SIE ワールドワイド・スタジオ チェアマンとしての役割とは

 アメリカ・ロサンゼルスにて、2017年6月13日~15日(現地時間)に開催された世界最大のゲーム見本市、E3(エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ)2017。ファミ通.comでは、同イベントにて、ソニー・インタラクティブエンタテインメントアメリカ(以下、SIEA) プレジデントとSIE ワールドワイド・スタジオ(以下、WWS) チェアマンを兼任する、ショーン・レーデン氏にインタビューをする機会を得た。

 過去には旧ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンのプレジデントを務めていたこともあり、流暢な日本語で答えてくれたレーデン氏。WWS チェアマンとしての役割や、プレイステーション VRの展望について語っていただいた。

PS VRはどこまで行けるのか、ワクワクしながら挑戦したい。SIEAショーン・レーデン氏インタビュー【E3 2017】_01
SIEA プレジデント
SIE WWS チェアマン
ショーン・レーデン氏
(文中はレーデン)

――プレイステーションのカンファレンスは、すごく盛況でしたね。
レーデン 皆さんの反応がとてもよかったですね。私は毎年、スタッフに言われるんですよ。ショーンが話す部分を減らすと、みんなが喜ぶ、って(笑)。今回、私が話したのは冒頭と最後、合わせて4分くらいでしょうか。あとの約1時間は、ゲーム、ゲーム、ゲームです。

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――あそこまで凝縮したカンファレンスは初めてではないでしょうか。ほかの方は、一切登壇されませんでした。
レーデン 去年は、今年と同じシュライン・オーディトリアムで実施して、『God of War』の紹介からスタートしたのですが、そのときからこういった形式は意識していました。やっぱり我々はエンタテインメントビジネスをやっているので、プレスカンファレンスというよりは、モノを見せようと。たとえば、映画のトレーラーを見た後に誰かが解説することはないですよね。「さっきのトレーラーでは、このヒーローと、この悪者が、こういうことになって……」なんて言わない。どうしてゲームは、トレーラーを見せた後に、ディレクターが「このゲームは、このヒーローと、この悪者が……」って解説するのか。言わなくたっていいんじゃないかと。

――モノを見せれば十分だと。
レーデン そうです。今回の我々の方針はそれです。いいコンテンツがあるから、そのまま見せれば、皆さんがわかってくれる。

――そこで、演出もあのように派手に強化したんですね。
レーデン ちょっと派手でしたね(笑)。あれがエンタテインメントですよ。

――アトラクションみたいでしたよ(笑)。見ていて飽きなかったです。
レーデン そう、最後には皆さんに「もっと見たいな」って気持ちになってもらわないといけません。「いつ終わるのかな~」と思わせてしまったら、それはイベントとして失敗ですよね。

――カンファレンス全体の構成は、ショーンさんが決めているのですか?
レーデン そうですね、私のチームがやっています。

――ショーンさんは昨年から、SIEAのプレジデントとWWSのチェアマンを兼任されていますが、チェアマンとはどういった役割なのかをお聞かせください。
レーデン まず、WWSのプレジデントである吉田(吉田修平氏)は、現場と近く、制作のプロセスやゲームの企画を管理しています。チェアマンとしての私の担当は、主にふたつあります。ひとつは、いままでよりも、制作とマーケティングの協力体制をとること。制作とマーケティングに、ある程度の摩擦があるのはいいことだと思っているんです。新しい見方やアイデアが出てきますので。でも、協力体制をとる必要もあります。

――その通りですね。
レーデン その役目をなぜ私がするのかというと……私がこの会社に入ってから、もう20年になりますが(※1996年に旧ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)に入社)、最初に経験したのは制作でした。1996年から2007年の約10年間、制作を担当して、2007年に旧ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン(SCEJ)のプレジデントになり、そこからセールス&マーケティングの仕事が始まりました。さらに10年が経って、今回チェアマンになって思うことは、「WWSに戻ってきた!」ということなんですね。私自身は、どんなゲームを作って人を喜ばせるか、何が心の琴線に触れるのかを探る、そういう仕事ができるスタジオがいちばんおもしろいと思っています。……というわけで、制作とセールス&マーケティング、両方の経験がある私が担当することで、よりうまくいくのではないかという考えです。

――なるほど。では、もうひとつの理由は?
レーデン もうひとつは、WWSの歴史もほぼ20年になって、この20年間に、数えきれないくらいのタイトルを作りました。ですので、IP(知的財産)はたくさんありますが、我々はまだそれをうまく利用できていません。今後は、映画、テレビ番組、マンガなど、どのようなな媒体で我々のIPを展開できるかを考えていきます。これからのIPを作ることも大事です。先日も、『Horizon Zero Dawn』というIPが新しく生まれましたが、それらをどう展開していくかも担当します。

――開発とセールス&マーケティングをつないで、さらにIPを最大限に活用するためにどうするかを担当されるということですね。ではつぎに、いまのWWSを、ショーンさんがどのように評価しているのか、どんな課題があると考えているのかを教えてください。
レーデン そうですね……20年前、私が制作にいたときは、ゲームの制作予算が100万ドルを超えたらたいへんなことだと思っていたのですが、いまはそれどころじゃありません。でも、ゲームの価格は変わっていないんです。価格は変わっていないけれど、制作コストは10倍、100倍。そのような状況では、制作のリスクが高まっています。ゴーサインを出す前に、このゲームが売れるかどうか、ちゃんと検討しなければなりません。それが課題です。そのタイトルにマーケットはあるのか。マーケットがないなら、そのタイトルでマーケットを作れるのか。たとえば、プレイステーション VR(以下、PS VR)もそうですよね。

――過去に例がないものですからね。その場合、どのように検討されるのですか?
レーデン 昔、丸山さん(丸山茂雄氏。旧ソニー・コンピュータエンタテインメントやソニー・ミュージックエンタテインメントの取締役などを務めた)に、「丸山さん、このゲームを作るかどうか、どうやって決めればいいですか」と聞いたら、ひと言「まぁ~、勘だな」と言われたことがあって。

――勘ですか(笑)。
レーデン 通常のゲームタイトルであれば過去の例もあるので、そこから判断すればいいのですが、VRは過去の例がまったくないので、作っていくしかない。VRについては「まぁ、勘だな」と思って作っています(笑)。いまはいろいろなコンセプトのタイトルを出して、何が盛んになるか、何が喜ばれるかを探っているところです。初代のプレイステーションのころの気持ちを思い出しますよね。様々なコンテンツを出せば、何が受け入れられるかわかる。そういうワクワクする気持ちがあります。

――いまのPS VRの普及の状況についてはどうお考えですか? 順調でしょうか、それとも、まだこれからなのか。
レーデン “順調”も当てはまりますし,“まだこれから”も当てはまります。世界で100万台を超えていますが、アメリカではすぐに売り切れて、10月から4月まで、ほとんどのお店でPS VRが買えませんでした。生産体制を強化して、ここ最近はお店で買えるようになっています。今後、月間でどれくらいの販売規模となるかはわかりませんが、どこまでいけるのか、チャレンジしてみたいと思います。

――楽しみにしています。それから、JAPANスタジオについてうかがいます。先日のカンファレンスでも『ワンダと巨像』がとても評判がよかったと思いますが……。
レーデン 反応がよかったですよね。映像が始まって、わかる人はすぐに気付いていました。

――いまの日本のスタジオに期待することをお聞きしたいのですが。
レーデン 日本のスタジオにとって、今年はいい年になると思います。『New みんなのGOLF』に『グランツーリスモ SPORT』が出ますし。各スタジオのミッションは、世界的にアピールできるコンテンツを作ることではありますけど、でもやっぱり、日本のスタジオは日本市場に向いているコンテンツを作らなくてはいけません。『みんGOL』は日本でファンが多くて、プレイステーション4で出ることを望まれていましたし、『グランツーリスモ』もみんなが待っていました。今年は日本市場において、プレイステーションのコンテンツはかなりいいものが出ると思います。

――では最後に、日本のゲームファンにメッセージをいただけますでしょうか。
レーデン 去年10月にPS VRを発売しまして、コンテンツはあらゆるものが出てきています。今年、カプコンさんから『バイオハザード7 レジデント イービル』が発売され、PS VRでも全編遊べるということで、とてもヒットしました。日本では6月22日に『Farpoint』が発売されますが、PS VR シューティングコントローラーを使って遊ぶことで、VRの体験がより深くなります。そのコントローラーに対応するタイトルはほかにも出てきますし、たくさんのゲームタイトルやノンゲームコンテンツもあります。まだ触れたことがない方は、いままでにない体験ができますので、ぜひ遊んでみてください。