John Baez
ジョン・バエズ
ザ・ベヒーモスの共同創立者およびプロデューサー。日本語の名刺では“社長”になっているが、社内ではこの肩書きはほとんど使わない。ザ・ベヒーモスは2003年創立、マルチプラットフォーム向けのふたつのタイトルを出している。最新作は『キャッスルクラッシャーズ』(Xbox LIVE アーケードのゲーム・オブ・ザ・イヤーを獲得)、『エイリアン ホミニッド HD』、(同上)。

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『欧米から見たゲーム開発「獣便」The Behemoth』は引越しいたしました

2010/1/25
第3通:ゲーム業界の流動性

 

Xbox 360のXbox LIVE アーケードタイトル『キャッスルクラッシャーズ』などの開発元としておなじみのザ・ベヒーモスのジョン・パエズ社長によるコラム。ファミ通Xbox 360で連載中の同名コラムを再録。誌面の都合でカットせざるを得なかった部分も網羅した完全版でお届けします(毎月25日更新予定)。


 2003年春に設立した当時、ベヒーモスはゲーム業界での仕事の経験はあっても、会社経営に携わったことのないテクニカル・アーティストとプログラマーの集まりでした。つまりこの会社はゲーム作りの情熱というエネルギーが半分、そしてゲーム開発というビジネスについて何も知らない天真爛漫さ半分で成り立っている状態だったんです。いま考えてみるとおかしな話ですが、私たちが成功した一番の理由は、単純に世間知らずなまま、ゲーム開発の“標準”ビジネスモデルに従わなかったことです。

 ベヒーモスの設立以来、6年のあいだに数多くのパブリッシャーが破産したり、ビジネスから撤退したり、生き残りをかけて他社と合併したりしてきました。激しい競争の中で企業が失敗したり撤退したりするのは当たり前のことですが、私たちはいま、ゲーム業界には従来のパブリッシング・ビジネスモデルの排除に役立つ新しい力があると感じています。具体的に言いますと、小売りを離れたダウンロード販売の動きは、ゲームデベロッパーにとっての新しい時代をもたらすものだと思っています。6年まえにはよくわからなかったことなのですが、ゲームの小売業界(店頭でのディスクやカートリッジ販売)はコンテンツを作る人たちではなく、他人が作ったコンテンツを販売する人たちのネットワークだということを、いまはっきりと認識しています。つまり、“パブリッシャー”という仕事は、自分の家のガレージやホームオフィスにいて、ゲームデベロッパーよりすぐれたインフラを持っていない人(場合によってはそこまで行かない人)でもできるわけです。パブリッシャーというのは、ゲームを生産、保管、販売、流通させるためのさまざまな契約を調整管理する仕事です。デジタル配信が導入されるまえは、ハードメーカーが多数のデベロッパーと直接関わることを避けたため、ゲームデベロッパーはパブリッシャーを通してゲームを販売せざるをえない状況でした。ハードメーカーにとっては、年間の品揃えとして多数のゲームをまとめて提示してくれるパブリッシャー1社とつきあうほうが仕事がやりやすかったわけです。小売店側も同じことで、ゲームができたときに1タイトルずつ持ってくるゲームデベロッパーより、定期的に陳列棚に商品を並べてくれる(棚を買ってくれる)パブリッシャーとの取引を優先しました。

 近年ゲームのデジタル配信が増加し、小売店のビジネスに大きく食い込むようになりました。ゲームデベロッパーは、ハードメーカーと直接取り引きをすることにより、Xbox LIVEなどの専用ネットワークを通じて直接ゲーマーに配信されるコンテンツを作ることができます。これによって生産、保管、流通、小売販売、返品、そして第二次販売市場はすべて不要となりました。中古市場がないため、ゲーマーにとってはすべてのデジタルダウンロードは新品というわけです。
 

 従来の小売ビジネスモデルでは、デベロッパーはゲームを売り込むためにはパブリッシャーを必要としていました。デジタル配信においては、ゲームをゲーマーに正確に売り込めるのはゲームデベロッパーだけです。成功するためにはみずから進化発展しなくてはなりません。これはまた、コンテンツのクリエーターがコンシューマーのショーに参加したり、ゲーム雑誌に記事を書くなど、ゲームデベロッパーに新しい役割が追加されたということでもあります。ベヒーモスはといえば、この新天地でフィギュア、Tシャツ、スケートボードデッキなどのオリジナル商品を販売し、まったく新しい収益の流れを作ることができました。しかし、多くのゲームデベロッパーが、いまだにデジタル配信にパブリッシャーを使いたいと考えているのには驚かされます。デベロッパーが進化して新たな役割を担うことができれば、この新しい分野から多大な恩恵を受けられるはずです。

 パブリッシャーさんさようなら、そして勇敢なるゲーム開発の新世界にこんにちは!
 

(翻訳:みちよパティロ)


※ザ・ベヒーモスの公式サイトはこちら(英文)