歴史ある歌舞伎と、最新テクノロジーが融合を果たした背景にあるものは

 2016年12月21日、KADOKAWA富士見ビルにて、AMD(一般社団法人デジタルメディア協会)のセミナー“中村獅童×初音ミク 超歌舞伎『今昔饗宴千本桜』上映会”が行われた。

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 2016年4月に“ニコニコ超会議2016”にて上演された、歌舞伎役者の中村獅童さんと、電子の歌姫・初音ミクが出演した超歌舞伎『今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんさくら)』。今回のセミナーは、この超歌舞伎を全編視聴できる上演後初の上映会。歌舞伎と最新テクノロジーを融合させたまったく新しいエンターテインメントの全貌を再体験しつつ、その技術や舞台の裏側を知ることができる、業界人や映像関係者たちに向けた内容となっていた。今回はセミナーの模様をお届けするとともに、初音ミクと超歌舞伎の気になる今後について、超歌舞伎の総合プロデューサーを務めたドワンゴ 取締役CCO 横澤大輔氏にうかがった。

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 『今昔饗宴千本桜』上映の前には、一般社団法人デジタルメディア協会理事長・襟川恵子氏(コーエーテクモホールディングス代表取締役会長)が登壇し、開会の挨拶を行った。襟川氏は、中村獅童さんと初音ミクが組み合わさることにとても感慨深いものがある、とコメント。競馬シミュレーションゲーム『ウイニングポスト2』のイメージソングが、じつは中村獅童さんの歌手としてのデビュー曲だったという思い出を語った。また、約10年前のVOCALOID(ボーカロイド)黎明期に、“初音ミク”というコンテンツの凄さに感銘を受け、ゲームなどの権利を取得しようという計画があったことを「もし初音ミクさんがいれば、(コーエーテクモホールディングスの)業績がどんなに楽だったか(笑)」と、冗談まじりに明かしていた。

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▲襟川恵子氏。
▲横澤大輔氏。

 セミナーでは、“ニコニコ超会議/闘会議”統括プロデューサーであり、超歌舞伎の総合プロデューサーも務めた横澤大輔氏(ドワンゴ取締役CCO)が登壇。横澤氏は、インターネット上でのエンターテインメントを提供していくニコニコ動画と、現実でのエンターテインメントを融合させた“ハイブリットなプラットフォーム”を目指し、“ニコニコ超会議”を開催したことを語る。そして、よりハイブリットなコンテンツの提供を考えていたところ、人気漫画『ワンピース』と歌舞伎を融合させた『スーパー歌舞伎II ワンピース』(2015年10月上演)に感銘を受け、歌舞伎という“伝統芸能”、映像表現の“テクノロジー”、若者たちの“サブカルチャー”という3つを融合させた“超歌舞伎”を企画したという。そこに加えて、歌舞伎の古典演目である『義経千本桜』と、ニコニコ動画で1000万回以上再生されている、黒うさPが手掛けたボーカロイド楽曲『千本桜』の融合点を見出し、誕生したのが超歌舞伎『今昔饗宴千本桜』であるという経緯を横澤氏が語った。

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▲上映会では、『今昔饗宴千本桜』千秋楽の映像が披露された。
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 上映後にはドワンゴ取締役 夏野剛氏が登壇。夏野氏はこの演目で初めて歌舞伎に触れた若者が多いことを語りつつ、『今昔饗宴千本桜』には歌舞伎の伝統的な型を数多く取り入れていること、歌舞伎の入門編として作ることで、若者たちが歌舞伎に興味を持ってほしいという願いも込めたことを明かした。

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▲夏野剛氏。

 その後も横澤氏と夏野氏によるセミナーは続き、映像である初音ミクと、舞台演者である中村獅童さんがどのように息を合わせたのかということも明かされた。

 その手法のひとつは、映像をフルで流し、演者が映像に合わせて演じるというもの。また一部のシーンでは、もうひとつの手法として、初音ミク側の待機時間を作り、タイミングを合わせて映像を再開するという形を取っていたそうだ(演者が背中に流れている映像を確認することをできない場合)。また、初音ミクの動きについては、すべてモーションキャプチャーを使用しているそうで、日本舞踊の繊細な動きを取り入れるべく、手の動きをより緻密にキャプチャーしたとのこと。ちなみにモーションアクターは、日本舞踊宗家藤間流宗家の藤間勘十郎さんが担当している。

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 また、稽古中に演者側がミスをした場合には、映像をいちから再開させないといけないため、細かな段取りの取れない稽古となってしまったそうだが、横澤氏は「険悪なムードになるかと思いましたが、初音ミクさんは大女優なので、皆さんなごやかに稽古をしてくださいました(笑)」と、稽古中の雰囲気を伝えていた。ほかにも、歌舞伎の世界は演目の稽古を上演5日前にスタートするのが習わしだそうで、今回の演目でも映像と合わせた稽古自体は、なんと3日前に開始されたという、歌舞伎役者たちの凄さを感じるエピソードも披露された。最後には夏野氏から「来年はもっとすごいモノを、同じコンビネーションで作っていますよ」と、次回作を匂わせる発言も飛び出し、セミナーは終了となった。

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 最後に、横澤大輔氏(以下、横澤)へ気になる質問をぶつけたミニインタビューをお届け。映像を販売する予定があるかどうかや、次回作の予定などをうかがった。

――今回、上映会&セミナーを開催された経緯を改めてお聞かせください。

横澤 今回使われた映像技術だけでなく、単純にこの演目のすばらしさを知ってほしいという思いと、技術的な面などで情報共有をし、よりよいコンテンツ作りをしていこうという思いから、今回の上映会を関係者、映像技術者の方々へ向けてご案内させていただきました。

――セミナーでは、演劇、デジタル、伝統芸能、サブカルチャーなどといった複数コンテンツの融合にかなり苦労されたことがうかがえました。

横澤 まだまだできていないことがたくさんあるんですよね。これからデジタルアートというのはどんどん進化していくと思いますので、その先駆けとしてのノウハウを、我々はどんどん溜めていきたいなと考えています。お客さんのみならず、作り手側にも理解していただくというのが本当に大変なことなんですよ。伝統、知識、慣習、慣例など、さまざまな事柄を一度壊していただかないといけないですから。

――次回作を匂わす発言も飛び出していましたが、つぎの演目はどのようなものになるのでしょうか?

横澤 まだまだ模索中なので詳しくはお聞かせできませんが、ぜひ初音ミクさんにはもう一度ご出演していただきたいですね。

――期待しています! 『今昔饗宴千本桜』は、ニコニコ生放送のタイムシフト機能などでは一定期間のみ見ることができましたが、今後ファンの方々に向けた映像配信、上映会などはございますか?

横澤 現在次回作を製作中ですが、超歌舞伎自体の進化もみなさんに楽しんでもらいたいですし、過去の演目自体をアーカイブとして視聴できるようにしたいですね。今後どのようにユーザーの皆さんに提供していくのかは、現在模索中です。

――映像のダウンロード販売、パッケージ販売などの予定はありますか?

横澤 ファンの方々が望まれるのであれば、ぜひやりたいですね。今後もニコニコ生放送での再上映ですとか、“シネマ歌舞伎”のように映画館での上映などもあるかもしれないので、ぜひそういったご意見や応援のお言葉をお待ちしております。

――最後に、ファンの皆さん、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

横澤 ミクさんはもう大女優になられてしまいました(笑)。そのミクさんの素敵なお姿と演技を、より多くの人たちに見ていただけるよう、がんばろうと思っています。今回の演目では、一子相伝の藤間流宗家の舞踊を、みごとに踊られたので、もはやミクさんは藤間流と言っても過言ではないかもしれませんね(笑)。ですので、僕もこれからの大女優・初音ミクさんのご活躍を楽しみにしています。

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▲上映会の会場には、超歌舞伎の超特別協賛であるNTTの技術“イマーシブテレプレゼンス技術Kirari!”の技術デモも設置されていた。
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▲“イマーシブテレプレゼンス技術Kirari!”は、中村獅童さん演じる佐藤忠信の動きをトレースした映像が映し出され、まるで本当に分身しているかのような映像表現が楽しめるワンシーンに使用されている。

 なお、『今昔饗宴千本桜』の映像だけでなく、中村獅童さんのオーディオコメンタリーで貴重なエピソードも楽しめる“中村獅童と超歌舞伎『今昔饗宴千本桜』振り返り生実況”が2016年12月22日に行われており、2016年12月29日(木)23:59までなら、ニコニコ生放送のタイムシフト機能で視聴可能だ。ぜひチェックを!

※“中村獅童と超歌舞伎『今昔饗宴千本桜』振り返り生実況 【新作歌舞伎『あらしのよるに』上演記念】”ニコニコ生放送のタイムシフト視聴ページは→こちら