インディーシーンはどこを向いているのか

 2015年3月2日~6日(現地時間)、サンフランシスコ・モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターを対象とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2015が開催されているが、今年のGDCの話題として目立つのが、ナラティブ(※こちらの記事を参照)とこのVR(バーチャルリアリティ。仮想現実)。

 具体的にはVR技術や、それを展開するさまざまなHMD(ヘッドマウントディスプレイ)に対してのアプローチの話だ。このセッションではインディーとしてVRに取り組むデベロッパーたち5人が集まって“VR for Indies”と題し、インディーから見た北米VR事情がざっくばらんに語られた。用語の簡単な解説を加えながら、彼らのトークを追っていこう。

 参加者は、Max Geiger(CubeHeart Games)、Vi Hart(Independent)、Ben Kane,(Steel Crate Games, Inc.)、Holden Link(Turbo Button)、そして進行役でもあるE McNeill (E McNeill LLC)の5人だ。

ぶっちゃけ北米のインディーはVRをどう見ているのか?【GDC 2015】_01

VRの最近の動向

 まずはパネラーたちが現在やっていることを含め、VRの最近の動向の解説から始まった。

 Valve VR(※1)やMobile VR(※2)、Morphius(※3)がやはり話題の中心になったが、彼らの意見におおむね共通していたのは、
 ・VRが過渡期であると認識していること
 ・それが楽しいと思っていること
 ・業界のスタンダードが見えないため細分化を恐れていること
 ・結果として商業的には狭く、まだ成功できるようなものではないと考えていること
などが挙げられていた。

 なかでも零細たるインディーにとってフォーマットの未統一は死活問題。進行役でもあったMcNeill氏の「そもそもVRがユーザー向けなのか、それとも開発者向けなのかというところでもいろいろな方向性が見られている。現在はやはり時期尚早か、ギア自体が高いという問題点も挙がっている」という言葉からも、自分たちが賭けていい方向を見定めかねている様子が見て取れた。それは同じくMcNeill氏の「Oculusとソニーはけこうインディーにも協力的だね。懸賞金を出しているとこもあるから、Mobile VRでよければ、次の2ヵ月、時間があれば試して見るのもいいと思う」という言葉にも現われている。

※1……スマートフォンなどの大手HTCとPCプラットホーム大手SteamのValveが共同開発しているVR用HMD(ヘッドマウントディスプレイ)。正式には“HTC Vive”。
※2……一般的にはPCで体験できるVRなどでなく、持ち運び可能なHMDで体験できるVRを指す。パネルではおそらくOculusとサムスンが共同開発した“Gear VR”を指していた。
※3……ソニーによるVR用HMDプロジェクト。このGDCでは新プロトタイプが登場している。

VRを手がけてみての実感

 続いてVRの特徴について語られたところ、クリエーターとしての着眼点とチームを率いるリーダーとしての悩みが明かされた。

 前者は具体的には、

Ben VRはほかの世界からの接続を断ち切ってしまう隔離感がとても重要でおもしろいと思っているんだ。
McNeill 隔離感っていいこと言うね。自分をほかの世界から切り離すのはやはりVRの特徴だと思う。でも自分だけ没入してしまうことが、プラットフォームとしていいかというと……どうなんだろう? みんなどう思う?
Max VRのいいところを強調するべきだと思うよ。TVなどと違う視覚的情報をどのようにおもしろく見せるかが重要。
Holden 過去3年間、こういう催しででいろいろなことを試してみたけど、タッチスクリーンベースのゲームを見ても試しても、じつはそんなにできることがない。タッチスクリーンはそのままだったけど、VRにも同じ危惧があって、今後の進化に期待したいと思うね。

 など没入感に並行して隔離感にキーポイントがあると注目している模様。

 また悩みとしては、より注目されるには、「何でも“世界初”のタグが付けられなければメディアにも取り上げられない」(Vi)と嘆く一方で、「市場はまだかもだけどノイズが少ないから、いま動けばけっこう目立つと思う」(Holden)、「いまインディーはとてもおもしろい位置にいて、いまは商業的に大きくやっていないから、いろいろな研究に時間を費やせることがおもしろい」(Max)とも語られた。

VRの問題点

 話題はVRの問題点へ。ポイントは、VRに向いているものと、向いていないもの。それと“VR酔い”だ。

 没入感がある一方で、「VRは直感的なものだと思っていたら、けっこうじつはそうじゃないとこもあったり、いろいろな詳細が抜けたりしていることが多い。とくに酔う人もいる。Oculus Riftはすごくいい感じだけど、けっこう酔うよね」(Ben)というように、現実とのズレが酔いを引き起こしている事実を指摘。だが解決方法がいまはほぼない状態ということも語られた。

 また、初めてVRに触れる人が、ほかの人から自分がどのよう見られているかがまったくわからないため、最初はまったく触りたがらないという経験からくる問題点の指摘や、「手が見えないことはけっこう重要かもしれない。後ろを向いたときに、手がついてこないから、変に感じない? PS MOVEとか使っていろいろやってみたけど、やはりいまのVRの入力方法は微妙。キャリブレーション(使用者や使用環境に合わせての調整)の問題とか出てくるし……。VRの入力の方法は現在研究中なんだよね」(Holden)、「ゲームパッドを試してみたけど、HMDを着けて手もとを見てもパッドが映っていない状態だよね。手に持っているのにVR内ではないという不思議。そういう問題がいま起きている」(Ben)という指摘も。とくに後者は、映像内でパッドを持たせるわけにもいかず、ことさらにゲーミングでのHMD使用時に、今後課題となるのだろう。

ぶっちゃけ北米のインディーはVRをどう見ているのか?【GDC 2015】_02

セールスについて

 これは拡大方向にあることは感じているが、一様に否定気味。
 それは、「もしVRゲームを作りたいのであれば、まずほかのゲームをオススメするよ。市場のサイズが小さすぎて、お金にならないから。市場もだんだん大きくなってきてるけど、ほぼアメリカだけだし。いろいろなデベロッパーが小さなチームを作ってVRの研究をしているから、まずはそういうところと話したほうが芽の出る機会があるかもしれないね」(Holden)、「まだ新しいジャンルだから、消費者レベルで見ると厳しい。製作プロダクションなどがインスタレーションとかしたいデベロッパーなどと組んで展開したたほうがおもしろいかもしれない」(Max)などの意見に特徴的で、このセッションに聴衆として参加している人たちがVRのプロだと指摘したHoldenのいう「それくらいまだ新しい業界」ならではの伸び悩み感が見え隠れした。

冷静に、将来を睨んで

 最後に今後について問われると、各人各様の答え。

Ben VRの市場が大きくなるかどうかもわからないので、VRだろうとそうでなかろうと、おもしろいゲームを作るべきだよね。
Holden 将来は明るいといいね。VRまだまだ発展途上。もしやばいアプリがあるとしたら、それはNetflix(アメリカで最大手のオンラインレンタルDVDと映像配信の会社)だと思う。つまり映画。ゲームはもしかしたらVRでいちばん重要なものではなくなるのかも。
Max そうだね。やっぱりスクリーン映画かな。VRに技術的な特異点が起きたらいろいろありそうだけど(笑)。ユーザーにアプローチするには、まだいろいろする必要があるよ。
Ben 最初は「VRに最適じゃないかも」ってものが、もしかしたらブレイクするのかもなんだよね。それくらいまだ発展途上だね。
McNeill VRを買ってよかった! って思うことがまだないから、その経験を作っていくのが僕達の責任。そういうコンテンツ作りかたやその挑戦が、今後僕たちに委ねられたものだと思う。
Max MobileVRは来るね。つぎの新しいYoutubeみたいな(笑)。
Ben  Google VR(※4)は誰でも使えるようになるし安い。VRがどんな感じのものなのかわかるし、ちょっとだけでも触ってみたい人にぴったりだから。
Max そうそう、だれでも使えるのが重要。
Holden VRにそれまで触れたことがない人でも、「Google VRはすごい」っていうもんね。
McNeill VRは人々の欲求感を満たしていくものなのかなと思います。

 喧々諤々、とりとめもないが、北米インディーたちのVRに対する“いま”がわかる熱量で語られ、セッション終了の時間となった。くり返しになるが、このGDC期間中にも、Project Morpheusの新プロトタイプが発表されたり、噂のSteamVR “HTC Vive”が一部で試遊されていたりと、VR関連の話題には事欠かない。

 振り返ってみると2015年がVR元年で、このセッションが未来を予見していたということにもなるのかもしれないと感じた。

※4……VRに関するGoogleの取り組み。ダンボール製の組立式HMD“Cardboard”を配布したり、Google Playに専用セクションを設けたりしている。

ぶっちゃけ北米のインディーはVRをどう見ているのか?【GDC 2015】_03