日本の"キング・オブ・ステージ"と洋ゲー伝道師が語ってくれたゼ!

 実在のヒップホッパー、50 Centが大暴れするアクションシューティング『50 Cent: Blood on the Sand』の魅力を紹介していく本記事もラスト。今回は、50 Centはいったいどんなアーティストなのか? そして、ヒップホップアーティストから見る本作の魅力について、“キング・オブ・ステージ”の異名を持つ、日本を代表するヒップホップグループ・ライムスターのラッパーであり、海外ゲームにも精通する宇多丸氏に語ってもらった! お相手するのはファミ通.comの連載、DIARY OF A MAD GAMERでもおなじみ“洋ゲーの伝道師”マスク・ド・UH。

宇多丸 Utamaru
日本を代表するヒップホップグループ・ライムスターのラッパーにして、映画や時事問題、果てはJ-POPやアイドルまで幅広く該博な知識を持つ。近年は『第三会議室』(スペースシャワーTV)や『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』(TBSラジオ)などでそのマルチぶりをいかんなく発揮している。

マスク・ド・UH Mask de UH
洋ゲーの魅力を日夜伝道する謎のマスクマン。ゲームクリエイターの須田剛一氏と共に週刊ファミ通にて“洋ゲー発着便AIR PORT51”を、同じく月刊ファミ通Wave DVDでも、映像コンテンツ“未確認洋ゲー基地AREA51”を毎号連載中。座右の銘は「毒蛇は急がない」。

50 Centは信用できる男

マスク・ド・UH最近どうですか? ツアーとか?

宇多丸いまレコーディング中で、夏ぐらいの配信でボチボチ出していく感じですね。

マスク・ド・UHアハハ、配信時代だ!

宇多丸そのレコーディングで糞忙しいなかで、(本作を)やってしまったと。

――あざっす!

宇多丸レコーディングから帰ってきて、ちょっとやっとこうと思ったんですよ。「最初のほうだけやって、雰囲気つかんでおこうかな」と思ったんですけど、スッゲェ終わりのほうまでそのままぶっ通しでやっちゃって(笑)。

マスク・ド・UH一気にやっちゃったと。どうでした?

宇多丸いや笑った笑った。フィフティ(50 Cent)バカじゃねぇの? って。おもしろかった。やっぱ笑かそうとしている辺りが信用できるんですよ。

マスク・ド・UH「俺は頑丈なんだ!」って感じ? 弾を9発食らっても死ななかった(※1)っていう。宇多丸さんは、ラッパーとしては50 Centをどう評価してるんですか?

宇多丸すごい好きですよ。ギャングスタラップ(※2)なんだけど、(内容をあえて)露骨に誇張しているっていうか、ヒドすぎて笑えるんですよ。絶対こんなこと本当にあるわけねぇってぐらいのことも歌っていて、その極端さが笑えちゃうっていうのも本人はわかってて、曲のなかでちゃんと自分ツッコミみたいなのもしてるんですよね、「なんちゃって、俺もだけど〜!(笑)」みたいな。ちゃんと50 Centは50 Centを演じているのが信用できる。まさにこのゲームなんかホントそうだと思うけど。

マスク・ド・UH最近の50 Centはどうなんですか?

宇多丸あんまりまとまったリリースをしてないんでなにしてんのかなって思ってたんですけど、コレ(本作)やってたんですね(笑)。

マスク・ド・UH俺が調べたトコによると、『マネーの虎』みたいな番組(※3)をやってたらしいんですよね。「俺をならって一攫千金!」って感じに50 Centが面接して。

宇多丸へー、でもそういう、バラエティノリがちゃんとある人ですよね。そういうとこ好きですよ。ギャングスタラップつっても彼の場合は、もちろん本当に銃弾を受けたりもあるんだけど、あんま生々しくないんですよね。やっぱフィクションぽいんですよ、限りなく。劇画チックっていうか。

マスク・ド・UH50 Centはヒップホップの東西戦争(※4)では、両方を股にかけてるんですよね?

宇多丸まぁ、もともとニューヨーク出身だし。でも正確には、東西戦争が終わったあとに出てきた人でもあるんですけどね。要はさ、トゥパックとビギー(※5)が死んで、(歌詞のうえでなく)本当に死人が、しかもスーパースター中のスーパースターに死人が出ちゃって、そういうノリじゃなくなったっていうのもあると思うんですけど。ホントに50 Centは50 Centを演じているのがはっきりしているからいいっていうか、すごく安心して聞けるギャングスタラップだと思うんですよね。

マスク・ド・UH初めて聞いたのはいつごろですか?

宇多丸普通にブレイクのときですよ。ドクター・ドレーが見つけてきて「イン・ダ・クラブ」がヒットしたときですね。あのビデオとかも笑ったなぁー。やりすぎなのがいいんですよね。

マスク・ド・UHPVといえば、ゲームを進めていくといろいろアンロックできるんですよ。

――曲も新曲が18曲ぐらい収録されてるんですよね。じゃあちょっとビデオ流しながらにしますか。

(※1)弾を9発食らっても死ななかったまるで都市伝説のようだが、実話。2000年にクイーンズの祖母宅前で襲撃され、至近距離から9ミリ弾を9発撃たれるも生還する。

(※2)ギャングスタラップひとくくりに説明することは難しいが、金・ドラッグ・銃・女などをテーマに攻撃的な単語でラップするヒップホップ/ラップのスタイル。しばしばギャングスタラップ=ラップと解釈されがちだが、あくまで1スタイルにしか過ぎない。

(※3)『マネーの虎』みたいな番組アメリカのMTVで2008年11月から2009年1月まで放映されていた『50 Cent: The Money and The Power』(邦題『MTV The Money and The Power 〜50セント銀行 1000万円融資します!〜』)のこと。2チームに分かれて、さまざまなお題に挑戦し、毎週ひとりが脱落していくというもの。勝者には50 Centから10万ドルの資金が提供される。日本でも2009年7月6日まで放送された。海外公式サイトで全エピソードが閲覧可能。 (公式サイト

(※4)ヒップホップの東西戦争LAを中心とするアメリカ西海岸のラッパーと、ニューヨークを中心とするアメリカ東海岸のラッパーによる勢力抗争。互いに曲中で煽りあった結果、西のスターであるノトーリアス・B.I.G.と、東のスターであるトゥパックがともに銃撃されて死亡するという惨事に発展してしまう。50 Centは東のニューヨーク出身だが、西の名プロデューサーであるDr.ドレのプロデュースを受けている。

(※5)ビギーノトーリアスB.I.G.のこと。

そんなの百も承知!

宇多丸(「Stunt 101」が流れる)あー、これブランディが出てくるヤツ。これも笑えますよね。アホかっていう。あと顔がやっぱ愛嬌ある(※6)んですよね。

マスク・ド・UHうれしいときの顔とかいいですよね。

宇多丸すごくいい。いわゆる“いい顔”をしてる。ちなみにG-Unit(※7)は全員いい顔をしてます。僕はロイド・バンクスの顔がすごい好きなんですけど(笑)。味だな〜っていうね。

(セールス役のブランディを横に乗せ、ショーウィンドーを破壊して外に出るシーン)

普通コレ、スーパーカーに女乗せて、「試乗だっ」つってバーンって出てったらドン引きだと思うんですけど、(乗せられた)ブランディが喜んでる風っていうのがね(笑)。こんなん見られるようになるんですね。

マスク・ド・UHそう、『P.I.M.P.』とかもどんどん見られるようになります。

宇多丸「あらこの男、ちょっと危険でいいわ」みたいなね。“ちょっと危険”どころじゃねぇよ! って(笑)。まぁその、ヒップホップってよく揶揄されがちなのがさ、「バカっぽい」って。そんなの百も承知なんですよ、こんなのやってる側も。そこがイイ! っていうね。だから「バカっぽい」って言ってる人はそういう“わざと”構造をわかってないで揶揄してるつもりだから(それこそが)バカっぽいのね。

マスク・ド・UHプロレスがガチかヤオ(※8)かって論争に近いものがありますね。

宇多丸そうそう! 「プロレスは八百長だからダメだ」って鬼の首を取ったみたいに言ってもさ、そんなの百も承知。

マスク・ド・UH違う違う! お前なにもわかってないよ! ってことですよね。

宇多丸そういうこと。今回(本作)もさ、スタジアムコンサート終わっていきなり銃出して「テメェ金よこせ」って言いだしてさ……

マスク・ド・UH「支払いは今日だったハズだぞ!」って(笑)。

宇多丸俺もう爆笑ですよ、やりながら。最高すぎる! でさ、ちゃんとスタジアムのライブシーンから行くとこが、みんなが50 Centに抱いているプロレス的な幻想をちゃんとやってくれてて、偉いなってね。

マスク・ド・UH設定がさ、発展途上国でのヒップホップコンサートって、マイケル・ジャクソン(※9)かよっていうね。

宇多丸そんでギャラ払えないって言うんで銃を向けると、周りのG-Unitの連中が「やっちまえよフィフティ!」ってさ、誰も楽屋のなかにオトナがいない(笑)。

マスク・ド・UHダハハハハハ! いないいない。

(コインランドリーに札束をブチ込み、盛大にバラまくシーンが流れる)

宇多丸これもバカっぽい感じでね。……コレを読む方にちょっと注意して頂きたいのは、こういうのだけがヒップホップではないんで、コレは一番極端なのだからね。でも極端だからおもしろいんですよね。

マスク・ド・UHこういうのをやらないタイプのヒップホップもあると。

宇多丸もちろんもちろん。銃を持たないタイプのヒップホップもあるんですけど、こういうヒップホップのトゥーマッチ(やりすぎ)なところが好きっていうのもどうしてもあるんで。で、いきなり銃撃戦が始まって、結構序盤でヘリコプターとかババッて飛んできてさ、「うわ、バ、バカだ……」って。

マスク・ド・UH装甲車が突っ込んできたりね。

宇多丸そうそう。『トリプルエックス』(※10)的な感じだよね。チンピラがひょんなことから政府に見込まれてみたいな。

マスク・ド・UHまたさぁ、宇多丸さんもヤラれたと思うんスけど、ロマンス的なことが一切出てこないのね。

宇多丸女は一応出てくるんだけどね(笑)。フィフティもワルなんだけど、本当に悪いかっていうとさ、悪者はやっつけるけど、(悪いこと)そのものはしないっていうかさ、女が出てきても若干奥手じゃねぇかってぐらいなんだよね。

マスク・ド・UHフィフティのキャラクターを考えれば、全然アリなんじゃないかと。

宇多丸やっぱ愛嬌があるワルなんでね。

(※6)顔が愛嬌あるこんな感じ。

(※7)G-Unit本作にも登場する、50 Centのクルー。ゲーム中でどんな顔をしているかは本記事の第1回を参照のこと。

(※8)ガチかヤオかプロレスは真剣勝負ではないはずだ=だから大したことはない、という表面だけを見た安直な論争。

(※9)マイケル・ジャクソン惜しくも亡くなったキング・オブ・ポップ。

(※10)『トリプルエックス』ヴィン・ディーゼル主演、2002年公開のアクション映画。エクストリーム・スポーツのスターを国家安全保障局がエージェントとして勧誘するという無茶な設定、敵犯罪組織の“アナーキー99”というネーミングなど、“やりすぎ”で難しいことを考えないほうが楽しめる、正しいアクション娯楽映画。

俺がゲームに求めるものにすごく近い

マスク・ド・UHちなみにこのゲーム、前作があったの知ってますか。プレイステーション2とXbox、PSPで『50 Cent: Bulletproof』(※11)っていうのが出てて、日本では出なかったんですけど、海外ではミリオン行くぐらいに売れて、その新作がコレなんですよ。

宇多丸不勉強ながらやってませんでした。

マスク・ド・UHいやいやいや! 日本に入ってきてないしね。今回はスゲー良くなって、俺は今回のソフトを北米版でゲットして、最初に触ったとき『バイオハザード5』(※12)に似てるとも思いましたけどね。宇多丸さんは『バイオ5』やりました?

宇多丸世界観はすごい好きなんですけど、ムズくってですね。カプコンの壁(※13)にやられちゃって。チェーンソー男のとこなんですけど、倒したはいいものの弾とかなくなっちゃってね(※14)。

マスク・ド・UH俺は初めてこのゲームやったときに、スゲー『バイオ5』の影響を感じましたね。シェバ・アローマのような美女も、50 Centじゃロイド・バンクスを筆頭とするG-UnitのムサいB-BOYに差し替えられちゃうセンス(※15)。これこそ洋ゲーの真骨頂じゃないんでしょうか。

宇多丸CO-OPプレイ的なことですか? でもこっちはさ、より“フィフティ感”っていうか、そんな細かい弾薬のこととか考えずに済むじゃない。力押しでいいんじゃないすか? 別にそんなに避けなくてもイイとかさ。

マスク・ド・UH止まってる車の窓ガラス壊すだけでも破壊ポイントが入るんスよ。駐車してる車を爆破させただけで1000ポイント入ったり。弾拾うだけでポイントゲット。だから、使える弾はどんどん使う、壊せるモノはどんどん壊す! しつこいようですが、これこそ洋ゲーの真骨頂でしょ!

宇多丸そういうおおざっぱさっていうか、そんなに細かく戦略立てて考えなくてもいい力押し感がフィフティっぽいし、なおかつ俺がゲームに求めるモノにすごく近いんですよ。俺、細かいのヤなんですよね。いや、細かくても『GTA』(※16)とかいいんだけど、そうじゃないとクリアーできないみたいなのはイヤなんですよ。おおざっぱなプレイしてもイケることはイケるみたいなほうが好きで。

マスク・ド・UHよく洋ゲーは自由度が高いって言いますけど、ある意味テキトーなんですよね。

宇多丸そう。やっぱ、フィフティのゲームが細かかったらダメじゃないですか。それは世界中誰もが思うことだろうけど。

マスク・ド・UHギャハハハ! 細かい作り込みなんかあったら、むしろダメ! そこがすごいフィフティらしい。たとえば木箱を壊すとブリンブリン(※17)が飛び出てきて、バーっとフィフティの体のなかに吸い込まれて、チャリンチャリンってカウントされるじゃないですか。あの表現こそ、ヒップホップ全体をゲームにするとこうなるって見本ですよね。。

宇多丸金が貯まってくという名のレベル上げですよね。

マスク・ド・UHまさにそう。マリオ・ミーツ・50 Centみたいな感じですか。

宇多丸最近のアクションゲームって、レベル上げ要素を意図的に入れてハマらせるっていうのがあるじゃない? それでハマっちゃうんだけどさ、いい銃が欲しくって金貯めなきゃと思って、わざわざ敵と戦う。敵がいっぱい来てもそんなに困らないしさ。

マスク・ド・UH敵にガンガン襲撃されてる最中に公衆電話で武器を買う! 敵がいるから「電話しようぜ」って戦闘中にG-Unitが言ってくる(笑)。じつにゲーム的ですよ。

宇多丸この大味度がいいなと思って。俺が連想したのは、『マーセナリーズ』(※18)とかさ、『GTA』よりもおおざっぱに遊べて、楽っていう。『コール・オブ・デューティ』とか『レインボーシックス』(※19)とか、シビアめなシューティングとかもいいんだけど、やっぱゲームって気晴らしだからさ。「なんで俺、日ごろストレスを感じてるからゲームで「ブッ殺してやる!」って遊んでるのに、殺されてるの俺じゃねぇか!」っての(笑)。

一同ダハハハハハハハハハハハハ!!

宇多丸残りとか気にするのは日ごろやってっからさ。ファンタジーとしてのツエー俺みたいなとこが(本作は)わかってるし、ちょっと物陰に隠れていれば回復するみたいな、このアバウトさ。そこはちゃんと最近の流行を受け継いでてさ。

マスク・ド・UHあとポスターはがしてくトコ(※20)、アレも俺は好きですね。

宇多丸コレクト要素とかやり込み要素もちゃんと入っていて、やり込もうと思えばやり込めるっていう、ゲームとしてイイと思います。俺がやっちゃうタイプのゲーム。

マスク・ド・UHキメゼリフ買えるの知ってます? 敵を倒してスティックを押し込むと罵倒してくれて、しかも罵倒ボーナスが加算されるんですよ。コレ覚えておいて損はないです。スコアに影響でますから(笑)。

宇多丸相手をよりビビらせることを言うだけなのね。ソレっておもしろいですよね。向こう(海外)でラッパーがどういう位置づけなのかがすごいわかりやすい。“言葉でカマす”っていうおもしろさ。みんなそれを聞いて、自分は強くないけど“カマす”曲を歌うことで強くなった気になるみたいな。わかってんなって感じですよ。だって要はさ、銃を買うとか腕っ節が強くなるのと同じように、“口がたつ”! より効果的な悪口を言うって要素が入るのって、スゲー。日本だと意外と伝わってないけどさ、そういうなんかスゲー気の利いた、それこそ“パンチのある”パンチライン(※21)をドカンと出して、“言葉で殴る”みたいな……

一同ダハハハハハハハ!!

宇多丸そういうのが向こうのラッパーの立場で、ソコがおもしろがられてるんだよね!

マスク・ド・UH『8マイル』(※22)の世界ですよ。!

宇多丸そう、向こうのラッパーが日本で言う……ある種お笑い芸人に近い“おもしろいことを言う”、一発でロック(魅了)するっていう立場だってことなんですよね。だからそういう、向こうでのラッパーのありかたとか受け取られかたみたいなのもわかっていいですよ、そこは。

マスク・ド・UHなるほど、そこは同意見です!

(※11)『50 Cent: Bulletproof』Sierraから2005年に発売された。防弾効果(Bulletproof)なる副題は、もちろん9発撃たれても死ななかった実話から来ているものと思われる。

(※12)『バイオハザード5』カプコンのプレイステーション3/Xbox 360向けゾンビシューティング。本作と同じく、CO-OP(協力)プレイモードがある。

(※13)カプコンの壁ちょっと操作に慣れたあたりの序盤のステージで、ハードルとなる敵を用意する特徴的なゲームデザインの通称。

(※14)弾とかなくなっちゃってねフォローしておくと、ステージをやり直すことでいくらか弾を稼ぐことができる。

(※15)ロイド・バンクスを筆頭とするG-UnitのムサいB-BOYに差し替えられちゃうセンスシェバ・アローマもロイド・バンクスも、どちらも両作品でCO-OPプレイ用の相棒キャラクターとして登場する。

(※16)『GTA』言わずと知れたキング・オブ・洋ゲー、Rockstarのオープンワールドアクション『グランド・セフト・オート』シリーズのこと。

(※17)ブリンブリンヒップホッパー大好物の、デカくてジャラジャラしている金や宝石をふんだんに使ったアクセサリーのこと。数百万で特注することもザラ。

(※18)『マーセナリーズ』豪快な傭兵がとにかく暴れまわる、エレクトロニック・アーツのオープンワールドアクション。ひたすら爆発、爆発、爆発! なハリウッド的なマッチョ感は、確かに本作に通ずるものがある。

(※19)『コール・オブ・デューティ』とか『レインボーシックス』とかどちらも海外産FPS(一人称視点シューティング)の大作。フォローしておくと宇多丸氏はどちらもプレイ済みで、決して否定しているわけではない。ここではあくまでおおざっぱなゲームも必要というニュアンスでの、対するシビアなゲームの例。

(※20)ポスターはがしてくステージの各所にポスターが隠されており、全部発見するとボーナスがもらえるやり込み要素になっている。

(※21)パンチラインキメゼリフ。ここではラップのリリック(歌詞)中のそれを指す。

(※22)『8マイル』2003年公開の、ラッパー・エミネムが主演した半自伝的映画。どん底の生活から「ラップは黒人のための音楽」という固定観念すらもマイク一本で打ち砕き、フリースタイルラップ(即興のラップ)でノシ上がろうとするさまを描く。

"50 Cent: Bulletproof" interactive game (C) 2005 Vivendi Universal Games, Inc. All rights reserved. Vivendi Universal Games and the Vivendi Universal Games logo are trademarks of Vivendi Universal Games, Inc. Developed by Genuine Games, Inc. All other trademarks are property of their respective owners.

いいも悪いも、真似しようがない

マスク・ド・UHじゃあちょっとプレイしてみましょうか。

宇多丸また乱暴なプレイなんでしょうね、『Bully』(※23)んときに、丁寧さのかけらもないプレイぶりで(笑)。っていうか、マスク・ド・UHさんの青春がそのまま『Bully』だったっていう。

マスク・ド・UHダハハハハハハ! いやいや、そんなことないですよ、ちゃんとやってますよ俺は。宇多丸さんはロイド・バンクスが好きなんですよね。銃は……俺はこのラインナップあんまり好きじゃないな。

宇多丸俺はやっぱM4(※24)が殺傷力も高いし、当たりやすくて好きですね。M4と、スナイパーライフルとしてドラグノフ、あとは連射できるショットガンを入れれば大体イケる感じでしたね。

マスク・ド・UHこれですね、威嚇を買えるトコ。“定番の威嚇”とか“過激度”とか、“自慢度”とか、“XXX”とか、説明がもう意味わかんない(笑)。おおざっぱでいいですよね。“おおざっぱ”ってなにかヒップホップ的な言い方あります?

宇多丸うーん、“Ragged”。“Rough and Ragged”ですね。

マスク・ド・UH“Ragged”! ウハハハハハハハハッ!

(オープニングシーンが流れる)

宇多丸コレ! 出だしがバカすぎ!

マスク・ド・UHもうグレネード腰につけてますからね。ステージ衣装なのかよ! この段階でギャラが振り込まれてないのに気がつくしね。「1000万ドルの赤字だ!」って、単位がもう漫画なんですよね。

宇多丸っていうか、こんな巨大なコンサートでこんないい加減な……逆に間抜けだろってぐらいの話なんですがね。銃突き付けちゃったら逆に金入んないだろって。お宝もまたバカっぽいんだよなぁ……。

マスク・ド・UHダイヤのスカル! 嘘くさいお宝なんすよね。「なんでも鑑定団」だったら偽物扱いされますよ。

宇多丸冷静に考えたらこの民芸品いらないよって(笑)。

マスク・ド・UH現金に勝るものナシですからね。

(ゲームがスタート)

宇多丸あれ、最初からAK(※25)持てましたっけ?

マスク・ド・UH武器を持ち越したままステージセレクトできるんです。

宇多丸あぁ、2回目のほうがより稼げるんですね、へぇ〜。

マスク・ド・UHこうやって車撃ってブッ壊してくだけでもポイント稼げるんですよ。で、ここで“ファイト一発”(※26)。で、次はケンカ(クローズドコンバット)ね。

宇多丸コレ、1周目は結構銃を買うだけで精いっぱいだから、いろいろ買うためについつい何周かさせられちゃうってことですよね。あー、ずいぶんやってますねコレ。俺格闘とか全然やらなかったんだよなぁ。ガンマニアなんで、ついつい銃を買うほうに気がいっちゃって。

マスク・ド・UH格闘はガンガン行きますね! ホラ、ここでも車壊せるんだ。

宇多丸ほー。弾もまずなくなんないですもんね。

マスク・ド・UHなくなんない。弾を拾うだけでポイントゲットなんで、どんどん無駄づかいしなきゃ。日本のゲームだと弾節約する方向あるじゃないですか。

宇多丸それもゲーム性ってことなんだけどさー、そういうみみっちいのいいからさ!

一同ダハハハハハハハハ!!

マスク・ド・UHで、ほら、木箱壊せばシュワーンと(ブリンブリン回収中)。こっちで弾を拾えば、それもポイントになるという。

宇多丸さして苦労もしてないのにレベル上げ的なのが進むという、この都合のいい感じ、これやっぱいいですね。俺ゲームはコレでいいと思うんだよなー。あんま負担欲しくねーよっていう。負担系でいくならリアルに行くか、すごい作り込んでないとなんか……それにしてもうまいですねぇ。

マスク・ド・UHダハハ! やってますからね。

宇多丸撃たれてもさしてダメージもない、この強い感じ。

マスク・ド・UH(クローズドコンバット中)現役のミュージシャンがこうやってナイフでサクッと。

宇多丸いやー、うらやましいですよ、こういう表現が許されるっていうのはホントに。正直実在の人じゃないですか。子供たちにも人気ですよ。はっきり言って教育上言えば、めちゃくちゃ悪いです。でもここまで極端だと、いいも悪いも、真似しようがねぇから(笑)! 

マスク・ド・UHターゲットは忘れずに撃つ。1チャプターにつき5個ターゲットがあるんで、必ず探しましょう。

宇多丸あ、こんなんあったんだ。

マスク・ド・UHコレを見つけてかないと、ポイントが上がらないんですよ。

(プロモーターのアンワーが壁を爆破して登場)

宇多丸……っていうか、さっきまでコンサートやってたんだよなコイツらは。

マスク・ド・UHそう、ついさっきまでコンサートやってたのに。数分後には殺し合いですから(笑)。

宇多丸だいたいコンサートのギャラを回収するために、自分でこんな危険な目にあって、冷静に考えたら相当間が抜けてる人っていう。かなりのがんばりやさんですよ。

マスク・ド・UH自分の手で取り返そうとする努力を買いますよ。

宇多丸バックに流れる曲も、ちょっとレイドバック(※27)した曲が多いじゃないですか。だから、あんまり緊迫しないんですよね。

一同ダハハハハハハハハハ!!

宇多丸そこがいいんだまた。無理に慌てさせられることがないのが。(次々倒していくマスク・ド・UH氏)っていうか、無敵じゃねぇか(笑)! 謎解きとか行く先に迷うこともほとんどないしね。

マスク・ド・UHないっすね! パズル的なこととか一切ないです。

宇多丸ホントに頭使わない(笑)。(※28)でも、コレでいいと思うんだよな。

マスク・ド・UHポスターとターゲットをゲットしていかないと、クリアーしたときの評価が絶対ゴールドとか行かないんですよ。それでアンロックも全然変わってくる。

(時間をスローにするギャングスタ・ファイア炸裂!)

宇多丸コレもズルいよね。周りはゆっくりにして自分は結構普通に動いてるっていう。フツーさ、スローのときは自分も遅くなるんじゃないの? フェアじゃねぇ(笑)。

(※23)『Bully』日本では本作と同じくベセスダ・ソフトワークスから発売された、Rockstar開発によるオープンワールド高校ライフアクション。

(※24)M4M4カービン銃。米軍などで採用されている代表的なアサルトライフル。

(※25)AKAK47軍用ライフルのこと。'40年代に開発されたにもかかわらず、その信頼性の高さで現在に至るまで世界中の紛争地域で使われているアサルトライフル。

(※26)ファイト一発高所にG-Unitと協力して上る際の動作が某有名CMに似ていることを評して。

(※27)レイドバックゆったりとした雰囲気のこと。

(※28)頭使わないハードモードでのプレイや、少しでも高ポイントを狙うためにはもちろん、戦略立てて戦うのが重要。

ゲームは“カマす”時代!

(チャプター終了)

マスク・ド・UHセリフもいちいちイイですよね。

宇多丸みんな黒人英語に慣れていきますよ。

マスク・ド・UHいまはノーマルでやりましたけど、ハードにして、ターゲットとポスターを全部ゲットすると、ゴールドの評価まで行けますよ。場所を覚えて、ギャングスタ・ファイアをガンガン使うことですね。あとはシナリオ、「4人倒せ」とか出てくるをクリアーしていくとボーナスがあるんスよね。じつはやり込もうと思えば、結構やり込める。

宇多丸いやー、それにしても景気よく撃ちまくったなぁ。ゲームで耐える時代はもう終わりましたよ。

マスク・ド・UHソレは思いましたねー。“カマす”時代っスよ!

宇多丸っていうのはさ、なんか制限があったりっていうぐらいでしかゲーム性を出せなかったわけじゃないですか、昔はスペック的に。カンタンだと本当につまらなくなるしかなかったんだろうけど、いまはスペックが上がったおかげで、その世界に没入するだけで全然「持つ」からさ。

マスク・ド・UHひと通りプレイしてみましたけど。迷いなしだったでしょ?

(ここでちょっとプレイは宇多丸氏に交代)

宇多丸(ちょっと部屋の先を覗きこんで)こういう『コール・オブ・デューティ』的な動きとかやらなくていいですからね! アレはアレで好きなんですけど。

マスク・ド・UHこの、ノー戦略でも遊べる感じがね。

宇多丸なんか撃ち逃したのあるかな……あ、あった! ターゲットの位置とかマスク・ド・UHさんは全部把握してるんですか?

マスク・ド・UH後半のステージとかは覚えてないですけど、だいたい発見しました。海外の攻略サイトとか見てもテキトーなんですよ。テキストのみで「どこどこの市場のお前の右肩のあたり」とか。せめてマップとかスクリーンショットくらい見せてほしかったですね(笑)。

▲しばらくフツーにプレイしてもらってクリアー。

宇多丸俺遠くから撃つのが好きなんですよね、絶対安全なところからやるっていう。前に『GTA』の『ロスト・アンド・ダムド』(※29)をやってるのを友達に見られて「きったねぇ〜っ!」って言われて呆れられましたもん。

マスク・ド・UH宇多丸さんは、結構堅実にプレイするタイプですね。

宇多丸堅実ってよりも、このゲームが好きな理由とも通じるんですけど、絶対的優位で勝てる戦いをしたいっていうね(笑)。力押しも好きなんだけど、いったんおびき寄せておいて、すっごく遠くからひとりずつ狙うとか(笑)。

マスク・ド・UHこのゲームだとギャングスタ・ファイアがそんな感じですかね。

宇多丸さっきも言ったけどさ、バレットタイムとか、そういうときって自分も遅くなるのに、アンフェアでいいよね!

マスク・ド・UHじゃあ宇多丸さん的にかなりオススメ?

宇多丸結構好みですよ! それはフツーに。ゲームってハードな人はハードにやるけど、フツーの人にとっては気晴らしだし、こんぐらいのバランスでいいんじゃねぇの? って。

マスク・ド・UHちなみに向こうってヒップホップ×ゲームって多いじゃないですか。『GTA』だったら『サンアンドレアス』(※30)もそうだし、『Get On Da Mic』(※31)っていう、ラップしてEye Toyで自分のPVを作れるってタイトルもあるんですけど、日本にはないっすよね?

宇多丸ラッパーがそこまで人気ないって問題も……

マスク・ド・UH出たー! 爆弾発言ですよコレは!

宇多丸あとはひとつには、ラッパーをひとつのキャラクターとして楽しむって土壌がまだ定着してないからかな。プロレスですらまだ論争があるわけでさ。もっと虚実の部分にあるわけなんですけどね。日本でコレやると怒る人がいっぱい出てきちゃう。まぁアメリカだって怒られてるんだろうけど……

一同ダハハハハハハ!!

宇多丸怒られてるんだろうけど、そのオトナな感じ?

マスク・ド・UHコレもエンターテインメントなんだからっていう。

宇多丸そうそうそうそう。エンターテインメントの土壌の問題っていうのはあるかもしれないですね。そういや、Def Jamのゲーム(※32)でDABOとS-WORDが出てたのはうらやましいですよね。

マスク・ド・UHじゃあまだ日本発じゃこういうゲームは無理そうですかね。

宇多丸日本じゃまだ無理でしょ。いっつも文句言ってるけどさ、目玉のでっかいホストみてぇなロンゲのヤツでしょ?

マスク・ド・UH鼻筋ピッとしたね。髪型がスゴすぎるんだよね、あの連中は。

宇多丸その世界観の時点で俺全然受け付けないんですけど、アレにしてみればむっさい奴らって思うのかもしれないけどさ、相容れないですね、僕は。ことゲームに関してはまったくもう、ナショナリストではなくなってしまいましたね。

マスク・ド・UH宇多丸さんにこういう話きたらやります?

宇多丸やらせてくれるならやりたいですよ! 前から『GTA』の新作に出してよ! って関係者に言い続けてきたくらいですから。すぐ死ぬ役でもいいからさ。チンピラ役で、スキンヘッドにサングラスだったら作りやすいでしょ? もちろん自分が主役だったらね、銃撃ちまくれたら気持ちいいスからね。これも別のゲームになっちゃいますけど、『セインツロウ2』(※33)で自分そっくりに作って暴れまくってますから。異常に暴力的なんですけど(笑)。やっぱり非日常ね、ファンタジー世界じゃなくて、現実のなかにある絶対いけない世界ね。スタジアムでコンサート終えたあと乱射ですよと。男の夢ですよ。もっとこういう世界が日本でも受け入れられるといいなと思いますね。

マスク・ド・UHじゃあ次は『ライムスターのブラッド・オン・ザ・サンド』で! ギャラが振り込まれてねぇ! って。

宇多丸まぁライムスターはそういうキャラじゃないけど、ギャングなキャラクターの人がね。トコナ(※34)が生きてればトコナとかね。役を演じる感じなら全然行きたいですね。ライムスターはキャラじゃないって言ったけど、PVのなかで銃を撃つ機会は多いですから、俺も。でも俺、腕っぷし弱いのは有名で、ガンマニアとして有名なんで、銃がいいです。俺も銃撃ちたいですね!

(※29)『ロスト・アンド・ダムド』『グランド・セフト・オート4』でXbox 360向けに配信されたダウンロードコンテンツ。バイカー魂溢れるサイドストーリーが展開される。日本でも配信が決まった。

(※30)『サンアンドレアス』日本では2007年に発売された『グランド・セフト・オート・サンアンドレアス』。荒廃した故郷に帰還したギャングスタ・CJが主人公に、さまざまな種族・カラーからなるギャングスタとの抗争を描く。

(※31)『Get On Da Mic』Eidosから2004年にプレイステーション2向けに発売されたヒップホップ・カラオケゲーム。N.W.A.やPublic Enemy、シュガーヒル・ギャングといった懐かしのアーティストに加え、Snoop DoggやJay-Zなどのヒップホップスター、トゥパックやビギーなどのレジェンドはもちろん、忘れられることの多いSalt'n'PeppaやSir Mix-A-Lotまで収録している、何気にスゴいラインアップを持つ。もちろん日本未発売。

(※32)Def Jamのゲーム2003年にエレクトロニック・アーツから発売されたプレイステーション2向けアクション『Def Jam Vandetta』のこと。ラッパー同士がリアルバトルするという豪快なゲームに、日本からはDef Jam Japan契約アーティストのDABOとS-WORDが参戦した。

(※33)『セインツロウ2』海外では本作と同じTHQが発売している、オープンワールドアクション。

(※34)トコナTOKONA-X。ハードコアなスタイルを表に出したヒップホップグループ“M.O.S.A.D.”のメンバーでもあり、アンダーグラウンドで人気を博していたが、2004年に26歳の若さで急逝したラッパー。

いかがだったろうか? 本職のヒップホッパー宇多丸氏も太鼓判を押す本作、難しいことを考えずにチェックしてみて、そのある意味豪快、ある意味ディープな世界にドップリ浸ってみてほしい!

50 Cent: Blood on the Sand 公式サイト

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