新たに始動するゲーム音楽コンサートの狙いとは?

 2016年8月26日に開催されるゲーム音楽コンサート“あそぶらす”。『討鬼伝2』や『タイムトラベラーズ』などの音楽で知られるゲーム音楽作曲家の坂本英城氏と、吹奏楽団であるブリッツ フィルハーモニックウィンズによって、新たに始動するこのゲーム音楽コンサートは、いかなるモノとなるのか。仕掛け人である、坂本氏とブリッツフィル音楽監督の松元宏康氏に、その狙いや意気込みを聞いた。

ゲーム音楽と吹奏楽がガッチリとコラボレーション 新感覚コンサート“あそぶらす”の魅力をキーマンに訊く_01
▲インタビューに参加してくださった皆さん。左から、パーカッション奏者の冨岡春絵さん(文中は冨岡)、松元宏康氏(文中は松元)、坂本英城氏(文中は坂本)、フルート奏者の大塚恵里香さん(文中は大塚)。

■Blitz Philharmonic winds 第27回定期演奏会 坂本英城Presents あそぶらす 第1話

・企画:坂本英城(ノイジークローク)
・演奏:ブリッツ フィルハーモニックウィンズ
・指揮:松元宏康(ブリッツ フィルハーモニックウィンズ音楽監督)
・ゲスト:いとうけいすけ、伊藤賢治、岩垂徳行、なるけみちこ
・演奏曲目:あそぶらすのテーマ、『パズル&ドラゴンズ』メドレー・あそぶらすスペシャルアレンジ!(『パズル&ドラゴンズ』より)、西風~マホロバ -栄-(『討鬼伝2』より)、吹奏楽のための交響詩「消滅都市」第一楽章(『消滅都市』より)、『サウザンドメモリーズ』メドレー(『サウザンドメモリーズ』より)、刻の工房(『ノーラと刻の工房 霧の森の魔女』より)、法廷組曲 逆転裁判6(『逆転裁判6』より)、The Final Time Traveler(『タイムトラベラーズ』より)、ほか

ゲーム音楽と吹奏楽、双方の魅力をより多くの人に知ってもらうために

――まずは、イベントが立ち上がった経緯を教えていただけまでしょうか。

坂本 沖縄を中心に演奏活動をしている琉球フィルハーモニックチェンバーオーケストラ“イオ”というのがあって、松元先生はそこの正指揮者をやられているのですが、僕が2012年に琉球フィルのゲーム音楽ディレクターとして参加して、出会ったのがきっかけです。松元先生は、今回演奏をしてくださるブリッツ フィルハーモニックウィンズの音楽監督でもあり、昨年の8月に行った演奏会では、名だたるアニメの曲やロックの定番曲などと並んで、僕の楽曲も演奏してくれたんです。そこで吹奏楽のおもしろさ、とくに表現力の豊かさを改めて感じて、こんなすごいモノをもっとたくさんの人に知ってもらいたいなという思いが生まれました。

松元 僕は指揮者という仕事柄、聴いた楽曲をどういう形で演奏したらいいだろうかと考えるんです。坂本さんの曲で一番最初に聴かせていただいたのが“The Final Time Traveler”なのですが、その時点でもう「この曲をいつか吹奏楽でやりたい」、「指揮者としてタクトを振ってみたい」という思いに駆られたんですね。もちろんそれは、映画やアニメ、ゲームといったジャンルに関係なく作品力があることが前提です。そこで去年の8月の演奏会でゲーム音楽の演奏をし、さらに「つぎは坂本さんプロデュースでもっとゲーム音楽を!」とお願いしたところ、今回“あそぶらす”という形で実現しました。

――ゲーム音楽のライブやコンサートはたくさんありますが、吹奏楽である理由というのは?

坂本 ゲーム音楽って、吹奏楽との相性がいいハズなんです。吹奏楽というと中学・高校での部活動として身近な存在じゃないですか。そういうところでふだんから自分たちが遊んでいるゲームの曲を演奏したり聴いたりできるようになるのは、相性が悪いはずがない。その思いがあったところに、松元先生から「ゲーム音楽のイベントをやってほしい」と声をかけてもらったので、ふたつ返事でオーケーしました。

松元 吹奏楽団はブラスバンドという言いかたもされますが、吹奏楽人口って600~700万人とすごくポピュラーなんです。それに吹奏楽って力強い、迫力があるというのが一般的なイメージかと思うんですけど、繊細さ、柔らかさというのは管弦楽(オーケストラ)と変わらないんです。その表現力の幅をゲーム音楽という皆さんに親しまれている音楽を演奏することで感じていただくことで、吹奏楽とゲーム音楽の両方の魅力が相乗効果的に伝わることをやりたいというふうに思っています。

――“あそぶらす”という名前の由来は?

坂本 見たまんま“遊ぶ”と“ブラス”を合体です。一瞬で覚えられて、楽しい気持ちになれる、そして漠然と内容が伝わるということでこのネーミングとしました。

――どのようなイベント内容となるのでしょうか?

坂本 松元さんは「どんな内容でもオーケー」といってくださったので、いろいろと思い切ったことをしようと思っています。僕の役割はプレゼンターということで司会進行を受け持つのですが、トークと演奏の両方を楽しんでもらえるものとなります。ゲーム音楽のイベントですから、ファンの方たちは作っている人たちの話を聞きたいでしょうし。それに今回は、作曲家が演奏をしたり、指揮をするというのも特色です。単にゲストとして登場するだけではなく、みんなといっしょになって作り上げていくというのは、このイベントの特徴だと思っています。

松元 通常のコンサートだとトークゲストの方はハンドマイクを片手にステージに登場しておしゃべりをするじゃないですか。でも“あそぶらす”では、ステージにソファーとテーブルを置いて、そこでゲストの方にくつろぎながらトークをくり広げていただこうかと。

――それは斬新です。

松元 しかも、ゲストの方は演奏中に舞台袖にハケる(移動する)のがふつうですが、今回はそのままステージ上で演奏を聴いてもらう。お客様もリラックスして聴いてくれるでしょうし、なにより絵面がおもしろいじゃないですか(笑)。

――たしかに(笑)。

坂本 300畳のリビングに演奏家の方が来てくれている、みたいな状況ですよね。

――ゲーム音楽のコンサートに出演するゲストの方はよく「本当は舞台袖じゃなくて客席で聴きたかった」とおっしゃいますが、それがついに実現するわけですね。

坂本 年間7、80本あるゲーム音楽コンサートの中で、一番緊張感がないんじゃないかと。なごやかと失礼のあいだくらいの気持ちで、企画段階ではヌンチャクで指揮ができないかとか話していました(笑)。果たしてヌンチャクの指揮で素晴らしい演奏になるのかどうかを確かめたくて。

松元 さすがにヌンチャクは楽器に引っかかるので遠慮をしてもらいましたけど、NG事項はステージ上でお酒を飲まないくらいですね(笑)。

ゲーム音楽と吹奏楽がガッチリとコラボレーション 新感覚コンサート“あそぶらす”の魅力をキーマンに訊く_03
▲旧知の間柄である坂本氏と松元氏だけに、インタビューはじつにほがらか……というか砕けた内容に。笑いの絶えない収録となっただけに、コンサートも楽しいものとなりそうな予感がプンプン!

――カジュアルな気持ちで楽しめるということですね(笑)。ゲストのいとうけいすけさん、伊藤賢治さん、岩垂徳行さん、なるけみちこさんのキャスティング理由は?

坂本 まず吹奏楽に造詣が深いというのがひとつ。出演の打診をしたときは、みなさんすぐに「ぜひ協力させてください」といってくれました(笑)。あとは演奏や指揮ができること、トーク慣れしているというのも重視している点ですね。

――どんなゲームの楽曲が演奏されるのでしょうか?

坂本 直近のタイトルとしては、僕の『討鬼伝2』、岩垂さんの『逆転裁判6』があります。そのほかの楽曲も、すべて今回のイベント用に新しく編曲したものです。それと、“あそぶらすのテーマ”というのを僕が用意します。現在作曲中ですが、“あそぶらす”の雰囲気を表現できるようにしたいと考えています。

松元 それと、ブリッツフィルの公演では定番となっているのですが、最後にはお客さんも楽器を持って『宝島』という楽曲を演奏します。楽器ができる皆さんは、ぜひ楽器をお持ちください。

――奏者のお二方にお伺いしますが、奏者としてゲーム音楽を演奏するというのはどんな気持ちでしょう?

大塚 私はゲーム音楽が好きで、奏者の友だちどうしで集まって耳コピで演奏したりすることもあります。今回作曲者ご本人が編曲されたものを演奏しますが、そういう機会はなかなかないのですごく楽しみですね。

冨岡 私も大学のときの発表会でゲーム音楽を演奏したり、コピーバンドを組んだりしていたので、今回の演奏会は楽しみです。

坂本 いい時代になりました。僕が大学生のころは「ゲーム音楽を作っている」と言うと即オタク呼ばわりでしたからね。それがサークル活動なんかで取り入れられているというのはうれしい限りです。

大塚 もちろん奏者の全員がゲーム好きというわけではないんですけど、演奏していて楽しめる曲だと思います。

冨岡 私たちでも曲からゲームに興味を持つということがありますからね。

坂本 まさにそれです。ゲーム音楽を知っている人には吹奏楽を、吹奏楽を知っている人にはゲーム音楽を知ってもらいたい。その橋渡しの場としていきたのがこの“あそぶらす”の意図ですから。

――では最後に“あそぶらす”の魅力をひと言ずつお願いします。

坂本 いろんなゲーム音楽を吹奏楽の編成で楽しめるのは、この“あそぶらす”だけです。また、さっきも松元先生がおっしゃっていましたが吹奏楽は繊細な演奏も得意で、僕の曲も静かなモノを集めています。吹奏楽のいろいろな面をゲーム音楽を通じて知ってもらえたら嬉しいですね。

松元 坂本さんにはすべての面をプロデュースしてもらっているのですが、トーク、音楽とどこを切り取ってもおもしろいモノになっています。演奏会と聞くと一歩引いてしまう人もいるかもしれませんが、性別や世代を問わず、いろんな方に遊びに来て、楽しんでもらえたらと思います。

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