特別企画:新世代ゲーム配信技術“G-Cluster”の魅力に迫る!
PCゲームというと、プログラムをダウンロードしたり、CDやDVD-ROMから自分のPCにインストールしてプレイする……という遊び方が一般的だ。しかし、現在ファミ通.com プレイチャンネルで好評配信中の『機神咆吼デモンベイン』の体験版は“G-Cluster”(ジー・クラスター)という仕組みを使うことで、ゲームプログラムをインストールをしなくてもプレイできるという、新しい技術を採用している。
この新しい方法は一体どういった仕組みで実現されているのか。G-Cluster技術を使ったビジネスを行っているクラビット株式会社のオンラインゲーム事業部 事業部長の小野田哲也氏にお話を伺った。 |
──本日はよろしくお願い致します。まず、クラビット株式会社について教えて頂けますでしょうか。
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▲ 小野田 哲也氏 |
はい、クラビットはソフトバンク・ブロードメディア・グループの事業会社のひとつで、もともとはSKY PerfecTV!を視聴いただく会員組織の運営からスタートし、現在はYahoo!BBの販売代理店として大きく伸びている会社です。ほかにも、大容量コンテンツの配信を請け負うCDNサービスをB to Bで提供するなど、幅広く事業を展開しています。
──ゲーム配信の仕組みであるG-Clusterとはどのようにして出会ったのでしょうか?
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▲ テレビの上に置いてあるのがセット・トップ・ボックス。 |
実は、我々クラビットの100%子会社であるビー・ビー・ケーブル株式会社が“BBTV”というサービスを行っています。BBTVは、Yahoo!BBユーザー向けにセット・トップ・ボックス(以下、STB)をレンタルして、放送やビデオオンデマンド(以下、VOD)などのサービスを行っているんです。そのVODサービスでは、リモコンで早送りとか巻き戻し操作を行うと、その操作の情報が映像配信用のサーバーに飛んでいって、早送りされたり巻き戻されたりした絵が戻ってくるような仕掛けになっているんです。
その応用で、せっかくTVとブロードバンドネットワークに繋がっているSTBがあるのだから、ゲームの配信もやってみたかったのです。しかし、一般的な家庭用のゲーム機とは違い、STBそのものはゲーム機ではありません。何かが代わりにゲームの映像を演算して配信する技術はないものか、と探していたところサーバー側でゲームを演算するG-Clusterと出会い、ご縁があって出資することになりました。G-Clusterはフィンランドにある会社名でもあり、技術の名前でもあります。
──なるほど。技術的なお話になりますが、サーバー側でゲームが演算されるという部分について教えてください。
パソコンであったりSTB側で操作された情報……キー入力やゲームパッドの入力情報がサーバー側に送られていって、サーバー側にインストールされたゲームが遠隔操作されるわけです。実際、サーバー側にはディスプレイが繋がっていて、ゲーム画面が動いているのですが、離れたところで絵を出ていてもしょうがないので、その映像をすぐさまエンコードして、ブロードバンド向けのビデオストリームとしてクライアント側に戻ってくる、と。VODではリモコン操作で早送りとか巻き戻しができますが、それと非常に近いんです。
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──現在、PCでサービスが行われていますが、PCですとダウンロードして遊ぶやり方がまだまだ一般的ですよね。
今はまだテスト中なのでPC向けのサービスしか行っていませんが、ダウンロードしないということはPCやSTBなど“端末に依存しない”わけで、これは言ってみればロケーションフリーということなんです。マンガ喫茶やインターネットカフェにあるPCで続きを遊んだりするようなこともできる。まさか自分の買ったゲームソフトをマンガ喫茶備え付けのPCにインストールするわけにもいきませんし。ブロードバンドに繋がってさえいればどこからでも自分のID、パスワードでログインして遊べますから。
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▲ iPAQで『QUAKE II』が動作。 |
これは、モバイルPCやPDAでも同様で、ブロードバンド回線に接続できればいつでもどこでも遊べるわけです。といった辺りがひとつ大きいですよね。また、ダウンロードしないということは、プログラムがクライアント側で動いていないわけですから、クライアント側に強力なスペックが無くてもゲームが遊べてしまいます。今の……特にオンラインゲームとかは、3DのレンダリングなどでものすごくハイスペックなCPUやビデオボードが無いとうまく動かないことがあったりするのですが、サーバ側さえ高性能になってさえいれば高品質な3Dグラフィックを駆使したゲームをハード問わずに遊ぶことができるわけです。
──VODのゲーム版、ゲームオンデマンド(以下、GOD)といったところですね。
そうですね。しかし、VODとは異なるG-Clusterならではの要素技術としてすごいのは“エンコード速度がものすごく速い”と言うことがあります。クライアント側の操作をサーバ側で受け取り、映像をクライアント側へストリーム配信するといった技術の根幹・アーキテクチャー的にはVODと近いんですけど、VODの場合は映像はもともとエンコードされたファイルをサーバーに置いておけますよね。しかし、GODの場合は、ひとりひとりが違った操作をして、見えている絵も違う。あらかじめエンコードされた映像が無いのです。ユーザーが操作をして、実際に描画されてからすぐさまエンコードしているんです。
このすぐさまエンコードをするという部分に時間がかかると遅延(タイムラグ)が出てしまい、プレイに影響がありますよね。描画された映像をいかに早くエンコードするか……G-Clusterの場合はそこが非常によくできているということになります。
──なるほど。圧縮レートなどはどのぐらいでエンコードされているのでしょうか?
解像度、フレームレート、圧縮率などはゲームの内容や接続されているクライアント毎に調整ができます。今の日本のPCネットワーク環境は9割以上の方がADSL、ブロードバンドの場合、1Mbpsぐらいを末端のスピードとして取ることができるのですが、G-Clusterの場合は1.5Mbpsぐらいを最大値として考えています。
──実際プレイしてみるとタイムラグは無いですよね。
タイムラグが無いわけではなく、感じないというのが正しい言い方になりますね。物理的に“(データが)行って帰って……”がありますから、全く無いと言ったらそれはウソになってしまいます。しかし、「プレイヤーが知覚できる遅延か?」というと、ほとんどわからない。十分遊べる、操作に耐えられるぐらいの遅延で収まっています。
昔だとなかなかそこまで至らなかったと思うのですけど、今はネットワークが速くなって……パイプが太くなるのと同時に遅延も短くなってるんですね。光の伝搬遅延は仕方がないんですけど、ルーターとか装置を経由する時の遅延がものすごく小さくなってきているので、こういうことが出来るようになってきました。
このG-Clusterの技術そのものの開発は、3年ぐらい前からフィンランドでスタートしているんですけど、当時はまださすがに現実的では無いんですよね。ブロードバンドは普及していませんでしたし、値段も今より高かったですし。しかし、今は定額になって、安くなって、回線も太くなったので現実味を帯びて。ようやく花咲く、というタイミングに思います。
──ところで、G-Clusterの仕組みですと、サーバ側にもの凄く大きな負荷がかかりそうですが……
クラスタリングすることで、負荷を分散させています。G-Clusterの場合、データセンターにゲームを実行するサーバが複数設置されていて、お客様からプレイの要求があったときに、どこのサーバで実行すれば良いかを常に見ているんです。サーバの負荷や障害などを自動で確認していて、もし、遊んでいるサーバが調子悪ければ、隣のサーバが実行するとか、そんなことができるんです。また、実はこのクラスタリングという処理自体は一カ所のデータセンターの中だけで完結しているわけではなく、複数のデータセンター、地域にまたがって形でも問題ないんです。
従来の負荷分散というのは“配信部分の負荷分散”はしていたと思うんですけど、G-Clusterはプロセス(処理)単位の負荷分散を行っています。今後、全世界にサーバが広まっていくと思うんですけど、北米でサービスが行われたとすると、サービスが混む時間帯って大体決まって来るじゃないですか。しかし、東西では時差がありますので、例えばシカゴで負荷が高まっている時は、1時間速い東海岸のピークが過ぎたサーバとか、これからピークがやってくる西海岸のサーバが助けるといったことで効率的に動かすことが出来る感じです。
ゲームや処理の分散というのは……グリッドコンピューティングなど流行りですけど、それの先駆けみたいなことをやっているんです。たまたま東京でプレイしているんですけど、実は韓国のサーバが助けてくれているかもしれない。G-Clusterは、今このやり方ができる、世界で唯一無二の技術なんです。ここまできちんと動いてサービスに至ってるものって他にないんですよね。
──効率よくサーバリソースを活かせるわけですね。すごく感心してしまいました。これからますます楽しみなのですが、ゲームファンとしては、今後どんなゲームが遊べるのか、その辺りをお聞かせいただけますか?
今考えているのはFPSであったりレース、アクション、RPG、アドベンチャー、シミュレーションなども。カジュアルなパズルなんかもできます。ゴルフとかスポーツも大丈夫ですね。
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▲ QUAKE II |
▲ G-Cluster GOLF |
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▲ SPACE TRIPPER |
▲ Ever 17 |
──それって、家庭用ゲームと変わらないですね!
そうですね。あとはマルチプレイヤーゲームもサポートしていきます。複数人で……FPSなどでお互い戦って遊ぶとか、PCとSTB、PDAとPCで対戦もできます。MMOに関しては、今はまだ実装する予定はないのですが、技術的には不可能ではないので、やろうと思えばできますよ。
──海外の作品も見られますね。海外ではもうスタートしているんですか?
実は、サービスを行っているのはまだ日本だけで、ファミ通.comは世界で2番目です。国外ではまだスタートしていないです。
──日本が初なんですね! なぜ日本からスタートしたんですか?
G-Clusterの仕組みを享受出来る日本のネットワークがあるからこそなんですね。特定の速いネットワークがあるところでないとこれは動かないので。アメリカ、ヨーロッパも追いついてくると思いますけど。そこがまず日本で最初にスタートできた、一番の理由だと思いますね。フィンランドの技術が日本のネットワーク環境にフィットしてようやく花開いたと言う、面白い国際協力の例ですね。
──少し話が前後しますが、サーバにゲームをインストールするというのは、普通にソフトをインストールするのと変わらないのでしょうか?
市販ソフトと同じゲームがそのままインストールされているわけではなく、若干の修正があるんです。修正は主に入出力の部分で、プログラムで言うとゲームパッドのどのボタンが……例えば“Aボタンが剣を振る”とか定義のテーブルがあると思うんですけど、クライアント側のマウスの右ボタンとかにAボタンを関連づけてやるんです。ネットワークからマウスの右ボタンの入力信号が送られてきたら、実はAボタン、剣を振るのと同じ意味なんだよ、ということをゲームプログラムに教えてやる必要があるんですね。
あとは、セーブとかロードとかプレイの経過を保存できるゲームの場合、通常は自分のハードディスクのナントカというディレクトリに保存されたりしてますよね。しかし、G-Clusterの場合はユーザーIDごとにセーブ領域をサーバ側に持っていたりするので、ディレクトリのパス名などを変更するとか、そういう辺りが必要になりますね。ゲームの内容はまったくそのままです。
──ゲームコントローラの話がでましたが、例えばPCでは反力(フォースフィードバック)の発生するハンドルコントローラなどもありますよね。そういったものも使えてしまうのでしょうか?
基本的には対応できるんですけど、通常のゲームパッドですとボタンの数がまちまちだったりしますので、現時点では特殊なコントローラに対応しているゲームはありません。しかし、特殊なものをサポートすることは技術的に難しいわけではありません。
──ということは、都度対応することで、世の中にあるあらゆるコントローラに対応できると。インストールも不要で、あらゆるゲームを遊べる可能性があるんですね!
そうですね。クライアントに依存しないとか、インストール不要というのはユーザーにとってのメリットなんですけど、ゲームメーカーからすると、プログラムをユーザーに渡さないことになるので……不正コピーの防止などセキュリティ上の問題が大きいかも知れません。また、サーバ側にプログラムがあるので、在庫切れの心配も無く、ずっと店舗に並んでいるのと同じ状況を実現できるのです。ゲーム専門図書館で好きなゲームを選んですぐにスタートすることができるんです。
──レンタルビデオみたいに「貸し出し中」ということも無いですしね。
そうですね。わざわざ借りに行く手間もかかりませんし。また、有料プレイなどになった時は、音楽でしたら好きなアーティストとかで選べますよね。しかし、ゲームはシリーズ作品などでしたらおおよそ検討が付くと思うのですが、新しい作品だと遊んでみるまで内容がわからないですよね。お店でどれもが試遊できるわけでは無いですし、せいぜいパッケージのジャケットを見てなんとなく想像するぐらいですよね。G-Clusterのやり方ですと、一定時間までは無料で遊べるなど体験版なんかに向いてるなと思うんですね。従来、何百メガバイト、ギガバイトとか体験版のプログラムをダウンロードして、インストールして……と手間もかかりますし、敷居が高いと思うんです。すぐ体験して、面白ければパッケージを買うとか有料プレイ権を購入するとかそういったやり方に向いていると思います。
ハリウッド映画は、ファーストラン……最初は劇場で公開して、レンタルDVD、セルDVD、ペイ・パー・ビューやプレミアムチャンネル、そして最後に地上波で、といった具合にリリースウィンドウというのが存在しているんです。しかし、ゲームの場合はいきなりパッケージが発売されちゃうんですよね。ゲームは例え集客できるコンテンツであっても、映画と違い映像がひとりひとり異なるので、劇場という考え方が無かっただけだと思うんですね。G-Clusterだと、ひとりひとり違った映像を公開することができるじゃないですか。
例えば、はじめの1カ月はG-Clusterで配信して、映画で言うところのロードショウを行ってから、パッケージが発売されるといった流れがあってもいいと思うんですよね。そのあとパッケージが販売される形がある、といったように、ゲームのリリースのされ方も変わってくる可能性もありますよね。
──なるほど。ダウンロード型のゲームとはまた違った展開がありそうですね。では、最後に、今後、G-Clusterの展開はどのように考えていますか?
そうですね……いまは、まず日本でサービスを開始したところですが、この技術には国境がないですから、ほかの国でも展開して行きたいですね。
また、今は始まっていないんですけど、この技術は端末フリーですので、エンコーディングの技術が進歩して、モバイルで使われているようなmpeg4なども採用して、ケータイ電話でゲームが遊べるようにしたいですね。3G、次の3.5Gですとか4Gとか……ネットワークがどんどん早くなってきているので、そうなってくると夢物語じゃないと思うんですよ。G-Clusterの開発が始まった3、4年前はまだ夢物語で、「例えPCであってもそんな早いネットワークはないよね、現実的ではないよね」と思っていたのが今現実となって普通に動いちゃいますから。
これがまた2、3年経つとケータイでも当たり前になる可能性があって。そうなると、どんなハイスペックなビデオボードを積んでいないと遊べないようなゲームもケータイでできる、そんな日も近いかもしれませんね。
──期待しております。本日はどうもありがとうございました。
ブロードバンド向けのサービスと言うと、映像や音楽配信が先行して広まりつつある。G-Clusterの登場によってゲーム配信という新たな価値を持つサービスが生まれ、ブロードバンドの持つ可能性が大きく広がったように思える。技術的には、PC上でゲームが動作すること自体はすでにローカルにインストールされたゲームが動作していることもあり、「すごい力業を駆使している」といった印象であったが、無線LAN接続されたPDAでも同じ『QUAKE II』が動作していることを目の当たりにすると、これはただただ驚きである。
サービスという観点では、現在はまだタイトルが少ないであるとか、ダイナミックに画像が動く時にmpeg映像特有の“ブロックノイズ”が若干見られるといった点もあるが、これは今後の圧縮技術の進化や、インフラのさらなる整備によって解決できることだろう。操作遅延も含め、どれも許容範囲とは思うが、価値観はそれぞれなので『機神咆吼デモンベイン』の体験版を一度見て確認して欲しい。
現在はまだPC上のみのサービスではあるが、メディアレス、インストール容量やメモリーカード容量などを気にしなくて良いというのは遊ぶ側にとっては大きなメリットに思える。さらに、クライアントに依存せず、ロケーションフリーというG-Clusterならば、移動時間はケータイで、家ではSTB接続したTVやPCで……といった遊び方が出来る日も訪れるだろう。インタビューでも語られたが、G-Clusterという技術はゲームコンテンツの制作・販売側も目の離せない仕組みとなっていくことも考えられるだろう。今後の展開が楽しみなサービスだ。 |
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