ゲーム産業を推進する福岡市

 2013年8月21日~23日、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2013”。2日目に開催されたセッション“海外カジュアルゲーム市場の最前線報告”のリポートをお届けする。

 講演を行ったのは、ゲームジャーナリストとして高名な新清士氏。新氏は福岡市と手を組み、アジアのゲーム事情を調査しているとのこと。本講演で最初に登壇したのは、福岡市経済観光文化局 新産業・立地推進部 企業誘致課 企業誘致係長の山下龍二郎氏。山下氏は「福岡市では、教育機関、行政が一体となってゲーム産業新興を進めている。その一環として、新氏といっしょに海外のゲーム市場を調査してきた」と、福岡市の活動を紹介。今回のセッションは、活動調査の報告というわけだ。
 また、福岡市のアピールも行われた。福岡市は育ち盛りの若い街で、人口は150万人を突破。年間1~2%ほど人口が増加しているという。コンテンツ産業は、行政や教育機関が一体となってゲーム産業を中心に推進。サイバーコネクトツーやレベルファイブなど、11のゲーム会社からなる団体“GFF”が結成されているのは、ゲームファンにはご存じの通り。推進の結果、福岡へ進出する企業は増加し、2008年の40社前後から、2012年は140社を超えたという。最近では、LINEが福岡に新拠点を作成することがニュースとなった。また福岡市は新規進出企業に対してサポートも行っており、「オフィス賃料や開発機材のレンタル料をサポートする制度もある」と山下氏。

東南アジアは巨大マーケットになるか? “海外カジュアルゲーム市場の最前線報告”リポート【CEDEC 2013】_01
東南アジアは巨大マーケットになるか? “海外カジュアルゲーム市場の最前線報告”リポート【CEDEC 2013】_02
▲福岡市 企業誘致課の山下氏。福岡市はコンテンツ産業の推進が盛んであるとアピールした。

 また、アプリを提供するストアについても触れられた。多くのストアではランキング形式でアプリが掲載されているが、「10フリックの操作では30位ぐらいまでしか見られず、カジュアルユーザーの目にとまらない」とコメント。そのため「ヒットさせるにはユーザー数が初期から大幅に増加する“垂直立ち上げ”が必須である」とコメントした。ただし、行える広告戦略はバナー広告や課金ブースト、クロスプロモーションなどで、「世界的にもあまり変わらない」とも述べた。

“人差し指操作”が今後のキーワード!?

東南アジアは巨大マーケットになるか? “海外カジュアルゲーム市場の最前線報告”リポート【CEDEC 2013】_03
▲ジャーナリストの新氏。福岡市と共同で行った、海外のゲーム市場調査を発表した。

 新氏は、まず日本を含めたカジュアルゲームの最前線について報告。昨年のCEDEC AWARDS 2012で『パズル&ドラゴンズ』がゲームデザイン部門で表彰されたが、「その後、これほどの利益を出すとは予想が付かなかった」とコメント。新氏をしても「今後どうなっていくのか、明確に述べにくい状況」と現状を分析した。
 カジュアルゲームといえば、SNSが火付け役の一端ではあるが、「最大手であるFacebookには可能性がないと、どこの会社も話している」とのこと。
 海外でのカジュアルゲームにおける基本的な課金や分析は「日本とほとんど変わらない」と新氏。ただし、日本はユーザーの支払いが高額のため、ほかの市場よりも日本市場のほうが有益なマーケットであるようだ。ちなみに求められているゲームは大きく異なり、「北米ではカジノ系が強い」そうだ。いっぽう日本ではカードバトル系が求められている。もはや何が当たって、何が外れるのか非常にわかりにくく、「ゲリラ豪雨のように、先を読むのが非常に難しい市場」とコメントした。
 アプリの形態、ブラウザアプリとネイティブアプリの違いについても語られた。昨今、ブラウザアプリは急激に陰りを見せており、対する『パズドラ』に代表されるネイティブアプリが流行している。諏訪東京理科大学の篠原教授によると、脳の“操作指”が関わっているのではないか、という仮説が立てられた。
 かつてフィーチャーホン(ガラケー)では、多くが親指で操作していた。親指は何かを決定するときに使用する指で、ブラウザゲームはその流れをくむ、決定する楽しさであると述べた。対する人差し指は、微妙な操作に長けている“支配する指”であり、何かを操作し、支配する快感があるという。スマートフォンで親指操作から人差し指操作へと移行し、こちらのほうが気持ちいいとわかって、操作するゲームの人気が上昇しているのではと述べた。「これまで親指操作一色だった市場に、人差し指操作のゲームが出てきて、そこにたまたま『パズドラ』がハマったのではないか。単にプログラムをネイティブ化しただけではヒットは望めない」と分析した。また「これからゲームを開発させる人は、そこがひとつのポイントとなるのでは」ともコメントした。

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▲“操作指”の仮説について言及。人差し指操作の気持ちよさが、今後のゲームのキーワードとなりそうだ。

 また、ソーシャルゲームがほかの市場を奪い始めているのでは、との仮説も述べた。「明確な因果関係はないが」と前置きし、『レジャー白書 2013』のデータを紹介。パチンコ/パチスロ人口は、2009年のピークである1720万人から、2012年は1100万人まで減少しているそうだ。だが、市場規模は19兆660億円と微増している。これは「業界のヘビーユーザー化、マニア化が進行しているのでは」と分析、それまでパチンコ/パチスロのライトユーザーだった人がソーシャルゲームに流れているのでは、と予測を述べた。

大ヒットさせるには“垂直立ち上げ”が必須

 世界的に見るとカジュアルゲームはどうなっているのか。たとえば、大ヒットしている『クラッシュ・オブ・クラン』は、昨年のいまごろはランキング上位には顔を見せておらず、しかもゲーム自体は面倒な“ファーム系”で、日本では流行しないだろうと考えられていた。だがいまや、世界で1日に240万ドルを稼ぐほどのヒットを飛ばしている。
 もうひとつの大ヒットタイトル『Candy Crush Saga(キャンディークラッシュサーガ)』は、アメリカのカジュアルゲームでよくある『ビジュエルド』系のゲーム。ゆったり遊ぶユーザーが多いらしく、アクティブユーザーは678万にものぼるという。
 『Candy Crush Saga』のヒットは、「Facebookからスマホへ移行させる戦略が功を奏した」と新氏。本作は、もともと開発会社であるKing.comのポータルサイトで展開されており、そのなかからFacebookへ展開していったタイトルだという。ただし、「Facebookはユーザー数は莫大だが、発展途上国のユーザーが多すぎるため、儲からない」と、Facebookの弱点を指摘。King.comは、Facebookからうまくスマホへ誘導したため、ユーザーは先進国に絞れ、利益を上げたそうだ。新規ユーザーは1日10万人増加、課金額は1日63万3000ドル、ひとりあたり0.93ドルという水準だと語る。「ただし、『Saga』シリーズがなんでも当たっているわけではない」と新氏。

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▲海外で成功を収めている、ふたつのタイトルの成功を分析。

 また、アプリを提供するストアについても触れられた。多くのストアではランキング形式でアプリが掲載されているが、「10フリックの操作では30位ぐらいまでしか見られず、カジュアルユーザーの目にとまらない」とコメント。そのため「ヒットさせるにはユーザー数が初期から大幅に増加する“垂直立ち上げ”が必須である」とコメントした。ただし、行える広告戦略はバナー広告や課金ブースト、クロスプロモーションなどで、「世界的にもあまり変わらない」とも述べた。

これからの成長に期待がかかる東南アジア

 話題は東南アジアのカジュアルゲーム市場に。東南アジアでは、Android端末が100ドル以下の価格となっており、いままでゲームを遊んでいなかった層が、爆発的にゲームをやり始めているそうだ。そのため、将来的可能性は大きいと語る。ただし、現状では「現在は国ごとの裕福さやハードウェアなど、国家間の違いが大きいため、欧州よりも難しいかもしれない」と分析した。
 市場規模を決める大きな要因のひとつが、人口。日本は少子化の影響で拡大していく可能性は低いが、東南アジアは11ヵ国で6億人を超える人口がある。しかも、その大半がゲーム未経験者であることから、大きなマーケットへと成長する可能性は大いにある。ただし、GDPは日本の10分の1以下と、まだ購買力は低い。「タイ、マレーシアはインドネシアより所得は上だが、人口は少ない」と新氏。
 東南アジアが抱える問題も述べられた。そのひとつが、決算手段が弱いことだ。東南アジアでは課金方法が明快ではなく、たとえばインドネシアでは銀行口座を持っている人は20%、クレジットカードは3%しかいないそうだ。そのため、プリペイドカードが主流なのだとか。なぜ日本のユーザーはちゃんとお金を支払ってくれるかを対比として挙げ、「ケータイ経由決済ほか、決済方法がしっかりしている」ことも原因ではないかと分析した。
 そのような状況でも、ニジボックスは東南アジアに進出し、善戦しているという。新氏がニジボックスの麻生氏に聞いたところ、「日本から本気で進出している会社はまだ少ないため、ステイタスが高い」そうだ。また「日本のカードバトルは、カスタマイズすればそのまま通用する」と、意外な実情も明かされた。
 また、通信キャリアの環境が違うため、グラフィックを調整して“豪華版”、“ちょっと豪華版”、“テキスト版”の3種類を用意したそうだ。最初は「テキスト版なんて遊ばれるのか?」と半信半疑だったが、実際は「めちゃくちゃ遊ばれている」とのこと。「たき火を炊いている場所に携帯電話を持ってきて、ゲームを遊ぶ。そんな環境」と、インフラがままならないような環境でもカジュアルゲームは遊ばれているようだ。ただし、「本気で拠点を設けても、儲かる状態ではない」とのこと。
 そのような状況の東南アジアで、とくに高い注目を集めているインドネシアについても言及された。インドネシアの人口は2億4000万人で、さらに20歳未満は35%以上にのぼる。この若者の多さは「日本ではありえない」と新氏。尖閣諸島問題や人件費の高騰などから、日本は中国への直接投資を引き上げており、インドネシアへの移行が始まっているそうだ。

 人材のアウトソース先としても期待が持てる。現在30名以上の会社は3社しかなく、2~3名という小規模の会社が100社以上で、「開拓が始まっている状況」と新氏。3社は急成長しており、数年以内に100人とか200人規模になるのではと予想される。かつての台湾などと同じことが起きると考えられており、「いつ参入するかは難しいが、我々にとって切実なマーケット」とまとめた。市場としては、「個人の携帯所有率は8割を超えているが、フィーチャーフォンが76%、うち50ドル以下の端末が半数を占める」状況であるという。スマホはじわじわと普及しているようだ。
 シンガポールはビジネス拠点として注目されている。その理由は、法人税の安さ。日本では43%だが、シンガポールは「基本的に15%」と新氏は語る。また人件費も安く、その理由は「シンガポールの人材を雇用すると、給与が4000ドル以下の場合、40%の補助金が出る」からのようだ。ただし「労働ビザは容易に下りない」と難点も語る。

 “海外カジュアルゲーム市場”と題されたセッションだったが、扱われた話題は多岐に及び、さまざまな知識を吸収できる講演であった。なお新氏は、ファミ通.comに連載しているブログでも東南アジア市場について言及されているので(ブログは⇒こちら)、併せてご覧いただきたい。

(取材・文:ライター/喫茶板東)