ファミ通関連の編集者がおすすめゲームをひたすら語る連載企画。今回のテーマは、SFアドベンチャー『Detroit: Become Human』です。

【こういう人におすすめ】

  • 「続きが気になる!」というタイプの連続ドラマが好き
  • AIに興味があったり『ブレードランナー』的な近未来SFが好き
  • ルンバを使っている、アンドロイドが欲しい

※本稿は週刊ファミ通2020年7月2日号(2020年6月18日発売)の特集“いまこそ絶対に遊ぶべき46のゲーム”をWeb用に調整したものです。

堅田ヒカルのおすすめゲーム

『Detroit: Become Human(デトロイト ビカム ヒューマン)』

  • プラットフォーム:PS4、PC
  • 発売日:2018年5月25日
  • 発売元:ソニー・インタラクティブエンタテインメント
  • 価格:4290円[税込]
  • パッケージ版:あり
  • ダウンロード版:あり
  • 『Detroit: Become Human』公式サイト

※データはプレイステーション4版のものです。価格は『Value Selection』のものです。

開けろ! デトロイト市警だ!!

 2000年代以降のアメリカドラマブームのきっかけになったのはどの作品だろう。「ジャック・バウアーだ!」でおなじみの『24 -TWENTY FOUR-』かもしれないし、現代ゾンビものの金字塔『ウォーキング・デッド』か、脱獄ドラマ『プリズン・ブレイク』かもしれない。

 ハラハラドキドキの脚本、かっこいいアクション、続きが見たくなる後を引く展開があって、すごくおもしろい。長いステイホームの時間をやり過ごすために、そんなドラマを一気観したという人も多かったことだろう。

 それにしても、と思う。

 ゲームメディアの編集者としてと言うより、いちゲームファンとして歯がゆく思っていた。ブームになる海外ドラマみたいに、ふつうの大人がふつうに手に取って遊んで、思わず夢中になって、つぎの日は同僚や友だちに「あれやった!?」って、熱っぽく語ってしまうような、そんなゲームがあったらいいなと思っていた。

 あった。

 『Detroit: Become Human』という作品だ。

 本作は、フランスにあるゲームスタジオQuanticDreamによるアドベンチャーゲーム。近未来のアメリカ・デトロイト市を舞台として、コナー、マーカス、カーラという3体のアンドロイドを主人公に物語が展開する。

 必ず通る重要なイベントなど大筋は決まっているけど、プレイヤーが選ぶ選択肢によって、物語の展開や結末は驚くほど変化する。3人の主人公が異なるストーリーを追う中で、ひとりの選択が、ほかのふたりに影響することもあり、ときに主人公の生死にまで影響を及ぼす(とくにコナー!)。プレイヤーは毎度毎度、けっこうな極限状態でかなり究極の選択を迫られ、「こんなの、どっちも選べねえよ!」と苦しく(でも楽しく)叫びながら、重大な決断を強いられることになる。

 ネタバレになるので詳細な説明は避けるが、物語の途中、ひとりの主人公を含むアンドロイドの集団は、“人権”を求めて抗議デモを行うことになる。警察が出動し、仲間のアンドロイドが撃たれ、命を落とす。当初は平和的なデモを指向していた集団が「本当にこのままでいいのか」と、決断を迫られる。仲間の命を喪っても非暴力を貫くのか、人間社会と敵対する覚悟で暴力革命を目指すのか……。いや、選べるか! そんなシリアスで重大な決断!!

 でも、決めなきゃいけないのがこのゲームのおもしろいところだ。

 そして、どの選択肢を選ぶかで話の転がりかたはまったく変わって、だから「あの選択肢、どうした!?」と、ほかのプレイヤーと話し合いたくなる。迷いに迷って選んだ選択肢ほど、誰かと分かち合いたくなるのだ。試験の答え合わせとかあんな感じで。何しろ『Detroit: Become Human』の選択はセンター試験の100倍くらい悩ましいし、楽しい。

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アンドロイドデモの先頭に立つマーカス。シュプレヒコールの内容まで選べる。

 本作の舞台がデトロイトなのは、1967年のアメリカで発生した“デトロイト暴動”という、数十人の黒人が命を落とした暴動事件とも無関係ではないはずだ。作中で語られることはないけど、本作のストーリーはアメリカ公民権運動がストーリーの隠れた土台になっていて、本作に社会性を持たせている(アンドロイドはバスの中で、決められたエリアに立っていなければならないというのはじつに示唆的だ)。

 人間の自由と権利、そして差別。古くから続いていて、でもじつに現代的なテーマが土台にあるから、物語が単なる絵空事ではなくなって、怖さを感じるほどのリアリティーが生まれている。

 世界がハードに、リアルに描かれているのも本作の特徴だ。児童虐待やアルコール中毒、薬物中毒などの社会問題が物語に盛り込まれている。麻薬に溺れる中年男性トッドの家の汚れっぷりは印象深い。ところ狭しと並んだ酒の空き瓶や、宅配ピザの空き箱。娘・アリスの存在がさらに寒々しさ、痛々しさを増す。小物や背景から登場人物の生活を想像させて、プレイヤーに薄ら寒い感情を抱かせる。とても映像的な手法だ。その部屋は、プレイヤーが(カーラを操作して)片付けることになる。

 プレイヤーはそのほかにも、“皿を洗う”や“本のページをめくる”や“老人の車イスを押す”といったキャラクターの動作を逐一行わなければならず、それが深い感情移入につながる。リアルな描写とゲーム的な手法で、感情移入は相乗的に深まっていく。そうして、主人公たちに肩入れしまくったところで現れる究極の選択! 気づけば、すっかりゲームの虜になっている自分に気付く。

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カーラとアリスは、父親トッドのもとから逃げ出す。逃避行の行く末は……。

 いまのゲームはたいへんだ。娯楽に溢れる現代社会、テレビや映画はもちろん、世界の巨人になったNetflixも相手に回して戦わなきゃならない。それよりおもしろい体験を生み出さなきゃいけない。

 だけど僕は知っている。『Detroit: Become Human』は、ほかの何にも引けを取らない一流のエンターテインメントだ。物語に介入するインタラクティブ性、キャラクターへの感情移入、自然な近未来描写を可能にするのもゲームならではのものだ。僕が下した決断のせいで、コナーが、カーラとアリスが、マーカスがどのような結末にたどり着くことになったのか、一生忘れないだろう。そんな作品だ。

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