現地直送! 北米ゲーム事情リポート
基本プレイ無料と少額決済は悪の雑草なのか?
マイクロトランザクション(少額決済)が好きな人なんてそうそういない。ゲームを薄め、プレイヤー体験の価値を減らし、あまつさえプレイヤーと開発者の間に不信感さえ生む。
だが今や多くのデベロッパーにとって、F2Pとマイクロトランザクションは第一に考えるべき選択肢だ。僕らは本当にそんな所へ沈んでいくしかないのか?
……さて、ゲームの中から現金を支払わなきゃいけないことを発見すると途端に不機嫌になる30代〜40代のゲーマーを代弁してみたんだけど、どうかな?
もっとも、キミが若い場合(または違法コピーが“基本無料”を意味するような一部アジア地域に住んでる場合)は、F2P(基本プレイ無料)のコンセプト自体は大したことじゃないかもしれない。モバイルゲームを遊びたいなら、その道を通るしかないからね。定価はゼロドルか、それに近いようなもの。かかるお金はそれだけだ――何か足そうと思わない限りは。
エピソードごとの販売や、広告モデルなど、売り切りモデル以外のさまざまな方法を開発者が模索している間に、モバイルプラットフォームではあっという間にF2Pモデルが広まった。
だがこれを、やたら生命力の強い雑草のように思う人がいるのはご存知の通り。結果としてコアゲーマーと開発者たちとの間には膨大な欲求不満と、それに伴う戦いが生まれているわけだよね。
伝統的なコアゲーマーからのもっとも過激な意見は、理解できることだとボクは思うが、F2P とマイクロトランザクション現象を、ビデオゲームから創造性や、情熱と魅力を最後の一滴まで根絶させる、何か邪悪な破壊の力だと見なすというものだ。
いくらかは真実を突いている部分もある。だが全体像は明らかに描いていない。もう一方ではF2Pの開拓者たちはこのビジネスモデルについて、これまであった枷を取り去る、業界を成長させる革命だと主張していて、これにも耳を傾けるべき部分はあるからね。
僕が思うに、F2Pがもたらす最も大きな副作用は、ゲームコンテンツの金銭的価値を切り下げていくということだ。MP3が広まって以降、音楽業界で起こったのと同じようなことだ。多くのモバイルゲームのプレイヤーはゲームを無料で遊びたいし、できれば無課金で済ませたいと思っている。これは健康的なバランスとはあんまり思えない。お金を払っている少数のプレイヤーに、多くのゲームの未来がかかっているということだから。
しかし、だからと言ってボクらが「安かろう悪かろう」という方向に真っ逆さまに転落していっているわけでもない。ハイエンドなゲームをF2Pで提供するという実験がいくつか出てきており、これはいい兆しに思える。
Adhesive Gamesは、Riot Gamesの『League of Legends』(現在もっとも世界でプレイされているゲームのひとつと言えるだろう)の成功を目の当たりにして、Meteor Entertainmentと組んで、PCのメカシューター『Hawken』をF2Pでリリースすることにした。
彼らのマイクロトランザクションはカスタマイズオプション周辺にとどまっていて、「勝ちたかったら金払え(Pay-to-Win)」というメッセージとは異なる(まぁ努力やコミュニケーションや時間は必要だが)。そしてプレイヤーは関係ない会社の広告の爆撃を食らう代わりに、グラフィックノベルなどのコレクターアイテムで誘惑される程度で済んでいる。
大事なのは、すごく当たり前のことだけども、大きな可能性もあるし、悪い面に転がり落ちていく可能性もあるってことだ。
大手パブリッシャーによるこのモデルのもっとも醜い側面は、非常に大きな話題を呼んだEAの『デッドスペース3』でのマイクロトランザクションだろう。マイクロトランザクション抜きでも問題なくプレイできるとはいえ、えぇと、フルプライスのAAAゲームだよ?
ボクが年老いたのかもしれないが、ベストバイで60ドル出して、家に帰って明かりを消してサバイバルアクションに備えようってのに、クレジットカードを見るためにもっかい明かりをつけなきゃいけないってのはやっぱりおかしいよ。
同じようなシニカルなマイクロトランザクションは、スクウェア・エニックスのiOSタイトルでもあった。F2Pならともかく、2ドル49セントという(モバイルにしては)結構な値段のついてるモバイルタイトルだっていうのに、遊び尽くそうと思ったら50ドルかかってました、というのはどうなんだろう?
さて、よろしくない例を出した後で恐縮だが、今更『PlanetSide 2』、『Star Wars: The Old Republic』、『League of Legends』を引き合いに出さずとも、多くのタイトルでAAA品質のコンテンツを無料で遊べるようになったのは事実だよね。今や『World of Warcraft』すらも無料で結構遊べるぐらいだ。
F2Pは、もう無視できない、真剣に考えなければいけない存在にすでになっている。いいF2Pとは何なのか、悪いF2Pとは何なのか。F2Pになっても何も問題はない類のゲームだってあるし、F2Pでは生きていけない種のゲームもある。さっき言ったような、MP3が音楽産業に引き起こした破壊的な事態がゲーム業界にやってきてから、在りし日を懐かしく思い起こしても遅いんだ。
あぁそうそう、タイトルの山から目利きする能力がない人には「まずは無料で」ってのはいいニュースかもしれないね。
それと、F2Pがすべてを制圧するって決まったわけでもない。こういったマネタイズ手法が、昔ながらの方法でお金を払うのを好むプレイヤーのための市場を強固にするかもしれないわけだよ。その方法はだね、遊ぶ前に払う前金制。どれだけ遊んでも追加料金はビックリのゼロドルだ。結構イケるんじゃないかな?
プロフィール
Jason Brookes
ジェイソン・ブルックス