スーパーコアゲーマーがクリエイターに突撃! 椿姫彩菜のゲームの話

タレントでコアゲーマーとしても知られる椿姫彩菜さんが、ゲームクリエイターの皆さんに“ならでは”の視点で切り込む連載企画。椿姫さんが注目するゲームのクリエイター、旬なクリエイターに対談形式でお話を聞いていきます。椿姫さんのゲーマー側に立った突っ込みに、クリエイターはどう応えるのか? どんなぶっちゃけトークが展開されるのか? 注目です。

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“椿姫彩菜のゲームの話”第10回 カプコン小野義徳氏に『ストV』課金システムの真相を直撃!?

2014-09-27 00:00:00

 タレントでコアゲーマーとしても知られる椿姫彩菜さんとゲームクリエイターの対談企画第10回。今回のゲストはカプコンの小野義徳氏。『ストリートファイター』シリーズを始めとした格闘ゲームから開発中の最新作『deep down(ディープダウン)』までを、椿姫さんがユーザー目線で鋭く切り込みます。

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椿姫彩菜さん(左)、小野義徳氏(右)

●小野さんと1年ぶりの再会

椿姫彩菜さん(以下、椿姫) 小野さんとお会いするのは、本当に久し振りですね。

小野義徳氏(以下、小野) 1年ぶりですか?

椿姫 いや、もっとかもしれないですよ(笑)。小野さんはいつも海外にいらっしゃっていて、日本にはいないイメージがありますよね。

小野 じつはこの対談の4時間後には、ソウルにいるんですよ。

椿姫 えーっ!(笑)。

小野 そんなキワッキワのスケジュールですが、今日は椿姫さんにお会いできると聞いて楽しみにしていました。

椿姫 ありがとうございます。

小野 最初にお伝えしておきますが、以前海外メディアで噂になった『ストリートファイターV』(以下、『ストV』)についてはしゃべりませんよ(笑)。

椿姫 もちろん、お答えできる範囲で結構ですから(笑)。

小野 先日、弊社社長による「『ストリートファイターV』に課金システムを採用するかもしれない」という話が、あたかも公式の発言のように扱われており、皆さんにご迷惑をお掛けしました。後日、取材時の音声テープを一言一句忠実に文字に起こして検証したところ、“次世代”というキーワードと、『ストリートファイター』という固有IPの話が混在していた……というのが真相なんです。

椿姫 つまり、取材の場でも『V』には一切言及していなくって、まわりが勝手に『V』に課金システムが搭載されると思い込んでしまった、ということなんですね。じゃあ「次の『ストリートファイター』」というのは『V』ではなくて、もしかしたら『ウルトラストリートファイターIV ダッシュ』のことかもしれないと(笑)。

小野 そう! 『ウルトラ(中略)プラスアルファEXエディション』という可能性もあります。いや、もしかしたら『ストIV』シリーズでもなくって、プレイステーション4で『ストIII 4th スペシャルエディション』みたいなタイトルが出る……かもしれないですし(笑)。

椿姫 小野さんならやりそう(笑)。

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●基本プレイ無料という新たなビジネスモデル

椿姫 いまではバンダイナムコゲームスさんの『鉄拳レボリューション』やコーエーテクモゲームスさんの『デッド オア アライブ 5 アルティメット』のように、基本プレイ無料という新たなビジネスモデルによる格闘ゲームが登場していますよね。そういったタイトルを見て、小野さんはどのように感じていますか? 

小野 これらのタイトルを筆頭にした“流れの変化”に、「我々も何かチャンスがあるのでは?」と思っています。今回の対談を、“来年にもう一度開いてくれたら”もう少し多くしゃべることができるでしょうね(笑)。話を戻しますと、個人的には大きな可能性を感じています。僕は『ストリートファイターIV』(以下、『ストIV』)について語るとき、格ゲーを(コミュニケーションや競技のための手段や道具という意味合いで)“ツール”と称していました。でも、世の中に存在する“ツール”って、必ずしもわざわざ購入してそろえるものではありません。たとえば、トランプはタダでもらえたり自作できたりするものですよね。このようなツールを使って「こういう遊びをしましょう」と提唱することは普及のための施策としてアリだと思うんです。

椿姫 ふむふむ。

小野 これをビジネスにたとえるなら、「無料で行き渡るツールを使って、収益につなげましょう」ということになります。キャラクターの購入にとどまらない“フリー・トゥ・プレイ”(F2P)のビジネスの方法が存在すると思います。

椿姫 F2Pのモデルは、いまやさまざまな分野のゲームで普及していますが、格闘ゲームの場合は競技の要素が強いため、「課金の仕組みを構築するのはとても難しいのでは?」と思います。将来的にはどのように発展するとお考えですか?

小野 僕はモノグサな性格なので、「自分で働かずにどう儲けるか?」を常々考えているんです(笑)。いまはアマチュアによるゲーム動画の配信が盛んですよね。こうした動画配信はプレイヤーのコミュニティー作りに貢献している側面もあると考えています。とくに海外ではアマチュアの枠を超えて大きな規模でそれをビジネスにしている人たちもいる。そういった部分については、本来のコンテンツホルダーとしての我々とうまく共生できる方法があると思うんですよ。この仕組みが構築できれば、我々は寝ているだけで収益が入るようになりますし……というのは冗談です(笑)。ただ、格闘ゲームを使ったビジネスの一例になり得るとは思っています。 

椿姫 メーカーさんにとってみれば、ソフトを販売すること以外で収益を生み出す可能性を探ることが大事になっているんですね。

小野 我々はゲームで収益を得る術として、「パッケージを販売する」ことを長年続けてきましたが、たとえば“バサラ祭り”や“モンハンフェスタ”のように「イベントを開催してチケット代で収益を上げる」、「関連グッズを販売する」など、パッケージを売る以外のさまざまな手法も構築されつつあります。タレントさんの所属する芸能事務所だって、コンサートの入場料や、グッズ販売の収益が主軸になっていたりしますから。テレビの出演料よりもはるかに大きいと思いますがどうでしょう?(笑)。

椿姫 私が強く言えることではありません(笑)。でも、確かに芸能事務所もそういうモデルですね!

小野 格闘ゲームを筆頭とした競技性の高いゲームは、収益モデルもつぎのステージが存在すると思うんです。さきほど例に挙げた芸能人のコンサートと違って、直接会いに行くことに価値が生まれるわけではありません。たとえば、競技イベントの配信ならばネットワーク、テレビ、パソコンがあれば実現できることです。

椿姫 ゲームタイトルが世の中に広まるほど、イベントやファンどうしの交流も盛り上がりますからね。

小野 そうなんです。F2Pの意義もそこにあります。プレイヤーからゲームそのものに対して直接お金をいただかなくても、ゲームのビジネスが展開できる道は探ればあるのかな? というのが個人的な考えです。

椿姫 でも、いまは任天堂さんを筆頭に各社さんもそういう動きをされていますからね。

小野 かなり“つぎの狙い”のヒントを言っちゃったような気がしますが、今回の発言はあくまで個人的な感想ですよ(笑)。

椿姫 『ストリートファイター X 鉄拳』(以下、『ストクロ』)のときは、“ジェム”の導入など格闘ゲームの初心者に向けたアプローチを積極的に行っていたように感じました。

小野 あれはですね……いま思うと「もう少し違う遊ばせかたがあったのかな」と思っています。あの当時は初心者を救済する方法のひとつだと考えていたのですが、結果的に“ペイ・トゥ・ウィン”(勝つためにお金を支払う)に近い形になっていたかもしれません。それが諸刃の刃であることは、僕らにもわかってきました。痛い目に遭いながらも、初心者と上級者の両方が納得できる理想の着地点について、『ストクロ』で勉強させていただいたと思っています。

椿姫 最近の格闘ゲームは「上級者だけが遊ぶもの」というイメージがついてしまっている気がします。その中で、確かに初心者の人にも始めてもらいたいという気持ちはあるのですが、その具体的な解決法や対策を見つけるのは難しいことですよね。

小野 これは「子どもに野球をどう学ばせるか?」という話に近いのかもしれません。子どもが野球を覚えるのに、必ずしもリトルリーグに入団させる必要はないんですよ。最終的な目標は何なのかによって異なり、すべての子どもがプロを目指すわけではありません。実際には、いろんな形で野球を始めるきっかけが存在していて、それぞれのスタイルで覚えて楽しんでいますよね。『ストクロ』の場合、体験に役立つ便利なツールをデジタル上で提供しましょうという手法が、あえて言葉を選ばずにいうと「うまく行かなかった」。でも、違う形でうまく実現させるための方法も絶対あるはずなんですよ。同様の課題はカードゲームにも存在しますが、すぐに使えるスターターデッキがあったり、何らかの優遇措置を施すなど、初心者をいきなり荒野に放たない方法はいくつか存在しています。対して、格ゲーはどうかというと……。

椿姫 うーん、いまのところは、初心者でもいきなり上級者と同じ環境でスタートするほかないですよね

小野 誰にでも楽しめる方法はきっとあるはずなんですよ。この問題への解決方法と、F2P(フリー・トゥ・プレイ)はかなり似ている部分があるのではないでしょうか。“タダ”だから野球を始めてみようという人はきっといるでしょうしから。有料だとしても「ここまでだったら上級者の人たちも納得してもらえる」という領域はきっとあるでしょう。これは“強さ”に限った話ではなく、モードや機能を提供する“サービス”にも関わり得ることだと思うんです。自分の願う機能がすべて備えられたトレーニングモードがあったら、上級者にとっては便利ですよね。「月額500円かかります」というものでも、上級者は買う人がいるでしょう。でも初心者にとっては使わない機能も多いので、最小限の機能を無料で提供するとか。

椿姫 上級者には「お金を払ってでも欲しい機能」というものは確かにありそう! カユいところに手が届く機能が実現されているのならば、欲しくなりますよね。 

小野 逆に、初心者だからこそほしいサービスだって存在するでしょう。ニンテンドー3DS版の『スーパーストリートファイターIV』(以下『スパIV』)みたいに、画面をワンタッチするだけで必殺技が出せる「必殺技コマンドの入力サポート」なんて機能がその一例だと思うんです。でも、そのような初心者を救済する機能は上級者にとっては不要なもの。波動拳がワンタッチで出せるからといって、必ず勝てるようになるわけではないですからね。

椿姫 そういった簡易入力のシステムだったり、攻撃ボタンの連打でコンボがくり出せる機能が付いたゲームが増えていますが、小野さんとしては、そういった傾向は格闘ゲームの進化の自然な流れと考えているのでしょうか?

小野 入力できない、ということがハードルになってほしくないと思っています。無論、対戦の駆け引きはうまくなってから覚えればいいことなんです。まずはボタンを押して、望む技が望むタイミングで出せる仕組みがあること自体が大切なのではないかな、と。

椿姫 昔からの格闘ゲーマーだと、難しいコマンドの必殺技を取り入れたコンボを決めることに、楽しさやあこがれを感じたりするもの。でも、それがなくなっちゃうかもしれないのは、少し寂しい気もします(笑)。

小野 「古くからゲームを知っている」立場として語るならば、現在主流となっているソーシャルゲームの“便利機能”やレトロゲームの移植版に搭載される“無敵モード”などを見ていると、そこに椿姫さんと同様の悔しさを感じるのは事実なんですよ。昔のゲームは、「何度もミスをして、障害物を乗り越えるジャンプのベストタイミングを自分で見つける」という体験こそに楽しさがありましたから。でも一方で、ゲームを作る立場としては「この障害物によって、さきに進みたいという欲求に満ちていたプレイヤーを振るいにかけてしまっていた」ともいえるんです。ゲームの楽しみかたの多様性をよく考えたほうがいいだろうと思う“ゲームを作る立場”の自分もいます。それは決して、ハードコアゲーマーを切り捨てると言っているわけではありません。そのようなプレイヤーは、従来通りのテクニカルな部分を楽しんでいただければいいわけです。「そんな機能入れやがって!」とお思いでも、使わなければいいわけですよ。格闘ゲームのワンタッチ必殺技だって、使わなくてもいいんですよ、と。そこはハードルを設けないほうがいいかなと思っていますし、それが現在の時流というかプレイヤー層を広げるためには、そうしてあげたほうがいいのかな、という思いがありますね。

椿姫 現在、格闘ゲームはe-sportsのイチ分野としても盛り上がりつつあります。賞金つきの大会が開催されたり、プロゲーマーが多く生まれている流れの中で、同時にハードルを下げる施策も行うというのは、バランスが難しい部分もあるのではないでしょうか?

小野 そこは、モード切り替えを使えば大丈夫。この点はアナログなスポーツと違う、デジタルなゲームの長所です。『スーパーストリートファイターIV』のニンテンドー3DS版だって、ワンタッチで必殺技が出せるモードと、それが使えないプロモードに分けていますから。まず、初心者にとってのハードルとなる部分を除いて操作や対戦の楽しさを提供する。それと同時に、「強くなりたい、大会に出場したい」というプレイヤーには別のモードとして公平に戦える環境を用意する。こういったモデルであれば、先程話したF2Pの効果的な提供の仕方もあると考えています。たとえば、野球の貸しグラウンドのような、課金制の対戦ルームをコアゲーマーに提供するという感じですね。

椿姫 なるほど!

小野 このように、ひとつのコンテンツをより多くの人に向けて、ニーズに合わせて分けて利用することができるのです。初心者どうしのコミュニティーの中でも、上達に向けたモチベーションが生まれてくるでしょうし、強い人やテクニックへの興味も沸くことでしょう。その興味の先には、うまい人の対戦動画を見るという行動もあるはずです。ビジネス的な面で上達をフォローするのならば、動画の有料配信だったり、イベント開催だったりという展開もありうるわけですよ。月額●円で「椿姫さんの最新の対戦動画が見られます」とかね……おっと、言い過ぎたかな?(笑)

椿姫 次世代のゲームでは、そんな未来を追求していくことでプレイヤー、ゲームメーカーどちらも笑顔になれるような気がしますね。プロゲーマーたちは、ある種『ストリートファイター』ブランドを背負っている面もあるじゃないですか。

小野 僕の思いとしては、シーンに貢献してくれているプロゲーマーたちにきちんと還元されるようにしたいんです。ツールを提供する側と使う側だったり、配信する側と視聴者というように、提供者と受け手が揃って始めて成立するものです。そう考えると、いま現在は提供する側が“ボランティア“で動くことで初めて成立している、稀有な状況だと思うんですよ。メーカーだってサポートが難しかったり、法的な問題でムリだったりするところがあるなかで、なんとか成立している。

椿姫 確かにそういういった状況がありますね。

小野 僕個人ができること、プロゲーマーができることってさまざまですが、「では、みんなが最終的に目指すところってどこ?」と考えると、それを生活の一部にしたとしても、十分成し遂げていけることがF2P上で成り立っていけばいいんじゃないかな。弱い人がお金を払うのではなく、これに参加したいからお金を払ってくれる、もしくはこれを見たいからお金を払ってくれる、といった流れが形成されれば、日本でもプロゲーマーの人たちがきちんと生活できるわけです。メーカーとプロゲーマー、メーカーと一般ゲーマー、メーカーとウォッチャーといい関係が構築できれば、格闘ゲームはうまくバランスが取れるんじゃないかな、これは理想論ですが。

椿姫 格ゲーが盛り上がるんだったらそういう方向で全然いいと思いますけどね。

小野 もっとも、自分がここでF2Pの話をしていながら、後に『ストリートファイターV』が12800円のパッケージソフトで出て「お前、言っていることとやってることが違うじゃねえか!」とツッコミを受ける未来もあるかもしれませんけど(笑)。

次回はカプコンのアーケードゲームについての話題をお届けします!