現地直送! 北米ゲーム事情リポート

クラウドゲームは未来のゲームとなり得るのか?

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 SCEがクラウドゲーム会社のGaikaiを約3.8億ドルで買収したというニュースは、ゲーム業界の経済とインフラ構造の変革の記念碑として記憶されるかもしれない。ソニーにとっては、オンラインがすべてを覆い尽くす未来への投資であるのと同じくらい、今後の各世代のゲームにおいて巨大なインストールベースを築かなければいけない途方も無い任務を解決する方法とも見えているだろう。プレイステーション3のハードは高価で前世代機よりも苦戦し、オンラインの領域ではマイクロソフトの後塵を拝してきたが、今度こそガッチリファイティングポーズを取らなきゃならない。

 特に2013年後半にもプレイステーション4が出るのではないかという噂が出回っていることもあって、このことがどんな意味を持つのか予測が活発化している。クラウドゲームシステムによってプレイステーションタイトルの旧作を膨大なバックカタログとして提供するとともに、たとえばプレイステーション3にプレイステーション4タイトルのデモを遊べるよう提供する(プレイヤーは新ハードを思わず買いたくなるかもしれない)といったように、複数の戦略を取る可能性ももちろん考えられる。さもなきゃ、月額契約なんかでサービスするとかね。欧米の経済はなかなかキツいものがあるが、600ドルの新型機は厳しくても30ドルを2年間払うのならイケるって人もいるだろう。

 Gaikaiはこれまでフルゲームよりも、どっちかというとマーケティングやデモを簡単に遊べる環境を提供するといった領域で活躍してきた。EAやLGやサムスンといったパブリッシャーやスマートTVのメーカーと契約したり、ユーロ圏のメディア「Eurogamer」なんかでブラウザで遊べるデモなんかを提供してたんだけども、これらの契約が今後どうなっていくのかは不透明だ。そのライバルであるOnliveは、2010年中盤にレンタル制(3-5日)と購入(もちろんパッケージより安いよ)でゲームを提供するサービスを立ち上げた(当初は月額契約もあった)。Onliveはテレビで遊べる(専用の小さなハードとコントローラーも出してる)し、PCやタブレットやスマートフォンでもプレイ可能で、より現実的な“クラウドゲーム”を実現していると言える。しかし、いずれにしても両社の技術はPCゲームを基礎としているため、そのまま転用するのは厳しいだろう。
 クラウドゲームの未来に立ちはだかる問題はまだまだある。いまの“初期の”クラウドゲームは旧来のゲームを駆逐しただろうか? そうじゃないのはご存知の通り。安定した高速なインターネット回線がプレイヤーにつねに要求されるのは結構なハードルだ。まぁ最近は、『ディアブロ3』をシングルプレイで楽しむにもオンライン環境は必要とされるわけだけども。それに、現状ではプレイ体験のクオリティーの点では素晴らしいとは言いがたい。シンプルさと手軽さという点では「イエス!」と力強く言えるけどね。Onliveの現状のサービスはフレームレートが話題になることが多い。この点Gaikaiは画像のディテールと反応速度で長じているが、いずれにしてもプレイするゲームによって大きな影響を受けることになる。高速でスムーズな体験であればあるほど、クラウドの壁にぶつかるんだ。これでも2年前にシニカルな人々が予測したよりはどちらもマシになったのだが。

 こういった壁も、技術が進歩してインターネットがもっと高速になれば解消していくのかもしれない。しかし、インターネットプロバイダーが数年後、それを望むだろうか? ボクが住むサンフランシスコでは、AT&TとComcastが回線を牛耳っているが、いずれの会社も転送上限を設けようとしている。率直に言って、これはクラウドゲームにとってはキツい。もちろん、MMORPGなんかをひたすらプレイするような人や、映画をやまほどオンラインで見るような人にも突然やってくるだろう問題だが。上限開放は決して安くないことは言うまでもないね。(まぁボクにとっちゃ、ボクのATTの回線はこの辺の住人しだいで5〜6Mbpsが時にゃ半分になるわけで、十分な回線がないのが悲しいが)

 まだまだ考えるべきことがある。いいか悪いかは、コレを読んでいるキミがデベロッパーなのか、パブリッシャーなのか、それともただのゲーマーなのかによるかな。クラウドゲームによってパブリッシャーはもっと自分の利益を確保できるかもと思っているだろう。クラウドゲームには小売店に勝手に50%オフセールされてしまうことも中古もないし(後者の市場は非常に大きい。最大のゲームショップGamestopでさえも新品の横で中古がバンバン売れる)、オンラインアカウントですべてを管理すれば海賊版も多分取り締まれる。もちろん中古を殺したからってそれが直接収益に繋がるわけではないが、(その分を値段に反映して)ちょっと安くでゲームをいろんなデバイスで遊ぶことができ、ダウンロード待ちやインストール作業やパッチが当たり終わるまで待つ必要なんかもないとなりゃどうだろう。まぁ、それを見てプロバイダーが何と言うかはわからない。バランスが取れるようになるには何年もかかるだろうね。