギま!』の桜咲刹那役、『さよなら絶望先生』の木村カエレ役など多数。
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