ドット絵で動く“2Dソニック”の最新作として2017年8月に配信されるや、その名に違わないマニアックなこだわりの数々で、世界中のファンからの熱い喝采を集めた『ソニックマニア』。そんな稀有なタイトルがこの夏2018年7月19日に、追加要素を加えたパッケージソフト『ソニックマニア・プラス』としてゲームショップの店頭に、堂々の凱旋を果たす(※)。

 そこで今回は、アメリカ・ロサンゼルスで『ソニック』シリーズ全体のプロデュースを行う飯塚 隆氏に、テレビ電話での緊急インタビュー取材を敢行。パッケージ版発売までの経緯や、ふたりのキャラクターといった追加要素について、がっつりと聞いてきた。

※オリジナル版『ソニックマニア』をダウンロード購入した人向けの有償ダウンロードコード“アンコールパック”も同日配信。購入すると『ソニックマニア・プラス』と同等のゲーム内容となる。

『ソニックマニア・プラス』インタビュー、『ソニック』シリーズプロデューサーの飯塚 隆氏にパッケージ化の真意や新要素について聞く_01

飯塚 隆氏

セガゲームス
『ソニック』シリーズプロデューサー
(2017年4月撮影)

ファンと社内の声によりパッケージ化が実現!

――本題に入る前に『ソニックマニア』発売後の反響をお聞かせください。欧米のユーザーからは熱狂的な支持と評価を受けたとのことですが。

飯塚 2017年8月の発売以降、こちらの予想以上にいい反応をいただきました。中には「ベストゲームだ!」と言ってくださる人もいて、たいへん感謝しています。しかもパッケージ商品だと発売日に大きく売れて以降はガクッと落ちてしまうことがほとんどですが、ダウンロード販売のためなのか『ソニックマニア』に関しては、発売日以降もセールスが落ちませんでした。また、昨年末までNintendo Switchがワールドワイドで入手しにくい状況が続いていたので、ようやくハードを購入できた方がダウンロードしてくれたケースもあったようです。

――世界中で好評を持って迎えられたのですね。では、本題の『ソニックマニア・プラス』についてお伺いしていきますが、どういった経緯で開発がスタートしたのでしょうか。

飯塚 『ソニックマニア』はダウンロード専売タイトルとしてプロジェクトがスタートしましたが、開発途中で社内から「パッケージ版も出したい」と言う話が持ち上がったんです。しかし途中からパッケージ版に切り換えるのは、製造ラインの問題などもあって全体のスケジュールに響いてしまうため、諦めざるをえませんでした。

――一度はパッケージ化を断念したんですね。

飯塚 はい。ですが発売後にお客様からも「パッケージ版が欲しい!」と言う声をたくさんいただいたんです。古くからのファンの方からしたら、やはりこれまでのパッケージと並べておきたいのだと。そうした皆さんたちへの感謝の気持ちもあって、パッケージ版を作ることを決定しました。

――その後はすんなりと?

飯塚 いえ、パッケージ版を作るにあたっての課題もありました。もともとの『ソニックマニア』はダウンロード専売で低価格でリリースしましたが、パッケージとなるとパッケージ代や流通コストなどが加わるため、同じ価格で出すことはできません。だったら価格を上げざるを得ないぶんの付加価値をプラスしてご提供しよう、ということになりました。また、オリジナルを購入いただいた方に対しても、有償ダウンロードコンテンツ“アンコールパック”を購入していただければ、ゲームの中身はプラスと同じになります。

ファンの想像力を超える追加要素を

――追加要素についてはどのように決めていったのでしょうか。

飯塚 どんな要素を入れたらファンの方は喜ぶだろうというのを考えてのことですね。『ソニックマニア』というのはファンの方の好奇心や期待心を刺激する“ネタ”が命なので、何が追加されたらもっともエキサイティングなのかを考えた結果が、新キャラクターのマイティーとレイというわけです。

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力自慢のアルマジロ、マイティー
好奇心旺盛なムササビ、レイ

――登場を知ったときは「こうきたか!」と唸らされました(笑)。

飯塚 マイティーとレイは1993年にリリースされたアーケード版『セガソニック・ザ・ヘッジホッグ』でソニックといっしょにメインキャラとして、あとは『カオティクス』にマイティーが登場しているので、新キャラクターと言っていいのかわかりませんが(笑)。それもあって、マイティーとレイはファンの方たちからは長い間「彼らはどこにいったんだ」と言われ続けていましたし。また、キャラクターが増えても、同じステージをもう1周やらせるのでは新鮮味がないよね、ということでギミックを変えて新鮮な気持ちで遊んでもらえる“アンコールモード”を追加しました。

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“アンコールモード”ではマイティーとレイのいずれかを選んでステージに挑戦。切り換えボタンを押すことで、ソニックといつでも交代ができる。

――飯塚さんの気持ちの中でも、マイティーとレイはどうにかしてあげたかった?

飯塚 どちらかというと私の中では、マイティーとレイは一生ゲームに出すつもりのなかった“封印キャラ”だったんです。それが今回、全シリーズの中でも特殊なマニア向けのネタをぎゅうぎゅうに詰め込んだタイトルなので、ふたりが出てくる舞台ができあがっている。そこで封印を解こうかと(笑)。

――元ネタがわかりマニアとしたら大はしゃぎでしょうね(笑)。

飯塚 そうですね。実際、先日テキサス州で行われたイベント・サウスバイサウスウエストでマイティーとレイの登場を発表したのですが、ソニックファンのお客さんたちは彼らの名前を聞いた瞬間に「わーっ!」と盛り上がってくれました。

――ふたりの固有アクションはどのように決めたのでしょう。まずはマイティーから。

飯塚 アルマジロのマイティーは、もともと力持ちという設定で硬い甲羅を背負っている。それを活かして地面に垂直に落下してドスンと揺らす“ハンマードロップ”を用意しました。また、甲羅で敵の弾を弾いたり、丸まり状態では針に触ってもダメージを一度は防げます。地面に急降下する大アクションは、クラシックシリーズでは珍しいアクションですね。

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マイティーの固有アクション“ハンマードロップ”。空中から勢いよく真下にドスンと落ちる。

――レイはどのように?

飯塚 彼はムササビということで、滑空する“エアーグライド”というアクションがすぐに決まりました。アクションとしては作りやすかったですね。ナックルズも滑空を使いますが、彼は下降するのみ。その点レイは、下降の勢いを利用して上昇することができます。テクニック次第では、かなり長く飛べますね。

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レイの固有アクション“エアーグライド”。空中を漕ぐようにして進むことで長い距離を滑空できる。

――ちょっとマニアックな手触りキャラクターという印象です。

飯塚 単にソニック、テイルス、ナックルズと同じアクションだと追加した意味がないので。やはりそれぞれ個性的なアクションを加えて、前後キャラで遊んでもらいたいというのが“プラス”です。

――ステージのレベルデザインに関しては苦労ありましたか?

飯塚 大変なところはあります。レイみたいに上方向に空を飛べるキャラクターというのはいなかったので、レイが行けないようにブロックする必要があったりとか(笑)。そういう地味な苦労はあるんですけど、それはあくまでも覚悟の上でアクションを決めていますので。“アンコールモード”は、ステージこそ『ソニックマニア』と同じですが、オブジェクトやギミックをアレンジすることで違った道で楽しめますので、マイティーやレイのアクションがより活かせるようになっています。たとえばマイティーのハンマードロップで地面に穴が開くとか。

――対戦モードは、画面が4分割になったのが目を引きます。

飯塚 そこにどれだけ需要があるのかわからないですけど(笑)。オリジナルのマニアはキャラクターが3人でしたのでふたり対戦しかできませんでしたが、全部で5人になるなら4人対戦だろうと。

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4分割画面に対応した対戦モード。通信対戦とは違ってみんなでワイワイと楽しめる。

日本だけのサントラCDを含む豪華同梱物

――特典についてお伺いします。アートブックの中身はどのようなものに?

飯塚 アートブックは海外『ソニックマニア・プラス』の特典と同じものです。これも先ほど説明した、パッケージならではの付加価値のひとつです。中身に関しては、トレーラーにあったアニメーションの設定画や、ステージのコンセプトアート、ポスターの絵柄といった、『ソニックマニア』に関わるアートを集めたものです。

――サウンドトラックCDというのは?

飯塚 日本版だけの特典となる、2枚組のCDアルバムです。iTunesなどでダウンロード販売しているオリジナルサウンドトラックに加えて、今回の『プラス』に追加されている楽曲、プロモーションで使った楽曲など『ソニックマニア』に関わるゲーム内外の音源を多数収録しています。

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ゲームパッケージとサウンドトラックCD、アートブックが特製ボックスに入れられた豪華さ。しかもゲームパッケージはジャケットを裏返すとメガドライブ風になるという遊び心も!

――これだけ豪華だとパッケージを出すことの喜びは増すでしょうね。

飯塚 私たちとしてもモノとして手元に置いておきたいと思っていたので嬉しいですね。とくに開発チームはすごく前向きで、追加コンテンツを加えようということが決まった瞬間から、「アレがやりたい!」、「コレがやりたい!」というアイデアがどんどん出てくるような人たちなので、今回も非常に楽しく作らせてもらいました。オリジナル版のリリース後はだいぶやりきった感があったのですが、彼らも『ソニックマニア』というタイトルが好きでしたから、それに手を入れられるというのは嬉しかったんだと思います。

――それだけ開発のモチベーションが高いと聞くと、続編を期待してしまいます。

飯塚 だったらつぎは『ソニックマニア’(ダッシュ)』ですかね(笑)。それは冗談として、『ソニックマニア』というプロジェクトは、パッケージ版『プラス』を出したことでやりきったなという感じです。今後このシリーズをどうするかというのは、現状では考えていません。

――わかりました。では最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

飯塚 オリジナルの『ソニックマニア』を購入いただいた皆さんのおかげで、『プラス』に続けることができて、たいへん感謝しています。昔ながらの2Dゲームなだけに、当時のメガドライブ版を知っている人向けという印象があるかもしれませんが、じつはすごく幅広い年齢層の方に遊んでいただいています。とくに海外では、小学生くらいのユーザーのダウンロード数がいちばん多いんです。今回、手に取りやすい形態、価格で『プラス』を出しますので、まだプレイしたことのない方は、ぜひ手に取っていただければと思います。日本の小学生にも胸を張って勧められるタイトルです。