2010年に旧『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)の全権を引き継ぎ、異例の“作り直し”を敢行して『新生FFXIV』を世に送り出した、プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏。新生してからの5年間と、これからについて聞いた。

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吉田直樹氏(よしだなおき)

スクウェア・エニックス 開発担当執行役員 第5ビジネスディビジョン・ディビジョンエグゼクティブ。『ドラゴンクエスト』初のアーケードタイトルである『ドラゴンクエストモンスターバトルロード』シリーズのゲームデザインとディレクションを担当。2010年12月に『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクターに就任。

新生からの5年間。いかにして信頼を勝ち得たか

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『ファイナルファンタジーXIV』プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏。

──この8月で『FFXIV』が新生してから5周年を迎えました。まずは「おめでとうございます」ですね。

吉田ありがとうございます! 開発と運営を、それこそ無我夢中でやってきて、1日1日はとても濃いのですが、歳のせいもあって時間が過ぎるのが加速度的に早いなとは感じます。でも、去年のいまごろは何をしていたっけと思い返してみると、拡張パッケージの『紅蓮のリベレーター』をリリースした直後あたりで、「あれ、まだそれくらいか……」という感じもあり(笑)。振り返るとずいぶん前な気もするし、けっこう複雑な心境ではありますね。

──『FFXIV』は、つぎつぎと新しい予定が生まれてしまうからでしょうか?

吉田そうですね。開発チームには、「予定を作っているのは吉田さん自身でしょ!」と言われてしまいそうですが(苦笑)。

──(笑)。私たちメディアが『FFXIV』を追い掛け続けて思うのは、吉田さんが現れるところで必ずといっていいほど巻き起こる「よしだあああああああああ」という掛け声に象徴される、コミュニティとの良好な関係です。この要因は何だとお考えでしょうか。

吉田ご声援(?)ありがとうございます(苦笑)。これについては、あまり明確な答えが見つからなくて……。ひとつ言えるとすれば、プレイヤーの皆さんとは、かなり正直にお話をさせていただいています。もしかすると、企業として、サービス業として、ちょっと過剰なところもあるのかもしれませんが、内部事情まできちんとお話しするのは、僕自身が作り手であると同時にゲーマーでもあるところに起因しています。好きなゲームだからこそ、きちんと説明してほしい。心から応援したいからこそ話してほしい。この点は、ほかのどのサービスと比べても正直ではあるかな、と思います。

──プレイヤーに開示する情報の範囲が広いというのは、つねづね感じているところです。

吉田僕は『FFXIV』の最高責任者なので、発言は重く受け取られますし、お話しする内容も多岐にわたります。プロデューサーとしての発言、ディレクターとしての発言……。たとえばですが、僕自身がゲーマーとして、「特定プレイヤー層向けのコアな遊びだなあ」と感じたシステムであっても、まずは多くの人に触れてみてもらいたいため、よりおもしろそうに話す、ということも僕の明確なお仕事のひとつです。もちろん、フタを開けてみたら、自分の好みに合わないコンテンツだった、ということもあると思うのです。吉田に乗せられたなぁ、と。でも僕は、開発チームが思い切り振りかぶって投げたボールを、やっぱり正直にストレート(直球)として投げたい。それが大暴投になってしまったとしても、「つぎはストライクを投げるぞ!」という意気込みでまた振りかぶる。関係性というのは、こうした積み重ねの上にのみ成り立つのかなと思います。だから、要因は? と聞かれると、「つねに全力、直球勝負!」ですかね(笑)。

──それでも、これほどの信頼を勝ち得られるものなのかと思いますが……。

吉田僕のまわりにいるスタッフたちも、こうした思想をわかってくれていて、彼ら自身の目線もつねにプレイヤーサイドにあります。何かの広告を打つときでも、「こういう伝えかただと、現役プレイヤーはきっとカチンと来るよね」みたいな意見が自然と出てくる。もちろん、ビジネスとしてはどうなんだろうと思うときもあります。いまのゲームビジネスはマイクロトランザクション(少額課金)全盛なので、過激な広告内容で人を集めて収益を上げるというのも、手法としてだめということではありません。でも、プレイヤーの皆さんとしては、「自分が大好きなゲームで、そんなことはしてほしくなかった」と思うかもしれない。僕たちが気をつけているのは、プレイヤーの皆さんがプライドを持って遊べる。ほかの人に勧められるゲームでありたい、ということ。そのあたりにも、要因が潜んでいるかもしれないですね。

──『FFXIV』のプレイヤーであること、応援していることへの誇りですか。

吉田旧『FFXIV』のころは、プレイヤーの皆さんがまるでプライドを持てない状態でした。現在、「『FFXIV』のやること自体がムカつくよね」という方は、少なくともプレイヤーさんの中にはいないと思っています。……それにしても、ここまでお話ししたことすべて、じつは当たり前のことですね。僕自身、状況の分析だったり、情報をまとめるのは得意なほうだと自負しているのですが、コミュニティとの良好な関係性について、どういうことが秘訣なのかと聞かれると、なかなか説明が難しいです。今後も、当たり前だと思うことを、くり返し続けるだけですね。

──では質問を変えまして。吉田さんがこの5年間でいちばんうれしかったことと、もっとも凹んだ出来事は何ですか?

吉田うれしかったことは日々更新されるので、どれかひとつというのは難しいです。でも、僕がうれしいときは、たいがい僕自身が悲鳴を上げているタイミングですね(笑)。

──と言いますと?

吉田たとえば、『新生FFXIV』をローンチしたときは、まさか40近くも用意していたワールドがまるで足りないだなんて、誰にも予想できませんでした。会社からも、「こんなにサーバーを用意して大丈夫なのか?」と言われていたくらいです。旧『FFXIV』の“事故”を経ての新生という状況からしても、初動の人の集まりはよくないかもしれない。それでも僕らは精一杯やってきたし、「快適に遊んでもらいたいからこそ、今回はここまで用意させてください」と会社に説明して……。そうしたら、まったく足りなくて(苦笑)。うれしいのに、悲鳴に変わるわけです。新たなサーバー費用として、数千万円もの決済を出張先のドイツから電話でしたりとか(苦笑)。

──そんなこと、なかなかないですよね。

吉田ないですよ、本当に。でも、これを即決させてもらえたのは、スクウェア・エニックスのいいところでもあります。「失敗したら君の責任になるけど、やるだけやってみるというのなら賭けよう!」と。あとは、2014年に初のファンフェス ティバルを開催したときも悲鳴を上げました。数千人規模のイベントを全世界でやるというのはもちろん初めての経験で、最初の開催地だった北米・ラスベガスでは、大勢の方が登録に押し寄せて大混乱するわけです。マシントラブルも続出で、数千人が並んでいるのに、入場登録用の機材が2台しか稼働していないとかで……。僕らが会場内でリハーサルをしていたら、北米側のスタッフに「吉田さん! 外がパニックなので、とりあえず外に出て謝ってください」と言われて。「え、そこは君たちが謝るところじゃないの!?」と一瞬思いながらも、すぐ外に出て謝りに行ったら、それはもう歓声の嵐で、うれしいやら、申し訳ないやら……。『紅蓮のリベレーター』のローンチのときもそうでしたが、大勢の人が来てくれたことへのうれしさと同時に、予期せぬトラブルが巻き起こって、「ぐえー」となることも多かったです。

──どれかひとつというのは難しいですね。

吉田そういう大きな出来事だけでなく、日々Twitterや個人ブログ、まとめサイトなんかを見ていて、うれしくなることも多々あります。何気ないひと言なのかもしれませんが、「おもしろい!」、「楽しみだなー!」というシンプルなコメントを見ただけで、1日ハッピーになれたりして。自分たちがやっていることの確認でもあるので、感想を発信してもらえるのはすごくありがたいです。

──それでは、凹んだことについてもお聞かせいただけますか。

吉田この5年でいちばん凹んだのは、パッチ2.1のハウジングリリースのときです(注釈参照)。旧『FFXIV』からプレイしてくださっているいわゆる“レガシー”のプレイヤーと、新生からのプレイヤーとの経済格差をとにかく埋めないと、本当の意味でコミュニティが混ざらないという危惧がありました。どこかでやらなければ、MMORPGとして数年後に致命傷になりかねない。でも、“将来に来るかもしれない非常にきびしい状況”への強引な対応を、“いま遊んでいるプレイヤー”に与えることになってしまう。かなり悩みましたが、経済格差を一気に是正するため、覚悟を決めてワールドごとにハウジングの価格を厳密に設定しました。結果、両者の経済は融合できていまがあります。振り返ってみても、やはり必要な施策だったとは思うのですが……もうちょっとうまいやりかたはなかったのかと、いまでも後悔することがあります。

旧『FFXIV』からプレイしていた人は、現在の『FFXIV』に移行する際、所持金が10分の1になったものの(いわゆるデノミ)、資産を引き継ぐことができた。そのため、旧『FFXIV』から移行した“レガシーワールド”には潜在的に存在するギルが多く、新規ワールドとの経済格差を是正する必要があった。レガシーワールドでもっとも高額な設定となったAegis、Durandal、Gungnir、Masamune、Ridillワールドでは、1等地のサイズLが6億2500万ギル、5等地のサイズSでも4000万ギルという価格だった(いずれも販売開始時)。一方、新規ワールド(人口が多いグループ)では1等地のサイズLが1億2500万ギル、5等地のサイズSは800万ギルとなっていた。

──レガシーの全員がギルをたくさん持っていたわけではないのと、逆に持っている人は信じられないくらい持っていて、難しい判断だったとは思います。

吉田僕としては、プレイヤーの皆さんの未来のためにと一生懸命考え、批判を浴びることも覚悟のうえでの施策だったのですが、『新生FFXIV』をローンチするために死に物狂いで走ってきて、僕自身にも疲れが出てきたころだったので、ふだんなら受け流せるのに、いろいろなモノを真正面から受けてしまいました。ソースが不確定な、僕の発言の一部だけを切り取って揶揄されることも非常に多く、それがさも真実かのように伝播していく”悪意”のようなものも感じてしまって。あの当時は、気持ちがささくれ立ってしまって、「もういいかな」と思ってしまったほどでした。

──その後の東京ゲームショウ(以下、TGS)にも気乗りしていない吉田さんをすごく覚えています。

吉田あのときくらいですね、「TGSだけど、僕は出なくてもいいんじゃない?」と言ったのは(苦笑)。でも、重い気持ちを引きずりながらも、何とかTGSに行ったら、たくさんのプレイヤーの方がいらしてくださいました。プレイヤーの皆さんにも、いろいろな想いがあったとは思うのですが、「ギルはまた貯めればいいから! がんばってくださいね!」と多くの人が言ってくださって……。そんな声をいただいたとき、「誰かに褒められたいとか、わかってほしくてやっていたわけじゃない。プレイヤーの将来を考えて最善を尽くすのがMMORPGの運営者の務めだろ!」と、自分の気持ちを整理したら、スッと楽になったんです。ここでもプレイヤーの皆さんに助けられました。

──そう考えると、この5年でいろいろありましたね……。

吉田そりゃ……ありますよ(笑)。

──現在、『FFXIV』は北米・欧州・日本のいわゆるグローバル版と、中国、韓国でそれぞれの国の運営会社がサービスを展開しているわけですが、運営の状況をお聞かせください。

吉田北米が最大勢力なのは変わっていません。グローバル版全体の約半数が北米のプレイヤーです。MMORPGの本場でこれだけ受け入れてもらえているのが、ある意味『FFXIV』の強さだと自己評価しています。あれだけ競争がきびしく、最近はサブスクリプション(月額課金)自体になかなかお金が払われにくくなっている中で、数十万人が課金しているのは誇りだと思っています。そんなゲームは、あとは『World of Warcraft』(以下、『WoW』)くらいですからね。

──残りの半数は日本と欧州になりますが、その割合は?

吉田『紅蓮のリベレーター』リリース前では、3分の2が日本という状況でしたが、いまは欧州の伸びが爆発的です。

──やはり、データセンター設置の影響でしょうか?

吉田それもあるとは思いますが、ドイツオフィスや北欧周辺のものすごいがんばりが顕著に数字に出ています。欧州の中心はイギリスですが、ドイツはゲーマー大国で、親日家も多い国なのに、なかなか数字が伸びずに「物足りない」とずっと言っていたんです。それが、ここに来て格段に伸びて、引きずられるようにほかのリージョンもプレイヤーを増やしています。一方、日本は『光のお父さん』の影響がかなり大きかったですね。それぞれのリージョンのお話をしましたが、プレイヤーの総数を円に例えると、その円自体が大きく外に膨らみました。中国も4.0で一気に起爆して、全ワールドの収容人数も、現在の規模では限界に達しています。韓国も、苦しいMMORPG市場の中でも堅調に伸びていますし、世界中の市場で、光の戦士の皆さんが、新たな光の戦士を呼んでくださる、という好循環となっています。

──いまや全世界のゲーマーが、高難度のレイドコンテンツの世界最速クリアーを競ってしのぎを削っているわけですが、この事実自体、すごいことだと思っています。

吉田日本の開発チームが世界に向けてゲームを作り、その中にあるコンテンツが世界中から注目していただいている。世界一を取るために、寝食を忘れてレイドレースをしていて、それをライブストリーミングで見て興奮する人たちが生まれる……。日本ではオンラインゲームの市民権はまだまだ低いので、少しずつでもメディアの皆さんを通じて、こうした話題が広がってくれるとうれしいです。

高難度コンテンツである“零式”や“絶シリーズ”が実装されると、世界最速クリアーチームの座を巡って、世界中の猛者たちがレイドレースをくり広げる。ワールドファーストを成し遂げたチームの攻略動画のラストは、絶叫になることがほとんど。最近では、ヨーロッパ勢が優勢な状況にある。

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ワールド間パーティ募集が『FFXIV』を一段強くした

──『FFXIV』を新生させる際には、計画を相当綿密に練っていたと思いますが、想定通りだったことと、逆に予想外だったこと、それぞれ教えていただけますか。

吉田『新生FFXIV』がリリースされる前から、プロデューサーレターLIVEを通して「『新生FFXIV』ではこんなことができるようになります。将来はここまでやれたほうがいいと思っています」というようなお話をしてきたのですが、それらはほぼ実装されたかと思います。唯一、“大召喚”だけは、当時のコンセプトとは別のものを“アメノミハシラ”に実装しましたが、そもそも大召喚自体はGvG(Guild versus Guildの略。『FFXIV』で言うならば、リンクシェルやフリーカンパニー単位で戦うこと)に入れたいと思っていた要素です。

──現状、GvGの構想はあるのでしょうか?

吉田何度かお話ししていますが、『FFXIV』にはまだ早いと考えています。GvGは、ピークを過ぎて、コミュニティが安定して閉じてきたころに導入すべきもので、まだまだ拡大している最中の『FFXIV』に実装すると、逆に閉塞感が出てしまいます。それが理由で、当初イメージしていた大召喚はずっと延期のままです。『新生FFXIV』は、当時想定していた以上に、さまざまなタイプのお客様に遊んでいただけるゲームに成長できましたので、もしかしたら、このままGvGのような要素そのものを見送ってしまうかもしれません。

5周年記念14時間生放送でも補足されていたが、GvGはギルドどうしが直接戦闘するいわゆる攻城戦だけとは限らない。特定の期間内に、ギルド単位でポイントを競い合うようなものもGvGに含まれる。

──実装したものに対するプレイヤーの反応は、すべて予想通りでしたか?

吉田旧『FFXIV』から『新生FFXIV』へつないで行く際、僕は近代のMMORPGにあって当たり前のものを用意するつもりでいました。マッチングシステム、フライングマウント、泳ぐなどが代表例ですが、それらを実装した際の反応も、当初の予測とは大きくズレていません。ただ、当初計画にはなかったもので、ひときわ反響が大きかったのは、ワールド間パーティ募集です。

──この機能追加は大きかったですね。

吉田ワールド間パーティ募集は、約1年がかりで企画と設計を行って、ワールド間をつないでいた細い穴を、運営にいっさい影響を与えずにトンネルにする、ということを実現しました。もともと『FFXIV』には、コンテンツファインダーというオートマッチングの仕組みがあり、同じデータセンターであればワールドの垣根を越えてのパーティ編成が可能な状態にはありました。しかし、運営が進むにつれ、コンテンツによってはパーティがなかなか成立しにくい状況になり、ちょうど『蒼天のイシュガルド』をリリースした後に、どうにかならないかと計画をスタートさせたものです。この機能を実装し、直接ワールドをまたぐパーティを探せるようになったことで、『FFXIV』のゲーム体験やコミュニティの形成は、もう一段強くなったと思っています。

──それこそ基礎設計に関わる部分ですよね。

吉田そうですね。『新生FFXIV』は、非常に短期間のうちに基礎設計を確定しなくてはならず、そんな中でも、「キャラクターデータだけは、ワールドを越えてやり取りできるようにしておいてほしい」と指示していたのは、自分で言うのもおかしな話ですが、ファインプレーだったのではないかと思います。そこを閉じてしまっていたら、どうひっくり返しても、運営を続けながらワールド間パーティ募集を実装することはできなかったからです。

──いまやワールド間パーティ募集は、レイドの“零式”の募集で100件を超えたりして、なくてはならないものになっていますよね。

吉田それを言うなら、中国のワールド間パーティ募集数が恐ろしくて、毎晩1000件以上の募集が立つんですよ。最初の仕様は500件程度が上限で、表示できないというバグ報告が来ました。

──1000件以上! それはすさまじい……。

吉田中国ではむしろ、いまはほとんどコンテンツファインダーを使っていないそうです。全タブに募集があるからです(笑)。中国や韓国は、もともとコミュニティの結びつきが強固で、パーティもゲーム内で声を掛けて探したほうが早いという考えがあります。そこにちょうどいいシステムが導入され、ものすごく活用されている、という状況です。中国でそれほど大規模なPRをしていない状況でも、爆発的にプレイヤー人口が増えているのは、ワールド間パーティ募集の実装によるところが大きいと思っています。

──たったひとつの機能が、意外なところにも波及しているんですね。

吉田あとは、探索型のコンテンツも当初の計画にはなかったものです。開発チームの熱意と市場からのリクエストもあって、“雲海探索 ディアデム諸島”という形でトライしてみました。結果としては、うまくなじまなかったのですが、「可能性はあるんだよなあ」と当初から感じていて。とはいえ、どのMMORPGにもああいったコンテンツの前例はないので、反応もまったく予想がつかずで……。でも、その経験が現在の“禁断の地 エウレカ”につながっています。

──旧来のMMORPGのエッセンスも含みつつ、『FFXIV』らしいコンテンツに仕上がりましたね。

吉田さらに新しいことを実施すると、また違った反応もあります。“慣れと変化”のサジ加減は本当に難しく、パゴス編は引き続き調整が続きそうです。エウレカは“ゲーム内ゲーム”といった感じで、今後も思い切った内容になっていきます。予想外という意味では、拡張パッケージ2本目となった『紅蓮のリベレーター』でプレイヤーが激増する、という事実のほうが予想外でした。いや、もちろんみんな一生懸命作っているし、マーケ担当もプレイヤーを増やすべくしっかりと施策を展開してきた結果なので、僕が予想外と言うのは失礼な話なのですが。それくらい、ほかのMMORPGではあまり実例がなく、やはりこれも『WoW』だけが特別な存在だったので、予想しようにもできなかったですね。

ここからどこを目指していくのか。吉田氏自身も悩んでいた

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──吉田さんは、すでに数年先の展開も見据えて計画を進めていると思いますが、今後運営を続けていくうえで目標のようなものはありますか?

吉田今年の6月に、全リージョンのスタッフに対して、“具体的な数字の目標”というものを数年ぶりに提示しました。というのも、僕自身が『紅蓮のリベレーター』のリリース以降、どこを目指せばいいのだろうと悩んでいたのもあります。正直なところ、旧『FFXIV』のことを考えたら、「もう十分なんじゃないか?」という自分もいて。

──旧『FFXIV』の当時の状況からしたら、確かに十分すぎる結果が出ているとは思います。

吉田数百人単位のスタッフの人生をある意味拘束して、自分はいったいどこまでやる気なんだろう……と。旧『FFXIV』の全権を引き継いだときは、ひとりでも多くの人の信頼を取り戻して、新生してみせるという明確な目標がありました。そこから2本の拡張パッケージのリリース、マーケティング的にもすごくうまくいって、さてつぎは……? あれ? となってしまった。とはいえ、MMORPGの王者である『WoW』は、まだ遠くに霞んでいる程度です。『WoW』は最盛期の課金アカウントが1200万ですからね(苦笑)。この数字は、ブリザードという会社が持っている最大パワーと、全世界の人に次世代のMMORPGを知らしめた結果、生まれたものです。これは、届く、届かないの問題ではないんだよなあと思ったとき、どこを目指すべきかわからなくなってしまって……。

──吉田さんでもそんな状況になるとは、相当意外ですね。

吉田一瞬、我に返ったというか(笑)。でも、ふと「目標を作ってコツコツやってきた人間なんだから、新しい目標を作れよ」と自分に言われた気がして、そうか、それなら新しい目標を作ればいいのか、と(笑)。ここまでやってきたのだから、この先の未知な領域が、まだまだ見えてくるんじゃないかと思えたんです。

──どのように目標を設定したのでしょうか?

吉田マーケティングやPRをして、さらにプロジェクトを拡大するにあたって、“どのように、どこまで投資を行うか”という判断をするには、明確な数字の目標が必要だろうと考えました。多くの人間が並列に動くプロジェクトでもあるので、目標は数字として明確であったほうが、わかりやすくもあります。ですので、半年くらい時間をかけて、プロデューサーとして掲げるべき目標を再設定していきました。当然、そのあいだもディレクターとしてつぎの展開を設計しないといけないので、そちらも動き回りながらですが……。

──それをチームに向けて6月に発表したと。

吉田そうですね。しっかりと理論武装したうえで、全リージョンのマーケティング/PR担当を集めて、「3年でここまで行くぞ」という話をしました。

──3年計画なんですね。

吉田そんなに簡単な数字は設定していません。僕の場合、目標というのは達成できるかどうかが重要ではなく、その目標に向かって何をするのか、のほうを重視します。目標は目標、結果は結果と分けて考えます。高い目標を掲げ、それを達成するために努力した先にある結果と、達成が容易な目標に対して漫然と日々を過ごした結果は、大きく異なると考えているからです。だから、目標が達成できたかどうかは、あまり重要ではないのです。キチンと積み上げていくことが必要で、爆発させるための起爆剤をいくつも用意することになると思います。ひとつずつ手をかけていくことで自信にもなりますし、成功は加速するものなので、積み重ねが大切です。とにかくスタッフには、「現状を維持するのが仕事じゃない。まだまだ上へ行くのだから、それぞれの足もとと行く末をもう1回見直してほしい」と話しました。いままでの成功事例をくり返すだけでは、成功とは言えません。失敗する可能性が生まれるとしても、新しいチャレンジをしない限り、現状より上へ行くことはできないんです。

──かなり気合を入れ直した感じですね。

吉田『FFXIV』という巨大プロジェクトは、新生以降の途中から参加しているスタッフも多いです。だから、流れに乗っているだけなのに、それが自分の成功のように見えている人もいる。現状維持にばかり気を取られる人には、「君自身は、まだ何も成し遂げてないのでは?」と。いまのポジションを維持したいのなら、僕が掲げたこの目標を達成してみせろ、ということです。ちょっときびしめではありますが、気が緩むタイミングでもあるので、自戒も込めてそんな話をしました。僕ですらまだ上がっていないのに、上がってるんじゃないぞと(笑)。とりあえず、僕が提示した数字に対してどう施策やプランを組むか練り上げて、3ヵ月後にはいったん計画を出すように、とスタッフには伝えています。いまはそういうフェーズです。僕は僕で11月以降、いろいろとびっくりしてもらえるようなことを仕掛けていくため、もろもろの準備に追われています。しんどいですが、楽しい日々です。

──それでは最後に、プレイヤーの皆さんにメッセージをお願いします。

吉田皆さんのおかげを持ちまして、『FFXIV』は新生5周年を迎えられました。本当にありがとうございます。この5年は、プレイヤーの皆さんだけでなく、メディアやPCメーカー、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの皆さん、ゲーム配信をしてくださる方々、会社の総務、法務、広報まで、本当にいろいろな人に支えられてきました。あの旧『FFXIV』を立て直すときの関係性は、今日までずっと続いていると感じていて、それが何よりもうれしく、またありがたいと思っています。またこの先1年ずつ、とくに運営年数の目標は決めていませんが、『FFXIV』とともに歩んでよかったなと思ってもらえるプロジェクトでありたいです。僕も死なない程度に、引き続き全力でがんばります!(笑)