2021年5月25に公開されたパッチ5.55をもって、『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)の次期拡張パッケージ『暁月のフィナーレ』に向けたシナリオがすべて出揃った。世界中のプレイヤーから賞賛された『漆黒のヴィランズ』と、それに連なる一連のストーリーがひとまず幕を閉じた形だが、いまさら述べるまでもなく、それらは感動とオドロキに満ちあふれたものだった。

『FFXIV』史上最高とも呼ばれる今回のシナリオは、どのような経緯でテーマが形作られ、どう制作が進められていったのか。さらに、罪喰い化しつつある光の戦士を見て落胆したエメトセルクの“本心”や、ランジート将軍との決戦後にサンクレッドが見せた“口パク”の真相など、いまだ残されたままの謎はどうすれば解明に近づけるのか……。そうしたところを探るべく、プロデューサー兼ディレクターの吉田氏にインタビューを依頼。一連のシナリオをすべて振り返れるようになった、いまだこそ語れる秘話をたっぷりと語ってもらった。

 なお、一部はすでに8月26日発売の週刊ファミ通にて掲載済みだが、こちらはその全文となり、前編と後編にわけて公開予定だ。

※インタビュー後編はこちら

 そしてインタビューの模様をお伝えする前に、まずはご忠告を。冒頭で説明した趣旨からもわかる通り、本記事は直近のシナリオに関するネタバレ要素が随所に散りばめられている。メインシナリオがまだ『漆黒のヴィランズ』まで到達していないプレイヤーにとっては、先々で味わえるはずだった楽しみが奪われることにもなりかねないので、細心の注意を払いつつ読み進めてほしい。

 またこの記事では、パッチ5.0で公開されたメインシナリオを『漆黒のヴィランズ』と表記。その一方で第一世界にまつわるストーリーが語られた、パッチ4.4からパッチ5.3までのメインシナリオを、漆黒編と記述している。『漆黒のヴィランズ』の呼び名は、ノルヴラントに闇が取り戻された後のストーリーは含んでいないので、その点にご留意を。

 その漆黒編にはふたりのミンフィリアが登場するが、混同を避けるため、かつて暁の血盟の盟主だったほうのミンフィリアは、義母フ・ラミンに引き取られる前の呼び名を取ってアシリア。光の巫女の宿命を背負って第一世界に生まれたほうの少女ミンフィリアは、リーンと表記している。会話の中で、「当時はまだその名前で呼ばれていない」と指摘すべき部分も出てくるが、そのあたりはなにとぞご理解、ご容赦いただきたい。

※週刊ファミ通2021年8月26日発売号に掲載された本インタビューの抜粋版でも、吉田氏が取材時に"ミンフィリア"と語られた部分に関して上記のふたつの呼称に変換していますが、その際に"アシリア"と表記すべき箇所を"アリシア"と誤って表記しておりました。この場を借りて訂正させていただきます。

吉田直樹(よしだなおき)

スクウェア・エニックス 取締役執行役員 第三開発事業本部長。『ドラゴンクエスト』シリーズ初のアーケードタイトルである『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』シリーズのゲームデザインとディレクションを担当。2010年12月に『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクターに就任。現在、『ファイナルファンタジーXVI』のプロデューサーも兼任している。

“世界の謎の8割をぶちまける”を実現するためにシナリオを構築

──『漆黒のヴィランズ』のメインシナリオは、個々のキャラクターが描き手の意思を超えて自然と動き出しているかのような躍動感がありました。今回の物語が世界中のプレイヤーに評価された要因のひとつに、そのあたりもあるだろうと思っています。吉田さんご自身は、開発のどのあたりのタイミングで、「これはイケる!」という感触を得たのでしょうか?

吉田どの拡張パッケージも「イケる!」と思って作っているので、そのご質問は難しいですね(苦笑)。

──そうですよね(笑)。

吉田そのうえでお答えするなら……『漆黒のヴィランズ』では、旧『FFXIV』を含めたサービスを『紅蓮のリベレーター』まで展開してきたことを踏まえて、“世界の謎の8割をぶちまける”と決めて開発に着手しました。手ごたえを得たのは、開発が進むにつれてそれらがキレイに繋がっていく過程を見たときでしょうか。

 目の前に答えがどんどん出てくるうえに、しかもそれらが納得感に満ちていて、しかも新たな事実が提示されたらつぎの展開へとスピーディーに進んでいく。先々のシナリオが気になって、プレイする手を止めるのがいままで以上に難しいなと感じました。

 ひとりのプレイヤーとして見ても、ひとつの物語が終盤に突入していく雰囲気がすごくよく出せたと思っています。おそらくそうしたあたりを感じたタイミングで、「イケる!」といった感触を感じたのかなと。時期的には、(2019年5月に欧米で開催された)メディアツアーの開始直前くらいだったと思います。その前からそれなりに自信はあったのですが、各種チェックで実際に触れてみることで、形として実際に見えてきた……そんな感じです。

──その段階で、完成形に近いバージョンでメインシナリオをプレイしたわけですね。

吉田そうですね。僕が1回目の通しプレイを行った時期になります。

──今回のインタビューに際して『漆黒のヴィランズ』をやり直したのですが、その後のストーリーを知っているからこそ楽しめるシーンがいくつもありました。冒頭、クリスタルタワーの地下で光の戦士がガーロンド・アイアンワークスのマークが刻まれた何かを手にすると第一世界に飛ばされるシーンは、まさにその端緒かと思います。今後につながる伏線が序盤に数多く配置されていることにも改めて気づきました。これは“つよくてニューゲーム”のシステムを活用した再プレイを念頭に置いたうえで、狙ってそうされたのでしょうか?

吉田“つよくてニューゲーム”があるからそうした、というわけではありません。僕たちは常に変わらない姿勢で作ってはいるのですが、開発の練度が上がってきたことで、伏線をうまく配置できた部分はあるかと思います。ただ、さきほどお話した通り『漆黒のヴィランズ』で“世界の謎の8割をぶちまける”ことを決めたので、答えの提示はやりやすかったです。何かを匂わせたりする必要がないので、そのぶんわかりやすいシナリオになったのではないでしょうか。

──確かに、中身はすごく濃密なのに、物語としてはすごくわかりやすい作りでした。

吉田原初世界の歴史があのまま進むと、“黒薔薇”によって世界の人々の何割かが命を落とし、かろうじて生き残った民衆は食料を求めて争う戦乱が発生し、第八霊災へと突き進んで行きます。これに抗うべく、その後約200年もの歳月をかけて、シドたちは時の翼とオメガの次元航行に秘められた謎を科学的に解明。クリスタルタワーのエネルギーを用いて歴史の改変を試みる……これが前提としての一連のシナリオですが、その流れを今後も引っ張るのであれば、ここまで明確に答えを提示できなかったと思います。今回は、それらをすべて明かすことにしたからこそ、プレイヤーにドンとお見せできる部分がかなり増えた形です。

 たとえば、アルバートの冒険も今回でキッチリ終わらせるつもりだったので、彼が歩んできた人生とその終着をあそこまで深く描くことができました。後ろの部分をモヤッとさせたり、最終的な結末を伝えるのを控えたりすると、どうしても深くまで語り尽くせなくなってしまいます。……正直に言えば、先ほどお話にあった“光の戦士がガーロンド・アイアンワークスの紋章が刻まれた機械を手にするシーン”ですが、シナリオを担当した石川(石川夏子氏。リードストーリーデザイナー)のナイスアイデアで、あれは僕たちの中でのネタ回収にもなっているんです(笑)。

──と申しますと?

吉田クリスタルタワーシリーズのシナリオのラストシーンで、ネロが小型のカウンターを崖に投げ捨てますよね。ネロが去った後、それが何かを検知しますが、じつは『漆黒のヴィランズ』で光の戦士が拾った、光の戦士を召喚するための座標としての機械に反応していたのです。もちろん、当時はさすがにそこまで見越して作っていたわけではなく、ネロが捨てたカウンターの反応は、いつの日か新しいレイドダンジョンを作ることなったときに備えたものでした。

 かつて、あの崖の下に“禁断の地 エウレカ”というダンジョンを作るという構想が存在していて、それを見越して「あの装置はその場所に反応したことにしておこう」ということで当時そうしたのです。ところがその後、ご存知の通り別のコンテンツで“禁断の地 エウレカ”が使われることになりました。

──そんな経緯があったとは驚きです。

吉田原典となる『FFIII』の“禁断の地 エウレカ”は、実際のところダンジョンではなく、ある意味ショップでしかありません(※1)。ダンジョンの企画段階で「これは無理だな」という話になり、”エウレカ”という名前はほかのコンテンツに切り出すことになりました。その結果、ネロのシーンで起きた一件が宙に浮いたので、「あの歯車に似た機械に反応した」と考えられるようになっています。そういう意味で、冒頭のあの場面は僕たちの中での答え合わせでもあるのです。

※1:『FFIII』の“禁断の地 エウレカ”は中ボスが多数配置されたダンジョンだが、最大の目的はクリスタルタワーの攻略前に強力な武器と“忍者”“賢者”のジョブを入手することであり、最深部のショップではフレアやホーリーなどの魔法やクリスタルの防具を購入することができた。

『FF14』ネタバレ全開の『漆黒のヴィランズ』秘話を吉田P/Dが赤裸々に語る(前編)。構想時には『覚醒エオルゼア』という“ボツ案”も存在した!
ネロが投げ捨てた計測器は、何かを計測する音を発しながら崖に落ちていく。

──確か、そういう予想を立てたプレイヤーもいたはずです。

吉田「もしかしてネロの投げたあの機械が!?」と言うご意見を見つけて、「あ、そう思ってくださっている人がいる!」と(笑)。

 ですので“つよくてニューゲーム”による2回目のプレイを意識して何か特別なことをしたというわけではありません。ですがとくにRPGは、最初からもう一度プレイされる方も多くおられるので、そうしたプレイヤーに「あれもそうだったのか!」と思っていただくことも重要だとは思います。僕自身、好みのミステリー小説を何度も読み返したりしますので、『漆黒のヴィランズ』でもそうする方はきっとおられるはずです。そのようなプレイヤーの皆さんに、「こんなにすごい仕掛けを用いたゲーム表現が可能なのか!」や「そこまで考えて作られていたとは!」みたいなオドロキを味わってもらえればなと。

 今回のエピソードのように、もちろんすべてが当時考えられ、数年がかりで回収されたものばかりではありません。しかし、それを忘れず、未来に生かしていける、というのも開発を続ける醍醐味です。そんなオドロキを含め、ゲームをプレイする体験が、ゲーム業界を目指すきっかけにもなってくれれば、さらにうれしいですね。

『暁月のフィナーレ』では懐かしい人物たちの“カメオ出演”が!

──そうしたオドロキを思い出す意味でも、『暁月のフィナーレ』が開幕する11月23日までに、もう一度シナリオを見直しておくのがよさそうですね。

吉田そのことなのですが、じつは少し前に僕が海外メディアさんのインタビューでお答えしたことに関して、ちょっとだけ翻訳のニュアンスが違っているところがありました。僕は、特定のシナリオをオススメに挙げたわけではなく、『新生エオルゼア』から『漆黒のヴィランズ』までのすべての物語を再度プレイしてほしいと促したわけでもありません。

 もちろんお時間があればもう一度通しで遊んでいただけるとうれしいのですが、たいていの人は難しいはずなので、「『蒼天のイシュガルド』や『紅蓮のリベレーター』など、お気に入りのシナリオだけでいいから振り返ってみてください」とお話したのです。

──そうお話された理由は何ですか?

吉田『暁月のフィナーレ』で“ハイデリン・ゾディアーク編”が完結を迎えるだけでなく、『FFXIV』全体として見ても“ひとつ目のサーガのラスト”という位置づけだからです。そのため、かつての顔見知りが、言わばカメオ出演のような形で結構出てきます。お気に入りのシナリオだけでもプレイしてもらえれば、さらに深みのある楽しみかたができるはずです。

 またメインシナリオのほかに、未体験のジョブクエストやクラスクエストがまだ残っている方も、それらを事前にプレイしておくとより深く楽しめるかもしれません……海外メディアさんにそういうお話をしたのですが、その記事を機械翻訳した際に、ニュアンスが変わってネットで広まったのかな、と(苦笑)。

──細かいサブクエストの中にも、見逃している重要シーンがあるかもしれませんね。

吉田くり返しになりますが、『暁月のフィナーレ』で『FFXIV』が終わるわけではありません。ですが、これまでの本作をやり込んでくださっているプレイヤーほど、ニヤニヤできるタイミングが多く訪れると思います。光の戦士はずいぶん長く冒険してきているので、皆さんもおそらく記憶が薄れているところがあるでしょう。お時間があるときに、好きな部分だけでいいのでいろいろ見ていただくと、一段と楽しめるのではないかなと思います。

──この流れでお聞きしますが、“ハイデリン・ゾディアーク編”が完結を迎えるということもあり、『暁月のフィナーレ』は従来の拡張パッケージ以上に力が入っている感じですか?

吉田はい。すべてが出揃った後で、「ひとつ前の物語のクライマックスのほうが盛り上がっていたね」と言われると悲しいですから(苦笑)。『漆黒のヴィランズ』で得た確信があるからこそ、つぎの『暁月のフィナーレ』に関してもすでに確信が持てている部分がいくつかあります。少しも目が離せない展開になるので、ぜひ楽しみにお待ちください。もちろんその先の展開も考えているので、プレイ後半でも寂しさを感じたりはしないと思いますよ。

──『漆黒のヴィランズ』の単なる延長ではないようでワクワクしますね。

吉田ただし、あの古代人たちでさえ手に負えなかった世界の終末です。そんなに生やさしくはないので、心してかかってくださいね。

──これまで吉田さんを始めとする開発スタッフの方々が乗り越えてきたシナリオ面の葛藤が、『暁月のフィナーレ』に経験として活かされていると言ってよいでしょうか。

吉田葛藤というと、そこまではないのですが(笑)。いずれにしても、一筋縄では行かないと思います。『漆黒のヴィランズ』で皆さんから高い評価をいただけたからといって、同じものを作っても仕方ないですし、それを踏まえての『暁月のフィナーレ』になっているのでご期待ください。

アシエンの全貌と彼らの苦悩を描き切れた理由

──先ほど“世界の謎の8割をぶちまける”とお話されていましたが、残しておくべき2割の謎に関して、『漆黒のヴィランズ』の開発時にリストアップや精査をされたのですか?

吉田いいえ、とくにリスト化はしていません。詳しくはお話できませんが、「これとこれとこれはまだ出さないで」という直接指定はしました。僕が指定した要素以外をさらけ出せば、全体の謎の8割くらいになるから大丈夫だろうといった感じです。

──いくつかのポイントだけ、表に出すのを控えたと。

吉田「指定した要素はまだ決着をつけないので、そこにまつわる話はナシで行こう」と伝えました。その一方で、たとえば「ハイデリンとゾディアークが蛮神であるところまでは今回の物語で明かしてオーケー」という話もしています。

──アシエンも、当然その伏せておくべきポイントに入ってしかるべきだと思っていたのですが、『漆黒のヴィランズ』でほぼ全貌が語られました。彼らは“不滅なる者”であるがゆえに、人類のように思いを継ぐことができないため、救い出すべき同胞への慕情を抱えたまま生き続けなければなりません。そうしたところを今回のメインシナリオでしっかりと描くことも、初期の段階から決まっていたのでしょうか?

吉田はい。『紅蓮のリベレーター』までは、いずれ決着をつけなければならない世界の謎のうち、もっとも敵として認識されているアシエンたちが、すごくぼんやりとしか見えていませんでした。当時は「語るべき尺が足りないので、まだそのまま、ぼんやりでいい」と話していた部分です。そのぶん表層的に戦わなければならない敵をしっかり描きました。

 たとえばガレマール帝国がそれに当たりますし、よくある手法ですが、光の戦士がゼノスに敗れるシーンを作ってもらったのも、彼に対してプレイヤーが”近さ”を感じてもらうためでした。一方で『漆黒のヴィランズ』は、世界の謎と戦う方向に物語を持っていくことに決めました。かつてガイウスやトールダン、ゼノスらがいた場所についにアシエンが立つ……その順番が回ってきたという位置づけです。

 であれば、薄くてぼんやりとしたアシエンをハッキリとしたキャラクターとして描かないと、プレイヤーはスッキリ楽しめないので、『漆黒のヴィランズ』はそれも大きなテーマのひとつになっています。

──そうした明確さもプレイしていて強く感じました。

吉田その場合でも、キーパーソンであるエメトセルクが、「5.0になってからパッと出てきたよくわからない人」と思われるのを避けるために、しっかりこれまでの冒険や登場人物との繋ぎ合わせが必要になります。そうしなければ、なかなか舞台にはハマらないのです。そのあたりを意識して、エメトセルクの登場はパッチ4.4のラストからになったのです。初登場した当時とは、皆さんのエメトセルクに対する評価はまったく違うと思いますが……。

──ガレマール帝国初代皇帝の姿で現れて、「また変なヤツが出て来たよ」と思ったことをよく覚えています(笑)。それがまさか、ここまで印象に残る人物になるとは思いませんでした。

吉田それまでのアシエンがそういう系だったので、またよくわからないことを言う人なのか?と思いますよね(苦笑)。

『FF14』ネタバレ全開の『漆黒のヴィランズ』秘話を吉田P/Dが赤裸々に語る(前編)。構想時には『覚醒エオルゼア』という“ボツ案”も存在した!
エメトセルクはパッチ4.4で初めて登場。その独特の語り口から、うさんくさい人物と思った人も多いはず。

“世界の謎”を“魂を継ぐ者”に昇華させたシナリオ担当の石川氏

──『漆黒のヴィランズ』発売前のインタビューで吉田さんから、今回は“魂を継ぐ者”が裏テーマになっているとお聞きしていました。それを踏まえてプレイしたところ、実際にいろんな場面でそれを感じ取ることができました。そろそろお伺いしてもいいころかなと思うのですが、この“魂を継ぐ者”という裏テーマの意味と、その狙いをお聞かせください。

吉田僕というよりもシナリオを担当した石川が選んだテーマなので、そのうえでの書き味だと思います。実際、事前に僕のほうから「これを裏テーマにしよう」とは言っていません。

──石川さんが決められたのですね。

吉田はい。彼女が「自分の中での裏テーマは“魂を継ぐ者”なので、それを念頭に置いたうえでチェックしてもらえるとうれしいです」と言ってきたときに、初めてそのキーワードを聞いたと記憶しています。詳細は石川に聞いてもらったほうがいいのかもしれませんが、“世界の謎の8割をぶちまける”という方針を受けて、おそらく“繋いできたからこそいまがあるのだ”というテーマを自分の中で据えたのだと思います。

 石川は自身のネタ出し用のノートに、“これは世界を救う英雄の物語である”と書いていたらしいので、“光の戦士のこれまでの行いがひとつに繋がる”という自分の中でのテーマに従って書いてきたからこそ、グ・ラハ・ティア、オメガ、アレキサンダーの3者を結びつけることができたのではないのかなと思います。グ・ラハ・ティアの再登場は、彼女のたっての希望でもありましたしね。

──その結果、まさに世界中のプレイヤーを感動させる物語になりました。

吉田自分自身で決めたテーマに従って一生懸命言葉を紡いでいったからこそ、プレイヤーの方々にそう思ってもらえたのではないのかなと。ライターの力量もそうですが、そしてそれを、一丸となってゲーム体験に昇華させた開発チームも凄かった。さらには皆さんのこれまでの冒険があったからこそ、強く”歩んできた道”、”継ぐ者”という感覚を得られたのではないかなと思います。

──そのやり取りが行われたのは、いつぐらいですか?

吉田我々はシナリオをいくつかの“Act”に分けて作っており、だいたい“Act6”くらいで拡張パッケージひとつぶんの分量になります。たいてい、“Act1”から“Act3”までを僕が一度チェックしたうえで、“Act4”以降は2回目のチェックに回すという流れになっているのですが、たぶんその1回目くらいの時期だったと思います。ちなみに『暁月のフィナーレ』は“Act7”まであったりします……。

──“魂を継ぐ者”という裏テーマは『漆黒のヴィランズ』にとどまらず『新生エオルゼア』『蒼天のイシュガルド』『紅蓮のリベレーター』を体験してきたプレイヤーたちの魂も継いだ物語、という意味合いがありそうです。

吉田だから“よりエモく”感じられるのだと思います。

──いまのお話を聞いて改めて、今回の物語が素晴らしいものだったと実感しました。

吉田“長く 長く続く道。あなたはそこを 旅し続けている。ひとつひとつの冒険は 歩みを進めるほどに過去になっていくだろう。そこで出会った人々の 声を 顔を思い出せなくなる日がきたとして──。そんなときには これだけ思い出してほしい。どんなに遠くなろうとも すべての冒険は 今日のあなたに続いている。いつか覚えた喜びが 流した涙が 受けた祈りが 決してあなたを 独りにはしないだろう。──この記憶の最後に 私はそう願っている”……。パッチ5.3のラストシーンで光の戦士がクリスタルタワーに向かって歩いていくときのこのナレーションが、すべてを象徴していると思います。

──素晴らしいモノローグです。この流れであえてお聞きしますが、『漆黒のヴィランズ』のシナリオに足らないところがあったとすれば、どのあたりでしょうか?

吉田うーん、これはいまでも悩んでいるのですが、『漆黒のヴィランズ』には“いい人”しか出てこないなあ、と……。というか、ものわかりがいい人が多い。

──だからこそ、罪喰いにその役回りを与えたのかと思っていました。

吉田いや、そうではないのです。罪喰いは、あくまで”目の前にわかりやすく存在する、倒すべき敵”です。闇の戦士であるプレイヤーのみなさんが、第一世界の方々で戦う。そしてそれに救われた人が、こんどは闇の戦士の背中を押していく。この構図はとても気持ちがいい。

 でも、その流れにすべての人がまっすぐに向かっていくとき、僕の中では、チャイ夫妻に解雇され、ヴァウスリーから「ユールモアから飛び降りろ」と言われた画家のトリストルが、のちに彼らを許すのがどうしても腑に落ちなくて……物凄く悩み、いまでも悩んでいます(笑)。

『FF14』ネタバレ全開の『漆黒のヴィランズ』秘話を吉田P/Dが赤裸々に語る(前編)。構想時には『覚醒エオルゼア』という“ボツ案”も存在した!
追放というよりも処刑に近い形でユールモアを追われたトリストルは、予期せぬ形でその古傷をかきむしられることに。

──崖の上にあるアミティー村での一件ですね。

吉田溺死しそうになったところを闇の戦士たちに助けられたお礼として、トリストルはアルフィノに画材を手渡すわけですが、その縁で彼はチャイ・ヌズと再会することになります。

──確かに、どうすべきか苦悩はしたものの……という展開でしたね。

吉田あのシーンは、シナリオチェックの際、僕自身で書き直した文章まで用意したほどです。「私は一生お前たちを許さないし、二度と顔も見たくない。でも、私を救ってくれたあの人とあの青年に免じて……協力はしよう。だが忘れるな、それはお前たちのためじゃない」。そのような趣旨のテキストを書きました。

──口調もそのような感じだったのですね。

吉田グルグ火山への橋渡し役を担う巨大タロースを立ち上がらせるあのシーンでは、光の戦士が“闇の戦士”として歩いてきた足跡がすべて集合します。ですが、いくら下が海面とはいえ、ユールモアのあの高さから飛び降りることのきっかけを作った者を、あれほど簡単に許せる人はいるのだろうかとすごく悩みました。

 自分はただ、画家として正直に絵を描いただけなのに、と。せっかく『漆黒のヴィランズ』がエンターテインメントとして突き抜けた作りなのに、そのひとつがトゲになってしまう懸念もあって……しかし僕としては、そのトゲも重要だと思っていますし、うーむ、と。そんなこともあり、2日くらいずっと悩んでいました。

──差し替え用のテキストは最終的にどうされたのですか?

吉田僕の意見をスタッフに伝えたうえで、採用せずにそのままにしました。飛び降りを直接命じたのはヴァウスリーであって彼ではない。おそらくトリストルは、アルフィノがそうしたのと同じように、夫人の絵を観たまま、そして彼なりに感じたままに描いたのだと思うのです。ヌズはそれが気に入らなかった。

 でもそれも、何もかも環境や状況が悪かったのだ……すべては割り切れないけれど、いまは大局を見よう。トリストルはそう考えたのかもしれない、そういう人物なのだろう、と解釈しました。『漆黒のヴィランズ』という物語のテイストはこれでいいかな、と。

吉田氏があえて選ぶ名シーン3選!

──『漆黒のヴィランズ』からパッチ5.55までのメインシナリオの中で、吉田さんがもっとも気に入っているシーンは何ですか?いちプレイヤーとしてでもいいですし、開発を代表してお答えいただいても構いません。

吉田ある意味僕はいちばん最初のプレイヤーのようなものなので、ひとつを選ぶのは難しいです。それでもあえて選ぶとすれば、作り手としての思い入れもありますが……。『漆黒のヴィランズ』で言えば、ウリエンジェがリーンに語り掛けるシーンでしょうか。

『FF14』ネタバレ全開の『漆黒のヴィランズ』秘話を吉田P/Dが赤裸々に語る(前編)。構想時には『覚醒エオルゼア』という“ボツ案”も存在した!
自身の決意をアシリアに伝えてしまうと、サンクレッドを悲しませることになる。ひとり苦悩するリーンの頭をやさしくなでた後、ウリエンジェはぽつりぽつりと語り掛ける。『漆黒のヴィランズ』を代表する名シーンのひとつだろう。

──先日のデジタルファンフェスティバル2021で、KENNさん(声優。ウリエンジェとウェッジなどの声を担当)がライブで演じられた場面ですね。

吉田ウリエンジェというキャラクターが初めて言葉で自身の思いを伝えたシーンです。彼は鋭い感覚の持ち主なので、近くに“英雄”やサンクレッドがいるのをたぶん気配で悟っていたと思います。それにも関わらず、まっすぐにあれほどのことを話せるようになったウリエンジェの成長ぶりと、開発者としてその舞台を用意してあげられたことに、心からよかったなと思いました。何しろウリエンジェは旧『FFXIV』のメテオ計劃(けいかく)の当時から、うさんくささに満ちあふれた人物でしたので(苦笑)。

──この人はずっと腹に何かを抱えているのだろうなと、当時の私も思っていました(笑)。

吉田ようやく、自分の本心を話してくれるようになりました。「私は人の群れの中で生きるのが苦手でしたので、これを思い知るまでに、時間がかかりすぎましたが」とまで言わせてあげられるキャラクターになりましたし、そこまでの舞台を作れるゲームになったと実感できたので、感慨もひとしおでした。

 そしてもうひとつ印象に残っているのは、リーンたちを追おうとするランジート将軍の前にサンクレッドが立ちはだかるシーンです。じつはあの場面は、お願いしてテキストを手直ししてもらったところでもあります。

──何が足りなかったのですか?

吉田たぶん、書き手も迷ったと思うのですが、サンクレッドにとって、アシリアとリーンがどういう存在なのかという部分です。明確に「妹と娘とハッキリ言ってほしい」と伝えました。光の戦士とリーンを逃がした後、「行かせはしない。妹と娘、ふたりの家族への想いだ……打ち破れると思うなよッ!」と言って両者が激突しますが、その時点でサンクレッドから見たふたりとの関係は明確にしておきたいと考えたのです。

 そうしてバトルが終わった後、サンクレッドはバタリと倒れて大の字になりますが、その倒れ込みかたと姿も、すごくこだわって調整した部分です。ランジート将軍との激闘を終えて余裕はないはずですが、二枚目キャラクターのサンクレッドであれば、誰かが見ていなくても、死に様になるかもしれない倒れかた、倒れたあとの恰好にも、自然と気をつかうはずです。

 最後のひと言にボイスが当たっていないところも含めて、サンクレッドという男のカッコよさがうまく表現できたと思っています。サンクレッドは、僕からしても当初は見ず知らずの人物だったのですが、『FFXIV』を10年間担当してきて、ここまで来たかと感じられたのが今回はすごく大きかったです。

──ではパッチ5.1以降の物語ではいかがですか?

吉田先ほどもお話したところではありますが、パッチ5.3のラストで原初世界に戻ってきた光の戦士がクリスタルタワーに向かって走っていくその裏側で、水晶公のモノローグが流れるシーンです。あの場面を観て、「夏ちゃんは開発チームにも向けてこの言葉を用意したな(笑)」と感じました。“自分たちが作ってきた道は決して裏切らない”という趣旨のモノローグなのですが、開発チームの立場から見ても、水晶公の言葉に噛みしめるものがあるだろうなと。

──『新生エオルゼア』の当時から見慣れているクリスタルタワーに、最終的に物語が集約されていくようにも見えます。

吉田僕たちにとっても、長年にわたる開発や運営は、やはり冒険みたいなものです。この先どんなことがあっても、自分たちがここまで作ってきたゲームは決して我々を裏切らないだろう、といった受け止めかたもできるので……。ですからあれは、「開発チームを泣かせようとしたな」と思うところがちょっとだけあります(笑)。彼女らしいセリフ回しだなと思ったのです。ところで、『漆黒のヴィランズ』の中にあのモノローグと対を成しているシーンがあるのですが、覚えていますか?

──むむ……?

吉田グルグ火山に巨大タロースを取り付かせる直前に、水晶公が岩陰で休むシーンが登場しますので、あのあたりを調べてみてください。愛用の紀行録でもいいので、一連の水晶公の語りを追ってみると、あのモノローグと対になる場面が見つかるはずです。お時間があるときでいいので、ぜひ探していただければなと。

『FF14』ネタバレ全開の『漆黒のヴィランズ』秘話を吉田P/Dが赤裸々に語る(前編)。構想時には『覚醒エオルゼア』という“ボツ案”も存在した!
これが吉田氏の指摘した、アミティー村でのひと幕。当該シーンを改めて見なおせば、きっと「なるほど!」と膝を打つはずだ。

サンクレッドの“口パク”には正解のセリフがある!?

──プレイヤーとして一番好きなシーンでもあるのですが、ハーデス討滅戦に突入する直前、大罪喰いの光属性を受け止めすぎて罪喰い化しつつある光の戦士は、「魂ごと、持っていけ!」と叫んだアルバートと融合することでその危機を回避します。

 思い返すと、エメトセルクは光の戦士と交渉する条件として“光属性を制御して自分のものにできること”を挙げていました。最終的にエメトセルクは不合格と断じたわけですが、アルバートの魂を受け止めた時点で、結果としてその条件をクリアーしていたようにも思えるのですが、このあたりについてお教えいただけますか?

吉田たぶん、その時点でちょっとだけ僕と解釈が違っています。まず、そもそもエメトセルクは、“真なる人”であれば、あの程度の光属性の高まりは、ラクにコントロールできて当然だ、と考えています。それくらい真の人と、彼が言う「なりそこない」の差は大きいのです。「大罪喰いの光属性をたかだか5~6体ほど喰らったくらいで、お前は罪喰い化してしまうのか?」という思いが、彼をあきれさせた要因です。

──なるほど。

吉田ニュアンス的に表現が難しいところですが、本来の魂を知っているエメトセルクの側からすると、いくら分割されていようが、大罪喰いの光属性などたやすく抑えてみせるはず。やはりお前は、アゼム、あるいはアゼムに似た者ではない……しょせんは、なりそこないだと。

──できそこないであると判断されたと。

吉田それが裁定の結果です。分かれたいくつかの魂の統合体でしかない光の戦士が、すべての光属性を制御しきれば、人間そのものを改めて見直す必要があるのかもしれない……そう考えたわけです。だからこそ、旅の過程も直接見てきた。人と手を取り合うことで、いままで自分たちが行ってきたやりかたとは違う解決策をむしろ模索できるのではないかと思っていた。

 ましてや光の戦士の魂は、彼がよく知り、そしてある意味敬愛していたであろう人物のそれによく似ていた……それなのに!と、彼はその一件で心底がっかりしました。これは、エメトセルクの本心です。

『FF14』ネタバレ全開の『漆黒のヴィランズ』秘話を吉田P/Dが赤裸々に語る(前編)。構想時には『覚醒エオルゼア』という“ボツ案”も存在した!
このセリフは、エメトセルクが心の底から絞り出したまさに本心。光の戦士に深く落胆した彼は、“なりそこない”を処断すべきと考え始めたのだ。

──ということは、その後で魂が融合したところで……。

吉田そこが、ちょっと僕の解釈と違うところです。ただこれは、何が正解というのはなく、どう感じたとしてもそれが正解です。ですので、あくまで”僕の解釈との違い”です。アルバートが「魂ごと、持っていけ!」と言ったことで確かにもう一段階魂が補完された。”真なる人”の魂の強さにまた一歩近づいた。何とかその時点の光属性の暴走は抑え込めました。

 ですが、ハーデス討滅戦をクリアーした後に出てくるヤ・シュトラのセリフをもう一度チェックしてほしいのですが、あれだけ光属性でボロボロになっていた光の戦士のエーテルが、闇属性によって相殺されているように見える、と。

──確かに!

吉田ハーデスは、”真なる人”から世界を奪おうとする者に、全力をもって闇の力をぶつけてきた。それに対して、光の戦士は光属性の力を大量に消費することで抗いました。ここはハーデス討滅戦中のハーデスのセリフにも表現されていますし、バトル後の光と闇の激突シーンも同じです。

 その結果、光の戦士の中にある光と闇、双方のバランスが取れたのではないか?つまりエメトセルクは、もしかするとあの局面で……一連のやりとりをもう一度じっくりご覧いただくと、また違った解釈ができる可能性もあるかな、と。もちろんこれが答えだとは言いません。

──いろいろな解釈のうちのひとつですね。

吉田いくつかありうるうちの、ひとつです。

──もうひとつお聞きしたいのですが、『漆黒のヴィランズ』の物語を通して、いずれにしても家族を失うことにサンクレッドは悩み抜いたはずです。しかもその答えはリーンが出すので、彼の心情を察すると胸が張り裂けそうになります。まったく質問になっていなくて恐縮ですが、吉田さんにそのあたりの思いをお聞きしたいのですが?

吉田サンクレッドとフ・ラミンのアシリアへの思いは、確かに“お兄さんや母親代わり”です。サンクレッドとしては、アシリアは家族なのだから、彼女自身の願いを最大限に尊重すべきで、自分がいくら悲しかろうが最終的には本人の意思を尊重し、その想いを守ってあげたほうがいい……それが家族というものだと考えているはずです。

 その一方でサンクレッドは、自分たちの愛情を押し付けることになったとしても、それを止めるべきなのではないかとも思っていた。この部分で葛藤したわけです。ですがアシリアは、後世に希望の灯を繋いでいくことこそが己の使命であり、命の役割であると考えていました。

 だからこそアシリアは、リーンならば光の戦士たちやサンクレッドと一緒に歩むことで、必ず彼女自身がつぎへ託していきたいであろう希望を得てくれると思ったわけです。だから、リーンのあの選択に対して、アシリアは、「あの願いは、あなたが拾ってくれたのね。……わたしは、それで十分、胸を張ることができる」と言ってすべてを託したわけです。

 サンクレッドからすると、家族を失うことに悲しさを感じてはいても、後悔はないと思います。彼自身は彼女と直接やり取りできましたが、フ・ラミンのほうはそれも叶いませんでした。でも、だからこそ原初世界に戻ったときに、それがどうだったのかについて、サンクレッドはラミンに一生懸命に伝えようとするだろうなと思います。

 いずれにしても、ランジート将軍と戦った後で彼が大の字に倒れるシーンをもう一度ご覧いただければ、そのあたりの心情をすべて吐露していることがわかると思います。僕としてもあの場面はすごくこだわったので、サンクレッドがどういう心境でアシリアを送り出したのかは、しっかり描いたつもりでいます。あの“口パク”にどのようなセリフがハマるのかも、何となくわかるのではないかな、と。

『FF14』ネタバレ全開の『漆黒のヴィランズ』秘話を吉田P/Dが赤裸々に語る(前編)。構想時には『覚醒エオルゼア』という“ボツ案”も存在した!
サンクレッドはか細い声でミンフィリアの名を呼んだ後、口だけを動かす。これが吉田氏が挙げた“口パク”のシーンだ。ここにハマる適切なセリフとは……!?

──私もそこが気になっていたので、もう一度チェックしなおします。

吉田これもあくまで、僕だったらこのひと言を言わせるな、と思っているだけですが、ぜひ(笑)。

──フ・ラミンの名前が出たので、こちらについても質問させください。彼女は、今回の物語でいちばん気の毒なキャラクターだと思っています。サブクエスト“小さな旅路”はフ・ラミンの「ゆっくり、おやすみなさい」という言葉で幕を閉じますが、個人的には「それでもどんな形であれ生きていてほしかった」と言ってもらいたかったです。私には、フ・ラミンは意外なほどすんなりとアシリアの運命を受け入れたのだなと感じたのですが、このあたりについてはいかがですか?

吉田フ・ラミンは、アシリアが光の巫女として第一世界に渡った時点で心情的に一度お別れしているのでそのせいかもしれません。なぜすんなりと受け入れられたのかというと、あの子が望んですべてを託したからであって、だからこそ「ゆっくり、おやすみなさい」と言えたと思うのです。僕としては、人が人をあわれむ展開があまり好きではないので……(苦笑)。ただし、少なくともラミンの性格からすると、“英雄の前”でそのセリフは言わないと思います。

──そう考察しているプレイヤーもいました。

吉田アシリアを送り出す、というその現場に立ち会った光の戦士に、ラミンは「それでも生きていてほしかった」とは言わないと思います。彼女はそういう人かなと。あのシーンは、ライターたちがものすごく悩みながら書いていましたね。

旧『FFXIV』時代の知られざる“紆余曲折”

──ちょっと『漆黒のヴィランズ』から話題が離れてしまいますが、先日のデジタルファンフェスティバル2021で行われた基調講演で、「旧『FFXIV』はスタート地点が当初6都市(リムサ・ロミンサ、グリダニア、ウルダハ、イシュガルド、アラミゴ、オールド・シャーレアン)になる予定だった」とお話されていました。各都市の大まかな設定は当時から存在したとのことですが、それぞれに紐づけられたシナリオの骨子は、吉田さんが引き継がれた時点ですでにあったのでしょうか?

吉田岩尾さん(岩尾賢一氏。旧『FFXIV』世界設定担当)とコージ(マイケル・クリストファー・コージ・フォックス氏。ローカライズスーパーバイザー)が当時から担当していたので、細かい設定はしっかりと仕上がっていました。ただ、各都市のあいだを繋ぐシナリオは、まだあまり存在していなかったと思います。

 旧『FFXIV』は当初“rapture(※2)”と呼ばれていたのですが、そのスタート地点が6都市から選べるという仕様は、かなり開発初期のころに存在していました。おそらくですが、『FFXI』のスタート地点が3都市だったことを受けて、6都市に決まったのではないのかなと。

※2:2008年6月に開催されたE3で、スクウェア・エニックスが次世代MMO(多人数参加型オンライン)RPGとして発表した作品。当時は新作タイトルというよりも、コードネームに近い位置づけだった。会場ではデモムービーが放映され、そこにはクリスタリウムによく似た施設が描かれていた。

──倍にしようと考えたんですね。

吉田単純にそんな気がしています。それぞれの役割は明確に決められていて、たとえば学術都市シャーレアンは知の都で、世界の知識がここに集まってくるという設定でした。一方でイシュガルドは“竜と騎士たち”にまつわる要素がすべて集約されており、チョコボも当地でのみ生息している……そんな感じです。

 そうした流れに沿って、世界最大の海洋都市であるリムサ・ロミンサ、すべての富が集まる砂の都ウルダハ、精霊との対話を基軸とする自然と調和したグリダニア、かつて数々の戦乱に巻き込まれて革命まで起きた内乱の国アラミゴ。これらの設定は結構決まっていたのですが、それぞれのあいだを繋ぐシナリオは、着任時の僕から見た範囲ではほとんどありませんでした。

 おそらく旧『FFXIV』の開発初期を過ぎたあたりで「6都市でスタートするのは不可能だ」という話になり、ひとつずつ減らしていったのではないのかなと。弥詠子さん(※3)がプロットを書き始めたころには、たぶん4都市くらいまで減っていたのではないでしょうか。

※3:佐藤弥詠子氏。『FFXI』のプランナーとしてウィンダスミッションや『プロマシアの呪縛』のストーリーなどを手掛けた。その後、初期の『FFXIV』でメインストーリーを担当。現在は再び『FFXI』で新たなシナリオ「蝕世のエンブリオ」を手掛けている。

──そこから「それでも多いよね」という流れに?

吉田「4都市も無理だ」という話になり、たぶんイシュガルドを入れるかどうかの判断になったはずです。そして最終的に、3都市でスタートすることになったのかなと。おそらくですが、旧『FFXIV』の時代から都市の入口である大審門が存在していたので、最後にイシュガルドが落ちたのだと思います。

 だから僕が着任した際に「なぜこれほどまでにファンタジー要素がないのか」とスタッフに問い合わせると、「それらはすべてイシュガルドの側にあるからです」という回答が戻ってきたわけです。

──『FF』らしいファンタジー要素が詰め込まれた、肝心のイシュガルドがまだない。だからこそ、拡張パッケージの第1弾としてイシュガルドを舞台に選ばれたのですか?

吉田そうです。何しろ大審門がすでに存在しているだけでなく、そこからイシュガルドが見えていたので、「それを開ければいいだけだ」とプレイヤーのみなさんは思うでしょうし(笑)。以前からお話してきた通り、僕はMMORPGというジャンルは拡張パッケージを発売できた段階でやっとスタートラインに立てるタイプのゲームだと考えています。仮にそれをリリースできるのであれば、冒険の舞台はイシュガルドしかないなと。

 加えて、当時の『新生エオルゼア』には海を潜る、空を飛ぶというふたつのゲーム体験が足りていませんでした。そこで『FF』といえば大空を飛ぶイメージが強いこともあって、『蒼天のイシュガルド』でフライングマウントを追加したのです。“蒼天”というキーワードも、そこから生まれています。

──当時のイシュガルドは、『FFXI』のジュノみたいな冒険者が集まる中級者向けの都市を想定していたのだろうと思っていました。あの場所もスタート地点の候補だったとは少し意外です。

吉田 6都市すべてをスタートにする予定だったのか、巡っていくのか、詳細は確定できていなかったとは思います。

“飽き”を打破する突破口として考えて誕生した第一世界

──そんなイシュガルドやアラミゴの存在は、『新生エオルゼア』の初期の段階からストーリーで何度も語られてきました。一方で『漆黒のヴィランズ』の第一世界は、プレイヤーに手渡されている事前情報がすごく少ない状態でした。そういう意味で、シナリオや世界を形作る際の自由度は、これまでの拡張パッケージよりも高かったのでしょうか?

吉田間違いなく高かったと思います。一方で『蒼天のイシュガルド』では、旧『FFXIV』の時代から応援してくださっている皆さんに対して、“竜と騎士の物語”というファンタジー要素を楽しんでもらえました。僕としては、そこを実現できたのが大きかったなと。

──『紅蓮のリベレーター』についてはいかがですか?

吉田奪還されていないアラミゴという土地があるので、ならばここかなと。とはいえ、「アラミゴは狭いことを覚えておいてください」と織田(織田万里氏。リードストーリーデザイナー)から言われていたこともあり、予定調和のアラミゴに見せかけて、思い切って東方地域も合体させて“解放者の物語”を描くことにチャレンジしました。

──拡張パッケージのコンセプトは、毎回吉田さんから案を出されているのですか?

吉田拡張パッケージで何をやるのか、どんな冒険にするのかといった根幹のコンセプトは僕から出しています。そうしたことも影響して、『紅蓮のリベレーター』を過ぎたあたりから、そろそろプレイヤーの皆さんもこれまでの既定路線には飽きてきているだろうなと。

 『漆黒のヴィランズ』が発表される前は、「そろそろガレマール帝国に行くのかな」や「いよいよシャーレアンが舞台になるのでは」みたいな予想が見受けられたので、何を発表しても「知ってた」と言われそうな世界を舞台にするのは避けたほうがいいだろうなと。僕がいつも言っていることですが、プレイヤーの方々には毎回驚いていただきたいですし、僕たちはそれを達成するための条件として、皆さんの“飽き”と戦っていかなければなりません。

 もちろん、10数年前に誰かが敷いたレールに沿ってパズルのピースを合わせていくように作っていくのも楽しいものですが、そろそろ皆さんに「えっ!?」と言っていただきたいなと。せっかく世界が14個に分かれているという設定を作ったのだから、ゼロベースで開発できる利点を考えると、それらのうちのひとつ目をそろそろ使ってみてもいいのでは……そんなところから構想を練り上げていった感じです。

 あとは”英雄”、”光の戦士”という固定されたワードをひっくり返そうと。そのおかげで、フィールドの設計はかなり自由が利きましたし、“光の氾濫によって押し潰されようとしている世界”というテーマに沿って、新しい挑戦ができました。

──代表的なところでいうと、どのあたりが新しい挑戦でしたか?

吉田光の戦士は、世界に夜を取り戻す闇の戦士になる、という設定もそうです。絵作りに関しては、“まるで天使が舞い降りてきそうな空。ハレーションに包まれた世界”というところから着手しています。確かにこれまでの拡張パッケージと比較して自由度は高かったですが、“原初世界のミラー(鏡)である”というベースの設定は、当時から徹底しようとしていました。

 根源たるエーテルは同じであるものの、世界が分裂してから約1万年以上もの時間が経過しているため、それぞれの世界が歩んできた歴史はまったく異なるはず。つまり、何となく面影はあるけれど、お互いに違う歴史をたどってきた世界を作ろうとしたわけです。“原初世界のミラー(鏡)である”というこの方針に沿って言えば、レイクランドはモードゥナの銀泪湖周辺に相当します。第一世界にはミドガルズオルムがいないので、その代わりにビスマルクを配置。原初世界のビスマルクとはまた別の存在ですが、ベースがクジラのような見た目をしている理由は、やはりその方針が守られているからです。

『FF14』ネタバレ全開の『漆黒のヴィランズ』秘話を吉田P/Dが赤裸々に語る(前編)。構想時には『覚醒エオルゼア』という“ボツ案”も存在した!
始まりの湖を銀泪湖に見立てると、ケンの島ことビスマルクが黙約の塔と似た位置関係にあることがわかる。

――あの湖のベースは銀泪湖だったのですね。

吉田はい。ほかにもレイクランドには紫色の樹木が多く茂っていますが、原初世界のクリスタルタワー周辺はパープルのイメージがあるので、じつはそこから持って来たりもしています。一方でイル・メグは、第七霊災で寒冷化が進む前のクルザスがベースです。イシュガルド周辺地域のもともとの特徴であるファンタジー色をさらに強めて、妖精郷という場所にしました。

――となれば、ラケティカ大森林は黒衣森ですか?

吉田そうです。まったく違うパターンの森林になりますが、原初世界の静かで厳粛な黒衣森に対して、ラケティカ大森林はジャングル的な発展を遂げた場所です。その木のウロで生活している人たちがいて、そこには……みたいな形で設定を詰めていきました。

――アム・アレーンは、おそらくザナラーンでしょうか?

吉田ご想像の通り、アム・アレーンはザナラーンから持ってきています。かつて存在したナバスアレンは原初世界のウルダハのように栄えていたものの、光の氾濫で崩壊したという設定です。そしてユールモアはもちろんリムサ・ロミンサです。あの建物の形は、リムサ・ロミンサをイメージして作ってあります。

――ユールモアはミズンマストの建物を流用したのではなく、イチから組み直したのですか?

吉田そうです。何しろ旧『FFXIV』時代から存在する建物ですから、そのまま持ってくると移動の導線が長くなってしまうなどの問題があったので、イチから作り直してあります。雰囲気を残したままド派手に装飾したうえで、黄昏の世界で暮らすすべての富裕層が集まる歓楽街という位置づけにしました。このへんまでの設定は、『漆黒のヴィランズ』のシナリオ合宿付近で、ババッと前提を決めたような気がします。なおテンペストに関しては、合宿ではいったん保留にして、「シナリオの流れ次第にしよう」と。

――そこから先、どのような流れで開発が進んだのでしょうか?

吉田通常の拡張パッケージ制作の流れとしては、テーマのベースがだいたい決まった後、近隣の貸し会議室でシナリオ班と僕とのあいだで3日間くらい合宿を行います。

――いわゆるシナリオ合宿ですね。

吉田はい。その段階で「ここから始まって、この場所でこれをやったらつぎへ進もう」といった大筋を決定。「ここにはレベルいくつのボスが必要になるよね」といった基礎的なゲーム体験は、初期の段階でベースを詰めています。そうすることで、たとえば「前回の反省を活かして、このあたりにこんな仕掛けを入れてみよう」みたいな話が可能になってきます。

 これまでのシナリオ合宿では、その場の一連のやり取りを石川が議事録として残してくれるので、それを基にメインシナリオスタッフたちで、ある程度初期のメインシナリオのプロット構想を練り上げていく形です。そうして世界設定の面で破綻しそうな要素などを事前に調整のうえ、本格的なシナリオを執筆する担当者を決めていく流れになります。

――そこで担当の振り分けが行われると。

吉田毎回担当は異なるので、事前に決めるということはなく、協議ベースになることが多いです。『紅蓮のリベレーター』のときは、織田と石川が、プロットを分担してふたりで書き上げています。『漆黒のヴィランズ』のときは、石川が「自分がすべて書けるのであれば、一度トライしてみたいです」という申し出があったので、それならばと彼女に任せました。

 『FFXIV』の開発チームは、担当の意思を尊重するプロジェクトなので、みずから志願するのであれば、「よし、がんばって!」となることが多いです。ここまで決まれば、その先のフィールド発注は、いわゆるバラの状態で進んでいくことになります。

――具体的にどのような流れで進むのですか?

吉田レベルデザイン班とバックグラウンド班(以下、BG班)に、「今回の拡張パッケージはエリア数がこれだけあって、それぞれのテーマはこうなっている」と伝えたうえで、アート班に「まずはアートワークの制作に着手してほしい」とお願いします。この段階では、全体の設計を語るというよりも、とにかくイメージベースで説明する形です。

 たとえばイル・メグであれば妖精郷がテーマであることを伝えたうえで、イシュガルドと同じエーテルで構成されている場所なのでかの地と同様の切り立った断崖があるものの、水が流れ落ちる場所や美しい湖など独特の風景も見受けられる……そうしたイメージを説明し、アート班にまずは1回、好きに描いてもらっています。

 その作業が完了したら、僕とシナリオ班が集まってアートスタッフたちが描いてくれた各作品をテーブルの上に並べて、「これとこれが気に入ったので、このあたりが着地点になりそう」みたいな相談をします。そうしたやり取りをエリア単位で行った後、それを基にレベルデザイン班がエリアの大枠を示す白地図を作成。BG班とともに、白地図に少しずつアイデアを埋め込んでいきます。

 もちろん、シナリオを進めるうえで欠かせない最低限の情報は事前に伝えますが、それ以外の要素は彼らのアイデアから生まれたものも多いです。BG班には場所ごとに必ずエリア担当者が就くので、ポリゴンのモックアップ(実物大の試作品)を作りながら、その人を中心に企画やネタを乗せて作り上げていきます。

――確か『新生エオルゼア』のリリース前に、白地図の上に施設の場所などが書き示してある資料を見せていただいたことがあります。

吉田あれと同じものです。『FFXIV』では、いまもあのやりかたを踏襲しています。

『漆黒のヴィランズ』構想時に吉田氏を苦しませた悩みとは!?

――拡張パッケージで追加される新エリアの作りかたとしては、物語の入口から出発して、最後に向かってアイデアを出しながら進めていく感じですか?

吉田フィールドに関しては、すべて並行作業です。拡張パッケージはまずテーマを決めたうえで全体の作業を細かく分け、工程を並列化していきます。じつは『漆黒のヴィランズ』の構想を練っていた当時、『覚醒エオルゼア』というイメージもあったのです。新生エリアの別バージョンを作ろうかとも思っていて、結構悩んでた時期がありました。

――それはすごく興味深いお話です。ぜひ詳しくお聞かせください。

吉田当時は、何としても『新生エオルゼア』のエリアでフライングマウントを呼び出せるようにしたいという思いがあったのですが、そのための作業コストがなかなか取れませんでした。であれば、拡張パッケージの発売を機に、フライングマウントに対応した“新生エリアのパラレルワールド”を追加しようと。そして既存の新生エリアとパラレルワールドの新規エリアを往来するタイプの冒険にできないものかと思案したのです。

――まさに裏世界みたいな感じですね。どのようなエリアを想定していたのかすごく気になります。

吉田たとえばですが、第一世界の統合が目前まで迫っているせいで、原初世界と第一世界のフィールドが、次元の境界線ギリギリで重なり合ってしまっている状態……そんなイメージでしょうか。最後のひと押しで統合が達成されてしまうと第一世界が完全に滅んでしまうので、双方の世界を行き来しながらそれを食い止める、みたいな展開です。

 そうして物語が最後まで進んだ段階で、既存のフィールドを拡張パッケージとして制作した最新エリアに置き換えてしまえば、フライングマウントへの対応が達成される、みたいな構想です。ひと粒で二度おいしい(笑)。これが実現できないものかとかなり粘ったのですが、最終的には日の目を見ませんでした。

 僕はシステムによるエリアの改変を開発サイドの都合だけで実施するよりも、ストーリーに絡めて展開したほうがおもしろいと感じてしまうタイプなので、今回もそうしたほうが「すごいことをやっているな」と思ってもらえるのではないかと考えたわけです。

――すごくおもしろそうですが、そのアイデアはなぜ実現しなかったのですか?

吉田いちばん大きい問題は、どうやっても地味だったからです。似て非なるものとは言っても、すでに新生エリアは視覚的にもなじみがあるので、「やっぱりこれはないよね」と。結局、そのアイデアを第一世界に丸ごと活かして、同じエーテルで成り立っている“似て非なる場所”を作り上げることになりました。

『FF14』ネタバレ全開の『漆黒のヴィランズ』秘話を吉田P/Dが赤裸々に語る(前編)。構想時には『覚醒エオルゼア』という“ボツ案”も存在した!
いわゆる新生エリアのフライングマウント対応は、すでにパッチ5.3で実現している。

『FF』と『ドラクエ』の“主人公観”の違いを踏まえたうえで考えた主人公の設定

──MMORPGはプレイヤーが主人公である以上、過度な個性付けができにくい側面があります。勝手にストーリーの側で「じつはあなたはこんな人でした」とは言いづらいので、そういう意味でオンラインゲームの主人公の立ち位置を定めるのは難しいのではないのかなと。ところが今回の『漆黒のヴィランズ』では、むしろそのあたりを強みにしていると感じました。

 たとえばハーデスとの決戦で、ほかの世界の光の戦士が術式によって呼び出されるシーンを見てものすごく感動したのですが、あれはオンラインゲームだからこそ可能な演出だと思います。“プレイヤーは主人公である”という部分をある意味逆手に取って物語に転化できたのも、これまでの積み重ねが花開いたからなのでしょうか?

吉田うーん、最初から狙っていたりするわけではないのですが……。僕はもともと『ドラゴンクエスト』(以下、『ドラクエ』)シリーズも担当させてもらっていたので、「自分が主人公である」というRPGには思い入れが強いです。『ドラクエ』が『FF』ともっとも違うのは、プレイヤー自身が主人公である点です。これはいまでも堀井さん(堀井雄二氏。『ドラクエ』シリーズの生みの親)がおっしゃっていることですが、「主人公は勝手に動いてほしくない」と。以前は“うなずく”動作すら議論になるくらいでしたし。最近はだいぶレギュレーションを緩めてもらいましたが、『ドラクエ』に関しては、堀井さんのお考えのほうがいいと僕も思っています。

──それはなぜですか?

吉田『ドラクエ』は自分の名前でプレイされる方が多いからです。一方で『FF』のほうは、クラウド・ストライフに代表されるように、強烈な個性を放つキャラクターの冒険を追体験する作りになっています。ですがオンラインゲームで『FF』を作ろうとなったときは、また異なります。僕は古くからのMMORPGプレイヤーでもあるのでよくわかるのですが、遊び手側からすると“自分は自分”という認識が強かったりします。

──ある意味、矛盾のようなものが生じると。

吉田キャラクターを作成したのは自分なので、まさに唯一無二の存在です。そこを踏まえたうえでMMORPGを作ろうとすると、なかなかに厄介な矛盾が生まれます。僕の中での『FF』は、“主人公がドラマチックに世界を救う話”であってほしい。一方で『ドラクエ』と同じように“自分が作成した、自分の分身であるキャラクター”を、英雄や勇者のように描くことになるわけです。

 まずは、『FFXIV』を新生させるにあたって、主人公は絶対にプレイヤー自身であるべきだと定めました。世界を救う人たちの脇にいる傍観者ではなく、あくまでプレイヤー自身が物語の中心にいる。主人公にドラマ性が求められる『FF』ではあるけれど、この決定に従い、当初は堀井さんの方針にならってエモートアクションのレギュレーションをかなりきびしめにしました。そのおかげで、光の戦士が“うなずく”シーンもかなり少なかったはずです。

──光の戦士が“うなずく”のは、何か専用の選択肢を選んだときくらいだったかもしれません。

吉田プレイヤーの意思が介在するからですね。そこから少しずつ許可していったのは、『蒼天のイシュガルド』のラストあたりからだったと思います。その後、少しずつプレイヤーのみなさんの反応や、求めているドラマ性の限界を探りつつ動作を緩和していきました。『紅蓮のリベレーター』でゼノスとの戦いに負けて悔しい顔を浮かべるシーンが、たぶん表情表現に関する最初の転換点だったはずです。

──『蒼天のイシュガルド』のオルシュファンのシーンで見せた、光の戦士の表情も印象的でした。

吉田あのシーンもギリギリまで調整しましたが、カメラを上からの視点にしたうえで、目を伏せて閉じるといった表情までしかしていません。その後、光の戦士の感情表現に関する方針が開発チーム内に浸透していったという感じです。主人公は自分。世界を救うのも自分。それはいいのだけれど、最後まで残ったのが、「蛮神討滅戦で登場する自分以外の7人のキャラクターは何者だろう?」という話ですね。

──『新生エオルゼア』のころから、そういう話があったような気がします。

吉田結構ありましたね(苦笑)。当時は、「冒険者ギルドから派遣されてきたのでは」みたいな感じでお茶を濁していました。それも、4.Xシリーズ辺りの蛮神が放つテンパード化ビーム(エーテル放射)を跳ね返しはじめたあたりから、この言い訳がだんだん通用しなくなってきました。暁の血盟に、主要人物のほかにもたくさんのメンバーが所属している理由や、光の加護を持つ異能者を集めている、という設定もこの辺りの補完の意味もあるのです。

──この討滅戦を勝ち抜くために、暁の血盟から加勢が来てくれたのかもしれないと。

吉田シナリオの中でも、「あなたたち冒険者チームは蛮神対策のほうをお願い」みたいな流れになりましたよね。もしかしたらプレイヤーが自身のツテを使ってテンパード化されない仲間を集めたのでは……そんなふうにごまかしてきたのですが、もういい加減ムリだろうなと(笑)。さすがに第一世界にまで渡ってしまうと、暁の血盟のそのほかのメンバーを討滅戦で呼び出せるはずがありませんしね……。

──確かに(笑)。

吉田『紅蓮のリベレーター』あたりから「ほかの世界がチラチラ見えはじめてきているので、そこから呼んでいることにすればいい」みたいな話を冗談半分していたのです。その後、『漆黒のヴィランズ』のハーデス討滅戦に突入する前の演出に関して、石川から「水晶公が転移術を使っているし、次元の狭間を通じて、ほかの世界から同様の魂を持つ者を呼んだという形にできないか」と改めて提案されました。

 光の柱が立ち上ってそこからほかの仲間が現れる演出を見て、これはうまく取り入れたな、と。アゼムの持つ力が、「必要なとき、必要な場所に、必要な星を呼び寄せる」というのもこの着想からですね。ご質問にあった通り、開発中のハーデス討滅戦のあのシーンを見て、僕たちも「オンラインゲームだからこそ可能な演出だよね。ものすごく納得感があるように見える」と話していました。

『FF14』ネタバレ全開の『漆黒のヴィランズ』秘話を吉田P/Dが赤裸々に語る(前編)。構想時には『覚醒エオルゼア』という“ボツ案”も存在した!
選ばれし魂を持つ者が、次元を超えてひとつの場所に集まり敵を討つ。このシーンは、その設定を決定づける契機となった。

──あの最終決戦シーンを見て、すごく納得しました。

吉田ただ、『漆黒のヴィランズ』のスタートからしばらく経つと、カエルや子豚が出てくるようになりますけどね(苦笑)。

──感動してボロボロ泣いているその脇で、着ぐるみをまとったキャラクターが続々と出てくるという(笑)。

吉田最近はニワトリも出てきますね(笑)。

──思い返せば、初プレイのときはほかのメンバーもちゃんとした見た目をしていました。

吉田そうなるよう、ハーデス討滅戦の直前で“AF”とも呼ばれるジョブ専用装備をお渡しするシナリオになっています。

──なるほど!

吉田もっとも『FF』を象徴する姿で戦っていただきたいなと。

──場合によっては、ハーデス討滅戦をクリアーした後にジョブ専用装備が手に入る可能性があったのを、事前に入手できるようにしたのですね。

吉田はい。カンスト後に手に入る流れにするとふたつ問題がありました。ひとつはいまお話ししたハーデス戦での盛り上がりに欠けること。もうひとつは、レベル80のトームストーン装備があることで、ジョブ専用装備の需要が短くなることです。これを避けるため、メインクエストの必須導線上でジョブ専用装備をお渡しすることにしました。

 今回の『漆黒のヴィランズ』の物語はとくに主人公にフォーカスしていることもあり、それによってジョブ専用装備の見た目のままコンテンツに参加してくれるだろうなと。初期の段階でクリアーされた方のほとんどはジョブ専用装備だったので、見た目にも『FF』らしさが感じられる8人が集まったはずです。とはいえ、そこから4~5週ほど経過すると、トードヘッド&スーツがだんだんと増えてきたとは思いますが……。

──初めて自分のアバターを見てシビれた瞬間だったので、すごく印象に残っています。

吉田よかったです。ラストでエメトセルクと対峙するところは、まさに“あなたが主役”という雰囲気が強く感じられる場面ではないでしょうか。あのシーンで登場する“決着をつけよう、エメトセルク”の選択肢は、ここまでプレイしてきた方であれば、”自分自身として言えるセリフ”だろうと思います。そんなところも、今回はうまく描けたかなと感じています。

──『漆黒のヴィランズ』を通じて、プレイヤーは物語の傍観者ではないことに確信が持てました。自分自身が主人公であり“英雄”であることが、強く認識できたシナリオだったと思います。

吉田『新生エオルゼア』の当時は、残されたままの設定を回収しつつ皆さんにお伝えしなければならないことが多かったので、とにかく“英雄”という呼び名を多く使いました。この呼称がピークを迎えたのが、竜詩戦争を終結に導いた『蒼天のイシュガルド』のあたりになります。

 つぎの『紅蓮のリベレーター』では、そこから一転して呼び方が“解放者”に変わりますが、その旗の下でもがく真の意味での“解放者”は、むしろ光の戦士よりもリセやヒエンのほうだったりします。“英雄”という呼び方をあえて(過大に)使うことで、(実際の貢献度よりも)名前のほうが先行しているイメージをかもしだしている側面もあります。

 そこから『漆黒のヴィランズ』で誰も知らない第一世界に行くと“自分自身の能力こそがこの世界を救える唯一の希望”みたいな方向に進んでいきます。しかし、世界をもとの姿に戻そうとする側から見れば”反逆者”。現在の人類を守ろうとする立場からだと、それを脅かす古代人こそ”反逆者”に見える。“解放者”という言葉が持つアウトローさと、まさに自分でなければそれが達成できない“英雄”という呼び名をうまくミックスして、『漆黒のヴィランズ』に繋げられたと思っています。

──念のためお聞きしますが、“漆黒編”の全編を通じて、“魂を継ぐ者”以外にも裏テーマやキーワードはあるのですか?

吉田これまでもいろいろなところでお話してきましたが、“暁の血盟のメンバーを本当の意味でプレイヤーの仲間にする”。僕がスタッフに強くお願いしていたテーマでした。ソロプレイ要素、世界への没入感、そして暁を真の仲間とする、その3つの役割を持つのがフェイスシステムです。このテーマもうまく達成できたと思います。

<後編に続く>

※インタビュー後編はこちら

『FF14』ネタバレ全開の『漆黒のヴィランズ』秘話を吉田P/Dが赤裸々に語る(前編)。構想時には『覚醒エオルゼア』という“ボツ案”も存在した!