未来を見据える、トークショーの後半パートをリポート

 2017年3月11日に福岡で開催された、第10回福岡ゲームコンテスト「GFF AWARD 2017」。同イベントの会場にて、特別ゲストによるスペシャルトークショーが開催された。

 登壇したのは、GFFから、レベルファイブ 代表取締役社長/CEO日野晃博氏。そして特別ゲストとして、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント 吉田修平氏とカドカワ株式会社取締役 浜村弘一ファミ通グループ代表の3人。

SIE吉田氏、レベルファイブ日野氏、カドカワ浜村ファミ通グループ代表が業界の未来を徹底討論。PS VRの極秘映像も初公開!【GFF AWARD 2017トークショーリポート後編】_16

 このトークショーは、ゲーム業界の10年を振り返る前半パートと、これからの10年を見据える後半パートの2部構成。本記事では、これからの10年に大きな影響を与える、「プレイステーション VR」(PS VR)や仮想現実への取り組みかたについての話が展開した後半パートを、対談形式でお届けする。その中では本邦初公開となる、PS VRの開発中の貴重な秘蔵映像や、レベルファイブのVRへの取り組みまで、驚くべき話題が満載の内容に!
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PS VRは初代プレイステーションに似ている?

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浜村 今回は“ゲーム業界 これまでの10年 これからの10年”というテーマで、トークを進めていますが、やはりこれからの10年という、未来の話をしたいですよね。では、これからゲームの未来を大きく変えるものは何かといいますと、ひとつ大きなものは“VR”、“AR”、そして“MR”というキーワードではないか、と言う気がしています。ということで、まずはPS VRでVR元年のムーブメントを起こした吉田さんに、VRのお話を伺いたいです。

吉田 VRの仕事をしていると……とにかく楽しいんですよ。

浜村 楽しいと。

吉田 ええ。PS VRを発売したタイミングで、ちょうどVR元年に立ち会えたことも、ものすごく楽しくて幸せでした。思い起こせば、20年以上前に久夛良木(健)さんといっしょに、プレイステーションを立ち上げたときの感覚と、すごく似ているんですよ。

浜村 プレイステーションの立ち上げ時期と似た感覚ですか? それはすごい。

吉田 ええ。PS VRを開発していたときも、世間からはVRなんて普及しない、と言われていた頃でした。プレイステーションを開発し始めたときも、3Dポリゴンのリアルタイムグラフィックスが初めて家庭用ゲーム機で使えるようになる! と言ったところで、「どうせレースゲームやシューティングゲームにしか向かないだろう」、と言われていたんですよ。ですが、ふたを開けたら、びっくりするような3Dポリゴンのゲームが出てきたんです。当時主流だった、大手家庭用ゲーム機のソフトメーカーさんのところにも、足しげく通って、3Dポリゴンで表現するゲームの魅力を説明しつづけましたよ。

日野 いまでは、3Dポリゴンのゲームは主流になりましたからね。

吉田 20年経ったいまは、3Dポリゴンで『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』などの、驚くほどハイクオリティな表現をするゲームが作られるようになりましたから。

浜村 確かに、そうですね。しかしPS VRの開発でも、新しい技術で新しいゲームを作ろうとしていた感覚が、3Dポリゴンに挑んだ20年前のプレイステーション立ち上げ時と似ているのですか。

吉田 そうなんです。業界でVRのゲームを作ったら絶対におもしろいと考えて夢見ていたクリエイターさんたちが、いよいよVRの技術に手が届くようになり、「やっとできるんだ」という思いで規模は小さいながらも、自然と集まってきたんですよ。

浜村 VRの集まりがあった?

吉田 ええ。そこには、いろいろな業界の人たちが集まっていたのですが、それこそ『Rez』の水口哲也さんを始めとするような、本当にVRが好きで好きでたまらなくてやっているクリエイターたちです。そういう人たちと、コツコツと長らくPS VRの開発を続けて、やっと発売できたタイミングでいっしょに“VR元年”と呼ばれる状況を迎えられたというのは、本当に楽しかったんです。

PS VRの戦略は……?

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浜村 しかし、このタイミングで大ヒットしたPS VRをリリースする戦略は、どのように練り上げていったのですか?

日野 それは確かに気になりますよね。

吉田 きっと、そうですよね(笑)。新しい技術であるVRに挑むことに対して、何か勝算というか、戦略が前提にあって動いてきた、と思われるのは当然です。ですが……じつはそんなことはなくて、開発の主要スタッフは皆、好きでやっていたんです。仕事が終わった後の時間を利用して、勝手に技術研究をしていたんですね。

浜村 え!? 仕事終わりに手弁当で、ですか?

吉田 はい(笑)。じつは私もいっしょだったのですが、2010年の秋に、PS3で『GOD OF WAR』を作っていたチームメンバーたちと、仕事終わりに趣味で作っていたプロジェクトだったんです。ちょうど当時、体感型コントローラーの「プレイステーション ムーブ モーションコントローラー」(PS Move)をリリースした時期だったのですが、このデバイスは、コントローラーの先端についている光る球の部分との距離を、「PlayStation Eye」(PS Eye)というカメラデバイスで読み取ることで、3D空間のトラッキングができるというものでした。

浜村 ええ。いまも、PS VR用のコントローラーとして活躍していますよね。

吉田 そのPS Moveをですね……HMD(ヘッドマウントディスプレイ)に接続することで、簡易的なバーチャルリアリティーを実現できるのではないか、と勝手に研究していたんです。その自作PS VR試作機とでもいうものを、皆、仕事が終わったあとにコントローラのコードを引き直して、PS3につないであれこれ試行錯誤していたんですね。ここに、ちょっとその当時の写真を持ってきたのですが、これ、両方とも私です(笑)。

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▲PS VR試作機を模索する吉田氏の姿。左が2010年秋のもので、右は2011年3月のもの。どちらもHMDにPS Moveが接続されている。

浜村 これはすごい! 

吉田 そして翌年の2012年には、本当に試作機を作ってしまいました。

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▲2012年に制作された、PS VRの前身ともいうべきプロトタイプ。

浜村 これもすばらしい資料です……しかし、手作り感がすごいですね。

吉田 そうでしょう(笑)。この頃は、VR好きはもちろんですが、いろいろなスタジオからハード制作が好きな人たちも、次第に集まってくるようになりました。そして、これはPS4の時代になったら、おもしろいものが出来るのではないか? という実感が生まれたことで、正式にPS VRのプロジェクトとして立ち上げたのです。ここで、ちょっと最初にお見せした2010年秋に研究していた、PS3『GOD OF WAR』のVR版の映像も持ってきましたので、見てみましょう。

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▲会場で流された、PS3のVR試作版『GOD OF WAR』の動画。右上には試作段階のヘッドセットを装着したプレイヤーの姿が。主観視点で進む中、目前に迫る敵をバッサリ斬り倒す映像が印象深い。カメラワークなどは、いまのVRのゲームでは気持ち悪くなってしまうため、絶対にしないような作りになっていたと吉田氏。

日野 貴重な映像ですね、これは。

吉田 HMDにつけたPS Moveでトラッキングをすることで、プレイヤーが主人公の視点で世界を見ることを実現しています。主観視点でステージを進んでいくんですね。当時は、まだカメラワークなどに難があったのですが、それでもVRで『GOD OF WAR』を遊んだときに、もっともびっくりしたことは“下を見ると私の体がクレイトスになっていたことだったんですよ!

日野 ああ、なるほど!

吉田 当時、これはすごいと純粋に驚きました。だって、自分の体が筋肉隆々になっているんですから(笑)。

日野 その感覚は、VR独特のものですよね。

吉田 これまで体験したことのない驚きでした。そして、もうひとつPS Moveに対応したダウンロードソフトとしてリリースした、『DATURA』という主観視点のアドベンチャーゲームがあったのですが、これも海外でPS MoveにHMDを付けたVRバージョンをイベント用に作ってプレイしていただきました。この時点でのPS VR試作機は、まだ映画を見るためのHMDを改造したものだったために、前方のスクリーンに映像を投影する方式だったんです。でも、この仕組みにレンズを搭載することで、PS4の時代になれば、本格的なVR空間を表現できるゲームが作れるだろうと実感できたんです。

日野 PS VRの本体が淡く光るのは、つまり、この光でトラッキングをしているからですよね。

吉田 そうなんです。PS VRにはLEDが9個ついていますが、その位置情報をカメラで読み取っています。これは、ただのデザインじゃないんです。

浜村 純粋に近未来的でかっこいいデザインだな、と思っているプレイヤーは多いと思いますよ(笑)。

吉田 デザイナーは、トラッキング用のLEDをつけなくてはいけないという制約があって、とてもたいへんだったと思います(笑)。ちなみに、いまだから明かしてしまいますと、PS4とPS VRは、並行して開発していました。だから、PS4のワイヤレスコントローラー(DUALSHOCK 4)にもトラッキング用のライトバーを実装したんです。

浜村 つまり、VR空間にコントローラーを表示させたかったからですね。

吉田 そうなんです。でも、PS4の発表時には、まだライトバーが付く理由を説明はできないじゃないですか。

浜村 それはそうですよ、だってPS VRの発表をしていないんですから(笑)。なるほどなあ。

吉田 そうですよね。PS4の発表当時は、一部のユーザーさんたちに「どうしてコントローラーにライトがついているのか? 暗い部屋だとまぶしいし、画面に反射する」ということで、よく怒られました。けれど、「すみません」とか言いながらも……じつは、隠された理由があったのです。

『スナックワールド』VR映像が制作中!?

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浜村 しかし、PS VRがこのように、まるでインディー的な試行錯誤から生まれてきていた、というのは以外でした。

吉田 インディー的なと言えば、バンダイナムコエンターテインメントで『サマーレッスン』を開発された原田勝弘さんや、『Rez Infinite』を生んだ水口哲也さん、それから、カプコンの『バイオハザード7』の開発スタッフの皆さんも、VRの開発は会社からのOKがなかなか出なかったと伺いました。

浜村 ヒットする保証も目算もつかない状況ですからね。

日野 そうですよね。

吉田 そうなんですよ。先ほども話しましたが、3Dポリゴンの魅力を説いて回ったプレイステーション時代を思い出します。しかし、バンナムの原田さんは、「VRよりも格闘ゲーム制作を薦められたので、しかたなく『鉄拳』チームの予算から、VR開発の費用を割いた」って話されていたのでびっくりしましたよ(笑)。

浜村 そこまでしてVRを作りたい気持ちがあったんですから、驚きますよ。それに、カプコンの『バイオハザード7 レジデント イービル』のチームも、ゲーム全体をVRに対応させてしまいましたからね。

日野 『バイオハザード7』は、僕もVRで遊び込んだのですが、あのVR空間では、動かないでいることすら、怖いんですよね。敵に襲われて、思わず体がのけぞりましたよ。本当に(笑)。

浜村 わかります(笑)。ゲームの世界への没入感、ケタ違いですよね。

日野 ええ。なので僕らも、じつはVR作品を制作しているんです。

吉田 ええ! そうなんですか。何を作られているのですか?

日野 まだ実験段階ではあるのですが、『スナックワールド』という、もうすぐアニメも始まるフルCGのクロスメディアプロジェクト作品のVR映像を制作しているんです。主人公のチャップが、剣と盾でメドゥーサというボスを倒すシーンがあるのですが、その場面自体を、VRにしています。ほかにも、いろいろな場面が体験できるものを目指しているのですが、やはり、先ほどの話のように、自分がゲームの世界の中に没入して、キャラクターたちと接触する、といった体験は、ものすごく感動的なんですよね。

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吉田 ええ、わかります。VRでキャラクターと触れ合うときって、目線などもうれしいですよね。自分を見てくれている感覚と言うか……。

日野 そうなんですよ。実際にVRの作品を制作してみたら、まさにその目線の高さがかなり大事だと思いました。目の前のキャラクターが、自分よりも背が高いのか、それとも低いのか、といった点もVR空間だとすごく気になるんですよね。なので、絶妙な背の高さを設定しなきゃいけなかったり……新しいモノづくりですね。ほかにも、やはり武器などをVR空間で手にすると、「これが剣か……!」みたいに、つい眺めまわしてしまいませんか(笑)。あの感覚が、すごく魅力的ですよ。

浜村 その感じ、とてもよくわかります。

吉田 ええ。そういえば、先週、東京のソラマチという商業施設で、“ドラえもんVR”というイベントの発表があって、見に行きました。そこで実際に、VRでドラえもんに触れ合う体験をしたのですが……ヘンな言い方ですが「会える」んですよ、ドラえもんに。そして、「ドラえもん、こんなに大きいんだ! と思いますよ(笑)。

日野 ドラえもんの身長などのスペックについて、数字ではわかっていても、顔が体の半分以上ありますからね。

吉田 そうそう、顔があまりにも大きいんですよ。それがね、怖いんです!

浜村 まさかの吉田さんが、まるでVRを体験したことがない人の感想のようなことを(笑)。

一同 (笑)

吉田 でもね、VRってやはり夢があるというか、未来を感じる技術ですよ。私は特にドラえもんの熱烈なファンというわけではなかったのですが、VR空間で、目の前の机の引き出しからドラえもんが出てきたときには、何か感動のようなものがありましたよ。

浜村 私も、ゲームの歴史の黎明期、ファミコン初期の頃ですね。当時は新しいゲームが出るたびに感動していたのを思い出しますよ。いまは、それに似た感動をVRに感じるんです。