2021年12月7日にリリースされた『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)の最新拡張パッケージ『暁月のフィナーレ』。本作では、長きに渡って描かれてきた“ハイデリン・ゾディアーク編”の物語が完結。10年近い年月をかけて紡がれた壮大な冒険の集大成となるゲーム体験が世界中のプレイヤーを感動させ、好評を博した。

 そんな大きな区切りを迎えたこのタイミングで、吉田直樹プロデューサー兼ディレクターと、『暁月のフィナーレ』および“ハイデリン・ゾディアーク編”の世界設定・シナリオを手掛けたリードストーリーデザイナー織田万里氏&石川夏子氏にインタビュー。ひとつの“フィナーレ”となる物語が作られた経緯をはじめ、ヘルメスやメーティオンといったキャラクターたちの誕生秘話、さらには各エピソードの制作秘話など、さまざまな話をうかがった。すでに本記事の一部は3月17日発売の週刊ファミ通にて掲載済みだが、ここではその全文を余すことなくお届けしよう。

 なお、本インタビューの内容は、『暁月のフィナーレ』の物語に関するネタバレを要所に含んでいる。まだプレイしていない人や、エンディングを見届けていない人は、必ず『暁月のフィナーレ』クリアー後に読み進めてほしい。

※インタビューは2022年2月8日に実施したものです。また、インタビュー取材は撮影時を除きマスク着用のうえ実施しています。

吉田 直樹(よしだ なおき)

『FFXIV』プロデューサー兼ディレクター。文中は吉田。

織田 万里(おだ ばんり)

『FFXIV』リードストーリーデザイナー。文中は織田。

石川 夏子(いしかわ なつこ)

『FFXIV』リードストーリーデザイナー。文中は石川。

2019年末にはストーリーの構成は決まっていた!

――『暁月のフィナーレ』が昨年末にリリースされて、全世界で話題になっていると思いますが、まずはその反響を受けてのいまの感想をお聞かせください。

吉田自分としてはストーリーの反響の前に、サーバーの大混雑のショックが大きいですね……。旧『FFXIV』から『新生エオルゼア』で立て直しを図り、そこから続く物語が大きな区切りを迎えるということで、開発チームの全員が極限まで作業して、手応えのあるものを作れたかなと思っていますが、その手前で大混雑により遊んでもらえないというのは、かなり堪えました……。サーバーを増やそうにも、世界的な半導体不足により、時間がかかってどうにもならなかったので、精神的にキツかったですね。

――『暁月のフィナーレ』のサービス開始からしばらくは、サーバーが大混雑状態でしたよね。逆に言えば、それだけ大きな盛り上がりを見せたわけではあるのですが。ほかにも気になる点はあるのでしょうか。

吉田あとは、シナリオやバトル、ジョブの調整など、各要素を分けたご意見をいただくことが印象的でした。これは長い運営期間の中で、ファンフェスティバルなどにおいて“開発パネル”という形で、チーム別にスタッフに出演してもらっていることも大きな要因かと思いますが、あくまでも『FFXIV』の根幹を作っているのは、スタッフ全員です。『暁月のフィナーレ』では、ありとあらゆるセクションの人間が垣根を越えて、ひとつの物語を完成させるために死力を尽くしました。

 ですから物語について、「シナリオチーム」というひとつの枠組みだけで捉えられてしまうのは、他のセクションが可哀そうだなと感じました。このあたりは今後のファンフェスやイベント等、開発チームの見せ方にも工夫が必要かな、と思っています。ですから今回は、その点と混雑のふたつが、若干心残りですね。時間を巻き戻せるなら2年ぐらい戻って、サーバーだけ買っておきたかったなと(笑)。

――サーバーに関しては、すぐにどうにかできる問題ではないですが、現在は落ち着いている印象です。

吉田その後はお正月ぐらいに、日本の方も含めて、プレイヤーのライブストリーム(配信)を追わせてもらっていたのですが、「(こちらの想いが)しっかりと届いているな」と感じることができました。ですので、僕の場合は、手応えは遅れてきた感じでしたね。とにかくいまは、ほっとしているという気持ちがいちばんです。

織田僕も、ほっとしたというのが最初の感想です。開発の終盤は、最後の詰め込みでかなりドタバタしていまして。発売日の延期があったにせよ、リリースできたことに安心感と達成感がありました。

 シナリオへの感想に関しては、サービスイン直後はプレイヤーの皆さんがネタバレをしないように気を配ってくださっていましたが、ようやくいま、皆さんの意見を追えるようになってきたかな、というところですね。メインシナリオだけでなく、サブクエストの監修もしていたので、それらのどういったところがよくて、どういったところが悪かったのか咀嚼しているところです。あと個人的には、メタスコア(※)の値がよかったのが大きいですね。

※海外のレビュー収集サイト「Metacritic」による、さまざまなWeb媒体によるゲームや映画などの評価を集計し、数値化したもの。

吉田メタスコアは、サーバーが混雑していて、その部分がマイナスになっていたのが心残りですね……。内容は素晴らしいと評価してくださっていて、大混雑がなければもっとスコアが上がっていたかもなあ、と思ってしまいます。それが記録として残ってしまうのは悔しいですね。

織田そういえば『新生エオルゼア』開発初期のチームに加わった直後に、プランナー全員を集めた会議があって、そのときに吉田さんが「“メタスコア”を知っている人はいる?」と手を挙げさせたことがありました。自分は海外のゲームが好きだったので、メタスコアを参考にして遊ぶゲームを選ぶくらいには気にしていたんですけれど、当時はいまほどメタスコアが知られていなくて、ほとんど手が挙がらなかったのです。これからは、ユーザースコアの高いゲーム作りを目指そうと、そういった決意があって始まったプロジェクトなので、それから約10年後の『暁月のフィナーレ』のメタスコアがよかったのは、グッとくるものがありました。

吉田とくにユーザースコアの高さが群を抜いていたのがうれしかったですね。あれはここまで長く運営してきたからこそ、という部分も大きいかと思います。

――ほかのタイトルと比べても、ユーザースコアが頭ひとつ抜けて高かったですよね。石川さんから見た、発売後の反響はいかがでしたか?

石川リリースした後のネタバレの扱いの難しさはすごく感じましたね。ネタバレをしないよう気遣っていただいたことにすごく感謝しつつ、それと矛盾してしまうのですが、「ゲームを遊んだ後の考察や議論などは、ホットなときにやれたほうが楽しかっただろうなぁ」という思いもあります。リリース直後にも情熱的な感想や考察、議論を交わす動きが局所的にはあったのですが、ネタバレに気を使ってくださったからこそ広くは波及しなくて……。開発チームとして皆さんのアツい感想を聞きたいという思いもありますし、すごく難しいところだったなと感じました。

吉田映画でもそうですよね。「できればネタバレを控えて」と言ってしまうと、ポジティブな声も全然聞こえなくなってきて、一部の批判的な意見を見た人が「その程度なのか」と思ってしまうこともあり……。皆さんのおかげでサービスの規模が拡大し、注目度も増しているからこそ、このあたりの考え方も、また変えていく必要がありそうで、悩ましいところですね。

――ネタバレには相当気を配られていましたよね。実際にプレイしてみて、あらためて「事前の情報出しは、かなり気を使われていたのだな」ということを感じました。

石川公開した情報では、なにも大事なことは言っていなかったという(笑)。

――“アニマ”も討滅戦のボスかなと思いきや、ID(インスタンスダンジョン)のボスだったりと、プレイしていて「ここだったのか!」と驚くことが多かったです。

石川PVでは、絶妙にプレイヤーひとりしか映らないようにしていましたね。8人用の討滅戦なのか、4人用IDのボスなのかを見せない!

『FF14』吉田直樹氏×織田万里氏×石川夏子氏シナリオ鼎談インタビュー! “暁月のフィナーレ”クリアー者必見! シナリオや世界観、キャラ設定、開発へのアツい想いを訊く

吉田最初に画ができあがったときは、プレイヤー4人が見えてしまっていたのです。ただ、4人で挑むボスとわかれば、「IDのボスなのか、がっかり……」という、ストーリーと切り離した先入観を持たれてしまう。実際開発コストも蛮神戦並みにかけているんです。でも他にPVを盛り上げるネタバレ回避要素も少ないし、冒険者ひとりだけが見えるようにして……と(笑)。

――そういった気づかいはひしひしと感じました。そのおかげでより冒険を楽しめたように思います。なお、事前の情報としては、『暁月のフィナーレ』(パッチ6.0)で“ハイデリン・ゾディアーク編”が完結するということも告知されていましたが、そもそもこれまでの物語を完結させようと決めて動き出したのは、いつごろなのでしょうか?

石川漆黒のヴィランズ』が発売されたのが2019年、その年の末には、イメージ・スタジオ部にトレーラーのコンテを出さないといけませんでした。そこで同年の秋と冬の間ぐらいに、シナリオの概要を決めるための合宿を行いました。じつはここで問題が……。私たちの中で“慣れ”が起きてしまっていて、「シナリオで語らないといけない要素は残りコレとコレだから、それらを消化すればいいよね」という感じで、シナリオ合宿自体はすごくさらっと終わったんです。そうして決まった要素を詳細に落とし込むのは私が担当したのですが、改めて内容を組み立ててみると「いままでのような拡張パッケージのひとつだったらこれでいいかもしれないが、“フィナーレ”と銘打つものとして本当にこれでいいの?」と感じたんです。そこで、出し惜しみしないで出す部分や盛り上げたい要素、いままでの物語に対する回収など、概要から練り直すことにしました。その決断をしたのが締め切り2日前で、そこから集中して現在の物語の原型を制作した記憶があります。

――その時点のプロットで、メーティオンの話なども決まっていたのですか?

石川まだメーティオンという名前はありませんでしたが、原型となる形は決まっていました。最終的にどういう形で落とし込んでいくかは、ここにいるおふたりに意見をいただいて、さらに固めていきました。

吉田合宿のときに、シナリオの核となるパーツを並べたものを書いてもらったのですが、その後に石川さんから「納得がいかないから、全部書き直してきたやつを持ってきました」と言われました。結果、合宿で決まったものと、石川さんが持ってきたものを比べて、「やはり新たに練り直したほうがよさそうだね」という流れになりましたね。

――「いったんこれまでの話のフィナーレを描こう」ということは、2019年末に行われた合宿の時点で、吉田さんが決められていたのですか?

吉田紅蓮のリベレーター』を作っているころは、まだどう続けていくかは考えていなくて、連作のドラマ作りのように、着地点は厳密には見出さずに、ひとつひとつの話をおもしろくするよう開発していきました。ただ、「このまま物語を引っ張り続けるのはどうなのだろう」という思いもありまして。そこで、『漆黒のヴィランズ』を作るときに、「これまでの要素の8割ぐらいをぶちまけていいぞ」と言ったんです。その時点で「引っ張るとしても、漆黒のあと拡張パッケージ1~2本ぶんぐらいかな」と考えていました。

 そして、『漆黒のヴィランズ』がリリースされた直後の皆さんの反応を見て、「これは(結末までに)もう1本拡張パッケージを挟むとダレるな」とあらためて感じました。自分もこれまでドラマなどで、“クライマックスが近づいてきたのに1回クッションを置いた結果、そこからエンジンをかけ直そうとしても上がり切らない作品”をいくつも見てきました。だからこそ『FFXIV』は引っ張るべきではないなと。

――7.0まで物語が続く想定だと、どのような構成をイメージされていたのですか?

石川ガレマール帝国まわりで1本の拡張パッケージを作るという想定でしたね。それこそアニマをボスにして、その次の拡張パッケージでハイデリンやゾディアークと決着をつけるというイメージでした。

織田ですので、物語の流れ自体はそこから大きくは変わっていませんね。物語は、ある程度“期待通りに進む”ことが、安心感や予想できる楽しさにつながると思っています。一方では“予想外の展開”という楽しみかたもあって、そこのバランスは気を付けなくてはいけません。

 その“期待通り”の面については、ハイデリン、ゾディアークという名前が出てきた以上、誰もが「戦うんだろうな」とイメージする部分があったと思います。それをストレートに表現していくのか、もしくはどちらかが片方を乗っ取って合体したようなものが現れるという予想外の展開をやるのかと、いろいろと意見が出ました。最終的にはストレートな方向にして、ラスボスは別にいるという形にしました。そのラスボスについても、「終盤になると真の黒幕が急に出てくる」というような、“ポッと出感”が出ないように注意しようと、話し合ったことを覚えています。

吉田合宿をやっているときに、ゾディアークとハイデリンをラスボスにしようとは、誰も思っていなかったですね。この2体はラスボスではないと。

――ラスボス戦に至る終盤の展開は、プレイしていてすごく衝撃を受けました。宇宙の果てに行くという展開は、いつごろから決まったのでしょうか?

石川物語を考えていくにあたって、もっとも早く固まったキーワードが、ラグナロクが発進するときにアルフィノが言っていた「行こう、月より遠い、天の彼方へ……!」だったんです。そこで起きる細かいエピソードが決まっていったのは2020年に入ってからですが、終盤の展開は2019年末に概要を考えたときには想定していました。

『FF14』吉田直樹氏×織田万里氏×石川夏子氏シナリオ鼎談インタビュー! “暁月のフィナーレ”クリアー者必見! シナリオや世界観、キャラ設定、開発へのアツい想いを訊く

――世界が一気に広がるような形になったと思いますが、どのように世界設定を構築していこうと考えたのでしょう?

織田基本的に、“宇宙の果て”というのは、石川さんのアイデアが中心になっていて、あとはいかに“急に出てきた世界”とならないようするか、ということに気を配りました。過去のオメガやドラゴン族などのエピソードでは、すでに宇宙に関する要素があったので、これらの要素は確実に活かしていくべきだ、ということは話しましたね。

石川織田さんはすごくSFが得意なので、「ウルティマ・トゥーレみたいな場所を作っておけば、織田さんがいい小ネタを仕込んでくれるかな?」という思いもあったんです。織田さんがいるから、「安心して宇宙の果てでもいける!」という気持ちでした(笑)。

――今回の『暁月のフィナーレ』は、ダークファンタジー感やSF感など、多彩な要素が盛り込まれていて、世界の鮮やかさが増した感じがしました。

織田ダークファンタジー要素に限れば『蒼天のイシュガルド』や『漆黒のヴィランズ』のほうが強く出ているかと思いますが、『暁月のフィナーレ』ではラザハンの色彩が鮮やかだった結果、終末のときの印象との差が出て、よかったのかなと思います。

吉田色彩といえば、今回もフィールドの環境設定は、すべてのエリアで苦労しましたね……。

織田ウルティマ・トゥーレも、何度も明かりを調整していましたよね。

吉田ウルティマ・トゥーレは、とくにたいへんでした。本当であればあと2枚ほどカラーフィルターがあればいかようにもできたのですが、いかんせん現状の描画システムでは手札が少なくて……。通常ではやらないような、中距離が暗く沈む光源の配置を使って表現しつつ、最後にフィールド担当者が地脈から噴き出す謎の光を足してくれて、なんとかいまの形に落ち着きました。

 ガレマルドも、ずっと曇っている寒空が広がる、寒い、暗い、どこか悲しそうという雰囲気を出すために、青空をできる限り使わないように作っています。だからこそ、ラザハンの抜けた感じがいいのだろうなと。もちろん、ラザハンもかなり苦労しましたが……(苦笑)。

――色鮮やかなラザハンに、終末の災厄が降りかかるという落差がすごく印象に残りました。

織田IDの“終末樹海 ヴァナスパティ”の空を覆いつくすような獣の群れという表現は、イメージ・スタジオ部のトレーラーを再現しているのですが、あれはよかったですね。

開発スタッフの“脳内設定”で膨らむ『FFXIV』の世界

――今回の『暁月のフィナーレ』ではとくに、いろいろなチームが一体となって作り上げているということをすごく強く感じられました。これまでの作りかたと変えられた部分はあったのでしょうか?

吉田とくに作りかたを変えたというわけではなくて、長くいっしょにやってきたからこそのチームワークが発揮された結果だと思います。思い返せば、開発中も、誰かが言わなくてもわかる“阿吽の呼吸”のようなものがありましたね。

 バトルコンテンツの中川(リードバトルコンテンツデザイナーの中川誠貴氏)などは、「シナリオの中身を汲むだけではなく、それ以上の解釈、画の表現を作らないと意味がないんだ」などと言う、熱いタイプの人間でして。開発スタッフには、こういった熱い人間が多くて、それを受け止める側のグラフィックス各セクションのリーダーも、想いを認識できる人が多いです。『FFXIV』の開発チームはちょっと独特かもしれませんね。デュナミスが渦巻いている感じがします(笑)。

石川“作品のことが好きなチーム”ですよね。『漆黒のヴィランズ』でいい評判をいただいたときに、チームの作品に対するモチベーションがさらに上がったと感じました。

 『暁月のフィナーレ』の開発中、各セクションからしてみたら「お前は何を言っているんだ」と跳ね返したくなるような発注もしていたと思うんです。でも実際は「作業的にきびしいけれど、そのこだわりは飲みましょう」と受け入れていただいた部分があった。仕様じゃ割り切れない部分を助けてもらったりして。そういった信頼関係が強く感じられるチームだと思っています。

――各スタッフの皆さんの「やってやろう」という盛り上がりが積み重なって、『暁月のフィナーレ』ができあがった形ですね。

織田たとえばIDや討滅戦などのコンテンツを作ってもらうときに、シナリオチームからは「マストで表現したいのはここ」とか、「できたらこういう表現をやってほしい」というような概要書をお渡しします。これに対して、コンテンツの設計担当者のプレゼンを受けるときに、“脳内設定”という項目が増えていて(笑)。

 その項目には、設定やシナリオを見たスタッフが自分なりに解釈をした“この攻撃をしてくる理由”が書いてあるのです。もちろん、それが設定的にズレていないかをこちらでチェックするのですが、こちらの注文以上に奥深く表現されていたりして、結果としてアウトプットがよりよいものになる。こうした開発手法は、文化としてチームに根付いてきたのかなと思います。

『FF14』吉田直樹氏×織田万里氏×石川夏子氏シナリオ鼎談インタビュー! “暁月のフィナーレ”クリアー者必見! シナリオや世界観、キャラ設定、開発へのアツい想いを訊く

石川“脳内設定を仕事として出すことを恥ずかしがらない!”というのは重要ですね(笑)。

――自分の考えた、ある意味“中二病”的なものをオープンにすることを恐れないと。

吉田『FFXIV』チームはみんなそういった部分があります。バトルコンテンツのチェックをしているときも、「僕の脳内ではこうだから、この攻撃をしてくるんです」と説明されることが多いです。そしてそれを否定するのではなく、さらにお互い膨らませていく。ある意味、プレイヤーの皆さん以上に我々のほうが“妄想力”が高いかもしれません(笑)。

――『FFXIV』のコンテンツの奥深さの一端がわかったような気がします。織田さんは、みなさんの脳内設定をすべて把握するという意味ではたいへんではないですか?

織田たいへんではありますが、「こういう解釈をしたんだ!」と驚くこともあって、おもしろいですね。長くサービスを続けてきたからこそ、同じスタッフが考え続けるというのは限界があると思っています。その中で若手ががんばってくれて、恐れずに脳内設定を書いてくれるのはありがたいですね。

吉田“開発スタッフ=みんなプレイヤー”というのが大きいですね。新しく加わるスタッフも、9割以上が光の戦士で、とくにトレーニングや過去の勉強をしなくても、もともと『FFXIV』に関する知見として持っている状態でチームに合流する人が多いのです。

――プレイヤーとしての肌感覚を持っていると。

吉田そうですね。それはすごく強いと思います。自分たちのゲームを普通にプレイするということは、当たり前に思えるかもしれませんが、いまの世の中では結構難しいことだったりするのです。

石川プレイヤーだからこそ、自分の担当外でも「リテイナーベルは近くに置いてほしいなぁ」って言ったりして(笑)。

吉田よく言っているよね(笑)。

石川実際、オールド・シャーレアンをどこまで便利にするかのせめぎ合いがありました。担当外のスタッフも意見を出し合ったりして、ワイワイとやっていましたね。

――ちょうどコロナ禍の真っただ中で作られていたわけですから、その中で密度の高いコミュニケーションをとられていたのはすごいですよね。

吉田実際はたいへんでしたよ。つながってきた仮組みデータをパーツごとにチェックし始めたときに、「こんなにも想定よりかみ合わないのか!」と感じたのも今回の特徴でした。これまでの『FFXIV』チームをずっと見ているので、「このクオリティーぐらいでできあがってくるだろう」という想定ラインがあるのですが、それよりもことごとくほんの少し下だったのです。それはサボっているとか、誰が悪いとかではなく、リモートワークによる共同作業だと本当に気づけないことで……。

――それはなぜなのでしょうか?

吉田たとえば、ゾディアーク討滅戦のマップを最初にチェックしたときは、イメージが全然かみ合っていなくて、フィールドから立ち上がる光が緑でした。嘆きの海のフィールドから見たときに立ち上がる光が赤なので、赤のライトが出ていないとおかしい。なぜここがつながっていないのだろうと思ってアートを確認したら、アートでは緑っぽいイメージになっていました。そこで後で担当者に伝えると、「なんとなく違和感があると思っていた」と。

 これがなぜ、以前は起きていなかったかというと、担当者どうしが同じフロアの近くにいて、「ちょっと見に来て」と意見を交換できたのです。これがオンラインだとなかなか難しい。姿が見えるかどうかはすごく大事で、近くにいたらフラッと様子を見に行くこともできますが、オンラインだと相手がどんな状況なのかがわかりづらい。結果、相手に気を遣ってしまう、という遠慮が働くのです。

『FF14』吉田直樹氏×織田万里氏×石川夏子氏シナリオ鼎談インタビュー! “暁月のフィナーレ”クリアー者必見! シナリオや世界観、キャラ設定、開発へのアツい想いを訊く

――オンラインでもチャットはできますが、相手が忙しくて対応できるかどうかはわからないですよね。

吉田素材の確認にしても、会議ツールの画面共有機能ではクオリティーが確認しづらかったり、録画してそのデータをアップロードする手間が発生したりと、オンラインならではの問題があります。そうなると、「とりあえずアートどおりに仕上げておこう」となってしまいがちなのです。こういったことがすごく多かったですね。これはリモートワークである以上は仕方のないことで、新たな開発スタイルに移行したからこそ、ワークフロー側を考え直さないといけないなと感じています。

石川吉田さんをはじめ、リソースの発注者である私や織田さんのような、“できあがったものに対して判断をする人”にタスクが集中してしまうんです。顔を合わせて確認する場がなくなったぶん、いろいろなところから相談のチャットが飛んできて、順番に対応していくものの返信が遅くなる。そうなると、「(返信がないから)とりあえずやっておくか」にせざるを得ない。本当に流れが悪かったですよね。その流れを、みんなが会社にいたときのようにするためにどうやって改善していくかが、これからの課題かなと思っています。

――今回はどのようにして対応されたのですか?

吉田これに気付いてからワークフローを切り替えている暇はもうなかったので、今回は無茶苦茶に稼働して、“とりあえずやり切った”という感じです。現場間でどうにもならず、石川さんにも聞けずになるなら、僕や織田さんに投げてくれと言って、それをくり返しながらという感じでした。途中で、チャットツールは禁止にしたりしていましたね(苦笑)。

――チャットツール禁止はすごいですね……。

吉田織田さんも膨大な確認の連絡がチャットツールで飛んでくるでしょう?

織田すごい量のチャットが飛んできましたね。

吉田そうなるとスタッフから次々と質問が飛んできて、自分の作業が何もできない状態になってしまいます。僕が「それじゃ仕事にならないので、即時返信しないでいいよ」と言っても、リーダーたちはみんな真面目で責任感が強いから、そのチャットに返信しようとしてしまう。ですので、本当に大事な案件であれば、改めてメールをしようと。メールであれば履歴も残るし、必要な人にもシェアされやすい。メールだと返信がいつまでに必要と書くけど、チャットツールになると要件だけを書く人が多い、というのも謎の特徴ですね。

 前に週刊ファミ通のコラムでも書いたのですが、スタッフとリーダーは、下から見ると1対1なのですが、じつは上から見ると1対何十です。だから、相談を受ける側の人間は、いつも顔色が悪かった。今回はこれがすごく辛かったですね。

――ゲーム開発以外の仕事でもよくある問題ですね……。

織田自分としては、若いスタッフたちが萎縮しちゃって聞けなくなるのがいちばん危険だなと思ったので、相談には全部答えていましたね。テキストチャットでは時間がかかるから、よくボイスチャットでやり取りをしていました。

吉田チャットツールの仕組み自体はすごく便利なのですが、使い分けが必要ですね。メールで出さなきゃいけない要件まで、チャットで上司に確認をとるのは、仕事としておかしいだろうと。それはいろいろなところで言いましたね。

設定でがんじがらめにされるのではなく、“残しておいたこと”を拾い上げて答えにする

――改めて、今回ついに『新生エオルゼア』から描かれた“ハイデリン・ゾディアーク”編の物語が完結となりました。描けてよかった要素などがありましたらお聞かせください。

石川私は『新生エオルゼア』からチームに合流したのですが、その時点ですでにゲーム開始時の“ハイデリンの呼びかけ”が存在していました。最初にそれを見たときに、「見て、聞いて、感じて」ではなくて、「聞いて、感じて、考えて」と、最後が「考えて」なのがおもしろいなと思っていまして。

 そこで今回の『暁月のフィナーレ』を自分で書くことになったときに、あのときのハイデリンのお願いに立ち返ろうと決めていました。単純に、見たり聞いたりして、それを受け取るだけじゃなくて、解釈の余地があり、“プレイヤーの皆さんが経験してきたもの”があるからこそ、考えられるものにしようと。ですので、『暁月のフィナーレ』では、“答えの出ないことに対する問い”をしている部分を、要所に用意してあります。

――確かに、プレイヤーが考えさせられる場面がいくつもありました。

石川たとえば、ヘルメスがやったことは悪かったことなのか、それとも人類の最初の一歩だったのかとか。メーティオンが悪かったのか、メーティオンに絶望を与えた人が悪かったのかとか。そうだとしたら、絶望を抱くことはよくないことなのだろうかとか。そういう答えのないものに対して、プレイヤーの皆さんの答えを問うようにしてあります。こういった構成を選べたのも、長く連載を続けてきた作品だからこそです。ここまで大きくなった『FFXIV』の世界と、いままでの歩みがあるからこそ、皆さんに問うことができたかなと。そんな風に、今回のフィナーレで「考えて」が実現できたのはよかったなと思います。

――ハイデリン討滅戦の曲名が『Your Answer』というのもそこに結実していく感じですよね。織田さんが「今回描けてよかった」と感じたことは何ですか?

織田自分がプロジェクトに加わったときには旧『FFXIV』があって、すでに基本的な世界設定が存在していました。たとえば、アシエンやハイデリンという存在についても設定があったのですが、正直、これまではこの設定を持て余した状態でした。それがだんだんと時を重ねて、地に足の着いたキャラクターに、プレイヤーが理解できる存在になってきて、そこが完全に腑に落ちる形、理解できる形で描けたのはよかったですね。あらためて振り返ると「これは10年かかるよな……」という感じです(笑)。

吉田長くやってきたからこそ、作ることができた、というのはたしかですね。あれだけの配役を設定になじませるのは、1本のスタンドアローンのゲームだと、絶対に無理だと思います。たとえば『新生エオルゼア』、『蒼天のイシュガルド』、『紅蓮のリベレーター』の段階ですら、「まだアシエンの目的は詳しく設定せず、裏で悪いことをしている雰囲気を出しておけばいい」と言っていたくらいですし……。

石川先に設定があって、それを使って物語を書いていると想像される方が多いと思うのですが、じつは違います。最初にあったアシエンの設定は、姿にまつわることと、“悪いことをしてそう”ということくらいだったんです。

『FF14』吉田直樹氏×織田万里氏×石川夏子氏シナリオ鼎談インタビュー! “暁月のフィナーレ”クリアー者必見! シナリオや世界観、キャラ設定、開発へのアツい想いを訊く

――ええ! そうなんですか!?

石川驚くかもしれませんが、本当なんですよ! アシエンのことに限らず、新しく合流したスタッフに「設定資料を見せてください」と言われても、弊社から刊行されている設定資料本を渡すだけ、という(笑)。吉田さんが冒頭におっしゃっていた「『漆黒のヴィランズ』では8割ぶちまけていいよ」というのは、いままで積み重ねてきた設定や出してきた雰囲気、回収していなかった言葉を素材として、形にしていいよという意味合いです。

吉田つまり「曖昧にしていたものの8割くらい、答えを出しちゃっていいよ」ということですね。

石川ですので、まだ使っていない当初の設定があったというわけではなく、いままでのことをふまえて答えを導き出す……という形で物語を作ってきました。

織田もちろん旧『FFXIV』のときは、全然違う話を考えていたはずなので、そのために用意されていた初期設定があるにはあるのですが、それをそのまま使えるかというのはまた別問題です。どの部分を活かし、どの部分を切り捨てて新しく考えるかという取捨選択は、切り分けて考えていましたね。もちろん、一部で過去の設定が活かされているものもあります。

石川“シャーレアンが宇宙に行きたがっている”というのは、そのひとつですよね。

――そこは昔からあった設定なのですね。

織田旧『FFXIV』の時代から、シャーレアンは世界図鑑のようなものを作っていて、それは“星の知識を集めて、別の星に行くため”だという初期設定がありました。それを、『暁月のフィナーレ』でシャーレアンを描くときに、「こういう設定があるので、使ってもいいけど、使わなくてもいいですよ」とお渡しをしている感じですね。

吉田旧『FFXIV』を引き継ぐ際に、「アシエンってどんな存在なの?」と聞いたら、「何かを企んでいる超常の存在で、影がない」と言われました。でも、あの当時、ほかのキャラクターの影も表示されていなくて、どういうことかとヒアリングをしたら、スペックが足りないから影が表示されていないだけということが発覚して……。それじゃ、アシエンの特徴にならんだろうよ……と。いくらなんでもわかりづらいので、そこから別の形で“悪いやつら”という印象を付けるよう、再構築していきました。描画やエンジンのことを考えて設定してほしかった……(笑)。

――アシエンはどんどん解像度があがっていったキャラクターだなと思っていたのですが、段階を重ねて創り上げていった存在だったのですね。

吉田あくまでも設定は“物語をおもしろくするために作るもの”です。「この設定があるからこれはダメ」ということは避けるようにと、『新生エオルゼア』のころは口を酸っぱくして言っていました。明かしていない設定なので、変えたところで誰にもわからない。物語をおもしろくするためには、昔からあった設定を必ずしも守る必要はないのです。

――暁のメンバーの描き方もかなり変わりましたよね。

吉田『新生エオルゼア』のころは、丁寧に描く時間がまったくなくて……。システム的にもいっしょに冒険できず、いわゆる登場人物の一部でしかありませんでした。だからこそ、パッチ2.55で”暁”を瓦解させたのです。そこから『蒼天のイシュガルド』で少しずつ絞って描いていって、なんとか定着していきました。もちろん、暁のメンバーが何を考え、何を目的にしているかは、それぞれにあるはずなのです。そこから『漆黒のヴィランズ』の“フェイスシステム”でIDをいっしょに攻略する仕組みを作ることに決め、「暁の掘り下げは絶対にやってくれ」とお願いをしました。

石川『漆黒のヴィランズ』を作るにあたって、「メインシナリオが終わった後に、暁のメンバーと旅をしてよかった、と思えるようにしてほしい」と言われた記憶があります。

吉田『蒼天のイシュガルド』のときには、織田さんと前廣(シナリオセクション:マネージャーの前廣和豊氏)が、「クラシックな『FF』作品にある、“パーティメンバーと旅をする”ということを強くやりたい」と言ってくれて、エスティニアン、イゼル、アルフィノ、プレイヤーの四人旅をうまく描いてくれました。あれをさらに押し進めていったのが、『漆黒のヴィランズ』ですね。

石川暁に関しては、本来は丁寧に拾いたいけど拾えていなかった要素があったので、『暁月のフィナーレ』まで、時間をかけて着々と拾ってきたという感じです。本来、主人公の仲間といえば外見もプロフィールもしっかり検討されるべき重要な要素です。ですが暁は、当時とても忙しかったからじゃないかとは思うんですが、キャラメイクの内部的な数値がほとんど0番だったりするんです。白髪が多いのも、髪の色というステータスの0番が白だからだったりして…… 。そういう状況から少しずつ大切な要素にシフトさせてきたので、いま、なんとなくまとまった集団に見えていたら嬉しいですね(笑)。

――グ・ラハ・ティアもクリスタルタワーで出てきて、後に第一世界で水晶公として出てきますよね。あそこのつなぎ合わせも、あとから生まれたものなのですか?

石川そうですね。「いつか何かあったらいいな」と思ってクリスタルタワーの結末をあのようにしてはいましたが、それをいつ、どういう形で拾おうか、ということは全然決まっていませんでした。のちのち話を作るうえでこういった“残しておいたこと”を拾い上げて答えにしたという感じです。

『FF14』吉田直樹氏×織田万里氏×石川夏子氏シナリオ鼎談インタビュー! “暁月のフィナーレ”クリアー者必見! シナリオや世界観、キャラ設定、開発へのアツい想いを訊く

――答えを作るという意味では、フィールドもそうだったと思います。とくにオールド・シャーレアン、ラザハン、ガレマルドに関しては、かねてから名前の出ていたエリアですよね。『暁月のフィナーレ』で具体的な形にする過程で、BG班(バックグラウンド班。背景、景観を手掛けるチーム)とどういうやり取りをされたのでしょうか?

織田ラザハンだとインドや中東、ガレマルドだと帝政ローマとロシアというように、現実世界の気候風土や文化と紐づけたイメージをデザイナーに共有して、デザインしてもらっています。旧『FFXIV』から名前が出てきているエリアですので、“フィナーレ”というからには主だったところは回収しないといけないという使命感はありました。

石川「この際、全部行っちゃおう!」みたいなノリでしたね。

吉田何度も名前は出てくるが、実際には行けないということをできる限りなくしたいと思っているのです。プレイヤーの皆さんには、時間がかかってもいつか行けるようになる、と感じてもらいたかった。ようやくひと通り、フィールドとして登場させられたので、よかったかなと。

――ちなみに『暁月のフィナーレ』の終盤には、エメトセルクが新たなエリアをほのめかすセリフがありましたよね。

吉田今回のシナリオで完結ではなく、「まだまだ冒険は続くんだぞ」という期待感を煽るために、つぎの目標っぽく、ですね。

石川概要の段階から、入れたいと思っていたセリフのひとつでした!

――あのセリフで、次の冒険への期待感がすごく高まりました。まだ発表されていませんが、6.1以降はどう進んでいくのか、たいへん気になります。

石川これからたくさん『FFXIV』を作っていくスタッフたちに向かっても、「こんなネタがあるから楽しく作ってね」というメッセージを込めています。チームの中で「物語が終わった」という雰囲気が漂ってしまうといけないなと思ったので、まだまだこんなにあるよと。

織田まだ訪れたことのない別の大陸も設定としては存在していまして。今回はとくに、月(嘆きの海)から見上げたアーテリス=惑星ハイデリンを画として用意しないといけないので、全世界地図を描きました。

『FF14』吉田直樹氏×織田万里氏×石川夏子氏シナリオ鼎談インタビュー! “暁月のフィナーレ”クリアー者必見! シナリオや世界観、キャラ設定、開発へのアツい想いを訊く

――あれを見ると明かされていないメラシディア(エオルゼアの南方にあるとされる大陸)の形なども観察できると。

織田そうですね。今回、ひとつのフィナーレを迎えましたが、「これですべての冒険が終わったな」という感覚にしてはいけないと思っていました。MMORPGなので、ある程度は広がりを用意しておかないといけない。今回はスケールの大きい宇宙に行ってしまったからこそ、自分たちの住んでいる星を見ると、まだまだ解明されていない場所があるというのを言葉でも伝えられましたし、グラフィックでも伝えられたかなと思います。あとは素材をどう料理するか、だと思います。(吉田氏を見ながら)つぎの10年を考えている人がいるらしいですからね(笑)。

吉田鏡像世界もありますし、マルチバースだと言い張れば何でもできる(笑)。「宇宙の最果てまで行って、絶望と戦って、つぎは何と戦うんだろう……」という意見もいただいているのですが、過去の『FF』シリーズでは“無”と戦ったり、まだまだいろいろな可能性があります。とはいえ、今回は絶望と戦ったので、つぎはそれよりも強大な存在と、というように、物語のスケールがインフレを起こしまくるのも違うと思っています。ひとまずは、ラストシーンでゼノスが“冒険者”に戻してくれたので、あらためて“冒険”をすればいいのかな、と思っています。僕たち開発チームも、プレイヤーのみなさんも、引き続き冒険の旅を楽しみましょう、という心境です。