大塚角満の ゲームを“読む!”

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【特別コラム】敗者の美学〜モンハンフェスタ'13、福岡大会、決勝大会を見て〜

 全国を縦断して行われた『モンスターハンター』の祭典、“モンスターハンターフェスタ'13”が、1月26日の全国決勝大会を最後に幕を閉じた。このモンハンフェスタのメインイベントとなるのが、クエスト遂行のスピードを競うタイムアタック大会“狩王決定戦”で、毎回毎回、地方大会の段階からさまざまなドラマを我々に見せてくれるのである。

 俺は今回のモンハンフェスタは、東京大会、福岡大会、決勝大会の3会場に足を運んだ。かつては全会場を訪問する“超”がつく常連だったが、いまではなかなかそれも難しいので、近場の東京と、あえて福岡を選ばせてもらった。その福岡大会で見たこと、感じたことを週刊ファミ通の巻末コラムで綴ったのだが、そこに書いた文章に加筆・修正を入れた“完全版”をここにひっそりとアップさせていただく。「なぜいま?」と思う方もおられるかと思うが、じつは週刊ファミ通2月20日号(2月6日発売)の巻末で決勝大会を見届けたうえでの雑感を書いたので、せっかくだから併せてこちらも読んでほしい……と思った次第だ。

 加筆・修正がかなりの量なので、一度読まれた方も改めて読み直していただけるとうれしいです。……超長いよ!!w

予選で散った“九州の虎”

 厨二病全開で書かせていただく。

 『モンスターハンター』の祭典“モンハンフェスタ2013”の福岡大会に足を運んだ。九州には知り合いがたくさんいる(すべて『モンハン』がきっかけで出会った人々)ので、彼らとの“同窓会”も兼ねて、福岡大会には必ず行くようにしているのだ。今回も、旧知の人たちと再会して親交を深めることができ、じつにじつに充実した旅になった。

 そんな知り合いの中に、“タレメ”と名乗るふたり組がいる。モンハンフェスタのメインイベント “狩王決定戦”の第2回大会から活躍する“ゲームアスリート”で、その抜群に安定した立ち回りに感銘を受けた僕は、彼らのことを密かに“九州の虎”と呼んでいた。

 タレメのふたりが脚光を浴びたのは、2008年の第2回狩王決定戦、俗に“伝説のフェスタ08”と呼ばれる歴史的な大会だった。

 この年、激戦の地方予選を突破し、エリートたちが集う決勝大会1回戦を勝ち抜いたのは、劇的な優勝を遂げることになる“もうゲネポ”、いまだ語り継がれる “シンクロプレイ”を披露した“Effort Cristal”(通称・エフォクリ)、そして九州の虎・タレメのふたり。タレントぞろいだった大会の中でも、群を抜いて個性的な連中が決勝ステージに進み、激闘をくり広げたのだ。

 さて『モンハン』が“国民的ゲーム”と言われるほど普及し、タイムアタックも競技として確立されていくにつれて、数名〜数十名の団体で立ち回りを研究するシーンが増えていった。それは、タイムアタックという遊びかたが成熟してきたことの証左であり、大いに結構なことなのだが、頑ななまでに“タッグであること”にこだわり、ペアのふたりだけでタイムを縮めていくことに心血を注ぐ連中も少なからずいる。その代表とも言えるのが、記念すべき第1回目のモンハンフェスタで優勝したJast25'sであり、第2回目の覇者であるもうゲネポであり、このタレメなのだ。

 でも考えようによっては、Jast25'sとタレメは同じ九州のチームなので、その気になれば4人で集まってミーティングし、立ち回りを共有することも不可能ではないはず。しかも彼らは、大会で会うたびに親交を深め、互いに尊敬しあう仲なので、プライベートなやり取りも少なからずしていると思うのである。なので僕は彼らに会うたび、しみじみとこんなことを訊くのだ。

 「君らはその気になれば、4人で作戦を詰めることだってできるんじゃないの?」

 すると彼らは例外なく、さわやかに笑ってこう言う。

 「いやあ、相棒がいるけん(笑)。ふたりでやりますよ」とJast25'sのこんぺい君。

 「そうそう。それに、相方と時間を合わせるのだってたいへんなのに、これ以上増えたら無理無理(笑)」とタレメのダイ君。

 おどけた言いかただがその奥にあるのは厳然としたプライドで、“自分たちだけがつかんだ立ち回りで勝ち抜いてやる!”という強い気持ちが、つねに彼らからは迸っているのである。だからこそ、彼らは全国のタイムアタッカーから一目置かれ、そして尊敬されているのだろう。

 11月10日、福岡大会の会場に、狩王決定戦の予選に並ぶタレメの姿があった。すぐに「ひさしぶり」と声を掛け、「どう? 仕上がりは」と畳み掛けると、チームリーダーのダイ君が不敵に笑って答えた。

 「まあ、やれることはやった……って感じですね。予選のクックは、イケると思いますよ」

 相方の太郎君も笑う。

 「ウチら、ハンターランクはまだ“1”。ソフトを買ってからタイムアタックしかやってないから(笑)」

 タレメのふたりは、自信に満ちていた。その自信は、“積み上げた努力は裏切らない”と過去の経験から知っていることと、「九州の代表は自分たちだ!」という矜持から生まれていたに違いない。

 しかし、そんなふたりは自分のこと以上に、盟友・Jast25'sのこんぺい君のことを心配しているようだった。というのもこんぺい君は今回、もとの相方・Raven君と都合が合わず、別のパートナーとともに狩王決定戦に参加していたから。こんぺい君の姿を捜していたのか、ダイ君はきょろきょろとあたりを見回してから、僕にこんなことを尋ねてきた。

 「角満さん、こんぺい君のところはどんな感じですか? いけそうですか?」

 タレメと話をする前、僕は目ざとくこんぺい君を見つけて、練習の成果を聞いていた。しかし仕事柄、彼が土日もなかなか休めないこと、相方さんとの練習時間を捻出するのに苦労していたことも知っていたので、話を聞くのはちょっとだけ気が咎めた。すると案の定、こんぺい君は僕の問いかけに苦笑いし、「それが、なかなか安定しなくて……。なんとか全国に行って、トロフィーを九州に持ち帰りたいんですけどね……」と言った。

 ダイ君の問いかけに、僕は小さく首を振る。

 「それほど安定していない……って。練習時間も、あまり取れなかったみたいでさ」

 続けて、僕はダイ君に尋ねた。「心配かい?」。

 ダイ君は、照れたように笑いながらこんな返しをした。

 「そりゃあねえ(笑)。いっしょのチームとかじゃないですけど、ずっと九州でがんばってきた仲間ですから。ステージ上で戦いたいし、いっしょに全国に行きたいですよ」

 やっぱり、彼らの人間関係はいいな。

 しかし、タレメの密かな願いは届かず、こんぺい君のチームは予選で散ってしまう。涙ながらに悔しがる初代チャンピオンは、見事決勝ステージにコマを進めたタレメのふたりに、がっくりとうなだれながらこう言った。

 「ごめん」

 と−−。

 そして、無念さをにじませながらも声を振り絞り、「あとは、任せたけん」と力を込めた。

 そして、地区大会決勝ステージ。種目はゴア・マガラ討伐だ。

 『モンハン4』のメインモンスターが相手ということもあってか、福岡の決勝は荒れに荒れた。なんと出場8チームのうち4チームが“記録なし”で終わり、見るものに(何かが起こるかもしれない……)という予感を抱かせる。福岡大会から全国への切符は、たったの2枚しかない。この波乱含みの展開の中、勝ち抜くのは果たして……?

 そんな中で登場したタレメと、予選1位の “天鱗-TENRIN-男子代表”は、それは見事な立ち回りを見せた。僕といっしょに見ていたGod(狩王決定戦で優勝2回、準優勝2回の超絶ハンター)をして、「なるほど! そうきたか!」と言わしめる動きは伯仲し、どちらが抜けてもおかしくない……という展開となる。

 そして、クエストスタートから間もなく6分になる……というところで、壇上の4人がいっせいに拳を天に突き上げた。

 「おっしゃ!!!」

 誰かがそう叫んだ声が、最前列にいた僕の耳に飛び込んできた。なんとタレメと天鱗は、ほぼ同時にゴア・マガラを狩ってみせたのだ。福岡大会の最後の最後で、こんな劇的な展開が待っているとは思ってもみなかった。

 そして、結果発表。九州の虎に告げられたのは無情な結末だった。

1位 蒼松本☆ 5分49秒16
2位 天鱗 5分53秒53
3位 タレメ 5分54秒40

 1位から3位までが5秒以内にひしめくという歴史的な大接戦は、全国への切符が2枚しかないという福岡大会のシビアなルールと相まって、タレメをふるいにかけた。ダブル操虫根の妙味を見せた蒼松本☆、そして、エフォクリやゲネポといった“モンハンアスリート”たちに憧れてタイムアタックを突き詰めてきた天鱗の2チームが、九州代表の看板を引っ提げて全国決勝大会に殴り込みをかけることになったのであった。

 そんな、大会終了後。僕は誰よりも先にタレメのふたりに声をかけた。「やっぱり俺は、キミらを全国で見たかった……。切符が2枚しかない福岡大会が恨めしいよ」と言って。うなだれる僕に、ダイ君がすがすがしい笑顔で言う。

 「福岡大会は、2枠だからこそ燃えるんです。タイムも、これで負けたなら力不足ってことですわ」

 太郎君も、笑っていた。

 「これでやっと、ふつうに『モンハン』ができる(笑)。ウチらまだ、ハンターランク1ですからねー」

 ああ、そうか……。いままでずっと、タイムアタックしかやってなかったんだもんな……。

 あまり悔しさを見せなかったのは、“やりきった”という実感があったからか。でも、別れ際にダイ君が言ったひと言こそが、彼らの本音だったのではなかろうか。

 「今大会は、God君が東京で優勝し、ゲネポも名古屋で優勝しています。なのでウチらも福岡を勝ち上がって、フェスタ08決勝の再現を狙っていました。それが実現できないのが、残念です」

 そこに、観客席の後ろのほうでステージを見つめていたこんぺい君がやってきた。

 「お疲れ様でした……! 惜しかったねー!」

 自分のことのように悔しがるこんぺい君に、タレメが声をハモらせる。

 「……ごめん!!! こんぺい君の分までがんばろう!! ってやってたのに!!!」

 彼らのやり取りを潤んだ目で見ながら、僕はこんなことを考えていた。

 (悔しがるよりも先に、この子たちは謝るんだよなー……)

 積み重なるいろんな思いが、モンハンフェスタの歴史を作る。彼らはまさしく、ゲームアスリートだった。

◆◆◆

 あれから2ヵ月が過ぎた1月26日、モンハンフェスタ'13は華々しいフィナーレを迎えた。地区予選を勝ち抜いた13チームと、当日最終予選を抜けた3チームを加えた16チームで覇を競い、見事、大阪代表の“すーぱーどらい☆”が狩王の称号を手に入れたのだ。

 頂点を決める決勝戦で対峙したのは前出のすーぱーどらい☆と、前回大会の覇者、God&のんによる最強コンビ“∞(インフィニティ)”だった。∞は、最強ハンターのGodはもとより、相方の“のん”も「こんなに冷静に崩れることなく、立ち回り続ける男がいるんだな……」と感動すらしてしまう天才肌のハンター。一方のすーぱーどらい☆は、かつてGodとのコンビで優勝したことがある“狩王”のMizunoeと、前回大会の決勝で∞と対決した“超”がつく実力者“ジウ”のコンビだ。4人は全員が顔見知り。この、“仲間どうしで覇を競う”という特殊な状況下での決勝戦でも、福岡大会に負けないドラマが展開されたのだ。

 冒頭でも書いたが、その模様を週刊ファミ通2月20日号(2月6日発売)の巻末コラムで綴らせてもらっている。

 文字数制限がある1ページのコラムなので言葉足らずの部分もあるが、若者たちが“日本一”の座を目指して戦った熱い冬の日々の締めくくりとして、皆さんに読んでいただけたら幸いです。

投稿者 大塚角満 : 19:28

大塚角満

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週刊ファミ通副編集長にして、ファミ通グループのニュース担当責任者。群馬県出身。現在、週刊ファミ通誌上で“大塚角満のモンハン研究所”というコラムを連載中。そこら中に書き散らした『モンハン』がらみのエッセイをまとめた単行本『本日も逆鱗日和』シリーズ(4巻)が発売中。また、そこからのスピンオフとして別の視点から『モンハン』の魅力に迫る書き下ろし作品『別冊『逆鱗日和』 角満式モンハン学』シリーズも。このブログではさまざまなゲーム関連の話題を扱うつもり。一応、そのつもり。


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