ホラー専門会社・株式会社闇が立ち上げたゲームブランド“YAMI GAMES”。その第1弾『たろうくんはいってきました』は、動画とブラウザを行き来しながら、プレイヤーがふだん使っているPCそのものへ恐怖を接近させていく“メタホラー”と銘打たれたホラーゲームだった。 もともとは洞窟から脱出する配信者を操作するという内容で、現在とは大きく異なるプロトタイプだったという本作。そこからなぜ、ブラウザや検索、UI、そしてプレイヤーの現実へ踏み込むかのような恐怖作品へ変貌したのか。YAMI GAMES立ち上げの経緯、開発チームとの出会いから、あの“たろうくん”というキャラクターができるまで、制作の舞台裏を伺った。
藤田 翼
株式会社闇にてYAMI GAMESを立ち上げ、プロデューサーを務める。ゲーム業界やVTuber業界を経て、ホラー業界の株式会社闇へ入社。自社IPを生み出す事業の一環としてホラーゲーム事業を提案し、YAMI GAMESを立ち上げる。日本ホラーゲーム大賞 produced by 百室のクリエイター審査員も務める。
松明
『たろうくんはいってきました』開発メンバー。ゲーム系専門学校を卒業後、プログラマーとしてゲーム会社に就職。約5年勤務し、コンシューマ系のゲーム作品に複数携わる。2026年4月に独立し、合同会社BeforeHomeWorksを設立する。
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『たろうくんはいってきました』開発メンバー。ゲーム系専門学校卒業後、プログラマーとしてゲーム会社に就職。約5年コンシューマゲーム開発に携わり、2026年4月に独立し、合同会社BeforeHomeWorksを設立する。
YAMI GAMESはなぜ生まれた? ホラー専門会社“闇”がゲームに進出した理由

――ホラーを専門に『その怪文書を読みましたか』や『記憶汚染展』といった展示会などを手掛けてきた株式会社闇がYAMI GAMESを立ち上げ、ゲーム事業へ進出されるとは驚きました。
藤田
株式会社闇は、Webサイトを作ったりとか、怖い動画の制作などがメインだったんですけれども「独自のホラーIPを築いていきたいよね」っていう、経営戦略がありました。おっしゃっていただいたイベント系の事業はひとつ成功したので、今度はAI事業と映画もという社内での話になっていたのですが、ちょうど入社したわたしがゲーム業界でゲームの運営をしていたり、VTuberの配信業界にもいたことがあったので、自然と「なぜゲームはやらないのか?」と思いまして。
――近年ホラーゲームへの注目は高まっていますよね。実況などでも人気です。
藤田
そうなんですよね。なので社内で提案してみたところ「確かに」っていう感じで、企画もすぐに通って、YAMI GAMESが立ち上がったという流れです。いまは僕のほうで、ホラーゲームのみを扱うインディパブリッシャーとして始めた、という経緯ですね。
――そうだったんですね。その結果、ホラーゲーム専門のゲームメーカーが誕生したなんて。映画業界だと、ハマーとかブラムハウスみたいな印象もあって素敵ですね。
藤田
あ、言われてみると、たしかにそうですね。
記念すべき、『たろうくんはいってきました』

――ふたつのタイトルのうち、記念すべき一作目が『たろうくんはいってきました』(以下、『たろうくん』)ですよね。もう1本の『報連喪症候群』は“東京ホラー特区‼︎”会場で試遊が公開されて、ブラック企業をテーマにしたループホラーのような片鱗を垣間見ることができました。もうこのラインアップを見た瞬間から、ホラーゲームファンとしては期待が高まるばかりだったのですが、『たろうくん』は期待を裏切らないホラーの芯を食ったような体験をすることになりました。

藤田
ありがとうございます。タイトル選定については、ちょうど1年前ぐらいにYAMI GAMESで公募をかけたんですよね。その応募作の中でもっともよかったのが、開発会社のBeforeHomeWorksの松明さんとTさんから提案されてきた『たろうくん』のプロトタイプで。ある程度完成したものを、最初から持ってきていただいたんです。なので、これはもうモノがあるなら進めようかっていうことになって、『たろうくん』が嚆矢になったんです。
目指したのは「現代の貞子」“キャラクターのいるホラー”を作る理由

――そしてこの、たろうくんがいいキャラしてるんですよね。
藤田
手前味噌ですが、そうですよね。 最近のホラーゲームは空間ホラーやモキュメンタリー、ドリームコアなどがたくさんあり、主流にもなりつつあります。そんな中で、キャラクターの重要性を再認識してほしいという感覚とでもいいますか。かつては呪われたビデオを見てしまったことで、ブラウン管テレビから怨霊が出てくる……という、意外と古典的な恐怖のルーツがホラー・エンターテインメントにはあると感じてもいたんですよね。
――ちなみに、開発の松明さんとTさんは、どんな発想からプロトタイプを作ろうとされたのでしょうか。
松明
もともと僕たちはゲーム会社で働いていて、その合間でオリジナル作品を作っていたのですが、僕らが作っていたプロトタイプはまったく現状の完成形とは違うものでした。当初のコンセプトとして、“動画配信サイトに投稿された動画を再生する体で遊ぶ”、“主人公のたろうくんが洞窟から脱出する”というもののみで。ブラウザを使ってゲームを進めていくUIまわりのしかけや、そもそもオチも存在していない、動画のパートだけだったんです。
――メタ視点は、そこまでなかった。
松明
おまけでやってみたいですね、という程度でした。ゲーム性も『サンクタム』という濁流の洞窟で生存を目指す映画があるのですが、そのインスピレーションから、洞窟で水が迫ってきて逃げるというものでした。

藤田
それをちょっと話していく中で、おまけでやってみたいと言っていたメタホラー的な恐怖を核にしたらおもしろいのではないかと提案して、ブラウザの遊びなどができていったんですよね。
松明
メタホラーをメインでやりましょうという話が決まってからは、すべてをオチに繋げるためにブラウザを使って遊んでいくいまの形になりました。
藤田
プロトタイプは、3Dウォーキングシミュレーター寄りの作品で、それだけだと見劣りしてしまう印象だったんですよね。なので、本作ならではとなる、たろうくんとプレイヤーの関係性を軸にすれば、キャラクター性も立ちますし、ユニークな作品になるだろうと感じて。
――ネタバレになるので、そこはプレイして確認していただきたいのですが、まさにたろうくんのプレイヤーにとって異質な距離感はメタホラーでした。
藤田
よくある手法ではありますが、ビデオゲームでは意外とあまり取り入れられていない手法だったんですよね。
T
それで、僕のほうでブラウザの機能や仕掛けを作ってみたら、ハマった感じもあって。UIをブラウザ風にするのであれば、動画とブラウザのタブを行き来するようなゲームシステムが必要だなと思って。動画=ゲームプレイ中に障害が起きるので、それを検索タブで調べる、という形のサイクルを提案していきました。

松明
いわゆるメタ的なプレイフィールのARG(代替現実ゲーム)も、勉強のためにいくつもプレイをしてみたのですが、ホラーゲームに落とし込むことを考えると、なかなか難しかったりして。ちょっと考察や高難度疲れのような感覚ももたらしそうだと思ったため、できるだけ動画と検索のフローはシンプルにしたほうがいいな、といったことは意識していました。

T
検索して出てくる情報量も気を遣って、そんなに読まなくてもいい、くらいの感覚で。1ページぐらいで終わるほうがいいなって。なんとなく見たらストーリーはわかるけれど、裏側も想像ができる広がりを保っているような。けっきょくのところは、あのオチがいちばんやりたかったことなので、そこに至るまでの納得感が得られる、最低限必要な情報が与えられるという形にしました。能動的に考察などをしなくても、たろうくんのお話を見れば、なんとなくわかるように。
藤田
そうなんですよね。逆にブラウザを通じたメタホラーとして、古典的な恐怖演出をいまやったらおもしろいんじゃない? っていう。僕の中では、“現代の貞子”みたいになればいいな、と思っていたんです(笑)。
――詳しくは言えないのでこれを読んでくださっているホラー好きの方には察していただきたいのですが、たしかにそうですよね。
たろうくんを「嫌なやつ」で終わらせない

――ちなみに、そんなホラーアイコンを目指したたろうくんですが、どのような人物像としてデザインされたのでしょうか。
松明
たろうくんには、僕の偏見が盛り込まれています。自分がいちばんのアンチになれるようにっていうことを重視してデザインしていたんです。そうしたところ、気づいたらピンクの服を着ていて、話し方はあんな感じで……というイメージになっていました。
藤田
いやな感じの実況者(笑)。でも彼のことを知ると、ちょっと同情したくなるような余地も残しているんですよ。そこはキャラクターとして大事に深掘りしてもらったんですね。憎いだけじゃなく、そのキャラクターを視聴者が愛せる理由をちゃんと描写しないと、嫌われるだけになってしまいますよね。
――そうですよね。たろうくんは、やや愛されというか、絶妙な距離感です。ドローン買ってがんばろうとしていたり。
藤田
やや(笑)。Unreal Engineは繊細なキャラクターっていうのが表現がうまいので、フェイシャルのアニメーションっていうのを使えば生々しい表現になるんじゃないかなと思っていたんですが、想像以上にいやな感じと愛されが渾然一体となった若者になりましたね(笑)。
松明
その生々しい表現をドアップでって言ったら、ちょっと本当にリアルな人間っぽいっていうのがあるから、そこだけで怖くなれるんじゃないかなって。カットシーンはドアップに頼っています。
制約から生まれた恐怖演出――「何なのかわからない」から怖い

――メタホラーならではというか、手持ちカメラでドアップになるたろうくんの表現はもちろんのこと、映像と音の恐怖演出が秀逸だと感じました。
松明
そう言っていただけるとすごくうれしいです。でも、まあ僕たちはプログラマー出身なので、デザイナー経験などは、とくに何もないんですよ。
T
たろうくんをアップにするのも、わりと工数削減のためにっていうところがあったりするよね(笑)。
松明
工数削減が目的なのと、あとはぼやかすことで見づらくなって、「何なのかわからない」というプレイヤーの想像力に委ねるという。
T
ストーリーは松明がすべて書いているのですが、雨の場面なども、物語上必要なので入れているだけだったりして。
松明
ゲーム進行上、洞窟で水が迫ってくるというシチュエーションなどがあるので、そこからイメージの連想で、雨や土砂降りの怖さへとつなげていて。非常に直感的なインスピレーションで構成されているかもしれません。

――そうした異様な環境も、実況者のたろうくんが撮影しているLIVE映像のアーカイブ動画を観ている、という体なので、よりプレイヤーはリアルに感じてしまうのかもしれません。ブラウザの解像度や、字幕の設定を調整する仕掛けなどもありますしね。

現実のブラウザに擬態する――“危ないサイトを覗いてしまった”感覚
――あの羽生田さんのブログなど、ブラウザまわりのディティールもすごくいいんですよね。

T
そのあたりのシステム自体は僕が作っているものなのですが、中身のコンテンツのほうは松明が作っていますね。
松明
これも詳しく書くとネタバレになるかもしれないですが、終盤の大仕掛けもかなり凝りました。
藤田
ダークウェブとかっていう言葉だけは皆さんご存じだと思うのですが、実際に検索はしないじゃないですか。
――そうですよね。
藤田
その仮想体験というか、危ないサイトを検索してしまっている感覚は、このゲームで体験できるような手触りが気に入っていて。僕の世代だと、小学校のころとかにデスクトップPCとかで不穏なサイトを調べそうになってしまっている時の感覚というか。緊張しながら触っていって、スパムソフトを踏んでしまって……デスクトップにダイアログボックスが大量に出てくるような、特定の世代の失敗というか、リアルな恐怖体験のオマージュも散りばめられていますから。
――ゲーム中では、現実のPC操作に似せたインタラクションで、とんでもないことも起きますよね(笑)。その一方で、世界観や物語には『ドグラ・マグラ』を思わせる要素もあって、独特な佇まいを見せているホラーゲームでもあると思います。

T
それは松明の趣味ですね(笑)。
松明
そうですね。 もともと僕も物語そのものにちょっと興味があって、そもそもなぜ物語というものが存在するのか? という常日ごろからの考えを本作に落とし込んでしまったところもあります。『ドグラ・マグラ』は高校生の時にちょっと読んでて。多大なる影響を知らぬ間に受けていたみたいな形ですね(笑)。
――Tさんは、松明さんのストーリーや作家性をどう見ていますか。
T
あ、そうですね。 いつも持ってくるものがおもろいなと見ているんですけど。じつは僕自身は、あまりホラーは得意ではない人間なのですが、松明が作るものは学生時代から見ていたので、これはいけるな、っていう肌感覚はあるんですよね。
藤田
おふたりのやりとりから、自分としては、たろうくんにキャラクターとして深みが出るように意見を出していく、編集者ポジションでやらせてもらった感覚がありましたね。YAMI GAMESとしては、つぎは『報連喪症候群』という2作目が控えているので、そちらもぜひ期待していただきたいのですが、来年の開発の動きなども、準備はしていたりします。
――なんと、早くもさらに新作の動きまで!
藤田
はい。なので、また来年以降に新情報を公開できたりするのかなと思います。松明さんとTさんの新作も、僕はまだ聞いてないのですが、ホラーだったらぜひね、またいっしょにやれたらいいなと。
松明
、
T
まだ何も考えていないのですが、ホラーならYAMI GAMESさんとまたごいっしょできたらうれしいですね。
たろうくんはいってきました

――最後に、どうしてもうかがいたいのは、タイトルなんですよね。プレイ後にさらに味わい深く感じる題名だと思い。
藤田
これはですね、もともと別のタイトルだったんです。元々はそのもう松明さんたちの決めていたタイトルがあったのですが、商標関連で断念せざるを得なくなりまして。
松明
そうなんですよね。ちょっといろいろありまして。
藤田
それで再考することになったのですが、やはり、たろうくんがこのゲームの推しのキャラクターなので、中心にしたYouTube動画のタイトルのようなものがいいねっていう話になり。
――なんとか村に行ってきました、という感じですね。
藤田
まさにそういうタイトルになったんですが、決まった後によくよく見ているうちに、タイトルをすべて、ひらがなに開いたら、トリプルミーニングくらいになるんじゃないかと思いまして。急遽「ひらがなでお願いします」とお願いして、決定したんです。
――まさにいくつもの意味が重ねられていて、うならせられました。
藤田
ありがとうございます、よかった。まあでも……ちょっと松明さんたちが考えてくれていた、前のタイトルへの想いはめちゃあったので、「それはごめん」って思ってます(笑)。
一同(笑)。
藤田
結果的にYAMI GAMESの最初の作品は、ホラーゲーム作品の名キャラクターたちへの想いを込めた、たろうくんという作品の顔でもありけん引する存在をメタな恐怖として作れたのはよかったと思いますね。
――たろうくんは、文字通りのホラーアイコンですよね。
藤田
個人的には物語はキャラクターと世界観が肝だと思っているので、おもしろいキャラクターがいれば、勝手に話は進んでいく。なので『たろうくん』はその実験でもあり、ちゃんとしたキャラクターがどんどん怖い状況に陥って、なんなら呪詛返しで返ってくるぐらいのお話にできたのはよかったです(笑)。
――そうですね。ラストのとあるネタも、ゲームのプロデュースとしてもものすごくよくできているというか。邨檎キッこ縲?幕れ逋コ繝√を?繝?→縺ョ蜃コ莨壹>縺九i縲√≠縺ョ縺よ溘m縺?¥繧む薙→縺?≧繧ュ繝」と繝ゥ繧ッ繧ソ繝シ縺後〒縺阪k縺セ縺ァ縲∝宛菴懊よね?
松明
最後のオチなんで、あれなんですけど、まあ邨檎キッ縲?幕逋コ繝た√?ろ繝?→縺ョ蜃うコ莨壹>く縺九i縲ん√≠縺ョは縺溘m縺?い:繧薙→縺?≧繧ュ繝」っ繝ゥて繧ッ繧ソ繝シ縺後〒縺阪kく縺セ縺ァ縲∝宛菴る懊
取材・寄稿:全領域百鬼夜行観測室『たろうくんはいってきました』とは
いわくつきの映像ばかりが投稿されるアングラ動画サイトに残された、失踪中の配信者「タロー」の動画。その動画には「最後まで再生することは決してできない」という奇妙な噂があった。プレイヤーはWeb上の情報を検索しながら動画を進め、たろうくんに起きた不可解な出来事の真相へ迫っていく。
動画を見る、ブラウザで検索する、ページやSNSの情報をたどる――日常的なPC操作そのものをゲーム体験へ取り込み、やがてプレイヤー側の現実へ恐怖を接近させていく“メタホラー”。開発はBeforeHomeWorks、パブリッシャーはYAMI GAMES(株式会社闇)。PC(Steam)向けに2026年8月28日発売。
日本ホラーゲーム大賞 produced by 百室
ホラーゲーム情報専門メディアブランド「全領域百鬼夜行観測室」――通称「百室」がプロデュースする、優れたホラーゲームと作り手を顕彰するアワード。国内外のノミネート作品を対象に、ユーザー、ゲームクリエイター、メディア、専門家が作品を評価する。