大塚角満の ゲームを“読む!”
« 2011年09月 | 大塚角満の ゲームを“読む!”のホーム | 2011年11月 »
毒の大沼に足を踏み入れると、我が分身が速攻で毒状態になった。こうなると徐々に体力が減ってゆき、命を危険にさらす。まあ放っておいてもいつか毒は抜けるのだが、これがまた気が遠くなるほど長い時間がかかるので、たいがいは体力が削られたらエスト瓶を飲んでごまかすか、毒紫の苔玉を使って毒状態を解消することになる。ただ、毒紫の苔玉を使っても、大沼に入りっぱなしだとすぐにまた毒状態になってしまうので始末が悪い。けっきょく、なるべく毒耐性の高い防具を身に着けて予防線を張り、毒がたまってきたらところどころにある陸地に身体を休めて毒が抜けるのを待つ……というのがセオリーなのかもしれない。
ただそこまでやったとしても、毒の大沼の毒素は人体を蝕む。なので、いざと言うときの備えとして、毒紫の苔玉は多く持っておくに越したことはないのだ。俺は言った。
「こんなに簡単に毒になってしまうと、手持ちの苔玉だけでは心もとないね。なんとかならないかな……」
これに、S君はつぎのように答えた。
「黒い森の庭に行って、キー坊(樹人ね)からのドロップで取れば? かなり頻繁に落とすし」
おお! 確かにキー坊のアイテムドロップ率は異常なくらい高かったぞ。俺はすぐに「そうしようそうしよう」と言って黒い森の庭に向かおうとした。しかし、この病み村の底から黒い森の庭への道のりは、京浜東北線の鈍行に乗ってブラジルのリオデジャネイロに行く……ってくらい遠い。俺は唸るしかなかった。「うーん」と。
でもここでS君が、「大沼から火継ぎの祭祀場につながるショートカットを作れるよ〜」と教えてくれたではないか! 乗っていた電車が、いきなりマッハ30の音速運行を始めたのを感じた。
俺はS君のナビゲートに従い、まずは大沼の数少ない安全地帯である排水溝に潜り込んで、そこの篝火に触った。
(しばらくはここが拠点になるだろうな)
そんな確信を覚えながら。そして篝火を出て右に曲がり、壁沿いに進んで、大きな水車がある場所までやってきた。
「ここを上っていくと、火継ぎの祭祀場に着くよ」
S君が言う。俺は彼の言うことを素直に受け入れ、水車伝いに上へ上へと上っていった。
でもこれ、思いのほか骨が折れた……というかイラつかされたよ……。
もっともウザいのが、やたらとまとわりついてくる飛行虫(我が家では3文字の虫の名で呼んでいる)だ。いくら倒してもつぎからつぎへと湧いて接近してくるし、尻から汚らしい毒液をひり出して引っ掛けてくるので始末が悪い。極め付けは“倒しても一銭にもならない”ってところで、必死になって追っ払うのがバカらしくなってくるのだ。なので基本、なるべく無視して振り切るようにしているのだが、こやつらはそうはさせじと執拗にからんでくる。おかげでときに、悲劇が起こる。
ショートカットを作るために初めて水車を上ったときのこと。さっそく飛行虫が俺にからんできた。初めて通る道で、上へのルートを探しながらゆっくり歩いていたので振り切ることができず、俺はしかたなく1匹の飛行虫をロックオンして剣を振り上げる。ところが、その飛行虫は剣の届かない上空に逃げたり、俺が立っている床下に潜り込んだりして、巧みに攻撃を避ける。頭にきてロックオンを解除し、無視して梯子を上ろうとすると、今度は急接近してきて「ブジュッ」とヘンな液体を引っ掛けてきた。
「男子の顔面に尻から出した液を引っ掛けるとはナニゴトだっ!!」
俺、簡単にブチ切れて再び飛行虫をロックオンするも、再び上空に逃げられて攻撃が当たらない、しかも手間取っているうちに飛行虫は倍に増え(1匹が2匹になっただけだが)、イラつき度は倍以上に跳ね上がった。
しかたなく俺は立ち止まり、2匹の虫の相手をした。しかし例のごとく巧みに飛び回られ、なかなか攻撃が当たらない。それでも「こいつだけは許さない!」という情熱のタマモノかようやく1匹を捉えて、一撃のもとに屠り去ることに成功した。
「よしっ! ザマミロ!!」
呪詛の言葉で喜びを表現する俺。しかし、ここでロックオンのカーソルがもう1匹の飛行虫に切り替わり、カメラの角度がグルンと回ってしまったではないか! 俺、とたんに平衡感覚を失くしてフラフラし、「おっとっとっと……!」と言いながら高台から落下する。当然、そのまま「YOU DIED」……。
「もうヤダ……。寝る……」
その日のプレイは、それで終了した(苦笑)。
そして翌日。時間の経過で傷が癒えた俺は、再度ショートカット作りに勤しんだ。……ってそれほど大げさなものではなく、虫とデブ(巨漢亡者)に気を付ければ簡単なんだけどネ。俺は無事に火継ぎの祭祀場にたどり着き、鍛冶屋の前を通過して、黒い森の庭にやってきた。さあさあ、キー坊狩りだ。毒紫の苔玉集めだ。
この作戦は、じつにうまくいった。思った通りキー坊のアイテムドロップ率はすばらしく、毒紫の苔玉も毒紫の花苔玉も山のように採れる。このゲームでは珍しいウハウハ状態である。
しばらく楽しいキー坊狩りをしていると、S君がふいにこんなことを言った。
「そう言えば、最初のキー坊に襲われるあたりに、右に入れるところあるじゃん?」
ああ、あるある。入るとすぐに崖で、なーんもなかったところね。俺がそう答えるとS君はかぶりを振り、つぎのように言ったではないか。
「俺もそう思っていたんだけど、じつは下りていくための道があったんだよ。けっこういいアイテムが落ちてたと思うよ」
な、なにぃぃぃぃ!! そんな道があったのか!! 俺はキー坊狩りをただちにやめ、その脇道に入っていくことにした。
行ってみるとなるほど、とても細くて見づらいが、森の下のほうに下りていく道があった。これは教えてもらわなかったら、一生気付かなかったに違いないと素直に思う。それくらい、わかりにくい。
俺は細い道を、警戒しながら下りていった。でもその途中、トカゲ(石守)がいるのを発見して瞬時に取り乱し、「トトト、トカゲだっ!!! ひひひ、光る楔石だ!!!」とわめいて猛ダッシュで近付く。トカゲからは、どんなに冷静でダンディーな男でも狂わせてしまう、特殊なフェロモンが出ているのだ。なので俺が冷静さを失ったところで、誰に責めることができようか。いや誰にも責められない。まあこの“心の無防備状態”で敵に襲われたら、どんなザコにも屠り去られる自信があるがね。
無事にトカゲを狩った俺は、再び前進を始めた。こんなに暗くて足場の悪いところでもしも黒騎士に襲われたら……なんてことを考えると、どうしても足がすくんでしまう。でも道が続く限りは、徹底して探索をしてみたい−−。そう考えるのが、このゲームのプレイヤーというものだ。
そんな俺の視界で、黒い影がユラりと揺れた。あ、あれはなんだ……? と思ったところでその影が急進し、とんでもない速さできらめく棒のようなものを振り下ろしたのがわかった。
ズバンッ!!
その光は、見事に俺の身体をとらえた。同時に、体力が猛烈な勢いで減っていく。な、なんていう攻撃力だ……。……まさかこいつは!! 大慌てでゴロンをしながら黒い影から距離を取り、その正体を確認しようとする俺。すると光る花の明かりに照らされて、その“暗殺者”の姿が浮かび上がった。俺、悲鳴にも似た声を上げる。
「く、黒騎士キタァァァア!!」
まさかここで、こいつに遭うなんてね……。
俺は細い道を後退しながら、必死になって立ち回った。一瞬、「崖の下に落としてしまえば被害が少なくて済むかも」と思ったが、ステキなものをドロップしてくれるかもしれないと思い、その考えはすぐに消す。
なるべく無理せず、距離を取り、ヒット&アウェイを心掛ける。
これまで幾多の黒騎士と戦ってきて得た“蓄積”だ。黒騎士はそれぞれ違う武器を背負っているので一概にこの方程式が当てはまるとは限らないが、基本の立ち回りはこれでいいと思う。結果、どうにかこうにか打ち倒すことに成功−−。先ほどの“トカゲフィーバー”のときに襲われていたら、ひとたまりもなかったろうな……。
そして俺は、黒騎士が落としていったアイテムを拾った。それは−−。
黒騎士の斧槍
手に持つと、まるで三国志の世界から抜け出てきたかのような、いかにも偉丈夫に似合いそうな武器に見えた。これを見て、S君とHが目を丸くする。
「ええ……?? また黒騎士が武器をドロップしたの!? 俺はひとつも出てないよ……。信じられない……」(S君)
「なんで『ダークソウル』だけそんなにドロップがいいの……?? ほかのゲームで、ますます素材が出なくなるよww」(H)
俺は装備した黒騎士の斧槍を振ってみた。すると、1発目の攻撃が出るスピードがすばらしく速く、隙も小さいことに気付く。基本物理攻撃力も230と優秀で、MAXまで育てれば強力な戦力になるのは間違いない。筋力補正が“D”というのが残念だったが、とりあえずこれは気にしないことにしよう。俺は、S君とHに宣言した。
「俺は、この黒騎士の斧槍をメイン武器にするよ。かっこいいし、何より強い!」
そして現在に至るまで、俺は黒騎士の斧槍を使い続けている(もちろん強さはMAX)。これよりも物理攻撃力が高いものや、属性が付いているものも所持しているが、攻撃のモーションやスピード、そしてルックスも合わせた“総合点”で、これを上回る武器がないんだよなあ(じつは最近、黒騎士の大斧に乗り換えようかなとちょっと思っているけど)。
“生涯の武器”を手に入れた俺は黒い森の庭を出て、再び病み村に向かった。
次回に続く。
【ダークソウル】第35回 静かな戦い
今日はリアルな出来事で心折れております。
想定外のはぐれ犬の襲撃に遭ってすべて(人間性3つと10000ソウル)を失い、心がボキリと真っ二つに折れてしまった俺。
「……ちょっと、滝に打たれて、頭、冷やしてくる……………」
HとS君に言って風呂場に行き、冷たい水のシャワーを浴びる。しかしその程度で心が浄化されるわけもなく、ただ寒くなっただけで風呂場から這い出た。
着替えてテレビの前に行くと、S君が自分のキャラを操作して見慣れぬフィールドを歩いていた。彼は若いだけあって俺よりも圧倒的にプレイヤースキルに恵まれているが、スコーンとヌケるところがあってなんでもないところで凡ミスをしたり、ムチャなチャレンジをして死亡したりする。そのときも、ザコ相手に立ち回っていて足を踏み外し、ぴゅるるるる〜〜〜と崖から落ちて転落死をしてみせた。
こうやって人が活躍(なのか?)しているのを見ると、すぐに自分でプレイしたくなる。『ダークソウル』で負った骨折を治すには、ほかの人のプレイを見て刺激を受けるのがイチバンなのかもしれない。
石橋の篝火を出発した俺は、盾を構えたまま慎重に前に進んでいった。物騒なこの土地は、突如暗闇から犬が飛び出してきたり、猛毒の吹き矢が飛んできたりするので、盾の陰に隠れでもしないと危なっかしくて動けないのだ。そうやってゆっくり進んでいくと、遠くの壁にやたらとでっかい、触手のようなものが貼り付いているのが見えた。俺、ゴクリとツバを飲み込みながらつぶやく。
「ナニあのでっかいの……。オブジェ?? まさかあんなのと戦う……なんてことはないよねえ^^;;;」
俺のつぶやきに、HもS君も薄く笑うだけで何も答えてくれなかった。
そして進むこと数分。恐れていた事態に遭遇する。なんと先ほど見たデカい触手が、俺が進みたい道の壁に貼り付いていたことが判明したのだ! どうやらヤツを倒さない限り、先には進めないらしい。
仕方ないので俺は剣を構えて、その触手(“壁虫”と言うらしい)に接近していった。経験上、こういった派手な怪物は得てして見かけ倒しで、拍子抜けするほどあっさりと倒せてしまうことを、俺は知っていたのである。
「うりゃー」
あまり気合の乗らない声で斬りつけようとすると、壁虫の触手がピョーンと伸びて、我が分身の身体を「バコッ」っと殴った。そして、
「YOU DIED」
「なんじゃそりゃああああ!!!」
目から殺人ビームを出さんばかりの勢いで(どんなだ)わめき散らす俺に向かって、S君が申し訳なさそうに言った。
「そいつ、攻撃力が超高いから、遠距離攻撃のほうがいいと思うよ^^;;;;;」
やられる前に言ってっ!!!!!
聞くとS君は、ソウルの矢系の魔法を連射して、難なくこいつを撃破して除けたそうだ。なーんだ。そうとわかればこっちも……と思ったところで、俺の額を冷や汗が伝う。
「またまた、肉弾問題浮上wwwww」
Hがケラケラと笑った。そう、すっかり忘れていたが、脳筋キャラの俺は遠距離の魔法攻撃をいっさい使うことができず(理力は初期値の8のまま。いまだに)、しかも「攻撃はすべて相手の懐に飛び込んで斬り刻めばヨシ!!」と考えていたので、弓系の武器にも見向きもしなかった。
「ジ・エ〜ンドwww」
わざと低い声でHが言う。笑いごとじゃねえ。ホントにここで“詰み”になっちまうぞ……。そんな、青い顔で震える俺に、S君が助け舟を出してくれた。
「それでもポツポツと拾っているはずなので、弓と矢はかなり持ってると思うよ〜」
慌てて装備画面を開くと、ナルホド確かに、粗末な弓と数十本の矢があるではないか! ヨシ、これで大丈夫だ。なんとかなるぞ。
俺は慣れない弓を構えて、壁虫に向かって「ぷちゅん」と矢を発射した。しかし壁虫はまったく表情を変えず(どこが顔だか知らんが)、効いているのか効いていないのかサッパリわからない。なんとなく、雪に向かって小便をしているような頼りなさを感じる。でも現状、これしか対抗手段を思いつかなかったので、俺は矢を放ち続けた。手応えはまったくない。
ぷちゅん。
「………」
ぷちゅん。
「……………」
ぷちゅん。
「………………」
ぷちゅん。
「……………………」
静かな静かな戦いが続いた。いくら矢を打たれても、壁虫は無表情を崩さない。S君が心配顔で「矢が足りるかな……」とつぶやく。確かに、もう残りは数本しかないぞ。これがなくなったら、俺はどうすればいいんだ……。
それでも、矢の残りが3本になったところで画面が銀色の光で覆われ、壁虫がジュワっと消え去ったのがわかった。「矢がなくなったら特攻するしかない><」と悲愴な覚悟を決めた矢先だったので、この勝利はうれしい。S君が安堵の表情でつぎのように言った。
「なんとかなったね! ……腹のほうに回り込めば剣でも楽に倒せるけど、いやあよかったよかったww」
そゆことはもっと早く言ってっ!!!!!
紆余曲折ありながらもひとつの壁を越えた俺は、さらに下方へと降りていった。いつの間にかザコ敵が、不気味な虫系のそれに変わっている。
(何かが近いぞ……)
と思ったらまさにその通りで、俺はいつの間にか広大な沼地の上に立っていた。しかもここ、立っているだけで毒の蓄積が溜まっていってしまう“毒沼”である。かつて『デモンズソウル』にも同じような毒沼があったが、俺はそこでさんざん死を重ねた苦い思い出があるため、この地形に立っただけで足が震える思いである。
「うわぁぁぁ……。またここかぁ……」
俺は顔をしかめながら、ジャボジャボと毒沼に踏み込んでいった。
次回に続く。
病み村で起きたあの出来事は、いったいなんだったのか? いまだに俺は、自問自答している。
なぜあんなところで、俺はヤツに噛みつかれたのか?
もう20日以上も前に起きたことなのに、頭にこびりついて離れない。意味がわからないんだ。
この世には、理屈や科学だけでは説明のつかない不思議な現象がたくさんある。
見えない怪物に事あるごとに咬まれて、全身に歯型がついている女性がいると聞く。旅先の同じ部屋で寝ている先輩が、なぜかドアをノックして入ってきたのを見た人がいるらしい(俺のことだが)。
心霊現象、ドッペルゲンガー、UMA、オーパーツ……。
どんなに脳ミソを大きくしたところで、人智の及ぶ場所なんて高が知れている。このうつし世には、わからないことが多すぎるんだ。
俺はそのとき、落としてしまった3つの人間性と10000ソウルを回収するために、病み村の薄暗い道を走っていた。
時間は、深夜2時過ぎ。そんな時間だったからもちろん、あたりには緑がかった暗闇が広がっていたよ(もともと病み村はこんな色だ)。心霊スポット巡りには、ピッタリの時間さ。でも俺には、そんなつもりはなかった。早く人間性とソウルを回収して、篝火で休みたかったんだ。
夜の田舎道は、そりゃあ危ない。外灯はポツポツとしか立っていないし、そもそも人通りが少ないから何かが起こっても助けすら呼べないだろう。女性のひとり歩きは厳禁だよ。俺はたまたま男キャラだったから、まだよかったんだけど……。
それでも、棍棒を持ったデブ(巨漢亡者)とか、やたらと吹き矢を飛ばしてくるガキ(蓑虫亡者)に絡まれてたいへんだったな。急いでいるってのに因縁付けられて、そりゃあ往生したよ。でもどうにかあしらって、問題の場所に着いたんだ。
そこは、ウッドデッキが崖のようになっている“いわくつき”のポイントで、転落事故が絶えないんだそうだ。というのも、崖の向こう側にいかにも怪しいアイテムが落ちていて、通行人を「おいで……おいで……」って誘っているんだよ。これを見た人は不思議と、そんな気はまったくなかったのにイソイソと後ずさり、助走距離をしっかり取ってからやおらダッシュを始めるんだ! そう、そのアイテムのところに跳んでいきたくなるのさ……。
え? 俺??
ああ、もちろん跳んださ。この崖の下に、さっき失った自分の人間性とソウルが落ちているのが見えたからね。ジャンプに失敗して向こう岸に渡れなくても、下で落としたものを回収すればいいと思ったから……。でも、これが間違いの始まりだったんだ−−!
このときも俺は、ジャンプに失敗した。どうも俺はこれが苦手で、1回や2回の挑戦で成功した試しがないんだよ。なので、こう思ったさ。「ソウルを回収してもう一度挑戦すればいいや」と……。
俺は、地面に着地した。しかしこの崖、体力満タンでもギリギリで命だけは助かる危険な高さで、俺はもちろん青色吐息。HPは残り数ミリになっちゃったよ。でも、これは想定内の出来事だ。
俺が落としたソウルと人間性は、着地点の真横にあった。ほんのちょっと横に移動して○ボタンを押せば、余裕で回収できる距離だ。
しかしここで、2匹の亡者が襲い掛かってくる。前述の通り体力は残り数ミリしかなかったので1回でも攻撃されれば死んでしまうところだが、俺は落ち着いていた。こいつらの攻撃は想定内だったからね。ちょろっとガードであしらったら、ソウルを回収しちゃおう。俺はそんな計画を立てていた。
しかし。
ここで悲劇が起こる−−。
1匹目の攻撃を盾でいなし、さあ落としたソウルを回収しようか……と思ったそのとき、いきなり画面外から真っ赤な犬が−−!!
「ガウガウガウガウガウッッ!!!!」
「ああッ!!!」と思ったときには、もう遅かった。ていうか、どうしようもなかった。
体力が残り数ミリしかなかった俺が赤い犬の奇襲に耐えられるわけもなく、一瞬で昇天……。3つの人間性と10000ソウルを目の前にしながら、息絶えてしまった……。
「うわあああぁぁああああ!!! なんだあの犬はああああ!!!」
喉から血が出るほどの大声で、俺は叫んだ。正直、本気で鼻血が出そうだった。まさかここで、見知らぬ赤犬に襲われるとは夢にも思わなかった……。
しかしここで、S君が不思議そうな表情でつぎのように言った。
「なんでここに犬が……?w 確かに病み村に赤犬は出るけど、こことは場所が違ったような……。相当遠くから走ってきたんじゃないかなw」
な、なに? この赤犬、つねにこのへんで暮らしているんじゃないの……??
「もっと下の階層だったと思うけど……。しかも、場所もかなり遠かった気がするけどなあ……」
俺は釈然としないまま篝火で復活し、今度は無事にアイテムをゲット(居合い刀だった)。先ほど自分が死んだ地点に下りてみた。しかし、襲い来たのは2匹の亡者だけで、赤い犬などどこにも見えない。しばらく待っていたらくるのかと思ってポケーッと突っ立っていたが、犬どころか猫もネズミも蚊も、やってきてはくれなかった。
「お、おかしい……。さっきの赤犬はなんだったの……???」
この世には、理屈や科学だけでは説明のつかない不思議な現象がたくさんある−−。
■後日談
翌日、階下の石橋の上にあった篝火で休息し、その先に進んでいくと、遠くから「ガウガウ!」と言いながら接近してくる赤い影があった。……そう、例の赤犬!! 俺の人間性とソウルを奪った、憎っくきアイツである。
しかし……。
その場所は、俺が襲われて命を落としたところから遠く離れていた。階層も、違うと思う。なぜあのときだけ、ソウルと人間性を回収したかったあのときだけ、この犬は襲い来たのだろうか−−? いまだこの謎は解き明かされていない。
ただ頭をよぎるのは、“落魂殺強の法則”。これだけだ……。
【ダークソウル】第33回 個性派山賊、病み村を行く
数回の挑戦で見事“貪食ドラゴン”を降し、“病み村”に入るための鍵を手に入れた俺。新しいエリアに足を踏み入れるときがきたのだ。
それにしても病み村とは、来訪者を歓迎する意志がまったくないことがわかる村名である。オカルト好きの俺は、いわく付きの村に関する都市伝説もしこたま読んでいるが、こんなドストレートなイヤな名前は見たことがない。正直、あんま入りたくない。
「うーん……」
この期に及んで尻込みし、病み村への扉の前を行ったり来たりしていると、その壁際に人が座っているのが見えた。黄金色の兜と鎧を身に着けていたため、まったく気付かなかったわ。
「だ、誰? このしと……」
敵にも味方にも見えるこのNPCに近寄れずにいると、Hが「あ」と言って助け舟を出してくれた。
「その人、商人だよ。ゼナのドーナル。けっこういいものを売ってたはず」
な、なんだ商人か……。ビビるから看板でも立てとけよまったく……。
▲「ドーナルの店で買ったらどーなる!?」。全国で10万人は同じことを言ったはず。
しかし、まだ見ぬ忌まわしき病み村(まだ見てないんだから忌まわしいかどうか知らんが)を前に、新たな店を発見したのは僥倖以外のナニモノでもない。俺はさっそくドーナルに話しかけ、商品リストを見せてもらった。すると確かに、値段はそれなりに張るが、よさげなものがたくさん売られているではないか。いやあ、より取り見取りだな。どうしようかなぁ〜♪
俺がおもちゃ売り場を前にした子どものように目を輝かせていると、S君がこんなことを言った。
「貪食ドラゴンを倒して得たソウルが25000もあるからね。何に使うか、迷うよなー」
倒すのに夢中でよく見ていなかったが、俺はそのとき、貪食ドラゴンを倒して得た25000ソウルと、それまでに持っていたものを合わせて35000ソウル以上を持っていた。こんな大金(大魂?)、序盤ではなかなか持つことはできないぞ。大事に使わないとな。
ざっと見たところ、ドーナルの店のメインの売り物は、“ゼナ”に伝わる防具のようだった。知恵者の兜、名誉者の鎧、獲得者の篭手、探索者の長靴がひと揃いで、全身をこれにすると目の前にいるドーナルと同じ格好になるっぽい。金色で2本の角が突き出したこの防具を、かっこいいと見るかダサいと見るかは好みの分かれるところだろうが、俺は瞬時に「イイ!」と思った。とくに上半身は山羊座(カプリコーン)の黄金聖衣(ゴールドクロス)のようでステキこのうえない。なので、俺は言った。
「ヨシ。見た目もいいし、性能も優秀なので、俺はとりあえず“名誉者の鎧”を買うことにするよ」
すぐに俺は15000ソウルを支払い、名誉者の鎧を手に入れた。こんな大きな買い物は『ダークソウル』始まって以来のことだったので、払うときには手が震えたよ……。俺が鎧を買ったのを見て、Hがこんなことを言った。
「おもしろーい。貪食ドラゴンで手に入れたソウルの使い道、これで3人ともバラバラになったよ。私はこれで指輪を、S君は魔法を買ったんだよね」
プレイヤーの好みで自由にキャラ育成ができるゲームは、これだから楽しい。
俺はさっそく、買ったばかりの名誉者の鎧を着てみた。この鎧は金色のコインと宝剣(?)が前面に奢られた豪華な造りで、名前の通り誉れ高い逸品な気がする。うん、似合う似合う。よーし、続いて知恵者の兜を買って装着するかな……。
そう思って再びドーナルに話し掛けようと思ったところで、S君がこんなことを言った。「なんか重そうだけど、ゴロン(前転)してみれば?」と。いくら防御力が優れた装備でも、自分の装備重量の限界を超えてしまと機動力が死んでしまい、立ち回りで超重要なゴロンがぎこちないものになってしまう。なので新しい装備を手に入れたらとりあえず身に着けて、ゴロンを試してみるのがセオリーのひとつなのだ。
俺はS君の提案にコクンと頷き、すぐに前転のボタンを押した。すると……。
がっしゃーーーーん…………。
ちょ……。
装備が重すぎて軽快なゴロンができず、地面でひしゃげちまったじゃねえか……。
「重っwww」
Hが笑った。笑いごとじゃねえ。このフットワークの重さは、肉弾キャラには致命的だ。なんとかしないと、俺の15000ソウルが無駄になる!!
こうなってしまったとき、我々はどうすればいいのか? もっとも簡単なのは、とりあえず名誉者の鎧を装備することを諦め、レベルアップのたびに“持久力”に数値を振って装備重量を伸ばす方法だ。こうすればじょじょに装備重量の限界値が増え、名誉者の鎧を着ても問題なくなるだろう。
しかし、この方法は時間がかかるし、なにより俺はレベルアップのポイントはすべて筋力に振りたいのだ。なので、別の手を実行することにした。
手始めに、頭に装備していた“山賊の頭巾”を脱ぎ捨てて“ずた袋”をかぶった。その状態でゴロンをしてみたがまだ重かったので、やむを得ず腕の装備も軽いものに変える。ここでHが、俺がやろうとしていることに気が付いた。
「ほかの部分の装備を軽くして、強引に鎧を着る気だww」
その通り。15000ソウルを無駄にするわけにはいかぬ。
しかし残念なことに、腕の装備を変えてもゴロンはぎこちないままだった。そこで俺はしかたなく、足の装備を脱ぎ捨てる……。寒そうに見えたが、これも名誉者の鎧を着るためだ。しかたねえしかたねえ。
この努力の甲斐あってようやく、我が分身は軽快なフットワークを手に入れることに成功する。だがその代償は大きく、俺の格好はつぎのようなものになってしまった。
頭:ずた袋
胴:名誉者の鎧
腕:裸
足:裸
「うっひょっひょっ〜〜〜!!」
この格好でクルンクルンと前転をくり返す俺。いやあ、軽い! これはすばらしい装備だ! しかし、頭にずた袋をかぶった半裸の山賊の姿にショックを受けたらしく、Hが苦々しい顔で吐き捨てた。
「なにその格好……………。……変態じゃん!!w」
俺はまったく聞く耳を持たず、この格好のまま病み村への扉を開けた。見ると、いつの間にか人間性が3も貯まっており、ソウルも10000以上残っている。ヘタなことをしてコレを失ってしまったら、俺は二度と立ち直れないかもしれない。なので多少ヘンな格好でも、防御力に優れたものを身に着けておくのに越したことはないのだ。
慎重に慎重に、病み村への道を進む。いつしかまわりの景色は薄暗く緑がかり、不気味この上ない様相を呈している。暗がりから突然、お化けが飛び出してくる気がしてならない。こいつは完全に肝試しじゃねえか……。
実際、俺は何度も口から心臓が飛び出しそうになった。棍棒を持った粗暴なデブ(巨漢亡者)に突如襲われたかと思ったら、今度は物陰からピュンピュンと針のようなものが飛んでくる。「なんだコレ」と思って1発だけ身体で受けると、猛烈な勢いで毒の数値が上がっていくではないか。まったくもって、油断がならない。
それでもどうにか緑色の地域を越えて、粗末なやぐらが積み重なったような、病み村のメインストリート(なのか?)までやって来た。するとさっそく、ちょっと離れたところにアイテムが……。でも取るためには、ジャンプして崖を飛び越えなければならない。さすがに俺は躊躇する。体力が満タンじゃなかったし、なんたっていま俺は人間性を3つも持っているのだ。
「あれ、けっこういいものだったと思うよ」
S君が言った。これを聞いた瞬間に俺はすべてのリスクを忘れ、崖の向こうにビョ〜ンとジャンプ。しかし……。
ぴゅ〜〜〜ぅるるるるるぅぅぅぅぅ…………。
奈落の底に落ちていく俺……。すると画面に例の文字。
「YOU DIED」
「…………………………………」(俺)
「^^;;;;;;;;;;;」(S君)
「wwwwwwwwwwwww」(H)
↑この数行、昨日のプレイ日記をガチコピペしました。だって我ながら、毎日同じようなミスをしているんだもの……。手を抜いてゴメンナサイ。
でも、一度の失敗は気にしなくていいのだ。ソウルを回収すれば済むことなんだから。
しかし病み村の悲劇は、ここから始まる……。
次回に続く。
目の前に現れた最下層のデーモン“貪食ドラゴン”は、とんでもないルックスをしていた。どこが頭で、どこが身体なのかよくわからず、それどころか俺が斬る前から腹がガバッと裂けてしまっている。むき出しになっている白い骨状のものは、あばら骨だろうか。これほどヒドい開放骨折は、全治12ヵ月どころじゃ済まない、再起不能の大ケガであろう。
しかし、貪食ドラゴンは裂けた腹など気にするふうでもなく、巨体のわりには細長い足をバタバタと動かして猛スピードで接近してくる。その姿は超巨大なカマドウマか、世界三大奇虫の“ウデムシ”のよう。要するに、あまり気持ちのいい姿ではない。
「うーん……。キモい……」
俺はとりあえずR3ボタンを押し、貪食ドラゴンをロックオンした。そして円を描くように時計回りに回りながら、とりあえず相手の出かたを見ることにする。デーモン戦でいつも行う、俺の常套手段である。
そんな、慎重に徹しようとする俺を前に、貪食ドラゴンは上半身(なのか?)を下げるような仕草をした。なんとなく、隙があるように見える。会ったばかりなので確証はなかったが、これは絶好のチャンスなのかもしれない。俺は一気に距離を詰め、黒騎士の剣をズバッ!! と振った。
ギュイーーーン!!
貪食ドラゴンの体力ゲージが、すばらしい勢いで減少する。おおお、イケる!! このまま畳み掛けるぞ!! 興奮した俺は、R1ボタンを連打した。こいつは挑戦1回目で、あっさりとクリアーしちまいそうだぞ。
しかし、俺の攻撃ターンは1発目を当てたところで終わりました(早っ!)。
2回目の攻撃が当たる瞬間に貪食ドラゴンが突進をくり出し、俺はものの見事に轢き潰されてしまったのだ。画面は巨大なデーモンに埋め尽くされ、俺は自分がどんな格好をしているのかもわからなくなった。しっちゃかめっちゃかもいいところだ。
それでもなんとか体勢を立て直し、俺は貪食ドラゴンとの距離をあけようとした。しかし、ヤツは巨体をうまく利用して敵との最短距離を移動するように心掛けているらしく、なかなかセーフティーゾーンに逃げることができない。どこに脳があるのかもわからない姿をしているくせに、なんて知能的でイヤらしい動きをしてくるんだろう。俺は激しくイラつきながら吐き捨てた。
「あーもう! ちょっとほっといてくれよ!! 仕切り直させろっ!!」
しかし、その異形はいまや目の前。こっちに考える時間を与えないつもりか。
(こりゃもう、ガチで突っ込むしかないか……)
そんなことを思った瞬間だった。
いきなり目の前の貪食ドラゴンが飛び上がったかと思ったら、なんと我が分身の脳天に落下!! プロレスで言うところの“ヒップドロップ”をかましてきたのである。かつてヒップドロップ、ヒッププッシュと言えば故アンドレ・ザ・ジャイアントの必殺技であったが、この貪食ドラゴンは“人間山脈”と呼ばれたアンドレの、さらに100倍くらいは大きく見える。突進のダメージから回復していなかった俺がそんな圧殺に耐えられるわけもなく、あっさりと1敗目……。でも俺は、ひとつの作戦を思いつく。
「どうも、中途半端に距離をとってしまうのがいけないらしい。つぎは思い切って懐に飛び込み、肉弾戦を挑むことにするよ」
S君とHのふたりに告げ、俺は2回目の挑戦に出発した。
そして2回目。俺は作戦に則って遠慮なく貪食ドラゴンに接近し、真正面から斬りかかろうとした。すると貪食ドラゴンは右腕を「にゅ」っと伸ばし、我が分身をグワシとつかんで、例のあばら骨ゾーンにポイッと放り込みやがったではないか!! そして、ムシャムシャムシャ……。YOU DIED……。
「わあああああああっっっ!!!」
俺は悲鳴を上げた。ななな、なんだアレは!! あ、あばら骨じゃなかったのかよ!!
「あそこ、口だったんだね^^;;;」とS君。
「く、食われた……www」とH。
“貪食”の異名は伊達ではなく、ヤツは右手につかんだものを手当たりしだいに巨大な口に放り込み、ボキボキムシャムシャと“貪り食う”ようだ……。しかも、これをされたらほぼ即死か……。
しかし、俺は転んでもタダでは起きない男。またもや、新たな作戦を思いつく。
「どうも、ヘタに距離を縮めてしまうのがいけないらしい。つぎは思い切って逃げ回り、ヒット&アウェイを心掛けることにするよ」
刺身にされて食われたショックを引きずりながらも、俺は3度目の挑戦のために篝火を飛び出した。
そして3回目。俺は作戦に則って遠慮なく貪食ドラゴンの脇を通り、エリアの最深部まで突っ走った。貪食ドラゴンは、遥か後方。でも、この際だからもっと距離を取ってやれ。俺はスピードを緩めず走り続けた。その様子を見て、S君が素っ頓狂な声を上げる。
「あっ!!! それ以上進むと落ち……!!!」
S君が言い終わらぬうちに、俺のキャラが突然画面から消えた。そして。
ぴゅ〜〜〜ぅるるるるるぅぅぅぅぅ…………。
奈落の底に落ちていく俺……。すると画面に例の文字。
「YOU DIED」
「…………………………………」(俺)
「^^;;;;;;;;;;;」(S君)
「wwwwwwwwwwwww」(H)
ここの端っこ、崖になってたのネ……。
けっきょく俺はこの後も貪食ドラゴンにいたぶられ続け、10回ほど挑戦するハメになる。しかしやっていくうちに、
・突進を誘い、壁に突っ込ませるとしばらく動きが止まる
・ロックオンにはこだわらずに走り回って、貪食ドラゴンに隙ができるのを待つ
・右手のあたりには近づかない……
・尻尾を斬る!
・「あと1回!」の思いを捨てる!
などという立ち回り方法にたどり着き、見事撃破に成功。尻尾から“ドラゴンウェポン”のひとつである“竜王の大斧”も手に入れることができた。そして、つぎの目的地への通行手形とも言える“病み村の鍵”も……。
「つぎは“病み村”か……。なんか、『デモンズソウル』のときの“腐れ谷”と似た響きで、じつにイヤな予感が……」
そう言う俺に、S君は暗い声で応えた。
「うん……。その予感、正しいと思う……」
俺はゴクリと、ツバを飲み込んだ。
次回に続く。
【ダークソウル】第31回 エスト瓶は貯まらない
昨日はわけのわからない妄言をつらつらと綴ってしまい、申し訳ありませんでした。今日よりさらに気合を入れて、トンデモないことを書いていこうと思います。
さて。
最下層での不毛な活動(ソウルが貯まったと思った瞬間に死亡する。通称・落魂殺強の法則)にいいかげん嫌気がさし、「もういいや……。先に進んじゃおう……」と心に決めた俺。最下層の、さらに奥まった部分で発見した光の入り口に入ることを決意した。きっとあの向こうに、このエリアを牛耳るデーモンがいるのであろう。
俺は篝火の横で手に汗をにじませながら、決戦の準備を始めた。しかしすぐに、致命的な“欠落点”に気が付く。
「う……。この篝火、注ぎ火をしていないから、エスト瓶が5回しか使えないぞ……」
そう、俺はこの期に及んで人間性の使用をケチり、篝火の強化をしていなかったのだ。これではいくら触っても、この篝火ではエスト瓶は5回使用にしかならない。
「さすがに、ここのボス相手にエスト瓶5回じゃキツいかもね^^; 人間性、使っちゃえば?」
S君が言った。まあ確かに、アイテム“人間性”はけっこう溜め込んでいるし、いまのところ他の使い道はなさそうなので、ひとつやふたつ使ったところで大勢に影響はなさそう。しかし俺は、首を縦には振らなかった。
「もったいない。あとで何があるかわからないのだから、貯金(人間性のこと)を切り崩すわけにはいきませぬ。なので一度、火継ぎの祭祀場に戻ってエスト瓶を10にして、ここに戻ってくることにします」
言うが早いか、俺は火継ぎの祭祀場に向けて走り出した。それなりに距離はあるが道中に現れるのはしょせんザコなので、問題なく満タンのエスト瓶をこの篝火まで持ち帰れるだろう。
火継ぎの祭祀場でエスト瓶をフルにした俺は、来た道を引き返し始めた。するとさっそく、水路の手前の細い道で亡者どもが襲い掛かってくる。
「どけどけ。俺は急いでいるのだ!」
言うやいなや、いちばん手前の亡者に攻撃をしようとした俺。するとその脳天に、別の亡者が投げた火薬壺がボカンと直撃した。当然、我が分身は火だるまである。
「…………」
かなりの体力が、火薬壺の攻撃で削られてしまった。このままでは命の危険もありうるので、俺は仕方なくエスト瓶に口を付ける。
「10回も使えるんだ。1回くらいいいや……」
そんなことを口走りながら。
気を取り直して、俺は手前の亡者を斬り捨てた。そしてその勢いを駆って、崖の奥のほうに陣取っている盾を持った亡者に駆け寄ろうとする。『ダークソウル』は敵のシツコさが尋常ではなく、シカトしてもずっと付いて(憑いて?)くるので、目が合ってしまったら戦うしかない。しかし駆け寄る途中で、またまた火薬壺がド頭を直撃した。そして「!!!」ともがいているうちに、盾の亡者にズバッと攻撃をされる。これにより、俺の体力はあっさりと半分以下になってしまった。
「………………」
俺はゴキュゴキュと2回、エスト瓶をあおった。「ま、まあいいや。エスト瓶はたんまりとあるんだ……」と言いながら。
そんなことをくり返しているうちに、俺のエスト瓶はいつの間にか残り4回分にまで激減していた。より多くのエスト瓶を持って最下層のボスに挑む……どころか、エスト瓶の大赤字を引き起こしている。誰が悪いんだコレは。亡者か! 火薬壺か!?
「まさに本末転倒www」
笑いながらHが指摘した。どうして俺は、こういう理不尽な不幸にばかり見舞われるのであろうか……(自分が悪い)。
それでも俺は意地になって篝火の強化を拒み、わざわざ火継ぎの祭祀場から最下層に通う道を選択した。その道のりは長く、辛いもので、毎日1時間半以上の時間をかけて通勤しているオノレの姿とオーバーラップするものがある。
「もっと会社に近いところに、いい部屋を借りようか……」
そんな誘惑にかられることもあったが、ここで妥協すると老後に後悔すると思ったので、俺は頑として篝火の強化はしなかった。ていうか、何の話をしているのか自分でもわけがわからなくなってきた。
無事にエスト瓶を10回分持ち込めたとき、俺は意を決して光の入り口をくぐった。しかしそこはまだデーモンの棲家ではなく、細い階段が伸びる通路である。
慎重に、その道を進む俺。途中、イヤらしい攻撃をしてくる六目の伝道者と出会ったので怒りとともに一刀両断し、さらに奥に進む。するとまたもや、光の入り口……。どうやらこの奥が、決戦場のようだ。
「よし、行くぞ……」
光の入り口に吸い込まれる我が分身。すると、何やら物騒なムービーが流れて、見たこともない凶悪な姿をしたドラゴンが眼前に現れたではないか!!
「うわ!!! なんだこいつ……!!」
貪食ドラゴンとの戦いが始まった−−。
次回に続く。
このプレイ日記、もう30回かよ!!
と、自分で驚いております。これ、過去最高のペースなんじゃないかなぁ……。書いてること、まだゲームの序盤だっていうのにね……(苦笑)。
さて。
いよいよ先に進む気になった俺は、急いで最下層に戻った。そしてバジリスクの襲撃に怯えつつ、まだチェックしていなかった道を中心に薄暗い迷路をウロウロする。正直、どこをどう歩いているのか途中からサッパリわからなくなっていたのだが、階段やら梯子をいくつも上り下りしているうちに、開いていなかった扉の前にたどり着いた。
「なんだ? この扉は……」
「とりあえず扉とタンスと本棚は触ってみろ」が俺がRPGをプレイするうえでの鉄則なので、この扉にも迷わずタッチしてみる。すると、どこで拾ったのか“下水部屋の鍵”というものを俺は持っていたらしく、扉がギギギと開きましたとさ。見るとその先には篝火が……!
「やった!! 最下層の拠点ができた!!」
大喜びで篝火に近づき、抱きしめんばかりの勢いでそれに触れる。嫌悪感しか感じない最下層において、ようやく人心地付ける空間を手に入れた瞬間だった。冬のさなかに迷路のような古城で道に迷い、「もうダメだ……。寒いし、心細いしで死んでしまう……><」と絶望しながらも、ふと前を見たらポカポカのコタツがある部屋を発見した……ってときの喜びに似ている気がする。そんな経験は一度としてないが、たぶんそうだ。
この篝火をベースキャンプとし、俺はアイテムやソウルの収集を始めた。犬ネズミからは人間性が採れることがあるし、“うごめく腐肉”(ゼリー状のヤツね)からは稀に楔石の大欠片が剥げることがある。そういう意味では最下層は、素材集めをするにはなかなか悪くない場所とも言える。……しかし、パッと見がゼリーなので「食ったら悪くないかも?」とまで思っていたゼリー状のコイツ、正式名称調べたら“うごめく腐肉”だったのな!! 漢字をあてたら“蠢く腐肉”でしょ? ハラ壊すわ!! って、これは思いっきり余談でした。
ところがここで、俺はまたしてもバカなことをしてしまう。
最下層の最深部あたりを彷徨っていたとき、人間性がふたつも溜まっていることに気が付いた。これでさっきの篝火で、“生者に復活→篝火に注ぎ火”の必殺コンボができることになる。ソウルも20000以上になっており、レベルアップできることは確実の情勢だ。俺は急いで、件の篝火に戻ろうとした。
しかしここで、俺はうごめく腐肉に襲われて、あろうことか命を落としてしまう。動きが鈍重で迫力もないので、うごめく腐肉は基本的にチョロい相手なのだが、油断して飛びつかれると精気を吸い取られて呆気なく命を奪われてしまう。このときが、まさにそうだった。
「く……。あのスライム野郎、生かしちゃおかねえ!」
油断をして命を落としたが、ソウルと人間性は回収可能だ。例の篝火で復活した俺は、脇目も振らずにうごめく腐肉のもとに走ろうとする。そのためにはまず、篝火の部屋を出たところにいる亡者を倒さねばならない。松明を持ってはいるが、まず問題ないだろう。
ところが、『ダークソウル』プレイヤーの誰もが経験があると思うが、こういうときに限って攻撃と防御のタイミングがバランスを崩し、敵に付け入る隙を与えてしまう。「1発入れば倒せる」と思っているものだからタイミングもクソもなく敵の懐に入り、見事にカウンターを当てられて、ちょっと信じがたいほどのダメージを食らってしまうのだ。そこでさすがに目が覚めて慎重に立ち回ろうとするも、崩れたバランスはすぐにはもとに戻らず、敵に追撃を許す……。
そして、絶命……。
「うわあああああ!!! お、俺の人間性が!!! 俺の20000ソウルが!!」
その後、アノール・ロンドで数十万ソウルを無駄にしたことを思えば20000ソウルくらいミミズのヨダレにもならない微々たるものなのだが、このときは“とてつもない損失を出した”としか思えなかった。ひとり暮らしを始めて間もないころ、その月の生活費をすべてパチンコに吸い込まれて途方に暮れた、20年前の夏を思い出してしまった。
そして俺はこれと同じようなミスを、いまだにくり返している(生活費を使い込んだほうじゃないぞ)。
たとえば、何度も何度も同じところで死んでしまうもしぶとくソウルだけは回収し続けたことで、手持ちのソウルが40000を超えたことがあった。これだけあれば相当な豪遊ができるので、俺は思うわけだ。「いま死んで落としたソウルを回収したら、レベルアップと武器の強化をしよう」なんてことを。で、ソウルの回収に向かうんだけど、そのときに限って攻撃と防御がうまくいかず、なんでもないザコに殺されて40000ソウルは露と消える……。「もうこれ以上のムチャはやめよう」とか「つぎでおしまいにしよう」なんて思ったとたんに手元が狂って死亡することがあまりにも多すぎ、見ているS君とHはいつも呆れている。「ヒデ君って、こういうときに限って死ぬよね……」と……。
でも俺は、自分だけが悪いとは思っていない。なぜかと言うと最近、あることに気付いてしまったからだ。
もしもこの発言が世に出たら、俺は消されるかもしれない。でもすべての『ダークソウル』プレイヤーのために、命を賭して発言する。それは−−!
“落としてあるソウルが多いときほど、敵の攻撃が積極的かつ苛烈になって、明らかにプレイヤーを殺しに来る−−!”
ってこと−−!! これは間違いなく、『ダークソウル』の奥底に潜んでいる真理のひとつであろう。
俺は鼻の穴を膨らませて、HとS君にこの真理の存在を告げた。しかし、ふたりは「あはははは!!」と腹を抱えて笑いながら、口々にこんなことを言うのだ。
「超気のせい!!www そんなこと思うの、ヒデ君だけだよ!!www」(S君)
「それ、まぎれもない被害妄想じゃん!!www あーおなか痛いwww」(H)
愚かな……。
いつか俺の言ったことを思い出して、激しく後悔することになるぞ……。
今回の発見を“落下ソウルの増加が及ぼす敵の殺気強化の法則”(通称・落魂殺強の法則)と名付けて、近く学会で発表しようと思う。
……次回はホントに“貪食ドラゴン”のことを書きます!w
俺はその後も幾度となくハベルの戦士に挑み、そして敗北を重ねていった。ハベルの戦士は攻撃力がハンパないことに加えてHPが非常に高く、2、3回斬ったくらいではビクともしてくれない。よって、俺は何度も何度も危険な間合いに踏み込まなければならず、そのたびに致命的な攻撃を食らって「YOU DIED」を刻んだ。こいつはやみ雲に突っ込むだけでは、無駄に死ぬだけだぞ。
「こうなったら……“アレ”をやるしかないな」
俺は決意のこもった口調でつぶやいた。これに対し、Hが間髪入れずに突っ込んでくる。
「どうせまた“火薬壺”でしょw 困ったときの火薬壺ww」
まさしくその通りだったが、図星過ぎてついつい強がりを言ってしまう俺。
「ち、違う。も、もっとすごい作戦考え付いた」
高台に上った瞬間にハシゴを自分でボカンと倒し、「ハシゴが倒れた! どうすりゃいいんだ!」と騒ぐチンパンジーになったような気がした。
俺は再度、ハベルの戦士のもとに走った。「今度こそ!」の思いを胸に秘めて−−。
見張り塔下層に行くと、さっそく俺を見つけたハベルの戦士が階段を上ってきた。すでに10連敗くらいしていたので、こやつもすっかり“トラウマ戦士”のひとりである。その姿を見た瞬間、俺はいろいろなところが縮み上がり(心臓とか肝っ玉とかね。一応)、背中には悪寒が駆け抜ける。でも、緊張している場合ではない。まずは1個めの火薬壺をぶち当てなくては!! 俺は迷わず、□ボタンを強く押した。
ゴキュゴキュッ!!
やおらエスト瓶を取り出した我が分身は、体力満タンのくせにそれをラッパ飲みしやがったではないか!! 緊張のあまり、アイテムウインドを火薬壺にするのをすっかり忘れていたらしい。
「ちょっとwww いきなりエスト瓶をあおるのが“すごい作戦”?ww」
笑いながらHが指摘した。俺、ヤケクソで応じる。
「う、うむ。“体力満タンなのにエスト瓶をガブ飲みするほど俺は余裕があるんだぜ〜!”ってことを、ハベルの戦士にひけらかしているワケ」
言いながら、(しかしそれは、まったく意味も利点もないナ)と俺は心の中で自分にツッコミを入れた。
貴重なエスト瓶をさっそく1本ムダにしたところで、本格的な戦闘が始まった。とりあえず連敗続きの悪い流れを押しとどめようと、階段を後ろ向きに上りながら火薬壺をひとつ、ハベルの戦士に投げつける。ところが見事に盾で受け止められ、セミの小便ほどもダメージを与えることができない(どんなたとえだ)。
「新しい流れ、いっさい起こらず」
S君が冷静な声で分析した。
けっきょくこの回も、俺はハベルの戦士にミンチにされた。火薬壺に固執するあまり立ち回りがメチャクチャになり、剣をガチャガチャと振り回しただけのときよりあっさりと仕留められてしまったのだ。
その後も俺はいろいろな作戦を考え、ハベルの戦士にぶつけてみた。ハベルの戦士に出会ったら脇目も振らずに階段を駆け上がって最上階で戦うとか(場所が変わっただけで意味ナシ)、青い涙石の指輪をはめて土壇場の防御力を上げるとかとか(その効果を感じる間もなくYOU DIED)。しかしどれも劇的な効果を発揮することなく、俺は屍をさらし続けた。
それでも、俺は腐らなかった。画面に「YOU DIED」の文字を見ながら、S君に言う。
「ハベルは、武器と盾を両方構えているときと、武器を両手持ちにしているときがあるよね?」
S君は「うんうん」と頷いた。
「そうなんだよ。片手持ちのときはガードが堅いけど、両手持ちのときは攻撃が通ると思う。盾がないから。ただ、両手持ちでの叩き付けを食らったら、即死確実だと思うけどね……」
失敗は決してムダじゃない。くり返し挑むことで、初めて見えることもあるのだ。俺は決意の表情でHとS君に告げた。
「小細工を弄せず、動きだけをしっかりと追って、ガチで挑むことにする」
そして俺は、何度目かのハベル戦に臨んだ。階段を駆け上ることもせず、火薬壺も使わない、完全なるガチンコだ。
俺は、例のフォークダンスの距離で、ハベルの戦士と対峙した。そしてヤツの攻撃を誘うためにわざと間合いに入り、挑発をくり返すた。すると思った通り、誘いに乗ったハベルの戦士は重い鉈を叩き付け、攻撃後の大きな隙を作った。すかさずそこに飛び込み、黒騎士の剣を一閃。頑丈な鎧を切り裂く。
「いける!!」
調子に乗ってもう一撃をくわえようと剣を振り上げると、さっそくそこに強烈な返し技を食らってしまった。それだけで、我が体力は残り数ミリである。
「!!!!!!」
慌てて前転して距離を取り、エスト瓶をガブ飲み。見守っていたオーディエンスから「またそれかい!!w ホントに成長しないな!!ww」と嘲笑にも聞こえる悲鳴が上がった。
でもこのミスのおかげか、俺はさらに冷静になった。ハベルの戦士の右腕側に張り付き、時計回りにグルグルと回る。攻撃を盾で防がれると大きな隙ができてしまうので、この立ち回りを選んだのだ。するとすぐに、ハベルの戦士が武器を両手に構えた−−!
「キタ!! 1発食らったらおしまいだけど、最大のチャンスでもあるこのときが!!」
ハベルの戦士は満身の力で、重い重いその武器を叩き付けてきた。その衝撃で地面が爆発したかのように、白く弾け散る。やっぱりこの攻撃は脅威だ。絶対に、食らっちゃいけない……。
俺は内心ビビりながらも果敢に間合いに踏み込み、小さな攻撃をチクチクと当てていった。盾を構えていないのですべての攻撃が入り、じわじわと体力を削ることに成功する。相手の攻撃はすべて、決死の前転で避けた。もう、必死もいいところだった。
そして−−。
挑戦15回目くらいにしてようやく、俺はハベルの戦士を撃破する。デカい怪物ではない、人間の匂いがする戦士だったが、その強さはデーモンに勝るとも劣らない尊敬に値するレベルにあった。
しかもハベルの戦士からは“ハベルの指輪”というステキな指輪が手に入った。装備重量が1.5倍になるという強烈な効果を秘めているもので、その後ずっと、俺の指にはめられることになる。
「よし、いよいよ先に進むか!」
俺は一路、最下層を目指した。あそこには、待たせているヤツがいるのだ。
次回から“貪食ドラゴン”戦です!
【ダークソウル】第28回 ハベルの戦士 (その2)
昨日の記事にある通り、見張り塔下層に陣取る重戦車・ハベルの戦士と戦うことになったわけだが、いやはやこいつにも苦労したよ……。たぶん、少なく見ても15回は返り討ちにあったはず。我ながらホントにプレイヤースキルが低いなと思うが、それほどまでにこの戦士は強いのである。
そうそう、せっかくの機会なので、俺が苦労した“『ダークソウル』の壁リスト”を掲載しちゃおう。まだこのコラムで書いていないものも多数含まれているけど、そのへんは今後のお楽しみに……。(★の数が多いほど壁が高かったことを表します。★は1、☆は0.5)
●塔の黒騎士……★★★
●鐘のガーゴイル……★★★☆
●山羊頭のデーモン……★★★
●楔のデーモン(鍛冶屋の下)……★★★
●バジリスクの呪い……★★★★
●ハベルの戦士……★★★☆
●貪食ドラゴン……★★★☆
●混沌の魔女クラーグ……★★★★
●センの古城全般……★★★★★
●爛れ続けるもの……★★★★★
●アノール・ロンドの弓を撃ってくる2名の銀騎士……★★★★★★★★★★
●竜狩りのオーンスタイン&処刑者スモウ……★×120個
改めてリストアップすると、さんざん「苦労した! 心が折れた!」と書いた塔の黒騎士や鐘のガーゴイルですら、その後に登場する“殺戮者軍団”と比べるとスズメかイモムシ程度のチョロいものに見える。いや実際、いつか書くことになるアノール・ロンドでの出来事は、俺の30年に及ぶゲーム史の中でも最上級にランクされる“心折れ事件”だったので、ほかのものとは比べ物にならないのだ。嗚呼……。思い出しただけで心折れそうだ……。
さて、このリストにもある“ハベルの戦士”の続きを書こう。
初めて見たハベルの戦士は、いかにも重そうな鎧で全身を覆い、ズシズシとゆっくり歩いていた。金属の覆いは素肌をいっさい露出することなくビッチリと身体を包んでおり、いかなる攻撃も跳ね返しそうな表情を見せている。手にした盾も屈強そうで、ガチャプレイの攻撃なんかすべて捌かれてしまうだろうことがはっきりと見て取れた。
そして何より恐ろしげなのが、肩に担がれた武器だ。鉄のカタマリから強引に切り出してきたような武骨なルックスは鈍器にも刃物にも見え、間違いなく「当たったら痛いだろうナ」と確信できる(あたりめーだ)。現実世界にある刃物でもっとも近いのは“鉈(なた)”だと思うが、鉈にしては大き過ぎるし、何よりもまとっているオーラが物騒過ぎた。
ハベルの戦士は明らかな知性を感じさせるフットワークで、我が分身と距離を取った。そして円を描くように、軽やかなステップを踏む。どうやらこっちの出かたを見ているようだ。それならばとこっちも距離を保ちながらハベルの戦士の動きを見守るが、これだとふたりでグルグルと同じところを回っているだけ。まるでフォークダンスである。どっかから「マ〜イムマ〜イム……♪」と懐かしの音楽が聴こえてきそうな気がして急に恥ずかしくなり、俺は剣を構えてハベルの戦士の懐に飛び込んだ。
「うおりゃあああ!!!」
俺の剣は確かに、ハベルの戦士をとらえた。しかしヤツはこんな攻撃ではまったく怯まず、例の巨大な鉈を思いっきり振り回してきた。
ズガンッッッ!!!!
とてつもない衝撃が、我が分身の身体を包んだ。その一撃でテレビ自体が激しく揺れたんじゃないかと思えるほど、とんでもなく重い攻撃である。見ると我が分身の体力は、たったの一発で残り数ミリに……。
「!!!!!!!!?」
ちょっと……。冗談じゃねえぞ!! なんて常識外れの攻撃してくるんだ……。こんなのまともに食らったら、無事なわけが……!!
「うわあああ!!!」
必死になって盾を構えようとするも、ハベルの戦士の追撃のほうが速く俺に届いてしまう。結果、わずか2発で昇天。この瞬間、新たな地獄への門が開いた。
篝火で復活した俺は、再度見張り塔下層を目指して走り出した。ぶっちゃけ、ハベルの戦士は重要な道を塞ぐ門番ではなさそうなので放っておいてもよかったのだが、落としたソウルと、完膚なきまでに叩きのめされて失ったプライドを回収するためには立ち向かうしかないのだ。
走りながら、俺は考えた。どうやったら楽に、この鋼鉄の剣士を倒せるのかを。そしてひとつの戦略を思いつく。
「見張り塔は螺旋階段が上から下まで続いている。落下死の危険すらある場所ではあるが、それは別の見方をすれば“落下攻撃が狙える”ということ。落下攻撃の威力はすさまじい。ヘタすると、1発でハベルの戦士を葬れるかもしれぬ。よし、やろう! 落下攻撃狙いだ!」
俺はひとり勝手に、興奮の極みに達した。「落下攻撃は、ハベル攻略用に作り手が仕込んだものに違いない!!!」。このゲームの真理を解き明かした聖人のような気分だった。
そして2戦目。俺は「落下攻撃……落下攻撃……」とブツブツ言いながら、ハベルの戦士がいるところまでやってきた。しかしこいつ、俺の気配を察するや階段をズカズカと上ってきてしまい、落下攻撃を狙えるシチュエーションにまったくなってくれない。俺は激怒して、ツバをまき散らした。
「おいそこ!! 違うだろ!! 落下攻撃が当たるように、階段の下のほうで静かに待ってなきゃダメだろう!! まったく、台本読んできてねえのかよ最近のタレントは……」
筋書き通りに役者が動いてくれなくてイラつく、映画監督の気分である。
しかし俺がいくら怒ろうが、ハベルの戦士は鉈を構えて俺のほうにきてしまう。しかたなく俺は下に下り、ハベルの戦士を手招きした。
「ほら! こっちこっち!! ここで待ってて!!」
ハベルの戦士、素直に俺の近くまでやってきたが言うことを聞く気はないらしく、肩に担いだ鉈をブーンと一閃。
「ちょ!!」
ハベルの戦士を誘うために高台からジャンプしていた俺の体力は若干目減りしており、なんとその影響もあって一発で即死……。なんともアホな2敗目を喫してしまう。
「……………………」
ハベルの戦士との激闘は、まだ始まったばかり……。
(でも次回で終わると思います! たぶん!)
月光蝶を打ち倒した俺が向かった先は、城下不死街だった。新たに手に入れた“見張り塔下層の鍵”を使ってその中に入りたい……という思いもあったが、それ以上にいよいよ、「やり残していたことを片づけちまおう」と思ったのだ。このエリアでやり残しと言えばそう、“塔の上の黒騎士”である。
かつて俺はこの黒騎士に、「もうこのゲームやだ……」と泣き言を漏らしてしまうほど完膚なきまでに叩きのめされている。結果、『ダークソウル』では初となる“敵前逃亡”を経験し、心に大きなシコリを残してしまったのだ。しかしその後、俺は幾多の強敵に真っ向からの肉弾勝負を挑んでつぎつぎと撃破し、その見返りとして強い武具と、金では買えない“プレイヤースキル”という財産を手に入れた。……ま、1回勝つために数十のオノレの命と、数万単位のソウルを授業料として支払っているけどさ……。
さっそく俺は黒騎士の剣+1を手に、ガーディアンが待つ塔に向かった。そして、ここの黒騎士戦の難度を上げている要因のひとつである見通しが悪い螺旋階段を駆け上り、頂上に着いたと見るや黒騎士の存在も確認せずに「うりゃあああああ!!!」と言って攻撃ボタンを強く押した。するとこれが見事に黒騎士に当たり、機先を制することに成功。
「すげえw 超奇襲攻撃!w」
S君が感嘆の声を漏らした。ここまでは、作戦通りだ。
でも、はしゃぐのはここまで。いまのは単純に猫だましが成功して、まわしに指がかかったに過ぎない。俺は冷静にR3ボタンを押して黒騎士をロックオンし、螺旋階段を下りながら距離を保った。そして、痺れを切らした黒騎士が特大剣と思われる大きな刃物を振り回した後の隙を狙って「ザクリッ」と1発攻撃を入れる。主導権は、いまや俺のものだった。かつてあれだけ苦労させられた塔の黒騎士を、俺は完全に手玉に取っている−−! オノレの成長の証が、黒騎士から飛び散る体液の中に見えた気がした。
そして俺はついに、この黒騎士を討ち取ることに成功する。いったい何回目の挑戦になるのか見当もつかなかったが、ようやく完勝することができたのだ。
俺は、黒騎士が落としていったものを嬉々として回収した。するとそこに、さっきまでライバルが手にしていた“黒騎士の大剣”なるものが……! これを見たS君とHが騒ぎ出す。
「ええ?? また黒騎士のドロップで武器を手に入れたの!? 俺のときはそんなの出なかったけど!!」とS君。
「べつのゲームではまったく欲しいものを引かずに何度もウチらにクエスト手伝わすくせに、なんで『ダークソウル』ではそんなにドロップがいいのよ!!!」とH。そんなこと言われても、ねえ^^^^
黒騎士の大剣は、大いなるロマンを秘めた潜在能力の高い武器だった。初期の物理攻撃力は205で黒騎士の剣と変わらないが、筋力補正が“B”と優秀で、筋力にばかりパラメーターの数値を振っている俺にピッタリに見える。残念ながらキチンと扱うには筋力も技量も足らなかったが、いずれこの数値には達するだろう(筋力は32、技量は18必要)。俺は、いつか黒騎士の大剣を振り回すことを夢見つつ、つぎの目的地に向けて走り出した。
「つぎはどこへ?」
Hの質問に、俺はこう答えた。
「見張り塔下層に行ってみる。何があるのか知らんけど」
これを聞いたHとS君が、無言で目線を交わしたのが気配でわかった。どうやら見張り塔下層には、“何か”が待っているらしい。
問題の場所にたどり着いた俺は、月光蝶戦後に手に入れた鍵を使って“開かずの扉”をギギギと開けた。そして、かなり警戒しながらゆっくりと、その中に足を踏み入れてみる。しかし、塔の中は静かなもので、若干拍子抜けしてしまった。
「なんだ。何もいないじゃん」
安堵の吐息とともにあたりを見回すと、下へと伸びる階段があるのがわかった。どうやらここを進むしかないらしい。
「よし……。行ってみるか……」
何もいないかも……とも思ったが、一応万全を期して盾を構えて、じりじりと階下に下りてゆく。かなり深い塔だったがやがて底が見え、いちばん下まで下りてきたのがわかった。
でもそのとき、俺が下っている螺旋階段を、重そうな装備に身を包んだ戦士が上ってこようとしているのが見えた。
「……? あ、あれは誰だ??」
ズシンズシンと地響きがしそうなほど重い足取りで、戦士は我が分身に向かって接近してくる。その肩には、鈍器にも刃物にも見える、見るからに物騒な武器が乗っかっていた。
「……こいつ、なんかヤバそうだ!!」
明らかな殺気を、無表情な兜の向こうに感じる……。俺は初めて見るその戦士から、黒騎士に匹敵する危険な匂いを感じ取っていた。
圧倒的パワーを誇る“ハベルの戦士”との激闘は、こうして幕を開けた−−。
(C)2011 NBGI (C)2011 FromSoftware, Inc.
けっきょく俺は、月光蝶にそのままの装備で挑むことにした。黒騎士の剣+1と蜘蛛の盾、そして頭には最下層の殺人コックから剥ぎ取った“ずた袋”をかぶっていたと思う。美しいチョウチョと、ずた袋をかぶったおっさんの対峙……。
「どう考えても、ずた袋のほうが悪だよね」
歯に衣着せぬことをHが言う。実際、ずた袋をかぶった我が分身のたたずまいは、アメリカのB級ホラー映画に出てくる殺人鬼そのものだ。それも製作費がまったくなくて、「なんか犯人役につけるソレっぽいものないか!? 金のかからないもので……。……あ、これでいいや! このずた袋でもかぶしとけ!!」てな感じで作られた、材料費20円くらいの安っぽい殺人鬼である。
山賊改め“ずた袋のオヤジ”は、石の鎧の騎士に注意しながら黒い森の庭を駆け抜けた。目指すは、城壁の上にいる月光蝶。飛び回るチョウチョは、肉弾攻撃しかできない我が分身にとって最悪の相手のような気がしたが、ない袖は振れないのでこの装備で挑むしかない。俺は意を決して、光の入り口に入っていった。
決戦場の城壁に立つと、さっそく巨大な月光蝶がユラリユラリと飛んできた。子どものころから昆虫は大好きなのでその姿に嫌悪感はないが、やはり「かわいい」とか「かっこいい」という感情を抱くためには適正の大きさがある気がする。
月光蝶は、大きかった。俺の昆虫好きの感情を、一瞬でかき消すほどに……。
あのうねる腹の部分、ぐにゅりぐにゅりと不気味な感触がするんだろうな……!
男塾の大団旗みたいなデカい羽から、ぼろりぼろりと大量の鱗粉が落ちているんだろうな……!!
そんな想像ばかりしてしまう。
しかもこいつ、何もしてこなければ“ちょっと大きすぎるチョウチョ”ってだけで済んだのに、あろうことか青白い光を溜めてレーザーのような魔法攻撃を仕掛けてくる。まだ心の準備もできていないのに!! 俺、突然のことにビックリして十字キーの下を押しまくり、“帰還の骨片”を選択して思わずそれを使用してしまった! 帰還の骨片はご存じの通り、最後に休息した篝火に瞬時に戻れるアイテムだ。コレを使った俺の分身は当然、平和な篝火の前に現れてポケーッと立ち尽くしている。
この、恐怖に負けた俺の行動を見ていたHとS君のふたりが、泣き笑いしながら俺に抗議してきた。
「ちょっと!!!ww なんでそこで逃げんのよっ!!!ww」(H)
「ビックリしたあ!!www まさか、ここで帰還するとは思わなかった!!ww」(S君)
ふたりの剣幕に驚いて、俺はしどろもどろで答える。「し、しまった。手が滑った」。
今度は手が滑らないようにティッシュで手をぬぐってから、俺は再び篝火を飛び出した。今度は敵前逃亡しないぞ。
そして運命の2回目。
俺はとりあえず距離を取って、月光蝶の出かたを見ることにした。踏み込んだところで上空に逃げられると確信できたので、まずは様子を見ようと思ったのである。しかし、遠距離は魔法攻撃を得意とする月光蝶のベストの間合いで、俺は奔流のようにドバドバと流れ飛んでくる魔法の弾丸を前に防戦一方となってしまう。
「やばい……。やっぱり蜘蛛の盾だと、魔法をさばききれないみたいだ……」
S君が悲痛な声を出した。彼の言う通り、ガードの上からも月光蝶の魔法攻撃は容赦なく体力を奪ってゆき、回復が追いつかなくなる。
マズい……。あと1発食らったら死んじゃうかも……。
そう思った瞬間、月光蝶は攻撃の手を休めて、城壁に咲いている花にフラフラと吸い寄せられていったではないか! そしてそこにとまり、チューチューとウマそうに蜜を吸っている……!! 俺たち3人は同時に叫んだ。
「チャチャチャ、チャーーーーーンスッ!!!」
俺はダッシュで月光蝶に近づくと、やたらめったら黒騎士の剣を振り回した。体力は残り数ミリになっていたが、回復なんてしているヒマはない。このチャンスを逃したら、絶対に俺はこのチョウチョに屠り去られる!! その恐怖と確信が、剣を止めることを許さなかった。しかし月光蝶の体力は多く、なかなかトドメを刺すことができない。いかん……。ボチボチこいつ、腹いっぱいになって飛び立つのでは……。そしたらもう、俺に勝ち目はないぞ……!
見ると恐れていた通り、月光蝶はゆっくりと飛び立つ仕草をした。ヤバい! 終わる! そう思ったとき、俺はパッとひらめいて△ボタンを押し、黒騎士の剣を両手に構えた。両手持ちにすると、攻撃力が上昇するのである。これが最後の攻撃だ。もしもダメだったら、素直に命を差し出そう。そう決意しながら、俺は黒騎士の剣を振り下ろした!
「グモオォォォォォォォ………!!」
当たった……! 飛び立つギリギリに、トドメの一撃が入ったぞ!!
月光蝶は、月の光をそのまま閉じ込めたような銀色の光を放ち、俺の前から姿を消した。その様子を見て、俺は歓喜の声を上げる。
「通路に花が植わってて本当によかった!!! こいつがチョウチョで本当によかった!!!」
挑戦2回目で倒せたところを見ると、さんざん手を焼いた鐘のガーゴイルとか山羊頭のデーモンと比べたら楽な相手だったのかもしれない。が、その威容が持つ存在感は、他のデーモンに決して引けを取るものではない。
月光蝶を倒したあと、俺はその場で見張り塔下層の鍵と聖職の種火を手に入れる。これでまた、行けるところが増えたようだ。
さあて、どうするかな。
この鍵使って行けるところに向かおうか。それとも最下層に戻ろうか。
次回に続く。
【ダークソウル】第25回 寄り道〜北の不死院にて〜
現在進行形で進めているところと、このコラムで扱っている箇所の差が激しくて、若干焦っております。
月光蝶が魔法攻撃を連発する姿を目の当たりにし、「いまの盾ではとてもじゃないけど耐えられない!」と確信した俺は、S君と同じく魔法カット率に秀でる“紋章の盾”を強化しようとした。ところが、紋章の盾の強化素材は“光る楔石”で、そいつはつい先日、黒騎士の剣を強化するために根こそぎ(1個だけど)使ったばかりであった……。目先の利益に踊って投資してしまい、あとで泣きを見るキリギリスのような心境になって、俺はボソボソとつぶやく。
「この紋章の盾だって、苦労して手に入れたのに……」
そう、じつはたいへんだったのだ。
この数日前、俺はふと、「そういえば北の不死院で取ってないアイテムがあったな」ということを思い出し、巨大カラスに連れられて北の不死院を訪れていた。そこで、松明を手に暴れる亡者を蹴散らしながら前に進み、死んで化けて出てきた“不死院の騎士”(エスト瓶をくれた人ね)をどうにか撃破して、彼の持つ紋章の盾を手に入れたのだ。そして、「せっかく来たんだからいろいろ見て回ろう」と観光気分になり、懐かしの北の不死院をウロウロしていたところ、通路の遠くで天敵・黒騎士がたたずんでいる姿を発見する。
「出たな黒騎士!! 百年の恨み!!! キサマの仲間からもぎ取った黒騎士の剣で、一刀両断してくれるわ!!」
言うが早いか、俺は狭い通路を突っ走って黒騎士に接近した。斬って捨ててくれようと思ったのだ。そのときは確か、15000ソウルくらい溜め込んでいて人間性も所有していたはずだが、それでも向かっていったのは「いまの武力を持ってすれば黒騎士は敵ではない」という確信があったからである。
「俺はちょっと、強くなりすぎたかもしれない」
そんなことすら放言していたと思う。武器の強さにも立ち回りにも、ようやく自信を持ち始めていた時代だったのだ。
ところが、俺の初太刀が当たるよりも早く黒騎士のくり出した攻撃が我が分身を直撃し、信じられない勢いで体力がグイーーーーーーーーンッ!! と減ってしまう。しかも、黒騎士の追撃は異常なほど速く、俺は盾を構える間もなく斬って捨てられてしまった。
「ベジータみたいなことを言ってたくせに……ww」
Hが冷たく笑った。
それから俺はこの通路の黒騎士に、15連敗くらいしたと思う。なんでこれほど勝てないのかさっぱりわからず、呆れを通り越して感動してしまったくらいだ。すっかり疲れ果てた俺はセコくソウルだけを回収し、「このへんにしといてやるか……」と吐き捨てて、北の不死院からの家路につこうとした。
そして通りかかった中庭で事件は起こる。
篝火に触ったためにザコキャラが復活しており、門をくぐった俺に襲い掛かってこようとした。しかし、さんざん黒騎士にいじめられたあとだったので俺は戦う気が起こらず、中庭を駆け抜けて亡者どもの攻撃をやり過ごそうとする。中庭の中心付近まで走ってきた俺。「このまま全力で走れば追いつかれることはないはずだ」。そう思った矢先だった。
ガララララララララッッ!!!
いきなり中庭の石畳が音を立てて崩落し、我が分身と追手の亡者が階下に叩き落とされてしまったではないか!! まったく予想だにしていなかった、青天の霹靂的な大仕掛け。このゲームの作り手は、どこまでも人を驚かせるのが好きらしい。そういえば以前、この場で巨大な不死院のデーモンと戦ったことがあったが、そのときに石畳にヒビでも入ってしまったのだろうか……。
「いてててて……」
崩落時の砂埃が渦巻くその空間で、よっこらしょと立ち上がった我が分身。確か亡者もいっしょに落ちたはずなので、ヤツらを片づけないといかんな……。そんなことを思いながら目の前を仰ぎ見ると、さらに予想だにしていなかった“大事件”に自分が巻き込まれてしまったことがわかった。自分の眼前1メートルほどのところに、とんでもないものがたたずんでいたのである。
“はぐれデーモン”
「あ、あは。あはははは。は、はぐれデーモンだって。うひひひひ」
ショックのあまり現実を受け入れられなくなり、開けっ放しになった口からヨダレをたらしそうになる俺。はぐれデーモンは見た目こそ不死院のデーモンと同じだったが、その内なる迫力と言うかオーラと言うか、とにかく持っているポテンシャルは別物に見えた。
「に、逃げ……!」
とても敵わぬと踏んだ俺は、戦いを避けて逃げようとした。しかし勝手のわからない場所だったのでどうすればいいか見当がつかず、やたらとウロチョロするだけになる。そのうち、はぐれデーモンは範囲の広い爆発攻撃のようなものを仕掛けてきたり、デーモンの大槌のようなものを振り回してきたりとやりたい放題で、我が分身をボコボコに……。
「こ、このへんにしといてやるか……」
篝火で復活した俺は、はぐれデーモンのところに落としてきたソウルを回収する気にもなれず、そのままカラスにつかまって火継ぎの祭祀場まで戻ってきた。「もうあそこには近づかないぞ……」。そんなことをつぶやきながら……。
…………という苦労をした末に取ってきた紋章の盾を強化することができなかったのです……ってことが書きたかったんだよね。……後半はもう、紋章の盾は関係ない話になってるけど(苦笑)。
次回、月光蝶編は完結です。
……たぶん。
【ダークソウル】第24回 蒼き月夜に蝶の舞う (その2)
昨夜また、心が折れました。
黒い森の庭のボス・月光蝶との戦いの舞台は、塔と塔を渡す城壁(?)の上だった。橋のような細長い地形で、いかにも戦いづらそうな場所である。
「どんな攻撃をしてくるんだろう……」
緊張の面持ちでS君が言った。このとき、S君が操っていたキャラはHのメインキャラである魔術師だったこともあり、余計に緊張していたようである。
というのも、このころすでにHの心は修復不能なほどひどく骨折しており(苦笑)、自分でゲームをプレイすることを断固拒否(確か、牛頭のデーモンで複雑骨折したはず)。でも「このゲームは見ているだけでも最高におもしろい!!」と言って、S君に自分のキャラを育ててもらっているのである。プレイしないくせに、S君がミスって自分のキャラが死亡すると「ちょっと! 殺さないでよっ!!」と怒るので、S君は必要以上に緊張してHのキャラで遊んでいるのでありました。
そんなS君のHのキャラ(ややこしい)に、月光蝶が近づいてきた。3人とも初見だったので、まずは様子見である。
近くで見る月光蝶は、それはそれは大きかった。羽を広げたら、畳二十畳分くらいは余裕であるのではなかろうか。その威容を見て瞬時に、特撮の傑作『ウルトラQ』に出てきた“巨蝶 モルフォ蝶”を思い出す。モルフォ蝶は実在の大きなチョウチョだけど、『ウルトラQ』ではより巨大になり、大群となって、物語の重要な役どころを演じていたっけ……。ひとりぼんやりとそんなことを考えていると、Hが抑揚のない声でこんなことを言った。
「でも、これが蛾じゃなくてよかった。チョウチョなら、なんとなくかわいいし」
確かに、わからないでもない。おそらくほとんどの人が、蝶よりも蛾のほうに強烈な嫌悪感を抱くと思うから。でも蝶と蛾って、分類学上では違いがまったくなく、国によっては同じ生き物として扱っていると聞く。昼に俊敏に飛び回るものが“蝶”でそれ以外を“蛾”としている……なんて話も聞いたことがあるが、線引きはかなりあいまいな生き物なのかもしれない(触角に違いがある……ってのも図鑑で見たことがあるが、よくわかりません)。そういえばつい最近、友だちと「蝶と蛾って、何が違うんだろう」という話になったときも結論は出ず(専門家じゃないんだから当たり前だが)、最終的には「キレイなのがチョウチョで気持ち悪いのが蛾」という、無理矢理な力技で強引に決着をつけたことがあった。まあこれは、ものすごい余談だけど。
“キレイなのがチョウチョで気持ち悪いのが蛾”という“角満理論”に照らし合わせると、月光蝶は見事に蝶だった。月明かりに映えるその姿は幻想的なまでに美しく、それ以上に、怖い……。
「ひぃぃぃ……。飛び上がった……」
S君の声にハッとして画面を見ると、月光蝶がユラリと上空に飛んだところだった。そして、大きな体のまわりに青白い光が浮いたかと思ったら、それがレーザーのようになって飛んできたではないか。
「うわ!!!」
とっさに盾を構えて、青白い光の束を受け止めたS君のキャラ。しかし、ガードは成功したのに、思いがけず大量の体力を削られてしまう。S君が叫んだ。
「これ、魔法攻撃だ! この盾、ぜんぜん魔法耐性がないからヤバいよ……!」
S君が予見した通り、ファーストコンタクトは月光蝶の圧勝に終わった。月光蝶はバサバサと飛び回っているため近接攻撃のチャンスが少なく、こちらもソウルの矢を中心とした遠隔攻撃で反撃する。が、魔法で再三体力を削られて「YOU DIED」となってしまったのである。この結果を受けて、S君はつぶやく。
「魔法攻撃に対処するために、耐性の高い盾を作らないときびしいね。それでどうにか攻撃に耐えて、こっちも遠隔攻撃で対抗する、と……」
これを聞いて、俺は震える声を出した。
「肉弾問題、再浮上…………」
しかも、問題はそれだけではなかった。S君は自分が持っている盾をいろいろと調べた結果、“北の不死院”で手に入れた“紋章の盾”が魔法カット率に優れていることを突き止めてそれを強化し、見事2回目の挑戦で月光蝶を葬り去ったのである。まあそれはいいのだが、ここで問題となったのが紋章の盾の強化だ。俺は「これはマネせねばならぬ」と思って紋章の盾を持って鍛冶屋に行ったのだが、なぜか強化することができない。「アレ? おかしいな……」と言いつつ強化素材の欄を見ると、そこにはこんな記述があった。
光る楔石×1
え……。紋章の盾の強化って、光る楔石を使うの……?
こちらの記事にある通り、俺は手持ちの光る楔石をすべて(1個だけど)叩いて黒騎士の剣を強化したばかり。当然、ひとつも持っていなかった。まさかこんなに早く、光る楔石が必要になるなんて……!
「新たに、光る楔石問題が浮上www」
カラカラ笑うHの声が、遠くで聞こえた気がした……。
今日も今日とて心折れております。
我が家では3人のプレイヤーがローテーションを組んで『ダークソウル』をプレイしている。それぞれのキャラを操って、ね。もっとも先行しているのは大学生のS君のキャラで、そのあとをH、俺が追いかける形になっているのだ。
黒い森の庭も、S君が先に侵攻していた。彼は、ネタバレにならないように俺がいないときを見計らってゲームを進めているので、おかげで俺はキー坊や石の鎧の剣士が出てくるところはいっさい知らずに、前回のコラムにあるような失態を平気で冒すことができるのである。
そのとき、S君は黒い森の庭のかなり奥深くにやってきていた。一瞬、画面は見ないほうがいいかなとも思ったが、たまには人のプレイを見るのもいいだろうと、俺は酒を片手に鑑賞することに決める。そこはS君も初めて来た場所だと言い、我が家の居間には一種独特の緊張感が張り巡らされていた。
画面には、森の片隅にある崩れかけた建物が映っている。
「なんかここ、怪しいね……」
と言いながら、S君のキャラがその中に入っていく。密閉された空間ではなく、崩れた箇所から外の様子も見える廃墟のような建物で、上に続く階段が見て取れる。どうやらここを、上っていくしかないようだ。
「行くか……」
S君はそうつぶやくと、ゆっくりと階段を上って行った。見るとその先に、光の入り口がある。ここをくぐったら、黒い森の庭のデーモンがいるのか……? 緊張しながらそんなことを思っていると、ふとHがこんなことを言った。
「なんか遠くに、でっかいチョウチョが見えた気がしたんだけど」
でっかいチョウチョ? 夜の森に、チョウチョはあまり似つかわしくないぞ。六本木とか歌舞伎町ならわかるけどな。
いぶかしがる俺。S君も意味がわからなかったらしく、「え?」と言ってカメラアングルをグルグルと変えてみせる。すると確かに、Hが言った通り、遠くにある塔にとまって羽を休める(?)、デカい蝶の姿が見えた。
「でっかいチョウチョだねえ」
S君がのんびりとした声を出した。その蝶が止まり木として使っている塔は、いま自分たちがいる建物と同じくらいの大きさと思われる。それを考えると、この蝶の大きさが尋常ではないことは明らかだった。世界最大の蝶はゴライアストリバネアゲハもしくはアレキサンドラトリバネアゲハのメスで、羽を広げると25センチにも達すると言われるが、いま遠くに見える蝶はどう少なく見積もってもそれよりは大きいだろう(あたりめーだ)。
S君のキャラは、巨大蝶がよく見える場所に足を止めた。我々3人はその巨大な姿を眺めながら、ぼんやりと好き勝手なことを言い合う。
「あんだけデカいと、ワッサワッサと鱗粉をまき散らすんだろうねえ」(俺)
「チョウチョは、あんまり大きくないほうがかわいいよねえ」(H)
「アレがじつはデーモンで、襲い掛かってきたりしないよねえ^^;」(S君)
最後のS君のセリフに俺たち3人は顔を見合わせ、声を揃えてこう応じた。
「まさか、ねぇ〜〜〜^^;;;;;」
デカい蝶や蛾は、人類には生理的に受け入れられないのである。
しかし気味が悪いからといって、いつまでも光の入り口の前でたたずんでいるわけにもいかない。ついにS君は「じゃ、行きますか」と言って、光の中に入っていった。すると画面に、絶対に見たくなかった文字と敵の体力ゲージが表示されてしまう。
“月光蝶”
シーンと静まり返る我が家の居間。その静寂の中を泳ぐように、塔にとまっていたデカい蝶が、バサリバサリと羽を波打たせながらS君のキャラに向かってきた。
「やっぱりあのチョウチョだった!!!」
大塚家と月光蝶の攻防が始まった。
以下次回。
【ダークソウル】第22回 石のガーディアン
黒い森の庭に分け入った俺だったが、じつはこのあたりからかなり進むルートが迷走し始める。
最大の理由は、『ダークソウル』が序盤の序盤から行ける場所の選択肢が非常に広いこと。
“絶対的な進軍ルート”というものが存在せず、そのときの気分によってかなり自由に好きなところに行けてしまうので、あっちにフラフラ、こっちにフラフラと足の向く方向が定まらないのだ。あと一歩で最下層を抜けられる……という段階で黒い森の庭にやってきてしまったのがまさにソレで、ここに来てからも俺は、再び最下層に戻ったり、城下不死教区にくり出したりしている。この、好きなように生きている感覚がなんとも言えず心地いい。……まあ、ここが「暮らしやすい場所ですか?」と問われたら、頭がもげるくらい全力で首を左右に振って「否っっ!!!」って答えるけど。
そんな、いろんな場所のつまみ食いをしているうちに、徐々に俺のレベルも上がってきた。接近戦も魔法もこなせる“サイキックソルジャー”を目指すのもアリかなと思ったが、器用貧乏になる可能性のほうが遥かに高い気がしたので「当面は筋力だけに数値を振ることにしよう」と心に決める。そしてその通りのことを実行した結果、数日後には筋力が50でほかのパラメーターはほぼ初期値(武器装備のために技量だけはちょっと上げた)という、秘孔・刹活孔を突いてとてつもない剛力を得たトキのような身体になった(『北斗の拳』の話ね念のため)。
まあそれは余談で、黒い森の庭に初めて足を踏み入れた当時は当然、それほどのパワーは持っていなかった。なので当然、いろいろと苦労をする。
このときもそうだった。
度重なるキー坊(木の形をした怪物ね)の襲来を退けて森に分け入っていくと、前方に朽ち果てた大きな鎧の剣士が転がっているのが見えた。遠目にもかなり大きく、光のない目にはまったく生気が感じられない。なので俺はなんの危機感もなく、その鎧に近づいていった。すると……。
ゴゴゴゴゴゴ……。
死んでいるとばかり思っていた鎧の剣士はゆっくりと身を起こし、明らかな敵意を持ってこちらに近づいてきた。石のような質感の鎧と兜はどこまでも無機質で、“冷たい殺意”を持っているように感じる。こいつも、森に入った異物を排除するためのガーディアンか。
俺は鎧の剣士をロックオンし、距離を取りながら様子をうかがった。重そうな鎧は実際に重いようで、剣士の動きはかなり鈍い。
「こいつ、見かけ倒しで、意外とチョロいかも……」
“イケる!”と判断した俺は一気に距離を詰め、黒騎士の剣を石の鎧に突き立てた。これに怒ったのか、鎧の剣士は右手を振り上げて反撃の体勢を作ったが、動きが遅いので問題なく、リーチの外に逃げることができた。うん、なんちゃない。ヒット&アウェイで、余裕で倒せるぞ。
しかしここで、鎧の剣士は妙な行動をした。
動きを止めて立ち尽くしたと思ったら何かを唱えているような仕草をし、その瞬間に剣士のまわりに金色のリングができたのである。
「??? なんだアレ」
ついついポケーッと見入る俺。『ダークソウル』の世界では一瞬の気の緩みは命取りだとわかっちゃいたが、敵が妙な行動を取るとどうしても見届けたくなってしまうのよ。
ホラ、戦隊モノや格闘モノのアニメなんかによくいるでしょう。相手が明らかに危険な技を出そうとしているのに、「な、なんだ!? 何をしようとしているのだ!!」と驚いているだけで、静止にいかない主人公が……。驚いているヒマがありゃ止めりゃいいのに、彼らは決してそうしようとはしない。これを、「マヌケだから」のひと言で片づけることもできるが、自分が同じ状況に立ったいまは「美学だから」と言いたいね。正義の味方には、相手の技をすべて受け止める覚悟、気概が必要なのだよ。
おとなしく見学していると、鎧の剣士が作ったリングはナゼかこっちに飛んできて、我が分身の上半身にスポッとハマってしまった。まったくもって、想定外の出来事である。
「な、なにをされたんだ……?」
わけがわからず、その場から動こうとする俺。しかしここで、とんでもないことをされてしまったんだと気が付く。
「……アレ?? なんか身体が動かないんですけど……!!!」
どうやらこの金色のリングは相手の動きを封じるための魔法で、動きが鈍重な鎧の剣士が、確実に敵を排除するために身に着けたものだったようである。
「むぎぎぎぎぎ!!! う、動かねえ!! ……って、わああああ!!!」
いつのまにか鎧の剣士は、俺の眼前10センチのところに立っていた。そして虚無の目を光らせて右手を振り上げ、重そうな剣を俺に振り下ろそうとする。
「さ、さっきは斬りつけて悪かった!! か、カンベンしてくれええ!!」
願いもむなしく、振り下ろされた剣は俺の身体を一刀両断した。その破壊力は凄まじく、若干体力が減っていたことも相まって我が分身は即死してしまう。余裕だと思っていただけに、やられたショックは大きい。そんな傷ついた俺の心に、Hがさらに塩を塗り込む。
「なんか、初めて会った敵に必ず1回はやられてるよねww 敵もきっと、やりがいがあるだろうねえww」
言われてみると確かに、俺はこの森において、木の幹にへばりついていたオバケナナフシのような怪物にも頭を食われ、あっけなく昇天している。それどころか、振り返れば犬ネズミにもやられたし、野犬にもやられたし、亡者にもやられたし、骸骨にも黒騎士にもやられている。敵から見たら、俺ほどザコい戦士はいないのではあるまいか……。でも、そんなことを認めたら男がすたる。俺はHに、これ以上ない強がりを言った。
「俺は相手の力を100パーセント出させないと気が済まないんだよ。格闘家としてな」
このセリフにHは呆れ、「いつから格闘家になったのよ。陸奥か。そもそもあんた山賊でしょ」と吐き捨てただけだった。
次回、月光蝶と激突!
今日も風邪気味で心折れております(ゲーム関係ない)。
パワーアップした黒騎士の剣でどうにか楔のデーモンを撃破し、俺は初めてその場所に足を踏み入れた。
永遠の(かどうか知らんが)夜の世界、黒い森の庭−−。
そこは“黒い森”の名の通り、どこまでも鬱蒼と木々が生い茂った漆黒の闇が続いており、旅するものを言い知れぬ不安に陥れる。とくに俺は、オカルト好きを公言しているくせに暗いところが苦手なので、精神に及ぼす圧迫感はほかの人の比ではないと思う。ほかの人の精神状態がどうなのかさっぱり知らないけど。そんな恐ろしげな場所だったが、視界に映った“あること”が、俺を驚喜させた。
「うわ!! ここ、そこらじゅうにアイテムが落ちてるぞ!! 宝の森だ!!」
来てみればわかるが、黒い森の庭は地面のたるところがキラキラと光っていて、アイテムがあることをプレイヤーに知らせている。その数は、明らかに尋常ではない。当然、旅人(俺のことだが)は道端に落ちている10円玉を発見したときのように小躍りし、その場所に走るわけだが、ここで大きなショックを受ける。
「あれ……? これ、アイテムじゃなくて、花が光ってるだけか…………」
闇が広がるこのフィールドにおいて、住むものの目印にするために誰かが植えたのか、それとも必要に迫られてこの花が独自進化したのか、はたまた発光することで獲物をおびき寄せようとしているのか、真相のほどはさだかではないが、「アイテムだ!」と思ってこの花に人間が寄ってきたことは確かである。おそらく、全国約30万人の『ダークソウル』プレイヤーのうち、3分の1にあたる10万人くらいは俺と同じ行動をとったに違いない。この集客力(?)は侮れない。
「いったい、この花の狙いは!?」
このゲームを始めてからやたらと疑心暗鬼にかられるようになった俺は、漆黒の闇の中で鋭く指摘する。
「たぶん、何もないと思うよ」
ロマンのカケラもないHの発言は、敢然とシカトした。
そんな光る花と決別して10歩ほど歩くと、遠くからこっちに向かって駆けてくる大柄な人影が見えた。なにぶんあたりが暗いのでよくわからなかったが、手も足も木の枝のように細く、まるで木が歩いているようなたたずまいである。身の丈は、3メートルほどもあろうか。かなりの大巨人であるに違いない。近づくにつれて、真っ黒な闇のスクリーンにはっきりとその姿が浮かび上がってくる。ツタのような手、枝のような足、そしてイガグリのような頭……ってコイツは!!
「わああああ!! 木だああああ!!」
木が歩いているように見えた人影は、まさしく木だったわけである(苦笑)。
この木(我が家では“キー坊”と呼ばれている)に代表される通り、黒い森の庭は“擬態”と“騙し”が渦巻く“エッシャーのだまし絵”のような空間だった。スイッチを踏んだ矢が飛んでくるとか、地獄に通じる落とし穴があるとか、そういった人為的なトラップはほとんどなく、そこに根付く生き物たちが“生きるため”に身に着けた能力を用いて侵入者を排除しているように思える。この森において、俺は明らかに“招かれざる者”だった。異物を飲み込むと反射的に咳が出るように、森は俺を排除しようとした。
“初めての場所”の怖さと“暗いこと”の怖さ、さらに闇に紛れて怪物が擬態している“見えない”怖さ……。そのプレッシャーは計り知れなく、俺はキー坊の襲来に必要以上にゴロン(前転)をしてしまう。そんなつもりはないのに、1回のゴロンでいいところを2回、3回とボタンを連打してしまい、想定外のところに我が分身は転がっていく。「あ!!」っと思ったときには後戻りができないところまで転がってしまっており、そのままピュルルと転落死。つくづく俺は、心が弱い。
そんな、スキルもメンタルも弱い俺にとって、なによりも心強かったのは地面のあちこちに書かれている“メッセージ”だった。顔も名前もわからない、見ず知らずの冒険者が書き込んだメッセージには、まったく役に立たないものや“ウソ情報”も少なからずある。それはときに混乱ももたらしてくれるが、それすらも含めてこのシステムはすばらしいと素直に思うのだ。パラレルワールドの同じ場所で奮闘するネットの向こうの仲間の息遣いは、メッセージを通して確実に俺のもとまでやってきた。ときたま見える他の冒険者の幻影ともども、メッセージは俺に言い知れぬ安心感を与えてくれる。
「ひとりだけど、ひとりじゃないんだな」
臭いドラマのセリフよろしく、そんなことをつぶやく俺。チープなものではあったが、そのときの偽らざる俺の心境だった。
度重なるキー坊の襲来を退けた俺は、不思議な門の前に立っていた。暗がりでボゥっと光る幻想的な門だが、何かしらのアイテムを持っていないと開けることはできないらしい。
「ここは、あとで来る場所なのかな」
そんなことを思いながら門の周辺を見渡すと、地面にやたらとメッセージが書き込まれているのがわかった。他の場所に比べても明らかに、メッセージの密集度が高い。不思議に思って調べてみると、そこには「攻撃!」とか「この先、篝火あり」なんてことが書かれている。
「え、マジで?」
メッセージの目の前にあるのは、レンガの壁。ここを攻撃しろってことか? 素直な俺はメッセージに導かれるまま、その壁に黒騎士の剣を突き立てた。
ガララララッ!!
なんとこの攻撃で壁が崩れ、その先には本当に篝火が……。ヌルい俺はきっと、メッセージがなければこの壁を攻撃しようとは思わなかったに違いない。先人の導きで、俺はオアシスにたどり着いたのだ。
「やっぱり、ひとりじゃなかった」
いまだったらこのセリフ、あんまり臭くは聞こえないな。
今日も例のごとく心折れております。
最下層から逃げ出した俺は一路、教会別棟の篝火を目指した。とりあえずここでひと休みしたのちに階下に降り、“楔のデーモン”に挑むつもりなのだ。
でもその前に、楔のデーモンの手前で店を開いている鍛冶屋のアンドレイ親父に話しかける。決戦を前に、いよいよ武具を強化しようと思ったのだ。当然、狙いは名剣“黒騎士の剣”のパワーアップである。
「どれどれ……」
見ると黒騎士の剣は1段階強化すると、物理攻撃力が205から225にアップする模様。この序盤では、とてつもない破壊力と言って過言ではないだろう。これなら、ほとんどのザコキャラを一撃のもとに葬り去れるに違いない。
俺はすぐにボタンを押して、黒騎士の剣を強化しようと思った。完全に、黒騎士の剣の魔力に魅せられれていたと思う。でもそのとき、S君がボソッとこんなことを言った。
「あ。黒騎士の剣って、強化素材に“光る楔石”を求めるんだね」
ボタンを押す寸前で、俺の指はピタリと止まった。プロレスで言ったら、フォール負け寸前のカウント2.98あたりでなんとか肩をちょっとだけ上げた……というギリギリの攻防であった。俺、瞬時に乾いてしまった喉をぜぃぜぃと鳴らしながら言葉を吐き出す。
「あ、あぶねえ……。光る楔石って、トカゲ(石守)が出すヤツだよね? そんな貴重品を、サラりと消費しちまうところだったよ……」
黒騎士の剣が強くなるのは確かに魅力的ではあったが、なかなか手に入らないうえに汎用性が高そうな光る楔石は、あっさり使ってしまっていい素材ではあるまい。俺がいるのは、まだ序盤なのだ。確信はないが、きっとそうなのだ。額に浮いた汗をぬぐいながら、俺は誰にともなくつぶやいた。
「強化はまだしない。光る楔石は温存しておこう」
そして鍛冶屋を飛び出し、階下へ続く階段を下りる。するとそこでは思った通り、顔の部分に小判を乗せたノコギリクワガタを思わせる(そんな生き物見たことないが)、楔のデーモンが待っていた。
「うおりゃぁぁぁあああああ!!!」
俺の口から、気合の咆哮が迸る。しかしそのわりに我が分身の足取りは重く、楔のデーモンの様子を見ながらソロリソロリと歩いているに過ぎない。
「気合とは裏腹に、接近しないのねww 肉弾問題再浮上www」
Hがバカにしたような声を出す。なんとでも言いやがれ。こっちは遠距離攻撃を何ひとつ持っていないのだ。魔法でバッチュンバッチュンと遠くから撃ってこいつを倒したヤツに、俺の気持ちがわかるものか。
しかし、いつまでも遠く離れたところでにらめっこしているわけにもいかないので、俺は楔のデーモンが雷撃を放った後の隙を突いて、一気に距離を詰めた。
「懐に潜り込んでしまえば、どうにかなるに違いない!」
大きな外国人力士の深い懐に潜り込んで戦う、小兵力士の戦法である。
「うおりゃぁぁぁあああああ!!!」
今度はキチンと、咆哮に見合った攻撃をくり出した。手応えアリ! 自慢の黒騎士の剣が振り下ろされた箇所から、「バシュッ!」っと楔のデーモンの体液が飛び散る。黒騎士の剣の攻撃力はさすがに凄まじく、楔のデーモンの体力がグイーンと減ったのがわかった。さあ畳み掛けろ。やっぱりこいつの弱点は深い懐だ!!
ところが。
楔のデーモンは、手に持つ長い鉾を器用に操って振り下ろしたかと思ったら、我が分身の体を捉えてそのまま叩き付けるような攻撃を仕掛けてきたではないか! なんとこの一撃で、我が分身はあっけなく昇天。食らったらほぼ即死の恐るべき攻撃を、ヤツは隠していたのだ。深い懐に潜り込んで「ヨシ!」と思ったとたん、琴欧州に両腕をカンヌキされて“きめだし”(相撲の技ね)されたようなものである。
このあと、俺は5回ほど楔のデーモンに挑み、そのたびに壮絶な鉾の攻撃を食らって死の山を築く。「あと1発入れば俺の勝ちだ!!」というところまで追い詰めながらもどうしても攻めきれず、無残に屍をさらしてしまう。
俺は失意のまま篝火を出て、トボトボと階段を下りていった。
「どうせ今回もダメなんだ……><」
そんなことをつぶやきながら。
しかしふと横を見ると、熱心に金槌を振るうアンドレイ親父の姿があった。俺のことなど眼中にない……というたたずまいをしているがその目は明らかに慈愛に満ち、「困ったらいつでも俺のところに来い」と語りかけているように見える。この、不安だらけのロードランの地における、数少ない俺の味方……。年輪の刻まれた引き締まった顔は、どこか俺の実父にも似ている気がした。
「オヤジ……」
俺は小さくつぶやいてから、アンドレイの前に立った。そして迷うことなく光る楔石を差し出し、黒騎士の剣の強化を……。
この、ほとんど無意識と言える行動を見守っていたHが、笑い声とともに俺を糾弾する。
「デタッ!!! かっこつけたこと言ってたくせに、あっけなく武器の強化に走った!!」
俺、カッと目を見開いて、責めるHとS君に怒声を吐いた。
「うるさい! 欲しいと思ったときが買い時なんですっ!! これでいいのです!!」
まるでパソコンを新調するときのようなセリフを発しながら、俺は嬉々として黒騎士の剣を+1に強化してもらった。そしてこの剣に頼った力技で、どうにか楔のデーモンを倒すことに成功したのだった。
(C)2011 NBGI (C)2011 FromSoftware, Inc.
今日も粛々と心折れております。
いま思い返すと、俺が最下層でやっていたことと言えば、“バジリスクから逃げ回る”、“バジリスクに呪われる”、“呪死する”、“犬ネズミを追い回す”……の4つしかなかった気がする。先の3つについてはこの間の日記でさんざん書いてきたので皆さんご存知だと思うが、4つ目の“犬ネズミを追い回す”とはなんなのか?
じつはこの腐れネズミが何を勘違いしたのか“人間性”というすばらしいアイテムをドロップすることがある。この事実を知り、犬ネズミの巣窟となっている最下層において俺はにわか“ネズミバスターズ”と化したのである。人間性は、亡者から生者になるために絶対に必要なアイテムであり、注ぎ火にも必須のもの。それがアナタ、うじゃうじゃいる犬ネズミから採れるっていうんだからこんなにオイシイ話もないじゃないですか。しかも、俺が犬ネズミから人間性が採れると知ったのは、火継ぎの祭祀場近くの水路にいるこいつがたまたまドロップしたためだ。これを思うと、犬ネズミの人間性ドロップ率は異常な高確率と言える。この考えに思い至ったとき、俺ははしたなく興奮して「ゴールドラッシュだ!! 犬ネズミ狩りでウハウハだ!!」と踊り狂ったのだった。
そして、アホのように時間を使って犬ネズミを30匹ほど狩ったわけですが……。
手に入った人間性はたったの1個…………。
「ネズミごときに人間性を求めるからそんなことになるのよwww」
Hの発したあまりにももっともな意見に、俺は「た、確かに……。それはその通りだ……」とうなだれるしかなかった。もう、ネズミなんか信じないぞ。人間性なんていらんわ。
俺は先を急ぐことにした。いつまでも陰々滅々とした最下層にいると背中にドス黒い翼が生えてきそうだったので、早く駆け抜けてしまいたかったのだ。
しかし途中、現れた巨大犬ネズミの迫力にビビって死亡し、そこに落としたソウルを回収にいくさなかにゼリー野郎にへばりつかれて二度死する。
▲俺に煮え湯を飲ませた犬ネズミの親分。でもじつは、そんなに強くはなかった……。なんでやられたんだ俺は……。
これでまた、数千ソウルを無駄にしてしまった……。
なんとなく、携帯電話をトイレに落として使い物にならなくしてしまったときと、同じような敗北感がある。
「あああああ……。またやっちまった……。もうヤダ俺……」
俺のプレイを見守っていたオーディエンスも、「あーあ……」と嘆息の大合唱をしている。ちくしょう。なんで俺はこんなに不注意でヘタクソなんだ……。激しい後悔と自責の念が、俺の心を突き上げる。こんな腕と精神状態では、最下層の深部で待っているであろうボスと、まともにわたりあえるわけがない。
俺はすっからかんのサイフを片手に下水道をフラフラし、あたりにペッペとツバを撒き散らしながら、思ったことを口にした。
「いまのままではとてもじゃないけど、最下層のボスを倒せるとは思えない」
HとS君は黙って聞いている。その表情は、いかにも深刻だ。それに気をよくして、俺は歌うように宣言した。
「なので、最下層はここで中断!! もうちょっとチョロそうなところを、先に回ることにします^^;;;」
その瞬間、HとS君の怒声が重なった。
「敵前逃亡キターーーーーーーッッッ!!!!!(怒)」
なんとでも言いやがれ。俺は心を癒す旅に出るのだ。
最下層を猛スピードで駆け上がった俺は火継ぎの祭祀場に立ち寄り、その足で教会の篝火までやってきた。
俺が目指すは、この先。鬱蒼と木が生い茂る夜の世界、“黒い森の庭”だ−−。
でもその前に、倒すべき相手がいる。
鍛冶屋の部屋の先に住まう、楔のデーモン−−。
次回に続く。
【ダークソウル】第18回 バジリスクとの顛末
今日はあんまり心折れていません。なぜかと言うと……ついに壁を越えたから!! 詳細はいつかこの場所で−−。
さて、俺の進捗とはぜんぜん関係ない小話をひとつ。
このあいだの土曜日、友だちの達人ゲーマー・G君から「さっき『ダークソウル』を購入しました!!」とのメールが届いた。会うたびに「絶対におもしろいから!」、「やったほうがいいよ!!」とシツコイくらいプレゼンしていていた努力が実を結んだらしい。俺は仲間が増えたことを素直に喜び、「きっと手こずるだろうけど、強く生きろよ」とメッセージを返して自分のプレイに戻った。このときはまだ、例の“壁”を越えていなかったので、人にかまっている余裕がなかったのである。
で、その数時間後。再び届いたG君からのメールに、俺は度肝を抜かれる。
「屋根の上にガーゴイルが2匹飛来する場所でやられちゃいました! 倒すコツを教えてください!!」
……それ、俺がついこのあいだ苦労してた鐘のガーゴイルじゃねえか!!
ひと月近いアドバンテージがあったはずなのに、早くも背後にG君の足音を聞いた気がした俺はひどく怯えて、思わず「そいつは、裸&ノーガードでいくと恥ずかしがってひるむので、そこを迷わず攻めろ!」とウソメッセージを床に書き込みそうになりました。
さて、最下層話の続きです。
どうにか解呪石を手に入れて呪いを解き、ひさしぶりにMAX体力に戻った俺。再び、危険な最下層の探索に戻った。
しかし何度か足を踏み入れて思ったが、最下層ほど冒険者に“慎重さ”を求める場所はないね。毒攻撃を仕掛けてくる犬ネズミ、天井に張り付いて誰かが通りかかるのを待ち伏せしているゼリー状の敵(名前わからん)、そして“呪い”のバジリスク……。「もう1歩くらい進んでも大丈夫だろう」という、ふとした瞬間に訪れる弛緩した気持ちの隙を突いて、彼らは確実にちょっかいを出してくる。『ダークソウル』の世界に広がる土地はどこも危険極まりないが、最下層はとくに、“人が行ってはいけない場所”という気がしてならなかった。
しかしどんなに慎重に歩いていても、トラップにかかってしまうことがある。
最下層は危険な生き物が多数生息しているだけでなく、道が複雑に入り組んでいることでも冒険者を苦しめる。高低差があるうえに、細い路地のような道が枝分かれしているため、どうにも迷いやすいのだ。
そのときの俺が、まさにそうだった。道に迷い、自分がどこにいるのかさっぱりわからなくなったことに加えて、見通しの悪い曲がり角があるたびに「バジリスクがいるのでは!!?」と戦々恐々となってさらに視野が狭くなる。そして、目の前1メートル先も見えないくらい緊張した俺は、まんまとその“落とし穴”に落ちてしまった。
この落とし穴の先の光景、俺は一生忘れないと思う。そこはまさに、現世の地獄だったのだ。
落とし穴はそれほど深くなく、恐れていた落下死はなんとか免れることができた。
「よかった……。生きてた……」
ホッと胸をなでおろしながら立ち上がる俺。しかしそんな俺の視界に、不思議な丸い物体がいくつも連なっているのが見えた。ホラ、田舎の田園によくあるでしょう。害鳥避けの、目の形をした大きなバルーン。あれが6個くらい、俺の眼前にズラリと並んでいたのだ。
「あれ……? これってどこかで見たような……」
0.8秒ほどのわずかな時間、そんなことを思う。でもじつは考えるまでもなく、俺の無意識はわかっていた。この目玉バルーンがなんなのかを……。ただ認めたくなかったので、考えるフリをしたにすぎないのだ。いつしか恐怖は抑制心を越えて、感情の表面にグイと出てきた。その間、わずか1.3秒。俺はついに悲鳴をあげる。
「きゃああああああ!!!! バ、バジリスクの大群だあああぁぁぁ!!!!」
そう、落とし穴の先は世にも恐ろしいバジリスクの“巣”で、瞳孔が開いた目で見たところざっと50匹くらいがウヨウヨしていた。……まあ50匹は俺のフィルターを通した数で実際は3、4匹だと思うけど、それでも絶望的な数であることは変わりない。俺は恐怖のあまりやたらとゴロン(前転)をくり返し、その場から逃げ出そうとする。も、もう最下層ヤダ……。一刻も早くここから立ち去りたいよお!! 恐慌を来してやたらと走り回る俺を見て、HとS君は腹を抱えて笑っている。
「あははははは!!ww そんなに慌てなくても、その剣だったらバジリスクなんて一撃でしょうに!!www」とH。
「そうそうww 落ち着いて!ww 黒い霧だけ注意すれば大丈夫だから!!www」とS君。でもそんな声は、まったく俺の耳に入らない。メチャクチャな逃走劇はしばらくのあいだ続いた。
そして気が付くと俺は、バジリスクの大群を下に見下ろす、水路の高台にやってきていた。そのときに撮ったのがこの写真。
いくら恐ろしい相手とは言え、しょせんヤツは醜いイモリの化身(そうなの?)。脳ミソなんて、ないに等しいのだろう。人間様が本気になって逃げようと思えば、簡単に振り切られてしまうのだ。
「よかった……。逃げ切れたよ……」
身体中から冷や汗を噴出しながら、安堵の吐息を漏らす俺。見ると、見下ろしていたバジリスクは逃げたのか、どこかに引っ込んでしまっていた。
「よし! 完全に、撒いたね!」
さっきまでパニック顔で逃げ惑っていたのがウソのように、会心のドヤ顔をHとS君に向ける俺。するといきなり、S君が笑いながらつぎのように叫んだ。
「あ!!!w もしかしてバジリスク、裏から回ってヒデ君の後ろに……!!?www」
え……。まさかそんな……。俺、S君の声につられて恐る恐る後ろを振り向く。頼むからいてくれるな……。そんなことを願いながら。しかし……!
「わああああああ!!!! バ、バジリスクいたーーーーーーっっっ!!!!!」
俺の背後で、あろうことか3匹のバジリスクがニタニタと笑っていた。
「あははははははははっっっ!!!! おっかしーーーー!!www」
HとS君の爆笑が部屋に満ちる。ドリフターズの「志村、後ろ!!」を地で行く、コントとしか思えない俺とバジリスクのやり取りでありました……。
その後のことは、あまり書きたくない。
(C)2011 NBGI (C)2011 FromSoftware, Inc.
今日も会社で心折れております。
つぎのバジリスクネタを書く前に、ちょっとマヌケなお話を。……って、毎日毎日マヌケな話しか書いてないんだから、わざわざ念を押す必要もないか……。
バジリスクの呪いは“解呪石”を使ってお祓いしないと解くことができない。でないと、ひたすらどこまでも呪われ続けるのだ。
ふと思い出す。
いまから10年くらい前、中目黒目黒や百人乗っても稲葉という同僚といっしょに、群馬の心霊スポットを取材で巡ったことがある。深夜1時過ぎくらいから4ヵ所ほどを見て回り、それはそれは怖い思いをして帰ってきたのだが、このときまんまと、我々は背中に幽霊を背負ってきてしまった。そこで俺と目黒はあわてて、有名な女性霊能者のもとを訪ねてお祓いしてもらったのだが、稲葉だけは都合が悪くてお祓いに同行することができなかった。なので稲葉はいまだに俺と目黒に向かって、
「僕が女性にモテないのは、あのときお祓いに連れて行ってもらえなかったからです。どうしてくれるんですか!」
と食ってかかってくることがある。稲葉が女の子にモテないのはもっと本質的なことが原因で、幽霊のせいでも俺たちのせいでもないと思うのだが、そう言われると俺と目黒はいつも「うんうん。そうかもしれんネ。ごめんネ。がんばってネ」と優しく諭してあげるのだった。
くだらない話が長くなった。
お祓いしない限り末代まで祟られるバジリスクの呪いは、この稲葉の“モテない呪い”によく似ているような気がした。そう思うとますます、呪いの恐ろしさが身に染みてくる。うーん、そいつはたまらんぞ……。一刻も早く解呪石でお祓いしなければ!! 俺は最下層を飛び出して猛然と走り出した。
解呪石は、火継ぎの祭祀場近くの水路にいる商人のオババが売っている。しかし、前回の日記でも書いたが1個6000ソウルもするらしく、たったいますっからかんになったばかりの俺からしたら、新車のベンツを買うくらい高価な買い物に思えた。いくつか拾った“高名な戦士のソウル”とかいうソウルの塊を使用すれば6000くらい集りそうだったが、まだここはそれを使うところじゃない気がした。でもケチってるといつまでも体力が半分のままだし……。たまらず、俺はS君に助言を求めた。
「体力半分はイヤ。でも6000ソウルはイタすぎる……。こんな戦士のために、もうちょっといい方法はないのかね??」
S君、冷静な表情でつぎのように答える。
「あるある。小ロンド遺跡だったら、4000ソウルで解呪石が手に入るよ。……ていうか、ヒデ君は戦士じゃなくて山賊だけどねw」
俺、その意見を言下に却下した。
「小ロンド遺跡って、幽霊が出るところでしょ?? ダメダメ。俺、『ダークソウル』を始めてすぐにあそこに迷い込んじゃって、幽霊たちに瞬殺されたんだから」
するとS君は「残念だなぁ〜w」と笑いながら、“もうひとつの方法”を俺に教えてくれた。
「じつは北の不死院の“ふわふわ交換”で解呪石が手に入るんだよね〜w」
そんなお手軽な方法があったなら最初に教えて!!!
というわけで俺は火継ぎの祭祀場に取って返し、巨大カラスの巣に向かった。ここで卵のように丸くなると、なぜか巨大カラスが北の不死院まで運んでくれるのである。じつは一度、「このカラス、弓でピュンピュン撃ったら倒せるんじゃないかな……」と魔が差して武器を構えそうになったことがあるんだけど、そのとき思いとどまってホントによかったと思ったね(倒せるかどうか知らんけど)。
ひさびさに北の不死院にやってきた俺は、崖に突き出したところにある小さな鳥の巣に向かおうとした。ここで、いろいろなアイテムを別のものに交換してもらえるのである。しかし、巣の近くには松明を持った亡者がウヨウヨいて、長いリーチを活かした攻撃をくわえてくる。こちとら、体力が半分しかないから、どんな攻撃も致命傷になりかねない。懸命に盾に隠れて、逃げまどいながら立ち回る。
「お、おまえら覚えとけよ!! 体力がもとに戻ったら、おおお、俺を追い回したこと後悔させてやるからな!!」
そんな大騒ぎをしながらようやく俺は鳥の巣にたどり着き、S君に言われるまま“ひび割れた赤い瞳のオーブ”を巣の近くに置いた。こ、これでようやく呪いが解けるぞ……。俺は心の底から安堵した。
ところがここで、自分でもなんでそんなことをしてしまったのかさっぱりわからないのだが、俺は×ボタンを連打してしまった。
「あ!!!!!」
鳥の巣がある場所は、人ひとりがやっと立てるくらい狭く、その下は断崖絶壁である。なのに、×ボタンの入力を律儀に感じ取った我が分身は「ぴょこん」と軽薄にバックステップし、足場のない空間に……。そして、俺、H、S君、2匹のネコに見守られながら、「ぴゅるるるるるるぅぅぅぅ〜〜〜……」と乾いた音を響かせながら断崖に吸い込まれていったのだった……。
「こ、これもバジリスクの呪いか…………」
そうつぶやく俺の耳に、「違う違うwwwww」というHとS君の笑い声が届いた。
※このエッセイを読む前に、ぜひこちらの“史上最凶のザコキャラ、史上最悪の状態異常(その1)”に目を通してくださいな。
その様子を見たとき、俺は一瞬「あれ?? 画面がバグッたのかな??」と思った。そんな初歩的なバグが残っているわけがない……とわかっちゃいたが、あまりにもその状態がヘンだったので、「バグか?」と思わずにはいられなかったのだ。
篝火から立ち上がった我が分身は、一見していつも通りのたたずまいをしていた。バジリスクの呪いにより全身にトゲが生えた彫像になって死んでしまう……という、“全世界イヤな死にかたTOP10”に入りそうな禍々しい死にざまを目の当たりにしたばかりだったので、トゲのカケラも見えないキレイな姿にホッとひと安心する。でもそれも束の間、俺はすぐに冒頭の異変に気が付いた。
「なんか、俺の体力が半分になってるんだけど、これはどうしちゃったの??」
見るとS君とHは、まるで俺の葬式に参列しているかのような、じつに悲しそうな表情をしている。
え? なんなの?? これはバグかなんかじゃないの……??
コントローラを持つ手にジワッと汗がにじんだのを感じながら、ふたりの言葉を待つ。するとS君が「とても言いにくいんだけど……」と小さくため息で語りながら、衝撃の言葉を発した。
「それが呪死なんだ……。呪い殺されると、体力が半分になっちゃうんだよ……」
え?? 何を言ってるの??? 俺はS君の言葉の意味がイマイチわからず、素っ頓狂な声でこう反論した。
「でもいま、俺は篝火で復活したんだよ?」
S君はプルプルとかぶりを振った。そして呪死の真の恐怖を、若干裏返った叫び声で俺に告げたのである。
「俺もそう思った……。でもダメなんだよ!! 呪い殺されると、いくら篝火で復活しても体力が半分のままなんだ!! その短くなった体力で、怪物どもとわたり合わなきゃいけなくなるんだよっ!!!」
え。
え……。
えええええぇぇぇぇええぇぇえぇ!!!! な、なんだソレは!! そんな状態異常、聞いたことないぞ!! ふつう、復活したら、死ぬ前の状態から仕切り直しになるんじゃないの!!? 俺の心からの叫びに、S君の返答はにべもない。
「でも、呪死は違うんだ……。死んでも、復活しても、バジリスクの呪いは続くのさ……」
心にどれだけの闇を潜ませれば、これほど人を呪うことができるのだろう。昔の怪談話で、「3代祟ってやるわぁ〜……」なんて言いながら消えてゆく女幽霊の姿を見たことがあるが、バジリスクの呪いは完全に、それを地でゆくものだ。ふと、小さな呪いの箱にまつわる地方の恐ろしい都市伝説が頭をよぎった。もう長いことゲームをやっているが、こんなデスペナルティーは見たことがない。どんだけマゾいんだこのゲームは……。
それでも、一生この状態でゲームをしなければいけないというわけでもないだろう。状態異常であるならば、それを解決する方法が絶対にあるはずなのだ。それに思い至り、俺はちょっと明るい声を出す。
「呪いの恐ろしさはよくわかった。でもさ、何らかの解除方法もあるんでしょう?」
俺の言葉に、S君はコクンと頷く。
「うん、解けるよ」
ホッ……。よかった。だったらそれほどの大事故にはならないぞ。俺は言葉を続けた。
「どうすればいいの? やっぱりアイテム?」
俺の必死の質問にS君は「うん」と頷いたあと、再び声のトーンを落としてつぎのように言った。
「“解呪石”ってアイテムを使えば、呪い状態を解除できるよ。水路にいる商人が売っているし。……俺のときは、小ロンド遺跡まで行かないと売ってなかったけど……」
なーんだ。近いじゃん。
「でもね」
でも?
「1個、6000ソウルもするんだよwww」
ハイ死んだーーーーーーっ!!!
って、高っ!! 1でも10でもソウルが必要なこの序盤において、6000ソウルはイタすぎる!!! しかも俺、いま呪死したばっかだから、所持金ゼロだし……。この、文字通り死人に鞭打つデスペナルティーの畳み掛けに、俺はただただ呆然とするしかなかった。
「てことは、再びバジリスクのところに行って、ソウルを回収しないといけないわけねww しかも、半分になった体力でwww」
Hが言った。いやホントにその通りだが、さっきからS君もHも、語尾に“笑い”が入っているのが非常に気になる。なんとなく、俺のこの状況を心から楽しんでいるような……。
でも、そんなことを気にしている場合ではない。早いとこソウルを回収して解呪石を購入し、体力を元に戻さないことにはまともに歩くことさえできないのだ。
俺は意を決して、篝火の部屋を出た。何度も言うようだが、体力はMAX時の半分。もっともチョロい亡者が相手でも、緊張せざるを得ないほど心もとないものだ。
そして俺は緊張のあまり、バジリスクに会う前に犬ネズミに囲まれて、みるみるうちに体力を減らしてしまった。ヤバい……。やられる!! そう思ったとき、再びS君が絶叫した。
「ダメッ!!! 絶対にここで死んじゃダメだよっ!!! バジリスクのところまで行こうよっ!!!!」
確かに、バジリスクのところに落としたままのソウルは惜しかった。が、死ぬときは死ぬのがこのゲーム。S君がなぜこれほど血相を変えて「いま死んじゃダメ」と叫ぶのか、俺にはわからなかった。なので、S君に尋ねた。
「?? ソウルは惜しいけど、体力がこんなだからここで死んでもしかたないよね」
するとS君は目を血走らせながら、呪死のさらなる恐怖を告げたのだ。
「呪死の状態でもう一度呪い殺されると、体力がさらに半分になるんだよ!! つまり、2度目の呪死で体力はMAX時の4分の1に、3度目の呪死で8分の1まで減るんだ!!!」
恐ろしさのあまり顔から表情が消えた俺に向かって、S君は信じられないセリフを吐いた。
「だから、バジリスクのところまで行こうよ!!!www」
な、なんだそらああああああ!!!
けっきょく俺は犬ネズミに食い殺され、再び篝火に戻された。体力半分は、予想以上にキツすぎる。「つ、辛い……」とうめく俺の耳に、S君の言葉が届く。
「うーん残念!! やっぱ体力半分はキツいよね!! でも俺は、4分の1までいったから! いやあ、あのときはホントに心が折れた!!」
さらに彼は言葉を継いだ。
「さあバジリスクのところに行こう!!!ww」
その声色は決して悲愴なものではなく、どこかうれしそうだった。
でも、やはり体力半分のまま最下層を進むのはさすがにきびしく、俺は日和った発言をする。
「解呪石を探しに行くことにするよ……」
そもそもいまバジリスクのところに行っても、ソウルが転がっているわけではないのだ。ヤツが解呪石をドロップするならまだしも、もちろんそんな都合のいい現象は起きない。いまバジリスクに会う意味は、まったくないのである。
パタパタと最下層を飛び出し、火継ぎの祭祀場に向けて走り出した俺。その背中に、予期せぬ暗い声が叩き付けられる。
「……4分の1までいけばよかったのに……」
S君がもらした呪詛の言葉を聞いて、俺の身体に呪死のトゲトゲがワッと生えた−−。
次回もバジリスクの話です。
これは本気で、心折れたときのお話です……。
肉屋のオヤジを突破してからが、地獄の最下層の本番だった。下水が満ちた、見るからに不衛生な通路には犬ネズミが繁殖してコロニーを作っているし、天井からはボトボトと、イヤらしいゼリー状の生き物が落下してきてプレイヤーにまとわりつこうとする。モンスターだけでなく、巧妙な罠もところどころに仕掛けられていて、心細い戦士を取り込もうとするから恐ろしい。
こんなことがあった。
針を全開にしたハリネズミのように警戒しながら下水路を歩いていると、ちょっと脇に逸れた広間のようなところにアイテムが落ちているのが見えた。先行きの見えない不安だらけの最下層にあって、数少ない心の潤いとなるのはアイテムと篝火だけ。それが視界に入った瞬間、身体を覆っていたハリネズミの針はシュッと消え、俺は警戒心ゼロの赤ん坊のような状態で駆け寄ってしまう。すると……。
ドサッ!! ベチャッッ!!!
あろうことか天井から、例のゼリー状のモンスターが落下してきて我が分身を覆い尽くしたではないか! アイテムに束の間の安息を……というプレイヤー心理を読み、それをエサにして取り憑くというゼリー野郎の知能トラップにまんまとしてやられたわけだ。俺のような冷静なオトナを見事にハメたのである。この罠には、全国25万人の『ダークソウル』プレイヤーのすべてが引っ掛かったはずだ(そうだと言ってくれ)。
しかしこの程度の罠は、まもなく現れた“あいつ”に比べればかわいいもの……というか、あまりにも無邪気で無垢で穢れのない、お姫様のような軽いトラップだと断言できる。「言い過ぎだ」と思うでしょう。でもじつは、これでもまったく言い足りないくらいなのだ。
そのエリアに足を踏み入れようとしたとき、寝転がってスマホをいじっていたS君がいきなりガバッと起き上がり、緊迫のオーラをまとって食い入るように画面を凝視し始めた。そして、俺がゼリーに食われた姿を笑いながら見ていたHも急に黙り、「ゴクリ……」とツバを飲み込んでいる。
な、なんだこの雰囲気は……。
家の中の空気に、さっきまではまったくなかった刺すようなトゲが含まれている。見ると2匹の飼い猫も、部屋に満ちる不穏な気配を感じ取ったのか、そそくさと出て行ってしまった。
この先に、何があるんだ……?
わけがわからなかったが歩みを止めるわけにもいかないので、俺は警戒しながら、下水路がT字に分岐している地点まで歩いてきた。ふと見ると、T字路を左に折れたところに、じつに奇妙なルックスをした生き物がいるのが目に入る。
そいつは本当に、変わった姿をしていた。
一見するとイモリのようだが、大きなふたつの目が非常に豊満……というかふくよかな感じで、見ようによってはなかなか色っぽい姿をしていると言えなくもない。もちろん、初めて見る生き物だった。
「なんだ、コイツ」
たいして強そうには見えなかったので、俺は警戒心を解いてその生き物に近づこうとした。しかしその瞬間、S君の金切り声が我が家の居間で爆ぜる。
「ダメ!!!!! 逃げてッッッ!!!!!」
ふだん滅多に大声を出すことのないS君の悲鳴に、「ビクッ!」っと身体を縮こませる俺。見るとHもハラハラした表情で「ヤバい……。ホントにヤバい……」と言っている。いったい、何がヤバいんだ?
画面の中では、我が分身と対峙したイモリ系の生き物が、「プシュー」と黒い霧状のブレスを吐き出していた。それを浴びた瞬間、画面中央に状態異常を表すゲージが表示される。
最初、俺はこの状態異常は“毒”のものだと思った。しかしそれにしてはゲージが妙に短く、すぐに満タンになりそうになる。ここでS君が、本日二度目の絶叫を発した。
「ダメだ!!! 呪われる!!! 逃げてにげてニゲテッ!!!!」
……え? 呪い?? 逃げる??? なんでなんで???
俺はまったく状況を把握できず、いたずらに下水路をウロウロする。そして画面にはS君が言った通り、「呪い」という文字が出た。
呪い……ってなんだ?
そんな、いまだ何が何だかわかっていない俺の目の前で、信じられないことが起こった。なんと我が分身にトゲトゲの結晶のようなものが生えてきたと思った瞬間、画面につぎのメッセージが表示されたのである。
「YOU DIED」
S君がため息混じりの声で「遅かった……」と言ったのが聞こえた。
しかし、俺はますますわけがわからなかった。なんで俺は死んだんだ? 納得がいかない。俺はポカンと口を開けたままS君を見つめ、抑揚のない声でこう言った。
「……なんで俺、死んじゃったの?」
地縛霊かと突っ込みたくなる俺の発言に、S君は顔を青くしながらつぎにように応える。
「呪死だよ……。“バジリスク”の吐いた“黒い霧”にやられて、呪い殺されたんだ……」
えええ? そのバジリスクってヤツ、初めて会った俺にいきなり「うらめしい!!」と言って、呪いをかけてきたってわけ?? どんだけ強い霊障やねん。
でも、これでわかった。S君とHがひどく怯えていたわけが。
『ダークソウル』にはどうやら、“呪い”という状態異常があるらしい。そしてそれは、呪い耐性の低い防具だとアッと言う間に蓄積し、俺のようにポックリと“呪死”してしまうのだ。確かに、恐ろしい状態異常だ。毒とは比べ物にならないかもしれない。
それでも、一度死んだところで篝火から復活できるのがこのゲーム。今度は気を付けて立ち回ればいい。この思いを、俺はそのまま口にした。
「了解了解。つぎにあそこを通るときは十分に気を付けるよ。……ま、再度やられたところでやり直せばいいだけだし。これまで何度も、そうしてきたようにね」
しかし、S君はますます表情を曇らせて涙声を出した。
「俺も、そう思っていたんだ……。ヒデ君と同じように、ここで呪い殺されたときはね……。でもね、バジリスクの呪いはそんな生半可なものじゃなかったんだよ……」
俺、意味がわからずに聞き返した。「……どういうこと?」と。これに対するS君の応えは、非常にシンプルだった。
「見ていればわかるよ……」
まもなく俺は、“呪死”の真の恐怖を知ることになる−−。
次回に続く……。
【ダークソウル】第14回 最下層精肉店
最下層に潜んでいる“ヤツ”のことを書く前に、ちょっと短めのくだらないネタを……。
強引な力技で山羊頭のデーモンを倒し、最下層の鍵を手に入れた俺。これを使って扉をくぐれば、“下の鐘”に通じる“最下層”に足を踏み入れることができるぞ。
それにしても、最下層か……。
いかにも不気味な生物が跋扈していそうな、明日への希望も、未来への光も感じさせない陰鬱とした響きではないか。
「なんか、イヤな予感がする……。ダイジョブかな……」
プレイを見守っていた身内のHとS君につぶやく。その声に対し、S君は声を潜めてこんなことを言った。
「多くは言わないけど……俺が『ダークソウル』で最初に心が折れたのは、まさにこの最下層だよ……」
大学生のS君は基本的に、どんなゲームでも俺の遥か先を進んでいる。『ダークソウル』もその例に漏れないのだが、彼は「お化け屋敷的なこのゲームでネタバレを言うのはルール違反」と判断しているらしく、自分で見たこと、体験したことを俺にしゃべろうとはしない。そしてそれは、こういったプレイ日記を書いている人間には非常にありがたい配慮で、おかげで俺はいつも、制作陣が仕込んだ罠にまんまとハマり、失敗し、不慮の死を重ねているのである。
俺は何も知らぬまま、最下層への扉をくぐった。ここは太陽の光がまったく届かない地下施設なので、通路は暗く、狭い。閉所恐怖症ではないけれど、地下独特の圧迫感は薄暗さと相まって威力を増大させており、すべての物陰、暗がりがナイフを仕込ませているように思える。
「こ、怖えぇ……」
蜘蛛の盾に隠れるようにしながら、ゆっくりと歩を進める。するとさっそく、おなじみの亡者どもが武器を構えて襲い掛かってきた。
「く、くんな! 消えてしまえ!!」
屈強な黒騎士の剣を振り回して、これをさばく俺。圧倒的な攻撃力のおかげで、この程度のザコはたいがい一刀両断できる。しかし最下層の入り口付近は太い柱が林立しているため死角が多くなり、油断しているとその陰から現れた亡者に背後を取られて、ピンチに陥りかねない。まったくもって、心を落ち着ける余裕がないぞ……。先に何が待っているのかまるでわからない恐怖もあり、俺のストレスは臨界点に達しようとしていた。
そんなとき、俺の視界の端っこに、店らしき一角がチラリと映った。
「え!?」
と思って見直すと、いま自分がいるウッドデッキ風の足場の下方に、間違いなく店と思える施設があるではないか! 遠目で見ただけでも、ウマそうな肉らしき食材がズラリと並んだカウンターの向こうに、ちょっと大柄な店主がいるのがわかる。俺は涙を流さんばかり勢いで快哉を叫んだ。
「やった!! 店だ店だ!! これから辛くなる最下層探索を前に、ここで準備を整えろってことに違いない!!!」
亡者を蹴散らした俺は、「フンフフフ〜〜〜ン♪」と鼻歌を歌いながら肉屋と思しき店に接近していった。そのときの我が分身は、ゴキゲンなスキップすらしていたかもしれない。それくらい、うれしかったのだ。
近づいて見てみると、大柄な店主は頭にずた袋のようなものをかぶり、手には肉切り包丁のような刃物を携えていた。地上に出た瞬間に通報されそうな出で立ちではあるが、この装備でカウンターの上にある大きな肉をズバズバ切って、食材を作っているに違いない。
▲いかにもぶっそうな肉屋のダンナ。こんな人を怒らせてはいけない。
俺は何の危機感もなく店主に接近し、「○話し掛ける」のメッセージが画面に表示されるのを待った。しかし不思議なことに会話ウインドは開かず、それどころか店主はいきなり激怒して、カウンターを叩き壊すように包丁を振り回してきたではないか!! 俺、あまりにも想定外の出来事に肝を潰す。
「え……。えええ!? お、俺、なんか怒らせるようなことしちまったの……!!?」
何に怒っているのか知らないが、店主はまったく聞く耳を持ってくれなかった。しかしこちとら、「話せばわかる」と思っているから攻撃もできず、店主の攻撃をガードするだけ。
「こ、こいつ、ど、どうなってんの!? お店の人じゃないんですか!?」
この有様を哀れに思ったのか、Hがゲラゲラと笑いながら助け舟を出した。
「お店の人には間違いないかもしれないけどwww そいつ、敵だよw 話せないよwww」
え。
え……?
ええええええええ〜〜〜っ!!! だ、騙されたああああ!!!
きっと俺に粗相があって怒らせてしまったんだなと思っていたのに……>< 性善説で生きる俺に、なんという騙し討ち……!! 俺は血が出るほど唇を噛みしめた。
そして気が付くと、前には怒り狂う店主、後ろにはいつの間にかトラウマの腐れ犬(トラとかウマとかイヌとかややこしい……)がやってきて、容赦なく俺に攻撃をくわえてくる。しかしハートブレイクキッドに抗う力など残っているわけもなく、見事そこで最下層最初の死を刻んだのだった−−。
※次回いよいよ、このコラムにアイツが現れる……!! 記事タイトルは“史上最凶のザコキャラ、史上最悪の状態異常”の予定!
(C)2011 NBGI (C)2011 FromSoftware, Inc.
【ダークソウル】第13回 牧羊犬は今日も噛みつく
今日も夜中に心折れております。
無敵の業物“黒騎士の剣”を携えて、意気揚々、自信満々、天下無双、一日一善な気分で、山羊頭のデーモンが待つ光の入り口の前に立った俺。
「その武器だったら、余裕でいけると思うよ! いよいよ肉弾の時代かね!?」
S君の言葉も心強い。俺は「1発クリアー、いっちゃいますか!!」と言いながら、光の入り口に入っていった。
初めて入った山羊頭のデーモンの縄張りは、意外なほど手狭だった。なんと言うか、身長3メートルくらいの巨人が8畳のワンルームマンションに住んでいるような、そんな造りである。まあ実際にはそれほど狭くないんだけど、ウナギの寝床のような縦長の空間に、山羊頭のデーモン、プレイヤー、そして2匹の野犬が詰め込まれているものだから、人口密度(?)の高さはハンパじゃない。都合、我が分身と敵の距離は、非常に近いものとなる。
「うわ!! 狭っ!! 近っ!!」
条件反射で悲鳴を発した俺に、2匹の野犬が襲い掛かってきた。たいして強くない腐れ犬だが、2匹で連なり、さらにデーモンといっしょに現れるとそのウザさは尋常ではなくなる。山羊頭のデーモンをロックオンしたいのに手前で暴れる野犬にカーソルが飛んでしまうし、噛みつかれて「はうっ!!」っと身じろぎして攻撃モーションをキャンセルさせられたりもする。もう、立ち回りにくいったらありゃしない。
そうこうしているうちに、いかにも俊敏そうな身体を躍動させた山羊頭のデーモンが俺の間合いに入り、両手に構えた巨大な剣を一閃、二閃……。当然のように攻撃力はべらぼうに高く、それだけで我が分身は天に召されてしまう。このときに俺がやったことと言えば、腐れ犬とジャレあっただけだ。
「うわああああ!!! なんだあの犬は!!!!」
トドメを刺しやがった山羊頭のデーモンではなく、怒りの矛先は野犬に向かう。こいつらさえいなければ、間違いなく互角以上にわたり合えたはずなのだ。俺が怒るのも無理はない。
▲ボスを守るガーディアン的な役割を果たしている野犬。悔しいが、非常に効果的な敵配置だと思う……。
しかし、いくら怒っても始まらないので俺は一度深呼吸し、「こんなことは想定内だ。つぎに勝てばいいのだ……」と自分に言い聞かせた。野犬はしょせんザコだ。我が黒騎士の剣で一閃されれば、瞬時に戦いから除外されるに違いない。俺は、火継ぎの祭祀場と山羊頭のデーモンのエリアをつなぐショートカットを通り、再度戦場の人となった。
そして、2度目の「YOU DIED」……。
今回はゴリ押しではなく、「決戦エリアに入ったらとにかく走って野犬とデーモンを引き離し、各個撃破する!」という作戦を立てて臨んでいた。しかし想像以上にデーモンの動きが速く、さらにバカ犬がシツコくて、俺の計画は瞬時に雲散霧消する−−。
ここから俺は、10連敗くらいしただろうか。
執拗なまでの犬のジャレ付きに辟易し、どうにも山羊頭のデーモンに集中できないのである。ちくしょう。なんで山羊が犬を連れてるんだ。牧羊犬のつもりか。ヒツジじゃなくてヤギのくせに! しかも、焦っているもんだからどうしてもR1ボタン(攻撃)を連打してしまい、いらんところで武器を大振りして隙を作り、そこを敵に付け込まれてしまう。
「わあ! いま俺、確かに1回余計に攻撃ボタン押した!! でもナシナシ! いまのナシだから!!」
そう騒いでももう遅い。いくら本人がわめこうが、ボタン入力に律儀なこのゲームはきっちりと押した回数だけ攻撃をくり出すのだ。結果、またもや俺は「YOU DIED」を積み上げる……。
でも失敗は成功の母とはよく言ったもので、俺はここで“武器に炭松脂を付けて攻撃力をアップさせる”という方法を思い付いた(遅い?)。これで火力アップは確実である。
「よおおおし! コレだ! この作戦しかない!!」
俺は嬉々として水路にとって返し、ナケナシのソウルをはたいて不死の商人(女)から炭松脂を購入する。これを武器に塗ることで、強烈な火属性の攻撃を叩き込むことができるようになるのだ!
「積年の恨み!!」
山姥(やまんば)のような顔で突っ走り、光の入り口の前に立った俺。そしてやおら、黒騎士の剣に炎をまとわせようとした。ところが……。
「あ……。黒騎士の剣、松脂つけらんないや…………」
せっかく発明した戦術は試すまでにもいたらず、けっきょくスマートさとか華麗さとは180度対極にある力技(人はそれをガチャプレイと言う)でなんとか山羊頭のデーモンを討伐する。そのときに手に入れた“最下層の鍵”を手に、俺は疲れた声でつぶやいた。
「よし……。潜るか……」
そこに“史上最凶のザコキャラ”が待っているとも知らず、俺は最下層に足を踏み入れた−−。
次回に続く。
(C)2011 NBGI (C)2011 FromSoftware, Inc.
今日も咳き込むほど心折れております……。
昨夜、連敗記録は75まで伸びました。ゲーム史に残る大記録を更新中という実感が湧いてきています。俺はいつ、この地獄から解放されるのでしょうか……。
さて。
それは忘れて(忘れられないが……)、まだ平和だった時代のことを書きます。
鐘のガーゴイルを打ち倒し、最初の目的だった“目覚ましの鐘”をロードランの大地に鳴り響かせた俺。おつぎは地下に潜って“下の鐘”を鳴らさねばならない。
下の鐘に行くにはまず、“城下不死街下層”を通らなければならないらしい。なぜそれを俺が知っているのかというと教会で“下層の鍵”を入手したからで、決して週刊ファミ通の攻略を覗き見したからではない。
この鍵は、ヘルカイトが陣取る橋にあった“開かずの扉”のもの。迷わずそこに向かって城下不死街下層に潜っていってもいいのだが、この扉の近くには俺の“最初の忘れもの”がある。
そう、塔の黒騎士だ。『ダークソウル』で最初に俺の心をベキキッと折った、憎き宿命のライバルである。
当時、駆け出しの戦士だった俺は、この黒騎士に完膚なきまでに叩きのめされた。しかし、強敵がはびこる教会を突破し、鐘のガーゴイルを退治した俺は、数日前とは比べものにならないほど成長しているはず。一介の黒騎士ごときに後れをとるとは思えない。いや、いまならば黒騎士の攻撃など見切りまくり、ノーダメージの完封劇まで演じられるかもしれないぞ。いやそうに違いない。間違いない。
俺はハルバードを手に、黒騎士が陣取る塔を上っていった。思えば前回挑戦したときは、ハルバードも持っていなかったのだ。あのとき、手になじむこの武器を持っていれば、あれほど無様な連敗を刻むこともなかったろうに。俺は「グフフ」と淫靡な笑いをもらした。
そして頂上。俺は黒騎士の姿を認めるや、気合もろともハルバートの切っ先を振り上げようとした。
「食らえ!! ハルバッ……!!」
しかし俺の攻撃よりも圧倒的に早く、黒騎士の強烈な突きが我が分身の心臓に突き刺さる。その一撃で、あろうことか俺の体力は残り1ミリほどになってしまった。
「!!!!!!!」
言葉にならない悲鳴を上げて、その場から逃げ出そうとする俺。しかしそれがよくなかったようで、向けた背中に黒騎士の剣が突き刺さった。
「……サテ、城下不死街下層ニ向カウカ。寄リ道シテイル暇ハナイカラナ」
俺は何事もなかったかのように、復活した篝火から城下不死街下層に向かって走り出した。しかしその顔は、トーテムポールのように固くこわばっていた−−。
城下不死街下層は一見、ヨーロッパのレトロな街並みを思わせる石畳とレンガ造りの建物が美しい、たおやかな古都に見える。遠くでボウボウと炎が踊っているのが見えるがそれすらも風景の一部で、「仕事のやりくりはたいへんだったけど、無理して旅行に来てよかったなあ^^」なんてことまで思う(頭ダイジョブか)。しかしそんなホリディ気分は、つぎの瞬間に吹っ飛んだ。
「ガウガウガウッ!!!」
突如物陰から、身体の半分が腐っていると思われる犬だかハイエナだかわからない四足のケモノが襲い来て、我が分身に食らいついた。 こんな腐れ犬がヨーロッパの古都にいてたまるか。この野犬、決して強くはないんだけど、狂ったように身体を躍らせて噛みつこうとする仕草が醜悪で、ついつい「あっち行け! しっし!」と言いたくなる。動物好きの俺でも、こいつはカンベンだ。
さらにこの区域には盾と剣と吹き矢を持った“盗賊”が出るのだが、こいつも油断できないクセモノだった。姿をさらして吹き矢を撃ってくるタイプはわかりやすくていいんだけど、こいつらは基本、物陰や家の中に身を潜めていてプレイヤーの死角から襲い掛かってくる。油断してズカズカと前に進んでしまうと、いつの間にか敵の群れに囲まれていて袋叩きに遭う……なんてこともしばしばだ。しかもこいつら、ヘタな攻撃は“パリィ”で弾き返して致命の一撃をお見舞いしてくるからたまったものではない。
「ここには、心穏やかに歩ける土地なんて存在しない!!」
『ダークソウル』における真理を、俺は再度、胸に刻み込んだ。
油断せず、慎重に、盾を構えたままゆっくりと歩みを進める俺。城下不死街下層には落下死するような高台がないので、その分だけでもゆとりを持つことができる。これくらい慎重さとゆとりのバランスが取れていれば、無駄死にも減るんだろうけどな……。
そしてうれしいことに、このあたりで俺はついに、念願の“黒騎士の剣”の力を解放することに成功する。デフォルトの攻撃力205は、この時点で俺が持っていた武器の中ではダントツの強さ。たいがいのザコ敵は一刀両断で斬って捨てられる強大な武力である。
「すさまじい強さだね……。いいなーいいなー」
黒騎士からのランダムドロップで手に入れたこの武器を、羨望のまなざしで見つめるS君とH。肉弾キャラは苦難にぶち当たることが多いが、脳筋だからこそ身に着けられる武器を手にしたときの喜びは、やっぱり代えがたいものがある。
俺はこの強力な武器を持って、城下不死街下層のボスである“山羊頭のデーモン”の前に立った。
「黒騎士の剣があるいま、まったく負ける気がしない!!!」
そう豪語して……。
次回に続く……。
【ダークソウル】第11回 鐘のガーゴイルとの死闘
今日もポキポキと心折れております……。
例のボスはいまだ倒せていません。こんだけダメとなると、頭を冷やして抜本的な見直しを図ることも視野に入れないといけなくなる。……と言っても現状で思いつくのは、どこぞでソウル稼ぎをしてキャラを鍛えまくり、鬼の強さになってここに舞い戻る……ってことくらいしかないんだけど。誰か助けてくれぇぇぇぇぇぇ……。
リアルタイムの叫びは以上です。これに比べたら、ここに書くことなんてまだまだ平和な時代のことになるんだな……。
群がるザコどもを蹴散らして、光の入り口の前に立った俺。ここをくぐればおそらく、鐘のガーゴイルが待ち受けているのだろう。
さてここで、「なんでオマエはやってもいないのに、そこに鐘のガーゴイルがいるとわかるんだ?」と疑問を持った方がいるかもしれない。もっともな意見である。これに対する俺の答えは「週刊ファミ通の攻略を見ちゃったから」しかなく、なんとなくカンニングをしてしまったような気持ちを引きずったままコレに挑んでいることを、読者の皆さんにご承知いただけると幸いです(なんのこっちゃ)。
で、光の入り口の前に立ったわけだが、その目の前の床に見慣れぬ色の文字が書かれているのが目に入った。書体はメッセージのソレなんだけど、文字色が白っぽくて特別感がある。
「ナンダナンダ。これはナンだ??」
不思議に思いながらその上に乗ると、いきなり目の前に半透明の戦士の姿が浮かび上がった。ビックリして、俺は叫ぶ。
「あ!! これ、召喚サインだ!! 初めて見た!!」
『ダークソウル』ではときたま、床に白い文字で戦士の名前が書いてあることがある。これがいわゆる“召喚サイン”で、NPCの場合もあれば、他のプレイヤーの場合もある(オンラインプレイ時)。召喚して呼び出せば自分の味方になってくれるので、壁にぶち当たったときの“切り札”として使うことができるのだ。
俺が踏んだ召喚サインは、NPCの“ソラール”のものだった。こいつを召喚しちゃえば、味方が増えるんだから戦闘力アップは確実だし、敵の攻撃も分散すると思われるので、立ち回りはグッと楽になることだろう。召喚するもしないも自分次第。戦いに不安があるなら迷わず召喚しちゃえばいいし、「ここはひとりで!!」と決意できたのなら、単独で乗り込めばいい。けっきょく“召喚するか、しないか”の思案ポイントは“プライド”しかなく、そのときの“心の揺らぎ”に身を任せればいい。このとき、俺はいささかも逡巡することなく画面にツバを飛ばしまくった。
「ソラールッ!! カムヒアッッ!! いっしょにボスに挑んでくれええええ!!!」
俺よりも先に進んでいる身内の大学生・S君が「鐘のガーゴイルには苦労した……」とため息混じりに語っていた。それを思い出した俺に、プライドなんかありません。「利用できるものはなんでも使ってやる」ってくらいの気概がないと、俺程度の腕ではロードランで生き残れないのだよ。俺は召喚で現れたソラールとともに、光の入り口に入っていった。
光の入り口の向こうは、教会の屋根だった。ドキドキしながらその上を歩いているとムービーが差し込まれ、いかにもヤバそうなヤツがバサリバサリと降りてくる。
「ガーゴイルきたーーーーーっ!!」
コントローラを持つ手に力を込めながら、俺は声を張り上げた。
鐘のガーゴイルは、長いリーチと尻尾を使って俺とソラールに襲い掛かってきた。さすがボスだけあって攻撃力がすさまじく、1発食らっただけで瀕死の重傷を負ってしまう。そして、このゲームの敵全般に言えることだが思考ルーチンが秀逸で、的確に間合いを詰めたり、こっちの隙(エスト瓶で体力を回復した直後とか)を目ざとく見つけて攻撃をくわえてくるからたまったものではない。俺は「間合いを! 間合いを!!」と言いながら、いたずらに距離をとるしかなかった。
それでも慎重に立ち回っていればポツポツと攻撃は当たるもので、気付けば鐘のガーゴイルの体力は半分くらいに。
「いいい、いけるっ!!」
そう思った矢先に、とんだ闖入者が現れました。
バサッバサッバサッ……。
羽音も軽やかに降り立ったのは、もう1匹の鐘のガーゴイル。なんとここでは、2頭のボスキャラを討ち果たさないといけないらしい。たまらずに、俺は悲鳴を上げた。
「ちょっと待てコラ!! 2頭も出てくるなんてズルすぎる!! 卑怯者卑怯者!!!」
躊躇することなくソラールに助太刀を頼み、いまのいままで2対1の卑劣な状況で戦っていたものの発言とは思えないけどネ。
でもまあいいや。これで2対2の五分になっただけだからな。俺はいっしょに戦ってくれているソラールを鼓舞するために、テレビに向かって大声を出そうとした。
「こっからが本番だっ! こんなのは想定内だ!! キバってくれよソラ−−」
言い終わらないうちに、画面に信じがたいメッセージが表示される。
「ソラールが力尽きましたwww」
え……?? い、いまなんつった…………??
あまりのことに瞳孔が開きまくった目で画面を凝視していると、氷の彫像が弾けるような美しいエフェクトとともにソラールの姿が消え、屋根の上に残っているのは2体の鐘のガーゴイルとオイラだけに……。どうやらソラールは、新たに現れた新品のガーゴイルに速攻で消されたようである。
そっからはもう、嬲りものもいいところだった。
ソラールがいなくなったことで敵の攻撃はすべて俺に集中し、逃げ回るのがやっとの状態に。しかし、貝のように固まってガードをくり返しているとじきにスタミナが尽き、攻撃をまともに食らってしまうのは自明の理。しかも、新たに表れたガーゴイルは広範囲に影響を及ぼす炎のブレスを吐きまくるものだからガードも回避もへったくれもなくなり、ついに俺は力尽きる。ソラールの助力で「いける!」と思っていただけに、この敗北の及ぼしたショックは大きかった。
そしてこの瞬間から俺に死神が取り憑いたらしく、何度挑んでも返り討ちに遭うことに……。炎に焼かれて死に、尻尾で削られて死に、逃げ惑っているうちに屋根から落下して墜落死し……と、あらゆる死にパターンを実践する俺。もう、どうしていいかわからなかった。
しかもこの間、1回目の挑戦時に手伝ってくれたソラールは、一度たりとも姿を現さなかった。いまこそ彼の力が必要なのに、なんで出てきてくれないんだろう。
「あんたがあまりにもふがいない立ち回りをくり返すものだから、呆れて出てこないんじゃないの??」
身内のHに、そんなことを言われる。じつは俺も密かに、その可能性を考えていた。でももしもそうなら、こんな悲しいことはないなと心から思う。「つれないよソラール! 困ったときに助け合うのが真の友と言うものじゃないのか!!」。そんなことを、俺は本気で叫び続けた。
けっきょくソラールの助力がないまま、挑戦10回目くらいでようやく、俺は鐘のガーゴイルを撃破する。しかも、たまたまガーゴイルの後ろに回り込んだときに俺の攻撃が直撃したらしく、尻尾の切断と、そこから得られる武器“ガーゴイルの尾斧”まで手に入れて−−。苦労した分、この大きな成果は俺を喜ばせた。
そしてついに、俺は鐘楼に上って目覚ましの鐘を鳴らした。『ダークソウル』の、最初の区切りに到達した瞬間だ。
苦労はしたけどようやく、序章が終了した。でもここから、さらにきびしい苦難の道を延々と歩き続けなければいけないのだ。
「よぉぉぉし!! やるぞおおおお!!」
改めて気合を入れ直す俺の耳に、Hの笑い声が届いた。
「あ……。あんたさんざん“ソラールは友だち甲斐がない!”とかディスったことを言ってたけど、召喚サインは生者じゃないと見えないみたいだよwww ソラールに謝りなよwww」
ソラールさん、疑ってスマンかった……。
(C)2011 NBGI (C)2011 FromSoftware, Inc.
今日はマジで心折れてるぞコンニャロ……。
冒頭から言葉乱れておりますが、いやはやホントに参っておりますいま……。現在、俺の『ダークソウル』プレイ時間は30時間を大きく超え、あんなところやこんなところもどうにかクリアーして●●●●●●●という世界を攻略しておるのですが、そこのボスが強いこと強いこと……。
挑戦回数、70回を超えました。
装備も、ありとあらゆるものを試しました。
しかしいまだ、倒すことができず……。
このままだと、100連敗も時間の問題でしょう。失ったソウルは、10万を下らないと思います。でももう、ソウルなんかどうでもいいのだ。頼むから、ホントに頼むから倒させて!!! そう願ってやみません。このコラムの進行具合とかなりの開きがあるのでいつ書けるかわかりませんが、錯乱気味のボス戦のコラムを読んだら「あのときに言ってた話だナ」と、この文章を思い出してあげてください……。
さて。
このプレイ日記はいまだ、最初の鍛冶屋に出会ったあたりをうろうろしているんだった。これでは、前述のボスのことを書くころには年が明けてしまっているぞ。ちょっと本気で、スピードアップしたいと思う。
新たに手にしたハルバードの挙動を気に入り、「これがあれば俺は無敵だっ!!」とばかりに鍛冶屋のおっさん近くに陣取る“楔のデーモン”に挑んだ俺。しかしまんまと返り討ちに遭い、「……ウン、先に進もう」と虚無の心で教会を上っていくことを決意させられたのでした。
鍛冶屋の側から教会に入っていくと、向かって右側の祭壇らしきところに宝が落ちているのが見えた。そのたたずまいからして、これは間違いなく重要アイテムであろう。嬉々として、俺はそのアイテムに駆け寄ろうとした。ところが。
「ガツンッッッ!!!」
いきなり右側頭部を、何者かにぶん殴られた。ノックアウト強盗もかくやという、強烈な不意打ちである。俺、浮かれ気分など瞬時に忘れて盾を構え、強盗が襲ってきた方向を見た。
すると、いましたいました巨体の亡者騎士!! その巨体を隠すほどの大きな盾と、鈍器そのもののメイスを手にしている。どうやらこいつを倒さない限り、お宝にはありつけないようだ。
▲バーニスの亡者騎士。動きが鈍重なので、落ち着いていれば問題ない。
俺はとりあえず体勢を立て直そうと、亡者騎士をロックオンしたまま後ずさってエスト瓶を口にした。その重装備ゆえか亡者騎士の動きは遅く、落ち着いて立ち回ればどうにかなりそうな気がする。盾を構えてジリジリとにじり寄り、亡者騎士を中心に時計回りに旋回する俺。反時計回りにしてしまうと攻撃をすべて巨大な盾でブロックされるのが目に見えていたので、とっさに時計回りにしたのだ。すると亡者騎士はイラついたのか、重そうなメイスを肩に担いで「ブゥン!」と空気を切り裂きながら、叩き付け攻撃を見舞ってきた! しかし予想通りの動きだったので、落ち着いてこれをかわす。すると装備の重さのせいか亡者騎士の動きがとたんにもたつき、大きな隙ができたではないか。
「いまだ!」
ハルバードの一撃を亡者騎士にお見舞いする。さらに俺は手薄になった亡者騎士の背後に回り込んで2発、3発と追撃……。見事、最初に不意打ちを食らった以外はノーミスで、宝の守り人を撃破することに成功した。そしてそのご褒美として、女神像前の遺体から“火防女の魂”をゲット。俺は驚喜した。
「これを火継ぎの祭祀場の階下にいたカボたん(火防女のこと。ちなみに“ひもりめ”と読む)に渡せば、エスト瓶の強化ができるんだな!?」
都合がいいことに教会の奥に、火継ぎの祭祀場に通じるエレベーターがあった。便利な時代になったものだ。さっそくこれに乗って火継ぎの祭祀場に帰り、火防女に魂を渡してあげる。すると見事、エスト瓶に“+1”の効能がついた。エスト瓶の回復能力がパワーアップした証しである。
「やったやった♪ パワーアップだ♪」
気をよくした俺は鍛冶屋の上の篝火に走り、生者に戻って“注ぎ火”をした。これにより篝火の炎が強くなり、当初5回しか使用できなかったエスト瓶の数が10回も使えるようになる。俺はこれ以上はないほど頼もしくなったエスト瓶+1を手に、再度教会に潜入した。
祭壇横にあった階段を上っていくと、さっそく屈強な騎士が現れた。一瞬、「くくく、黒騎士キタッッッ!!!」と恐慌を来して脱兎のごとく逃げ始めたのだが、よくよく見れば黒騎士ではなくただの騎士(でも屈強)。俺は踵を返して騎士をロックオンし、階段を下りてくるその足にハルバードを突き立てた。
「食らえ! アキレス攻撃! アキレス攻撃!!」
子どものようにはしゃぎながら、騎士のスネあたりに攻撃をくわえる。するとこれがおもしろいようによく当たり、簡単に騎士を撃退することに成功したではないか。これが、その後我が家で「階段ではアキレス攻撃」という兵法が常套手段として輝くことになった、記念すべき一瞬である(なんの話だ)。
騎士を退け、“六目の伝道者”により狂暴化した亡者軍団をハルバードでなぎ払い、NPCのロートレクを解放した俺は、ついに“光の入り口”の前に立った。この向こうにはきっと、目覚ましの鐘を守る“鐘のガーゴイル”がいるのであろう。
さて、鐘のガーゴイル戦のことを書く前に白状しておくが、塔の黒騎士に続く“2番目の壁”は、まさにこの怪物どもだった。ここで俺は、どれだけのソウルを消滅させたのだろうか……。
キリがいいので、今回はここまで!
(C)2011 NBGI (C)2011 FromSoftware, Inc.
アーマードタスクを退けた俺は一路、“目覚ましの鐘”に向かって走った。途中、長いリーチを活かした刺突攻撃が魅力の斧槍、“ハルバート”を拾い、さっそく装備してみる。ハルバートは扱いが難しい武器らしく、そのポテンシャルを発揮するには筋力が16、技量が12ほど必要だが、我らが筋肉バカの山賊君はどちらの数値も成長していたので楽々と使いこなすことができた。これぞ、先見の明。読み勝ち。さすが俺。
「“黒騎士の剣”を装備したくてたまたま筋力と技量を伸ばしておいてよかったねwww」
Hの心ない図星な発言を、俺は敢然と無視した。
そんなハルバートは、(俺にとっては)じつに使いやすい武器だった。
メインの攻撃となる刺突となぎ払いはリーチが長いので、それまで使っていたバトルアックスと比べてかなりの安心感を感じる。空振りすると大きな隙ができるという冷や汗ものの要素もあるが、この序盤で完璧を求めるほど俺は欲張りではない。
「黒騎士の剣が使えるようになるまで、こいつをメイン武器としよう」
俺はそう、心に決めた。
新たにハルバートという相棒を手にした俺は、いかにも魑魅魍魎の巣窟となっていそうな“教会”の前に立った。
「これは正面からまともに入ると、エラいことになるに違いない」
霊感にも似た危険信号が、俺の頭の中で明滅する。リアルなお化け屋敷を目の前にしたときと、同じような気分だったかもしれない。しかし同時に、天邪鬼な俺はこんなことも思う。
「お化け屋敷に楽屋から侵入して、こっちを脅かそうと準備しているお化けの後ろ姿を見るのは興醒めというもの。ここはやはり、堂々と正面から入るのが正解ではなかろうか」
言うが早いか、俺はスッテケテーと軽薄な足音を響かせながらまともに教会の中に入っていった。そして3秒で屈強な亡者騎士3名に囲まれて袋叩きに遭い、その後2秒で絶命する。わずか5秒足らずの惨劇に、我が家の居間は言いようのない沈黙に包まれた。
「…………………」(S君)
「………………………………」(H)
「………………………………………………」(俺)
敵はあらゆる手段を用いて俺を殺しに来ているのだ。真正面からなんて正攻法は返って失礼にあたるぞ! 俺は「マジメに! 姑息に! 健やかに!」とヤケクソになって叫びながら教会を迂回し、なにやら怪しい渡り廊下を走って別棟と思しき建物にやってきた。ここも、いかにも怪しい風情だったのだが、遠くから「カンッ! カンッ! カンッ!」という金属的な音が聞こえてきたことにある種の予感を覚え、ちょっとコーフン状態で走ってきた次第である。見ると、待ちに待った篝火のほかに、武器を強化してくれる鍛冶屋のおっさんまでいるではないか!! いやあ、会いたかった!! まだ鍛えてもらうようなものはナンも持っていないけど、この化け物どもが跋扈する不毛の土地で数少ない心の通った人間に会ったのだ。これが喜ばずにいられるものか。ぶっちゃけ、抱き着いてキスしたかったくらいだわい。この調子で行くと、さらに階下にはステキなことが待っているに違いない。俺は意気揚々と、この教会別棟の最下層に飛び込んだ。そして。
待っていました楔のデーモンwwwww
……って笑いごとじゃねえええ!!! なんで鍛冶屋のおっさんのすぐそばで、こんな物騒な巨大デーモンが暮らしているんだ!!! 俺、肝をつぶして鍛冶屋の場所まで戻り、ゲラゲラと笑っているS君を問い詰めた。
「ちょ!! なんだアレは!! あんなの倒せるの!?」
こともなげに、S君が言う。
「見た目はおっかないけど、わりとあっさり倒せちゃったよw だから教えなかったんだけどw」
なーんだ。あいつは見かけ倒しデーモンだったのか。驚いて損したな。
俺は「なーんだなーんだ」を連発しながら再び最下層の人となって楔のデーモンと対峙した。そして、接近しようと思ったところでヤツが持つ杖のようなものから発射された雷撃が直撃し、続けて打撃も食らい、わずか7秒ほどであっさりと絶命させられてしまう。今後の参考になる要素がひとつもない、バカ丸出しの無駄死にである。そのみっともない死にざまを見て、S君が申し訳なさそうに口を開いた。
「あ、そうか……。俺は魔術の遠距離攻撃だけで倒したから簡単だったのか……。肉弾キャラだと、どうしていいかまるでわからんね^^;;」
また出やがったよ肉弾問題!! もうホント、どうすりゃいいの俺……。
それでもどうにか心を奮い立たせてソウルを回収し、「オマエは後回し!」と宣言して教会へ向けて走り出した俺。なんか、未解決のヤバいキャラをあちこちに残してきてしまっているが、勝てないものは仕方がない。このままいくと借金が膨れ上がって「怖くてどこにも行けねえ!」なんてことになってしまいそうだが、そんときゃそんときに考えることとし、俺は先に進むことにした。さあ、目覚ましの鐘を鳴らすぞ!
……やっぱり今回も、“鐘のガーゴイル戦”のことが書けんかった……。次回こそそこに言及し、最初の区切りをつけるぞ!!
……たぶん。
今日もボキボキに心折れております。
黒騎士と牛頭のデーモンを撃破して意気揚々と先に進んだものの、橋の上に現れたヘルカイトにさんざん焼かれて大量のソウルを失った俺。しかも、山賊が始めから持っている“蜘蛛の盾”の性能を過信……というか勘違いして、つぎのようなとんでもない恥ずかしいミスを冒してしまった。
そのとき、俺の前には3匹の犬ネズミがいた。例のヘルカイトが陣取る、橋の下の小部屋である。この腐れネズミどもにS君のキャラが噛み付かれ、毒状態にされていたのを見て知っていた俺は、ここぞとばかりのドヤ顔を作って身内のH、S君にこう告げた。
「山賊が持っている蜘蛛の盾、毒無効の効果が付いているんだよね。なのでこいつらは敵じゃねえ」
そう言うと俺は、何の危機感も持たずに犬ネズミがたむろする小部屋に入っていった。なんとノーガードで。そのときまで俺は、蜘蛛の盾を身に付けてさえいれば、毒はいっさい受け付けないと思っていたのである。勘違いもここまで突っ走ると清々しい。
3匹連なって現れた犬ネズミは、ガウガウと牙を剥いて我が分身に襲い掛かってきた。噛まれるたびに、毒効果が蓄積されていく。ノーガードなので耐性の臨界点を突破するのはあっという間で、じきに俺は毒状態になってしまった。これぞまさに、青天の霹靂。顔面蒼白の俺に向かって、「あはははは!!」と腹を抱えて笑ながらHが言う。
「ちょっとw どこが毒無効なのよww 思いっきり毒になってんじゃんwww」
そう、蜘蛛の盾はあくまでも“毒耐性に秀でている”のであって、決して無効にするものではない。しかし俺にしてみれば、あまりにも想定外のことが目の前で起こってしまったという憂うべき状況。毒状態になったのはそのときが初めてだったこともあって、どうしていいかわからない。
「ちょ!! なんで毒になってんの!? 話が違う!(違わない) どうすりゃいいんだ!! 助けて助けて!!」
まったく慌てる必要なんてなかったのに、毒にされたとたん犬ネズミが大怪獣に見えてしまって、いたずらに後退りをしてしまう。結果、俺はものの見事に足を踏み外し、「ぴゅ〜るるるぅぅぅぅぅ…………」という残響を残して転落死したのでありました−−。
そんなことがありつつも、俺は先に進んだ。1回や2回死んだくらいで、いちいち気にしてなんかいられない。俺は“城下不死教区”へと歩みを進めた。
しばらく進むと目の前に、これまで出てきた敵キャラとは明らかに住んでる世界が違う、巨大で猛々しい生き物が現れた。イノシシを限界まで膨らませてゴツい装備を付けたような“アーマードタスク”と呼ばれるヤツだ。見るからに、ヤバそうである。
「うーむ」
俺はアーマードタスクの異様を遠くに眺めながら「……とりあえずヤツは後回しにしてこっちに進もう」とつぶやき、小さな塔の螺旋階段を登っていった。こういうところにはたいがい、使えるアイテムが落ちているものだ。この塔のてっぺんにも、ステキなものが置かれているに違いない。ところが。
「あ」
塔の頂上にたどり着いたと思った瞬間、俺の眼前で何かが閃いた。そして「あれ?」と思う間もなく画面に例の文字が表示される。
「YOU DIED」
これを見ていたS君が笑ながら言う。
「あ……。その塔の頂上、黒騎士がいるから気を付けて^^;;;」
……って先に言って!!
いま思うと俺の『ダークソウル』の最初の壁は、ここにいる黒騎士だったかもしれない。何の心構えもせずに接近して一刀両断された1回目は論外だとしても、冷静になって2回、3回と挑んでも簡単に返り討ちにあってしまうのだ。狭い螺旋階段だと戦いづらいんだと思って塔の外まで黒騎士を誘い出してみたが、出たところがそもそも狭いし、行き過ぎるとアーマードタスクが突進してくるのが目に見えたのでどうにも思い切った立ち回りができない。けっきょく、挑戦回数が10回を超えたあたりで俺の心は開放骨折を起こし、「……今日のところはカンベンしといてやるか……」とついに逃げの選択肢を選んでしまう。こんなに負けた気分になったのは久しぶりだった。
しかし、うなだれてばかりじゃいられない。黒騎士からは逃げることができても、道をふさぐアーマードタスクからは逃げるわけにはいかないのだ(※後で知ったが、階下へ続く階段に逃げ込めばやり過ごせるらしい……)。
俺は努めて冷静を装い、ソロリソロリと前に進んだ。物陰に潜んでいる敵をセオリー通りに誘い出し、1体ずつ各個撃破する。じきにアーマードタスクに気付かれてしまったが急いで階上へ向かう階段を駆け上がり、巨体による突進をかわした。でも、これでは逃げただけ。ヤツを倒すにはけっきょく、正面からの肉弾戦を挑むしかなさそうだ。 でもよく見ると、この高台には下に飛び降りられそうな橋があった。『ダークソウル』の飛び降り攻撃(落下中にR1ボタン)は超強烈なので、1発でもこれを当てられたらかなり有利になれるに違いない。
そこで俺は、高台で待ち伏せしていたザコどもを冷静にさばき、ダイビングポイントと目星を付けていた橋の上に立った。すると思った通り、橋の真下にアーマードタスクがやってきて、「降りてこい! ブヒィィイイン!!」と騒いでいる。ヨシヨシ。いま行くからな。待ってろよ! 俺は「キエェェエェェエエ!!」という奇声とともに、真下のアーマードタスクに飛び降り攻撃をブチかました。
「ブヒィィイイン!!!」
強力な一撃を食らい、血しぶきを上げるアーマードタスク。でも、さすがに体力が多いらしく、一発で仕留めることはできなかった。俺は、主導権を握られてはタマランと武器を握り直し、1発、2発と追撃をくわえる。すると意外なほど呆気なく、巨大なイノシシは銀色の光を放ちながら俺の目の前から消え失せてしまった。ほぼノーダメージでの完勝である。
「よし、先を急ごう!」
最初の目的である“目覚まし鐘”は、もうすぐだ!
……たぶん。
さっそく現れた『ダークソウル』のガーディアン的存在、“黒騎士”は確かに恐ろしい相手だが、こんなところで簡単に日和った戦術に逃げてしまったのでは、この先に待ち構えるさらなる苦難を乗り越えることなどできはしない。俺は、プレイを見守る身内のHとS君に力強く宣言した。
「ここで遠距離攻撃の魔術を覚えさせる……という選択肢もあるかもしれないけど、やっぱりこのキャラは肉弾オンリーでいく。脳筋キャラで突き進む!! 遠距離攻撃には頼らぬ!!」
「おお〜!!」と感嘆の声を上げるオーディエンス。山賊生まれの俺にとって、至福の瞬間でありました。
とはいえやはり、丸腰(武器持ってるけど)でヤツの前に立つのはあまりにも心細かったので、俺はコソコソと篝火を出て右に曲がり、階下に下りていった。黒騎士がいる場所とは、逆の方向である。その様子を、目を“??”にして眺めていたHが何かに気が付いたらしく「はっ!」と言い、ニヤニヤと笑いながらこんな発言をする。
「デタww 火薬壺買う気だwww」
火薬壺とは、火のついた壺を敵に投げつける攻撃用のアイテムで、言ってしまえば火炎瓶のようなもの。投げて使うものなので、攻撃のリーチは肉弾武器の比ではない。しかし俺は意地になって、赤面しながら怒り声を出した。「かかか、火薬壺は肉弾攻撃の延長ですっ! 断じて遠距離攻撃ではないっ!!」。
けっきょく俺は“不死の商人(男)”から火薬壺を5個ほど買い(わりとセコい)、ちょっとした安心感を得る。そう、俺は必殺のアイテムを手に入れたかったわけではなく、この安心感を買いたかったのだ。なのでこれでいいのだ。
火薬壺5個を手に、俺はドキドキしながら黒騎士が待つ通路に向かった。ぶっちゃけ、黒騎士は干渉さえしなければ襲い掛かってくることはないのでシカトしておいてもいいのだが、そんなことは俺の矜持が許さない。俺は「さあこい!! 掛かってこい!!」と威勢のいいことを言っているわりにはソロリソロリとした足取りで、黒騎士ににじり寄った。「早くいきなよw 黒騎士待ってるよww」とHがバカにした声を出した。
そしてついに、戦いの火蓋は切って落とされた。俺の姿を見つけるや、重装備がウソのように軽やかな歩調で黒騎士が走ってくる。「うわわわわ!!」と恐れおののきながらも俺は黒騎士をロックオンし、ズリズリと後ずさりした。そんな俺を目掛けて、黒騎士がフェンシングの突きのような動作で剣の切っ先を突き出す。それを見て、俺はあることを思い出した。
「あ……。この動きは、『デモンズソウル』の赤目と似ているぞ」
『デモンズソウル』で強敵だった“赤目”と呼ばれていたキャラが、黒騎士と同じような動きをしていた。もしかしたら同じ道場で剣術を学んだのかもしれない。違うかもしれない。この突きはまともに食らうと一撃死するほど強烈だが、くり出したあとに必ず大きな隙が生まれる。これなら、なんとかなるかもしれないぞ。
俺はわざと黒騎士の間合いに入り、ヤツの攻撃を誘った。チビりそうなほど怖かったが、いまの武具でこいつに勝つには、攻撃をギリギリの距離でよけて素早く間合いを詰め、こちらの攻撃を当てるしかないと思ったのだ。すると思った通り、黒騎士は先ほどの突きをくり出すモーションに入る。
「いまだ!!」
俺は黒騎士の剣が伸びきる距離を正確に見切って攻撃をかわすと、ゴロン(前転)で距離を詰めて黒騎士に張り付いた。そして「うりゃあああ!!」という奇声とともにバトルアックスを振るい、黒騎士に手傷を負わせる。「よし! いける!」。俺は勝利を確信した。
その後、俺はさんざん黒騎士の攻撃を見誤ってズタズタに斬られ、HP残り1ミリという臨死体験をさせられた。が、エスト瓶のガブ飲みとヒット&アウェイをくり返した結果、挑戦1回目で見事、黒騎士を退けることに成功する。コソコソと持ち込んだ火薬壺は、けっきょくひとつも使わなかった。
「やった!! こ、怖かった!!」
手のひらからドッと汗を吹き出させながら、安堵の声を上げる俺。そんな俺のがんばりに敬意を表してくれたのか、黒騎士は思わぬ贈り物を落としてくれた。
「あ……。なんか“黒騎士の剣”ってのが手に入ったぞ」
見るとこの剣、物理攻撃力が205もあるとんでもない逸品で、俺がいままで使っていたバトルアックス(物理攻撃力95)が子どものおもちゃに見えるようなシロモノである。使いこなすには筋力20、技量18が必要だが、脳筋キャラで生きていくことを決めた俺には、それほどハードルの高い数値ではない。しかしこの剣を見て、HとS君が不満の声を漏らす。
「なにその剣!! 俺のときは出なかったよ!!」
「私のキャラのときも落とさなかった! ズルい!!」
そんなこと言われても、ねえ^^
この勢いを駆って、俺は“牛頭のデーモン”も意外なほどスムーズに撃破。ぶっちゃけここでも、遠距離攻撃ができない“肉弾キャラ問題”が浮上するかと思ったが、冷静に敵の攻撃を避け、思い切って間合いを詰めて敵に張り付く……という戦法で乗り切ることができた。いやあ、今回はなかなか心折れないなあ^^
しかしすぐに、橋の上に陣取る“ヘルカイト”の炎にさんざん焼かれて数千ソウルを無駄にし、「もう、このゲームやだ……」と心を複雑骨折する。ここでコントローラをS君に渡してイジイジといじけていたのだが、人がやっているのを見るとすぐに「俺もやる! リベンジする!」となるのだから『ダークソウル』は恐ろしい。
さあ、いじけてないで先に進むぞ!
今日も本気で心折れております。
いい加減先に進む。
火継ぎの祭祀場にたどり着き、あちこちウロウロして余計な死を重ねまくった俺。でもおかげでようやく「ちょっと落ち着け不惑」という気分になり、このゲームをプレイするうえで絶対に必要な“冷静さ”を取り戻すことができた。さあ先に進むぞ。
火継ぎの祭祀場から水路を通り、最初に行ける場所が“城下不死街”。ザコ敵との息詰まるやり取りを何度かこなし、ここでの活動拠点となる篝火に火を灯した。これでどこで死んでも、この篝火からやり直すことができる。
バトルアックスと蜘蛛の盾を手に、俺は篝火を出発した。とりあえずの目的は、火継ぎの祭祀場にいた“心折れた戦士”から聞いた“目覚ましの鐘”を鳴らすこと(だと思う)。なのでまずは、深く考えずに前に進むしかない。
篝火を出てすぐに、階下から駆け寄ってくる剣を持った亡者とクロスボウの亡者を撃破。こいつら、この篝火から再スタートするたびに倒さなければならない“馴染み”の敵で、そのたたずまいは、俺が家を出るのを待ち構えていて100パーセントの確率で話しかけてくる近所のYさんというおばさんに近い(知らねーよ)。Yさん……じゃなくて2匹の亡者を倒したら、狭い橋を渡って城下不死街へ。でもさっそく、この橋で事件は起こる。
橋の向こうにある小部屋に亡者戦士がいるのが見えるので、「よし! やったる!」と意気込んで近寄ろうとすると、あろうことか上空から火薬壺が降ってきて橋の手すりで「ボン!」と爆ぜる。でもなんとか直撃は回避できたので、冷や汗を拭きながら小部屋に突入しようとすると、なんと死角になっていた場所から大きな盾を構えた亡者剣士が躍り出てきて、剣を振り回し始めたではないか! 俺、「!!!」とキモを潰してもと来た道を戻ろうとすると、今度は上空からの火薬壺が脳天に直撃。とたんに俺は火達磨となり、「!!!!!」とパニックになったところで、今度は倒し損ねていた1匹の亡者に背後を取られて万事休す。前面からの盾剣士の刺突、上からの火薬壺、そして背後の亡者の斬撃と、三段殺しの地獄に落ちて我が分身は絶命してしまった。まだ篝火から、20メートルくらいしか先に進んでいない。
「もう疲れた……。選手交代……」
簡単に心が骨折した俺は、プレイステーション3のコントローラを身内の大学生・S君に渡した。S君は俺以上に『デモンズソウル』をやり込んでいたプレイヤーで、この『ダークソウル』も順番に遊んでいる。このゲームは、人がやっているのを横で見ているだけですこぶるおもしろいから、これでいいのである。
S君は俺が肉弾キャラの山賊で始めたのを見て、「やっぱり違う特性を持っているキャラでやったほうが楽しいよね〜」と言って、素性は“魔術師”を選択。高い理力を活かし、最初から覚えている遠距離魔術の“ソウルの矢”を駆使して、あっと言う間に俺の分身がいる篝火までやってきた。俺、密かに心を曇らせる。
「…………」
さらにS君は、篝火で体力とソウルの矢を補充し(満タンで30発も撃てるスグレモノ!)、「もうちょっと行ってみるかね」と言って、俺の死体が転がっている(見えないけど)橋を渡る。そして、部屋に俺を誘い込んでコワモテの盾亡者をけしかけてきた、美人局のような亡者をソウルの矢でプチュンと討伐。慌てて出てきた盾亡者もバックステップしながら距離を取り、プチュンプチュンとソウルの矢を撃って難なくクリアーしてしまった。俺、なんとなくおもしろくない。
「………………」
続けてS君は「もうちょっと進もう」と言って、3匹の亡者(我が家では“3バカ”と呼ばれている)がジェットストリームアタック(?)を仕掛けてくる場所を遠距離攻撃で突破し、狭い階段の通路で4匹もの盾亡者が襲い来る序盤の危険地帯(我が家では“盾ゾーン”と呼ばれる)も通過。さらに! 恐ろしい妖気をまとって暗い通路の奥にたたずんでいた、『デモンズソウル』のときの“赤目”に匹敵する強敵“黒騎士”も、「うわあああああ!!」と逃げ惑いながらもソウルの矢を連発して撃破してのけた。そして胸を撫で下ろしながら開口一番、こんなことを言うではないか。
「危なかったーーーっ!! ソウルの矢があったからよかったけど、こいつ、肉弾戦だとキツいと思うよ……。遠距離攻撃ナシで倒せる絵が思い浮かばない……」
あのオレ思いっきり肉弾キャラなんですけど……。
突如降って湧いた“肉弾キャラ問題”。これはこの黒騎士だけではなく、要所要所で俺の前に立ち塞がって、心を「ポッキリ」と折ってくれることになるのだ。
しかし、となると俺も、理力のレベルを上げて遠距離魔法を使えるようにしたほうがいいのか……? それとも……。
次回に続く。
▲たびたびプレイヤーの前に現れ、恐怖のどん底に叩き落してくれる黒騎士様。でも彼のおかげで、俺は序盤の戦いがグッと楽になることに……。
(C)2011 NBGI (C)2011 FromSoftware, Inc.
大塚角満

週刊ファミ通副編集長にして、ファミ通グループのニュース担当責任者。群馬県出身。現在、週刊ファミ通誌上で“大塚角満のモンハン研究所”というコラムを連載中。そこら中に書き散らした『モンハン』がらみのエッセイをまとめた単行本『本日も逆鱗日和』シリーズ(4巻)が発売中。また、そこからのスピンオフとして別の視点から『モンハン』の魅力に迫る書き下ろし作品『別冊『逆鱗日和』 角満式モンハン学』シリーズも。このブログではさまざまなゲーム関連の話題を扱うつもり。一応、そのつもり。
最近のエントリー
バックナンバー
- 2017年06月
- 2016年06月
- 2015年12月
- 2015年11月
- 2015年05月
- 2015年04月
- 2015年03月
- 2015年02月
- 2015年01月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年10月
- 2014年09月
- 2014年02月
- 2013年05月
- 2013年04月
- 2013年03月
- 2013年02月
- 2012年07月
- 2012年06月
- 2012年03月
- 2012年02月
- 2012年01月
- 2011年12月
- 2011年11月
- 2011年10月
- 2011年09月
- 2011年08月
- 2011年07月
- 2011年06月
- 2011年05月
- 2011年04月
- 2011年03月
- 2011年02月
- 2011年01月
- 2010年12月
- 2010年11月
- 2010年10月
- 2010年09月
- 2010年08月
- 2010年07月
- 2010年06月
- 2010年05月
- 2010年04月
- 2010年03月
- 2010年02月
- 2010年01月
- 2009年12月
- 2009年11月
- 2009年10月
- 2009年09月
- 2009年08月
- 2009年07月
- 2009年06月
- 2009年05月
- 2009年04月
- 2009年03月
- 2009年02月
- 2009年01月
- 2008年12月
- 2008年11月
- 2008年10月
- 2008年09月
- 2008年08月
- 2008年07月
- 2008年06月
- 2008年05月
- 2008年04月
- 2008年03月
- 2008年02月
- 2007年12月
- 2007年11月
- 2007年10月
- 2007年09月
- 2007年08月
- 2007年07月
- 2007年06月
- 2007年05月
- 2007年04月
- 2007年03月
- 2007年02月
- 2007年01月
- 2006年11月
- 2006年10月
- 2006年09月
- 2006年08月
- 2006年07月
- 2006年06月
- 2006年05月
- 2006年04月
- 2006年03月
- 2006年02月
Movable Type 3.21-ja