『デッドマンズ・クルス』は街にはびこるゾンビをガンシューティングでハントし、得られるバラエティ豊かなデッドマン(ゾンビ)のカードを収集してデッキを組み、カードバトルで対戦を楽しむゲーム。この魅力を増幅して読者の皆さんに伝えるためには「ゲームもゾンビも好きなあの人しかいない!」と、週刊ファミ通での連載でもおなじみのマンガ家、福満しげゆき氏に打診。某月某日、東京都下の喫茶店で、ゲームに触れてもらう機会、ゾンビについて熱く語ってもらう機会を作った。インタビュー周囲のゲーム解説は、日ごろのマンガ担当がしている。

福満しげゆき(以下、福満) 今日は急にどうしたんですか?

──今日はですね、ゾンビのいいゲームがあるので先生に紹介しようと思いまして。先生って、ゾンビ好きが高じてゾンビ捕獲マンガ(講談社『就職難!! ゾンビ取りガール』)を描いて、ドラマ化までされたじゃないですか。

福満 いや……。あれは僕のマンガのドラマ化じゃないです……。いいや、 ドラマ化していただいたものと思いましょう。思うことにします。女優さんが可愛かった。可愛い子に僕の映像化作品に出ていただいて、うれしいなと思っています。

──(スルーして)先生は、どうしてゾンビがお好きなんですか? 何かきっかけがある?

福満 それはやはりジョージ・A・ロメロ先生の映画がきっかけなんですが、リアルタイムで見てハマったのは、リメイクの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/死霊創世紀』ですね。別の方が監督ですが、ロメロ先生がちゃんと製作総指揮をしています。オリジナルのモノクロは1960年代末の作品ですが、このリメイクは1990年ごろですね。

人間以外のゾンビがいたり

腐ったカラダを引きずって呻いているだけがゾンビだと思ったら大間違い! 『デッドマンズ・クルス』のハントで手に入るカードのゾンビには、おおよそゾンビらしからぬさまざまな職業だったり、ときには、(むしろかなりの量、)人ならざるモノがゾンビ化しているのだ。「つぎの1枚にはどれだけ意外なゾンビが登場するのか……?」 このワクワクした気持ちこそ『デッドマンズ・クルス』ならではの醍醐味と言えるだろう。

──けっこう間が空いていますね。そんなにおもしろい?

福満 コアなファンからはけっこう嫌われていますが、これはよくできています。ゾンビの入門編にはすごくいい。

──そもそもゾンビの定義ってあるんでしょうか。人間の死体が生き返ってふらーっと歩けばいい? 今回紹介する『デッドマンズ・クルス』のように人間以外のゾンビがいたり、移動のスピードが速いゾンビがいたりすることもありますよね。

福満 だいたいそんな感じですが、ロメロ先生の映画では頭を撃ったり潰したりしないとゾンビの活動を停止できません。これはわりと重要な定義。ですが定義についてはけっこういろいろな派閥があって、相原コージ先生が最近ゾンビマンガを描くにあたって、“頭を撃っても倒せないほうがいい派”を形成されていてですね。

──それはどうやって倒せばいいのかわからないです。

福満 それが重要。「頭を撃ったら倒せる」というのは、いかにも生物的で、どちらかというと『バタリアン』や『バタリアン2』のように撃っても倒れないほうが、逃げられない怖さにつながるわけですよ。細胞になってもまだ生きているみたいな。

──で、先生は“頭を撃っても倒せないほうがいい派”なわけですね。

福満 ところがですね、つい一週間くらい前に「頭を撃ったら倒せるのもいいな」と僕は思ったのです。

──一週間前! そんな頻繁にゾンビの定義について考えているんですね……。

福満 (照れながら)ゾンビと戦う武器と言えば、銃がメインになることが多いのですが、彼らがバンバン身体を撃たれても倒れない理由は、痛くないからなんだと思うわけです。

向かってくるのを止めません

シルエットのゾンビはプレイヤーを見つけると、それぞれの特性に応じたスピードで襲いかかってくる。近づかれるなどして攻撃を食らうと、プレイヤーは一時的に行動不能になってしまう。また、ゾンビは基本1撃で倒せるものではなく、狙いをどれだけ外さないかも重要になってくる。なかには遠くからモノを投げてくるばかりのゾンビなども!

──『デッドマンズ・クルス』でも、スコープを覗いて銃でハントしますし、撃ってもなかなか向かってくるのを止めません。

福満 そうなんですね。撃たれても痛くないから向かってくる。だから移動を制御する脳が破壊されて止まるというのは、まあ、あるんじゃないかなと。ロメロ先生が最近撮った『サバイバル・オブ・ザ・デッド』では、木の棒に串刺しにしたゾンビの頭が生きている描写があります。だから、本家の解釈では、「どこが千切れても生きているけど、頭に弾が当たるとダメ」ということなんでしょうね。

──『デッドマンズ・クルス』でも、ハントのシーンで上半身だけのゾンビが登場します。

福満 それは『バタリアン2』っぽいですね。コメディー要素が強くて間抜けな映画ですが、ショットガンで撃たれたゾンビが、上半身と下半身に分かれて双方に動いているシーンは、なかなかのインパクトがありましたよ。で、定義にはほかにもいろいろあって……(後略)。

上半身だけのゾンビ

すでにカラダがちぎれ、上半身だけでにじり寄るゾンビも登場。意外なほど移動スピードが速いうえ、的として小さくなるので、なかなか厄介な相手だ。

──定義の話はまだあると思いますが、なんでゾンビが好きなのかうかがえていません。

福満 ああ、そうでしたね。ホラーが好きなんですね。「現実には起こりえないことをいちばんリアルに起こったように強く感じる」ジャンルだからとか、この気持ちを自分なりに人に説明するとき、いろいろ理屈をつけて「ホラーはそういうための映画だ」、「ジャンルとしていちばん優れている」と思っていたわけですよ。でも、よくよく自分の深層心理を掘っていくと、気づきました。やっぱりちょっと異常なんだなと思います、僕は。

──異常?

福満 残酷な描写が単純に好きなのではないかと。もう千切れないと不満ですし。

──私も含め、ホラーを観る人の多くはそういう理由も多分にあると思いますよ。日ごろ見られないものが見られることに対しての好奇心ですかね。

福満 そうかもしれないですね。ネットに触れ始めた当初は、ちょっとした残酷シーンでもホントに貧血を起こすほどでしたけど、人間は慣れますからね。そういうものを観ているうちに、「ホラー映画を観たかった自分って、けっきょくそういうことだったんじゃないか」と気がついたわけですよ。

──それがわかってしまった。

福満 それとですね、心理的な海外ホラーの場合は、詳しくはわかりませんが、けっこう宗教的なものが背景にあるので、ただの日本人の僕が観てもピンと来なかったりする部分が多いんです。

──火葬と土葬の違いなどありますからね。日本では、そもそも簡単に土からゾンビが蘇らない。……では、そろそろ実際に触れてプレイしていただきましょうか。

<しばらくのあいだプレイ。「お」、「ちょっとちょっと」、「ははーん」など声を挙げている福満氏>

ひとつのループ

シナリオを進めながらゾンビの出現地域の情報を手に入れたら、現場に出向いてハント。報酬として手に入るゾンビのカードを集めて10枚のデッキを組み、クエストの指定先に向かってカードバトルで問題を解決するのが、ゲームの大きな流れだ。アリーナでは、ネットワークを介してほかのプレイヤーとカード対戦を楽しむこともできる!

なんとかなりそう

ゾンビが赤く光ったらチャンス! このあいだは攻撃を1発当てれば倒せるのだ。黄色いゾンビを倒せばハント可能な時間が10秒延長され、より多くのゾンビを狙えるようになる。フィールドで見つかる爆発物などを巧く利用して、効率よくより多くのゾンビを倒したい!

──ゾンビ好き、ゲーム好きの先生から見て、いかがでした?

福満 街でゾンビをハントして、カードを集めて、それでチーム(デッキ)を組んで、クエストの現場に向かってカードバトルでひとつのループですかね。最初のハントの部分だけでも、1本のゲームになりそうです。ゾンビがシルエットで表現されているにもかかわらず、雰囲気が出ていますね。シルエットだけでも成立しているし、むしろ、ごちゃごちゃ描き込んでいるよりも新鮮味があって、妄想もかき立てられますね。いいと思います、この要素は。

──ゾンビが関わると、少し上から語りますね(笑)。

福満 いや、そういうわけでは……。

──先ほどの話からすると、このゲームのゾンビはロメロ派ですか?

福満 なかなか頭を狙うのは難しくて……ただ、黄色いデッドマンを撃ったらハントの時間が延びたり、赤いのを撃ったら1撃で倒せたり、色によってはいろいろありそうなのを発見しました。爆発物を撃つと周囲を巻き込んだりなど、ゾンビもののセオリーがすぐに活かせて、これはゲームがうまくない僕でもゾンビ好きの部分でなんとかなりそうです。やっぱりゾンビを倒すときは銃ですね。だからこそ僕も、「日本でゾンビと戦うのだったら、どういう落としどころがあるか」をものすごく真剣に考えて作り上げてマンガを描いたのですが、同じことをたまたま考えた方がテレビ局にもいたらしくて。「同じね。なるほどね〜」って。

もともと強そうなもの

ほかのプレイヤーとカード対戦する以上、ゾンビはより強烈で強力なものであれば言うことなし。『デッドマンズ・クルス』に登場するゾンビカードの絵には前述した意外なものに加え、福満氏の指摘するような、もともと強そうな動物などが大量に登場する。パワーのありそうなもの、権力など何かの力を持っていそうなものなど、“強そう”の意味もさまざまだ。

──けっこうダメージを受けているんですね……。カードそのものについては?

福満 人タイプは、看護婦さんなどの定番からロッククライマーやマジシャンなど突飛な職業、それから偉人までいて楽しいですし、動物もそのへんの動物だけでなく、マンモスみたいな象みたいなものもあって想像を超えていました。いままで映画でも動物がゾンビ化するものはありましたが、もともと強そうなもの、トラやグリズリーがさらにゾンビ化するものはあまりないですよね。いいですね。これらを収集するところが楽しくなりそうです。

──そもそも先生は収集欲はあるんですか?

福満 自分にはあまりないと思っていたものなので否定しがちだったんですけど、自分の妻や子どもがメダルを集めていたりしているを見ていると、コンプリートしたい欲望ってものすごいんですね。「オトナや子供を問わず、みんな何かをコンプリートしたいんだな」というのがすごいわかります。

──先生にはあまりなかったんですね。

福満 話せば長くなりますが、子どもの僕は教育といって、ブームのものやお菓子のシールなど、かなり制限を受けていましたので。そういうことをされた子どもがどうなるかというと、「もう、いらないや」の方向に舵を切ってしまうんですね。あと、計画的にコンプリートするのは、グラフを分析できたり、表を埋めたり、そういうのを操る能力にもかかってきていて、僕のように頭の悪い人には向かないんですよ。数字を気にする能力がないとコンプリートは難しいものなんです。

──でも先生、エロフィギュアは集めていましたよね?

週刊ファミ通連載『ほのぼのゲームエッセイマンガ』より

福満 そうです。昔からエロ本集めなど、性に関係すると僕はがんばるところがありまして。

(喫茶店の周囲の人たちがこちらを振り返る)

福満 フィギュアがエロいなと思って、「なんでもエロかったら買えばいい」とがんばっていましたが、お金の限界もあるので、ファミ通のマンガでも描いた某ヒロインの、さらにお尻の形がエロいものに絞って集めるようなことはありましたね。

──はあ。

福満 なんであんなに夢中になれたのか、もうわかりませんが、赤いスーツのほうのヒロインもそのうち混じってきて、最終的にスゴい量に。でも、エロフィギュアにはコンプリートってないんですよ……。ともかくあそこまで入れ込むとは思いませんでした。

──それはコンプリート欲があるってことですよ。

福満 そうですね。自分は歳を取るとともに、「まあこういうものだろう」と家族ほのぼのマンガを描いたりしてきましたけど、この『デッドマンズ・クルス』をプレイしていまの話をして、「枯れる必要はないんだ」という気持ちが甦りました。今後も積極的にエロフィギュア……いやゾンビ収集に励めればと思います。