5枚目のオリジナルサウンドトラックが発売

 パッチ3.2“運命の歯車”からパッチ3.5“宿命の果て”までの50曲+ボーナストラックを収録した、『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)5枚目となるサウンドトラックが6月7日に発売。楽曲の魅力もさることながら、ざっくばらんな人柄で人気のサウンドディレクター・コンポーザーの祖堅正慶氏を直撃!

『FFXIV』5枚目のサントラが発売! 制作秘話のほか、4.0やオケコンについて祖堅氏に訊く!!_01
『FFXIV』5枚目のサントラが発売! 制作秘話のほか、4.0やオケコンについて祖堅氏に訊く!!_07
▲祖堅正慶氏。『ファイナルファンタジーXIV』サウンドディレクター。『ロード オブ ヴァーミリオン』シリーズ、『ナナシ ノ ゲエム』など多数の代表作を持つ。(文中は祖堅)
▲THE FAR EDGE OF FATE: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack/2017年6月7日発売/5000円[税別]

<関連サイト>
FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack 特設ウェブサイト

“ブルートジャスティス”がきっかけでサウンドの幅も広がってきた

『FFXIV』5枚目のサントラが発売! 制作秘話のほか、4.0やオケコンについて祖堅氏に訊く!!_02

──アレンジアルバムも含めると通算7枚目となるBlu-ray Disc Musicですが、新たに変わっていることなどはありますか?

祖堅 細かな違いこそあれ、“新しい音楽メディアを作る”という基本コンセプトは変わりません。1枚目から映像も音も、そして機能もゴリゴリに詰め込んでいるので、続けることが大事だと思ってやってきました。

──『FFXIV』だけでこの枚数なのが驚きです。

祖堅 正直、もう7枚目なのかと思います(笑)。最近音楽はデータで持ち歩いて楽しむものになっていますが、ディスクならではということで、ハイレゾ音源や映像、特典などを1枚に入れ込むほうが絶対にいいと思っていますので。

──今回はパッチ3.2“運命の歯車”からパッチ3.5“宿命の果て”までの50曲を収録しているということですが……。相変わらずの物量ですね(笑)。

祖堅 (笑)。でも、ディスク発売のために曲数を増やしているわけではないですよ。サウンドチームとしては、制作の物量はなるべく少ないほうがいいですから。

──THE PRIMALS(『FFXIV』の公式アレンジロックバンド)のギタリスト、GUNNさんが『餓えた狼 〜ザ・フィースト〜』に、『上り階段をくだれ 〜星海観測 逆さの塔〜』にはサウンドチームの高田有紀子さんが関わっています。祖堅さんに集中する楽曲制作を、意識的に変える試みがされているのでしょうか?

祖堅 音楽にいろいろな色を盛り込むことはとても大事なので、信頼できる人にお願いして、いいものができあがったなら、どんどん入れていこうと思っています。高田はもちろん、GUNNさんも『FFXIV』をプレイしていますよ。「ぜんぜんゲームしたことないんだよ」と言っていたGUNNさんですが、「プレイヤーの気持ちをわかるためには、プレイしなきゃダメだ」と始めて。……ほかのプレイヤーさんに教えられながらやっているみたいです(笑)。

──(笑)。高田さんは、2016年の紅蓮祭の『ハイパーレインボーZ』や同年“守護天節”の『朝まで大騒ぎ』も手掛けていて、多才さがうかがわれました。

祖堅 高田本人は「私はいたってふつうの人間です」と言い張りますが、十分変わっているんですよ。だから、おもしろい曲を書きますよね(笑)。

──祖堅さんが手掛けた『メタル:ブルートジャスティスモード 〜機工城アレキサンダー:律動編〜』が戦隊モノ風だったので、てっきり『ハイパーレインボーZ』も祖堅さんの担当かと思いました。

祖堅 (笑)。当初のブルートジャスティスには、いかにも『FFXIV』っぽいロックな楽曲を実装していたんですが、締切ギリギリでメインシナリオライターの石川夏子やバトル班から「いまの楽曲もすごくいいんですが、もうちょっとこちらに寄せてもらいた
い思いがあるんです」と言われまして……。

──どんなお願いがあったんですか?

祖堅 当時の律動編4層は、それ以前のレイドよりも飛躍的に難度が上がったものでした。そのため、プレイヤーにプレッシャーを与える楽曲ではなく、「えーい、行くぞー!」くらいのノリの、戦隊ヒーローっぽい音楽に寄せてほしいということだったんです。

──なるほど、そういう意図があったんですね。

祖堅 「アホっぽくならない?」、「それがいいんです!」ということで、いまにいたります。「楽曲で笑って全滅したっていうのもアリ!」みたいな。実際にプレイヤーさんからそういう声もいただきました(笑)。

──確かに、意表を突かれました(笑)。

祖堅 それがきっかけで『FFXIV』にもああいう曲調を入れられるようになりました。紅蓮祭は自分がやっても同じようになるでしょうから、高田に任せました。高田はどちらかと言うと『朝まで大騒ぎ』のような曲調が得意らしいですが、「知ったことか」と(笑)。すばらしい出来だったので、高田さえよければ、バトルも蛮神戦の曲もやってもらいたいですよね。

バトルのギミックに強く紐づいたオリジナルサウンド作り

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──魔神セフィロト、女神ソフィア、鬼神ズルワーンの三闘神の楽曲は、それぞれどんなオーダーがあっていまの形になったのでしょうか?

祖堅 三闘神は、『FFVI』の『死闘』をアレンジして使用するという大前提がありました。その『死闘』を、バトルの前半と後半のどちらに持ってくるかという議論がありまして。僕は、後半に持ってきてバトルを締めたほうが『FF』の三闘神としていいと思っていたんです。ですが、プロデューサー兼ディレクターの吉田が「逆がいい」と食いついてきて……。最終的には僕が決めていいと言われつつも、提案されるたびに反論していました(笑)。その後、実際にセフィロトのバトルを見たら、でかいゲンコツでバコーン! とぶっ飛ばされるギミックがあったという。そんなの『FFXIV』ならではじゃないですか(笑)。そのオリジナリティー溢れるバトル感を表現するなら、オリジナルの楽曲をあてるべきだと思いまして。

──考えが変わったんですね(笑)。

祖堅 バトル前半用の楽曲もいくつか用意していましたが、いまひとつ盛り上がりに欠けていたんです。蛮神戦の後半って、殻を破る感じがありますよね? それをサウンドで表現するために、『死闘』アレンジ+オリジナル楽曲という形に落ち着きました。

──三闘神それぞれにテーマはありますか?

祖堅 セフィロトは“地鳴り感”、“ノリのよさ”、“ロックテイスト”です。ゲンコツの動きに合わせる趣旨があるので、バスドラムの四つ打ちを強く出しました。ソフィアは“独特なオリエンタル感”。参考にエジプトを彷彿させる音楽集を渡されて、「え? これでバトル曲を?」と戸惑いました(笑)。“女神だから美しい感じ”とか、“のびやかで儚い”とか。いったい何なんでしょうね(笑)。

──よくぞ応えきりましたね。

祖堅 たまたまですよ(笑)。ズルワーンはオーダーシートに“ファンタジーロック”とあって、意味がわからなくて話を聞きに行きました(笑)。要するに、古きよき時代のゲーム音楽を現代風にしたものを求められていたので、結果的にいまの感じになりました。

──シンコペーションの効いたフレーズは、古いゲーム音楽がモチーフだったんですか?

祖堅 いえ。バトルは第1段階から第3段階まであるじゃないですか。第2、第3段階は合わせて1曲の予定でしたが、究極履行前でまだ力を試されている段階なのに、本気モードの楽曲をあてるのも変ですから、さらにもう1曲作ることにしたんです。そこでファミコン時代のPSG音源を入れて、よりゲーム音楽らしさを出しました。

──そういう経緯があったんですね。

祖堅 PSG音源は矩形波なので、ハイレゾ音源だと波形がとてもクッキリ出るんですね。エンジニアの前田さん(サントラのマスタリングを担うバーニー・グランドマン・マスタリング東京の代表、前田康二氏)が、「こんなキレイな波形、初めて見た! これは子どもたちにいい影響があるかもよ!?」と興奮していました。本当かどうか知りませんけど(笑)。

『ライズ』の無限停止演出誕生は、“光の戦士・絶対殺すマン”こと須藤氏のおねだり

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──機工城アレキサンダー:天動編の楽曲も、かなりタイトな制作期間だったとお聞きしています。

祖堅 短かったですね。もともと3層の楽曲を作る予定はありませんでした。4層の『ライズ』を作っている途中で生まれたのが3層の『指数崩壊』なんですね。『ライズ』はデジタルロックですが、アレキサンダーの最後は、とにかくかっこいい感じで終わらせたかったんです。それに、ああいう曲調を使えるのは、アレキサンダーくらいしかありませんし、作るのも楽しいので、個人的にうれしかったです。

──『ライズ』と『指数崩壊』は、それぞれどんなコンセプトで作られたのでしょうか?

祖堅 アレキサンダーは、根本的に“スチームパンク”という柱があったので、機械をイメージさせる楽曲作りを目指しました。ですから、ロックであれ、テクノであれ、機械を彷彿させる音を必ず入れるようにしています。『ライズ』であれば、ギターの音をアラームのような電子音に寄せたりしています。具体的には、冒頭で「ブー」とギターが鳴りますが、そういう音を定期的に入れているあたりですね。

──無限停止のアイデア(時報をモチーフとした音楽的な演出)は、どんないきさつで生まれたものだったのでしょうか?

祖堅 あの演出は、当初なかったものでした。でもある日、「時間停止の演出を入れたからぜひ見てほしい」と、バトルプランナーの須藤賢次に呼ばれて、彼のブースで見せてもらったんですよ。見事に停止したのでおもしろがっていたんですが、「ここからもっと止まっている感じを出しますから!」と、チラチラ僕のほうを見てくるんですね(笑)。

──視線でおねだりされたんですね(笑)。

祖堅 すっかり彼のキャラクターに押し切られた格好です(笑)。「タイムストップだから、時報をベースに特別な処理をして、楽曲がひっくり返る感じにすればいいのかな?」、「バッチリです!」と……。

──バンドで『ライズ』を演奏したドイツでのファンフェスティバルは、めちゃくちゃ盛り上がりました。世界広しと言えど、時報であんなに盛り上がるライブは、『FFXIV』しかないと思います(笑)。

祖堅 メンバーも見事な停止っぷりでしたね。僕以外はみんなプロのバンドマンですから、「時報で止まって」とお願いしたらうまくやってくれるだろうとは思っていましたけど(笑)。

──アレキサンダーの楽曲は、祖堅さんも楽しんで作っていらっしゃるのがうかがえます。

祖堅 そうですね。『ローカス 〜機工城アレキサンダー:起動編〜』からずっと楽しかったです(笑)。アレキサンダーが楽しかったから、それ以外の楽曲も楽しんで作れんだと思います。

『蒼天のイシュガルド』を総括し、『紅蓮のリベレーター』へ……

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──『蒼天のイシュガルド』を作り終えた、祖堅さん視点での総括をお願いします。

祖堅 やっぱり『新生エオルゼア』とは変わりましたよね。『新生エオルゼア』では、コンテンツは際立たせるけど、引っ込ませる曲はふわっとさせるイメージで作っていました。具体的には、環境音を大事にして、必要なときにしか流れないというような……。

──黒衣森の葉擦れの音などが思い起こされます。

祖堅 じつは、僕はそのスタイルが好きなんですね。一方『蒼天のイシュガルド』は、「RPGとして、無音の状態でクエストを進めるのは避けたい」という吉田の意見を強く反映しています。そのため夜専用の楽曲を用意するなどして、全体がよりメロディアスな作品になっていると思います。

──モチーフの転用も多かったですし、ドラゴンと人間というふたつの視点がありましたね。

祖堅 『Dragonsong』と『Heavensward』というふたつのテーマ曲が大きな柱としてあったので、そこからいろいろ派生させて楽曲を作ることができました。そのうえで、各コンテンツはオリジナルの楽曲でしっかり色づけできました。そういう意味でバラエティーに富んでいますし、『新生エオルゼア』より完成度は高まっていると感じています。

──そして『紅蓮のリベレーター』が目前です。

祖堅 そうですね。ストーリーに関わるので、まだコンセプトについてはお話でませんが、できあがっている楽曲の印象から言うと、オリエンタリズムとか民族的と言いますか、これまでの雰囲気とはぜんぜん違う作品になっています。東欧、モンゴル、中国、日本……いろいろなテイストがあって、独特な仕上がりになっていますよ。『蒼天のイシュガルド』は楽器を重ねて重厚さを出し、トラック数も多かったのですが、今回はその真逆で、ふたつしか楽器を使っていない楽曲もあります。ストーリーが落ち着いたら、ひとりでフィールド探索をすると、旅情感が溢れてきてすごくいいですよ。切なくなって、「街へ戻ろうかな」なんて思ってしまうような(笑)。

──いいですね、そういう感じなんですね。

祖堅 今回も、土地ごとに根づいたメロディーがあります。だから、音で色や雰囲気がガラッと変わっておもしろいと思います。“竜宮城”とか、すごくいいですよ(笑)。フィールドなら“ヤンサ”がメチャいいです。あの、寂しい感じがですね……。

──うーん! 早く行きたいです(笑)。

祖堅 楽曲はなんだかんだ50曲は超えたでしょうか。“次元の狭間オメガ”は半分くらいできました。『紅蓮のリベレーター』の楽曲については語れることがすごく多いので、またお話できる機会に……。

待望のオーケストラコンサートも決定! 今後のイベントの予定は……?

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──2017年9月にオーケストラコンサートが開催されますが、これはいつから計画されていたのでしょうか?

祖堅 かれこれ2年以上前からです。ずっと準備はしていましたし、やらなきゃいけない使命感はあったんですが、ホールの事情がありまして。お客さんからも「早くやってほしい」という声をいただいていましたので。最近はTHE PRIMALSのライブを望む声も多いですが、その裏側に、なかなかオーケストラコンサートが実現されないことを気遣ってくださる気持ちを感じていました。

──地方での開催を望む声もあるようです。

祖堅 まずは東京公演を成功させてから考えたいです。そうしないと、地方公演も実現させづらいので。なるべく多くの方に来ていただけるといいですね。

──祖堅さんも演奏に加わるんでしょうか?

祖堅 いえ。今回はクラシックコンサートとしてしっかりオーケストラを聴いていただきたいと思っていますので、僕は裏方に徹します。ですが、これは『FFXIV』のコンサートですので、エンターテインメント性を高める企画として何かしらはやるかもしれませんが……あまり期待せずにいてください(笑)。

──いろいろ楽しみなことが多いですが、まずはサントラですね。ファンの方にひと言お願いします。

祖堅 今回も特典が盛り盛りですし、ディスク製作チームに光の戦士が入ったので、操作画面がちょっとおもしろいものになっています。それになにしろ、『ライズ』も入ってますからマストバイです(笑)。それから、サントラのインストアイベントが全国5ヵ所のCDショップであります。2017年6月9日(金)に大阪、10日(土)に福岡と名古屋、11日(日)に札幌に行きますよ。(編註:東京は6月7日に開催済)

──相変わらず宇宙の法則が乱れていますね(笑)。

祖堅 でもまあ、博多〜名古屋の移動は理解できなくもないじゃないですか? その翌日ですよ。朝に名古屋を発って札幌へ行き、イベントを終えたら羽田空港に戻り、その足で横浜へ行き、みなとみらいでプロジェクションマッピングのイベント“海洋都市ヨコハマ「龍神バハムート、襲来。」”(2017年6月10日・11日開催予定)を視察するという。「あれ? 朝って名古屋にいたんじゃなかったっけ?」ってなりますよね(笑)。

──東海道新幹線を使えば、名古屋〜横浜間は約1時間20分で移動できるはずなんですけどね……。

祖堅 ですよね。でも、札幌を経由するんです。不思議ですね? もし僕と同じ移動をする予定の光の戦士がいたら、いっしょに騒ぎましょう(笑)。