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【MHP 2nd G】第136回 あるハンターの栄光・挫折・再生 〜Jast25's物語〜 最終話

 2008年春。第2回目となるモンスターハンターフェスタが開催されることが発表された。当然、ディフェンディングチャンピオンであるJast25`sは出場することに迷いはなく、開催概要が発表されるのと同時に「今年も出よう!」とふたりで話し合ったという。しかし、ふたりが置かれている状況は前回とはまったく違っていた。Jast25`sは日本で唯一、『モンスターハンター』の公式的な”チャンピオンベルト”を持っているチームになってしまったのである。口に出しては「自分たちが楽しいから出場するんだ」と言っていたが、心はプレッシャーと責任感で満たされてしまっていた。(去年の優勝チームとして、期待を裏切るプレイをするわけにはいかない!)という、真面目なふたりだからこそ湧き上がってきた感情が、計算されつくした理詰めプレイを身上とするJast25`sから余裕を奪っていった。

 そして今年のモンハンフェスタは、対象ソフトの『2nd G』が発売されてから最初の福岡地区大会が開催されるまでの期間が短かった。飛びぬけたセンスに頼るのではなく、考え、検証し、それを元にした努力によってのし上がってきたJast25`sにとって、練習時間を確保できないことはボディーブローのようにジワリと効いた。ディフェンディングチャンピオンしか感じることのできないプレッシャーと、頼りにしていた練習時間の確保が難しい状況に、ふたりは両翼をもがれたような気分になった。焦りはさらに増した。

 それでもふたりは努力をした。ふたりが顔を合わせる時間がなかなか取れないことは個人練習でカバーしようと、自分自身のスキルを磨きまくったのだ。たまに会えるときには、徹底的にセットプレイの呼吸あわせ。そして大会の直前でどうにか、(チャンピオンとして恥ずかしくないものを見せられるところまで立ち回りを詰めることができた)と思ったという。

 2008年4月26日。モンスターハンターフェスタ`08、開幕。地区大会初戦の会場となるのが、Jast25`sが出場する福岡である。筆者はこのとき、福岡大会の会場に入ってすぐにJast25`sの姿を見つけてこう思った。「今年もこのふたりが福岡を勝ち上がって、全国で大暴れするんだろうな」と。そしてそのとおりのことを予選が始まるまえにふたりに告げ、「全国に行けるように、がんばります!」という言質を取った。そのとき、充実感に満ちたふたりの顔を見て、筆者は自分の予感を”確信”に変えたものだ。

 そして予選のババコンガ討伐。Jast25`sは見事2位で決勝ステージに進出する。さすがディフェンディングチャンピオンだ。その理詰めプレイは、去年よりもさらに極まってきているのだろう。なので予選が終ったあと、筆者は気楽にJast25`sに声をかけた。「今年もすごいね」と。しかし意外なほど、ふたりの顔と声には余裕がなかった。聞くと、練習では滅多にそんなことはなかったのに、ravenがババコンガ相手に1オチし、想定していた予選通過ラインよりも30秒も遅いタイムを叩き出してしまったというのだ。運良く予選通過は果たせたが、ふたりの表情は曇ったままだった。そしてそのあとの結果を思うと、筆者はこのときにkoheiが言った「ちょっと大会に、飲まれてきてるかもしれません」という言葉を忘れることができないのだ。

 決勝ステージ。相手は『2nd G』の象徴、ナルガクルガだ。ババコンガでは予想外のミスをしてしまったが、ナルガクルガのタイムアタックについては、ほぼ完璧に詰めきれた自信がある。クリアータイムは、遅くとも4分。ふつうに立ち回れれば、3分30秒は余裕でいけるはずだ。ふたりは、自信満々だった。「今年も全国にいける!」そう思った。

 ふたりは導き出した方程式どおりに動いた。大剣を持つkoheiは、数秒のタメを作ってからナルガクルガの待つエリアへ。この数秒のタメを作ることで、ナルガクルガはテクテクと歩いて行ったあと、しばらく動きを止めるのである。ボーっとたたずむナルガクルガの尻尾付近を目掛けて、大剣で2回斬る。ぼんやりしていたナルガクルガもこれによりハンターの存在に気づいて、クルリと振り向く。その頭目掛けて、強烈な大剣の一撃。この3回の攻撃が、Jast25`sによる”ナルガクルガ詰め将棋”のすべての起点となっていた。この間に狩猟笛を持つravenは、ほかのエリアで悠々と閃光玉を採取。閃光玉の使い時もすべて、方程式には織り込み済みだ。完璧な詰め将棋。あとは、数え切れないほどの練習で突き詰めた”必勝パターン”を、ステージで”演じる”だけだ。

 大剣を持つkoheiは、練習時と同じだけのタメを作ってから、ナルガクルガが待つエリアへと飛び込んだ。何十回、何百回と行ってきた自然な流れの中での行動だ。そこにはボーっとたたずむナルガクルガが待っているだろう。

 ところが。

 そこにいつものナルガクルガは、いなかった。驚いたことにkoheiが大剣の2撃を加えるまえから振り向いて、koheiが来るのを待ち構えていたのである。「まさか!!」とkoheiは叫んだ。どうしていま、”この目”を引いてしまうんだ……。

 じつはナルガクルガのタイムアタックを詰めていたとき、唯一の不安要素として10回に1回程度の割合で”ナルガクルガが振り向いてしまっているパターン”が存在していたのだ。確率的に”振り向きナルガ”を引く可能性は非常に低かったのだが、もしも引いてしまったときのことを考えると、やはり看過はできない。なのでふたりは可能な限り、どうすれば振り向きナルガを引かなくて済むのかを検証した。そして「このタイミングでふたりが行動すれば振り向きナルガは引かない」という手応えをつかんだ。つかんだ、気になった。しかし蓋を開けてみたら、駆逐したと思っていた振り向きナルガと地区大会決勝ステージで遭遇。まさに、青天の霹靂だった。

 それでも、ふたりほどの実力さえあれば違うパターンのナルガクルガが出てきても、必要十分な立ち回りでいいタイムを叩き出せそうなものだ。しかし、ふたりは瞬時にパニックに陥った。このときの状況を、ravenは苦笑いしながら顔でこう振り返る。

 「この振り向きナルガを引いてしまったときの対応策を、まったく考えていなかったんです。”もうこのナルガを引くことはない!”って勝手に確信して。つまり、このナルガを引く可能性を切り捨てたうえで、タイムアタックを詰めていったんですよ。だからステージ上ではパニックになって、ふたりとも頭の中で”あり得ない!”を連発。僕らの詰め将棋は、ナルガに遭遇したときに大剣で3発お見舞いするところが完全な起点だったので、それが崩れた瞬間に、すべてが崩壊してしまったんです。僕らが本当にやるべきことは、”振り向きナルガを引かない方法”を考えるのではなく、”振り向きナルガを引いたときの対応策”だったんですよね……」

 混乱の極みに陥ったJast25`sはけっきょく、このナルガクルガ討伐に6分8秒もの時間を費やす。練習ではどんなに遅くとも4分台で決着をつけていたふたりから見たら、信じられないような遅いタイムだ。結果、Jast25`sは福岡大会4位となって全国大会進出の権利を逃す。ディフェンディングチャンピオンが、まさかの地区大会敗退。Jast25`s以上に、見守っていたマスコミや観衆が、その事実に驚いた。

 しかしこれこそがやり直しナシの一発勝負の恐さであり、魅力でもあるのだ。どんなに絶対的な実力を持っていても、ほんのちょっとのほころびから穴は広がり、取り返しのつかない事態に陥ってしまう。理詰めを極めたこのふたりならほんのちょっとのほころびだったら修正してしまいそうだが、じつは理の極まりを手にしたときに、彼らは失敗したときの巨大なリスクもいっしょに背負い込んでいたのである。参謀のravenが言う。

 「作戦に”遊び”を加えていないと、こういうことになるんです。遊びの入る余地がないくらい、詰めきったと思っていましたから。言ってしまえば理詰めのプレイじゃなく、エリアに入ってがむしゃらにナルガを相手に立ち回るという作戦だったら、こういうブレは生まれないんです。これが、理詰めの恐さなんですよね」

 そして客観的に見て、ふたりは”魅せるプレイ”を優先させたがゆえに歯車を狂わせてしまったのではないかな、とも思う。Jast25`sは、『モンハン』をアイテムとして使うエンターテナーだった。速いタイムだけを追い求める純粋なアスリートではなく、集まった人たちを沸かす、喜んでもらうことに重きを置いていたため、パニックに陥りながらもどうにかして”魅せるプレイ”を演じることができる土台を作ろうとしたのだ。その証拠に、なんとか自分を取り戻したナルガ戦の後半、ふたりのプレイに会場は沸きに沸いた。しかし、タイムが結果としてついてくることはなかったのだが……。昨年、驚異的な立ち回りで会場を沸かせたことで開眼したエンターテナーとしての資質が、ここでふたりの足をすくった……と考えるのは穿ちすぎだろうか?

 この予選敗退という結果を、ravenは冷静に受け止めた。「これはこれで、アリかな」と。会場が沸いたのも、キチンと聞こえたし……。しかし、koheiは受け止めることができなかった。福岡大会の会場で、人目もはばからず号泣したのである。それから1週間、koheiは塞ぎこみ続けた。なぜ練習してきたものをまったく出せなかったんだ。納得できない。どうしても、もう一度チャレンジしたい! koheiは考え続けた末に、ravenに電話をかけた。「大阪大会で、もう1回チャレンジさせてくれないか」と。ravenは最初こそ「はあ!?」と驚いたものの、すぐに「仕方ないな」と苦笑いし、こう返事した。「付き合うよ」と。相棒は昔から、こういう男なのだ。これに付き合えるのは、自分しかいないんだ。大阪大会が行われる、2日まえの出来事である。

 しかし、決意を持って挑んだ大阪大会でも、ふたりは敗れ去ってしまう。それも予選のババコンガ討伐で大失敗を犯し、決勝ステージに進出することもできなかったのだ。まだ全国決勝大会当日に行われる最終予選にチャレンジするという手も残されていたが、さすがのkoheiもそれに参加したいとは言わないだろう。ところが、koheiの執念はravenの想像を遥かに超えていた。koheiはravenに言った。「本当にすまん。……最後の当日予選に、付き合ってくれないか……?」と。

 「またか! ですよ(苦笑)。でもまあ、そう来ると思っていましたけどね。長い付き合いですから、わかるんです(笑)」

 このときのことを、koheiは照れくさそうにこう振り返る。

 「最初は僕ひとりで見学に行こうと思っていたんですけど、やっぱりふたりで出たくなったんです。で、「付き合ってくれ」って連絡をしたんですね(苦笑)。そしてこのとき、相棒に言われてすごくうれしかった言葉があるんです」

 何のことだ? と目をパチパチと瞬くravenに向かって、koheiが言った。

 「”付き合ってくれるか?”と聞く僕に向かって、相棒はこう言ったんです。”出るんだったら、相棒は俺しかおらんやろ!”って。最高に、うれしかったですね」

 しかし今年のモンハンフェスタにおいては、最後まで勝利の女神はJast25`sには微笑まなかった。あれほど女神に愛され、時代の寵児となったふたりも、狂った歯車を修正することはかなわなかったのだ。

 そんな、ディフェンディングチャンピオン不在のモンハンフェスタ`08決勝ステージでは、シンクロプレイという必殺の武器を引っさげて現れたEffort Cristalと、抜群のセンスと柔軟性で圧倒的な存在感を見せ付けていたもうゲネポが激突。死闘の末、もうゲネポが2代目チャンピオンとして勝利の美酒に酔った。Jast25`sという強烈な光が消えたステージに、新しい光を放ちながら現れたもうゲネポとEffort Cristal。脚光を浴びる彼らを眺めるkoheiとravenを横目で見ながら、これもまたアスリートが集う祭典の魅力のひとつなんだろうなと、決勝大会の会場で思ったものだ。

 インタビューの最後に、筆者はJast25`sのふたりにこんなことを尋ねた。「またこういった大会があったら、参加したいと思う?」と。koheiもravenも、この問いには一瞬の逡巡もなくこう答えた。「当たり前じゃないですか!」と。そしてお互いの顔を見ながら声を揃えて、

 「ま、こういう相棒がいますから」

 と言って笑った。


投稿者 大塚角満 : 22:56

大塚角満

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週刊ファミ通副編集長にして、ファミ通グループのニュース担当責任者。群馬県出身。現在、週刊ファミ通誌上で“大塚角満のモンハン研究所”というコラムを連載中。そこら中に書き散らした『モンハン』がらみのエッセイをまとめた単行本『本日も逆鱗日和』シリーズ(4巻)が発売中。また、そこからのスピンオフとして別の視点から『モンハン』の魅力に迫る書き下ろし作品『別冊『逆鱗日和』 角満式モンハン学』シリーズも。このブログではさまざまなゲーム関連の話題を扱うつもり。一応、そのつもり。


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