現地直送! 北米ゲーム事情リポート

OuyaとRift、業界を騒がすふたつの“新ハード”

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 誰も今日のゲーム業界が未だ健在であることを否定することはできないだろう。モバイルゲームはカジュアルゲームの扉をブチ開け、インディーゲームのシーンは活気よくざわついているし、クラウドゲームの可能性もようやく陽の目を見るようになってきた(Onliveが身売りと大規模なリストラを敢行したけども、それはこのクラウドゲーム業界がSCEのGaikai買収によって新たな時期に入ったということに過ぎない)。

 だが、一番ホットなことはクラウドファンディングサイトのKickstarterで起こっている。Kickstarterでは、オープンプラットフォームを標榜するゲーム機Ouyaだけでなく、VR(バーチャルリアリティ)ゲームヘッドセットのプロトタイプすら手に入れられる。ボクのような疲れた皮肉屋にはもうお腹いっぱいだね。;-)

 いずれのプロジェクトもロサンゼルスを基盤に進んでいる。VRヘッドセット“Occulus Rift”は現在出資受付中だが、希望額25万ドルに対して、すでに8倍近い額を集めることが決定している(8月27日段階で約191万ドル)。このデバイスをエキサイティングなものにしているのは、革新的なテクノロジー……もいいんだけど、ジョン・カーマック(id Software)、ゲイブ・ニューウェル(Valve)、クリフ・ブレジンスキー(エピック・ゲームズ。結婚おめでとう!)といった業界の超大物たちからの熱心なサポートのたまものだ。


 そしてこのRiftの成功すらも覆い隠す勢いなのがOuya(公式サイト)。オープンソースでスタイリッシュ、F2P(基本プレイ無料)やクラウドゲームへの対応も可能で……と、ゲーム業界の流行りの単語を全部集めたかのような、Androidで動く新ゲーム機だ。ついこの間、Kickstarterで95万ドルを集めようとして約860万ドルを集めるという大成功を成し遂げた。95ドル以上を出資してOuyaを手に入れる予定の人は6万人弱。いまこの会社はスクウェア・エニックスやバンダイナムコゲームスといったゲームメーカーや、その他のメディアサービスを提供するメーカーなんかと契約すべく忙しいようだね。公式サイトでは予約も受け付けている。

 もちろんこの程度の予算は、業界のビッグプレイヤーたちがゲーム機を立ち上げる際にかける費用と比較すると笑っちゃうような額だ。しかしOuyaは彼ら既存のゲーム業界の小さな競争相手というよりも、むしろその計画は現状のシステムの破壊者と呼ぶべきものであると言えるだろう。OuyaはAndroidベースでハック可能なオープンゲーム機であり(キミの携帯電話と違って、ルート権限を取ったからといって保証外になったりしない)、開発者は好きなようにアクセス可能。ゲームを売ったらOuyaが30%を持って行く。

 Ouyaが現行あるいは次世代ゲーム機と正面から戦うような存在ではなく、少々ベクトルの違った存在だというのは、スペック面からもわかる。1GBのRAM、NVIDIA Tegra3のチップ、そして8GBのフラッシュストレージ(プラス外部ハードディスク)というのは結構なローエンドで、ハイエンドなAAA(最上級)タイトルが出てくる可能性よりも、むしろモバイルゲームに移ったデベロッパーに、ふたたび“ゲーム機”に戻ってくる魅力を感じさせる類のものだ。理論的にはあらゆるAndroidゲームが販売初日から動く予定で(そしてその後Ouya用に出てくるタイトルはF2Pのコンテンツを含む)、Ouyaとしてはコントローラーを前提にしたもっと意欲的なAndroidゲームが出てくることを期待しているだろう。……が、これは十分だろうか?

 最大限に考えて、ボクはOuyaがトップのゲームハードやPCに次ぐ、コアゲーム市場のローエンドをニッチに築くということはありえると思う。デベロッパーはパブリッシャーとの交渉という頭痛の種抜きに、思った通りのゲームを売ることができるからね。だが、この“ローエンドのAAAゲーム”という風変わりでありながらも光り輝くアイデアは、カジュアルゲーム/インディーゲームと、次世代のトップゲームの中間に落ちてしまうと思う。十分に魅力的ではあるが、巧妙なバランスによって成り立つ“中間層”以上には見えない。

 同時にもっともひどい場合を想定すると、Ouyaが時代遅れのゲーム機となる可能性も残念ながら考えられる。しかも、ひどいF2Pタイトルと、半分壊れた自作ゲームや海賊版が蔓延する、ゲームのマッドマックスとも呼べる荒野とセットのね。Ouyaがもし、どんなゲームが彼らのシステムに出てくるのかについて、適切な選別なりコントロールをまったくしないとしたら、消費者を食い物にすべくF2Pのデベロッパーたちが大挙して押し寄せ、市場を破壊するのをどうやって止めるのかわからない。これは何とも嫌なシナリオだが。

 そしてもうひとつ、“ゲーム機”としてカジュアルゲームやモバイルゲームの流れをうまく取り込めるのかという点について考えたい。これらの市場はハードウェアによって牽引されているわけではない。これらのゲームは、コンピューターとか電話という、ゲームとは別の主目的で所有されているデバイスで遊ばれているわけだ。非モバイルのキラーアプリをちょっと集めたところで十分な購買理由になるかは、Ouyaにとって難しい挑戦になるだろう。

 inXile EntertainmentやMinecraftのMojang、ロバート・ボウリング(『コール オブ デューティ』シリーズのスポークスマンだった)のスタジオRobotoki(『Human Element』というゾンビゲームを開発中で、その前日譚をOuya向けに出すとしている)などが支援を表明しているが、すでにOuyaで遊ぼうと待ち構えている5万人とかのファンを納得させるためには、さらなるゲームが必要だろう。Ouyaは2013年4月に8万台が出荷される予定だが、“卵か鶏か”という問題はある。要するに、KickstarterでOuyaをゲットした多くのデベロッパーは、それが届くのを待たなきゃいけない。

 さて、あれこれ心配してきたわけだけども、ボクはOuyaのビジョンにおもいっきり興味を惹かれている。コモドールのアミーガを手に入れた時の甘い記憶が思い出されるんだ。ハードの限界ギリギリに挑戦して作られた創造性と想像力にあふれた16ビットのゲームたち。ゲームメーカーだけじゃない。メガデモ製作者やハッカーの仕事にも影響された。ボクは芸術と呼び得るゲームが好きで、次世代にも期待を寄せている。だけど、「ハック可能なゲーム機が開発者のイマジネーションを刺激するかも」って物語だって、ボクにとって十分エキサイティングだね。

プロフィール

Jason Brookes

ジェイソン・ブルックス

イギリスのスタイリッシュな辛口ゲーム雑誌『Edge』の元編集長。ふと思い立って渡米後、『LOGiN』アメリカ特派員などを経て、現在は学生としてデジタルアートを学び直す日々。イギリス人らしいシニカルさは、アメリカに渡った現在も健在だ。実は日本のあるゲームの名付け親だったりもする……。

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