須田寓話 51FABLES

類を見ないセンスで国内外のファンから熱狂的に支持されるゲームクリエーター、須田剛一氏によるプロット・中短編・メモなどを断片的に掲げる連載。のちの作品に繋がるもの、エッセンスを残すもの、まったくの未完の欠片など、須田ワールドを形づくる珠玉の原石の数々。SUDA51のアタマの中を覗き込め。

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須田剛一による新連載第4回! 【須田寓話】killer is dead ~殺し屋は死んだ~ #4(1/2)

2016-01-22 17:00:00

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#4:kills 4th

オレは四日後にぬ─。

 頭(ボーンヘッド)がガンガンする。飲むだけ飲んだ、1本500$は下らねぇ極上のカリフォルニアワインだ。40本は空けたんだろう、意識が戻らねぇときやがった。横ではペドロが痙攣してやがる。土の上でのたうち回る鯉だな、まるで。もう1匹は、ベッドで泡を噴いている。贅沢三昧(バブリー)な夢でも見てんだろう、気持悪(キモ)い笑顔で寝てやがる。

 クリストファー・ミルズは、警戒心という心を持っていないようだ。金の匂いには滅法弱い。巨額(ビックマネーゲーム)の話には、とことん盲目だよ。電話してから8分でこのホテルに現れやがった。正に、現金な奴だ。ペドロの野郎(クソ)を散々脅して脅し倒して恐怖の調教が済んだところで、らない代わりに奴(クソ)に一芝居打たせた。カーティスとカスティリオーニの電撃和解の仕切りを、ミルズが牛耳るって話をでっち上げた。胡散臭い餌だったが、食いつきの早さは定評通りだ。ミルズは美味そうに餌を喰らった。

 昨日の晩は、ワインをつまみに3人で綿密に和解会談の計画を練った。そりゃもう、なかなかの盛り上がりだ。ミルズも、気分上々で大物(カンブ)の椅子を戴いたってな感じだ。シアトル随一の劇場の舞台で、2人だけのフルコースディナー。幹部連中は客席で見守るって寸法(プラン)だ。形を変えた、見世物小屋(リング)だ。幹部は云って見りゃ、セコンド。年末恒例の異種格闘技戦クラスの大舞台(ビッグマッチ)にも匹敵する豪華カードだ、興行師(マフィア)じゃここまでのアイデアは出てこない。興行とは、つまり大玉花火だ。派手な彩りで人の気分をあの世の近くにまで案内する、夢見心地(ファンタジック)な最前列(スペシャルリングサイド)だ。

 そこで問題です。
Q.シアトルの2TOPをればどうなるか? 正しい答えを導いてください。制限時間は、30秒。時間切れで、にます。

 答えは簡単だ。2人をれる人材をミルズがブッキングすると約束して…、そこから先の記憶が無い。全く無い。ゲロヤバイ。奴にブッキングを頼んだのは、この俺(クソ)だ。だが、ワインって名の毒は、記憶を破壊しやがる。ふざけんなっ! 大事な事だ、思い出せ。カーティスとカスティリオーニをれる凄腕は、誰だ? 30秒は結構短いぜ。こんなところでにたくない!

ダン:答えは簡単だ
俺(ダークスター)だ

バーキン:知ってたよ

 悪魔(ダン)は、ソファで毒(ワイン)を喰らってた。

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7月4日 10:18 am
ホテル・ドントムーブ


俺の話を想像して(キイテ)くれ。

 超最高(ファック)な運転(ドライブ)だ。新型のトランザムに乗り、目的地へ向かって海岸線を南下する。南には、常に夢(ミラクル)が待ってる。もう北とはおさらばだ。湿ったこの町で憂鬱と一緒に暮らすにも限界があった。西海岸は憧れだ。俺もあの町で一旗揚げて…。そう助手席には、花束(スケ)。西海岸で仕事が軌道に乗って、大きな話がゴマンと転がりこむと、花束(スケ)はちょっとだけ敏感(ヒステリック)になるのさ。輝く男は、ちょい悪親父(レオン)の必須条件だ。露出狂女(ニキータ)にモテモテで、毎日が腰痛(ヘルニア)との闘いだ。花束(スケ)とは弁護士沙汰の修羅場で、法廷で闘う。こんな刺激的な日々は、楽園(グリーンランド)より格別かもしれない。

 だけどこれはどういうことなんだ? 助手席に座る花束(スケ)は、何故かシックな装いで、しかも馬鹿デカいリボルバーを剥き身でチラつかせてやがる。フェンディの新作か何かか? だとしたら、今シーズンは大胆なデザインコンセプトで展開しているのだろう…。こんな話、想像できるかい?

 正しい解説をしよう。今は俺(クソ)は、運転(ドライブ)ではなくて連行(ドライヴ)されている。横をチラ見すれば、花束(スケ)の生足(モモ)はどこにもなく、悪魔(ダン)の拳銃(リボルバー)がギラギラとに飢えてる。俗に云う、のドライブだ。

バーキン:ダン・スミス 一つ聞かせてくれ

ダン:本当に一つか? 二つだったら どうなる?

バーキン:……え?

ダン:即座にるぞ

 言葉のあやは(アヤ)になる。我ながらに、座布団一枚だ。

ダン:一つ教えてやる

バーキン:本当に一つか? 二つだったら

 次の瞬間、思い出したくもない…。悪魔(ダン)は俺の右手を狙って撃ちやがった。綺麗に、小指が吹き飛んだ。左打者にとって、小指の握り(グリップ)は打球の方向をミリ単位で打ち分ける(コントロール)する大事な精密機械(マシン)だった。今後の打率(ギャラ)は、厳しいものになっちまうんだろうな。運転さえしてなけりゃ、この間合いなら確実に悪魔(ダン)の頭を特大ホームランできる。悪魔をれれば、小指の一つなど痛くもない代償だ。まだ俺(クソ)に運(メガミ)は近づいていない。機は熟してないようだ。

ダン:る奴(クソ)を間違えるな
貴様(クソ)の狙いは 俺様か? は?

バーキン:何を云ってる
狙いは カーティス1人だ
変わりゃしねぇよ

ダン:貴様程度の殺意なんぞ 鼻糞だ
その犯罪力(オーラジカラ)で 格上(キラー7)をる気だったのか? は!?

バーキン:何を…

ダン:よく聞け
一つ教えてやるよ
言葉は実行するための手段だ
発した言葉は 記録だ
貴様(クソ)っていうテープレコーダーに記録した言葉は すべてが俺様の犯行声明だ
声明とは人を動かす
俺様の発言が 世の中を動かすとしたら その一語一句は魂(ロック)だ
実行内容を間違えることは 許されねぇ
だったらよ 貴様(クソ)が目糞(クソ)程度のし屋でも 己の犯行声明位はきっちり刻めよ

バーキン:ああ… この小指に刻むよ

ダン:口は災い(トラブル)の元だ
全身全霊 気をつけろ
また いつでもってやるぜ

 悪魔(ダン)が災い(トラブル)の元凶だと理解した。いや、違う。悪魔(ダン)の存在自体が災い(トラブル)だった。俺は災い(トラブル)と巡り合って、災い(トラブル)とドライブしている。この先に待っているのは、テリブルなのか?

 トランザムの真上から太陽が直視する。沸騰しそうな脳天は、俺(クソ)の心境そのものだ。恐怖で俺の心臓は、沸点に到達寸前だ。沸点の意味すら微妙だが、結局のところ、俺は、もう、限界だ。
 悪魔(ダン)に会うべきじゃなかった。

カスティリオーニの屋敷に到着した。

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7月4日 12:00 pm
カスティリオーニ邸

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