GoogleのVRミッションは“多くの人が手軽に体験できること”

 本日2016年12月1日、GoogleはVRをテーマにしたプレス向け説明会ならびにHTC Vive用ソフト『Tilt Brush』の体験会を、都内の同社にて開催した。

GoogleのVR・AR事業をキーマンが語る――新デバイス“Daydream”&“Tango”お披露目、ついでに新時代のVRおえかきも体験!_15

 今回開催された説明会は、Googleが現在取り組んでいるVRおよびAR事業を、同社でVRパートナーシップ グローバルリードを務めるアーロン・ルーバー氏がみずから紹介するというもの。併せて、HTC Vive向けに配信中のペイントソフト『Tilt Brush』のデモンストレーションや体験会も開催された。

 説明会ではまず、アーロン・ルーバー氏がGoogleによるVR・ARプロジェクトの概要を解説。Google創始者であるラリー・ペイジ氏、セルゲイ・ブリン氏は“世界中の情報を整理し、世界中の人々がその情報にアクセスし活用できる”というミッションのもと同社を立ち上げたが、VR・ARミッションにおいては“情報”が“体験”(experience)に置き換わる。AR・VRを通じて、より多くの人により多くのことを“体験”してほしい……という想いから、同社が手掛けるVR・AR事業はいずれも手に取りやすいモバイルデバイスが起点となっているのだ。

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▲アーロン・ルーバー氏

 そして今回、Googleはふたつのデバイスを発表。それがVRヘッドマウントディスプレイ(HMD)“Daydream”と、よりハイクオリティのAI体験を実現する新たなスマートフォン“Tango”だ(いずれも日本での発売は現状未定)。

 アーロン・ルーバー氏はこれらの新デバイスを解説する前に、まず発売中のVRHMD“Google Cardboard”を紹介した。これはスマートフォンをセットし、ダウンロードしたアプリからVR体験ができる、段ボール製の“VRメガネ”にして、Googleが手掛けた最初のVRデバイス。パリのスタッフによる「ストリートビューを一人称で見られるようにしたらどうなるのか」というアイデアから始まったプロジェクトで、ラリー・ペイジ氏の目にもとまり同氏を大いに驚かせたそう。そこから“6週間で15000台を制作せよ”というラリー・ペイジ氏による驚きのミッションにより、2014年のGoogle I/Oでは、お披露目とともにGoogle Cardboardが配布された。
 なおこのGoogle Cardboardプロジェクトはオープンソース化されており、誰もが独自バージョンを制作可能。2015年時点では世界で500万台が出荷されているという。アーロン・ルーバー氏は、Google Cardboardを「Daydreamへと導いてくれた存在」だと語っていた。

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 Googleが取り組む、VRのつぎなるステップがDaydream。対応スマートデバイス“Pixel”シリーズなどを装着して使用するVRHMDで、搭載OS(Androidの新バージョン)側で最適化がされているため、よりハイパフォーマンスなVR体験を味わうことができる。たとえばVRを楽しんでいる間は不要な作業がオフになるが、その代わりレイテンシー対応といったハイパフォーマンスなVR体験のための機能は強化されるようになっているのだ。
 Daydreamの使いかたはGoogle Cardboard同様、開いてスマホを入れ、閉じるだけ。またDaydreamにはGoogle Cardboardになかったストラップがついているが、これにより手が自由になり、コントローラーを操作できるようになる。バットをスイングしたり、釣りざおを投げたり、つついたり押したりといったアクションも可能となるのだ。もちろんこのコントローラーはデバイスのなかに収納できる。

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 またデバイス以上に重要になるのがコンテンツ。Daydreamではデバイスから直接Google Playにアクセスし、アプリを購入可能。Google自身が配信するおなじみのアプリはもちろん、スクウェア・エニックスといったサードパーティーとも連携し、今後はさまざまな活動を予定しているとのこと。

 Daydreamは2016年11月にアメリカやイギリス、カナダなどでローンチされたが、日本での発売は現状未定。アーロン・ルーバー氏は、今後はさらにさまざまな市場へ投入していくと方針を述べた。またiOSにも対応していたGoogle Cardboardとは異なり、Daydreamは専用端末が必要。搭載されるAndroid OSはVR用に最適化され、この最適化はiOSでは行うことができない。日本国内ではiOS端末が大きなシェアを占めるが、アーロン・ルーバー氏は勝算について「Androidも成長中。今後はVRを差別化要因として、さらにAndroidの普及を進めていきたい」と抱負を語った。

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 続いてアーロン・ルーバー氏は、「VR同様、テクノロジーの進化において重要な役割を果たす」と語るAR事業を紹介。スマートデバイス“Tango”は、人の知覚がとらえるものをそのまま画面上に再現しようという試みのもと開発され、新たなカメラとセンサーが背面についている。人の目はモノと同時に空間を把握し、それにより“より多くの空間にモノがあったらどうなる?”、“同じ空間にほかのモノがあったらどうなる?”と想像することができる。これを液晶画面上で再現しようとしたのが“Tango”で、モーショントラッキング(動く被写体を追尾)、デプスパーセプション(深度の認識)、エリアラーニング(空間・領域の学習)をカメラ・センサーが行うことで、空間のマッピングが実現する。カメラを通じて正確にモノを測定できるほか、ARを通じて“この部屋にあのテーブルを置いてみたら……”と、空間に仮想でモノを置くことができたり、『ポケモンGO』のようにゲーム・アニメのキャラクターが自分の世界にやってくる、といったAR体験が実現する。

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 TangoのAR体験により、Googleが提供するサービスにも奥行が生まれ、「内側で起きていること」がわかるようになるとアーロン・ルーバー氏は語る。たとえば近くのレストランを探すとき、Google Mapsは店の前までは案内してくれるが、店内の模様は教えてくれない。だがARが進化することで、店の“内側”はどうなっているのか、その周囲のスペースはどうなっているのか……といったことが把握できるようになるのだ。

 DaydreamやTangoはいずれもまだ始まったばかりのプロジェクトで、アーロン・ルーバー氏も「ワクワクしている」期待を寄せる。続けて同氏は「AR・VRの旅路はまだ始まったばかり。近々、日本に導入できることを楽しみにしています」と語り、説明会を締めくくった。

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未来の“おえかき”がここに実現!

 説明会に続いては『Tilt Brush』のデモンストレーションおよび体験会が開催された。
 『Tilt Brush』は、GoogleがHTC Vive向けに配信中のVRペイントソフト。コントローラーがブラシとなり、なんと3D空間に絵を描くことができる。そのイメージは、こちらの動画を参照していただきたい。

 今回はこの“未来”のソフトにふさわしく、手塚プロダクションより、数々の作品を手掛けてきたアニメーター瀬谷新二氏が登場。デモンストレーションとして、コントローラーを片手にアトムのイラストを描いてくれた。

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▲宇宙を模したキャンバスにアトムが誕生! 写真に撮ると平面だが、もちろんHTC Viveを装着すると3Dで見え、描かれた絵の上下左右からこのアトムを見ることができる!

 今回、記者もこの『Tilt Brush』を体験させていただいたのだが……ひとことで言うと「めちゃくちゃおもしろい!!」。HTC Viveを装着すると3Dのキャンバスの真ん中に自分がいるのだが、そもそもいままで平面以外のキャンバスに何かを書く(描く)ことがなかったため、“空間に描く”体験自体がある種のパラダイムシフト。“絵を描く”というよりも、砂場遊びや粘土遊びのようなクリエイトのおもしろさがあるように感じた。最初こそどう腕を動かせばどんな線が生まれるのか想像もつかなかったが、“キャンバスは3D”と認識すると、なんとなく把握できるようになる。腕を手前から奥に付き出せば、奥行きのある線が3Dキャンバス内に生まれる。人が『Tilt Brush』で絵を描いているところを見るだけでもなんとなくのイメージは掴めるが、実際に描いたときの「おおっ!」という感覚は、実際に体験しないと味わえないだろう。
 多数あるペンや色の種類は、利き手に握ったコントローラー(ブラシ)で、もう片方に持ったパレットから選択可能。人差し指でトリガーを引くだけで選択でき、こちらも慣れれば直感的に切り替えることができた。感覚的には、手持ち花火で大きく円を描くと光の残像が線になる、あの感字に近いだろうか。流星群がまたたいたり、火が燃えたり……といった特殊なブラシも搭載されており、撮ったプリクラにところ狭しと落書きをしていたティーンエイジャーの記憶が甦ったりもしました(余談ですが)。

 “3D空間に絵を描く”という体験もさることながら、“動き回って描く、動き回って見る”のも『Tilt Brush』のおもしろさのひとつ。当然のことながら、ブラシを持ってぐるりと一周すれば奥行きのある円が生まれるし、しゃがんで自分の描いた絵を見上げると、ただ単に“絵が上にある”だけではない、立体物を見上げたときと同じように見える。ユーザー(描き手)が動き回れる範囲は、センサーが感知する5メートル四方以内。だがコントローラーで空間の拡大・縮小ができるため、それ以上に巨大な作品を描くことももちろん可能だ(作品を拡大・縮小してキャンバスのなかに立つと、まるで『不思議の国のアリス』の気分!)。描くだけではなく、見るほうでも“いままでとは根本的な何かが違う!”という、大いなる驚きを感じられるだろう。

 『Tilt Brush』は、Steamより2980円で購入可能。HTC Vive専用ソフトではあるが、新時代の“おえかき”体験は幼心を思い出すかのようで、一度味わえば必ず感動するはず。「絵心がないから……」と躊躇せず、触れる機会があればぜひチャレンジしていただきたい。