キャラクターを好きになることで、味わい深い人が描ける

色鮮やかな『サガ』のキャラクターたちはどのように生み出されるのか? 小林智美氏インタビュー【『サガ』シリーズ25周年記念企画】_01

 25年の歴史を持つスクウェア・エニックスの『サガ』シリーズ。その名を聞いて、イラストレーター小林智美氏が描く、美しい色彩のイラストを思い浮かべる人も多いだろう。

 本記事では、数々の『サガ』シリーズ作品でキャラクターデザインを担当してきた小林氏のインタビューをお届け。『ロマンシング サ・ガ』で初めてゲームのお仕事をしたときの思い出や、最新作『SAGA2015(仮題)』(プレイステーション Vita用ソフト。2015年発売予定、価格未定)についてなど、さまざまなお話をうかがった。

※本記事は、週刊ファミ通2015年1月15日増刊号の別冊付録「SaGa Kaleidoscope(サガ カレイドスコープ)」に掲載されたインタビューに、加筆・修正を行った完全版です。
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■小林智美氏 プロフィール
フリーのイラストレーター。『ロマンシング サ・ガ』以降、『サガ』シリーズでキャラクターデザインやイメージイラストを担当。アナログならではの繊細なタッチと色彩で、唯一無二の作品を描き出す。

数行のキャラクター設定から想像をふくらませてデザイン

――小林さんが最初に関わった『サガ』作品は、『ロマンシング サ・ガ』(以下、『ロマサガ』)ですね。
小林智美氏(以下、小林) はい。もうだいぶ昔のことですけど、当時、私が描いていた書籍の挿絵を見たスクウェアの方から、ご連絡をいただいたんですよ。

――ゲームのキャラクターデザインをしませんか、と?
小林 はい。そのころは、画集を出す予定があって忙しかったのですが、未経験の仕事をやってみたいという誘惑に勝てず、お引き受けしてしまいました。どのぐらい描くのかもわかっていないのに、無謀ですよね(笑)。

――『ロマサガ』は、登場キャラクターが40人はいたと思いますが……。
小林 いまでは考えられないことですが、1日に6人くらいのキャラクターの下書きをしたこともあった気がします。

――初めてのゲームのお仕事ということで、戸惑うことはありませんでしたか?
小林 最初にキャラクターのリストをいただいたのですが、そこには、主人公クラスでも3行くらいの設定しか書いていなかったんです。もしかしたら1行の人もいたかもしれない。

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『ロマンシング サ・ガ』ジャミル

――1行ですか!
小林 小説の挿絵を描く場合、小説は情報が豊富なので、キャラクターの描写やセリフから、顔や体格が想像できるんです。でも『ロマサガ』の場合、数行の設定しかなくて、そこから勝手に想像しながら描いたので、「絵とセリフがちぐはぐになったりしないかな?」と心配しました。でも、リテイクはそんなになくって。いま思うと、私の絵に合わせてくれていたのかな。ただ、ジャミルについては、ちょっとガッシリした感じのキャラクターを描いたら、「もっとライトにしてください」と言われたので、描き直しました。ジャミルが女装するイベントがあると知ったのは、ゲームが完成してからで。先に「女装するキャラです」と言ってくれれば、ガッシリしたキャラは描かなかったのに、と思ったのを覚えています(笑)。女装イベントが入ることが決まったのは、デザインが固まった後だったのかもしれませんけどね。

――小林さんの絵にインスパイアされて、ストーリーがふくらんだのかもしれません。ところで当時、『ロマサガ』の開発途中の画面はご覧になりましたか?
小林 『ロマサガ』のときは、スクウェアさんにうかがうことがなかったんですよね。それで私、最初に記事が載ったファミ通さんを買ったんですよ。そのとき初めて「こんな画面になるんだ」と思った気がします。

――ご自身がデザインしたキャラクターがドット絵になった姿を見たときは、どんな感想を抱かれましたか?
小林 限られたマスを埋めていって、私の絵になるってすごいな、と思いました。『ロマサガ』を遊んだ友だちからは、ドット絵が「8頭身のキャラクターに見える」と言われました。

――それだけ、もとの絵のイメージからズレがないということですね。ちなみに、小林さン自身は『ロマサガ』はプレイしましたか?
小林 はい。難しいということは聞いていたんですけど、「やってみよう」とバーバラで始めて。それで、草原に穴が開いているところで地下に降りていったんです。

――グレートピットですね。
小林 そこで、前と後ろをスライムに挟まれて、私の『ロマサガ』は終わりました(笑)。

――(笑)。
小林 その後、ワンダースワン版が出たときに、「よし今度こそ」と思って、アルベルトで始めたんです。ナイトハルトに会いたいがために。そうしたら、鳥がいるんですよ。

――タイニィフェザーのことでしょうか。
小林 そうです、そのタイニィフェザーがいるダンジョンに行ったら、敵がギッシリいて、これは無理だと思って(笑)。

――またしても終わった、と(笑)。
小林 それでもナイトハルトに会いたくて、『ロマンシング サガ -ミンストレルソング』(以下、『ミンサガ』)では、アイシャでプレイしていました。

――ナイトハルトがお好きなんですね。この人については、まだまだゲーム内で語られていないことがあると感じます。
小林 想像の余地を残すことは、すごく重要なことだと思うんです、私は。全部披露するんじゃなくて、想像の余地を残したほうが、いろいろ想像できて楽しいし、想像力をかきたてる練習にもなるし。

――たとえば、『サガ』のキャラクターについて、どんなことを想像しますか?
小林 朝起きて何をするのかな、とか。寝る前にはお酒を飲んでるのかな、こういう寝間着を着ているのかな、とか。ペットを飼っているに違いない、と考えたり。そういう想像をして絵を描くのが、すごく楽しいですね。

短い開発期間の中で、アイデアが出たらどんどんデザイン

――『ロマサガ』の後、『ロマサガ2』も引き続き小林さんがキャラクターデザインを担当されましたが、シリーズが続いていくことは予想していましたか?
小林 いえ、『ロマサガ』で終わりだと思っていました。『ロマサガ2』があると聞いて、ちょっとびっくりしましたね。そのころは開発期間が短かったので、アイデアが出たらどんどん描いていくという、自転車操業のような感じでした。

――どの作品も、かなりの数のキャラクターがいますから、たいへんですよね。
小林 『ロマサガ2』は、バレンヌ帝国のキャラクターから描き始めていった記憶があります。確か、最初にレオンとジェラールの発注があって。レオンは黒をイメージして、髪の長さが肩くらいの渋めの男性を描いたのですが、ボツになってしまったんです。けっこう自分では気に入っていたんですけどね。そのあと、「ロン毛の男性にしよう」と思ってわりと派手に描いて、いまのレオンになりました。

――『ロマサガ2』の後はさらに、『ロマサガ3』、『サガ フロンティア』(以下、『サガフロ』)……と続いていきますが、『サガフロ』はキャラクターの多さもさることながら、イメージイラストの数も多かったと記憶しています。
小林 当時の宣伝プロデューサーの方から、「主人公が7人いるんだから(イメージイラストも)7枚ないと!」と言われて、毎月のようにイラストを描いて、結果的にキャラクターを6点、イメージイラストを1点くらい提出していました。それから『サガフロ』では、開発のデザイナーさんが先にキャラクターをデザインしていたこともあって、その方のデザインと、自分が好きなものをミックスして絵を描くという経験をしたのですが、それがおもしろかったですね。

――メカやヒーローなど、キャラクターもバリエーションに富んでいますしね。
小林 T260Gは、確か、自分が持っていた『装甲騎兵ボトムズ』のチョロQを参考に描いたんです。こういう感じで描いてみよう、と思って。

――いま明かされる秘話ですね!
小林 あと、これは以前もお話ししたことがありますが、アセルスの髪の色は最初は赤かったのです。でも、ピンク色の衣装が採用されたので、髪を緑色にすることになって、髪の部分だけ塗り直しました。

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『サガ フロンティア』イメージイラスト
『サガ フロンティア』アセルス
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▲当時は『サガフロ』の仕事が、スケジュールのほとんどを占めていたという。マニュアルのコントローラの絵まで、小林さんが描いているほど。

――いろいろな文化が混ざり合っている『サガフロ』の世界ですが、『サガフロ2』は対照的で、世界観が統一されていました。
小林 『サガフロ2』では、キャラクターたちが成長していく様を、全員分描けなかったことが心残りなんです。フリンとか、ずっと若い姿のままで(笑)。何人かのキャラクターについては、開発が終わった後、個人的に描いてみたりしました。

――『アンリミテッド:サガ』(以下、『アンサガ』)、『ミンサガ』は、直良有祐さんのデザインをもとに、小林さんがご自身のテイストを加えて想像しながら描いたという感じでしょうか。
小林 そうですね。『アンサガ』は、主人公ごとにテーマカラーとテーマフラワーがあって、それをもとに描きました。『ミンサガ』は、再構築と言いますか、勉強させていただくことがたくさんありました。最初に『ミンサガ』のナイトハルトを見たときは、ちょっとセフィロス(『ファイナルファンタジーVII』のキャラクター)を意識しているのかな? と思いましたけど(笑)。こちらのバージョンのナイトハルトも気に入っていて、趣味で描いたりしています。