
●もはや映画を超えた世界! 深いドラマ性に驚嘆!
Text by Mask de UH
世界中が待ちに待った『グランド・セフト・オートV(以下、GTAV)』は、単にシリーズの最新作というだけでなく、いま現行ハードで開発できるビデオゲームの限界に挑戦した、ロックスター・ゲームズの飽くなき意欲が詰まった作品と断言したい。
前作『GTAIV』から数えること5年という長期の開発期間であったが、その間にもロックスターは『レッド・デッド・リデンプション』や『マックス・ペイン3』といった挑戦的なタイトルを送り出し、そういったタイトルの積み重ねが全て『GTAV』に注ぎ込まれているところも興味深いだろう。とにかく無駄がなく、最終的に『GTAV』に帰結するのは見事だ。
しかもそれだけならば単なる集大成だが、それだけでは終わらないのがロックスター。GTAシリーズの欠点を洗い出し、ゲームデザインを再構築。その結果、「3人の主人公を同時に操作」という前代未聞のゲームシステムを生み出したのだ。
もちろん基本的なゲームの操作性も全体的に向上し、クルマの運転や航空機の操縦、ドライブバイなどもかなりプレイしやすくなり、そこに3人それぞれに設定された個別のスペシャルスキルを発動させることで、ミッション攻略の幅が大きく広がっている点は見逃せない。
また、フリープレイ時には任意で好きな時にキャラクターがスイッチできるので、ミッション終了時に自宅から離れた場所に放り出されても、スイッチすることで別のキャラクター、別の場所に移動して気分も一新できるため、とにかく飽きずにゲームを進められるところが素晴らしい。新しい携帯デバイスであるスマートフォンの導入により、自宅のベッドに戻らなくてもその場でクイックセーブできるようになったので、ゲームの一時中断もやりやすくなったところも便利な追加変更点ではないだろうか。
システム面はもとより、ミッションの内容も練り込まれており、よくGTAを語る時に言われる“お使い”という感覚がなく、ミッションをやる“義務”をプレイヤーが感じられるのも、眼には見えない部分であるが、実はゲームデザインにおいて最も工夫した箇所ではないかと思えた。
そのカギは、具体的に解説すると「とにかく金が必要」になること。クルマの修理、武器の購入、髪型、刺青、服、夜遊び等々、ロスサントスで暮らすには生活費が無ければ何も始まらない。
もちろんこれまでのシリーズと同様にミニゲームであるタクシー送迎や観光バスの運転手などで小銭を稼ぐこともできるが、あくまでも小銭。ネットでのデイトレードや不動産購入による資産運用に手を出せば、それなりに安定した収入を得られるが最初に突っ込む元手が必須。チマチマ稼いでいる限りビッグな夢は遠のくので、ここは一丁気合いを入れてミッションに挑んでやるぜ! という意気込みが自然と湧いてくるのだ。
ロスサントスの中での貨幣価値、価格設定も極めて現実に近く、ジュース1本1ドルに始まり、駐車禁止の罰金250ドル、防弾チョッキ最厚グレードで2000ドル、死亡時の治療費が5000ドルというあたりは、金欠状態においては緊張感をもたらす値段である。ストリップ小屋で散財していたら、あっという間に無くなってしまうからこそ、大きなヤマを踏む気になる。
また、3人の主人公それぞれの心情や過去、秘めたる野望の描き方が巧みで、そのドラマにグイグイと引き込まれてしまう。彼らを取り巻く他のキャラクターも個性豊かで、その表情や会話にも是非とも注目してほしい。
マイケルの後悔と野望、トレバーの狂気と人情、フランクリンの置かれた複雑な立場などなど、ストーリーを進めるにつれて明らかになる彼らの「もうひとつの顔」は、映画やテレビドラマでは構築できない、ゲームならではの流れに基づいた物語であり、次にどんな展開が待ち受けているのか胸を高鳴らせ、また次のミッションに進めてしまうのだ。
また、3人の主人公に関わる様々な人間模様もユーモラスで毒があり、3人それぞれのテーマに沿った役側で個性的。マイケルの場合は家族、フランクリンの場合は地元のダチ、そしてトレバーを取り巻く奇人変人たち……。それぞれが地域や階級、生活スタイルに密着したキャラクターが設定されており、表情も挙動も全く違う人間たちが物語に深く関わってくる。
特にフランクリンが親友ラマーと交わす会話の数々は、アメリカ西海岸にしか存在しない独特の文化に基づいた話法であり、スラングであり、方言だ。
「アメリカ人でも彼らの会話の細かい部分は理解できないのではないか?」と思うぐらい濃厚なブラック・イングリッシュの数々は、何気ない会話ではあるが、実に自然に生き生きとしている。そんな2人の姿は、現実に存在している“生の西海岸住人の日常風景”であり、そのカルチャーをゲームで再現しようという意気込みが本当に素晴らしい。
よく吹き替え版が欲しいというユーザーの声を聞くことがあるが、これは吹き替えにしてしまっては意味がない。現代アメリカ社会の“今”を生々しく切り取った『GTAV』だからこそ味わえる世界なのだ。
そしてGTAといえば忘れてはならないのが豪華なゲストを招いてのサウンドトラックとラジオ局。もちろん今回も最高の出来映えで、ビデオゲームというジャンルの垣根を超えたDJの人選にもこだわっており、音楽好きにはニヤリとさせられる。
ハリウッドならぬバインウッッドが舞台ということで、これまで敢えて外していたアメリカンポップスのチャンネルを筆頭に、オールドスクールのウェッサイ(WEST SIDE)のHIP - HOPも目白押し(SNOOP DOG、DOGG POUND、NATE DOGなど犬系が多いのも“わかってる”選曲。だからこそ愛犬チョップの存在が光る)。
ファンク専門チャンネルでは、恐らくビデオゲーム初出演となるスーパー・ファンク・ベーシストのブーツィー・コリンズをDJにキャスティング! さらにレゲエ専門チャンネルではダブ仙人ことリー・ペリー師匠がDJ参戦!
そして西海岸パンク専門チャンネルではサークル・ジャークスのヴォーカリスト、キース・モリスがDJを務め、BLACK FLAG、GERMS、T.S.O.Lといった老舗バンドの面々が絶叫しまくるんだから、もう何もかも最高としか言いようがない。何気にカントリーチャンネルでサム・ペキンパー監督のトラック野郎映画『コンボイ』のテーマソングが収録されているのもニクいね!
他にも、ランページの復活、マップ各所のスタントジャンプ、馬鹿馬鹿しくも見事にゲームデザインされたヨガ、収集品探しとレアな報酬、ロックスターの過去の名作『スマッグラーズ・ラン』(紹介記事はこちら)を彷彿とさせる密輸ミッションなど、『GTAV』には、1997年から始まった歴史の全てが詰まりに詰まっている。
シリーズ歴代のファンも、新規のファンも大満足といえるサービスぶりに、このゲームが発売直後に10億ドルの売り上げを叩き出したのも納得である。そして、過去最短の時差で日本語ローカライズ版が発売されるのも、日本のファンにとっては嬉しい展開だ。もちろん海外版と比較すると要所要所に細かい規制が入っているのは仕方が無いが、今回の複雑な物語を理解して楽しむには、日本語字幕は必須である(もちろん、すべてを楽しみたい欲張りな方には海外版のプレイもオススメしておく)。
保守的にならず攻めの姿勢を崩さないロックスター・ゲームズの、骨太な思想が詰まった『GTAV』こそ、2013年最強のビデオゲーム作品であり、大人のユーザーであれば誰もが楽しめる極上のエンターティメントだと、ここに高らかに宣言して本稿の締めとさせていただきます!
