2021年9月15日、オンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)の第8弾となるオリジナルサウンドトラック『Death Unto Dawn: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack』が発売される。

 本アルバムには、パッチ5.1“白き誓約、黒き密約”からパッチ5.5“黎明の死闘”までの物語を彩る全84曲の楽曲を収録。メインストーリーの楽曲に加え、『ニーア』シリーズとのクロスオーバーコンテンツ“YoRHa: Dark Apocalypse”、レイドシリーズ“希望の園エデン”など、さまざまなコンテンツの楽曲が、映像つきで収録されるBlu-ray Discオリジナルサウンドトラックとなっている。

『FF14』第8弾サントラ『Death Unto Dawn』の発売を記念して祖堅正慶氏にインタビュー。『漆黒のヴィランズ』での楽曲制作、音作りのこだわりを訊く
  • 価格:5500円[税込] 
  • 初回仕様封入特典:インゲームアイテム“マメット・ライナ”アイテムコード 
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 今回は、最新アルバム『Death Unto Dawn』がいよいよ発売されることを記念して、サウンドディレクターの祖堅正慶氏にインタビューを実施。『漆黒のヴィランズ』での楽曲制作におけるテーマやこだわり、音作りに関する秘話などをお話いただいた。その模様を余すことなくお届けしよう。

 なお本稿は、週刊ファミ通2021年9月9日号に掲載したインタビューを、Web用に再編集したものとなっている。誌面では入りきらなかった話題も多数追加されているので、すでにインタビューを読んだという人もぜひチェックしてほしい。ただし、本記事および写真には、パッチ5.5までの各コンテンツのネタバレが含まれている。メインストーリーや“YoRHa: Dark Apocalypse”などの物語を最後まで体験していない方は、その点に注意して読み進めてほしい。

祖堅正慶(そけんまさよし)

『FFXIV』サウンドディレクター。楽曲制作だけでなく、ゲーム内のさまざまなサウンドの制作を幅広く手掛けている。

『漆黒のヴィランズ』の第一世界を彩る楽曲の軸になった『Shadowbringers』

──まずは『漆黒のヴィランズ』(パッチ5.0~5.5)全体を通して、楽曲を作られる際に意識していたポイントや、共通のテーマにしていたこと、こだわったことなどをお聞かせください。

祖堅『漆黒のヴィランズ』より以前は、まず“ファンタジーの王道”というテーマが軸にあり、さらにエオルゼアという地域、それにまつわる国や人などの土着感などを意識して作っていました。ですが、今回は、第一世界というまったく離れた世界が舞台になることもあって、いままでには表現できなかったような内容を意識して作っています。

『FF14』第8弾サントラ『Death Unto Dawn』の発売を記念して祖堅正慶氏にインタビュー。『漆黒のヴィランズ』での楽曲制作、音作りのこだわりを訊く

祖堅とはいえ、やはり“ファンタジーの王道”にそぐわない内容ではゲームにマッチしないため、基本の軸はこれまでと同様ながら味付けをいままでとは違うものにしています。なかでも意識したのは“ダークファンタジー”でしょうか。

 もともと『FFXIV』の世界はダークファンタジー寄りではありますが『漆黒のヴィランズ』ではさらに、そのダークファンタジー色が強めのものを集めた感じですね。

──ダークファンタジー色は実際の楽曲からも感じられます。ちなみに『蒼天のイシュガルド』ではイシュガルド、『紅蓮のリベレーター』ではアラミゴや東方地域といったように、舞台となる場所のイメージが曲にも影響を与えたと思います。

 『漆黒のヴィランズ』ではそれまで描かれていなかった第一世界が舞台となるだけに、どのようなものを取っ掛かりとしてイメージを膨らませたのでしょうか?

祖堅じつは新しい拡張パッケージの主軸となる“サウンドの色”は、発売前に公開されるティザートレーラーで決まっていくことが多いんですよ。そしてこれまでのトレーラーでは、プロのオーケストラや合唱団に演奏をお願いして音を作っていく手法を取っていました。

 ですが『漆黒のヴィランズ』では「その手法でないやりかたがマッチングするんじゃないか」という話がサウンドチームから挙がり、ロックテイストで作ることにチャレンジしてみたんです。そうしたら、映像とサウンドが見事にハマりまして。

──たしかに、以前はロックテイストのティザートレーラーはなかったですね。

祖堅それに加えて、第一世界の雰囲気や、キャラクターの変化にもすごくマッチングしたので、この路線で行こうと決まっていきました。メインテーマの『Shadowbringers』がオープニング映像にバキっとハマってくれたおかげで、主となる路線はそのままに、コンテンツごとにその流れを汲みつつ色をつけていったという流れですね。

『FF14』第8弾サントラ『Death Unto Dawn』の発売を記念して祖堅正慶氏にインタビュー。『漆黒のヴィランズ』での楽曲制作、音作りのこだわりを訊く

──『Shadowbringers』はプレイヤーからの反響もすごいですよね。そういった声を聞いていかがですか?

祖堅皆さんの心に刺さったのはうれしいですね。我々はこれまでと変わらず、つねにゲームとマッチングしたサウンドを目指していますが、主題歌となる『Shadowbringers』が第一世界の雰囲気に見事にハマったのは「やってやったぜ!」という感じです。

──ちなみに楽曲を作り始めるタイミングでは、完全な画はできあがってないと思いますが、どの程度の情報がそろった状態でサウンド作りに取り掛かるのでしょうか?

祖堅『FFXIV』では背景を作るチームがもっとも先行で動いていて、じつは楽曲を作り始めるころには、あくまで開発中のものにはなりますが、フィールドのイメージをけっこう見ることができています。

 その段階では物語のプロットもできあがっているので、風景をなんとなく把握したうえで、ここでどういう物語がくり広げられていくのかを考えながら作っていくというイメージですね。ですので、ほとんど何もない状態で作っているというわけではありません。

──パッチ5.55で『漆黒のヴィランズ』の物語が完結しました。あらためてパッチ5.0~5.5のサウンド制作の中で印象に残っていることがありましたら教えてください。

祖堅振り返ってみると、とにかくバラエティー豊かな内容になったなと感じますね。まずメインストーリーでは、第一世界で巻き起こる物語がクライマックスに向かうのに合わせて、そこに『Shadowbringers』を踏襲した楽曲を入れてストーリーを彩っていく。

 その一方で、メインストーリーとはまったく違うテイストで“YoRHa: Dark Apocalypse”(以下、ヨルハ)であったり、“セイブ・ザ・クイーン”であったり、“希望の園エデン”であったりと、さまざまなコンテンツの楽曲を作ることができました。

 拡張パッケージの総集編となるようなサントラの楽曲は、これまでもバラエティーに富んだ内容となることが多いのですが、今回はとくにその色が強い印象ですね。

──とくにパッチ5.3前後は、それら各種コンテンツが並行して実装されたり『漆黒のヴィランズ』の物語がクライマックスを迎えたりと、サウンド作りの面でもすごくたいへんだったのではと思いますが、いかがでしょうか?

祖堅クライマックスを迎えた事によるゲーム体験へのマッチング作業ももちろんたいへんですが、最近、パッチを追うごとにコンテンツの量が肥大化していく傾向にあり、それに対応していく事の方がたいへんです。コンテンツの量は肥大化してもサウンドを制作する人数は増えていないので、個々に圧し掛かる制作の物量がパッチごとに肥大化していって……(笑)。

 理由のひとつとしては“『FFXIV』チームはフルスクラッチで作る傾向が強い”ということがあるかもしれませんね。もちろん既存のリソースを組み合わせて新しいコンテンツやエフェクトを作るということも当然行っているんですが「ここはどうしてもフルスクラッチで作りたい!」とチームから要望をもらえば、「よーしわかった、作るしかねーじゃん」ということが頻繁に起きています(笑)。それがまさに、パッチ5.3のタイミングでは多かったですね。

──新しく発売されるサントラ『Death Unto Dawn』には、パッチ5.1~5.5の膨大な数の楽曲が収録されています。その中で、祖堅さんが実際にプレイされたときに「これはぴったりハマったな」と思った楽曲を教えてください。

祖堅2曲ありまして、1曲は“希望の園エデン:共鳴編4”でガイアが氷を壊すシーンで流れる楽曲(『忘却の此方 ~希望の園エデン:共鳴編~』)ですね。あそこは、ゲーム中に差し込まれるカットシーンの情景にうまくハマったなという印象があります。

 もう1曲は『To the Edge』です。パッチ5.3で追加された“ウォーリア・オブ・ライト討滅戦”で流れる楽曲で、バトルと演出にうまくマッチングするように意識して作りましたが、狙い通りにいったかなと。 

『FF14』第8弾サントラ『Death Unto Dawn』の発売を記念して祖堅正慶氏にインタビュー。『漆黒のヴィランズ』での楽曲制作、音作りのこだわりを訊く

──ちなみに、演出にマッチングするようにとのことですが、カットシーンに合わせて細かく調整されたりもしたのでしょうか?

祖堅そうですね。サントラには1バージョンしか入れていませんがたとえば『To the Edge』はバトルの前半と後半で使っていて、じつはバトル前の演出に合わせて前半と後半でイントロを変えているんです。プレイヤーが敵をターゲットできる瞬間にAメロのスタートを合わせるというようなことを、前半と後半それぞれでやっています。

 ちょっとした違いなので、実際に気づいた方は少ないかもしれませんが、より気分が高揚する形でゲームを遊んでいただきたいということで、そこはバトル班とお互いにやり取りをしながら詰めていきました。

──なんと! そんなこだわりが込められていたんですね。

祖堅戦闘が始まるタイミングが、前半と後半で微妙に違うんですよ。まったく同じタイミングであればひとつの曲で済みますが、ゲームはなかなかそうもいかないので。これと同じように“同じ曲だけど部分的にちょっと異なるバージョンの曲”というのは、じつは『FFXIV』にはけっこうあるんですよ。ただ、サントラにそのバージョン違いをすべて収録すると膨大なボリュームになってしまうので、1曲にまとめています。

──『To the Edge』は聴いていて感慨深いものがありました。アーモロートのフィールド曲のメロディーがベースになっていて、メインストーリーのなかのバトルとして素晴らしかったです。

祖堅あれは石川(石川夏子氏。リードストーリーデザイナー)が狙ったと思います。じつは、5.0を開発しているタイミングで“(先々のパッチで)『漆黒のヴィランズ』の物語が一旦終結する”というプロットが進んでいて、その時点で「『Shadowbringers』と同等の主題歌レベルの楽曲を発注したい」と言われていました。

 ただし、その時点ではアーモロートのメロディーをアレンジするということまでは決まっていなくて、プレイヤーの感想や意見を踏まえて、いまの形になっていったんです。

──先のパッチでこのような曲が必要になると、事前に予告されていたんですね。そういった発注のしかたは今回が初めてですか?

祖堅そうですね。いままでにはあまりなかったかもしれません。直前のタイミングで言われることは過去に何度かありましたけど、新しい拡張パッケージのベース部分を作っているときに、先のパッチでこういった曲が必要になると宣言されたのは初めてです。

──石川さんの中ではすでに物語のテーマ性や、最後はこう描きたいという構想が決まっていたんですね。その後、パッチ5.4~5.5からは、新たな拡張パッケージの『暁月のフィナーレ』に向けての展開になりますが、サウンド面で意識されたことはありますか?

祖堅『暁月のフィナーレ』に向けてということではなく、いつも通りゲームコンテンツに合うか、合わないかを考えながらサウンドを作っていきました。5.4や5.5については、あくまで『漆黒のヴィランズ』という括りのなかで曲を作っているというイメージが強かったですね。

 『漆黒のヴィランズ』と『暁月のフィナーレ』の境目はきっちりとしたほうがいいかなと思っていまして。『漆黒のヴィランズ』のサウンドはあくまでも『漆黒のヴィランズ(パッチ5.0~5.5)』のためのもので、新しいテイストを加えるとしても、それは『暁月のフィナーレ(パッチ6.0)』からだなと。ここをはっきりと分けることで、『暁月のフィナーレ』をプレイしたときに新しい世界を体験する感覚がより強くなると思っています。

──パッチ5.0~5.5までがひとつのコンセプトに沿っていて、『暁月のフィナーレ』からは次の新たなコンセプトになると。

祖堅そうですね。いままでもそういう作りで進めているので、今回もそれを踏襲する形で音作りをしています。

PS5版のサービスインにあわせ、これまで実装したSEにもこだわりの微調整が

──祖堅さんは楽曲だけでなく、SE(サウンドエフェクト。効果音)も作られていますよね。『漆黒のヴィランズ』のSEを作るうえで、これまでと変わった点はありましたか?

祖堅音自体はいままでどおりサウンドチームで粛々と作っています。1パッチで何千個と増えていくので、アホみたいに作っていますけど(笑)。

『FF14』第8弾サントラ『Death Unto Dawn』の発売を記念して祖堅正慶氏にインタビュー。『漆黒のヴィランズ』での楽曲制作、音作りのこだわりを訊く

──とんでもない数ですね……。

祖堅変化した点としては、コンテンツの遊びかたの移り変わりに合わせて、サウンドの再生機構を変えていく必要がでてきたという点でしょうか。たとえば以前はプレイヤーが密集したり、離れたりといった動きが定期的に起こるバトルコンテンツが主流だったとします。それがやがて、1つのコンテンツに大勢のプレイヤーが密集し続ける形に流行りが移ったとすると、音の密度が以前と変わってきます。

 そんなときに何が起こるかというと、いままで作った音が凝縮されて、何が鳴っているかわからない状態が増えてしまうんです。最近は、そこを是正するための間引きをしています。

──そんな細かい調整をされているのは驚きました。

祖堅自分の使う技と相手の使う技のどちらがどれだけ重要なのかは、コンテンツによって異なるので、どう間引けば皆さんに気持ちいい音を届けられるかを個別に考えています。そのためにサウンドエンジンの根底のプログラムを書き換えたり、パッチごとにSEやサウンドが聴きやすくなるように調整したりしている感じですね。

──PS5版の正式サービスも始まりましたが、そこも影響しているのでしょうか?

祖堅影響はありますね。たとえば主観視点にしたときに、以前までは忠実に音が360度、自分のまわりを回るという状態でした。一方PS5版では3Dオーディオの機能が入っていて、それに合わせて気持ちよく音が聴こえるようにマイクの位置を後ろに下げたり、相対的に全体的な座標軸を前に出したりといったように、全体的に調整を加えています。このように、新しいハードウェアが登場すると調整しないといけない項目がいくつか出てくるんです。

──昔のSEも含めて微調整されているんですね。ちなみに、キャラクターの身長の高低で、個別に調整をかけているのでしょうか?

祖堅じつは音が鳴る場所はカメラのポジションに依存するので、それに追従する形になっています。いわゆるチルトカメラというもので、そのカメラのポジションに合わせてどれだけオフセットをかければいいのか、どれぐらいのボリューム減衰をかければ自然に聴こえるかを、SE個別で細かく調整している感じです。

──PS5版で初めてサウンドを聴いたときに「こんなに音が違うんだ!」とビックリしました。“極リヴァイアサン討滅戦”でも、どちらに水しぶきがあがったかがすごくよくわかるので、ありがたいです(笑)。

祖堅水しぶきはよくわかりますね(笑)。あとは上からの音や下からの音もわかりやすくなっています。もちろん、すべての調整が終わったわけではなく、いまも日々調整中で個数が多いので……とにかくたいへんですね(笑)。

『FF14』第8弾サントラ『Death Unto Dawn』の発売を記念して祖堅正慶氏にインタビュー。『漆黒のヴィランズ』での楽曲制作、音作りのこだわりを訊く

──PS5といえばPS5のコントローラー(DualSense)の振動(ハプティックフィードバック)は、サウンドのデータをもとに作られているという話を聞いたのですが、これは本当なのでしょうか?

祖堅本当です。じつは、この振動を作っているのも僕たちサウンドチームなんですよ。

──振動まで関わられているとは、仕事量がハンパないですね(苦笑)。

祖堅そうなんですよ。サウンドの横のつながりで他社のサウンド制作の方々にも聞いたのですが、どこの会社も「振動はサウンドチームがやるんでしょう?」という空気になっているらしいんですよね(笑)。

──てっきり振動関連を担当する専用のチームがあると思っていました。

祖堅いると思うじゃないですか。これがいないんですよ(笑)。ただ僕たちの場合はUI班が先頭に立って協力してくれているので、おもにUI班とサウンドチームで振動関連を作っています。サウンドファイルで異なる振動が体験できる音素子をプリセットとして多数用意して、これとこれを組み合わせればこういう振動になる、ということをUI班と話し合いながら作っている形です。

──ちなみにPS5版以前はどうだったのでしょう。

祖堅振動機能って初代プレイステーションの時代からあったじゃないですか。じつはこの振動も、サウンドチームが作るのが主流でした。この昔からの流れもあって“振動関連はサウンドチームがやる”という空気感なんですよね。あれから20年くらい経ったはずですが、やっぱりサウンドの仕事なんだって(笑)。

──当初振動をサウンドチームが担当した理由は何故なんでしょうか?

祖堅振動モーターを制御する基本的な因子は、サウンドファイルに紐づくことが多いんです。だから、どうしてもサウンドチームがやることが多くなるんです。

──ちなみにPS5版ではβテストの段階で、いろいろな振動が体験できてビックリしました。なかでもマウントに乗ったときの振動がすごく特徴的で……。マウントごとに振動が異なり、騎乗している感覚を感じられます。

祖堅マウントのチョコボが歩くたびに、プルプル震えますよね。じつは、ずっとこれが続くと手が疲れるんじゃないかという意見もありました。でも、最初に振動を体験したときの感動を大事にしたくて、いまの形になっています。

 あの独特の体験はほかにないと思っていて、最初にPS5を起動してマウントを乗ったときに、大きい乗り物に乗っているという感覚を存分に味わってもらいたいなと。

『FF14』第8弾サントラ『Death Unto Dawn』の発売を記念して祖堅正慶氏にインタビュー。『漆黒のヴィランズ』での楽曲制作、音作りのこだわりを訊く

──ちなみに、フライングマウントで狭いところを飛ぶとプルっと震えますが、あれは風を切って飛んでいるという表現ですか?

祖堅そのイメージで表現したつもりです。ほかにも高度を下げて地面スレスレを飛んだ後、また高度を上げるときもプルって震えるんですよ。

──それが気持ちよくて、意味もなく地面スレスレに飛んで楽しんでいます(笑)。

祖堅じつはあれも判定があって、音と連動しているんですよ。チョークポイントをすり抜けたり、地面スレスレを飛んで戻ったりするときに、ちょうどいいタイミングで風切りの音が聴こえるようにキャラクターから四方八方にレーダーのようなモノを飛ばしていて、常に周囲の地形をスキャニングしてなっています。

 それに連動するように振動を用意して、風を切るような体験を“音と感覚”で味わえるようにしています。作業はたいへんですが、振動機能はおもしろいですね。

──3Dオーディオ、コントローラーの振動など、PS5という新しいハードが出て、お仕事の量は増えましたが、やりがいは増えた感じですか?

祖堅いままで表現できなかったものが表現できるというのは、クリエイターとしては興奮しますね。どう作ればどうなるかという方程式ができていませんし。そこはクリエイター魂が燃えるというか。これはもちろん、僕だけじゃなくて、各クリエイターがワクワクしながら開発している部分だと思います。

パッチ5.1~5.5はサントラだからこそじっくり聴ける注目曲が満載

──ここからは9月15日に発売されるサントラ『Death Unto Dawn』についておうかがいします。今回はパッチ5.1から5.5までの楽曲が収録されていますが、楽曲面での注目ポイントを教えてください。

祖堅メインストーリーが色濃く描かれているのに付随して楽曲も作っているので、ぜひそこに注目していただきたいですね。『漆黒のヴィランズ』をプレイしていただいた方なら、思い入れのあるポイントがいくつもあると思います。それが全部入っているところが、いちばんの魅力だと思います。

 加えて、先ほども言いました通り、5.1~5.5にはメインストーリー以外にもたくさんのコンテンツ、イベント、バトルがあり、バラエティー豊かな楽曲が収録されています。その中には、ゲーム中で2、3秒しか流れないものも含まれているので、ぜひそのあたりも注目していただきたいです。

──収録される曲目リストをざっと確認しただけでも“希望の園エデン”、“ヨルハシリーズ”、“セイブ・ザ・クイーン”など、さまざまなコンテンツの楽曲が収録されていますね。まずは“希望の園エデン”の楽曲ですが、どのようなことを意識して作られたのでしょうか?

祖堅もともと零式を始めとするエンドコンテンツの楽曲は“バトル曲のアラカルト”というイメージが強いのですが、なかでも今回のレイドはストーリー性がとくに強くて、リーンとガイアの物語が深く描かれます。そのため、後半になるにつれて、ドラマチックな楽曲が多くなったかなという印象ですね。

──“共鳴編4”や“再生編4”のノーマルでは、バトルにカットシーンが用意されるなど、展開自体もドラマチックですよね。

祖堅“共鳴編4”だと『新生エオルゼア』の“シヴァ討滅戦”で流れる『Oblivion』が起点の楽曲を採用しています。ただ、楽曲の方向性や曲調は割とすんなり決まったものの「ただ単純に『Oblivion』の主旋律を踏襲してもどうなのかな?」という葛藤があり……。

 そこで楽曲の引用元を“シヴァ討滅戦”の前半戦の曲(『雪上の足跡 ~蛮神シヴァ前哨戦』)にしました。そのうえで後半戦の『Oblivion』のフレーバーも入れたり、新しいフレーズも入れたりといった試みをしています。

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祖堅さらに、コンテンツにちなんだ内容にしようと、詩も新しくなっています。同じフレーズだけど、歌詞はまったく違うんですよ。ここはコージ(マイケル・クリストファー・コージ・フォックス氏。ローカライズスーパーバイザー)ががんばってくれましたね。

──“共鳴編4”の楽曲も印象的でしたが、“再生編4”の曲も『漆黒のヴィランズ』にはめずらしい王道オーケストラの曲調で、すごく印象に残っています。これは意識してこのような曲調にしたのでしょうか?

祖堅これは、石川に「こういう曲調がいいです」と口頭で言われていました。オーダーとしては、最後はオーケストラで締めたいと。第一世界の音楽としては、飾らない正統派のオーケストラの楽曲を作ることがあまりなかったので、これまた悩みましたね。

──だからこそ新鮮に聴こえたのかもしれませんね。

祖堅“ハーデス討滅戦”の楽曲もオーケストラでしたが、この曲はおどろおどろしく重厚重圧な感じの曲調で、明るさがほぼなかったんですよね。だけどこの“再生編4”は希望に向かって戦う内容にしたいから、「キラキラした希望が欲しい」という要望を受けて、いまの曲調になった感じです。

──『紅蓮のリベレーター』の楽曲にもあった力強さを感じますね。タイトルの伏線回収ではないですが、まさに“ここが希望の園”といったような、明るい曲調が印象的です。

祖堅それまではどこか暗い雰囲気の曲ばかり作っていたので、いまの僕に作れるかなと不安になったりもしましたが、何とかいい曲が作れてよかったですね。

──“希望の園エデン”の楽曲には『FFVIII』の曲を元にされているものもありますよね。これはどのようなことを心掛けてアレンジされたのでしょうか?

祖堅もともと、『FFVIII』の曲のアレンジ版を使ってバトルをしたいという発注があったので、それを元に忠実にアレンジした感じです。これまでにも『FF』シリーズの原曲のイメージを壊さずに『FFXIV』の世界に合わせていくというアレンジ作業をやってきましたが、今回もそれに従いました。変わったことはせずに、ストレートに現代に『FFVIII』の曲をもってきたらこうなるよね、とチーム内で案を出し合いながら作っていった感じです。

『FF14』第8弾サントラ『Death Unto Dawn』の発売を記念して祖堅正慶氏にインタビュー。『漆黒のヴィランズ』での楽曲制作、音作りのこだわりを訊く

──逆にタイタンやラムウとのバトルなどの楽曲は、『新生エオルゼア』で祖堅さんが作られた楽曲を、違う解釈で作り直したものが採用されています。ご自身の楽曲をアレンジするタイプは、メインテーマ以外では少なかったと思いますが、実際に作られてみていかがでしたか?

祖堅すごくやりづらかったですね(笑)。ですので、覚醒編に関しては、ほとんど後輩に任せています。“共鳴編”“再生編”では少し作業しましたが、自分の曲をアレンジすることはできるものの、つまらないものができあがるかもしれないという不安があったので、彼らにけっこう手伝ってもらいました。

──ほかのメンバーがかかわることで、違った視点のアレンジが入ってくるということですね。

祖堅かつて自分が作った曲は、頭の中にコード展開やメロや細かな楽器達の音が勝手に浮かんでくるんですよ。作っているときに何千回と聴くから、嫌でもそれを覚えてしまう。

 ただアレンジ作業では、いままでに作ってきたものを壊して再構築することが絶対に必要になるので、その記憶がジャマになってしまう。極端に言うと、曲を作った本人にとっては一度道を壊して作り直しても新たな道は最初から決まっているかのように感じてしまうんです。

 アレンジをするうえでは、違う道からゴールにたどり着かないといけないのですが、自分で作った曲だとそれが難しくて……。ですので、後輩たちががんばってくれました。

──次に、先ほど数秒しか流れない楽曲も収録されているとおっしゃられていましたが、具体的にどのコンテンツの曲でしょうか?

祖堅“YoRHa: Dark Apocalypse”の楽曲ですね。ヨコオさん(ヨコオタロウ氏。『ニーア』シリーズのクリエイティブディレクター)から「ここはもっと短くていい」と指示をいただいて、それで楽曲を流す時間を削っていったんですよ。最終的には「これ以上削るとサウンドが鳴らせないよ!」というところまできて(笑)。

『FF14』第8弾サントラ『Death Unto Dawn』の発売を記念して祖堅正慶氏にインタビュー。『漆黒のヴィランズ』での楽曲制作、音作りのこだわりを訊く

──ヨコオさんのこだわりを感じますね(笑)。

祖堅“YoRHa: Dark Apocalypse”のBGM演出は、ヨコオさんにほぼお任せしていました。

──“YoRHa: Dark Apocalypse”では『ニーア』シリーズの既存の楽曲以外にも、新規に追加されている楽曲もありますよね。そこは『ニーア』シリーズとクロスオーバーということもあって、強いこだわりがあったのでしょうか?

祖堅画が新しく作られているので、新規曲を入れたほうがいいんじゃないという話になり、作ることになりました。

 『ニーア』と『FF』という、本来はまったく混じりえないコンテンツをあえて混ぜるという形で生まれたコラボなので、せっかくだからやりましょうと。

──実際の楽曲で『FF』のメインテーマや『天より降りし力』のメロディーをうまく取り込まれていて感動しました。ふたつのゲームの楽曲を合体させるという、これまでにない試みだったと思いますが、どのような経緯で楽曲が誕生したのでしょうか? こちらは岡部さん(岡部啓一氏。『ニーア』シリーズの楽曲を手掛ける作曲家)からの発案ですか?

祖堅あれもヨコオさんの指示ですね。なお『FFXIV』の女性ボーカル曲は強めの曲調のものが多くて、『ニーア』シリーズを象徴するような、優しそうで、かつ切ない雰囲気の女性ボーカル曲はあまりありませんでした。その面では岡部さんの色が強く出ていると思います。

──“YoRHa: Dark Apocalypse”の最後を締めくくるバトルで流れる楽曲(『カイネ/Final Fantasy Main Theme Version』)も静かめのボーカル曲で、すごく印象に残りました。

祖堅アーモロートの曲と同様に、どんどん深く沈んでいくというイメージで作られたのかなと思っています。

──ちなみにアライアンスレイド内で、日本語にも外国語にも聴こえるようなアナウンスが聴こえてきましたが、ああいったSEはどちらが手がけられたのでしょうか。

祖堅SEに関してはこちらですべて作りました。あれもヨコオさんからこういう感じにしたいという要望を受け、我々は従順に作らせていただきました(笑)。

──改めてお話をうかがうと、サウンド面でもヨコオさんがガッツリ監修されているのには驚きました。

祖堅雰囲気や空気感、演出を非常に大切にしていた印象があります。だから音楽だったり、コンテンツ中に流れるアナウンスの声だったり、その世界の空気感の要素に対してのリクエストはすごく多かったです。

『FF14』第8弾サントラ『Death Unto Dawn』の発売を記念して祖堅正慶氏にインタビュー。『漆黒のヴィランズ』での楽曲制作、音作りのこだわりを訊く

──グラフィックのエフェクトも、かなりこだわられていた印象があります。

祖堅絵作りに関してどれほど注文があったのかは僕にはわからないですが、音に関しては雰囲気作りに対するこだわりを、ものすごく感じましたね。表向きにはヨコオさんって変なことばっかり言う人といった印象かもしれませんが、仕事をしていましたよ(笑)。

──次に“セイブ・ザ・クイーン”ですが、松野さん(松野泰己氏。ゲームクリエイター)からは楽曲面へのリクエストはあったのでしょうか?

祖堅松野さんからのリクエストはありましたが、作業期間とコストの折り合いがうまくいかず、当初はそこに新曲を投入している余裕がない状態でした。ですので、既存のリソースを使いつつ、世界観を作っていこうという想定だったんです。

 ですが改めてパッチ5.0の段階で、松野さんから直々に新曲を作ってくれという要望が来まして。それで、そこからどんどんと当初の想定が崩れていって、気が付いたら割とタップリと新曲を作るようになりましたね(笑)。

──祖堅さんにお願いしたらできるという流れができあがって、さらに仕事量が増えたと(笑)。そんな“セイブ・ザ・クイーン”の関連で強烈に印象に残っているのが、グンヒルド・ディルーブラム最後のセイブ・ザ・クイーン戦の楽曲である『復活の女王 ~グンヒルド・ディルーブラム~』です。ボズヤを象徴するガンゴッシュの曲をベースにしつつ、これまでのバトル曲になかった曲調になっていて驚きました。

祖堅その曲はまさに“希望の園エデン:覚醒編4”で、タイタンとのバトル曲を作った後輩(サウンドチームの今村貴文氏)ががんばって作ってくれまして。ボズヤといえば彼が担当するという流れになっていて“ミスターボズヤ”ですね。“セイブ・ザ・クイーン”のバトル曲の多くは彼が作っています。

 ちなみに、ボズヤを象徴する曲『ガンゴッシュ』ですが、先ほど言った通り、まさにこれが松野さんから「1曲だけでも作ってくれ!」と直々にお願いされて、祖堅タスクにこっそり詰まれて作った楽曲です。

──南方ボズヤ戦線やザトゥノル高原のフィールドを移動しているときもつねに流れていて、戦闘に突入してもそのアレンジが流れて、コンテンツ中はあのメロディーが常に流れている印象でした。

祖堅ガンゴッシュで物語が始まり、フィールドを移動しているときもそれをベースにした曲が流れて、戦闘するとアレンジに切り替わってと、どんどん発展していった感じですね。それが、パッチごとに増えていったという経緯です。

──最初は1曲だけのはずが……(笑)。

祖堅作業しながらも「あれ?」となっていました(笑)。でも、このメロディーを作ったことによって、“セイブ・ザ・クイーン”の一連のコンテンツでこのメロディーを使う流れができあがったので、結果的によかったなと。

 ボス戦でも同じメロディーを使うなど、表現的におもしろいことができたと思います。作った当初は、まさかここまで広がると思っていませんでしたが(笑)。

──そのおかげで一本、筋が通っているようなイメージになりましたね。

祖堅こんなにこのメロディーが踏襲されるとは思っていなかったから、もっとちゃんと作っておけばよかったかな(笑)。まあそれは冗談ですが、いいメロディーができてよかったと思っています。

『FF14』第8弾サントラ『Death Unto Dawn』の発売を記念して祖堅正慶氏にインタビュー。『漆黒のヴィランズ』での楽曲制作、音作りのこだわりを訊く

──印象的なメロディーがあると、コンテンツへの思い入れが強くなりますよね。

祖堅『FFXIV』は、コンテンツの量が多くて、ボリュームも膨大じゃないですか。そこに新曲を投入するときに、コンテンツにマッチングした楽曲を用意することは当然なのですが、なんでもかんでも新曲でかつ新しい旋律を入れると、柱となる音楽観が薄まってしまい、それによりゲームサウンドの世界観が定まらなくなります。ゲームプレイ的なことを言えば新しいコンテンツに挑戦するぞという高揚感と新鮮味が薄れていってしまうんですよ。

 これはつね日ごろからの悩みでもあって、それを解決するために、柱となる曲に対してのアレンジ作業に工夫を凝らしています。『Shadowbringers』もそうですが、柱となる曲から派生させて物語に帰結させるなど、そういうことはいつも意識しています。新しいメロディーもいいですが、そればかりだと、ゲームコンテンツを遊んでいるときの没入感の整合性が取れなくなってしまう可能性もありますしね。

──たしかに耳なじみのない曲が次から次へと流れ込んでくると、没入感が薄れるかもしれませんね。

祖堅どこかで聴いたことがあるという潜在意識に働きかけるメロディーがあり、そのメロディーがバトル中にも流れている、という感じですね。もちろん、理由もなくメロディーを引用することはせずに、そこに理由を紐づけるようにしています。これは、ゲーム体験を向上させるために、必要な作業だと思っています。

──ウェルリト戦役の楽曲についてもお聞かせください。こちらはやはり“ロボットもの”を意識して曲を作られたのでしょうか?

祖堅完全に意識しています!(笑) ただし、機工城アレキサンダーに登場した合体ロボという感じではなく、どちらかというと爽快感を意識した方向性にしています。少年があこがれるような、かっこいい戦闘をイメージできるような、そんな曲を目指しています。THE PRIMALSでいくつか演奏した際は、結局いつものゴリゴリなロックになってしまいましたが(笑)。

──“ダイヤウェポン捕獲作戦”の楽曲(『孤児たちの戦い ~ダイヤウェポン捕獲作戦~』)は、疾走感がすごく感じられました。

祖堅“アルテマウェポン破壊作戦”の楽曲のメロディーを引用していまして、家で作曲しているときは、ひとりで勝手に“大運動会”と命名していました(笑)。

『FF14』第8弾サントラ『Death Unto Dawn』の発売を記念して祖堅正慶氏にインタビュー。『漆黒のヴィランズ』での楽曲制作、音作りのこだわりを訊く

──それは運動会に流れるようなイメージということですか?

祖堅そうですね。ですがそれだとコミカルすぎるので“渋いイケメンたちが、カッコつけながらやっている大運動会”をイメージして作りました。ほかには『FFXIV』のオーケストラコンサートのCDを作った際のコーラスデータが残っていたので、それを引っ張り出しつつ、まったく違う感じに作ってみようと。ですので、じつはこの曲はコーラスデータから作り始めたんです。

──そういう作曲パターンもあるんですね。

祖堅あとは「ホタテ、ホタテ」と聴こえるかもしれませんが、プレイヤーの皆さんが「アルテマのAパートのコーラスはホタテと言っている!」と盛り上がってくれていたので、今回はしっかりホタテって歌うようにプログラムしました(笑)。

──あ、やはり空耳じゃなかったんですね(笑)。あとはほかのコンテンツになりますが、ドワーフ族の拠点で流れる楽曲もすごく耳に残っています。

祖堅この曲は、発案も作ったのも先ほど話題に上がった“ミスターボズヤ”なんですよ。この曲は、コルシア島のフィールドで流れる楽曲のメロディーが引用されています。

──原曲とは全然イメージが違いますね。

祖堅音楽というものは魔法をかけることによって全然違うものを表現できるので、そういう意味でもやっていてすごく楽しいですね。とくにこの曲については「ドワーフといったらこれしかないよね!」というアレンジになっているんじゃないかなと。あのトンテンカンという音といい、リズム感といい、すごくうまくまとまっていると思います。

楽曲だけでなく収録されている映像も超豪華なBlu-ray Disc!

──今回のサントラもこれまでと同様に、Blu-ray Disc Musicとなっています。こちらの見どころをあらためて教えてください。

祖堅基本的に、ゲーム中に実装されている楽曲は圧縮音源です。一般的な配信サイトでの音源と遜色ない程度の音質ですが、いいか悪いかでいうと、いい音質だとは言えません。せっかくサントラを発売するのであれば、本来聴こえてほしい音を届けたいという思いで、すべてハイレゾで収録しています。

──本来、祖堅さんの中で想定しているクオリティーのサウンドを聴いてほしいと。

祖堅サントラアルバムの“ディスク1枚の物量”とイメージすると、収録されている楽曲の時間が総尺で1時間とかを想像される方が多いと思うんですけど、このディスクはなんと5時間43分入っています(笑)。約6時間ぶんの楽曲が、CD音質よりも5~6倍いい音質で収録されていて、さらに映像付きと、それだけで異常なクオリティーのサントラなんですよ。

 それに加えて、ポータブル音楽プレイヤーやPCなどに音源を移しやすいように、MP3データも入っています。あとは、スクウェア・エニックスのサウンドチームが作った楽曲には、今回も1曲ごとに制作秘話的なコメントを入れています。

 「つらい」とか、「締め切りが間に合わない」とか、そういった愚痴がいっぱい入っているので、そちらにも注目していただければなと(笑)。ちなみに、これは英語字幕にも対応しています。

──ある意味では、それがいちばんの見どころかもしれません(笑)。

祖堅映像ではスクリーンショットが紙芝居のような形で流れるようになっていて、こういうコンテンツだったよねと思い出しながら音楽を聴けるようになっています。

 さらに、エクストラトラックが入っていて、5.1~5.5までの楽曲を聴いたあとに、おそらく、『Shadowbringers』と『Tomorrow and Tomorrow』をもう1回聴きたくなると思いまして、エクストラトラックに映像付きで入れておきました。

──前回のサントラに収録済みですが、あらためてこのサントラでも聴けるようになっているのはうれしいですね!

祖堅この2曲が聴きたくなったときは、エクストラトラックを覗いてもらえるとうれしいです。『Shadowbringers』は、オープニングムービーに合わせてSEやボイスを抜いた、MV仕様になっています。

 『Tomorrow and Tomorrow』は、すでにYouTubeでも公開されている映像となりますが、『漆黒のヴィランズ』の物語を振り返れるようなものとなっていて、音質もかなりよくなっているので、ぜひこれを聴きながらいろいろと思いだしていただければなと。

 ちなみに、収録映像で使われているスクリーンショットの撮影がたいへんでした。コンテンツごとにスクリーンショットを用意していますが、じつはこれらは自分たちで実際にプレイして撮影しているんです。

 というのも、ひとりで遊べるコンテンツでしたら開発環境で撮影できますが、ヨルハシリーズのようなコンテンツだと、24人のプレイヤーがいないと画にならないんですよね。ですから、通常のワールドに撮影しに行くことになりました。

『FF14』第8弾サントラ『Death Unto Dawn』の発売を記念して祖堅正慶氏にインタビュー。『漆黒のヴィランズ』での楽曲制作、音作りのこだわりを訊く

──たしかに大人数のバトルコンテンツだと、実際にそのコンテンツに突入しないとプレイヤー実際に戦っている画は撮れないですよね。

祖堅さらに言えば、サウンドチームには数人しかいないので、いわゆる野良で行くしかない。これを撮影するのは、すごくたいへんでした。とくにボズヤ関連のコンテンツは、たくさんのプレイヤーがワチャワチャしているとこを撮らないといけないので、かなり苦労しました。

──スカーミッシュもそうですが、攻城戦もいつ発生するかわからない状態ですし(苦笑)。

祖堅攻城戦は、ロケハンとかできないですからね。始まったら突入するしかないんです(笑)。あとは、皆さんが真剣に遊ばれている中で、ひとりだけサボって撮影しているわけにはいかないので、皆さんにご迷惑をかけないように精一杯戦いつつ撮影をするという、けっこうテクニカルなことをしているんです。そうやってなんとか撮影したスクリーンショット集になっていますので、ぜひ注目していただきたいです(笑)。

──撮影に夢中になっていたら、いつの間にか床を舐めていると……?

祖堅ありましたね(笑)。でも、床ペロしているときに主観視点にすると、ちょうど画角的に、プレイヤーたちがすごいところでとんでもない敵と戦っているんだ、という雰囲気がすごくよくわかる写真が撮れまして。そういった写真も含まれているので、この話を思い出しつつクスっとしながら見て、聴いていただければ(笑)。

『暁月のフィナーレ』トレーラー楽曲は祖堅さんの“叫び”で生まれた!?

──『暁月のフィナーレ』のトレーラーも公開されて、新曲も公開されました。こちらの制作エピソードについても教えてください。

祖堅いつもは鼻歌だったり、ピアノだったりで作っていますが、今回は家で怒鳴っていたらできました。

──それはどういうことでしょうか?(笑)

祖堅こういうジャンルで、こんな感じの曲にしたいというオーダーは、吉田(吉田直樹氏。『FFXIV』プロデューサー兼ディレクター)と石川からくるんですけど、今回は参考となる曲がラウド系でした。なので「一回叫んでみるか!」と自宅で叫んでみたら、いいメロディーが浮かんできて、それを肉付けしていく形で曲作りを進めていった感じです。

──それで“怒鳴る”なんですね(笑)。でも、あらためて曲を聴くとこれまでの拡張パッケージのテーマソングのメロディーが入っていたり、ハイデリン&ゾディアークを想起させる男女のコーラスが入っていたり、いろいろな要素が入った楽曲で素晴らしいです。

祖堅“フィナーレ”という名にふさわしく『新生エオルゼア』からの流れを終結させるということを意識しています。そういった考えからも、すべての拡張パッケージのメロディーを入れてやろうと考えました。

 気づいた方もいらっしゃるかもしれませんが、それぞれのメロディーは映像に合わせてどこに入れるかを決めているんですよ。たとえば、エスティニアンが映るシーンでは『Heavensward』、ゼノスたちが映る場面は『Stormblood』と、映像に合わせてその柱となるメロディーを入れて、ひとつの楽曲に仕上げたという感じです。

──映像は先に完成していたのでしょうか?

祖堅そうですね。今回も画が先に完成していました。ですが画があったとしても、音楽はそんな便利に映像に合わせられるものじゃないんですよ……(笑)。

──たしかに「何秒のタイミングでこれを入れて」と言われても、そう簡単に入れられるものじゃないですよね(苦笑)。

祖堅だから3拍子を入れたり、長さやテンポを微妙にいじったりと、いろいろと調整しました。最終的には、なんとかうまくいったかなと。

──今回の楽曲ではサム・カーターさん(ARCHITECTSで活躍中のボーカリスト)とコラボとなりましたが、どういった経緯で決まったのでしょうか?

祖堅もともと、こういった声で歌える方を捜していて、そこで出会えたのがサム・カーターさんでした。本当に“歌声”で決めた!という感じです。いろいろ調整はたいへんでしたが、最終的に快く引き受けていただけてよかったなと。

 あとは演奏をTHE PRIMALSでやっているのですが、それもうれしかったですね。メンバーには映像とタイミングを合わせるのがめちゃくちゃ難しいと言われましたが(笑)。

『FF14』第8弾サントラ『Death Unto Dawn』の発売を記念して祖堅正慶氏にインタビュー。『漆黒のヴィランズ』での楽曲制作、音作りのこだわりを訊く

──映像に合わせるということは、アドリブがきかないということですもんね。スタジオでも映像を見ながら収録されていたのですか?

祖堅完成形ではなく仮のものではありましたが、映像を見ながら合わせていきましたね。これがなかなかたいへんで……(笑)。余談ですが、サムさんが『Stormblood』を歌っている部分がありますが、吉田がここのフレーズをすごく気に入って「ここだけでもいいから早く音源をくれ」ってうるさくて(笑)。

──そこまで熱量が上がるのはなかなかですよね。

祖堅サムさんもアドリブを入れてくれたりして、それを活かすように楽曲を仕上げていきました。もちろん、既存のメロディーだけでなく、オールド・シャーレアンで流れるメロディーは新しい曲となっています。

 ちなみに、このシーンを歌っているのは『Tomorrow and Tomorrow』を歌っているAmanda Achenさんなので、聴き覚えがある方もいらっしゃるかもしれません。

2021年後半にかけては過去最大のボリュームで仕事に取り組む日々に!

──THE PRIMALSと言えば、5月のデジタルファンフェスティバルのライブは、とにかく“すごい”という感想でした。今回のライブを演奏されていかがでしたか?

祖堅おもしろかったですね。配信ならではというか、オンステージだけではできないことをやろうと詰めていって、思ったことはほとんどできたと思います。たとえば、『ロングフォール ~異界遺構 シルクス・ツイニング~』でダンスを披露しましたが、最初から完成形の画は僕の中にはイメージできていたものの、それをどうやって実現するかが難しくて……。いろいろな人の手を借りて完成に至ることができました。

──あの場面が、いちばんライブを見ていてビックリしたシーンかもしれません。ファンの手でネットミームになったものを、公式としてあの形に落とし込むというのは想像していなかったので(笑)。

祖堅プレイヤーからの“Fun”に“Fun”で返させていただいた形ですね。ファンと開発者がいい距離感で、お互いをリスペクトしつつ、いっしょに楽しんで、いっしょにゲームを作っていけるという内容を音楽ステージの表現に落とし込みたかったんです。あのライブではそんな“Fun To Fun”ができたのではと思っています。

──『FFXIV』とファンとの距離感の幸せさをすごく感じた曲でした。

祖堅ただ、あのダンスをライブで表現するのはなかなか難易度が高くて、上で踊っていた人たちは1ヵ月間、毎日3時間くらい練習しているんです(笑)。それぐらい、ガチで取り組んでいたんですよ。

 踊りの形はできても、表情がよくないとか。ただ踊って終わりではなくて、視聴者に向けて魅せる練習をしろとか……。笑顔で踊るのってけっこうたいへんなんですよ。だから、あれは本当に練習の賜物だと思います。

──踊っていた方々は、室内さん(室内俊夫氏。グローバルコミュニティプロデューサー )をはじめ、そうそうたる役職の方々でしたね。

祖堅プレイヤーとある程度やり取りをしている人たちのほうが親しみやすいかなと思って、ご指名させていただきました(笑)。吉田が「俺が入ってなくてホッとした」と言っていました(笑)。

──こういう話をしていると、またライブが見たくなってきました(笑)。

祖堅コロナ禍が落ち着いたらまたやりたいですね。あとはオーケストラコンサートも。この状況が収まらないとなかなか難しいので、タイミングを見てという感じですが。

──それを含めて、来年にかけての抱負、目標をお願いします。

祖堅まずは次の拡張パッケージである『暁月のフィナーレ』を、とにかく完成させないといけないという思いが強いです。いまはその思いでいっぱいいっぱいです。これまで何度もいろいろな場で言っていますけど、『FFXIV』はおかしいんですよ。

──おかしいと言いますと?(笑)

祖堅新生のエオルゼア』を作り終えたときもヘトヘトでしたが、吉田に「次のパッチこそが大事なんだ」と言われて、なんとかがんばって。今度こそ開放されると思っていたら、「次の拡張こそが……」その流れがくり返されて……そうやって、いまに至るんですよ(笑)。

──さらに言えば『暁月のフィナーレ』では、ハイデリン・ゾディアーク編の物語が終結を迎えますからね。

祖堅「今回で終わるんだ」と騙され続けてここまで来て、さらに言えば作る量もどんどん増えていって……。気が付いたらものすごい量を作っているんですよ(笑)。サウンドチームも最近多少ですが増員できたので、なんとか制作をまわしていますが、本当に「なんとかまわっている」という表現が正くて。

──それほどまでに過去最大の物量なんですね。

祖堅とにかくヤバいんですよ! 「このスケジュールでやる量じゃなくない?」と声を大にして言いたいです(笑)。僕のことを知っている方からすると、「この人はいつもやばいって言っているな」と思うかもしれませんが、『暁月のフィナーレ』は本当にやばいんですよ(笑)。

──気づけばもう発売まであと4ヵ月ですし。

祖堅何度も言わせていただきますが、今回の物量はおかしいです。ですので、『暁月のフィナーレ』の作業を無事に終わらせられるように、とにかくがんばるしかないなと……(笑)。もちろん、皆さんによりよいプレイ体験をお届けできるように、いいサウンドを作れたらなと思っています。

 あとは先ほども言いましたが、コロナ禍が落ち着いたらオーケストラやTHE PRIMALSの音楽コンサートをやりたいなと思っています。僕もそう思っているし、メンバーもそう思っているので、やるタイミングがきたら、ぜひ足を運んでいただければ。

──では最後にサントラの発売を待つファンへメッセ―ジをお願いします。

祖堅新しく発売されるサントラは、“ただのサントラではない”仕上がりになっているので、ぜひ中身を楽しんでください。『漆黒のヴィランズ』の締めくくりとしてふさわしい1枚になったと思います。

 ゲームをプレイしていてサウンドが気になった方はこのサントラを購入してもらって、音だけでも楽しめるということを存分に味わっていただきたいですね。音を聴いていると、おのずとゲームを遊びたくなると思うので、そのときはまた『FFXIV』を全力で遊んでいただければと思います。

──今回は、とくに曲のバラエティーの豊かさがピカイチですよね。

祖堅そうですね。1枚で5度ぐらいおいしいサントラになっているので、ぜひ手に取って、『漆黒のヴィランズ』のサウンドを堪能していただければ!