2021年10月28日発売予定のプレイステーション4、プレイステーション5用ソフト『WRC10 FIA世界ラリー選手権』。(以下、『WRC10』)FIA(国際自動車連盟)より公式ライセンスを受けたレースゲームシリーズの最新作であり、WRC(世界ラリー選手権)50周年記念タイトルとなる本作では、歴代のマシンやレースを隅々まで体験できるほか、実際の競技のようにふたりでレースを攻略していくモードも搭載されている。

 本記事では、JRCA(全日本ラリー選手権協会)の会長であり、自身もラリードライバーとして活躍する新井敏弘(あらいとしひろ)氏へのインタビューをお届け。長い歴史を持つラリーの魅力について語っていただいた。

『WRC10 FIA世界ラリー選手権』発売記念・JRCA会長の新井敏弘氏インタビュー。50周年を迎えるラリーや11年ぶりの開催となるラリージャパンの魅力に迫る

新井敏弘氏

JRCA(全日本ラリー選手権協会)であり、ラリードライバーとして活躍する

『WRC10 FIA世界ラリー選手権』(PS5)の購入はこちら (Amazon.co.jp) 『WRC10 FIA世界ラリー選手権』(PS4)の購入はこちら (Amazon.co.jp)

カーレースとラリーとでは求められるスキルが異なる

――本作からWRC(世界ラリー選手権)に触れる初心者ユーザーに向けて、改めてラリーの魅力を教えてください。

新井ラリーはサーキットと違って一般道なので、同じ道がないというのがいちばん違うところです。サーキットは確実な操作をしつつ、抜きつ抜かれつの展開に合わせて、コース取りを考えないといけないのですが、ラリーはそこがないぶん、道に集中しないといけない。しかも一般道なので、練習走行ができないんです。そのため、ドライバーが道の形状などがわかる“ペースノート”というものを作って、それを“コ・ドライバー”に渡して、「つぎはこのくらいで曲がるよ」というふうに、適時指示を出すようにしてもらっています。右脳と左脳で違うことをしているんですね。だから“コ・ドライバー”との相性は大事なんですよ。

――それは慌ただしいですね。いわゆる、ぶっつけ本番みたいな形で対応しているのですか?

新井そうですね。“レッキ”と言って、下見をするときは、時速80キロまでしか出せません。その状態から本番で200キロ走る場合は、そのスピードを想定しながら“ペースノート”を作るのですが、いかにその道を言葉で細かく表記できるかが重要となります。

『WRC10 FIA世界ラリー選手権』発売記念・JRCA会長の新井敏弘氏インタビュー。50周年を迎えるラリーや11年ぶりの開催となるラリージャパンの魅力に迫る

――ドライバーとコ・ドライバーの相性というものはあるのでしょうか?

新井ありますよ。ドライバーが情報をほしいときに指示を言ってもらわないと困るのですが、「言うのが遅かったせいでぶつかった」なんてことが起こると怖いので、コ・ドライバーはいま走っているところの先の先まで読んでしまうことがあるんです。そうするとドライバーは判断がわからなくなってしまうので、言うタイミングを調整していくのですが、阿吽の呼吸をわかってくれないとダメなんですよね。ラリー以外にも、「朝の6時に起きて、○○の支店で受付をして、レースはここを走って……」みたいなマネジメントもしてもらうので、長い付き合いになっているチームもいます。

――ナビゲートを聞きながら判断して走るのは素人にはなかなか難しそうですね……。

新井そこが慣れてくるとどんどんできるようになってくるんですよ。ながら運転といっしょで、言われていることを想像しながら走るんですが、あれって訓練すると右脳左脳で違うことをするので、真剣に走っていても内容が聞こえてくるんです。つぎのカーブで「どのくらい曲がるんだろう」と思っているときに答えを教えてもらうように、カンニングペーパーを言ってもらっているようなイメージです。

――なるほど。こうしてお聞きしているとサーキットを走るカーレースとラリーでは求められるスキルが違うようですね。

新井はい。だからおもしろくて。ラリーは、カートから徐々にステップアップしていくということがあまり通用しづらくて、いろいろなスポーツのトッププレイヤーたちが入ってきたりするんですよ。カルロス・サインツという選手はスペインのスカッシュのチャンピオンでしたし、スキーのワールドカップの選手とかもいます。別のスポーツのトップだった選手たちが、クルマが好きだからWRCに参戦するというケースはけっこう多いです。

『WRC10 FIA世界ラリー選手権』発売記念・JRCA会長の新井敏弘氏インタビュー。50周年を迎えるラリーや11年ぶりの開催となるラリージャパンの魅力に迫る

国によって変わるコースのスタイル

――今年で50周年を迎えるWRCですが、その魅力とはなんでしょうか。

新井やはり世界各国に行って、その国の生活の中に入って競技をするところです。道の作りかたが国によってぜんぜん違うんです。たとえば、ギリシャだと舗装道路に貝殻が少し混ざっているので、雨が降ると少し滑りやすかったりします。その国の生活の中に入り込むので、いろいろな部分の違いがよくわかります。

――ちなみに好きな国やコースはありますか?

新井ギリシャやイギリス、あとはオーストラリア、ニュージーランドでしょうか。ヨーロッパとかはやはりモータースポーツの文化の違いもあってか、日本でいうと神輿のお祭りみたいにほかのクルマを全部ストップさせて、街の中でも平気で走れてしまうんですよね。コースなら、クルマを滑らせて走れるグラベル(※)がけっこう好きですね。やはり、舗装道路ってどうしてもタイヤの少なさとかもありまして、そうするとタイヤの相性で成績が決まってしまうということもあるので、運転手の占める割合が強くなる土のほうが好きでした。

※舗装されていない路面(未舗装路)のこと。土がむき出しになっており、舗装路よりも滑りやすい。

――ほかにも新井さんが参加して思い出に残っているレースなどはありますか?

新井どの国もぜんぜん違うので印象に残っているのですが、とくにヨーロッパの WRC は危ない道を使うんですよ。フランスのコルシカ島はガードレールもなくて、そのまま垂直で海に落ちそうな道を走ります。日本は田舎道でもガードレールがありますが、ヨーロッパではああいうのが絶対になくてどこに行ってもけっこう危ないなと。

――世界中の道を歩いていると、そういうところも違いがわかるというか。

新井もうぜんぜん違います。ヨーロッパは2車線の道で96キロとか出せるので、ふつうの一般道のスピードも日本の2倍ぐらい速いです。みんな運転が上手なんですよね。

――ドイツのアウトバーンとか、けっこうスピードが出ているみたいな話も聞きますからね。

新井やはり、みんな速く走っているのもあってか、どうしてもドイツ車とかヨーロッパ車のほうが日本車より先に行ってしまうんです。

――クルマで走りながらそういう違いを感じるのが、世界を転々とするWRCの醍醐味ということでしょうか?

新井そうですね。国によってまったく違うところを走るので、その楽しみもあります。本当に千差万別なので、コースを完璧に走ることはほとんどないです。「いまのコーナーは失敗したな」とか、けっこうあります。自分の中で「いまのところは100%完璧だったな」と思えるレースがないのがWRCの魅力かもしれません。

『WRC10 FIA世界ラリー選手権』発売記念・JRCA会長の新井敏弘氏インタビュー。50周年を迎えるラリーや11年ぶりの開催となるラリージャパンの魅力に迫る

インプレッサやラリージャパンに対する想い

――いままで新井さんとともに走ってきた“インプレッサ”の魅力や想いをお聞かせください。

新井いまは“WRX”という名前になっていますが、やはり“インプレッサ”は私を育ててくれたクルマなので、つねにモータースポーツでは最前線を走っていてもらいたいなと思います。“インプレッサ”のいちばんの魅力は、四駆のシステムがちゃんとしているのと、エンジンが水平対向で重心が低く、左右がまったく対象なことですね。ふつうのクルマはエンジンの構造的に、エンジンの頭側かミッション側かで重さが違うんですよ。でもスバルの場合はまっすぐ縦に乗っているので、左右分割で均等に動いてくれます。運動性能のよさも違いますし、左右の重量が違うと運転の感覚もぜんぜん違うので。

――なるほど。そういうふうに左右均等にできるのもスバルの技術力なんですね。

新井そうですね。“WRX”に使っていた“EJ20”というエンジンは、30年ぐらい同じエンジンなんですけど、空冷だったものを水冷にするためにどんどん進化させていって、最終型はすごく強いエンジンになっているんです。新しいものを作るのではなく、もとにあるものを改良させていったのはすごくいいと思いますね。

『WRC10 FIA世界ラリー選手権』発売記念・JRCA会長の新井敏弘氏インタビュー。50周年を迎えるラリーや11年ぶりの開催となるラリージャパンの魅力に迫る

――ありがとうございます。つぎに11年ぶりに開催されるラリージャパンへの期待をお聞かせください。

新井日本はグラベルがメインだったので。ターマックラリー(舗装路)での競技はいままでやったことないんです。このコースだと化け物みたいなクルマが走るので、その動きや速さをぜひ見てほしいです! 皆さんがふだん通っている道を信じられない速度で曲がっていくので(笑)。

――「このスピードで曲がるか!?」みたいな。

新井そうですね。

――最後になりますが、本作の映像をご覧になっての感想をお願いします。

新井私が10年前ぐらいにWRCのゲームを遊んでいたころと比べると、「映像を見ているのかな?」というくらい画面が綺麗なので、本物のラリーをやっている感じになりそうですね。世界中のコースの特徴もかなり捉えられていて、プロのドライバーでも参考にできそうですね。コ・ドライバーの音声が、本作では日本語対応になっているとのことなので、一般の人は入り込みやすいでしょうし、「ラリーってこんな感じなんだ!」とリアルに実感していただけるゲームなのではないかと。ラリーに興味をお持ちでしたら、ぜひ遊んでみてください!

『WRC10 FIA世界ラリー選手権』発売記念・JRCA会長の新井敏弘氏インタビュー。50周年を迎えるラリーや11年ぶりの開催となるラリージャパンの魅力に迫る
『WRC10 FIA世界ラリー選手権』発売記念・JRCA会長の新井敏弘氏インタビュー。50周年を迎えるラリーや11年ぶりの開催となるラリージャパンの魅力に迫る
取材は、スバリスト(スバルファンのことを指すらしい)の聖地とも言われるSTI(スバルテクニカインターナショナル)で行われた。ちなみに、生粋のスバリストであるカメラマンさんは、相当テンションが上がっておりました。

WRC10 FIA世界ラリー選手権

  • 発売日:2021年10月28日
  • 発売元:3goo
  • 開発元:Nacon
  • 対応機種:プレイステーション5、プレイステーション4
  • 価格:7480円[税込]
  • ジャンル:レース
  • CERO:全年齢対象