“シナスタジアシューター”と銘打たれている『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』。“シナスタジア”とはあまり聞きなれない言葉だが、五感の刺激を色や形、動きとして捉える感覚のこと。“共感覚”とも言われ、『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』では、直接感情を揺さぶるような新しいゲームプレイがもたらされる。本作の舞台となるのは電脳空間の“エデン”。プレイヤーはウィルスに侵食された“エデン”に希望と平和を取り戻すために、ウィルスを浄化していくことになる。さらに本作は、プレイステーション3版はPlayStation Moveに、Xbox 360はKinectにそれぞれ対応。直感的なプレイがさらなる没入感を促す。目くるめく音と映像の奔流がここに!

 2019年、国際宇宙ステーションで、ひとりの女の子が人類で初めて宇宙で生まれた。名前はルミ。彼女は日々宇宙ステーションから地球に降り立つことを夢見ていたが、その夢は叶わず20歳の若さでこの世を去ることになってしまう。ルミのすべてはデータとして記録され、彼女のデータは全人類のパブリックドメイン(公共財産)として残される。

 時は過ぎて2219年――。かつてインターネットと呼ばれていたシステムは、“エデン”と称され、全人類の記憶アーカイブとして機能するに至っていた。そして、“エデン”の中に人格を再構成するプロジェクト“ルミ”が始まることに……。ところが、突如として“エデン”がウィルスに侵食されてしまう。“エデン”に平和は訪れるのか……?

――まずは、『エデン』における小林さんの役割をお教えください。

小林 水口(哲也氏)の頭の中にあるイメージを、ステージ構成や背景の表現など、どういうふうに具体的な形に落し込むか……という作業をしていました。とくにおもに担当したのが“ビューティ”というステージとメインメニューの“ルミズ ガーデン”でしたね。

――本職はグラフィックデザイナーさんとのことですが。

小林 そうです。大学を卒業してから水口に声をかけてもらって、元気ロケッツのPVの制作のお手伝いみたいなことをしていたんです。そのあとはゲームが作りたくなって、『ルミネス』シリーズに関わらせてもらって……という感じです。iPhone版『ルミネス』や『Qpid』などにデザイナーとして関わって、『エデン』で初めてプランナーを担当することになりました。

――それはまた、なぜ?

小林 うーん。単純にプランナーの手が足りなかったというのはあります。あとは、僕が大学のときに情報デザイン学科に所属していたというのも大きいかもしれません。「どういう情報がほしくて、どういうものをデザインするか?」といったようなことが授業のテーマだったりしたのですが、プランナーの手が足りないというときに、「じゃあ、賢五を使うか」ということになりまして。

――切り札みたいですね(笑)。

小林 何もないまま、見よう見まねで(笑)。

――どんな感じで『エデン』を制作していったのですか?

小林 じつは、『エデン』って仕様書がないんですよ。

――え!? 仕様書と言えばクリエイターにとっての設計図みたいなものですよね? 仕様書がないとゲームを作りようがないのでは?

小林 一応どういうものを作るか、方向性を決めはするのですが、それはどういうものを作りたいかをプログラマーやデザイナーに説明するための単なる“説明書”でしかなくて、それが最終的に仕様書として成り立つわけではないんです。足がかりとしての1枚の絵でしかない。僕はもともとデザイナーなので、絵を描きながら「こう撃ったときに、敵の反応をこういうふうに変えたい」と説明するのですが、ディスカッションの過程で「ここはおもしろくないね、こういうふうにしよう」と新しいアイデアが盛り込まれることもざらなんです。それで、それを形にしたものを別の紙に描いて……ということをくり返していると、最新の仕様書みたいなものは存在しなくなる。『エデン』には、最大時で4人のプランナーがいたのですが、ほとんどがそんな感じでした。

――柔軟におもしろいアイデアがどんどん盛り込まれていく感じだったのですね。とはいえ、通常の開発現場だと、仕様書がないと「何も作れないよ!」と文句が出るような気もするのですが……。

小林 そう言われると思います。それは、僕が仕様書の書きかたをわからなかったというのもあるのですが、水口の「やっぱり実際に触ってみないと手触り感が判断できない」という方針に基づくものでもあると思うんですね。そうなると、作ってみて試して、作ってみて試して……という積み重ねをするしかないんです。だから、最初にきっちりとしたものを作ると、後々応用が効かなくなってしまう。できるだけ応用が効くように作って、周りの反応に従ってどんどんブラッシュアップしていく……『エデン』というのはそういう制作スタイルでした。

――いまの欧米のがっちりと作り上げていくパターンとは……。

小林 ぜんぜん違います(笑)。

――それで、小林さんはおもに“ビューティ”を担当されたとのことですが、どんな形で開発は進行したのですか?

小林 僕は『エデン』の開発には途中から加わったのですが、その時点で大まかな世界観はできていました。で、ステージの数も決まっていて、ひとつひとつのステージを「どういうふうにしたいか?」を練り上げる段階でした。たとえば、“ビューティ”だったら花畑だったり自然の美しさを表現する。“エボリューション”だったら、深海から宇宙に飛び出していくようなイメージを表現する……といったように。“アーカイブ”に関しては、各プランナーがどういう表現をしたいのか、ベースとなるものを作った上で、最後のほうで全体のバランス調整をしています。

――各“アーカイブ”は、それぞれの担当が好き勝手に?

小林 はい(笑)。開発のベースになったのは、石原(孝士氏)が描いた2000枚にも及ぶコンセプトアートですね。それを見ながら、特徴の違う絵をひとつのエリアでまとめて、「ここからここへつなげるにはどうしよう?」ということでイメージを膨らませていったんです。

――石原さんは、決まったステージを想定してコンセプトアートを描いたわけではないんですね。絵と絵をパズルみたいに組み合わせて、ステージを作り上げていった?

小林 コンセプトアートは各ステージ別にありました。自分の担当するステージのコンセプトアートをもとに、水口のイメージをヒアリングしながら、ひとつのステージとして流れを作るという、すごく考える感じではありましたね。

――とくに“ビューティ”で表現したかった点というのは?

小林 “ビューティ”では、名前の通り“綺麗さ”や“美しさ”に気を配りました。怖い美しさというか……。冷たい美しさから一転して、浄化してどれだけ温かい印象に変わるかは意識していました。たとえば、エリア1だと水面のところで花を撃つと、その付近で花が咲いていくのですが、だんだんパーティクル(粒子)が増えていったり、さらに色づいていくんですね。それが倒すと明るくなる。そのギャップによる気持ちよさとか、意外性の演出が重要だと意識しながら作っていました。

――意外性……ですか?

小林 はい。まあ、“意外性”というのは、『エデン』全編に連なるコンセプトだとは思います。どうやって飽きさせないか、どうやって全員に驚きを与えて、なおかつその驚きをさらにどう裏切っていくか……。「つねに新鮮な印象を与えるためにどうすればいいのか?」というのは、全ステージを通して意識していましたね。飽きさせないためのカメラワークとか、エネミーの出かたとか。ちなみに、カメラパス(カメラの移動)に関しては、ほぼすべてのステージで僕が担当しています。

――音楽とかにあわせて、カメラワークを変えたりする必要もある?

小林 もちろんです。音楽ができるたびに、つねに調整作業は発生していました。タイミングなどが気持ちよさに大きな影響を及ぼすんです。そういった意味では、PVなどを制作して音楽のことをある程度理解していたということが、僕の場合大きいのかもしれないです。

――開発していて、とくに苦労された点などあります?

小林 ずっと苦労していましたが……(笑)、大きくはふたつあります。ひとつは、いわゆる“水口チェック”ですね。僕たちは石原の描いたイメージボードをもとに内容を考えて、ゲームとして成立させるわけですが、水口にとってはゲームとして成立していてもおもしろくなかったらダメなんです。水口におもしろそうだと思ってもらえるところまでもっていくまでに、すごく時間がかかる。「どんなゲームプレイにしたらいいでしょう?」と聞くと、「プレイヤーがもう一度やりたくなるようなゲーム。何回遊んでも新しい驚きがあるボス戦にしたい」というようなやりとりを何回もくり返しました。すごく直感的な人ではあるのですが、その感覚は正しい人なので、意外性を持たせながら、いかにおもしろいゲームを作っていくかで苦労しました。

――最終的には、水口さんを唸らせるものを仕上げたり?

小林 あったかなあ(笑)。まあ、“ビューティ”のボス戦は、おそらく気に入ってもらえたかもしれませんね。“ビューティ”のボスって、どんどん形状が変わっていくんですね。最初はものすごく硬かったものが、だんだん柔らかくなって、最後はものすごい大量の弾を撃ち込む。最初はフラストレーションを貯めさせておいて、ボス本体に弾を撃ち込める時間をちょっとずつ作っていってあげるんです。ストレスと発散の感覚をだんだん狭めてあげて……ということをしました。

――緩急をつけたんですね。

小林 はい。あと、もうひとつの苦労の種は自社で開発したツールエンジンでしたね。

――あら、自社エンジンで制作していたのですか?

小林 『エデン』では、“シナスタジア”をどう表現するかという部分で、既存のゲームエンジンだとどうしても超えられない壁があったんです。『エデン』で求められるのは、テクスチャを使ってリアルな表現をするということではなくて、グラフィックと音がどう紐づいているか……という部分だった。音に関するライブラリが充実しているツールはほとんどなかった。なので自社エンジンで開発を進めたのですが、これがいろいろとあり、扱いに慣れるまでたいへんでした(笑)。

――(笑)。『エデン』は斬新なゲームだけに、ツールでも苦労したということでしょうか。

小林 かもしれません(笑)。

――いま話にでた“シナスタジア”について聞かせてください。『エデン』ではキーワードとして“シナスタジア”が挙げられていますが、これはどういうコンセプトなのですか?

小林 “シナスタジア”には“共感覚”という意味があるのですが、ぼくは“シナスタジア”というのは、音とグラフィックとプレイヤーのつながりのことだと思っているんです。プレイヤーがアクションを起こすことによって、インタラクティブに音とグラフィックがどう反応するか、それが“シナスタジア”ですね。そこでいかにプレイヤーに気持よさを感じてもらえるかです。

――そのへんの気持ちよさを作る作業は、デリケートなものになりそうですね。

小林 はい。たとえば、色遣いひとつとっても、ちょっとした違いで気持ちよくなくなってしまうんです。やはり、合う色合わない色というのはあります。そのへんは、水口や石原の感覚をもとに、気持ちのよい色を作っていきます。

――ああ、なるほど。『エデン』では、私たちが思っている以上に、気持よさを出すための色遣いにこだわっているんですね。

小林 そうですね。たとえば“ビューティ”では、当初汚いイメージだった風景が、ゲームを進めると綺麗になっていくのですが、汚いものをそのまま汚い色で作ると、ただ汚くなってしまう。汚いんだけど、本当は綺麗という表現にしないといけない。

――うーん、なんか矛盾していますね(笑)。

小林 まあ、難しいですけどね。感覚的なものだから。

――仕様書が意味をなさないのもわかるような気がします(笑)。

小林 「だんだん綺麗になる」という言葉を書いておいて、あとはデザイナーに投げたりしていました(笑)。それでデザイナーも頭を抱えるしかないという。「どうやって作ればいいんだろう?」という点においては、たぶん全員が苦労していると思います。そういった意味では、『エデン』はひとりひとりの開発者が真剣に考えた作品だと思いますね。ぼく自身も、『エデン』を手がけてみて、ゲームには何が重要なのかということがすごく勉強になりました。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

小林 『エデン』は、おそらくいままでにないゲームだと思うんです。まさに、キューエンタテインメント以外は作れなかったであろうゲーム。とてもすばらしいゲームになったと思っていますので、『エデン』の世界に没入してほしいです。

■キューエンタテインメント歴
4年

■これまでに手がけたおもな作品
『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』
『Lumines Touch Fusion』
『Q'pid』

■座右の銘
自分がされて嫌な事は人にしない

■特技
妄想

■趣味
サバイバルゲーム

■好きなゲーム
『コール オブ デューティ4 モダン・ウォーフェア』
『コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア 2』

■水口さんにひと言!
「シナスタジアゲームをまた作りましょう!」