現代(時に近未来)に生きる忍者たちの戦いを描いて人気を博したセガの『忍』シリーズが、ニンテンドー3DSで復活する。2D横スクロールアクションとして生を受け、実写映像の取り込み、近年では3Dアクションへとさまざまな進化を遂げてきた同シリーズの最新形態『Shinobi 3D』は、伝統の2D横スクロールを踏襲しつつ、ニンテンドー3DSならではの立体表現を取り入れた文字通り新次元の忍者活劇となっている。歯応えのあるアクションに、息もつかせぬ演出の連続、日本画を思わせる特徴的なグラフィック、ややかっ飛ばし気味だがどこか惹かれてしまうストーリー……。『忍』シリーズのファンはもちろんのこと、すべてのアクションゲームファン、忍者マニア、いっそハリウッド映画好きにも! とにかく語るべきところは多く、さまざまな人にオススメしたい作品なのだ。
シリーズ1作目が誕生したのはいまから24年前。アーケードゲーム『SHINOBI 忍』から歴史は始まった。それから現在まで、移植版などを除けば全13作がさまざまなハードで登場している。ゲーム業界全体で見ても長寿の部類に入る『忍』シリーズの歴史を振り返ってみよう。なお、
『SHINOBI 忍』、
『ザ・スーパー忍』、
『シャドー・ダンサー(メガドライブ版)』、
『ザ・スーパー忍II』に関してはWiiのバーチャルコンソールでプレイが可能。『忍』シリーズ未経験の人は、この機会にぜひプレイしてみてほしい。
初代『SHINOBI 忍』は、セガの汎用システムボード“システム16”向けに開発。“現代に生きる忍者”という設定は当時のアメリカの流行を取り入れているが、テレビゲームとしては珍しい設定だった。その後セガ・マークIIIを初めとした多数の家庭用ゲーム機に(海外ではパソコン向けにも)移植され、とくに海外で大きな人気を呼んだ。
アーケード版『SHINOBI 忍』のヒットを受けて開発された本作は、新型汎用システムボード“システム18”の第1弾としてリリースされた。大きなキャラクターを多数使えるようになり、これまでよりもワンランク上のビジュアルが話題を呼ぶ。基本システムは前作『忍』を踏襲しつつ、忍犬を使って敵の動きを封じ込めるという新システムが斬新だ。
こちらはメガドライブ版『シャドー・ダンサー』のパッケージイラスト。アーケード版をベースにしつつも、忍犬システムを除くほぼすべての要素を一新しており、メガドライブオリジナルの新作として生まれ変わった。
前作から4年の歳月を経て開発された『ザ・スーパー忍』の直接的な続編。新たにダッシュ移動が可能となり、ダッシュ斬り、飛び蹴り、三角跳びといったアクションが追加された。その他にも馬やサーフボードによる強制スクロールのシーンが加わるなど、よりスピード感を重視したゲームデザインに。
『忍』シリーズの主人公と言えば、ファンには“ジョー・ムサシ”がおなじみだと思うが、本作で活躍するのはジョーの父にあたる“ジロー・ムサシ”。鎌倉時代、若き当主として朧流の忍を率いるジローは、“ZEED”の忍軍との戦いの中で西暦2056年の未来へと飛ばされてしまう。そして時を超えてくりひろげられる戦いは、全世界に広がっていく。
自然界と調和し、天才的な素質を持つ朧流忍者。若くして一族の当主となったが、ZEEDの襲撃をきっかけに未来の世界に現れる。
西暦2056年の世界を席巻する巨大犯罪組織ZEEDの統領。つねに仮面を被っており、強大な軍事力と忍軍を統率する。
特殊部隊を指揮している。その正体は不明だが、ZEEDとは敵対しているようだ。
ジロー・ムサシのくり出す攻撃は、朧流体術と剣術に加え、忍者の代名詞とも言える忍術から成る。“八双手裏剣”を始めとするシリーズおなじみの技がある一方で、鎖鎌や防御という新たなアクションが追加され、バリエーションに富んだ攻略が可能になった。ちなみに本作では、かなりの数のアクションパターンが存在しているが「覚えられないかも……」といった心配はご無用だ。チュートリアルが用意されているうえに、最低限のアクションはゲームの進行とともに自然と修得できる内容となっている。とは言え、それを完全に使いこなすには、当然それなりの練習が必要だろう。
業火によって画面上のほとんどの敵を一掃する火の術。手裏剣が一定時間、炎の力で敵を貫通するようになるという効果もある。
土の術はジローに自動的に防御する力を与える。しかし、術が終わったあとはジローの体力はほとんどなくなり、手裏剣も使用不可に。
雷の術を使えば、攻撃を3回まで無効化。トゲなどの地形に配置されたワナにも効果を発揮するので、使いどころは多いだろう。
ジローの走る速度とジャンプの高さを向上してくれる水の術。さらに、手裏剣の回復速度も早くなるという効果も!
『Shinobi 3D』で描かれる各種演出は、2D横スクロールアクションの枠に収まりきらない内容となっている。まず、アクション面では通常の攻撃以外に“シネマティックアタック”と呼ばれるものを搭載。ボス戦やステージ中に特定条件でXボタンを押すと発動し、迫力のカットシーンが挿入され、敵に大ダメージを与えるのだ。もちろん、ニンテンドー3DSならではの演出も多数用意。たとえば、あるシーンではキャラクターが画面手前から奥に向かって進行し、立体視の臨場感をさらに高める。またほかのシーンではニンテンドー3DSのジャイロセンサーを使って、本体を左右に傾けてプレイヤーを操作することも。『Shinobi 3D』のアクション演出は、ニンテンドー3DSだからこそ実現したものなのだ。
↑カット演出のパターンはさまざま。背後から、もしくは鎖鎌で引き寄せて斬りつけたり、ステージ3では敵のバックパックを破壊して発射するというユニークなものも。
↓本体を傾けてジローを左右に動かし、障害物を避けながら進もう。立体演出も相まって迫力は倍増!
↑騎馬アクションでは、画面手前から奥に向かって進む。
↓背景からサメが登場するというサプライズ演出は立体との相性バツグン。
↑車両アクションは視点がめまぐるしく変化。奥から手前に加えて、斜め視点で敵車両と並走するシーンも。
ノーマルでもそれなりの難度を誇る本作だが「ハードでもまだまだ物足りない!」という人には最適なやり込み要素が用意されている。ステージ内に隠されているマスターコイン2枚を集めると、そのステージの“チャレンジマップ”がアンロックされるのだ。チャレンジマップのルールはスタート地点からゴールまで辿りつけばOK……とシンプルなものだが、当然途中には敵たちが待ち受けている。しかも、プレイヤーを本気で殺りにきているとしか思えない配置で、攻略パターンを構築しなければクリアーはまず無理だろう。そのぶん、クリアーしたときの達成感は格別だ。また、“すれちがい通信”にも対応。本作ではすれちがい通信を登録すると、“すれちがいチャレンジマップ”のひとつがランダムでアンロックされる。マップは10種類以上あり、すれちがい通信を行うことで、ほかのプレイヤーがアンロックしているマップが自分側でもアンロックされるというわけだ。なお、すれちがいチャレンジマップでは、シリーズ初期の主人公“ジョー・ムサシ”を操作することになる。ゲーム性はメインモードと異なり、どんな敵でも一撃で倒せるが、逆にプレイヤーも一撃で倒されてしまうという初代アーケード版と同様のシビアな設定! 一撃必殺のレトロモードでも、全マップの制覇を目指そう。

『忍』シリーズは、筆者にとって忘れられない存在である。筆者の『忍』シリーズ初体験は、1990年に発売されたメガドライブ用ソフト『シャドー・ダンサー ザ・シークレット・オブ・シノビ』。当時小学生だった筆者は、ほとんどの男子が通る道であろう“忍者への憧れ”真っ盛りな時期で、同作を買った理由も「なんか忍者が活躍するみたいだし、パッケージもかっけーし!」くらいの軽いものだった。発売日に近所の電気屋でソフトを購入し、ほくほく顔で帰宅。昨日までメガドライブに挿さっていた『おそまつくん』を抜き取り、『シャドー・ダンサー』を挿してスイッチを入れる。ステージ1が始まった瞬間、小学生だった筆者は度肝を抜かれた。街が……街が燃えておる!!
忍者ゲームと言えば『じゃ●まるくん』や『忍者ハッ●リくん』といった、どこか牧歌的な雰囲気が漂うものしか知らなかった筆者にとって、冒頭からハードコアな描写を全力でぶん投げてくる『シャドー・ダンサー』はかなりのカルチャーショックだった。これが本物の忍者なのか! と、思ったかどうかは定かではないが、手裏剣に刀、ド派手な忍術を駆使する多彩なアクションに、それらをしっかりと使い分けなければ進むことができない絶妙な敵の配置。どれも未体験のゾーンだった。難度は決して低くはないが、くりかえしプレイしてパターンを構築すればクリアーできないことはない。それでもミスは重なるもので、そんな時は思わずソフトをぶん投げたくなる衝動にも駆られたが、少し頭を冷やすと解法が見えてくる。『シャドー・ダンサー』はアクションゲームの楽しさというものを、ややスパルタ気味に筆者へ叩き込んでくれたのだ。以降、メガドライブの『ザ・スーパー忍II』にサターンの『新・忍伝』、そして3Dアクションになったプレイステーション2の『Shinobi』、『Kunoichi 忍』と、ほとんどの『忍』シリーズをプレイしてきた。どれも憎たらしいほどに手強い。しかし、いずれもアクションとしてはたまらなく魅力的で、クリアーしたときの達成感はほかのシリーズ作品では味わえないものだった。そして、今回ニンテンドー3DSで出る『Shinobi 3D』も同様の興奮を、筆者に与えてくれるものに仕上がっている。
日本では『新・忍伝』以来じつに16年ぶりに、『忍』シリーズ王道の横スクロールアクションをベースとしながらも、2D横スクロールに留まらない新感覚アクションとしてニンテンドー3DSで復活する『Shinobi 3D』。操作感はこれまでに一度でも2Dの『忍』を遊んだことがある人ならば、すぐにシックリとくるものだ。しかし考えてみると、同シリーズは手強い難度とは裏腹に、操作方法はどれも非常にシンプルである。いかにゲームデザインが完成されたものなのかが、この点からもうかがい知ることができるだろう。『Shinobi 3D』ももちろんそれに準じており、基本的なアクションはボタンふたつとスライドパッドの組み合わせだけでほとんど出すことができる。なので、さきほどの言い回しを訂正しようと思う。『Shinobi 3D』の操作感は、アクションゲームを遊んだことがある人ならば、すぐにシックリくるものだ。
一方で、『Shinobi 3D』にはややテクニカルな操作も用意されている。防御と鎖鎌だ。どちらもゲームをプレイしたてのころはそれほど必要性を感じない(鎖鎌は移動の手段として必須の場面がある)のだが、経験を積んでそれなりにスキルが身につき、さらなる高みを目指したくなったタイミングで存在感を増してくるのだ。たとえば防御の場合、本作では攻撃や防御を一定時間内に連続で成功するとスコアに倍率がかかるというシステムがあるので、ハイスコアを目指すうえで防御は欠かせないものとなる。ちなみに防御はボタンを押した瞬間のみ有効なのでタイミングが超重要だ。
もうひとつの鎖鎌は、その有効性に気づくまで時間がかかったが、いざ理解するともうそれなしではプレイするのが困難に感じてしまうほどである。鎖鎌にはなんでも掴むという特性があるので、それを活かして天井などを掴んで高所へ移動する、というのが基本的な使いかた。しかし、“なんでも”の中には敵も含まれていたのだ。本作ではプレイヤーを見つけるなりジャンプして放物線上に攻撃を仕掛けてくる敵が序盤からけっこうな頻度で登場する。かなりいやらしい動きなので、筆者は最初一旦下がって着地したところを斬りつけるというやや面倒な対処をしていたのだが、ある日ジャンプ中の敵が真上に来た瞬間に鎖鎌を出してみたところ、瞬時に敵の頭上へ移動して、踏みつけ攻撃(木の葉渡り)をしたではないか! これ以来、ジャンプ攻撃をする敵への対処がグッと楽になったのは言うまでもない。
このように、『Shinobi 3D』は従来までのシンプルな遊びかたを残しつつも、アクションを極めたい人のために、テクニカルな遊びかたも用意してくれているといわけだ。
アクションのことばかり話してしまったが、演出面も立体視の導入で格段にクオリティーアップしている。それが顕著に感じられるのはやはり、手前から奥に向かって進むタイプのシーン。そのほか、背景の一部かと思っていたトラックが急にこっちへ向かって走ってくるといった部分でも、立体視の力をはっきりと感じることができた。また、個人的にグッと来たのは本作のストーリー。鎌倉時代の忍者が、2056年にタイプスリップって! 生温かいツッコミをせずにはいられない、いい意味でのトンデモ物語である。一方で、アクションの演出や合間に入るカットシーンは妙に洗練されていて、そのギャップがまたおもしろかったり、感心させたりで……いわゆるB級的な感性を持つ人ならば、実際にプレイしたとき筆者と同じ思いを抱いてくれるはずだ。
このページの冒頭で筆者は「『忍』シリーズのファンはもちろんのこと、すべてのアクションゲームファン、忍者マニア、いっそハリウッド映画好きにも!」と広範囲の人へ『Shinobi 3D』をオススメしてみたが、ここまでの内容でその理由は説明できたと思う。なので、この記事を読んだ皆さん、とりあえず『Shinobi 3D』を遊んでみてください!
