憧れと感心。ふたりの作り手がお互いの作品に対して思うこと

牙狼<GARO>』は、映像作家の雨宮慶太氏が手掛ける特撮ドラマシリーズ。そして、この作品に強く感銘を受けたファンのひとりが、『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)のプロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏だ。

 去る2015年6月26日、東京・新宿ロフトプラスワンで催された、『牙狼<GARO>』のトークイベント“GARO CREATOR'S kNight 番外編”にゲストとして登場した吉田氏は、作品の魅力について語り、インスパイアされたゲームシーンや装備を披露するなどした。また、雨宮氏らとトークを交わすうちに、両作品のコラボ話まで飛び出した。

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 吉田氏をそこまで熱くさせる『牙狼<GARO>』の秘密とは? ここでは、イベントの直前に収録した雨宮氏と吉田氏へのインタビューをお届けしよう。

『FFXIV』吉田氏が心酔する特撮ドラマ『牙狼<GARO>』に見る雨宮慶太氏のモノ作りとは? 雨宮氏&吉田氏インタビュー_02

ふたりの邂逅

──先日、『FFXIV』の発表会がフランスであったとき、吉田さんが「雨宮監督に最近お会いできて本当にうれしかった」ということをずっとお話されていたんですよ(笑)。

吉田直樹氏(以下、吉田) (照れている)。

雨宮慶太氏(以下、雨宮) それをまとめてくださいよ。それでいいよ(笑)。

──そういう訳にもいかないので(笑)。では吉田さんに質問です。『牙狼<GARO>』との出会いとその衝撃をあらためて教えていただけますか?

吉田 もともと特撮が好きで、雨宮さんの作品はずっと好きでした。僕がハドソンに勤めていた時代に、隣のチームが雨宮さんとのお仕事を進めているのを真横で見ていたこともあり、『牙狼<GARO>』が始まったときにもオンタイムで観ていました。そのとき、『牙狼<GARO>』は雨宮さんの作品のなかでも、群を抜いて“全部が詰まっている”感じがしたんです。

──全部とは?

吉田 それまでの特撮ヒーロー全般になんとなく足りないと思っていたもの……たとえばヒーロー像や、鎧を召喚した牙狼の強さ、そして99.9秒の制限時間があるという設定などです。自分の中で特撮ヒーローに対して「何かが足りない」と思っていたものを全部消化してもらったり、全部埋めてもらったりした感じがすごくて。CGアクションもその本気の度合いというか、「このムチャがラストまで続くんだろうか?」と思ったんです。

雨宮 あのときは、あれで終わろうと思ったんだよ。

──第1シリーズでですか?

雨宮 そう。「やりたいことができたからいいや」って。これで監督業を終わりにしようぐらいの気持ちで。節目だと考えてしまうと、身動きも取れなくなるので、「ここでいろいろな人間関係や会社間の関係が壊れても、べつにいいかな」ってくらいに。

──それは、ご自身が表現されたいことができたから?

雨宮 “自分がやりたいことを、いま目の前にいるスタッフと確実に映像化するための半年間”というか、それだけでしたね。

──その第1シリーズの中で、もっとも映像化したいこととは何だったのでしょう?

『FFXIV』吉田氏が心酔する特撮ドラマ『牙狼<GARO>』に見る雨宮慶太氏のモノ作りとは? 雨宮氏&吉田氏インタビュー_06
『牙狼<GARO>-GOLD STORM-翔』より

雨宮 軸になったことはふたつあって、ひとつはアクションですね。「テレビでこんなアクションを観たことがない」というものをキチンと毎週やる、ということ。7話のアクションなどがそうですが、毎週放映されるなかで本当にものすごいアクションが何回かあるということです。もうひとつは、特撮ヒーローものでありながら、観終わったあとで観た人に“グッとくる”ものを残すものを作ること。

──“グッとくる”。

雨宮 “グッとくる”というのは、泣くのか、カッコいいとシビれるのかわからないけど、そういうものにするにはどうしたらいいかを模索していたんですよね。あとは途中で飽きられないように、毎回いろいろな話を作るというところですね。

──“グッと”こさせる手法というものはあるのでしょうか?

雨宮 いやぁ……手法は難しいですね。観終わって、主人公に感情移入するのか、 ドラマを見届けた達成感をお客さんが感じるのか、もう1回コイツに会いたいと思うのか、答えが出ません。ただ「『牙狼<GARO>』って観終わったあとに何かがちょっと残るよね」というようなものにしたいと思っているんですよね。

──吉田さんが『牙狼<GARO>』をご覧になっていてグッときた部分は具体的にどんなところでしょう?

吉田 各話でグッとくるポイントが違うんですよ。人間の嫌な面を鋼牙(主人公)がまっすぐに斬って終わってくれると、「そうなんだよな、明日またがんばろう」という気にさせてくれますし、その鋼牙ですら悩んで、悩みながらも斬り捨てて終わる回がある。引きずるのもグッとくる後味ですし、そこが強いドラマなんです。特撮じゃなくて、ドラマ。それが『牙狼<GARO>』の魅力で、毎シリーズどの話もすごいと感じますね。

──特撮の部分に関して吉田さんが思うところは?

吉田 僕はゲームが専門なので、とくにCGの工程と変身とのつなぎが恐ろしくリアルなのが驚きです。昔はカットで切り替えていたのが、CGが入ってからはカットを変えずに入れ替える。さらに最近はCGの水準が上がってきて、ポーズも完璧にスイッチするからたいへんだと思うと同時に、構成はどの段階で決めているんだろうと、あれこれ想像しながら観ています。

雨宮 いまオンエアしているシリーズはけっこういい感じ。CGとスーツの使い分けがいいところまで来たかなと思っています。

吉田 主人公が走りながらする変身ですら、役者さんとCGのモーションを完全に同期させて切り替えていますもんね。その精度が尋常じゃなかった。『牙狼<GARO>』では必ず魔戒剣で宙を斬り、魔界とつないで鎧を召喚しますが、その変身中のアクションにしても、前に突進しながらなど、バリエーションがすごい。

雨宮 剣を投げたりね。

吉田 CGの最終カットとスーツの合わせかたが、第1シリーズからすさまじい精度でしたね。

──しかも毎回パターンが異なると。

雨宮 ヒーローものの王道の映像バンクを使っていないんです(笑)。

吉田 「この精度でCG製作など、シリーズ終了までもつんだろうか?」というのが、ビックリで(笑)。

──いかにも作り手側の視点ですね(笑)。

吉田 ただやっぱり観ていると、先の回のために、別の回ではCGを減らしているというのが、作り手なのでその苦労のほどがうかがい知れるんです。先ほど監督もおっしゃいましたが、『牙狼<GARO>』シリーズはどれも一度7話で前半の頂点を迎えるんですよね。そのあたりの作りの強弱というか、制作進行のうまさなど……モノを作るうえで「なるほど」と唸る点も多いです。

──それが吉田さんの最新作である『FFXIV』に影響を及ぼしている部分は?

雨宮 ……「観ると元気になれる」と言っていただけているみたいで。それがいちばんじゃないですか?

吉田 そうです、それがいちばん大きいです(笑)。『FFXIV』はいろいろあったプロジェクトですので、「キツくないですか?」ですとか、「あれだけの作品を建て直すのはたいへんじゃないですか? ストレスはありませんか?」ですとか、いままでにいろいろな方から尋ねられました。ストレス耐性は高いほうなのと、『牙狼<GARO>』シリーズの続きを観るためにがんばっています。監督が新しいものを発表されるたびに、「これを観るまでは死ねない!」という気持ちでやっています(笑)。

──雨宮さんは、間接的に全世界で400万人からのプレイヤーがいる『FFXIV』を支えていることになりますね(笑)。それから、噂されているPvP報酬のアニマル装備のデザインですが……。

吉田 (もじもじしながら)すみません。そのままです……。今日(イベント当日)は、『牙狼<GARO>』をリスペクトさせていただいているということがわかるスライドを用意してきました。「さすがに狼にはできなかったのでライオンにしました」という内容です。……まあ、プレイヤーの皆さんから“牙狼装備”と言われているとおりです。

『FFXIV』吉田氏が心酔する特撮ドラマ『牙狼<GARO>』に見る雨宮慶太氏のモノ作りとは? 雨宮氏&吉田氏インタビュー_05

──雨宮さんが作られる作品すべてに共通する雰囲気について、吉田さんがリスペクトされている部分はどこでしょうか。

吉田 たとえば暗いシーン。“暗いのに見やすい”のは、じつはかなり難しい。ゲームの場合は気づけなくても、実際に俳優さんを使うドラマで夜が妙に明るいのは白けます。暗くて怖いのにしっかり見えるのは、さすがと思います。

雨宮 見やすさは、意外と心がけているんですよ。

吉田 暗いシーンなのに見やすいというのは、雨宮さんの作品ぐらいじゃないかと思います。夜のシーンなのによく見える。あれは、技術的に“銀”を貼っているんでしょうか?

雨宮 そうですね。“銀残し”とか、昼間に撮って夜に加工する“ツブシ”とか。

──銀残しとはどういうテクニックなのでしょう?

雨宮 フィルムの技術です。黒などの暗部に少し色が乗っているような、増感した感じになって、ちょっと現実的じゃない幻惑的な画になるんですよ。それがすごくよくて、劇場版では必ず使っています。テレビでも何話ぶんかやっていますよ。観直していただくと、「ああ、ああいうタッチね」とわかっていただけると思います。スピルバーグも『プライベート・ライアン』で、ドキュメンタリーなのか、いま目の前で起きていることなのかをファジーにするためにこの技術を使っています。

──幻惑的にも演出でき、見やすさにも繋がるんですね。

『FFXIV』吉田氏が心酔する特撮ドラマ『牙狼<GARO>』に見る雨宮慶太氏のモノ作りとは? 雨宮氏&吉田氏インタビュー_07
『牙狼<GARO>-GOLD STORM-翔』より

雨宮 銀残しはフィルムの技術なので、デジタルではできなかったんですが、第1シリーズの『牙狼<GARO>』から通算で3台目のカラーコレクション(編集部注:映像の色彩補正)用機械のフィルターの色を、いじったりぼかしたりしながら近づけていって、なんとなく画の正解ができつつあるんです。……でもこれは、単純に映像オタクの遊びなんですけどね(笑)。僕はもともとデン・フィルム・エフェクトというポストプロダクション(編集部注:撮影後の作業)の会社にいて、ずっとフィルムを扱う仕事をしていたので。

──やはりそこはこだわりの部分なんですね。

雨宮 『牙狼<GARO>』の元画を見ると、「こんな色なの!?」と、けっこうギョッとすると思いますよ。それが最後はご存知の色になる。アクションシーンやCGのことばかり話題になりますが、じつはふつうの芝居のシーンでもその処理をしているんですよ。

吉田 肌の色が違いますよね? 注意して観ているとよくわかります。いわゆる肌色じゃない、くすんだ色と言うか。

雨宮 白いんだけど、ちょっと青みがかったキャラクターと、ピンクに寄っているキャラクターがあります。わかりやすく言うとカオル(ヒロイン)とかはピンクに寄っているけど、悪いヤツなどはちょっと青みがかっている。大きいモニターで観てみてください。

吉田 『牙狼<GARO>』は暗いシーンでも、細部や動きがわかる。第1シリーズ当時のテレビは、いまほど高精細ではなかったし、バックライトも強くなかったので、当時のテレビ自体の性能によっては暗いシーンがわりと潰れやすかったのです。それが当時でもちゃんと観られて、しかも暗くて怖い。そこがこだわりだと思いました。

──『蒼天のイシュガルド』は、かなりコントラストが強かったりですとか、暗い部分はとことん暗くなっていますが、たとえばいまの銀残しの技術ですとか、直接応用はできなくとも吉田さんとして心がけられた部分はありますか?

『FFXIV』吉田氏が心酔する特撮ドラマ『牙狼<GARO>』に見る雨宮慶太氏のモノ作りとは? 雨宮氏&吉田氏インタビュー_04

吉田 日本のゲームには明るい色調のゲームが多いと思います。せっかく世界を作っているのに、暗いところが暗くなくて醒めてしまうこともあります。ゲームとしては見やすいのですが、気持ちが入り込めないこともあるので、今回はそういう部分に拘った絵になっています。ただ、長時間遊び続けるMMORPGなので、限界はありますね。スタンドアローンのゲームなら、もっとやってもよかったかなと。

雨宮 暗さが遊びを助長する部分ってありますね。ゲームで言えば、ダンジョンに入ったときもそうだし。大昔の話だけど、1作目の『ドラゴンクエスト』は俯瞰視点なのに、斜めがカットされていたり、ダンジョンで角を曲がると突然その先がピュッと見えたりしましたよね? あれは発明であって、一種の暗さの表現ですね。たいまつも、そう。ゲームにとって“見えない”というのは、大事なんだなという気がします。

吉田 『蒼天のイシュガルド』では、あまり日本のゲームではやらない色使いをしました。それから空を飛んでフィールドを移動できるようになったのですが、天気が悪く、吹雪や霧が出ているとまったく周囲が見えないようにわざとしました。高度を下げないと眼下の地形がわからないとなると、プレイヤーは高度を下げて飛ぶので、地上を走っている人たちから見たら、「今日は天気が悪いから、みんな低い位置を飛んでいるな」と思う。それがリアルかなと思って、「あえて見えないようにしていいよ」とスタッフに指示しました。今回はそういう部分にけっこうこだわっています。吹雪で視界が悪いときの心細さが、ほかのプレイヤーに出会ったときにホッとする要素だと思うので。

──「つぎの『牙狼<GARO>』を観るために生きている」と言って憚らない吉田さんですが、雨宮さんのもとには、どういう経緯でそんな熱烈な吉田さんというファンがいるというお話が届いたのでしょうか?

雨宮 僕はファミ通を読んでいるんですが、2年連続で吉田さんが好きな作品として『牙狼<GARO>』を挙げてくださっていたので気になっていました(笑)。たまたま知り合いが吉田さんと食事をしたと聞いて、「だったら俺も会いたい」と言って、そこからのお付き合いです。

──この4年半、ずっと吉田さんを追い掛けて取材していますが、吉田さんがここまで恐縮しているのがおもしろいです(笑)。

吉田 憧れですからね。まだ恥ずかしくて、監督のほうをまじまじと見られないですから(笑)。