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『空中ブランコ』の中村健治監督に直撃、「既存のアニメの文法を使ってはいけない作品だった」

2010/2/24

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●小説の伊良部をアニメで因数分解したら3人になった

 2009年10月〜12月の3ヵ月にわたってフジテレビの“ノイタミナ”枠で放送され、その斬新な映像表現などが注目を集めたアニメ『空中ブランコ』。放送からひと月あまり経ったいま、この“衝撃作”をひもとくべく監督の中村健治氏にインタビューを敢行。『空中ブランコ』の秘密に迫った。鬼才、中村監督が大いに語る、『空中ブランコ』の真実とは?

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中村健治氏。『怪 〜ayakashi〜』の”化猫”(2006年)や『モノノ怪』(2008年)のシリーズディレクターとして注目を集める。『空中ブランコ』では監督を担当。


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――『空中ブランコ』と言えば、奥田英朗の直木賞受賞作なわけですが、そもそもなぜアニメ化することになったのですか?
中村
 フジテレビの方から、「『空中ブランコ』というおもしろい作品があるんだけど、アニメ化するならどうなるだろう?」と言われたので、スタッフに集まってもらって企画書を作ったんです。そしたら2週間後くらいに「作ることになったから」って言われて、わりと引きづられるような形で企画がスタートしました。

――最初の段階からおおむね方向性はいっしょだったのですか?
中村
 ちょっと違いましたね。最初はもうちょっと浮世離れしていました。小説の『空中ブランコ』は精神病を扱っている作品なわけですが、最初は病人がお医者さんのところに通うことで心がぱっと晴れて、映像もがらりと変わるみたいな展開を考えていたんです。ものすごく読みか浅かったのですが(笑)。最初の企画書の段階では、スタッフもわりと忙しかったこともあり、本当に短い期間で仕上げたんですね。だから、本気で「練り直さないといけないな」とは思っていました。それで、企画が通った段階で原作をけっこう読み込みましたね。そのうちに原作者の奥田英朗さん自身にも興味が湧いてきて、伊良部一郎シリーズ以外も片っ端から読んで、”奥田テイスト”みたいなものを掴んでいきました。

――そうして、徐々に企画を煮詰めていった?
中村
 はい。まず病気というものがわからなかったんですね。「本当にそんなにシュワっとあっさり治るものなのかな?」って思ったんです。それで、題材が題材だけに、間違ったことをやったらまずいなということで、実際の精神科医や臨床心理士の方に取材させてもらったんです。そしたら、「基本、精神病はそんなに治るものではない」という。例外はあるとは思うのですが、むしろ精神病は個性の延長線上のようなもので、いかに社会とうまく折り合いをつけていくか……だと言うんです。実際に僕らのまわりにも心に病を抱えている人はけっこういるそうだし、話を聞けば聞くほどこの世界も奥が深い。実時間でいうと10年単位で考えないといけない世界なんですね。『空中ブランコ』では、11人の患者を1週間という作品内期間で描く予定だったのですが、とてもじゃないがそんな短期間では解決しないわけです。だから、まともにやっていたら成立しない話だなと思いました。そこから「映像もいまのままじゃダメだな」ということで試行錯誤していくことになりました。

――映像のテイストも最初の企画書の段階は全然違ったのですね?
中村
 一時期はファンタジックな方向に行きかけたこともありました。ただし、それに関しては『空中ブランコ』を薦めてくれたプロデューサーからの「『空中ブランコ』は自分たちの生きている現実社会のドラマだと感じるから響くのであって、“いまここではないどこか”を舞台にしないほうがいいんじゃないか?」という指摘を受けて、軌道修正したりしました。とはいえ、いまのアニメってむしろアニメの世界観の中での”ここではないどこか”感がむしろ売りになっている。キャラもマンガ的にディフォルメされてかわいかったり、話も少し突飛だったりするところが受けている。その段階で、『空中ブランコ』は、いまあるアニメの文法を使ってはいけない作品ということが見えてきました。「アニメ化しづらい作品だなあ」ということがわかってきたので、「じゃあ、どうしようかな……」という感じでした。

――より現実的な世界観にしようと試行錯誤した?
中村
 はい。とはいえ、今回の『空中ブランコ』に関しては、精細な背景美術に緻密な人間芝居を、作画枚数何万枚も駆使して描く……という方向性とは違うなとも思ったんです。そもそもよくよく原作を読んでみると、医者と患者の1対1の対峙があるだけで、そんなにびっくりするような映像はない。一方で、いまの視聴者の方には、ひと目で惹きつけられるような映像でないと振り向いてもらえない。そういった意味で、作品の魅力を上げるような形で、映像にも何かしらの”佇まい”があるといいな、とはつねに考えていました。

――その過程で、実写との融合が出てきた?
中村
 実写を取り入れたのには、代表的なところで3つくらい要因があるんですよ。まず背景に写真を使おうと思ったのは、やはり現実との地続き感を出したかったから。まあ、写真をそのままで使うつもりはなくて、レタッチをして背景処理をかけることは最初から決めていたのですが、絵の佇まいから、なんとなく「ここは日本だな……」ということが伝わってくるといいなと考えたんです。

――水玉模様も印象的ですね。
中村
 『空中ブランコ』は新橋を舞台にしているのですが、「新橋の街にわけのわからないヨーロッパの美術家が来て、アートプロジェクトで1週間だけ街をデコレートしたらどうなるか?」という発想でした(笑)。いろいろ試した中で、水玉がいちばん印象的でしたね。新橋はちょっと地味な街なので、ああいうおっさん臭い街にかわいいペイントをするといいかなって思ったんです(笑)。ちなみに新橋を舞台にしたのは、新橋が”働く人の街”だからです。


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――人物を実写にするにあたっては、どう判断したのですか?
中村
 「ナースのマユミちゃんをどうしよう?」 というのは最初から悩んでいましたね。マユミちゃんはお色気ナースで、注射を打つときにわざと胸元を見せたり、太ももを見せたりして、「露出狂かな?」と思わせるところがあるのですが、それが患者をイラッとさせたり、ドキドキさせたりする。そういったお色気をアニメ的な手法で表現する方法もあったのですが、『空中ブランコ』では、ごくごくふつうの男性や女性に、「あ、胸だ!」「あ、太ももだ!」というふうに、ふつうの感覚で見てもらう必要があるんじゃないかって考えたんです。できればそこは実写でやりたいなと。だから、企画の早い段階から「胸と太もも実写! 胸と太もも実写!」ってずっと連呼していました(笑)。そうなったときに、幸運にも杉本有美さんに出演していただけることになって、せっかくタレントさんが出ていただけるのなら……ということでマユミちゃんは全身実写でお願いしました!

――『空中ブランコ』では、マユミのセクシーさが際立っていますよね。一方で、ゲスト声優さんが実写で登場したのにも驚きました。
中村
 それは”表情”ですね。僕はつねづねアニメーションは表情が弱いと思っていたんです。作画で顔を描くと、どうしても表情がシンプルになってしまって、じっくり何カットかをかけてキャラの感情を表現していく必要がある。ところが実写だと、ぱっとカメラが切り替わったときの一瞬の表情だけで、「ああ、いまこの人はつらいんだな」ということがわかる。アニメーションに携わる者として、その点が「いいなあ」ってずっと思っていたんです。今回は生々しいお話なので、そこが欲しかった。でも、生々し過ぎて「ああ、もう見たくない!」というものにもしたくなかったので、ゲストキャラの顔を要所要所で実写にすることでアクセントをつけようって思ったんですね。


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――そこでゲスト声優さんの顔が実写で登場することになったわけですね。
中村
 正直、ふつうのタレントさんに顔だけ出てもらって声優さんに声をあててもらうという選択肢も考えないわけではなかったのですが、声優さんの力をもっと作品に取り入れたいというのがあって、今回は「声優さんがいいでしょう」ということになりました。ふだんかっこいい役を演じている人が、実写でちょっと情けない役をやったりすると、新しい発見があるのかなと思ったんです。声優さんが自分の顔に対してどういうアフレコをするのかにも興味がありましたね。

――“声優さんの力”というのは?
中村
 たとえば、アニメの映画などで実写の役者さんを起用したりすることがありますが、そういうときの理由として「奥行きが欲しい」ってよく言われるんです。声優としてうまい下手ではなくて、何か奥行きや立体感が欲しいということになる。僕は声優さんでもその“奥行き”を出すことは可能だと思っていて、実際洋画の吹き替えだと奥行きもあるんです。今回は実写を取り入れることもあるし、そういった意味での声優さんの力に期待しました。かっこいいお芝居ではなくて、ドラマ的なお芝居をしてもらいたかったんですね。

――声優さんのキャスティングに関しては、中村監督の決め打ち?
中村
 いえ、みんなで選びました。キャスティングマネージャーと音響監督、それにプロデューサーを交えて検討しましたね。誰にどの役を演じてもらうかは、けっこう時間がかかっています。エピソードで決め打ちの方もいますし、「この人に参加してもらったらおもしろそうだから、とりあえずオファーしちゃえ!」みたいなノリの場合もありました。ガチガチには決めていかずに、ゆるいところはゆるく(笑)。今回出演していただいた方は、総じてチャレンジャー精神旺盛な方です。皆さん1話ができるまえからオーケーしていただいていたので。どんな映像になるのかもわからないのに、「顔出しますけど、いいですか?」「オッケィィーーー!」みたいな感じでした。

――最終回のゲストは古谷徹さんでしたね。
中村
 最終回のキャスティングはさらに時間がかかりましたね。放送が始まってから決まったんじゃないかな。キャスティングにもストーリーというか、流れがあるじゃないですか。それまでに出演していただいた声優さんのラインアップが豪華だったので、最後のトリを飾るグランドフィナーレは誰か? というときに、さすがに下手な人は持ってこられない。そのへんは、キャスティングマネージャーがいちばん頭を悩ませていたと思いますね。あるとき、そのキャスティングマネージャーが僕のところにやってきて、「中村さん、思いつきました!不可能かもしれませんが、古谷さんです! お願いしちゃっていいですか?」というので、僕は0.1秒で「それでお願いします!」と返事をしました(笑)。僕は古谷さんと初めてお仕事させていただいたのですが、ものすごく役者魂が溢れる方で、実写、声ともに、とにかくすばらしかったです!

――そして何よりびっくりさせられたのが、主人公の伊良部が3人いたことですが……。
中村
 原作における伊良部は太っていたり汚かったりとかいった描写があるのですが、実写だとちゃんと臭ってくるんですよ。画面に登場するだけで「うわ、臭そう!」となる。それは、自分がかつて経験したものと映像が近いので、記憶の中で臭いが再生されて想像できるからだと思うのですが、アニメだとそこは切り取っている。さらに人間の肌ひとつとっても実際はグラデーションがあったりするわけですが、アニメにするとぺったりしてしまう。記号化しているんですね。“臭い”を記号化すると、たとえば蝿がぶーんと飛んだりする感じになるのですが、「いまさらそんなことをしてもおもしろいのか?」という思いがありました。で、伊良部というキャラの本質を考えたときに、“汚い”という要素は重要ではなくて、むしろ、「何だこいつは?」とか「げげっ!?」と思っていただけるようなインパクトを与えられれば、“伊良部”というキャラを表現できたことになるのでは……と気づいたんです。小説における伊良部の描写とアニメの伊良部の描写は相当かけ離れているのですが、アニメを観たあとに小説を読んでも、あるいは小説を読んだあとにアニメを観ても、お互い違うのに、なぜか像が重なってくるような作りかたができないかな……って思いました。


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――それで伊良部が3人になった?
中村
 企画中によく言っていたのが、「小説の伊良部をアニメで因数分解すると3人になる」というものでした(笑)。伊良部をアニメ的に証明するとこういう形になるという考えかたですね。まあ、最初はオーソドックスに行こうかとも思ったのですが、何か物足りなかった。文章で表現したときの強さと映像だけで表現するときの強さが釣り合っていなかったんですね。パワーが下がるのはイヤだったので、表現は変わってもいいから原作のパワーを再現しようということで、3人という発想になったんですね。

――人間にするということにもこだわっていなかったのですか?
中村
 いなかったですね(笑)。いろいろなタイプのデザインを描いてもらって、「やり過ぎだ!」と止められたりもしました(笑)。大に関してはわりと悩みました。けっきょく大がいちばん原作に近い形になるので、大は伊良部というキャラのどの部分を担うことになるのかを、ああでもない、こうでもないと試行錯誤しました。けっきょく最終的に重視したのはインパクトでした。病室の扉をガチャリと開けると目の前にメロン色の熊が座っているのを見たら、「この病院おかしい!」と誰もが思いますよね。最初に伊良部を見たときの「これは、ないわー」という感覚。「ここはふつうの病院じゃない」という感覚を表現したかったんですよ。文章だといろいろ表現できるのですが、アニメだと一瞬にしてその情報がわからないといけない。あとは、「熊さんってかわいいよね〜」という下世話な思いも多分に入っています、わりと(笑)。

――大・中・小が出現する法則ってあるんですよね?
中村
 微妙にあるのですが、そんなに縛ってはいないですね。ただ、はっきり言ってしまうと実像的なのは大伊良部。病院の外になると、中と小が背後霊的に何の前触れもなく出てきます。大伊良部はわりと面倒くさがり屋で、病院の外にはあんまり出ないです。あと、中と小は注射を打ったあとじゃないと出現しないですね。注射を打たれてちょっとスイッチが入る感じです。

――なるほど。あと具体的な制作上のお話もうかがいたいのですが、『空中ブランコ』ではあるエピソードのメインゲストがほかのエピソードではチョイ役で出演したりと、絡みあっていますよね。制作がけっこうたいへんだったのでは?
中村
 えーとですね、僕はザッピング的な絡みあった話をやりたかったのですが、わりとシナリオ作りは難航しました。企画自体のスタートは早かったのですが、取材をしたり方向転換があったりして、シナリオはけっこう書き直していただきました。ただ、ライターチームがとても優秀で、何回「これ全部書き直し!」と言っても、ニコニコしながら対応してくれました。よっぽど気が長かったのかな……とも思いますが(笑)。

――(笑)。
中村
 ザッピングに関しては、シナリオが4〜5本できたあたりで、僕が「全部のエピソードを短期間の日にちでまとめたい」という話をしだしたんですね。当然「ええ、いまさら!?」という話になって、「それをやったらおもしろくなるのか?」というのを一週間くらい話し合いました。けっきょくそれでみんな納得して、再構成することになったんです。で、アニメは正味20分なんですね。『空中ブランコ』には毎回ゲストキャラがいるわけですが、ほんの20分間で1話数のみのメインゲストキャラの存在を立たせるのは難しい。そこで思ったのが、後半に出てくるゲストキャラを最初のほうから少しずつ出しておいて、「こんなキャラですよ」ってあらかじめ知っておいてもらうというやりかたでした。そうすると、だんだん話数が重なって、そのキャラがメインの回になると、「ああ、あいつか!」ということになる。もちろん、『空中ブランコ』は1話完結なので、ちゃんと1本で成立するように作るわけですが、続けて見た人はより踏み込んで楽しめるし、作品のテーマも伝えやすい。ザッピングは原作にはない要素だったのですが、いろいろな効果があるということで積極的に取り組んで行きました。原作を読み込んでいくとものすごく膨大なキャラが出てくるのですが、「この役はこのキャラでもできるよね?」という形で徐々にキャラを入れ替えていったんですね。ライターさんからも「この役をこの人にしてみたいんですけど?」といった提案をいただいたりしました。

――そうなると、いつまでもシナリオが上がりそうもありませんね?
中村
 そうなんです。通常シナリオは“決定稿”という形をもって終了になるのですが、『空中ブランコ』はずっと“準決定稿”のままで止まっていて、後半の話数が上がるごとに、前半の準決定稿が更新されていきました。そのたびごとにスタッフに怒られるという。「いい加減にしろ!シナリオ変えすぎ!!」とか怒りのメールが来て、みんなで謝りにいったりしました。

――シナリオが上がらないと、いつまでも作業に入れないじゃないですか?
中村
 リアルタイムでの同時作業なんですよ。もう、ライブ感です。絵コンテを描いている最中に修正する……といったこともありました。絵コンテの段階ですでにきびしいとなったら、その回は諦めて別の回を修正……といった感じで、制作サイドで密にやりとりをしながら、臨機応変に対応していました。こういう話をするといかにもスムーズに進んでいるように聞こえますが、完全に“人間力”の世界ですね。作り手のみんながそれを楽しいと思うかです。楽しいと思えば、それは苦労じゃなくて“こだわり”になるんです。

――みんな喜んで苦労すると(笑)。
中村
 ところが、これが「つまらない!」となるとイライラしだすんですよ。“時間の無駄”みたいな感じになる。『空中ブランコ』に関しては、そのへんがいいバランスでしたね。微妙に怒りつつも楽しんだみたいな(笑)。あんまりやり過ぎるといつまで経っても作品ができあがらない。「いい加減にしろ!」ということになってしまうんです。

――声優さんの実写部分の撮影もあるので、制作は相当前倒しをしていたのかと思いきや、けっこうライブ感に溢れていたんですね。
中村
 かなりのライブ感覚でした。とにかくアフレコの前の週には実写部分の撮影を終わらせておかないといけませんでしたし。中でも、マユミちゃんがいちばんきつかったですね。4回にまとめての撮影だったので、時期によっては絵コンテが影も形もない段階の話数も撮影に入らないといけなかったんです。そんなときはマユミちゃんのパートだけ先行して絵コンテを描いてもらってやっていました。まあ、最終的にはなぜかうまくいって、「みんなすごいなあ〜」って思いました(笑)。

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――できあがった『空中ブランコ』は非常に斬新な作品になりましたが、これを世に問うときに不安はなかったんですか?
中村
 えーと、どうですかね。けっきょく作品を観ていたら、どうしようもなくこうなった、みたいなところはありますね。『空中ブランコ』という魅力的な原作があって、それをお茶の間に届けるにはどうすればいいのか? というところで七転八倒して考えて、気がついたらいまのアニメのトレンドからは、ずいぶんと外れてしまったものができたというところはありますね。『空中ブランコ』は、アニメを見慣れた人だけが観るアニメでもないので、「まあ、いいかな」というのはありました。いずれにせよ、今回の作品は2009年版『空中ブランコ』の形だと思います。今年作ったらまた変わると思います。精神医学の分野も日進月歩なので。

――原作の世界観を忠実に反映したら、ああなったということで、けっして前衛的な表現方法を求めたり、現状のアニメに対するアンチテーゼではない?
中村
 ないです! まったくないですよ。よく聞かれるんですよ。「アニメ嫌いなんでしょう?」って(笑)。でも、実際のところは「冗談じゃない。大好きだよ! なんでこの仕事をやっていると思っているんだよ?」という感じです(笑)。まあ、傾向としては、まわりをあまり気にしないタイプかもしれないですが……。

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――マイペースなんですね(笑)。では、アニメを制作するうえで注意しているポイントとかあったりするのですか?
中村
 うーん、身近な人に向けて作っている感覚はありますね。たとえば街ですれ違った人に対して、「この人が観るかな?」とか考えたりします。実際のところ、アニメファンに対しての「この人たちが観るかな?」という感覚と、満員電車の中での「この人たちが観るかな?」という感覚とでは、作りかたが全然変わるじゃないですか。どっちがいいとか悪いとかいう問題ではなくて、「この作品にとっては、どっちの気分で作るのが正しいのか?」というだけの問題なんですけどね。本当はアニメファンが「おお!」という気分になれるようなものを作らないといけないのに、「俺は一般の人が観るものじゃないと作りたくない!」と言っても始まらないわけです。

――『空中ブランコ』に関しては、満員電車の中にいる人たちに向けて作った?
中村
 それはありますね。これは、作品ではあまりはっきりとは言っていないのですが、『空中ブランコ』では、遺伝子などが絡んでくる社会的な問題をテーマにしている部分もあります。僕たちの宿命というか、避けては通れない問題。今回お医者さんに取材させていただいたのですが、印象に残っているのがある症例についてうかがったとき、「江戸時代にこういう人たちがいたらどうなっていたでしょう?」って聞いたら、「たぶん死んでいますね」って言われたことです。たしかにそのとおりで、時代によってはとてもではないが、生きていけなかったかもしれない。それが現代だと曲りなりにも生きていけるという状況があるわけです。もちろん、まだまだ不十分ですし、その点に関しては例外もありますが、昔より少しだけ幸せかな……って思っています。生死の価値観は人それぞれだとは思いますが……。『空中ブランコ』に関しては、どこか知らない人の話というよりは、自分自身の話だと思ってほしいんです。作品を観ることによって、そういうことに興味が湧いたり、精神的な部分でちょっとだけでもやさしくなってほしいと思っています。そういう意味で、『空中ブランコ』はアニメを見慣れていない人にも通用するものにしたかったんですね。

――作品のメッセージをアニメファン以外にも届けたかったと。
中村
 あと、若干あるとすれば現状のアニメに対する危機感かな。いまアニメは世界的にかなり同質の人たちに受けているように思うのですが、根本的な部分でのファンは増えていないような気がするんですね。僕はそこに危機感を持っていまして、明らかに縮小傾向にある。アニメの枠を広げる意味でも、「機会があれば、こういう作品もあるので、たまにはアニメを観てね!」という思いはあります。『空中ブランコ』をきっかけに、いろいろなアニメに興味を持ってほしいです。

――最後に『空中ブランコ』を終えてみてのご感想を教えてください。
中村
 これは、打ち上げの席で言ったことなのですが、終えてみてすごくハッピーな気分だったんですね。いままでこういう気分になったことはなかったのですが、すごく楽しかった。感謝と満たされた気分がありました。ふつう作品を作ると、なにか「失った……」という気分になるのですが、今回は「もらったなあ〜」という思いのほうが強かった。まあ、もちろん制作中はいろいろとつらかったんですが(笑)。

――「もらった」というのはスタッフの方に?
中村
 そうです。これはキレイごとじゃなくて、いろいろな方にがんばってもらいました。「これは、すごいな!」と思う瞬間が多かったですね。みんなに迷惑をかけたというか、苦労をかけたぶん、育ててもらって「ありがとうございます!」という感じがあります。実際のところ、ふつうだったら「こんなことやってどうなるんですか?」という疑問の多い作品スタイルだと思うんですよ。でも、スタッフのみんなはそんなことは一切言わずに「どうやったらもっとおもしろくなるんだろう?」と目的に向けて真正面に取り組んでくれた。個人的にはものすごく清々しい気持ちでいっぱいなんです。この出会いには本当に感謝しています。

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DVD&Blu‐ray『空中ブランコ』(全4巻)
■発売日
第1巻:発売中
第2巻:2010年2月24日発売予定
第3巻:2010年3月発売予定
第4巻:2010年4月発売予定

■価格
第1巻:DVD/3990円[税込]、Blu‐ray/5040円[税込]
第2巻、第3巻、第4巻:DVD/5985円[税込]、Blu‐ray/7035円[税込]

■販売元
角川エンタテインメント

※『空中ブランコ』の公式サイトはこちら
※“FT?”『空中ブランコ』Tシャツの通販サイトはこちら
※“FT?”『空中ブランコ』Tシャツ(ロンTバーション)の通販サイトはこちら

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